2022年4月14日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 1点目は、日本銀行の金融政策全般の方向性についての見解を伺いたい。国際的な資源高の影響もあるなか、昨日(4月13日)、一時的とはいえドル円相場が20年ぶりの円安水準となり大きな話題を呼んだ。諸外国の中央銀行が金融引締めに向かっているなか、日本銀行は引き続き、黒田総裁が金融緩和という看板をおろさない意向を打ち出していると思う。現状の諸外国との金融政策の違い、ひいては日本銀行の金融政策の方向性についてどう見ているか。また、黒田総裁の残りの任期もあるが、今の金融政策の出口戦略の議論が必要という声も上がってきているかと思う。そのあたりの所見を伺いたい。
(答)
 金融政策は日本銀行の専管事項であるため、全銀協会長という立場でコメントするのは適当ではなく、あくまで個人の見解としてお答えしたい。
 まず、物価の動向については、足元、コアCPIは前年比プラス0.6%となっているが、3月の金融政策決定会合でも指摘されているように、今後、エネルギー、資源価格の上昇を主因として、消費者物価は上昇していく可能性が高いと考えている。ただし、金融政策との関係では、資源価格上昇による輸入インフレや貿易赤字が、景気を悪化させる方向に作用する可能性があることから、日本銀行におかれては、現在の金融緩和を継続するのが適切であると判断されたものと理解している。
 他方、FRBをはじめとして、各国の中央銀行が金融政策の正常化や利上げを進めているなかにおいて、海外との金利差拡大に起因した円安の進行と、それによる輸入価格の上昇は、中小企業や消費者にとってデメリットの方が大きいのではないかという声があるのも事実かと思う。資源高も相まった物価上昇がわが国経済の先行きに及ぼす影響については、これまで以上に注視していかなければならないと考えている。
 したがって、日本銀行におかれては、そうした外部環境の変化も踏まえたうえで、現在の大規模な金融緩和政策の効果と副作用の両面をいま一度検証し、適切にご判断いただければと考えている。


(問)
 ウクライナ情勢に関して、ロシアの侵攻以来、長期化の様相を呈している。原油のみならず農産物や水産物関連の価格上昇により、日本経済にも影響が出始めていると思う。この問題がどこまで続くか分からないが、長期化した場合の影響についてどう考えているか。併せて、米国の金融制裁等に伴って、ドル建てを中心とした決済の停滞も生じていると思うが、この影響についてどう見ているか。
(答)
 まず、日本経済への影響であるが、資源を輸入に依存しているわが国においては、資源価格の上昇は経済にマイナス影響を及ぼしやすく、例えば原材料コストの増加が価格に転嫁されることにより、家計の購買力を低下させ、個人消費の下押し圧力になる可能性がある。
 中長期的に見れば、企業が生産性向上への取組みを一段と進めることで、資源価格の上昇によるコスト増加に対処することも考えられるが、コスト増加を相殺し切れない場合、企業収益や家計所得に影響を及ぼし、資源高が長く続けばわが国経済の成長の足かせともなり得る。したがって、資源価格の動向を今後も注視していく必要がある。
 次に、対ロシア決済への影響であるが、3月12日から、一部のロシアの銀行のSWIFTからの排除が始まったほか、わが国を含むG7諸国・EUなどから制裁が断続的に発出されている。このため、ロシア向け送金を実行しようとする場合には、制裁への抵触がないか確認するために通常よりも多くの時間を要しているほか、各国の制裁強化や、送金を中継する海外銀行における取扱ポリシーの厳格化などにより、送金を実行できない事例も出てきている。
 また、銀行界全体で計測しているわけではないが、私ども三井住友銀行における対ロシア決済の動向などを踏まえると、ロシア関連の貿易取引などの減少により、対ロシア決済が全体として減少している可能性が高いと思われる。
 3月の会見でも申しあげたが、対ロシア決済の動向は、ロシアに進出している日系企業のオペレーションにも影響を及ぼす可能性が高い。各行においては引き続きお客さまとの丁寧なコミュニケーションに努めるとともに、今後とも最大限の注意をもって情勢を注視していく必要があると考えている。


(問)
 2問お願いしたい。1点目は、先ほどの幹事社質問にも出ていたが、仕入れ価格の上昇で企業にとってはコスト増が進んでいる。銀行の取引先について、価格転嫁が進んでいると感じているか。また、価格転嫁は短期的に見ると消費マインドを冷やすことにもなりかねないが、日本経済にとって価格転嫁のペースはどのようにあることが望ましいとお考えか。
 2点目は、共通システムを利用している地銀において、3月にATMとネットバンキングが利用できなくなる障害が起きた。共通システムを採用する経済合理性とリスクについてどのように考えられるか。
(答)
 1点目の価格転嫁に関するご質問について。3月の国内企業物価を見てみると、前年比プラス9.5%と1980年以来の高い伸びを記録する一方で、直近2月の消費者物価は生鮮食品を除く総合ベースで前年比プラス0.6%であり、足元、両者の間に大きなギャップが生じている。
 先日公表された3月の日銀短観を見ても、販売価格が上昇したと回答した企業数は、仕入価格が上昇したと回答した企業数を下回っている。つまり、現状では、価格転嫁の動きは、ガソリンや電気代、食料品などの一部の商品に限られており、全体としてみれば、企業はコストの増加を十分に価格転嫁できていないのではないかと思う。
 ただし、食料品などで価格の見直しが予定されていることを踏まえると、先ほども申しあげたが、今後一定のタイムラグは伴うだろうが、消費者物価も上昇していく可能性が高いと考えている。
 そもそも価格転嫁の是非については、それが需要に与える影響とのネットで考える必要があり、商品やサービスにもよることから、一概にはなかなか申しあげにくい。そのうえで一般論としては、価格転嫁を控える動きは、物価上昇による負担が軽減されるという面では、家計にとって短期的にはメリットがある一方で、このような動きは、企業収益を下押しし、ひいては株価の下落あるいは賃金の引下げ等を通じ、中長期的に見ると、家計の負担につながっていく可能性があるということにも留意する必要があると思う。
 資源を輸入に頼るわが国経済にとって、資源価格の高騰は言わば急所である。本質的には、資源価格の変動に左右されにくい経済体質へ転換していくことが望ましいわけであり、生産性の向上やエネルギー構造の見直しといった施策に官民一体となって取り組んでいくことが中長期的にも重要であろうと考えている。
 二つ目が地銀の共同システムで発生した障害についてのご質問であった。
 データセンターの共同利用は、銀行業務の基盤である勘定系システムのパッケージ化や共同運用にもつながることから、一般的にはシステム開発や運用・保守の負担を軽減するというメリットが期待できる。また、副次的なメリットとして、銀行をまたいだ業務プロセスの標準化に寄与する可能性もあると考えられる。そのため、地域金融機関を中心として、数多くの共同利用の枠組みが既に存在しているわけである。
 このようなメリットがある一方で、データセンターがいわゆる「単一障害点」になることにより、一つのシステム障害が複数の銀行の業務に影響を与えるリスクはどうしても出てくる。3月に発生した一部の地銀におけるシステム障害は、共同利用先のデータセンターにおける電源設備の故障が原因であったと聞いているが、そうしたリスクがまさに顕在化した事象だと思う。
 あくまでも一般論であるが、データセンターを共同利用する場合は、先ほど申しあげたようなリスクを踏まえて適切な管理体制を布くとともに、障害発生時のバックアップ体制やコンティンジェンシープランをしっかりと整備することによって、いわゆるレジリエンスを高めておくことが重要だろう。


(問)
 3月に実施された日銀の指値オペについて、諸外国の金融政策からみても異例の対応とも映るが、指値オペに関する評価および市場への影響について考えをお聞かせいただきたい。また、市場などでは、日銀が許容する長期金利の調整レンジを50ベーシスから拡大せざるを得ないという声も聞かれるが、その拡大余地があるかどうかについての見解も併せてお聞かせいただきたい。
(答)
 まず指値オペについては、日本銀行が2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入して以降、金利が上昇した局面で金額無制限の国債買入れを行うことにより、長期金利がゼロ%程度で推移することを目指す、いわゆるイールドカーブ・コンロールの実現手段として機能しているということだと思う。
 一方、長期金利は、本来的には、わが国経済や物価情勢の先行き、さらには海外金利動向などによって上下するものであり、指値オペが実勢に応じた国債市場の金利形成に影響を与えていることも事実だと思う。
 次に、長期金利の変動幅を拡大すべきかどうかについては、日本銀行の専管事項であり、全銀協会長の立場ではコメントを差し控えさせていただくが、あくまで個人の意見として申しあげると、経済・物価動向に与える影響や、国債市場における機能度の改善状況、金融仲介機能への影響などを総合的に勘案したうえで判断する必要がある事項だろうと思う。
 海外との金利差に起因した円安や資源高も相まった物価上昇がわが国経済に及ぼす影響には十分注視する必要がある。日本銀行におかれては、2%の物価目標実現に向けた金融政策の効果と副作用のバランスなどについて、引き続き、総合的な判断をお願いしたいと考えている。


(問)
 トランジション・ファイナンスについてお伺いしたい。一つは、経産省がモデル事例の選定を行うなどの動きは出てきているが、ボンドの発行などを見るとまだまだ積極的に活用されているとは言い難い状況が続いていると思う。この要因についてどう考えるかお聞きしたい。
 もう一つは、経産省のロードマップについて。トランジション・ファイナンスの温室効果ガス削減のための技術指針など、非常に丁寧に示されている一方、もう少し細かな、実践的に使えるようなものであってほしかったという声も聞こえている。こうした点について、全国の銀行から何か声が出ているのか、どのようにお考えなのかお聞きしたい。
(答)
 まず、トランジション・ファイナンスに関して、現状、マーケットでの組成が必ずしも積極的ではないのではないか、というご指摘であった。この点の評価は、今この場で私から申しあげることは控えさせていただくが、個別行としての実感で申しあげると、現実に三井住友銀行においても、お客さまと個別にさまざまな議論をさせていただくなかで、組成に繋がるパイプラインは出てきているということは言えると思う。
 とは言うものの、トランジション・ファイナンスがもう少し出てきても良いのではないかとのご指摘かと思う。あえて一つだけ背景を申しあげると、いわゆるトランジション・ファイナンスの重要性については、特に本邦においては非常に重視されており、グローバルにも重要性についての議論が行われているわけであるが、いわゆるトランジション・ファイナンスの定義、すなわち、それが本当にネットゼロに至るために必要なものなのか、または、いわゆるグリーンウォッシュに該当するものにファイナンスしているのではないかといった点については、いまだ濃淡、温度差があり、さまざまな考え方が提示されている段階である。こういった点も、ファイナンスの組成に際しては慎重に考える必要があることから、現状では組成が抑えられている可能性もあると思う。
 それに関連して、ロードマップについてお答えすると、昨年度、経済産業省が鉄鋼や化学、電力といった7業種のいわゆるCO2多排出産業を対象に、トランジション・ファイナンス推進のための分野別ロードマップを策定した。このロードマップでは、各業種におけるカーボンニュートラルへの移行の実現に向けた技術面の課題や科学的な根拠が、日本の実情を踏まえて整理されており、金融機関にとっては、お客さまの脱炭素に向けた取組みを理解し、エンゲージメントを通じてトランジションを支援していくうえで、重要な基礎資料になると考えている。
 しかしながら、これは1月の会見でも申しあげたが、ロードマップにおいては、日本政府の掲げる2030年の46%削減目標との関係を含め、トランジション過程における業種毎の定量的な削減目標、あるいはメルクマールが示されていない。そのため、金融機関が実際にトランジション・ファイナンスに取り組む、あるいはお客さまと対話をさせていただくうえでは、個別にお客さまにパリ協定との整合性等について定量的な目線を持った説明をお願いすることになると思う。
 また、トランジション・ファイナンスの重要性については、先ほども申しあげたとおり、国際的にも理解が広がりつつあるわけだが、グリーンウォッシュとならないようグローバルな規律を定める必要性があることも論を俟たない。
 この点については、G20のSustainable Finance Working Groupにおいて、今後、トランジション・ファイナンスに関するハイレベル原則が策定される予定であるほか、いわゆるGFANZでもネットゼロに向けたセクターごとのパスウェイや信頼性のあるトランジションプランの在り方が議論されている。
 したがって、分野別ロードマップを活用したトランジション・ファイナンスの推進に当たっては、こうしたグローバルな動向等の関係も踏まえつつ、国際的にもしっかりと説明ができること、すなわち国際的なアカウンタビリティを確保していくことが今後ますます重要になってくると考えている。


(問)
 日本銀行がCBDCの実証実験をフェーズ2に進めているが、銀行界としての見解や今後の対応方針を教えてほしい。
(答)
 現在、多くの国でCBDCに関する検討が進んでいるが、日本銀行においても、「現時点でCBDCを発行する計画はないが、今後のさまざまな環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」として、実証実験を段階的に進めておられるのはご指摘のとおり。CBDCはわが国の金融・決済システムそのもののあり方に密接に関わる問題であり、銀行界としても重大な関心を持っている。
 今後、概念実証フェーズ2を進めていくに当たっての論点は多岐にわたると思うが、銀行界としては、CBDC、とりわけリテールCBDCの導入の是非を判断する前には、その大前提として、その導入目的や意義について官民で一定のコンセンサスを得ることが必要であると考えている。そのためには、CBDCが言わば「公共財」としての性質を持つことを前提としつつ、民間が進めている決済高度化に対する補完という観点から検討が進められることが期待される。
 加えて、発行・流通基盤整備に当たっての負担のあり方や仲介機関となり得る民間事業者の業務環境整備、そして既存決済インフラとの共存のあり方といった論点についても深掘りをしていく必要がある。
 昨日開催された第3回「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」においても、こうした考え方について意見発信させていただいた。いずれにしても、銀行界としては、引き続き、政府・日本銀行と連携しながら、デジタル時代にふさわしい金融・決済システムの構築に向けて、しっかりと貢献して参りたい。


(問)
 2点質問をする。
 一つ目は、改正個人情報保護法が4月から施行されたが、外国送金等の銀行業務への影響が多大である。外国送金への影響は一番大きいのではないかと思うが、それ以外も含めた対応状況、影響がどうであるかを教えていただきたい。
 2点目。従来より銀行界は、キャッシュレス化の推進に取り組んでいるが、足元の状況についてどのように認識されているか。また、今後のさらなるキャッシュレス化に向けて、業界としてどのような取組みを考えているか。
(答)
 一つ目の改正個人情報保護法に関してお答えする。今回の改正は、個人情報に対する意識の高まりや、技術革新を踏まえた保護と利活用のバランス、また越境データの流通増大に伴う新たなリスクへの対応などの観点から、個人の権利保護強化や事業者の責務の追加などが行なわれたものである。
 ご質問の外国送金のコンテクストにおいては、お客さまの氏名や住所などの個人データが外国に移転することから、いわゆる越境リスクへの対応が必要になる。
 つまり、銀行が個人のお客さまの外国送金依頼を受ける際には、個人データが移転される可能性のある外国の名称や、当該国の個人情報保護法制などに関して、事前に情報提供を行うことが必要となった。
 これを受け、全銀協では、外国送金の仕組みをお客さまに説明するためのチラシを作成したほか、約200ヶ国における個人情報保護制度の有無を整理して、ウェブサイトに掲示した。さらに、会員行に対して勉強会を実施するなど、各行が必要な態勢整備を行うためのサポートを行った。
 各行においても、個人情報保護委員会から公表された31ヶ国・地域の個人情報保護制度に関する調査結果なども活用して、4月1日から対応を開始したところである。
 全銀協として、引き続き、改正法の趣旨を踏まえ、お客さまに対して適切な情報提供を行うため、会員行の取組みをしっかりとサポートして参りたい。
 2点目のキャッシュレスに関する質問について。一般的にキャッシュレスというと、カード決済やQRコード決済などが注目されるが、わが国においては、伝統的に銀行が提供している口座振替や振込といったキャッシュレス決済手段も広く浸透している。キャッシュレスの状況を議論する際には、この点も含めて議論することが非常に重要なポイントと考えている。
 キャッシュレス推進協議会が昨年公表した、「キャッシュレス・ロードマップ2021」では、カード決済、電子マネー、コード決済による支払いと民間最終消費支出を比較することで「キャッシュレス支払比率」を算出しており、2019年は26.8%とされている。
 しかしながら、分母で使われている民間最終消費支出305.6兆円の内訳を見ると、家計による電気・ガス・水道などへの支出が73.9兆円、保険や金融サービスに関する支出が18.0兆円となっており、これらの支出が全体の3割を占めている。これらの支払いには、銀行の口座振替や振込が使用されているケースも多い。
 全銀協ではこうした点も踏まえて、主要6行の給与受取口座からの払出方法を集計し、毎年半期ごとに「キャッシュレス払出比率」として公表している。これによると、2019年通期の比率は50.2%、直近の2021年上半期の比率は55.4%となっており、5割を超える払出しがキャッシュレスとなっている。一方、依然として、個人による払出しの4割以上は現金が使われているということも事実であり、キャッシュレスの推進に向けて、引き続き業界を挙げて取り組んでいく必要、また、その余地もあると考えている。
 具体的な取組みの一つとして、まずはインターネット・バンキングの推進が重要である。コロナ禍によって、非対面チャネルによる取引ニーズは増加している。継続的なご利用に繋がるように、各行においてサポート体制の充実やUI/UXの向上に努めていく必要がある。その観点からは、APIの活用などによるFintech事業者との連携も一つの重要な選択肢になると考えられる。
 キャッシュレスは銀行だけでなく、多くの事業者による競争領域である。銀行も含めた各事業者が創意工夫のもとで切磋琢磨し、より良いサービスを提供することによって、わが国のさらなるキャッシュレス化を推進して参りたい。


(問)
 人材育成についてお伺いする。昨今、銀行は、専門人材の採用・育成を強化されていると思うが、一方、専門化を進め過ぎてしまうと蛸壺化やブラックボックス化の懸念もあり、横串を刺せるようなジェネラリストも必要だと思う。組織運営上、専門性を持つ人材といわゆるジェネラリストのバランスをどのように取る必要があると考えているか。
(答)
 奥深い質問を頂いた。人材に対する考え方は各行さまざまだと思うが、個別行としては、まずは従業員個々人が、それぞれの持ち場で「プロフェッショナル」としての職責を全うすることが大前提と考えている。
 そのうえで、特定の領域で専門性を発揮する、いわゆる「プロフェッショナル人材」だけではなく、比較的広範な領域でさまざまな経験をしつつ、グループ・グローバル化が進展する銀行ビジネスを俯瞰的に捉え、経営・ビジネス戦略を立案・遂行していく人材を「ジェネラリスト」と定義するならば、そういう「ジェネラリスト」も「プロフェッショナル人材」同様、極めて重要と考える。
 他方、経営の目線という観点からお答えさせていただくと、「プロフェッショナル人材」よりも「ジェネラリスト」の方が経営に適しているというわけでは必ずしもないと思う。言い方を変えると、「プロフェッショナル人材」であっても、「ジェネラリスト」であっても、双方にリーダーシップが必要であり、また双方ともリーダーになり得るということかと思う。
 同時に、これだけ複雑化・多様化した時代において、全ての部門を遍く経験するというキャリアパスを描くのは現実的ではない。そうしたそもそも論に加え、経営というのは、既知の出来事、すなわちすでに分かっていることに相対することは稀であり、むしろ新しい未知の出来事との遭遇の連続である。
 したがって、より重要なのは、「ジェネラリスト」であろうと「プロフェッショナル人材」であろうと、自らの経験から幅広い見識を引き出し、それを未知の出来事に対して敷衍していく能力なのではないかと思う。
 これは「スペシャリスト」にも「ジェネラリスト」にも共通して求められる能力であり、そうした能力を持つ人材が銀行経営に当たっていくことが望ましい。
 いずれにしても、「プロフェッショナル人材」と「ジェネラリスト」が共存する最適な人材ポートフォリオの構築が重要であり、そうしたなかから、次の世代の銀行経営を担う人材が出てくることを期待している。


(問)
 2点お伺いする。1点目は円安について。足元で急速に円安が進み、昨日、20年ぶりの安値水準をつけた。行き過ぎた円安は家計を傷め、あるいは企業セクターにとって本当にプラスなのかという点について議論がいろいろ分かれていると思う。要因については先ほど海外の金利差に起因しているというご発言があったが、今の円安の水準についての分析や見通しについてコメントをお願いしたい。
 2点目は、環境ポリシーに関する環境団体からの株主提案について。三井住友フィナンシャルグループにも株主提案が出されることになった。ウクライナ情勢に伴う資源価格の上昇もあり、株主も難しい判断を迫られていると思うが、いずれにしても、3年連続で金融機関に対して環境団体から株主提案が出ていることに対する受止めや、あるいはどんな対応が必要になってくるか、所感をお願いしたい。
(答)
 まず、現在の円安の傾向についての受止めや今後の見通しについて。先ほども申しあげたとおり、足元の為替相場は、金融政策が異なる、あるいは金利先高感のある国との日本の金融政策の違いに起因するものであり、加えて、足元はウクライナ情勢の深刻化によってドルの需要が高まっている。さらに、資源やエネルギーを中心に価格が高止まりしていることなど、さまざまな要因が絡まって為替相場ができあがっている。したがって、一つの要因でもって、見通しを申しあげるのはなかなか難しい。
 現時点で申しあげるとすると、経済のファンダメンタルズという面でいえば、基本的には、堅調な米国景気、その中でのFRBの利上げに伴う金利差拡大を主因として、現在の円安・ドル高基調が基本的には続いていくのではないかと思う。繰り返しとなるが、複合的な要因が絡まって形成される相場であり、一言で申しあげるのは難しいということは、ご理解いただきたいと思う。
 二つ目の、石炭火力や気候変動に関する株主提案について。今年の株主総会に向けた株主提案に係る対応については、あくまで個社・個別行の対応であるため、全銀協会長会見の場で、詳細についてコメントすることは差し控えたい。
 あくまで一般論として申しあげると、サステナブルな社会の実現に向けて銀行がどのような役割を果たすべきか、また、その開示のあり方を考えるうえで、NGOなど市民社会の声は非常に重要であり、有益な示唆を頂いていると認識している。重要なステークホルダーの一つとして、引き続きしっかりと対話を行っていくことが重要と考えている。


(問)
 ロシアに対する投融資に関して、3メガバンクが合計約1兆円のロシアに対する投融資を行っていることが明らかになっている。ロシアに対する経済制裁が強化されるなか、ロシア向け与信の回収可能性についてどのように考えるか。今後、ロシア向け与信に対する引当金による業績への影響や、今後の方向感についても聞かせてほしい。
 もう1点は、新型コロナウイルス対応の無利子無担保融資について、貸出しの増加により中小企業をはじめとして事業者の過剰債務問題が懸念されている。政府与党内では、過剰債務先の負担軽減策も検討されているが、今後、過剰債務を抱える事業者への負担軽減や減免措置について、どのような内容が望ましいと考えるか。また、全銀協として、こうした事業者に対する支援策としてどのようなものが考えられるか。
(答)
 1点目のロシア向けエクスポージャーに関する質問についてであるが、ロシア向け債権のポートフォリオ構成やクレジットポリシーなどは、各行ごとに異なり、一概に申しあげることはできないので、あくまで一般論としてお答えする。
 ロシア向けエクスポージャーに関する信用リスクは、前回の会見でも申しあげたとおり、主にロシアのカントリーリスクと個社の信用リスクの二つから構成される。ロシアのカントリーリスクの著しい高まりは、特定海外債権引当勘定、いわゆる特海債の計上というかたちを通じて、クレジットコストに一定の影響を及ぼし得る。個社の信用リスクについては、一概に申しあげることはできないが、足元の状況を踏まえて適時にリスク評価を見直し、慎重に個別対応していく必要がある。
 開示情報にもとづくと、ロシア向けエクスポージャーが全体のエクスポージャーに占める割合は3メガで0.2%から0.3%程度なので、直ちに非常に大きな影響が発生するとは見ていないが、今後も最大限の注意をもって、予断なく情勢を注視する必要がある。
 ロシア向け融資の方向性についても、各行の経営判断に属する事項なので、全銀協として回答するのは難しい。ロシア向け融資の回収可能性や与信の継続可否についても、例えば日系企業向けか非日系企業向けかによっても異なる。個別の状況を各行が慎重に検討したうえで判断されるものなので、これも一概に申しあげるのは難しい。
 そのうえで申しあげると、足元、既にロシア関連ビジネスの縮小を検討している企業も増えていることから、今後のロシア向け与信は、大きな方向感としては減少していくことになると思う。
 2点目の中小企業の過剰債務に関する質問について。私どもは直接、政府・与党や野党において議論されている内容の詳細を把握できる立場にないので、それらに対する具体的なコメントは差し控えさせていただき、銀行界としての取組みについて申しあげる。
 長引く新型コロナウイルス感染症の影響などにより、対面サービス業をはじめとした一部の業種・企業においては、債務の過剰感が増していることは事実である。その債務の過剰感を生み出している要因としては、売上高、キャッシュフローの減少も大きく影響している。新たに定めた「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」においても、事業再生に当たっては本源的な収益力の回復が重要としており、これを官民一体となって支援していくことが求められる。
 銀行界においても、お客さま一社一社としっかりと向き合って、ビジネスマッチングやウィズコロナ/ポストコロナ時代に対応するための事業再構築などに関するアドバイスなど、経営課題の解決を支援すべく、コンサルティング機能の発揮に努めている。
 また、全銀協としては、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を3月4日に公表し、まさに明日(4月15日)から適用開始となる。新たなガイドラインでは、私的整理手続きの新たな選択肢も提供しており、銀行界としては本ガイドラインを活用しつつ、お客さまの事業再生支援にしっかりと取り組んでいく。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、四半期開示の見直しについて。政府は、四半期報告書を廃止し、決算短信に一本化する方向で調整を進めているようだが、受止めを教えていただきたい。
 2点目は、公正取引委員会が、キャッシュレス決済事業者が金融機関に支払う手数料について実態調査を行うとのことであるが、本調査に対する受止めや銀行界としての対応状況、今後の対応方針について伺いたい。
(答)
 1点目について。四半期開示の在り方が議論された2月の金融審議会・ディスクロージャーワーキンググループでは、「情報開示の後退は日本市場のプレゼンスに関わる」として、「四半期開示制度を維持すべき」との意見が多かったと認識している。
 そのうえで、一部の委員からは、「見直すのであれば、四半期報告書と決算短信の内容が重複している点について、効率化の余地を探る方向性ではないか」という意見があったと承知している。
 情報開示については、IRでの説明も含めて、企業ごとにさまざまな工夫を凝らしながら取組みが進められている。情報開示は、さまざまなステークホルダーと円滑なコミュニケーションを図るうえで基礎となるものであり、中長期的な企業価値向上や、わが国の資本市場の発展に寄与するような開示制度となることを期待している。
 開示資料の一本化の是非については、今後の金融審議会・ディスクロージャーワーキンググループで議論される予定と承知しているが、重複している開示資料を一本化することで効率化が図られるのであれば、作成する企業にとっては負担軽減につながり、メリットがあるのではないかと思う。
 2点目は公正取引委員会の調査についてのご質問であった。公正取引委員会は、Fintechを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題に関して、令和2年4月に2通の報告書を公表されている。今般、これらの報告書にもとづく提言事項について、フォローアップ調査を実施されるものと理解している。
 銀行界では、公正取引委員会の提言も踏まえつつ、昨年10月に銀行間手数料の見直しを実施した。また、全銀システムに関するコストの公表を行ったほか、都銀5行が核となり、安価で利便性の高い新たな個人間送金手段を提供する株式会社ことらを立ち上げるなど、金融サービスの利便性と透明性のさらなる向上に向けて、必要な取組みをしっかりと進めてきた。
 とりわけ、今年度中の実現に向けて検討を進めている、資金移動業者に対する全銀システムの参加資格の拡大は、公正取引委員会の報告書が前提とする、銀行と資金移動業者の競争条件を根本から改めて、競争条件のイコールフッティングを確保する重要な取組みであり、しっかりと詰めの検討を進めているところである。
 また、公正取引委員会の提言のなかには、QRコード決済事業者と金融機関の間で取り決めている手数料など、各行がそれぞれの事業戦略にもとづいて検討するべき、言わば競争領域に属する事項も含まれている。この分野は、多様なプレーヤーが複雑な相互取引の関係のなかで、お互いに言わば総合採算の考え方にもとづいて手数料率を決めている面もあるので、しっかりと全体像を把握するべく、バランスの取れた調査が行われることを期待している。他方で、各行においては、公正取引委員会の提言や競争条件の変化も踏まえつつ、適切な取引のあり方が不断に検討されていくものと考えている。


(問)
 今年度からゼロゼロ融資の返済が本格化するといわれているが、今年度の与信コスト、倒産件数を現状どのように見通しているか。
 2点目は、FRBの利上げに伴い、邦銀が保有する米国債の含み損も拡大している状況かと思う。過去に地方銀行が多額の外債含み損を抱え、赤字に転落した事例もあるが、外債の金利上昇に伴う業績への影響をどのように見ているか。また、各行ともALMにおいて難しいかじ取りが求められる新年度となりそうだが、改めて会長の所見を伺いたい。
(答)
 1点目は、ゼロゼロ融資に関連した、今後の与信コスト、倒産件数の見通しについての質問であった。
 全国企業倒産件数は、財政・金融両面の支援もあり、コロナ禍にあっても引き続き低水準で推移しており、2021年度は5,980件と57年ぶりの低水準となった。
 足元においても、倒産件数の急増など、資金繰り懸念の高まりを示す統計は出ていないが、長引く新型コロナウイルス感染症の影響を強く受ける対面型サービス業等では、厳しい経営環境が続いているうえ、ロシア・ウクライナ情勢の悪化やエネルギー・資源価格の上昇等による多くの事業者への影響も懸念されるところであり、先行きの不透明感は高いといわざるを得ない。
 銀行界として引き続きしっかりと資金繰り支援に取り組んでいくという方針は不変であり、今後、与信コストや倒産件数が急激に上昇するとは見ていないが、ご指摘のとおり、ゼロゼロ融資については返済が進みつつあり、取引銀行としては個社ごとにその動向をしっかり見ていく必要がある。
 足元のさまざまな不確実性が複合的に絡まり合うことによって生じる事業者への影響を注視しつつ、それぞれのお客さまの業況を積極的に把握し、ニーズに応じたきめ細やかな支援を徹底していく所存である。
 2点目がFRBの利上げに絡んでの質問だった。ウクライナ情勢を巡る不透明感が長期化していることに加え、4月6日に公表されたFOMC議事録を見ても、高インフレ抑制のため、0.25%を上回る利上げの必要性や、早期にバランスシートの縮小にも着手することなど、金融政策の正常化を急ぐことが示唆されている。こうしたことを背景に、米国の10年債金利は年初の1.5%近傍から、足元は2.8%前後まで上昇しており、ご指摘のとおり、日本の銀行が保有する外債の評価損益は全体として悪化していると思う。
 ただし、金利上昇に伴う銀行ビジネス全体への影響については、2月の会見でも申しあげたとおり、短期的には、今申しあげたような保有債券の評価損益悪化という影響がある一方、金利上昇の背景が景気回復にある限り、米国は基本的にそうだろうと思うが、投資利回りや預貸金の利鞘の改善につながるため、銀行全体のビジネスモデルで見た場合にはプラスとなる側面がある。現実に社債金利の状況などを見てもそうした傾向がすでに現れている。
 金利の上昇局面における対応としては、外債を満期まで持ち切ることや、一段の金利上昇に備えたヘッジ取引、あるいはロスカット・オペレーションを行うなど、金融機関ごとの損益状況や今後の相場見通しによってさまざまな手段がある。足元はFRBの金融政策が新たな転換を迎えていることに加え、複雑な地政学的リスクも含めたリスク管理の重要性が増している難しい運用環境であるが、市場の環境変化を適切に捉え、機動的なオペレーションがまさに求められる局面だと考えている。