2023年4月 3日

加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から1点ご報告申しあげる。
 4月1日付で、みずほ銀行の加藤頭取が全銀協会長に選任された。新体制における会長、副会長はお手元の資料のとおりである。
 本日はこのほかに、加藤会長の略歴をお配りしている。

 

会長記者会見の模様


 みずほ銀行の加藤です。このたび、半沢前会長から引き継ぎ、全国銀行協会の会長を務めることになった。皆さまの支援を賜りながら、この大役を全うすべく進めて参るので、よろしくお願いしたい。
 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、半沢前会長に一言御礼を申しあげたい。
 振り返ると、昨年度は、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する供給制約、エネルギー・食料等の価格の高騰、労働需給の逼迫等を背景に、世界的にインフレ圧力が高まった。こうした背景から、各国で大幅な金融引締めが実施され、それを受けた日米金利差拡大を背景として、歴史的な円安も記録した。
 こうした中、半沢前会長は、持ち前のリーダーシップを発揮して銀行界をけん引いただき、多岐にわたる課題の解決に取り組んでこられた。そのご功労に心から敬意を表するとともに、厚く御礼を申しあげる。
 さて、改めて、わが国銀行界を取り巻く環境を概括する。まずは、3つのメガトレンドについて申しあげる。
 1点目は、人口構造の変化である。昨年、世界の人口が80億人を超えた一方で、日本は出生数が初めて80万人を割るなど、少子高齢化が一層進行しており、労働人口の減少、人手不足が深刻化している。
 2点目は、サステナ意識の加速である。気候変動リスクの高まりやコロナ禍が、環境・社会課題をより身近なものにし、人々の価値観を変容させ、共創意識の醸成も加速している。
 3点目は、デジタル技術の進展である。デジタルの利便性は、新たな価値観やニーズを生み、コロナ禍の新しい働き方や行動様式への変化も下支えしている一方で、社会全体としてデジタルへの依存度は高まっている。
 こうした中で、ロシア・ウクライナ問題、米中対立をはじめとする地政学リスクの高まり、対立構造の先鋭化は、サプライチェーンの分断やフレンド・ショアリング等の動きを生んでいる。
 他方で、デジタルの世界では、国境を越えて情報や価値の流通・人的な交流が加速する等、グローバル社会は複雑化している。
 そして、これらメガトレンドの進行とグローバル社会の変容は、経済社会にエネルギー供給懸念や原材料価格、賃金高騰など、世界的なインフレ圧力をもたらし、各国に金融緩和からの政策の転換を突きつけた。
 主要地域の足元状況を見渡すと、米国では政策金利引上げに伴い、金利感応度の高い住宅投資が減少しているほか、IT投資を中心に設備投資が弱含む等、金融引締めの影響は徐々に顕在化し始めている。
 欧州でも、エネルギー問題は想定内に収まったものの、依然高水準のインフレにより消費は低迷、賃金インフレの懸念から金融引締めが維持されている。
 そして足元、ご案内のとおり、米地銀の破綻やクレディ・スイスに対する経営不安など、一部、金融引締めの影響とも見える事象も発生している。
 中国は、ゼロコロナ政策の解除によりサービス消費中心の回復が期待されているが、不動産市場の低迷は依然続いている。
 翻って、わが国の状況だが、日本は経済再開のタイミングや半導体不足等の影響で、欧米に比べてコロナ禍からの回復が遅れていた分、回復余地があり、緩やかな成長が見込まれる。その反面、先ほど述べた欧米の政策金利引上げによる景気減速や中国不動産市況低迷等は、日本経済にとっても懸念事項であり、今後の賃上げの動向や金融政策の効果・影響等も含め、先行きが不透明な状態は続いている。
 こうした人口構造の変化、気候変動や地政学リスクの高まり、それらから派生する諸問題等により先行きが不透明な状態において、将来不安を払拭すべく、政府も新しい資本主義を掲げ、総合経済対策をはじめさまざまな施策を打ち出している。こうした動きにアラインし、わが国が抱える諸問題の解決に向けて、金融面、非金融面からしっかり支えていくことが、我々銀行界の責務と考えている。
 今述べたような環境を踏まえ、私は今年度を「社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に繋げる1年」と位置付け、活動していきたいと考えている。具体的には、次に掲げる3つの柱にもとづき取り組んでいく。
 第一の柱は、「経済の持続的成長と社会的課題解決への貢献」である。具体的には、アフターコロナや物価高騰等を踏まえた中小企業支援に、引き続き全力で取り組んでいく。政策金融機関とも連携した資金繰り支援や、事業承継・事業再生支援・地域活性化等に、金融仲介機能、金融コンサルティング機能を発揮していく。また、日本経済のダイナミズムと成長を促す鍵となるスタートアップ企業等へのリスクマネーの供給や、事業力や将来性を踏まえた支援のあり方の検討、経営者保証に依存しない融資慣行の一層の推進に取り組んでいく。
 加えて、家計の安定的な資産形成を図るための資金の好循環の実現に向け、若年層等への金融経済教育、NISA制度の恒久化・拡充を踏まえた推進強化、フィデューシャリー・デューティーの徹底等にも注力していく。
 最後に、サステナブルな社会の構築のため、サステナブルファイナンス等の取り組みを通じ、お客さまの脱炭素・カーボンニュートラルに向けた構造転換を支援していく。
 続いて、第二の柱は、「デジタル技術進展を踏まえた安心・安全で利便性の高い金融インフラの構築」である。人手不足問題の深刻化や、コロナ禍で加速した価値観・行動様式の変化に対応すべく、デジタル技術を積極的に活用し、より安心・安全で利便性の高い金融インフラの構築を目指す。具体的には、手形・小切手機能の全面的な電子化による企業等の業務効率化、税・公金納付・収納の効率化を通じた納付者の利便性向上、地方公共団体等の事務負担軽減のほか、Web3.0の推進、中央銀行デジタル通貨等に関する議論にも積極的に参画していく。
 また一方で、社会全体のデジタル技術への依存度の高まりを踏まえた各種リスクへの備えも重要である。不正送金や暗号資産等の新たな技術を利用した金融犯罪被害の防止や、近年、脅威・被害が拡大しているサイバー攻撃への対策等の取り組みを通じ、利用者の安心・安全の確保に努めていく。
 最後に、第三の柱は、「金融システムの健全性・強靱性向上」である。地政学リスクの高まりや、それに伴う新しい経済圏・供給網構築の加速等、グローバル社会の変容等を踏まえ、金融システムのさらなる健全性・強靱性向上を目指していく。具体的には、昨年度設立したマネロン対策共同機構の活用等、業界全体としてのマネロン対策の対応力強化、経済安全保障推進法に係る対応を通じた基幹インフラ役務の安定的な供給の確保等の取組みを進めていく。そのほか、国際金融規制に係る諸課題への対応や、金利指標改革への対応を通じ、今後、再び訪れるかもしれない金融危機への備えにも、予断を持たず取り組んでいく。また、人的資本等の非財務情報の開示強化への対応を通じ、会員各行の企業価値向上を図っていく。
 以上が今年度の取組み課題だが、最後に改めて、今年度の基本方針に込めた思いを伝えたい。
 基本方針は、「社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に繋げる1年」と申しあげた。今年は、わが国最初の銀行である第一国立銀行の開業から150年の節目の年である。これまで、銀行は長年にわたり日本の成長に貢献してきた。足元を見ると、人口構造の変化、気候変動や地政学リスクの高まり、それらから派生する諸問題等により、先行きが不透明な状態が続いている。今後も、銀行が社会・経済の持続的な発展を支える存在であり続けるために、諸問題に向き合い、1つでも多く解決の道筋をつけ、将来不安を払拭して明るい未来に繋げたい、そういった思いを込めた基本方針である。
 私自身、全銀協会長として銀行界の先頭に立ち、この責務を全うしていくので、ご支援とご協力のほど、何とぞよろしくお願いしたい。


(問)
 2点伺う。今後1年かけて取り組みたい課題について聞かせていただいた。全銀協は銀行業界の代表として、消費者保護や決済システムの運営、銀行業務の円滑化などに取り組んでいる。これらの基本的な活動や、今、抱負で挙げていただいた課題に取り組むに当たり、政府や他の業界、あるいは国民に伝えたいこと、要望などあったら、教えてほしい。
 2点目は、みずほフィナンシャルグループでは、みずほ銀行でのシステム障害を受け、2021年に全銀協会長行を辞退した。障害への対応や顧客の信頼回復において、みずほ銀行、みずほフィナンシャルグループが得られた教訓も多かったのではないかと推察する。今後の全銀協での活動に臨むに当たり、加藤頭取が実践したい心構え、あるいは具体的な取組み、他行への呼び掛けなどがあったら伺いたい。
(答)
 1点目は、特に取組みのなかで関係各位にお伝えしたいことを中心にお話しさせていただきたい。
 繰り返しになるが、冒頭、私から、今年度の方針、活動について、「社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に繋げる1年」と申しあげ、3つの柱と重要課題の説明をさせていただいた。
 第一の柱は、企業や家計の支援等に関する課題である。これらの課題への対応が企業や社会の持続的な成長に繋がるものと考えており、まさに銀行の本業として課題を設定させていただいている。
 一方で第二、第三の柱は、社会的課題の解決に向けて、ご指摘いただいた、政府や他業態、国民の皆さまとの共通理解の下に進めていくべき課題が多く含まれていることから、改めてご説明させていただければと思う。
 第二の柱は、金融インフラのデジタル化、電子化に関する課題である。ご承知のとおり、わが国では人手不足が深刻化している。こちらは家計、企業、行政共通の課題である。例えば、手形・小切手、あるいは税・公金は、金融機関のみならず、個人、企業、地方公共団体等の幅広い関係者の間で「紙」が流通しており、現物がある以上、その物量に応じて人手が必要になる。電子化はフィジカルなリソースを一気に削減してくれる、人手不足経済には不可欠なツールである。また、同時に輸送にかかる時間も削減され、利便性ももたらしてくれる。デジタル化に関しては、現状からの変化を嫌厭される方もいると承知しているが、わが国の人手不足解消や社会全体のコスト削減に繋がる、非常に意義のある取組みである。ぜひとも、ステークホルダーの皆さまとゴールを共有しながら、社会全体で進めていきたいと思う。産業界、地方公共団体、関係省庁におかれては、ぜひ一層のご協力をお願いしたいと思っている。
 次に第三の柱だが、金融システムの健全性、強靱性向上に関わる課題である。例えば、金融犯罪、マネロン、テロ資金供与の防止は、すでに国際的なコンセンサスである。わが国はFATFの第4次相互審査で重点フォローアップ国に指定され、国を挙げて改善に取り組んでいるところである。体制整備ができなければ、わが国の外国送金・決済業務に支障が出ないとも限らない。こうした対応の1つとして、一定の頻度でお客さまに情報の提出をお願いする継続的顧客管理にご協力をお願いしていく必要がある。その他の各種規制対応等においても、お客さまにご負担をおかけするケースもあるが、これらは国際社会の信頼を得て、健全な経済活動を維持する観点からも必要な対応であることをご理解いただくとともに、引き続きご協力をお願いしたいと考えている。
 続いて、2点目は、私が今回全銀協会長を務めさせていただくに当たっての心構えについてのご質問と理解した。まさにみずほ個別行のことになるが、システム障害においては、お客さまをはじめ社会全体、そして銀行界にも大変ご迷惑、ご心配をおかけした。ご迷惑をかけた分、しっかりと業界のために貢献して参りたいと私自身も思っているし、今回、みずほで本活動に関係する者たち全員の思いである。
 また、システム障害への対応というご質問であるが、システム障害自体はみずほ個別行の問題であり、全銀協活動とは切り離しているが、この経験が協会活動に活かせる「教訓・学び」という点で2点申しあげる。
 1点目は、平時の準備の重要性である。全銀協では、2021年3月に「銀行システムの安定稼働と障害発生時のお客さま対応に係る申し合わせ」を実施している。例えば、システムへの負荷、関連システムの波及への点検、障害発生時の復旧対応や顧客対応に全力を尽くす等の内容を申し合わせている。いずれも基本的なことであり、会員行においては、申し合わせ等も踏まえながら、それぞれ対応されているものと理解している。
 ただ、私の経験や学びという観点で一言申しあげるとすれば、これらのことが本当に有事に実効的に機能するのか、そのために平時からいかに緊張感をもって準備・点検・確認できているか、これが重要ではないかと思う。全銀協としても、会員行と行うBCP訓練等でしっかりと態勢整備を進めていく。
 2点目は、現場の実態把握である。みずほでは、システム障害を通じて、企業風土の変革という課題に取り組んでいる。会員行の多くもさまざまな経営課題に取り組む場合があると承知している。
 これも、私の教訓や学びという観点で申しあげるとすれば、経営レベルで理屈やロジックを判断するのみならず、経営自らが現場との対話を通じて、現場の声や実態を把握したうえで判断することが、なにより重要だということを実感している。
 今年度、全銀協会長を務めるに当たっても、会員行の声、銀行界へのお客さまの声をしっかりと聴いたうえで、全銀協の活動に活かして参りたいと思う。


(問)
 1点目は、G-SIBsに関する資本規制について伺いたい。リーマン危機以降に規制が強化されてきたが、今回、G-SIBsの1行が買収されて、規制のあり方という観点ではどうだったのかお尋ねしたい。
 2点目は、シリコンバレーバンクの取付け騒ぎに関して、この発端はソーシャル・メディアだったが、日本でも同様のことが起こり得るのか、また起こった場合にはどういう対処が考えられるのか。
(答)
 1点目は規制制度が不十分ではないかというご質問である。ご認識のとおり、グローバルなシステム上、重要な銀行であるG-SIBsは、その規模やクロスボーダー取引の内容、複雑性などの客観的な評価基準をもとに選定されている。加えて、金融システムにおける重要性に鑑み、破綻の可能性やその影響を極小化すべく、追加の資本賦課やTLAC規制などの各種規制の遵守が求められている。
 今回のクレディ・スイスの件は、米国での地銀破綻により金融機関の経営リスクへの警戒が高まったなかで、クレディ・スイス個社の業績不振や内部統制の問題が市場で意識されたことがきっかけである、という認識をしている。したがって、クレディ・スイスに対する信用懸念は、個別性が高く、必ずしも規制制度の十分性や適切性が直接問われるものではないという認識をしている。
 金融システムの安定は極めて重要である一方、過度な規制は、銀行の与信活動の消極化や保有資産の圧縮を招く懸念もある。「規制強化による金融システムの安定化」と「円滑な信用供与」のバランスが重要であると考えている。
 2点目、シリコンバレーバンクの破綻は、SNSが発端である、日本で同様のことが起きるかのご質問であるが、あくまで報道にもとづく、個人の見解として申しあげる。
 ご指摘のとおり、シリコンバレーバンクに対する取付け騒ぎの原因は、預金の相応の割合がスタートアップ企業の預金であったこと、そのコミュニティー内のコミュニケーションが非常に緊密で、SNSを含めたコミュニケーションを通じて、信用懸念が加速度的に広がった面があった、と認識している。
 金融不安の広がりに関しては、SNSを含めて噂や誤った情報が、かなり速いスピードで広がるリスクが高いと認識している。そういう意味では、各行は、お客さまに安心して継続的に使っていただけるように、このような環境のなかにおいては特に、お客さまを含めたステークホルダーに正しい情報を発信しつつ、コミュニケーションをしっかり取ることが重要だと認識をしている。
 ただし、今回の件についてのご質問ということで申しあげると、邦銀は、シリコンバレーバンクと異なり、日本銀行による長期の量的・質的緩和によって潤沢な資金も保有しており、その預金は企業や個人などに分散されている。すなわち、預金の粘着性が高く、したがって同様の事象が起こる可能性は低いと考えている。


(問)
 先の加藤会長の回答を踏まえてお伺いする。預金の粘着性ということについてだが、徐々にネット経由で預入が増えている。リアルとネットで言うと、粘着性という観点では、デジタル、ネットの方が流動性が高くなってしまうということがあるかと思う。この点について、いわゆる要求払いなので払わないといけないところ、日本の銀行は基本的に、みずほ銀行も含めて、現時点ではそこまで足元で懸念するような話ではないと思うが、デジタルが進むにつれて、そのようなスティッキーな預金が比率として徐々に下がっていくのではないかと思う。この辺りはどのようにリスクとしてお考えになられているか、伺いたい。
(答)
 デジタル化が進むなかでの預金の粘着性についてのご質問である。ご指摘のとおり、デジタル化が進み、利便性が高まることで、他行に預金を移しやすくなり、預金の粘着性は従来よりも低下するという考え方はあるだろう。ただし、ご質問の背景は破綻したシリコンバレーバンクの話であり、先ほど申しあげたように、特異な固有の例である。また先ほど説明のなかった部分では、スタートアップの企業の預金が中心ということや、預金保護の対象の割合が極端に低かったことも要因であったのではないかと考えている。
 また、もう1つ破綻の要因として、預金の粘着性にかかわらず、運用、つまり償還期限の満期が長く、価格変動リスクが相応にある米国債やMBSに過剰に投資していたという、いわゆる脆弱なALM管理という要因もあった。これも固有の事情であると考えている。
 翻って、日本である。邦銀はご案内のとおり、当座預金などの決済用預金は全額保護であり、アメリカとは制度が異なっている。また、決済用預金以外の一般預金においても、一金融機関ごとに預金者一人当たり元本一千万円まで保護されているので、全体に占める預金保護対象の割合は高く、信用懸念に伴う預金流出リスクに対する耐性は高い、と考えている。
 ただし、デジタル化が進むなかで、ビジネス環境の変化、預金者の行動様式の変化により、徐々に預金の構造や粘着性が変遷していく可能性はあると認識している。こうした粘着性の低下についてしっかりと変化に留意し、厳格なALM管理を行うことを会員各行にはお願いして参りたい。


(問)
 本日、日銀短観が発表されて、大企業製造業の景況感5期連続悪化ということで、今後、米国の利上げによる景気後退の影響も出てくると考えられるが、国内景気の現状認識と先行きについてのお考えを伺いたい。また、4月から給与のデジタル払いが解禁されたが、銀行業界としての影響や、受止めについても伺いたい。
(答)
 1点目は、本日発表された日銀短観についてのご質問である。景況感については製造業を中心に悪化したものの、企業の設備投資計画には底堅さが見られるなど、今年度の日本経済に明るい材料もあったと評価している。
 具体的には、大企業・製造業の業況判断DIはプラス1%ポイントと、前回の12月調査から6ポイント悪化した。これは、海外の投資需要が利上げの影響などで減退していることや、半導体市場が調整局面に入っていることなどが、製造業にとっては向かい風になっていると理解している。
 一方で、大企業・非製造業の業況判断DIはプラス20%ポイントで、12月の調査から1ポイント改善している。燃料費や人件費など各種コストの上昇が業績改善の妨げになっている面は依然としてあるが、インバウンドの旅行客の回復や、新型コロナの感染対策緩和に伴うサービス消費の持直しを背景に、依然としてDIの水準は高いと思っている。
 また、2022年度の設備投資の見込みは、前年比プラス11.4%と、12月時点の計画からは下方に修正されているが、依然として非常に高い伸びで着地する見込みである。コロナ禍で先送りされた投資が再開されて正常化されつつあり、下方修正については、供給制約などの影響で、年度内に実行しきれなかった面が強く、あまり心配する必要はないのではないか。
 実際に、今回の調査で新たに公表された2023年度の設備投資計画は、前年比プラス3.9%と昨年度プラス0.8%を上回り、3月調査としては非常に高い伸びになっている。グリーン・デジタル関連の投資、人手不足に対応するための省力化投資など、企業が将来の課題に向けた投資を活発化し始めている可能性がある。最近の金融不安を見ても分かるとおり、2023年の海外経済における不確実性は高まっているが、国内の設備投資が増勢を維持しそうなことは、今年度の日本経済にとって心強い材料の1つであると考えている。1点目は以上である。
 2点目は、デジタル給与払いの影響や受止め方についてのご質問である。デジタル技術の進展、価値観の多様性も踏まえて、労働者の利便性の向上、キャッシュレスの推進に取り組んでいくことは重要なことである。
 本件、給与をデジタルマネーで受け取ることもできるようにすることで労働者の利便性を向上させることを目的に解禁されたものと理解している。これまでの全銀協会長会見でも申しあげてきたように、給与は労働者の生活の糧である。したがって、安全かつ確実に支払わなければいけないものである。給与振込を取り扱う我々銀行界では、長い年月をかけて銀行口座あるいは決済に関わる安心・安全なサービスの供給に努めてきた。例えば、金融犯罪被害防止対応、サイバーセキュリティ、反社データベース、災害対応や各種規制にもとづく財務の健全性確保等、お客さまの資産を守るための取組みを多面的に講じている。こうした取組みを通じて安心を提供することで、多くの事業者・労働者にご利用をいただいているものと承知している。
 今回の資金移動業者による給与払いの解禁も、利便性はもとより、給与の取扱いに必要な安心・安全が確保されていることを前提に決定されたものと理解しており、今後はそうした観点でのモニタリングも必要だと考えている。例えば、資金移動業者のアカウントが生活資金の受け皿として使われている場合、為替取引と直結しない資金が滞留する可能性が高い。こうした取扱いの運営実態を丁寧にモニタリングしていく必要があると考えている。
 実際にデジタルマネーでの給与払いや受取りをお考えになる企業や労働者もいらっしゃると思う。銀行口座での給与の受取りは、銀行にとって個人のお客さまのお取引の起点の一つであり、それが減少することは、例えば資産運用や住宅ローンのご提案の機会が減る等、銀行ビジネスにも一定の影響が出る可能性があると思っている。
 したがって、銀行界としても、いつでも現金化できるATMネットワーク、あるいは業態間で資金移動可能な振込ネットワーク等、利便性の確保にも努めて参るが、今後もスマートフォンアプリを利用した個人間送金ネットワークの拡充等、さらなる利便性の追求を通じて預金口座の付加価値を高め、お客さまに引き続きお選びいただけるように不断の努力を続けていきたいと思っている。


(問)
 2点お伺いする。米欧の金融システム不安が高まる過程で、クレディ・スイスがUBSに買収された。そのなかで、クレディ・スイスが発行していたAT1債が無価値になった。こうしたAT1債が無価値になったことによる3メガを中心とする邦銀への資金調達にどのような影響が出ると考えられているかというのが1点目である。
 もう1点が、日本銀行の総裁が4月9日に植田和男氏に交代される。市場では日本銀行が長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールを修正して、長期金利が上昇するのではないかという観測が高まっている。仮に日本の長期金利が今の水準よりも引き上がった場合に、邦銀の銀行経営や決算にどのような影響が出るとお考えか。
(答)
 1点目は、クレディ・スイスのAT1債の取扱いが邦銀に与える影響についてのご質問である。一般的には、日本の金融機関が発行するAT1債は、公的支援が行われることによって元本が毀損されるという特約はないと認識している。クレディ・スイスのAT1債における優先劣後関係の逆転現象は、今回の事案が政府主導かつ同社のAT1債契約の内容のもとで発生した特殊なケースであったと理解している。AT1債を発行している各メガバンクに関しても、充実した流動性や資本を有しており、金融システムは安定している。AT1債市場に対する懸念がくすぶっているのは承知しているが、邦銀の資本調達に直ちに影響を与えるものではないと理解している。今後のAT1債市場の動向には、引き続き注意していきたい。
 2点目は、金融政策変更による銀行経営、決算への影響についてのご質問である。各会員行の経営について、全銀協としてはコメントする立場にないので、一般論として申しあげる。
 金利が上昇する際には、預貸収支の改善、運用利回りの上昇により、総じて収益にはプラスの影響が出ると認識している。一方で、国債等の保有債券価格の下落による評価損益の悪化や貸出金利上昇によるクレジットコスト増加の可能性には、当然ながら注意が必要である。加えて金利水準の変化、あるいは金利変動率の上昇といった金利リスクのコントロールのみならず、事業ポートフォリオ見直しや、金利が引上がることによる行内の事務手続も、かなり久しい話であるので、事務などの影響にも留意が必要だと思っている。
 ただ、どのような政策変更があったとしても、我々銀行界としては、しっかりと金融仲介機能を果たしていくという役割は変わらない。併せて、日本銀行においては、金融情勢、物価、市場機能への影響に十分に目配りいただき、引き続き市場との密接な対話をお願いしたい。


(問)
 世界的な金融システム不安に関連して2点質問する。
 1点目について、シリコンバレーバンクの経営破綻をめぐっては、金利上昇に伴う有価証券の評価損がきっかけとなり、急速な預金流出が経営破綻を引き起こした。日本の地銀も米国債券を多く保有しており、金利上昇に伴う債券の含み損拡大という同様の事情を抱えているが、今回の米国銀行の破綻を踏まえ、地銀の今後の経営環境についてはどのように見ているか。
 2点目は、米国銀行の経営破綻やクレディ・スイスの救済合併合意など信用不安が相次いでいるが、金融システムに対する市場の不安心理は今後どの程度続いていくとお考えか。また、今回の金融不安がリーマンショック時のような金融危機にまで発展する可能性についてはどのように見ているか。
(答)
 1点目は、米国銀行の破綻を受けた日本の地銀の経営環境についてのご質問である。これも詳細は今後判明すると思うが、現時点では報道にもとづく、個人の見解としてコメントする。先ほど申しあげたように、シリコンバレーバンクの破綻の原因というのは、ALMの管理の甘さにあったと思っている。顧客の太宗がスタートアップ企業関連で、預金構造も粘着性の低い法人預金に偏っており、その運用が米国債、MBSなどに過度に依存したポートフォリオ運営であった。こうしたところが顧客預金の流出に繋がり、評価損を抱えた有価証券の売却に迫られ、信用不安、取付け騒ぎが起こり破綻に至った。繰り返しになるが、やはりこれは銀行の資産サイド、負債サイドともに分散が効いておらず、流動性リスクの管理、あるいは金利リスクの管理などのALMの管理が不十分と言わざるを得ず、個別行特有の問題だと見ている。
 一方で、見方を変えると、余資運用先として米国債等を保有したものの、中央銀行による利上げにより有価証券の評価損を抱えているという観点で言うと、先ほどのご質問の趣旨の邦銀においても似通ったケースがある。ただし、米国と異なるのは、邦銀においては、日本銀行による長期の量的・質的緩和により潤沢な資金を保有しており、企業や個人などに預金が分散されているため、預金の粘着性が高い。したがって、預金流出等による資金不足を理由に有価証券の売却が起こる可能性は低いと考えている。ただ、米国で今回のような地銀破綻が予見できなかったように、先行きを見通すのは大変難しい。大事なことは各行がビジネス戦略やリスクの許容度を踏まえ、適切なALM管理をしっかり行うことだと思っている。
 長きにわたる低金利の環境下で、銀行の伝統的な収益源である資金利益が圧迫されており、銀行にとって厳しいビジネス環境が続いているが、大事なことは変化するお客さまのニーズにしっかり対応し、各行が、エクイティ投資であるとかシステム販売、広告・人材派遣など、伝統的な銀行ビジネスのみにとらわれない新しいチャレンジを進めていくことではないかと思っている。各行が、各地域が持つ資源や強みを活かしながら、収益源の多様化を図ることもまた大事だと思っている。
 2点目はリーマンショックのような金融危機に発展するかという質問である。これも個人的な見解として申しあげる。繰り返しになるが、金融システムへの不安が起きたが、実際には各国金融当局による潤沢な資金供給や、米国での預金全額保護、スイスでの買収支援など、各国の迅速な措置がとられている。金融環境の悪化に歯止めがかかっているので、システムリスクの顕在化の恐れは低下していると考えている。やはり市場の不安心理の払拭には、金融当局による迅速かつ柔軟な対応と、各国金融当局による緊密な連携が欠かせない。今般の海外金融当局による一連の市場安定化策は、金融環境の一段の悪化に歯止めをかけ、一定の成果を上げていると認識している。リーマンショックにおいては、大手金融機関がサブプライムローンの貸倒れという共通のリスクを保有していたことに加え、サブプライムローン債権を組み入れた複雑な金融商品が、信用不安の連鎖を呼んだと認識している。
 一方で、今回の一連の破綻や信用懸念は、個別行のALM管理の失敗や業績不振、不祥事など特有の要因に起因しており、状況が異なっている。また、リーマンショックを教訓に、自己資本の拡充など金融システムの頑健性も強化されており、リーマンショックのような金融危機には陥らないと見ている。ただ、繰返しになるが、市場の先行きについては、当面の間、予断を持たずに緊張感を持って注視していく。各国金融当局の政策対応の積重ねが市場の不安心理の払拭に繋がると考えている。


(問)
 1点目、デジタル化が進展し、オンライン取引がどんどん進むということで、リアルの店舗は年々銀行界で減っていると思うが、今後、全銀協会長として、店舗のあり方はどのようなものになっていくと考えるか。
 2点目、ファイアーウォール規制について。2022年度はあまり進まなかったが、2023年度はさらなる緩和を要望していくのか、また、どのようになる見通しだと考えるか。
(答)
 1点目は、デジタル化と店舗の役割についてのご質問である。デジタル化の進展はお客さまとの接点が大きく変化するものだが、銀行の店舗の役割はそのかたちを変えながら、引き続き残っていくものだと思っている。デジタル化が進むと、銀行の窓口に来店されるお客さまは減少し、また、お客さまが銀行に期待するサービスも変化する。スマートフォン等のデジタルデバイスを通じた顧客接点がその代表で、ご来店いただかなくても銀行のサービスをご利用いただけるように、各行が試行錯誤しながら、競争領域として新たなサービスの開発に取り組んでいる。また、一部の地方銀行においては、新たな顧客接点の提供による顧客基盤の拡大を目指して、デジタルバンクでのビジネスを展開する事例もでてきている。
 ただし、繰り返しになるが、銀行店舗の役割がなくなったということではない。例えば、資産運用や資産形成の事例になるが、将来に漠然と不安があるけれども何から始めてよいか分からずアクションを起こせないお客さまも実際におられる。資産形成や資産運用に関するお客さまの人生設計を伺い、その実現に必要な資産について一緒に考えさせていただく際に、店舗にご来店いただいてフェイストゥフェイスで、さまざまなご相談にお答えすることは、お客さまの満足度を高めることにつながると思う。また、住宅ローンのお借入れの検討も同様で、お客さまにご来店いただき、現状を伺いながら、ライフプランに合わせた返済プランや、病気やけがに備えた保険の付保など、さまざまな条件を加味したうえで、お客さまに最適な提案を行うのは、デジタルよりも来店してお話しする方がフィットするのではないかと思う。
 お客さまにいわゆる対面と非対面、あるいは店舗とスマホといった選択肢をご提供することが大切ではないか。お客さまのニーズに合わせたコンサルティングサービスを、ネット・リアルの両方の特長を活かしたチャネルにより提供し、新しい金融体験の場としていきたい。
 2点目は、ファイアーウォールの規制緩和についてのご質問である。ファイアーウォール規制については1993年の金融制度改革法に伴う導入以降、大きな緩和がなかったが、2020年10月以降の金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」の議論にもとづき、2021年6月にはファイアーウォール規制の適用対象から外国法人顧客を除外すること、2022年6月には新オプトアウト制度の創設、オプトインの簡素化、ホームベースルールの撤廃などが措置されている。これによって、現状、上場企業グループなど一部のお客さまには、銀証連携したご提案ができるようになり、利便性が高まる可能性が出てきている。
 ただし、ファイアーウォール規制の残課題は依然としてわが国の資本市場の活性化や貯蓄から投資への好循環に向けた銀証間の円滑な連携の妨げになっている。例えば、外務員二重登録禁止規制や、上場企業グループ以外の非上場大企業、中堅・中小企業、個人の情報授受規制の見直しは不可欠であるという考えは変わっていない。いずれも、お客さまの利便性、便益の観点から緩和は進めていくべきものだと思っている。
 例えば、お客さまに対して銀行・証券の両方の商品をご提案することがあるが、その場合、お客さまには、1人の営業担当者が責任を持って各種の提案を行ってほしいというニーズがある。しかしながら、現状は外務員二重登録禁止規制があることで、外務員登録を銀行側で行った担当者は銀行の商品、証券側で登録を行った担当者は証券の商品しか提案できず、お客さまが煩わしいと感じてしまうことがある。
 そして、現場の声として、もっとシンプルな言い方をすると、情報共有の同意が入り口にあることによって、お客さまの投資検討のきっかけや機会が奪われていることがある。具体的には、投資に踏み出せない理由として、知識がないとか、損をするのが不安であるとか、手続が面倒、時間がないなど、さまざまな心理的ハードルがある。その中で、各種ご提案の前に、「まず情報共有の同意を」という話をすると、そこで止まってしまうケースが相当多い。例えば、昼休みに銀行の窓口に寄られたときに、「時間があるから証券会社の話を聞いてもいいよ」と言ってくださるお客さまに、今の制度では「ご印鑑をお持ちですか」とか、「まずは同意書がないと」となるのが現場の実態である。結果としてここで離脱されるお客さまが多い。
 わが国の重要な社会課題である事業承継や相続といったサービスにおいても、お客さまにご負担をかけず、銀行・証券会社がスムーズに情報共有することで、利便性・付加価値の高いサポートが可能になると考えている。銀行界として、顧客満足度の向上を通じ、貯蓄から投資への好循環や、金融資本市場の発展につなげて参りたいと思っている。


(問)
 会長から、抱負で「明るい未来につなげる1年」とお話しいただいたが、明るい未来とは何か。
(答)
 基本方針を「社会経済の持続的な発展を支え、明るい未来につなげる1年」と申しあげた。足元、コロナに関する行動制限の緩和は進んできており、これは明るいニュースだと思っている。
 一方で、少子高齢化の進行による人手不足の深刻化や、気候変動リスク・地政学リスクの高まりなど、確かに先行き不透明な状況が続いている。そのなかで、我々、銀行としてできることは、我々が持つ金融仲介機能やコンサルティング機能を発揮して、わが国の優れた技術をさらに伸ばしていくことや、日本企業の海外への進出、あるいは、スタートアップに代表される意欲ある企業をサポートして企業活動の活性化を促していくこと、これらが我々の大きな役割ではないかと思っている。
 また、企業活動が活性化することで、家計への経済面での還元も充実が期待されるところ、銀行が若年層に対して、金融経済教育や資産形成支援を通じて、長生きリスクや、将来不安の払拭に貢献する。これらにより、日々の生活における経済的な安心感を醸成して、前向きな挑戦意欲も高めて、起業を含むさらなる企業活動の活性化、家計への経済面での還元の充実という循環がますますつながっていく、これが正の回転だと思っている。こうした好循環や連鎖により、日本の社会経済が活気づいていくことを明るい未来とイメージしており、これにつながるものをしっかりと銀行界として取り組んでいく。このような1年にしたいという思いで「明るい未来につながる1年」とした。


(問)
 CBDCについて伺う。日本銀行で技術的な研究が加速していて、政府でも今後取組みが進むことが予想されている。銀行界にとってそもそもCBDCを発行する意義についてはどのように考えているか。いわゆる紙幣や硬貨をデジタルで管理すると、生活や経済の活動に大きな影響があると思うが、加藤会長はどのように考えているか。
(答)
 CBDCを導入する意義についてのご質問である。CBDCは様々な国で進められている。例えば、カンボジアやバハマのようにスマートフォンは普及しているが銀行口座が普及していない、一部の新興国が挙げられる。安心・安全な金融サービスを広く国民に提供するために銀行包摂の目的でCBDCが導入され、普及している。また、欧米の中央銀行によるパイロット実験の動きも加速化している。また、中国では2019年からデジタル人民元のパイロット実験も始めており、実施地域を順次拡大していく方針であると承知している。
 新興国のみならず、先進国でも取組みを始めているという実情を踏まえ、わが国においても検討が進められているものと理解している。
 なお、日本の場合は、ATMをはじめ現金流通網が全国規模で整備されている。また、国民の口座保有率も非常に高い。さらに、最近特にキャッシュレスの決済手段が着実に普及してきており、通貨や決済の信頼性、利便性が高い。これは他国と異なる状況である。
 こうした日本において、どのような利用ケースがあるのか。CBDCを導入する意義・目的について、官民でコンセンサスを得て議論が進められていくことを我々としては期待している。
 実際に日本銀行によれば、この4月から民間事業者も参加するパイロット実験を実施するとともに制度設計の観点からCBDCフォーラムを設置し、幅広いテーマについて議論、検討を行っていくとされている。引き続き、銀行界も検討に主体的に参加をして、安心・安全・便利な社会の実現のために必要な意見発信を行って参りたい。


(問)
 2点お伺いしたい。1点目はゼロゼロ融資などコロナ関連融資だが、今年度返済を迎えるところが多いとは思うが、返済期としての環境の評価と銀行界の対応についてお伺いしたい。
 2点目は、人材不足という話が先ほどから何回かあったと思うが、銀行界としての人材確保や、就職先としての銀行界の魅力度という観点から、現状認識とその対応についてもお願いしたい。
(答)
 1点目は中小企業の資金繰り支援についてのご質問である。ご案内のとおり、銀行界はコロナ禍における資金繰り支援を最優先に取り組んできている。2022年12月の全国銀行の貸出残高は約565兆円だが、コロナ前の2020年1月と比較すると約57兆円増加しており、依然として増加傾向にある。足元、コロナの感染法上の位置づけは見直しが予定されており、ウィズコロナへの移行が段階的に進んでいくことは明るい見通しだと思っている。一方で、原材料やエネルギー価格が高止まりし、ゼロゼロ融資の返済が本格化する。コロナ禍で大きな影響を受けた飲食業や宿泊業といったサービス業は足元かなり改善も見られるが、資源高の影響を受けやすい運輸業・建設業をはじめとする幅広い業種で、お客さまの資金繰り負担に注視が必要だと認識している。実際に東京商工リサーチの調査によると、2023年2月の企業の倒産件数は577件であり、2022年4月から11ヶ月連続で前年同月を上回っており、増加傾向となっている。
 このような環境にあって、銀行界としては、資金繰り支援を最優先に行っていく方針に変わりはない。本年1月には、民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度、いわゆるコロナ借換保証といった公的な制度も準備されている。また、全銀協においても、本年2月に、資金需要に柔軟かつ積極的に対応し、金融仲介機能の発揮に全力を挙げて取り組むことを、理事会で申し合わせしたところである。
 同時に、お客さまの持続的成長を支えるためには、お客さまと金融機関が一体となった早期の事業再構築の検討や、収益性改善のためのビジネスマッチングの提案、事業承継に関するコンサルティングといった非財務面での支援も欠かせない。
 なお、事業再構築に関しては、2022年4月に中小企業の事業再生等に関するガイドライン、いわゆる事業再生ガイドラインの適用が開始されている。これは事業再生における中小企業者、金融機関のそれぞれの役割を明確にするとともに、迅速かつ柔軟な事業再生等の手続きを定めたものである。適用開始後、各会員行においても、本ガイドラインの活用事例が徐々に積み上がってきている。今後、事業再生に取り組む選択肢として一層活用されるべく銀行間で事例や課題の共有を図っていく予定である。
 今後も引き続き資金繰り支援に万全を期すとともに、お客さまの事業環境を丁寧に把握し、その経営課題に一つ一つ向き合っていくことで、金融面からわが国経済、地域経済をしっかり支えていきたい。
 2点目は、人手不足に対する、銀行の対策についてのご質問である。銀行のみならず、人手不足、働き手不足に悩まれている経営者の方は多いと思う。銀行界にとっては、課題は2つあり、銀行自身の人手不足と、お取引先の人手不足である。これらの課題に対して、全銀協として取り組んでいるデジタル技術を活用した省力化について、2点ほど事例をご説明させていただく。
 1つ目は地方税のQRコード納付である。この4月から自動車税や固定資産税などの一部税目について、納付書にQRコードが記載される。これにより、お客さまがスマートフォン等を使って、いつでもどこでも納付できるようになるのに加えて、銀行の事務処理も減る。さらに、地方公共団体においても消込み作業が自動化できる。いわゆる三方よしの取組みである。
 もう1つは手形・小切手の電子化である。手形・小切手も税金と同様に複数の関係者間で紙が流通し、それぞれにおいて処理が行われているので、これが電子化すれば、企業、地方公共団体、銀行の人手の省力化が期待できる。なかには、現状の業務フローを変えることに抵抗感をお持ちのケースもあるが、銀行界としては、サービスの利便性向上や周知活動、手数料の見直し等の取組みを通じて、しっかりと電子化を推進していきたい。
 このほか、各個別行において、それぞれテクノロジーの活用による効率化や、成長分野への効果的なリソースアロケーションなど、ビジネス戦略を踏まえて、人手不足のなかでも最大限のパフォーマンスの発揮に取り組んでいる状況かと思う。
 この施策を進めるうえで重要なことは、人への投資であると考えている。デジタル競争の激化やサステナへの対応など、急速な事業環境の変化に対応し、付加価値を創造できる人材を育てるには、継続的な研修・教育が必要である。
 加えて、個々の置かれた事情により、働きたいのに働けない人がいるということは社会全体の損失でもある。企業には多種多様な人が柔軟に働ける職場環境づくりが求められる。また、経済面も含めて、企業が社員を支援することで、社員のエンゲージメントを高めて、企業の持続的な成長につながっていくことも重要であると考えている。

別添資料:加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)