2023年6月15日

加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)

辻専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


 冒頭に一言申しあげる。5月5日に発生した石川県能登地方を震源とする地震ならびに6月2日からの令和5年梅雨前線による大雨及び台風第2号による被害を受けた皆さまへ心よりお見舞いを申しあげる。また、犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、ご遺族の皆さまに心よりお悔やみを申しあげる。
 被災地域が一日も早く復旧を果たすとともに、被災された方々が通常の生活を取り戻すことができるよう、銀行界としても払戻しや融資に関わる迅速、柔軟な対応を含め、しっかりサポートをして参りたい。


(問)
 FRBが14日のFOMCで政策金利の引上げを11会合ぶりに見送る一方、2023年中に2回の追加利上げを示唆した。内容について、全銀協会長としてどう評価しているのか、これが1点目である。
 もう1点は、銀行業界でPBRの1倍割れが定着している。PBRの1倍超えを目指すために、銀行として何をしなければいけないと感じているか、会長の考えを聞かせてほしい。
(答)
 1点目は、FOMCに対する評価である。昨日のFOMCでは、市場の予想どおり政策金利の据置きが決定された。今後、FRBは、歴史的なペースで行われてきた金融引締めの効果を見極めながら政策判断をしていくことになる。
 FOMC参加者の年内の政策金利見通しは、前回から0.5%ポイント引き上げられた。これは、労働市場の逼迫を受け、特にエネルギー、食品を除くコア物価が、依然として下がってこないことに対する警戒感の一つの表れと受け止めている。
 今後、FRBは金融引締め効果のラグ、経済や金融情勢を考慮しながら追加利上げの必要性を慎重に判断していくことになる。米国における一連の銀行破綻は一旦沈静化しているが、一方で、急ピッチの利上げの悪影響が何かしらのかたちで顕在化するリスクは残存している。極めて先行きの不透明感が強いなかで、米国の金融政策は岐路を迎えており、依然として予断を許さない状況が続いている。金融不安再燃のリスクにも配慮しつつ、景気への悪影響を最小限に抑えながらインフレを鎮静化することができるか、FRBには慎重な舵取りを期待している。引き続き、米国の経済および金融市場の動向を注意して参りたい。
 2点目は、銀行界のPBR1倍割れについてである。PBR1倍割れは、「銀行に対する投資家の皆さまからの現在の評価」として真摯に受け止め、企業価値向上に向けて不断の努力を続ける必要がある。PBR1倍割れの問題は、銀行に限ったことではないが、少子高齢化に伴う内需の減少、低金利環境下における預貸利回りの悪化、運用難など、わが国の銀行を取り巻く経営環境は大変厳しく、銀行株のPBR1倍割れが常態化していることは皆さまのご認識のとおりである。
 銀行の存在意義とは、企業の海外事業支援、地域経済の活性化支援、個人の資産形成支援など、日本の経済活動を金融サービス面から支え、ともに成長することである。大きな視点で言えば、日本経済の成長と銀行の成長の好循環が持続的な成長を生み、PBRの改善につながっていくと考えている。
 転じて、PBRを改善させるための具体的な活動を考えると、PBRの向上には、高い資本収益性、高い期待成長率、安定した収益構造の三つが重要だと考えている。これらを実現するには、高い成長率が期待される領域、例えばカーボンニュートラルに向けたトランジションをはじめとするGX、SXの領域に、リスク・リターンを踏まえたうえで、適切な経営資源を振り向け、ビジネスに貢献していくことが必要である。また、こうした新たな分野でのビジネスを創出できる人材を育てるべく、人的投資をしっかりと続け、社員と企業がともに成長する好循環をつくることも必要である。
 加えて、こうした成長戦略を、投資家を含むステークホルダーに丁寧に説明し、成長期待を感じてもらうこと、また、株主還元などを通じて、その果実を共有することも重要である。その際に大切なことは、お客さまや市場、社会などステークホルダーの課題や期待を的確に捉え、そのソリューションがステークホルダーの課題解決、成長に資することである。
 資本規制をはじめとする金融規制や、長きにわたる日本の低金利環境など、銀行業界特有の構造的な厳しさはあるが、政府からは、金融サービスの高度化につなげるべく、業務範囲規制などの緩和を進めていただいている。金融機関の競争力強化は、サービスの質の向上を通じて、お客さまの利便性向上、ひいては日本の経済成長に資する。政府にはさらなる規制、制度の緩和、環境整備をお願いしたい。


(問)
 日本銀行の政策決定会合が始まった。植田総裁から物価の現状をもう少し見極めたいという発言があったが、加藤会長は現状をどのように見ているか伺いたい。
(答)
 コアCPIの前年対比は、今年1月時点で4%を上回っていたが、政府の物価高対策の効果もあり、2月以降は伸びがやや鈍化している。
 しかし、これまでの資源高、円安を背景とした仕入価格の高騰を受け、食料品を中心に値上げの動きが高まっていることから、足元でも3%を上回るインフレが続いている。
 さらに、6月からは電気料金の値上げも決まっている。加えて、これまで相対的に物価上昇の動きが鈍かったサービス分野においても、人手不足に伴う人件費上昇などを背景に、外食や宿泊などの物価上昇率が高まっている。
 今後は、海外経済の減速に伴う資源価格の低下などを受け、輸入コストの価格転嫁圧力は弱まっていくものと予想している。当面は、過去のコスト上昇分を転嫁する動きが続く可能性があるが、2023年後半にかけて、輸入物価の低下とともに、CPI前年比は鈍化していく可能性が高い。
 中長期的には、政府・日本銀行が目指す安定的な2%物価目標の達成には、賃金の持続的な上昇が不可欠である。銀行としても持続的な賃金と物価の好循環を実現すべく、引き続き、構造的賃上げに取り組んで参りたい。
 商品市況や為替動向は短期的な物価変動要因にはなるが、基調的な物価を見るうえでは、労働市場の逼迫度や、来年の賃上げを左右する今年度の企業業績などに注目している。
(問)
 もう1点伺いたい。今の、企業業績に注目されているという点で、株価が非常に好調で、バブル後の最高値を更新している状況が続いているが、そうした市況が好調な要因をどのように見ているか教えてほしい。
(答)
 日本の株価の先行きに関しては、全銀協会長としてのコメントは、相応しくないため、個人的見解として申しあげる。
 今後も企業の経営改革への期待と経営改革に対する取組み、また、グローバル対比で出遅れていたインバウンド需要の回復を受け、日本株は底堅く推移するものと期待している。
 足元の日本株は、円安、割安なバリエーション、諸外国と異なる緩和的な日本の金融政策に加え、インバウンド需要や東京証券取引所の経営改革要請を受けた各企業の構造改革、株主還元策などへの期待を受け、特に海外投資家からの買いが株価上昇をけん引している。一方で、株価の上昇速度も速く、期待先行の側面もあることから、一時的な株価調整局面には注意が必要である。
 また、FRBによる金融引締めを受けた米国経済の鈍化、あるいは米地銀の破綻の際に見られたような一連の信用懸念が起きた場合、実体経済や金融市場を通し、日本株への下押し圧力にもなる可能性があることには注意が必要である。引き続き、市場動向を注視して参りたい。
 いずれにしても、今後の株価上昇には日本企業の構造改革がいかに進んでいくかが重要である。お客さまの経営改革およびビジネスをしっかり支えて参りたい。


(問)
 2点質問させてほしい。1点目は、世界的にサイバー攻撃が増加しており、日本企業でも一部被害が報道されているが、銀行界のサイバーセキュリティに関する取組状況について教えてほしい。
 2点目は、4月から地方税の一部税目についてQR納付が開始したが、足元の利用状況、現状の税・公金収納の効率化に向けた取組状況をどのように見ているか。
(答)
 1点目のサイバーセキュリティは、地政学上の要因もあって、サイバー攻撃による被害件数は世界規模で増加傾向にある。日本においても、病院や製造業等におけるランサムウェアの被害が報告されている。あらゆる企業において、サイバー攻撃の最新の傾向を踏まえたセキュリティ対策を検討する必要があると認識している。特に金融機関は重要なインフラ事業者として、より一層強靭なサイバーセキュリティ対策を講じる必要がある。
 全銀協としても、会員行のCIO、CISOといった担当役職員向けにサイバーセキュリティセミナーを開催する等、会員行のレベルアップと、共助を促進する取組みを推進している。また、各行においても、サイバー攻撃を重要な経営課題と位置付け、全社を挙げてサイバーセキュリティ強化施策に取り組んでいるものと承知している。
 共助の観点では、高度化するサイバー攻撃に対抗するために、金融機関を会員として設立された金融ISACに加入し、金融機関同士が情報交換を行う等の業務横断的な取組みを実施している。
 全銀協として、銀行全体のサイバーセキュリティに対する対応体制の強化を目指し、会員間の成功事例の共有等、各種取組みを進めていきたい。
 2点目は地方税のQR納付である。税・公金の納付や収納に係る社会的な手間、コストは大変大きく、全銀協においては、関係者と協議のうえ、QR納付を進めてきた。かかるなか、この4月から地方税の一部税目においてQR納付が始まり、4月、5月の2ヶ月間で約900万件の税金が、納付者に金融機関等の窓口へお越しいただくことなく、スマホ読取りなどで納付されている。
 また、金融機関の窓口で納付された税金についても、そのうち約2,400万件は金融機関がQRコードを読み取ることで、金融機関における収納通知済書の仕分けや地方公共団体への搬送といった後工程の業務が電子化され、また地方公共団体における納付情報の消込や延滞確認等の業務が電子化、自動化され、大変効果が上がっている。
 このように税・公金の納付や収納の効率化は、納付者、金融機関、地方公共団体にとって三方よしの取組みである。今後、QRで納付可能な種目が他の税目や公金に広がることで、社会全体として効率性、利便性がさらに高まることが期待されている。
 わが国の人手不足が深刻化するなか、業務の効率化、生産性向上、手間やコストの削減は極めて重要な課題である。こうした認識のもと、すべての税目や交付金へのQR拡大、納税通知から納付、消込まですべての処理が電子的に行われる社会の実現に向け、引き続き地方公共団体や関係省庁等と連携して参りたい。


(問)
 米地銀の破綻は一旦収まっている状況にあるが、米国などでは銀行規制強化の議論がなされている。こういう動きについて会長の見解を教えていただきたい。
 もう1点は、LGBT理解増進法案が今国会で成立が見込まれるなど、性的マイノリティに対する認知に関して日本でも動きが出ている。今後、企業の対応も問われてくると思うが、銀行界としてどのように取り組んでいるか教えてほしい。
(答)
 1点目の、米地銀の破綻を受けた銀行の規制強化である。先日、全銀協会長として、バーゼル銀行監督委員会のエルナンデス議長が来日された際に面談をさせていただいた。様々な意見交換をさせていただいており、今後の規制動向には大変注目している。
 ご案内のとおり、6月6日に開催されたバーゼル銀行監督委員会の会合においては、直近の銀行セクターの混乱の要因を棚卸しして得られた教訓を、継続検討することが合意され、監督の実効性を強化することの重要性が示されている。今後は、監督、流動性リスク管理、金利リスク管理の有効性強化について検討されていくものと考えている。
 一方、先日のG7では、金融システムが強靱であることが再確認され、金融危機以降に合意された金融制度改革をしっかりと実行していくことが示された。
 シリコンバレーバンクの破綻や、クレディ・スイスの急激な信用悪化はALM管理の失敗、業績不振、内部統制等の問題であり、個社特有の事象であると理解している。そうした観点から言えば、必ずしもバーゼルIII等の規制変更や強化を前提とした議論が進んでいくわけではないと理解している。
 今回、米地銀で発生したことを振り返り、各金融機関における流動性リスク管理を含めたALM管理や個別行に対する監督の十分性の点検・確認は必要となると考えている。
 また、SNSやインターネット・バンキングの普及を背景としたデジタル・バンク・ランという新たな課題への対応も必要である。
 金融システムの安定は極めて重要である一方、過度な規制は、銀行与信姿勢の消極化や保有資産の圧縮を招く懸念もある。規制強化による金融システムの安定化と適切なリスクテイクによる円滑な信用供与のバランスが重要だと考えている。
 続いて、2点目のLGBT理解増進法案におけるマイノリティ対応である。LGBT理解増進法案の議論を通じて、多様性に関する理解が進み、すべての人が自己実現できる社会となっていくことは大変望ましい。金融機関としても持続的な成長をしていくためには、多様なバックグラウンドや価値観を持つ役職員が活躍できる環境を整備することが不可欠である。
 全銀協としても「ジェンダー平等を実現しよう」をSDGsの目標として掲げている。会員行向けに人権啓発を目的とした講演会の開催や、会員行の新入行員向けの啓発冊子「みんなの人権を守るために」を毎年発行し、LGBT+を含めた人権の諸問題への取組みを行っている。
 個別行の取組みになるが、みずほでは国籍や性別、性的アイデンティティに関係なく、多様な人材の成長と活躍を実現する「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」を推進している。具体的には、採用や昇進・昇格等といった人事運営において、差別的な扱いがなされないことを明示すること、人事制度、福利厚生等において同性パートナーを配偶者と同等に扱うことなど、すべての社員に同等の権利を保証している。また、社内外相談窓口の設置やファシリティ面での対応を進め、社員の理解、啓発のための研修も継続的に実施している。また、2021年度からは、LGBT+アライ企業として、同じ思いを持つ複数の銀行が連携し、「私たちから変えていく」をメッセージとして掲げ、動画の発信や多様性理解のための研修等を行っている。このような取組みを進めていくなかで、銀行界として共生社会実現を進めていきたいと考えている。


(問)
 1点目が、昨日、改正商工中金法が成立して民営化となった。以前からある議論だが、民業圧迫といった批判もあるなかで、全銀協としての見解を伺いたい。もう1点は、NGO団体から大手銀行に対して脱炭素の取組みで提案されていると思うが、そのなかで1.5度目標との整合性などが問われている。銀行としての取組みについて会長としてご見解をお願いしたい。
(答)
 1点目の商工中金の民営化である。商工中金は2022年3月に終了した中期経営計画により、事業性評価にもとづく融資等の新たなビジネスモデルは概ね確立され、同時にガバナンス強化も進めてきたと評価された。そのうえで、昨日、6月14日には改正商工中金法が成立し、公布から2年以内に政府保有株式が売却される見込みであると承知している。
 一方で、当面は「商工中金法の存置」や「特別準備金・危機対応準備金の維持」といった方針が示されており、財務や制度面で一定の政府関与は残るものと理解している。
 我々は、政策金融機関について、民業補完の原則のもと、民間金融機関との適正な競争環境と適切な役割分担が重要であると申しあげてきた。商工中金においても、直接・間接の政府関与が残るのであれば、民業圧迫回避や民間との連携、協業深化に配慮した制度設計が必要である。民間金融機関との意見交換の場の設定、商工中金からの客観的なデータ提供等により、適正な競争環境の確保、連携・協業の履行状況が確認できる枠組みが構築されるよう、丁寧な議論を求めていく。 同時に、今後、商工中金法を廃止して完全民営化する方針は維持されていると認識している。コロナ禍においては、官と民の金融機関が連携して、お客さまの資金繰り支援を行ってきた。足元では、アフターコロナへの移行が段階的に進んでいるが、資源・エネルギー価格の高騰やゼロゼロ融資の返済本格化等、お客さまにとって厳しい経営環境が続いている。
 完全民営化については、こうした経済環境に配慮しつつ、商工中金の新しいビジネスモデルの定着、特別準備金等の自己資本の状況、危機対応業務の実施状況等が慎重に見極められたうえで適切に判断されるべきものと考えている。
 2点目のNGOの株主提案に対する受止め方である。我々みずほフィナンシャルグループのみならず、他のメガグループや商社に対しても環境NGOから定款の変更要請がなされた報道については承知している。
 個別の提案へのコメントは差し控えるが、一般論で申しあげると、定款は会社の基本的事項を定めるものである。変更についてはその必要性および機動的な業務執行への影響を鑑みながら、各社で判断するものと考えている。
 一方、環境NGOが求める2050年炭素排出ネットゼロ実現は、持続可能性のある地球を次の世代につなぐために大変重要なものと認識をしている。
 銀行のGHG排出量の大宗は投融資を通じた排出、すなわちスコープ3が占めており、顧客企業のカーボンニュートラルへの公正な移行を金融面からしっかりと支えていくことが喫緊の課題である。個別行だけではなく、全銀協としてもカーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアチブを策定し、中期的な視点に立って、産業界、関係省庁とも連携しながら、お客さまの移行支援に向けた会員各行の取組みをさらに加速させていくための施策を講じている。具体的には、顧客の移行支援に向けたエンゲージメントの充実、円滑化、移行計画の妥当性や信頼性を判断するための評価軸・基準の整理である。
 また、移行に必要な資金をしっかりと供給するためのサステナブルファイナンスの裾野拡大、発展途上にある投融資を通じた排出量把握も含めた開示の充実、銀行のリスクを把握・管理するための気候変動リスクへの対応を進めていく。 これらの取組みを進めることで、社会経済全体の2050年カーボンニュートラル/ネットゼロへの公正な移行に貢献して参りたい。


(問)
 PBR1倍割れ問題についてお伺いしたい。銀行業界は公的インフラの側面も強い。銀行は、儲からないことをやめようとすると怒られるし、儲かることだけやろうとすると怒られるし、結局、投資家以外は銀行が儲かることを誰も求めていないのではないかという気がしてくる。PBR1倍割れをしても仕方ないのではという気もするが、どう考えるか。
(答)
 PBR1倍割れについてのご質問である。PBRは株価に対する一つの尺度で、絶対的なものではない。ただし、PBR1倍割れは、資本収益性の低さや投資家に成長性を感じていただけていないことの一つの現れであり、上場会社として真摯に向き合うべきと考えている。
 銀行の主要業務である預金、貸出、決済などの社会インフラとしての機能は、言い換えれば、幅広いお客さまにご利用いただいているということであり、利便性の向上、効率化、あるいは付帯ビジネスを通じて、収益性、成長性を高めるチャンスがあるとも言える。このように幅広くお客さまと接点を持つことができる業界は少ないと思う。
 公共性を有していることや、社会インフラであることをPBRの低さの言い訳にしてはいけない。
 一方で、銀行業には、業務範囲規制や資本規制など、銀行界特有のビジネス上の制約が課されているのも事実である。銀行は、社会インフラを担っているからこそ、お客さまの利便性を高める必要がある。
 政府には、銀行業を取り巻く業務範囲規制等の緩和を進めていただいているが、さらなる規制緩和や環境整備をお願いしたいと考えている。 お客さまに対するサービスの向上を通じて事業成長を続け、投資家の期待に応えるべく、努力を続けて参りたい。


(問)
 1点目は、仕組債販売で千葉銀行、武蔵野銀行が証券取引等監視委員会から処分勧告を受けている件についての銀行協会としての受止めと、協会として対応する方針が決まっていれば聞かせてほしい。
 2点目は、運用会社が投資信託の商品数を削減するという報道があるが、販売会社の銀行として、この動きについてどう考えるか。
(答)
 1点目、千葉銀行ならびに武蔵野銀行における仕組債の販売に関し、証券取引等監視委員会が金融庁に対する行政処分勧告を行ったことは承知しているが、個社の事例かつ正式な処分が出ていない現時点で、具体的なコメントは差し控えたい。ただし、会員行に関して行政処分勧告が行われるに至ったことは、大変残念に思っている。
 銀行界では、2022年10月に「お客さま本位の業務運営の徹底に係る申し合わせ」を実施した。これは、お客さまの知識、経験、資産背景、財務状況、リスク許容度、取引目的等に即した適合性の判断と、お客さまのニーズを踏まえた適切な商品・サービスの提供およびフォローアップの徹底する内容である。仕組債に限らず、リスク性商品の販売に当たっては、金商法や日証協の自主規制規則等の遵守はもとより、顧客保護、顧客本位の観点から、会員各行にはいま一度申し合わせやフィデューシャリー・デューティー原則に立ち返り、経営陣も関与のもと、自らの販売勧誘態勢を振り返り、適切な業務運営の構築に努めていただきたい。本日、この会見の前に、全銀協理事会のメンバーに対しても私からその旨を申しあげた。
 処分等については、繰り返しになって恐縮だが、現時点では金融庁から千葉銀行、武蔵野銀行に対しての行政処分が決定されていないので、今後、公表内容を踏まえて適切に対応していきたい。
 2点目は投信商品数の削減である。ご承知のことだと思うが、わが国の投資信託は、資産規模に対して商品本数が多く、米国と比較すると投資1ファンド当たりの運用資産残高が20分の1程度であることから、商品数の削減を図り、効率性を高める必要性が指摘されていると認識している。その削減については、基本的に投資委託会社、いわゆる運用会社の判断によるところだが、管理コストの削減や運用リソースの集中などを通じて、より高品質な運用商品の提供に繋がることが期待される。
 一方で、多様な投資ニーズに対する選択肢が狭まることや、既存商品の保有者には繰上償還の負担を強いることにもなるので、そうした観点にも十分留意しながら対応を進めるべきだと考えている。
 ご質問の販売会社である銀行の立場から申しあげると、投信商品数の削減のための繰上償還を行うに当たっては、投信委託会社が投信約款の規定に従い、受益者からの異議申立ての受付けを行うことになるので、販売会社としては、異議申立て手続きに係る受益者への通知や情報提供等の対応を行うことになる。
 また、繰上償還された商品の保有者に対しては、必要に応じて、代替商品の提案などのフォローを行うことも重要と認識している。そうした繰上償還に係る手続きの煩雑さ等はあるが、大事なことは、真に顧客の最善の利益に資する商品ラインナップを提供することである。これが販売会社に求められる役割であり、長期的なビジネス発展にも繋がる。いずれにしても、しっかりと顧客本位の立場から適切に販売会社としての役割を果たしていきたい。


(問)
 先月の新型コロナの5類移行による変化について伺う。移行から1か月経っていると思うが、それに伴う資金需要等の変化など、何か金融関連で変化を感じられている部分などがあれば伺いたい。また、銀行の窓口業務等でコロナ対策の簡素化など、窓口業務などでの変更点がもし出始めているのであれば、その点も併せて伺いたい。
(答)
 コロナの5類移行に伴う銀行への影響である。5月8日、政府が新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けを5類に見直した。これに伴い、銀行界も新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインを廃止して、現在は業務継続の観点に留意しつつ、各行が自主的な感染対策に取り組んでいる。
 銀行の店舗運営への影響について申しあげると、5月8日以降、全銀協としてマスクの着用は個人の判断に委ねるとした。また、お客さまに対して感染防止への取組みを求めるポスターも廃止しており、店舗はコロナ前の風景に戻りつつある。
 一方で、これはみずほ銀行のケースとなるが、5月の店舗への来店客数は、コロナ前の2019年度対比、おおむね半減が続いている。このトレンドは今年度も変わっていない。今後の推移はよく確認していく必要があるが、恐らくコロナ禍を経て、お客さまに一定程度、非対面チャネルでの銀行取引が浸透してきたのではないかと受け止めている。
 銀行界としても、お客さまに来店をお願いする必要のない銀行取引の拡充をはじめ、引き続き金融サービスの利便性向上を図っていきたいと考えている。同時に、銀行の職員も多様な働き方に変化していくことが重要であり、ポストコロナの時代にふさわしい業務運営に努めていきたいと思っている。
 また、資金需要の動向については、現時点で5類移行後のデータは全てそろっているわけではないが、これまでもコロナ関連の行動制限は段階的に緩和されてきているなか、2023年4月末の全国銀行の貸出残高は571兆円と、前年同月比24兆円増加している。サービス業を中心とする消費行動の活性化や売上拡大による運転資金の増加、設備投資への意欲向上により、資金需要も伸びているものと考えており、5月以降もこうした資金需要の底堅さは継続するものと考えている。
 引き続き、銀行界としては、資金繰りをはじめ、事業者等の支援に取り組み、日本経済のさらなる回復をしっかりと下支えして参りたい。


(問)
 今日も円安がやや進んでいるが、今後の為替、ドル円相場の見通しと為替が国内の金融環境や銀行経営に与える影響について教えてほしい。
 2点目、やや抽象的だが、今回2023年3月期の決算が出揃って、外債の含み損、売却損で結構苦しいところがあった一方、株式では含み益、売却益が出ていて、銀行の本業である顧客部門と、それに付随する市場部門の重みが増しているのかなど感じる決算だった。今後、顧客部門と市場部門のバランスをどう考えていくべきなのか、考えを聞かせてほしい。
(答)
 本日の会見が始まる前のドル円相場は、141円に到達していた。先行きについて、全銀協会長としてのコメントは差し控えるが、経済への影響等について個人的見解を申しあげる。
 昨年秋には一時150円台まで円安が進行したが、年初にかけて120円台後半まで円高が進んだ、かなりボラティリティが大きい期間だった。足元は少し落ち着いているが、FRBの利上げ継続で日米の金利差が拡大し、再び円安に転じている。日本銀行による金融緩和策の早期修正観測が和らいでいることも円安圧力になっていると思う。為替と日米の金利差は相関関係が強い状況が続いている。
 今後については、足元の米国経済が依然として底堅く推移している一方で、先般の銀行破綻など、先行きの不透明感も残る状況である。今後の米国経済は、FRBによるこれまでの金融引締め策の影響で下押し圧力がかかることが想定される。金融引締めの効果を見極めるためのFRBの利上げ停止は、一定程度、ドル高圧力を緩和させるものと考えている。
 また、仮に日本銀行が金融政策を修正し、日本の長期金利が上昇すれば、日米金利差が縮小し、為替が円高に振れる可能性がある。
 円高による日本経済への影響は、プラス、マイナス二つの側面がある。プラス面は、エネルギーや食料をはじめとする輸入品価格の抑制であり、家計負担の軽減や企業の投入コストの減少に繋がる。
 一方でマイナス面は、製造業を中心とする輸出産業の価格競争力の低下である。サービスの輸出に当たるインバウンド需要も、円高が進行すれば伸び悩むリスクがある。なお、みずほのシンクタンクによるマクロモデルの試算では、10円の円高は日本の実質GDPを0.2%程度押し下げる、という分析もある。
 いずれにしても、為替レートの急激な変動は企業行動を慎重化させる要因になるので、望ましくないことは確かである。引き続き、為替動向含め経済動向、ならびにお客さまのビジネスへの影響を注視して参りたい。
 2問目は、顧客部門と市場部門のバランスをどう考えるかというご質問である。一般論として回答するが、銀行ビジネスは金融仲介機能やコンサルティングを通じて、お客さまへのサービスを提供することで対価をいただくことが基本であると認識している。一方で、ALM運営や余資運用などの市場部門の機能は、顧客部門のビジネスと密接に関係しており、どちらも重要であることは言うまでもない。
 また、債券ポートフォリオを中心とする市場部門の収益は、顧客部門における貸出ビジネスなどが不景気で低調なとき、市場金利の低下を受けて好調である傾向があるので、顧客ビジネスのヘッジ効果が期待できる。景気の良し悪しに依らず、財務収益を安定させることは、我々銀行の役割である金融仲介機能を発揮するために、非常に重要と考えている。
 2022年度は、外国債券を中心に債券投資には苦戦したが、一方で、貸出や非金利ビジネスは堅調で、顧客部門と市場部門の収益の分散効果は一定程度機能していたと考えている。
 また、各行の債券を含めた有価証券投資は、厳格な流動性管理のもと、リスク量の上限や損失限度などのリスク管理のフレームワークのなかで、適切に運営されていると認識している。
 加えて、仮に債券をはじめとする有価証券投資の評価損が全て実現損になったとしても、日本の金融機関は十分な資本を有しており、リスク許容度を超えた状況には至ってないと認識している。
 いずれにしても、各行のビジネス戦略やリスク許容度を踏まえたうえで、適切なリスク管理のもと、顧客部門と市場部門のリスク・リターンのバランスを考えていくことが重要と考えている。


(問)
 生成AIの活用について伺う。各行で取組みが進んでいるかと思うが、銀行業務にどのような変革をもたらすことを期待されるか、また利用のあり方についてご見解を伺いたい。
(答)
 銀行界はこれまでもAI-OCRによる帳票の読取りや、AIスコアリングサービスなど、さまざまな場面でAIを活用している。
 一方、ご質問の生成AIであるが、近年のAIの技術的進展は非常に速く、また大きな話題になっている。常に最新のAIの技術や規制動向を把握し、その活用方法を模索していくことが重要と考えている。
 例えば、昨年11月に公表されたChatGPTについて言えば、それが生成する文章の自然さに非常に驚かされた。今ではスマホのアプリでも利用可能になるなど急速に普及しており、広くなじみのあるAIチャットサービスになりつつある。
 今後、ビジネスシーンにおける生成AI実用化の局面では、ChatGPTのようにインターネット上の膨大な情報を学習する汎用型ではなく、特定領域の専門知識や個別企業の社内データを学習する特化型が主力になっていくと考えている。これによって、生成AIがさらに精度高く人間を補助してくれる存在になるのではないか。
 銀行界においても、より中核的な業務、例えばお客さまへの適切な運用提案や各種の取引申込みの自動化から、金融取引の不正検知とそれに対する警告発信に至るまで、幅広い場面で活用されていくことが期待される。
 個別行の話になるが、みずほ銀行においても、稟議書や契約書の作成、社内での照会対応、金融に関するデータ収集など、あらゆるシーンを想定し、対話型AIの活用を検討している。セキュリティ面など安全に利用できる環境整備はもちろんのこと、全社員が利用できるように準備を進めている。
 一方で、AIの活用にはさまざまな懸念点がある。例えば、機密情報の漏えい、誤った情報のまん延、プライバシー侵害や犯罪への利用などが挙げられる。こうした課題に対応するため、わが国においても、政府において5月よりAI戦略会議が開かれ、各論点についての議論が開始されている。
 銀行界として、利活用のルールづくりの動向をしっかりと踏まえながら、各会員行において適切にAIの活用を検討することが必要である。これにより、お客さま対応や金融サービスの高度化を通じて、さらなる顧客満足度の向上に努めて参りたい。


(問)
 先日、改正資金決済法が成立し、日本でもステーブルコインの新たな規制の動きができた。直接的にはすぐ事業に影響などはないと思うが、既存のものではないステーブルコインなどの規制の動きについて、どうご覧になるか。受止めについて教えてほしい。
(答)
 今年6月に施行された改正資金決済法についてのご質問である。今後、わが国において、ステーブルコインを発行する事業者の登場や、海外で発行されたステーブルコインが流通することが想定される。
 ステーブルコインの基盤となるブロックチェーン運営にはさまざまな仕組みがあるが、ネットワークの信頼性や決済プロセスなどの円滑さなど、法定通貨や他のデジタルマネーに比べて、発行体や利用者のメリットが向上する可能性はあると考えている。活用シーンとしては、まずは限定的な領域においてメリットがあるコイン、例えば、地域活性化の観点から特定の地域で利用できる固有のコイン、あるいはメタバース空間でのNFT売買等のスムーズな決済手段など、が考えられるのではないか。
 今後、ステーブルコインが広範囲な資金決済手段となるかどうかは、こうした試行錯誤を通じて、利便性の高いユースケースが見いだされるかどうか次第であると考えている。
 他方、銀行は長い歴史を通じて、預金を中心とした決済サービスの改善や改良を行ってきた。その結果、広く世界に行き渡った安心安全で利便性の高い決済インフラを構築するに至っている。また、デジタルマネーによるキャッシュレス決済手段は、スマホのメッセージサービス等を利用した手軽さや、実質的には銀行振込みに劣らないネットワークから、近年着実に普及している。
 銀行界としては、ステーブルコインのみならず、引き続き預金、キャッシュレスなどの既存の決済サービスについても、それぞれの特徴を踏まえて利便性や安全性の向上に努めて参りたい。


(問)
 日本銀行の金融政策について伺う。先ほど政策修正の話があったが、今回の金融政策決定会合では、現状の金融緩和策の維持を決めるとの見方が優勢かと思う。現在の緩和策について、副作用も踏まえた評価を教えてほしい。
(答)
 金融政策は日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてのコメントは適切ではないため、個人の見解としてお答えする。
 足元の消費者物価指数は、前年比2%を超える状態が続いているものの、輸入物価上昇の影響が大きく、日本銀行が賃金上昇を伴う物価目標の持続的、安定的な達成が見込まれる状況であると判断するに至っていないと理解している。そのため、緩和的な金融政策が継続されているものと受け止めている。
 一方、昨年見られたように、海外金利の上昇などから、円金利に強い上昇圧力がかかる局面においては、イールドカーブ・コントロールにより円金利の上昇が抑えられることで、イールドカーブが歪むなどの債券市場の機能低下も生じた。また、内外金利差の拡大による外国為替市場の値動きの不安定化も懸念されている。
 加えて、金融界にとっては、異次元金融緩和により、資金収支および運用環境の悪化など、収益に相応のマイナスの影響があったことも事実である。
 今後、現状の異次元金融緩和が長引く場合は、これらのいわゆる副作用が金融機関および金融資本市場を通じ、実体経済に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。
 4月の決定会合では、過去25年にわたる金融緩和政策の多角的レビューを今後1年から1年半をかけて実施する旨、公表されている。日本銀行におかれては、金融緩和の効果と副作用のバランスを見ながら、レビュー結果が出る前であっても、必要な金融政策修正は実行されるものと理解している。市場との円滑なコミュニケーションと適切な金融政策運営がなされることを期待している。


(問)
 1点目は、一部の大手行で振込手数料の引上げが今後実施される予定だが、銀行業界として手数料の引上げをどのように捉えていているのか教えてほしい。
 2点目は、先ほどの物価の質問との関連で、日本銀行が賃金と物価の持続的な上昇を目指すなか、賃上げの現状と今後の見通しについてのお考えを聞かせてほしい。
(答)
 1点目は、手数料のご質問であるが、手数料の設定はまさに個別行の戦略や経営判断であり、会長としてのコメントは差し控え、一般論として述べさせていただく。
 手数料設定の基本的な考え方は三つある。一つ目は顧客にとってのサービスの価値、二つ目が競争環境、三つ目が必要なコスト、これらを踏まえて価格決定されるものである。その商品やサービスがお客さまにとってどれだけ大切なものか、お役に立っているか、あるいは他の銀行や事業者が同等のサービスを提供できるかどうか、こうした点も含め、その価値が決まってくる。
 また、提供する商品やサービス自体が不変でも、例えば、デジタル技術の進展や社会全体の働き手不足などのコスト構造に影響しうる環境変化によっても、その価値は変わる。
 これらを踏まえて、どのような手数料設定をするかは、まさに個別行の事業戦略そのものである。
 なお、ペーパーレス化や電子化を推進し、社会全体の業務効率化を図る観点から、例えば、紙の手続に係る手数料を引き上げ、電子的な取引に係る手数料を引き下げる対応も戦略上取りうる選択肢の一つと考えている。
 2点目は、賃上げの状況や今後の見通しについてである。
 失業率は、新型コロナ感染が急拡大した2020年に一時3%を超えたが、足元では2%台後半で推移している。コロナ禍で打撃を受けていた外食や旅行、娯楽等の需要が正常化に向かうなか、雇用者数は緩やかに増加しており、人手不足感が強まっている。当面はこうした対人サービス業の雇用増が見込まれるほか、中長期的には人口減少や高齢化により労働需要が逼迫するなか、デジタル化を背景に、特に医療福祉や情報通信業などの業種で労働需要の増加が予想される。
 賃金については、人手不足や物価高を背景に緩やかに上昇しているが、物価上昇には追い付いていない。それでも今後の賃金については、2023年の春闘賃上げ率が3%台後半と例年を大きく上回る結果になったことを受け、次第に伸び率を高めていくと考えている。
 ただし、中小企業はコスト上昇の影響で収益が圧迫されており、賃上げ余力が十分ではない企業も多いと承知している。持続的な賃金上昇のためには、中小企業を含む企業の収益改善や成長力の強化が不可欠と考えている。
 他方、個人消費は、緩やかに回復している。コロナ禍で大きく減少していた外食や旅行などの対人接触を伴うサービス消費が、全国旅行支援などの政策効果もあって持ち直しており、消費の回復を牽引している。春闘賃上げ率が高まったことや5月に新型コロナの感染症法上の分類が変更されたことに加え、夏のボーナスの増加も予想されることから、引き続きサービス消費を中心とする回復が期待される。持続的な賃金上昇が個人消費の強まりや企業の業績向上につながる好循環を期待している。