2023年7月13日

加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)

辻専務理事報告

 初めに、事務局から2点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、お客さま本位の業務運営のさらなる徹底について申し合わせを実施した。これは、当協会の会員が提携先の証券会社にお客さまの紹介を行う、紹介型仲介業務に関して行政処分を受けた事案を踏まえ、お客さま保護の観点から、改めて適切な体制整備や業務運営の確保について点検するとともに、お客さま本位の業務運営をさらに徹底することを申し合わせたものである。
 2点目は、お手元の資料のとおり、2023年7月がわが国最初の銀行である第一国立銀行が開業してから150周年に当たることを機に、記念のロゴマークを制定した。カラフルに変化して広がっていく輪をモチーフにすることで、銀行が多様な価値観に寄り添いながら、社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に向けて歩んでいくという想いを表現している。

 

会長記者会見の模様


 まず、6月29日からの大雨および7月7日からの大雨による災害などにより被害を受けた皆さまへ、心よりお見舞いを申しあげるとともに、亡くなられた方に謹んでお悔やみを申しあげる。
 被災地域が一日も早く復旧を果たすとともに、被災された方々が通常の生活を一刻も早く取り戻すことができるよう、銀行界としても、払い出しや融資に関わる迅速で柔軟な対応を行うなど、しっかりと支援して参る。


(問)
 まず1点目、今年は銀行の開業150周年の年に当たるが、次の100年、150年を見据えて、銀行界としてどのように社会経済に貢献していく考えか。この期間、銀行がどう移り変わっていくかも含めてお考えをお聞きしたい。
(答)
 まず、これまでの150年間の銀行の歩みを簡単に振り返らせていただく。
 第一国立銀行が開業した明治初期は日本の近代化の真っただ中であり、鉄道・紡績といった産業の勃興を、銀行は資金供給面で支えていた。
 第二次世界大戦後の復興でも、産業資金の供給を通じて日本の高度経済成長の実現に貢献した。
 高度経済成長期は、旺盛な資金需要に応えるだけでなく、給与振込やATMサービスの開始など、個人預金を中心とした資金吸収に力を入れた。
 1990年代の金融自由化の流れでは、銀行による投資信託・保険の窓口販売の解禁等、金融仲介機能を発揮できる領域が拡大した。
 そして、直近10年は、社会全体のデジタライゼーションが進む中、銀行もデジタル領域でお客さまの利便性や業務効率化を追求してきた。
 このように、銀行の果たす役割はその時々の経済・社会の情勢に応じて変わってきたが、銀行の社会的使命、すなわち金融仲介機能や経営課題に対する相談や提案、今でいうコンサルティング機能を通じて経済・社会の発展を支えること、あるいは安心・安全で利便性の高い金融インフラを提供することは変わっていない。また、これらの機能を発揮するには、お客さま・社会からの信用・信頼が不可欠であることも変わらないと思っている。
 ご質問いただいた、次の100年、150年、銀行界はどう貢献していくのかということだが、これはなかなかお答えするのが難しい質問である。
 そもそも、今の銀行業がこのようなかたちで発展することを、150年前の人々が予想することも難しかっただろう。150年後の未来では、BaaSが進み、企業や個人が銀行の役割機能そのものを担っているかもしれない。
 銀行は、先ほど申しあげたような社会的使命を忘れずに、変わりゆく時代の要請にしっかりと応えていくことが大切である。そのためには、社会や経済が抱える課題に対して、先行的に見識と知見を深めていくことが必要である。
 例えば、一昔前までは、財務コンサルティングだったものが、今では気候変動対応に関わるコンサルティングが求められている。今後は、生物多様性、人権問題といったように、求められる領域は時代とともに変わっていく。
 4月の会見で、私は「明るい未来につなげる1年」にしたいと申しあげた。明るい未来につなげていくためにも、国民・社会の信用・信頼を得たうえで、日本の社会・経済を成長軌道に乗せていく支え手としての役割を果たして参りたい。


(問)
 2点目は、手形と小切手の全面電子化について伺う。政府は2026年に手形の利用を廃止して、小切手も含めて全面的な電子化を進めるとしているが、直近の調査結果を見ていると、その進捗についてはまだ見通せない状況もあると思う。現在の状況を銀行界としてどのように捉えているか。必要な施策は何だと考えているか。
(答)
 全銀協では、産業界および金融界の事務負担・コスト削減や、リスク軽減の観点から、手形・小切手の全面的な電子化に取り組んでいる。また、定例的に「手形・小切手機能の『全面的な電子化』に関する検討会」を開催し、産・官・学・金の関係者間で、手形・小切手の利用実態や全廃に向けた施策のあり方、進捗について検討・協議を行っている。なお、2022年の流通枚数は、利用調査を開始した2018年比48%の削減を実現している。
 直近6月30日の検討会の内容を説明させていただくと、改めて、紙の手形・小切手に関わる業務プロセスは大変煩雑で、これを電子記録債権やインターネット・バンキングに切り替えると、社会全体で年間約400億円のコスト削減効果が見込まれるという調査結果が出ている。実際に手形利用者の8割以上、小切手利用者の6割以上が利用をやめたい意向をお持ちであることも確認されている。また、一部のやめたくない利用者も、長年の習慣を変えることへの抵抗感や、やめる必要性を感じない、電子的な方法の方が手間が増えそう、といった漠然とした抵抗感をお持ちの方が多いという結果だった。
 一方、実際に電子化をした利用者からは、手間・コスト・リスクが減った、電子化は思った以上に簡単だった、非効率な手形に戻る気はない、などの前向きな声が寄せられており、改めて電子化のメリットをしっかりご理解いただくことが重要だと実感している。
 紙がある以上、利用者、金融機関双方に、持込み、事務処理、物流、保管に関わる人手がかかる。日本の人口減少を背景とする人手不足経済への対応は、わが国共通のアジェンダである。4月から開始している税・公金のQR納付同様、本件はしっかりこだわってやっていきたいと考えている。
 6月に閣議決定された政府の新しい資本主義のグランドデザインにも、約束手形・小切手の利用廃止に向けたフォローアップを行うことが盛り込まれている。こうした政府方針も踏まえ、2026年度末までの全面電子化に向けた取組みを加速させる必要がある。全銀協を含む金融団体、所属する金融機関はもちろん、経済団体、関係省庁が連携し、全国各地における事業者が集まる場などで電子化のメリットを訴えかけて参る。


(問)
 1点目は、女性活躍推進について。銀行界では経営層に女性の数が少ないと言われているが、銀行界としてどのように取り組んでいくのかお考えをお聞きしたい。
 2点目は、株主総会関連で、銀行の役員やOBの方が取引先の社外取締役に就任するに当たって、議決権助言会社が独立社外取締役としての独立性に疑義があるという指摘をしているケースがあるが、これについてどう考えるか。
(答)
 1点目は、女性の活躍推進と女性の役員数について。他の企業同様、厳しい競争環境下で、銀行が生き残っていくためには、多様な意見を経営の意思決定に反映させることが大変重要であり、不可欠だと思っている。そのためには、多様な人材が経営層として組織の中核で活躍することが必要である。
 ご指摘の女性活躍については、会員各行で取り組んできた結果、足元、係長や課長を中心に女性管理職が誕生し、活躍する場面も増えてきている。一方、上場銀行の全役員に占める女性役員の割合は、2020年が9.2%、2021年が10.5%、2022年が11.4%と、着実に増えているが、女性版骨太の方針2023で掲げられている「2030年までに女性役員の比率を30%以上にする」という目標には、未だ届かない状況だと認識している。
 先ほど申しあげたように、目標の有無にかかわらず、多様な意見の反映は非常に重要な課題である。会員各行でも女性管理職に対して役員登用に向けた研修や経営層と直接対話する場を設ける等、女性役員育成に向けた取組みを進めている。
 個別行の話で大変恐縮だが、みずほにおいても経営レベルの意思決定層に多様性を確保する目的で、2022年度から役員自らが女性経営リーダー候補者のメンターを担当するなど、経営トップがけん引するかたちで女性活躍を推進している。多様な人材の活躍は組織の持続的発展に大きく寄与するものであり、今後もこの流れを加速させていきたい。
 2点目は、銀行役員の社外取締役について。実際に多くの銀行出身者が経営ノウハウや財務に関する知見などを発揮して、企業のガバナンス強化に貢献していることも事実である。
 ご指摘の件を改めて整理させていただくと、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードにおいては、プライム市場の上場企業には3分の1以上、その他の市場の上場会社には2名以上の独立社外取締役の選任が求められている。また、独立性判断基準の策定・開示が求められており、各社はこの基準にもとづき、独立社外取締役を選定していると理解している。
 大事なことは、独立社外取締役の選定において、その独立性や資質をしっかりと説明してステークホルダーの理解を得ること、そしてガバナンス強化に実際に繋げていくことだと思っている。
 ご指摘のように銀行の役員やOBが取引先の社外取締役に就任する場合、独立性の弱さを指摘されることもあるが、必ずしもその事実だけで独立性に問題があるわけではないと認識している。


(問)
 千葉銀行・武蔵野銀行への行政処分を受けて申し合わせが出されているが、申し合わせとはどういう意味があるのか。基本的な質問だが、果たして効果があるのか。
 もう一点、適合性の原則と問われたときに、お客さまの知識や経験、資産のキャパシティなど、この千葉銀行・武蔵野銀行の案件においてもお客さまに対する適合性が問われているが、問われるべきは売る側の適合性ではないかと思う。売る側に、果たして知識はあるのか、経験はあるのか、商品を扱っていいのかという、売る側の適合性原則がより問われてもよいのではないかと思うが、いかがか。
(答)
 1点目は、申し合わせについて。先月、会員行に対して行政処分勧告がなされたことを受け、私から理事会メンバーに対して販売態勢の点検と適切な業務運営の構築をお願いした。今般、行政処分内容が公表されたので、その内容を踏まえ、改めて会員各行の取組みを促すために申し合わせを行ったというのが背景である。具体的な内容については、お手元に配布しているので、後ほどご参照いただければと思う。
 会員各行には、今回の行政処分内容も踏まえて、申し合わせやFD原則にもとづいて、改めて自行の販売態勢や業務運営について振り返り、経営陣の関与のもと、さらなる顧客本位の業務運営の徹底に取り組んでもらいたいと考えている。
 また、全銀協としても申し合わせを行うだけにとどまらずに、今後、例えば会員行における取組事例の共有や勉強会等を実施して、会員各行の取組みをしっかり後押ししていきたいと考えている。
 2点目は、販売会社の適格性について。販売会社の適格性については、法令等に則った当初の登録審査と、その後の当局からの監督やモニタリングを通じて、スクリーニングされていると理解している。
 そのうえで、法令要件を充足するだけではなく、各販売会社が創意工夫を凝らして顧客本位の業務運営を目指す、これがFD原則の趣旨であると私は考えている。
 今般、FD原則についても一部法制化されるという動きがある中で、これまで関係者間でこのあり方が議論されてきたが、一つの考え方として、販売会社として充足すべき基準や実施事項を網羅的に策定し、それにもとづいて適格性の判定を行うという考え方もあると思う。すなわち、基準や実施事項ごとに一つずつ適格・不適格を判定し、総合的に適格性を整理するという考え方であるが、仮にそうした場合には、画一的な基準や判定となり、それをクリアすることが目的化してしまうこともある。販売会社の創意工夫が失われて、形式的な対応に収斂するおそれがあるのではないかと思う。
 したがって、FD原則のもと、販売会社が顧客本位の業務運営を目指して、例えばFDをベースにしながら分かりやすい説明資料の作成や、手続の簡素化など、そうした工夫を凝らして切磋琢磨する、それによりお客さまが選別を行う、こうしたことを繰り返しながら、全体としてFDを底上げしていく、これが望ましいあり方だと思うし、今我々が求められているものではないかと思う。
 その意味では、各金融機関においてもFD基本方針の策定や取組状況等の開示が進められている。金融庁からも、それらを開示した金融機関のリストが公表される等、各金融機関のFD取組状況の見える化が進んでいる。金融機関としては、お客さまから信頼され選ばれるよう、引き続き顧客本位の業務運営の確立と、その見える化に向けた努力に取り組んでいく必要があると考えている。


(問)
 2点質問する。1点目は、マネロン対策の強化に関連して銀行界でどう取り組んでいくかということと、マネロン対策共同機構の準備状況についても併せて教えてほしい。
 2点目は、2023年10月にインボイス制度がスタートする。企業、特に中小企業への影響はかなり大きいと思うが、銀行界としてどのようにサポートされる予定か。
(答)
 1点目は、マネロン対策について。足元では、各行が2024年3月期限のマネロンガイドラインにもとづく態勢整備に取り組んでいるところである。
 また、全銀協では、これまでの会見でも申しあげているとおり、2023年1月、マネロン対策共同機構を設立し、2024年度からの業務開始に向けて準備を進めている。
 ガイドラインに対する態勢整備については、すでに全国地方銀行協会や第二地方銀行協会からも態勢整備のポイントが発信され、各行、年内を目途に規程の整備などが完了していくものと承知している。
 一方、マネロン対策業務は、規程のみならず、実際の運用、実務が極めて重要である。
 マネロン対策共同機構で準備を進めている業務高度化支援サービスでは、実務運営上の参考情報やFAQの提供、研修の実施、ヘルプデスクの設置等を通じて、各行のマネロン対策業務をしっかりと支援していく予定である。もう一つのAIスコアリングサービスと併せて、業務の効率化・高度化・実効性向上につながるよう、各行の課題・悩みごとをヒアリングしながら、丁寧に準備を進めているところである。
 マネロン対策は国際的なコンセンサスである。わが国全体の経済活動に関わってくる問題でもあり、引き続き対応力強化に取り組んで参る。
 2点目は、インボイスについて。中小企業を含む事業者は、2023年10月の制度開始に向けて、必要な要件が記載されたインボイスを交付・保存できるようにする必要がある。
 全銀協では、会員銀行の8割以上がポスターの掲示やリーフレットの配布・送付などを通じて、取引先に対する制度周知に取り組んでいる。加えて、そのうちの半数以上の会員銀行が複数回にわたって取引先向けのセミナーを開催するなど、丁寧かつ多面的に事業者のサポートを行っている。
 実際に、みずほ個別行に寄せられるお客さまからの照会も、足元では制度そのものに関する照会は随分減り、インボイスの発行・保存・記録などの具体的な実務に関する照会が中心になってきている印象である。
 また、制度開始後を見据えた企業の業務効率化等の支援策の検討も銀行界として進めている。具体的には、全銀協・全銀ネットにおいて、関係省庁等とも連携し、電子インボイスと全銀EDIシステムの連携による企業の売掛金消込み業務の効率化の実現に向けて取り組んでいる。
 引き続き、10月の制度開始、その先の業務効率化・生産性向上に向けてしっかりサポートして参りたい。


(問)
 昨年度、銀行窓販で外貨建て保険の販売が増えたようである。外貨建て保険は為替相場が円高に振れると元本を毀損するおそれがあって、その際には顧客から苦情が増えることもあり、過去にもそういったことがあったかと思う。当局は、仕組債もそうだが、この外貨建て保険についてもリスクが高い金融商品だとして厳しい目を向けているが、販売に当たって、業界として顧客本位の業務運営に関わる態勢整備は進んでいるか。
(答)
 ご指摘のとおり、大手行および地銀による外貨建て一時払い保険の販売額は、2022年度上期で1.2兆円と、2021年度下期比で約7割増加している。これは欧米の金利上昇による利回りの改善が要因であると認識している。
 外貨建て一時払い保険はリスク性商品であり、顧客本位の業務運営にもとづいて、顧客の最善の利益に資する商品提供が行われなければならない。
 したがって、これまでも会員各行においては、FD原則や2022年10月の申し合わせ等をしっかりと踏まえ、顧客本位の業務運営にもとづく適切な販売態勢の整備を進めていると認識している。
 本日、お配りしたように、証券会社への紹介型仲介業務に関しても、さらなる申し合わせを行っているが、そうしたことも含めて不断の取組みとして、自律的な見直しや高度化を図り、顧客本位の業務運営の徹底に向けた努力を重ねていくことが必要だと考えている。
 足元では、全銀協の相談窓口に寄せられる外貨建て保険の苦情件数に大きな増加は見られないが、必ずしも販売直後に苦情が顕在化するとは限らないので、引き続き状況は注視して参りたい。
 全銀協は、生命保険協会とも連携し、苦情抑制に向けた連絡会も実施している。こうした取組みも通じて、引き続き会員各行の販売態勢整備を後押しして参りたい。


(問)
 1点目、日本銀行の政策運営について。植田和男総裁が就任して7月9日で3ヶ月経つが、現在に至るまでの政策運営をどう評価しているか。市場機能の低下や円安の急激な進行などの副作用に配慮して政策を修正する必要性は高まっていないか。
 2点目、CBDCについて。ECBが検討しているデジタルユーロの発行枠組み規則案を欧州委員会が先日公表したが、日本でも引き続き議論が続いている。銀行界として、どうCBDCの発行に関与していくのかについて教えてほしい。
(答)
 1点目は、金融政策運営の評価について。金融政策は日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてのコメントではなく、個人の見解としてお答えする。
 現在、金融緩和政策が継続されていることについては、足元の消費者物価指数は、前年比2%を超える状況が続いているものの、輸入物価上昇の影響が大きく、日本銀行が金融政策変更の判断基準である「賃金上昇を伴う物価目標の持続的・安定的な達成が見込まれる状況」には至っていないため、と理解している。
 植田総裁は講演や記者会見などの情報発信、あるいは直接お話した際も、現状の金融政策の考え方について、賃金・物価動向の見極めが重要である点を含め、一貫して丁寧に説明をしておられる。国際会議等でも時にユーモアを交えるなど、国内外の市場関係者の心も掴んでいるのではないか。
 今後、過去の金融政策を検証する「多角的レビュー」を通じて、金融政策運営に関する日本銀行の考え方や方向性を示すことで、政策の透明性の確保が図られるものと考えている。
 一方、「多角的レビュー」の結果前であっても、必要に応じ、金融政策の修正および転換が行われるものと理解している。
 2点目はCBDCについて。これまでの会見でもコメントしてきているので、簡潔にお話しする。
 6月28日に欧州委員会がデジタルユーロに関するEU規則案を公表した。かなり詳細な規則が記載されている印象だが、Q&Aでは「最終判断は、早くとも2028年以降」とされており、今後の議論次第では変更もあるのではないかと見ている。わが国でも財務省や日本銀行を中心に検討が進められているが、銀行界としては銀行経営などに関わる主な課題は三つあると思っている。
 一つ目は、信用創造や金融仲介機能への影響、二つ目は、既存のキャッシュレス決済手段との相互運用性の確保・共存、三つ目は、コスト負担と経済合理性の確保である。
 日本は、ATMをはじめ現金流通網が全国規模で整備されている。国民のうち、成人の口座保有率は97%以上と非常に高く、全銀協調査における、口座振替を含むキャッシュレス比率は約6割で、他の先進国と同水準まで高まっている。このような日本においてCBDCをどう位置付けるのか、どのような意義・目的で取組みを進めるのか。官民でコンセンサスをしっかり得て進めるべきと考えており、引き続き、銀行界も主体的に検討に参加して意見発信を行って参る。


(問)
 発表された銀行開業150周年のロゴについて、このロゴマークを全銀協もしくは会長としてどのような使い方をしていくのか伺う。
 銀行開業150周年ということはみずほ銀行にとっても150周年になると思う。150周年は7月20日だと思うが、みずほ銀行として150周年イベントを計画されているのか。
(答)
 1点目は、銀行開業150周年ロゴの活用について。各会員行が使えるようにロゴを提供して、会員行の判断で名刺に入れる等を想定している。また、これからの全銀協のイベント等でも利用していきたいと思っている。先ほど申しあげたように、150年間、銀行は日本の経済・社会の発展にしっかり貢献してきたという想いがこのロゴに込められている。100年後、150年後、銀行がどのようなかたちになるか分からないが、銀行として変わっていくものと変わらないものがあると思う。どのようなかたちでお客さまに金融サービスを提供するかという接点等は変わるかもしれないが、信頼や信用は、これまでも、またこれからも銀行にとって大事である。そのような意味を込めたロゴであり、会員行にはぜひ使ってもらいたい。
 2点目は、みずほの150周年イベントについて。全銀協会長会見につき、個別行みずほの取組みについて、この場で紹介することは適切ではない。みずほフィナンシャルグループとしては重要な節目だと思っているので、何らかのかたちで発信していくと思うが、この場ではこれ以上のコメントは差し控える。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、150周年の関連で、冒頭、100年先、150年先という話があったが、もう少し足元のところで、銀行界として今どういうところに取り組んでいく必要があるのか教えてほしい。
 2点目は、銀行業界で人材の流動性が高まっているのではないかと感じている。特に中途採用について、業界としてどういう人材が求められているのか、どういうところを強化したいと考えているのか、見解をお聞きしたい。
(答)
 1点目は、銀行界が今やるべきことについて。4月の就任会見で、2023年度の基本方針として、「社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に繋げる1年」を掲げ、三つの柱として、「経済の持続的成長と社会的課題解決への貢献」、「デジタル技術進展を踏まえた安心・安全で利便性の高い金融インフラの構築」、「金融システムの健全性・強靱性向上」を掲げ、それぞれの具体的な項目に取り組んでいる。
 例えば、「経済の持続的成長と社会的課題解決の貢献」という観点では、「貯蓄から投資」の実現に向けた取組みが挙げられる。2024年1月から新しいNISA制度が開始されるが、銀行界として、この制度改正の機を捉え、NISA制度のさらなる普及・拡大に一層力を入れて取り組んでいく。
 「貯蓄から投資、資産形成」の裾野を広げるという観点でも、幅広く、豊富な顧客基盤を有する銀行界が担う役割は非常に大きいと感じている。
 足元は、先ほどの質問にもあったように、リスク性商品の提供に関して、会員行が行政処分を受ける事案も発生しているが、改めて、顧客本位の業務運営に立ち返り、金融経済教育のさらなる充実なども含め、銀行に求められる役割をしっかりと果たし、国民の安定的な資産形成に貢献して参りたいと考えている。
 2点目は、銀行界の中途採用について。日本の少子高齢化による新卒の減少や昨今の転職マーケットの拡大により、銀行のみならず、全ての日本企業の採用戦略が大きく変わっている。銀行界のキャリア採用では、コロナ禍で加速した銀行業務のデジタライゼーションの動きに対応すべく、デジタル技術に精通している人材に対する需要が高まっている。また、気候変動問題の対応等、ESGに関連した専門知識を持つ人材の確保に向けた動きも強まっている。
 銀行が優秀なキャリア人材を確保して活躍してもらうためには、採用戦略だけでなく、入社後の柔軟な処遇や、入社年次にとらわれない登用を可能にする等、制度や体系の整備も必要である。
 また、ハード面だけでなく、キャリア人材が組織や既存の社員に溶け込み、最大限のポテンシャルを発揮できるような、多様性を尊重する企業文化の醸成も必要だと思っている。
 経営戦略と連動した採用戦略を遂行していくことは当然だが、人手不足の中で持続的な成長を続けていくには、ますます人的資本経営の巧拙が問われてくると考えている。


(問)
 1点目は、ゼロゼロ融資の返済がこの夏に本格化するが、こういった点も含めて、足元の中小企業の資金繰りをどのように見ているのか。また、銀行界としてどのように対応していくのか。
 2点目は、2024年に新紙幣が発行されることになったが、今後、新紙幣に対応したシステム開発、コスト負担などが考えられる。こういった銀行界への影響をどのように見ているか。
(答)
 1点目は、ゼロゼロ融資、中小企業の資金繰り支援について。4月の会見で申しあげたとおり、銀行界は中小企業の資金繰り支援に最優先で取り組んでいる。その結果、2023年5月末の全国銀行の貸出残高は571兆円となり、引き続き増加傾向にある。
 中小企業の経営環境は、コロナ禍による経済活動の制約は解かれた一方で、物価高や人手不足により、依然として厳しい状況が続いている。東京商工リサーチによれば、2023年6月の企業の倒産件数は770件と、15ヶ月連続で前年同月を上回っており、水準もコロナ前に戻っている。補助金などの公的支援が段階的に縮小されており、加えて人手不足や物価高といった事業環境変化の影響が顕在化していることが、倒産の増加に繋がっていると見ている。
 コロナという危機を脱した今、改めて中小企業が経営課題に向き合う機会、タイミングが来ているのではないだろうか。さまざまな課題があり、例えば経営者の高年齢化による事業承継ニーズの増加や、DX、SXへの対応がある。それらを踏まえ、コロナ禍を経て事業転換を迫られる企業もあると考える。
 今、銀行に求められていることは、こうした経営課題について正面から対話を行い、その解決策を一緒に寄り添いながら作る、あるいは提案していくことではないだろうか。その中には、積極的な資金繰り支援による事業継続は当然ながら、それ以外に、例えば早期の事業再構築や事業承継、あるいは廃業、といったさまざまな選択肢が含まれていると理解している。そうした選択肢を取り得る経営状況であるうちに、対話と提案を通じて、お客さまの経営判断をしっかりとサポートしていくことが重要だと考えている。
 2点目は、新紙幣導入の銀行界への影響について。政府公表によると、2024年7月を目途に、1千円、5千円、1万円、各紙幣が一新される。デザインは1千円札が野口英世から北里柴三郎に、5千円札が樋口一葉から津田梅子に、1万円札が福沢諭吉から渋沢栄一になる予定とのことである。先ほど申しあげたように、今年は銀行開業150年の節目でもあり、第一国立銀行を創設した渋沢栄一が1万円札のデザインになることは、大変感慨深い。
 ご指摘の銀行業務への影響としては、各行においてATMの新紙幣対応などが必要になる。ATMは、紙幣や硬貨のデザインや大きさが変更になることを予め想定した作りになっているが、高度な真贋判定が必要になることから、相当な費用がかかる。例えば、みずほの場合、新紙幣対応には数十億円の費用がかかる。キャッシュレスが進んできているとはいえ、まだかなりの現金が使われている中、偽造防止などを目的とする新紙幣の導入に、しっかり対応して参る。


(問)
 為替について伺う。これまで日本経済は長年、円高に苦しむことが多かったと思うが、昨年来、大幅な円安が進んでいる。足元では138円台で、一時よりは円安が落ち着いているが、円安が企業活動に与える影響についてどのように見ているのか教えてほしい。
(答)
 ここ最近のドル円相場を振り返ると、6月末から7月初旬にかけて1ドル145円近辺まで円安ドル高が進展したが、足元では1ドル138円台と円高ドル安の方向に戻している。
 ご認識のとおり、最近のドル円相場の変動の主因は、日米の金利見通しの差である。日本銀行が金融緩和政策を継続するなかで、FRBの追加利上げ幅の見通しが上振れ、これが円安ドル高の進行につながったと理解している。
 為替相場と日本経済の関係について申しあげると、円安は、製造業などの輸出産業の価格競争力、インバウンド需要の拡大などのプラス面がある。
 一方、マイナス面として、輸入価格の上昇に伴う企業の投入コストや家計負担の増加が挙げられる。プラス面、マイナス面の影響の大きさは、各企業の規模や状況によって異なるだろう。一番問題となるのは、為替レートの急激な変動であり、企業や家計の行動にも影響を与えるため、望ましくないだろう。


(問)
 株主総会シーズンが終わった。年々事業会社に対するアクティビストの提案などが活発化している。デット・レンダーとしてこのアクティビストの動きをどのように評価、見ているのか、お考えを聞かせてほしい。
(答)
 2023年6月の株主総会では、株主提案を受けた企業が約90社と過去最高であったようである。従来の株主還元や企業統治に関する提案から環境等の社会的課題に関する提案など、さまざまな提案がなされたと承知している。
 2010年代以降のコーポレートガバナンス改革では、企業と株主間の中長期的な視点に立った建設的な対話が求められている。この流れの中、アクティビスト等による株主提案や企業との対話は、両者の対立関係に焦点があてられる傾向にあるが、経営陣に対して思い切った戦略や変革を促すきっかけにもなり得る。
 重要なことは、こうした対話が事業会社の持続的な企業価値向上に資するアクションにつながるかどうかである。実際には、十分な対話がなされずに、情報格差が埋まらないことで、短期的もしくは表面的な企業価値向上の株主提案につながってしまうケースもあるのではないかと思っている。
 こうした環境のなかで、銀行はデット・レンダーとして長期的なお取引をしており、株主と企業との対話が長期的に企業価値向上に資するか否かをしっかりと分析し、レンダーとしての考えを伝えていく、これが重要だと考えている。


(問)
 アクティビストの提案に一定の理解を示されたと思う。銀行の取引先企業の政策保有株は縮減の方向にあるが、結局、銀行は与党株主として会社側に立っている。今の加藤会長のお話を伺うと、長期的な企業価値の向上に資するような株主提案があった場合は、銀行としても株主提案に賛成する場合があり得るということなのか。
(答)
 ケース・バイ・ケースである。今も申しあげたように、銀行は企業としっかりとコミュニケーションできる立場であり、株主提案を十分に吟味する中で、場合によっては、アクティビスト等と会話をする、そういったこともあり得るのではないかと考えている。


(問)
 先日、日韓通貨スワップ協定の再開に係る合意がなされたが、日韓関係が改善することでどのような経済効果が想定されるか。
(答)
 政治・外交の分野であるため、個人的見解として申しあげる。足元では、両国首脳のリーダーシップのもと、日韓の関係改善に向けたさまざまな取組みや議論が、3年ぶりの首脳会談をはじめ、ハイレベルで再開されている。今般、合意された日韓スワップ協定は、2015年以来となる日韓両国間の通貨スワップであり、流動性供給体制の強化を通じて、金融市場の安定に資するものである。
 韓国は、日本にとって第4位の貿易相手国であるなど、経済面での結びつきが非常に強い。今後、半導体のサプライチェーンの強化など、両国のさらなる連携が期待される。また、韓国からの訪日客数もコロナ前の2019年比で約8割の水準まで回復し、インバウンド需要も足元で確実に回復に向かっている。隣国である韓国との関係改善は大変望ましい。私もソウル支店長として3年間勤務したが、多くの友人もおり、大変思い出深い国でもある。今後の日韓関係のさらなる拡大、深化に期待している。


(問)
 足元の市場で日本銀行の政策修正に注目が集まっているが、改めて日本銀行の異次元緩和を含むアベノミクスの評価についてお考えを伺う。
(答)
 金融政策は、日本銀行の専管事項であるため、個人の見解として申しあげる。日本銀行は、デフレマインドを払拭すべく、2013年4月から「量的・質的金融緩和」を導入し、2%物価安定目標をできるだけ早期に実現することを目的に、強力な金融緩和政策を進めてきた。以降、異次元緩和を通じて賃金や物価の下押し圧力を軽減し、景気を押しあげるとともに、円安、株高を後押ししたと理解している。例えば、2012年、今から約10年前、日経平均株価は約9,000円であり、今は3万円を超えている。あるいは、当時のドル円相場は1ドル80円であったが、今は1ドル130円を超えており、行き過ぎた円高が是正された。物価上昇については、賃上げが物価に波及していく、安定的な物価上昇の実現には至らなかったが、デフレではない状況を実現するという効果はあったと評価している。
 一方、長期にわたる異次元金融緩和が銀行の資金利益を大きく圧迫したことも事実である。日本銀行には実体経済・金融市場の影響を踏まえたうえで、市場参加者や国民との丁寧なコミュニケーションを通じた安定的な政策運営を期待している。