会長記者会見
2024年2月15日
加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)
辻専務理事報告
(なし)
会長記者会見の模様
(問)
1月末のアメリカのFOMCでは、4会合連続で政策金利を据置きし、利下げを見送っている。CRE(商業用不動産)などに端を発してアメリカの地銀の経営不安なども一部で出ているが、アメリカの金融政策の先行きや、経済の展望をどのようにご覧になっているか。
(答)
米国の経済は、急速な金融引締めの効果が徐々に現れており、今年の前半にかけて景気は減速するものの景気後退は避けられるのではないか、と見ている。GDPの7割を占める個人消費は、足元のインフレ減速により家計の実質所得が改善することに加え、株価上昇や住宅価格の高止まりに伴う資産効果の支えもあり、今後も底堅いと考えている。
また、労働市場では、移民や働き盛りの女性の労働参加が増えており、こうした供給力の回復により、インフレも引き続き順調に減速していくものと見込まれる。
オフィス市況が悪化するなか、米地銀の商業用不動産向け融資に対する懸念が高まったが、そのきっかけは個別行の規制対応に伴う個社要因であると理解をしており、全体への波及リスクは低いと考えている。
全体として、景気後退を回避しながらインフレを抑制する、ソフトランディングの可能性が高まってきたと認識をしている。
また、ご指摘のFOMCでは、FRBは政策金利の据置きを決定している。今後は、地銀の経営不安に加え、地政学的な緊張の高まりや秋の大統領選を控えた米国議会の党派対立など、さまざまなリスクも想定されるが、FRBは利下げの時期を慎重に探っていくのではないかと見ている。
(問)
今日GDPの発表があったが、実質GDPが2四半期連続でマイナス成長となった。会長の受止めをお願いしたい。
(答)
日本のGDP速報値についてである。10月-12月期の実質GDPは、前期比マイナス0.1%となり、これは2期連続のマイナス成長である。円安が進行しており、2023年の名目GDPも世界4位に落ちている。
GDPの内訳を見ると、サービス輸出の増加などを受けて外需がプラスに寄与している一方、個人消費、設備投資がいずれも3期連続で減少するなど、内需の弱い動きが続いている。個人消費については実質賃金の前年比マイナスが継続していること、設備投資に関してはコスト高や供給制約が下押し要因になっていると考えている。
一方、今後については、物価高が落ち着き、しっかりとした賃上げが実現していくことに加えて、堅調な企業業績が設備投資を後押しするかたちで、内需の改善が期待できるのではないかと思う。製造業や観光分野など、日本の強みを活かしながら、稼ぐ力をしっかり高めていくことが重要であり、官と民の知恵が試されているときではないかと思う。金融機関としても、日本の稼ぐ力の向上に向けて、企業の皆さまの取組みをしっかりと支援して参りたい。
(問)
2点目で、第3四半期の銀行決算が出揃ってきたが、地銀とメガバンク、大手行の差が出ているように見受けられる。この差についてどのように分析されているか。また、今後の通期決算の見通しについて教えてほしい。
(答)
大手行、地域金融機関の決算それぞれについて申しあげる。まず2023年度の第3四半期までの決算を振り返らせていただく。海外ビジネスを展開している大手行については、メガバンクを中心に総じて好調な決算であった。非金利ビジネスに加え、欧米の金利が上昇するなかで、預貸金収支や円安が好調な決算に繋がったと考えている。
一方、地域金融機関は、強弱まちまちの決算と認識をしている。債券売却損や物価高などによる倒産リスクを見据えた与信費用の増加が重石となった銀行がある一方で、株高を受けた保有有価証券の含み益の増加や国内の資金需要にしっかりと対応したことにより、堅調な決算になった銀行もあった。
足元のビジネス環境について申しあげると、国内外ともに物価上昇は鈍化傾向にあり、緩やかな経済成長が続いている。かかるなか、国内ではDX・GX関連やサプライチェーンの強靱化に向けた投資を背景に、借入ニーズは根強い状況にある。また、懸念された債券の評価損については、米金利がピークアウトするなか、一旦、最悪期は抜け出している状況にある。株高も有価証券投資の損益状況の改善に寄与しているものと認識している。
今年度の通期決算については、各行一様ではないが、今申しあげたトレンドに変化はないと考えている。
(問)
郵政民営化の見直しの検討が国会の議論で上がっている点について、このなかで金融子会社2社の民営化方針の撤回も議論の対象になっているが、郵政民営化について全銀協の考えを教えてほしい。
(答)
郵政民営化法に関して、日本郵政が保有するゆうちょ銀行およびかんぽ生命の全株式処分の方針を転換することが検討されている旨の報道があることは承知している。また、国会においても一部関連した質疑がなされており、上乗せ規制の撤廃などが検討されていると承知している。報道の内容は、郵政民営化の目的や基本理念、基本方針を揺るがしかねないものであり、最大の関心を持って注視している。
そもそも郵政民営化の本来の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて国民経済の健全な発展を促すことにほかならない。現在の郵政民営化法は、こうした郵政民営化の目的を達成するため、基本方針として、金融2社の全株式の処分を目指す、と定められている。報道されている株式保有継続の議論は、完全民営化の前提となる基本方針と逆行するものである。銀行界としては、引き続き全株式処分に向けた道筋を早期に示すことを求めるスタンスは変わっていない。
同時に、現在の郵政民営化法では、基本理念として「同種の業務を営む事業者との対等な競争条件を確保するための措置を講ずる」と定められている。これまで全株式処分までの移行期間中の措置として上乗せ規制の緩和が進められてきた。万が一、ゆうちょ銀行に間接的な政府関与が残ることになるのであれば、これまで緩和されてきた業務範囲を所与とせず、改めて公正な競争条件が確保されるために必要な上乗せ規制が検討される必要がある。報道されている、現行以上の上乗せ規制の緩和や撤廃は、基本理念と全く逆行するものである。こうした基本理念や基本方針を改正するのであれば、郵政民営化の目的をどのように達成していくのかとセットで慎重に議論されるべきと考えている。
(問)
もう1問、昨年のFD原則の一部法制化に関して、全銀協も2022年10月にFDに関する申し合わせをしているが、今後、顧客本位の業務運営の推進についてどのように対応するのか。
(答)
昨年11月の金商法・金融サービス提供法の改正により、顧客の最善の利益を勘案した誠実・公正義務が法制化されている。従来のFD原則の趣旨から大きく変わるものではないと考えているが、法制化によって金融事業者に対する受託者としての責任がより明確化されたものと受け止めている。
全銀協ではこれまで顧客本位の業務運営の徹底に関する申し合わせを行っているが、今般の法制化の意味も踏まえ、会員各行が自律的に販売態勢を振り返り、経営陣の積極的な関与の下、FDのさらなる高度化や実効性向上に不断に取り組んでいくことが重要である。
今般の法制化に合わせた対応ということではないが、全銀協では会員行におけるFD取組事例集を策定し、会員行に展開している。この取組事例集では、昨年の行政処分事案で公表された指摘事項や、金融庁が昨年6月に公表したモニタリングレポートの指摘事項に対して、会員各行から寄せられた延べ800件を超える取組事例から41の項目にわたって幅広く各種取組や工夫を取りまとめ、共有している。また今後、取組事例集をもとにした会員行向け勉強会も実施して参る。顧客本位の業務運営に関しては、事業者による不断の努力が重要だと思っている。全銀協としても継続的に会員各行に有効な情報を発信し、その取組みをサポートして参りたい。
(問)
預金について伺いたい。大学の経済学の授業の質問のようになってしまうが、貯蓄から投資が進むと、銀行の預金が取り崩されて投資に回ってしまうから銀行は困るのではないかというイメージを持ってしまう。民間部門のバランスシートを全部統合して考えると、結局、預金の総量は、誰がどのように使っても最終的に誰かの預金になることは変わらないから、総量としての預金は変わらないのではないかと思うが、その理解で合っているか。もし、銀行全体を統合して考えた際、バランスシートにおける預金が減るとしたら、それはどのような要因が考えられるか。
(答)
ご指摘のとおり、国内銀行部門全体におけるお客さまの預金量は、貯蓄から投資に切り替わったとしても変わらないと理解している。
「貯蓄から投資」へのシフトというと、銀行に対する預金が減る印象を受けるが、マクロ的には違うと思っている。例えば、投資信託などの有価証券に投資された資金は、その売り手である他の個人や企業に渡されるので、結果として銀行預金になる。
ただし、経済の好循環を伴う「貯蓄から投資」へのシフトにおいては、少し状況が違う。経済成長に伴い企業の資金ニーズが生まれ、銀行貸出が伸びる。いわゆる信用創造が続くことで銀行に対する預金は増加する。
銀行全体における預金量が減少するケースは、例えば海外に投資資金が多額に流れる場合、あるいは経済が低迷し、貸出が減少する場合などが挙げられる。
また、個別行単位では、投資関連の商品・サービスの差によって、預金動向の差異が出てくる可能性はあるかもしれない。
(問)
1点目は、アメリカの大統領選の動向や結果が、日本の経済や企業の活動にどのように波及するか。ちょっと先の話で恐縮だが、お考えをお聞かせ願いたい。
(答)
米国大統領選を巡る論点は多岐にわたっており、日本経済や企業活動への波及についてもさまざまな経路が想定される。仮にトランプ氏が今年の大統領選で再選した場合、税制、通商、環境などの分野での政策の方針転換が示唆されている。
例えば、トランプ氏の陣営は、すべての輸入に対して10%の関税を課す方針を示しているほか、一部の報道では、法人税を現行の21%から15%に引き下げる見方もある。また、過去の大統領選では、その前後で為替や株価のボラティリティが高まる傾向も確認されている。2016年の大統領選後には株価が大幅に上昇したが、今回も金融市場に大きな変動が見られるかもしれない。
これらはいずれも、特に米国に進出している日本企業のビジネスや収益環境に影響を及ぼす可能性がある。また、米国以外の国々に進出している日本企業、あるいは国内企業に対して間接的な影響をもたらす可能性も考えなければいけない。
米国大統領選の先行きを予想することは大変難しいことだと思う。短期的にはこうした不透明感が日本企業の投資を慎重にする可能性はあるかもしれないが、足元では、投資行動は底堅く推移している。中長期的な影響として、貿易や企業の立地政策への影響も想定されるので、先行きを注意深く見ていく必要がある。
(問)
2点目は、先ほどもFRBの政策について少し触れられていたが、米国の銀行では預金維持コストの増加による利鞘の圧迫や利下げ観測で、今後の決算に影響してくるという思惑も出ているが、アメリカで展開している日本の銀行においても同じような影響が懸念されるかどうか。
(答)
金利環境の変化等を背景に、一部米銀で資金利益、Net Interest Income(ネット・インタレスト・インカム)のピークアウトが見えていることは承知している。当然、邦銀の米国ビジネスにおいても、米国の政策金利動向の影響を受けているが、邦銀は必ずしも、アメリカでリテールビジネスを展開しているわけではない。今後FRBが利下げを開始する場合、預貸金利鞘の縮小による銀行収益の下押し影響は、米銀対比、邦銀は小さいと考えている。米国でのビジネスにおいても、国内でのビジネスと同様、金利収入のみではなく、非金利ビジネスによる安定収益を確立すること、こうしたビジネスモデルを作ることが重要だと考えている。
(問)
先ほど話が出た第3四半期の決算の受止めで、通期のトレンドは変わらないとおっしゃったと思うが、もう少し先、4月以降も含めて今後の銀行の事業環境をどのようにみているか。それからリスクはどういうところにあるのかという点を伺いたい。
(答)
先ほど申しあげたように、2023年度の第3四半期決算は、各社業績予想に対して高い進捗率になっており、好調である。円安、株高、米国金利の高止まり等によるものと評価している。
これがどのように継続していくか、円安、株高、米国金利といった外部環境の追い風が今後も継続するかどうかの見極めは難しい。ただし、国内企業の資金需要やM&A等のコーポレートアクションは旺盛・活発になってきており、金融機関として各種ニーズにしっかりと応えていくことで、当面、業績の堅調さはある程度維持できるのではないかと考えている。
一方で、先ほど申しあげた市場環境の不透明さに加え、米国以外にも今年は選挙イヤーといわれているが、各国選挙の動向や日米を中心とした金融政策の行方、景気の先行き、地政学リスクなど、ビジネス環境は極めて不確実である。
好調に進捗するビジネスの失速、与信費用の増加などのダウンサイドリスクが顕在化する場合には、機動的な対応を求められる環境が当面は続くと考えている。状況をしっかりと見極めて行っていく必要がある。
(問)
2点伺う。1点目は、今月初めにあおぞら銀行が、米国不動産融資の引当金追加計上で業績予想を下方修正した。限定的だと思うが、他行への影響をどう見ているか。また、日本で低金利環境下が続いてきた結果、各行が米国マーケットに参入してきたが、メリットやリスクについて改めて考えをお聞きしたい。
(答)
商業用不動産のノンリコースローンについて、銀行として判断すべき一般的なリスクは大きく二つある。
一つ目は、ローン期間中のキャッシュフロー変動リスクである。ノンリコースローンは、コーポレートリスクと異なりビジネスモデルからの収益で返済を行う。商業用不動産の場合は、不動産賃料収入に依存している。したがって、オフィスや店舗といった不動産の稼働状況などの計画や見通し、あるいは企業活動や景気動向を慎重に分析する必要がある。
また、米国で影響が顕著に見られる在宅勤務の増加によるオフィスの空室率の上昇などは、予見が難しい事象であるが、このような場合のリスク許容度についても一定程度考慮する必要がある。
二つ目は、不動産の価格変動リスクである。ノンリコースローンは、ローンの期限満了時にリファイナンスあるいは売却を前提としていることが一般的である。こうしたタイミングで不動産の価格が下落している場合、必要な資金調達ができないリスクが生じる。不動産価格は、当該不動産のキャッシュフローのみならず、期待利回りや需給の状況などの不動産市況も加味して決定されるため、常にモニタリングすることが必要だ。
現在の日本の不動産市況について申しあげると、特に金融政策の影響については留意が必要だと考えている。金融機関や投資家の投融資の姿勢は、足元では引き続き前向きな姿勢が維持されていると見ている。一方で、緩和的な金融政策の見直しが想定されるなか、金利上昇によるキャッシュフローの悪化や、期待利回りの上昇による不動産価格の下落などを懸念し、投融資の姿勢が変化する可能性もある。こうした影響をよくモニタリングしていく必要があると考えている。
(問)
2点目は、やや抽象的になり恐縮だが、日本で低金利環境下が続いてきたなかで、銀行界は、先ほどもお話があった非金利収入に力を入れてきたのではないかと思っている。日本銀行の政策修正が想定されるなか、今後、この非金利収入は銀行のビジネスにとってどのような位置付けになっていくのか、現状からの変化も含めてお答えいただきたい。
(答)
ご案内のとおり、銀行は、低金利環境が続くなか、非金利ビジネスの強化、あるいは大手行中心に海外ビジネスの強化を進めてきている。
非金利ビジネスの強化は、外部環境に左右されないビジネスモデルを構築するうえで重要であり、今後もこの流れは変わらないと考えている。
特に、金利のある世界においてはソリューションニーズの増加が見込まれるため、非金利ビジネスの重要性はますます高くなると考えている。
金利のある世界では、経済成長の恩恵を受けるチャンスが広がる一方で、借入金利の上昇やコスト増など、ビジネスやライフプランを取り巻く環境が大きく変化する。
企業のお客さまに関しては、余資運用や資金調達、金利ヘッジ手法など、財務戦略や成長戦略に関する提案が必要になる。ビジネスマッチングや事業再編、各種アドバイザリーといった情報仲介機能、コンサルティング機能など、銀行がこれまで培った能力を発揮する機会が増えてくると思う。
個人のお客さまにおいては、住宅ローンの借入れや資産運用の見直しの提案が考えられる。新NISAも始まり、お客さまの運用ニーズも高まってきている。
また、非金利ビジネスの強化は、収益の多様化、安定収益が期待され、金融システムの安定にも資すると考えている。
(問)
株高についてお伺いする。今日も日経平均株価の終値が34年ぶりの高値で、高値を更新し続けているが、その背景をどう見ているか。また、一部にはこの急激な株価上昇がバブルではないかという懸念の声もあるが、株価水準をどう評価されているか。
(答)
ご指摘のとおり年初から株価が大きく上昇しており、日経平均株価はバブル後最高値を更新している。株価上昇の背景については3点あると考えている。1点目は半導体株中心に米国株が堅調であること、2点目は日本企業の堅調な決算、3点目は円安、これらを主因に、特に海外投資家による日本株の買越しが目立っている。
今後の見通しだが、日米の政策金利、それに伴うドル円相場の行方次第で、年央には一時的に弱含む場面もあるかと思っているが、年後半にかけては持ち直すと見ている。足元バブル後最高値であるが、史上最高値をタッチする勢いもあるのではないかと思っている。
TOPIXの予想PERが、バブル時は60倍を超えていたが、足元では16倍程度である。コロナ前と比較しても割高という水準までには至っておらず、まだ株価上昇余地は十分にあると思っている。
先ほど要因と申しあげた日本の企業収益は歴史的な高水準となっており、今後についても、物価高が落ち着くなか、堅調な個人消費、設備投資の持ち直しも予想され、堅調な企業収益が期待されるのではないか。また、東証による経営改革要請を受けた企業の行動変化も、日本株を下支えすると見ている。
ただ、申しあげるまででもないが、短期的な株価変動には一喜一憂せずに、中長期的な目線でしっかりと経営構造改革を進めて投資家の期待に応えていく、これが一番重要ではないかと考えている。
(問)
もう1点お伺いする。金融経済教育について、4月に機構が立ちあがるかと思うが、全銀協としてどう関わっていくのか改めて教えてほしい。
(答)
2月5日に金融経済教育推進機構の設立に向けた発起人会が開催された。全銀協も発起人の1団体として、引き続き新機構の設立に向けた準備に取り組んで参りたい。
これまでも全銀協は、教材や学習コンテンツの作成や無償提供、学校や職域などへの講師派遣、教員向けの研修提供など、さまざまなかたちで金融経済教育の取組みを推進してきた。今後は、全銀協が取り組んできた金融経済教育に関する活動を、職員の派遣も含めて新機構に移管、統合し、新機構の下で官民一体となり推進して参りたい。
全銀協では、資産形成のみならず、家計管理、金融犯罪や多重債務の防止等、幅広く金融経済教育活動を行ってきたので、そうしたノウハウを新機構の活動にも活かしていきたい。また、銀行界は、金融に関してお客さまと最も身近に接する現場にいるので、その立場からも新機構における教育機会の創出やコンテンツ作成等に関して、適切な意見発信をしていく役割もあると感じている。
そうしたかたちで、新機構に参画する各団体がそれぞれの得意分野を持ち寄って新機構に結集することによって、より分野横断的かつ総合的な金融経済教育を実践できると考えている。全銀協としてもしっかりとその役割を果たし、金融経済教育の推進に貢献して参りたい。
(問)
昨年発生した全銀ネットのシステム障害の問題について、暫定措置で復旧していたと思うが、その後の対応状況や、1月に予定していた第2弾の中継コンピュータの更新具合、あるいはその後の第3弾が、どういうかたちになっているのか、準備状況や状況を教えていただきたい。
(答)
全銀ネット障害はご心配をおかけして本当に申し訳なく思う。個々の改善・再発防止策の内容は、昨年12月1日の全銀ネットの会見やプレスリリースでご案内しているので割愛させていただくが、いずれもスケジュールどおり対応を進めている。
ご指摘の、障害の影響を受けた暫定対処版の中継コンピュータについては、現在まさに本格対処版への移行を進めている。順次、銀行ごとに対応しており、年度内を目途に完了する予定である。
また、その他の銀行の中継コンピュータについても、保守期限の到来等により順次更改していく必要があり、1月には二つの銀行において更改を行った。今後も更改は続いていく。
いずれの対応についても、昨年の障害の反省を踏まえて、有事を想定した体制構築や役割分担の整理、事前のBCP訓練の実施、東阪別日程での移行や対象銀行の分散、繁忙日の回避といったリスク低減策を講じたうえで、万全を期して取り組んでいる。
わが国の内国為替取引の根幹を担う全銀システムが改めて社会から真に信頼される決済インフラとなるように、引き続き気を引き締めて、全銀協も一体となって取り組んで参る。
(問)
日本企業による海外企業の買収について伺いたい。今朝もルネサスがアメリカの会社を買収するという発表があった。しばらく前に日本製鉄がUSスチールを買収すると発表したが、一方でトランプ氏が買収計画を阻止すると表明したり、労働組合が反対したり、政治的要因で買収計画がブレイクするかもしれない状況がある。日本企業が海外で成長するためにM&Aをする動きが活発化しているが、一般論として、クロスボーダー買収案件における政治リスクについて、銀行はどのように分析し、融資判断をしているのか伺いたい。
(答)
融資の判断は、収益性や返済能力の分析をベースとしつつ、銀行の社会的責任や公共的使命も踏まえ、その他の要素も考慮している。クロスボーダー買収案件は、ご指摘いただいた案件以外にも数件あり、増加している。法令改正などの政治リスクは検討要素の一つである。
融資判断は金融機関によってさまざまだと思うが、大きく二つのアプローチがあると思う。
一つ目は、貿易や資本取引に関する法令の遵守である。日本の外為法だけでなく、各国の法令に遵守しているかどうかを確認し、仮に法令遵守に問題がある場合には融資を実行することはない。
二つ目は、法令は遵守しているが、将来的に各国の法令改正などの政治リスクの懸念があるケースである。そうした将来的なリスクのみをもって融資の可否を決定することはない。リスクの重大性や蓋然性、軽減策の有効性などを分析したうえで、被買収企業の意向も踏まえつつ、融資条件、返済能力、資金使途、レピュテーションなどを総合的に勘案し案件の融資の判断をしている。この判断は国際情勢によって大きく変わってくるので、金融機関には、経済のみならず国際関係へのアンテナを高めることも求められていると感じている。しっかりと意義を踏まえながら対応していきたい。
(問)
今年から新しいNISAが始まり、個人による投資が増加しているかと思う。そのなかで、主に米国株の投資信託への投資で為替に円安圧力が生じたり、投資に回す資金を確保するために消費が抑制されたり、反対に株式など資産価格の高騰で消費が刺激されたりとさまざまな影響が考えられるかと思うが、現状をどのように評価しているのか伺いたい。
(答)
NISAは口座数がすでに2,000万口座を突破しており、1月の投資信託への資金流入も1兆2,794億円と、16年5か月ぶりの高水準だったと報道されている。世間の関心も高く非常に良いスタートを切ったと思っている。
まず為替への影響であるが、足元は特に海外株式ファンドの買付が多くみられており、一定の円安圧力にはなり得るとは思うが、為替取引全体の取引総額からみれば、相場の方向感そのものを左右するほどの影響はないと見ている。また、現在は海外インデックスファンドへの選好が強いが、今後、日本経済の成長とともに国内投資も選好されるようになれば、状況も変わってくるのではないかと思っている。
次に消費への影響だが、ご指摘のように投資が過度に進めば消費が抑制される可能性も否定はしないが、むしろ投資による資産価値の向上や、生涯所得の増加を通じて消費が刺激される面が大きいとみている。家計の金融資産約2,100兆円のうち、現状は5割以上が現預金であることを考えると、新NISAにより消費が抑制される可能性は低いとみている。
ちなみに個別行の話となり恐縮だが、当行での1月単月のNISA利用状況としては、約85%が積立投資を活用している。お客さまは、無理なく現実的に資産形成に取り組んでいると考えてよいのではないかと思っている。
(問)
1点目、ロシアのウクライナ侵攻から約2年が経過したが、戦争の長期化による日本や世界経済への影響をどのようにみているか。
2点目は、能登半島地震について、今後復興に向けて動き出すなかで、銀行界としてどのように支援していくことをお考えか。
(答)
1点目は、ロシア・ウクライナ侵攻長期化による経済影響である。ロシアによるウクライナ侵攻は、多くの人々の生命と生活を脅かしており、何よりもまず早期の収束を願っている。
ご指摘の経済への影響だが、引き続き商品市況の高騰を注視する必要があると考えている。2022年の夏、パイプラインを通じたロシアから欧州へのガス供給が停止されたことで、一時、欧州のガス価格は2020年初の約4倍まで急騰し、光熱費を中心に家計を大変圧迫した。一方、昨年は幸い、ロシア以外からのガスの代替供給が進んだこともあり、深刻なガス不足は回避されている。軍事侵攻の発生当時よりは、ウクライナ情勢自体が商品市況の高騰の引き金になるリスクは減っていると考えている。
今後、ロシア軍との戦闘がさらに激化した場合、先行きの不透明感の高まりが投資家や企業のリスク回避姿勢を招き、設備投資の抑制につながるなど、世界経済の下押し要因にはなり得る。経済面への影響は引き続き注視していく必要があると考えている。
2点目は、能登半島地震に対する銀行支援である。いまだに避難生活をされている方々もおられ、心よりお見舞いを申しあげる。
個人と法人に分けて簡単にお話しさせていただく。まず、個人のお客さまについては、今後復興が進んでいくなかで、既存の住宅ローンを抱えての再スタートが困難になる場合が想定される。銀行界としては、そうしたお客さまに対して、返済条件の見直しのほか、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をご案内し、債務整理のご支援を行っていく。また、法人のお客さまについては、災害により工場や商品などに大きな被害が発生しており、今後、事業の再構築などに必要な資金の増加が想定される。銀行界としては、融資の迅速化あるいは既存融資の返済猶予など、引き続き柔軟かつきめ細やかに資金繰り支援に努めて参りたい。また今後は、債務整理を検討されるお客さまの増加も想定される。そうしたお客さまに対しては、さまざまな私的整理の枠組みを活用し、お客さまごとの事情に寄り添って真摯に対応を検討して参る。
被災地域が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災された方々が日常の生活を一刻も早く取り戻されるよう、私自身、引き続き銀行界の先頭に立って全力を尽くして参りたいと思っている。
(問)
2点お願いしたい。「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を先月改定されたが、改定した背景やポイント、改定により銀行の再生ビジネスにどう影響するのかということを伺いたい。2点目は、中小企業向けにカーボンニュートラル実現に向けて銀行界としてどのような取組みを行っているか、ご教示いただきたい。
(答)
1点目は、事業再生ガイドラインの改定についてである。1月17日に全銀協が研究会事務局として、2022年4月に適用が開始された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の改定版を公表した。本ガイドラインは、金融機関と中小企業が一体となって事業再生に向けた取組みを行うための、基本的考え方や具体的手順を定めたものである。今回の改定においては、中小企業の経営状況が悪化する前の早期の段階、すなわち平時から金融機関と中小企業の双方が予防的取組みを強化することを一層明確にした。
この背景には、コロナ禍では危機対応として幅広く支援が行き届き、倒産件数が低位で推移してきたが、アフターコロナを迎えた現在、財務状況や事業意欲に応じてきめ細かく経営の方向性を確認し、場合によっては退出を含めた多くの選択肢を早期に検討していくことが必要、との問題意識がある。また、ガイドライン適用後2年弱が経過したことで見えてきた実務上の課題への対応も、今回の改定には含まれている。
今回の改定により、銀行が提供するソリューションが拡大されたものではないが、前向きに行われる環境が整っていくことで、銀行が持つ多様なソリューションの提案機会が増加するのではないかと考えている。
大事なことは、我々金融機関が事業者側の立場に立って経営改善、事業再生に関するさまざまなソリューションをお客さまにお示し、しっかりと中小企業に寄り添うことだと考えている。一層円滑に事業再生手続が行われていくことを期待している。
2点目は、中小企業におけるカーボンニュートラルの実現である。カーボンニュートラルの実現には、中小企業を含めた全ての企業が脱炭素に向けた取組みを自分事として捉えて、具体的な行動に移す必要がある。中小企業のカーボンニュートラルへの理解は徐々に高まっているが、具体的な取組みはこれからである。
他方、具体的な行動を自社のリソースのみで行うには限界がある。そうしたなかで、銀行界には金融、非金融、両面からの支援が期待されていると認識している。
現在の主な取組みとして、二つ紹介させていただく。
一つ目として、中小企業にとってさまざまな関係者から異なる形式で脱炭素への取組み状況の報告を求められることは大きな負担である。この負担軽減を目的として、「サステナビリティデータ標準化機構」と連携して、今月、中小企業のサステナ開示項目を標準化したハンドブックを公開する予定である。銀行界だけでなく、産業界での実装を目指して、関係省庁、経済団体との連携も進めている。
二つ目として、「サステナ開示を起点に中小企業が具体的に取り組んでみること」を整理したお客さま向け説明資料を準備している。当資料の利活用が進むよう、会員行向けの勉強会の開催も予定している。会員行がこの資料を活用して、中小企業のお客さまとのエンゲージメントを進めていくことで、お客さまの具体的な行動を後押ししていきたい。
今後も中小企業が取り残されないかたちでカーボンニュートラルが実現できるよう、銀行界としてしっかりと取組みを進めていく。