2024年6月13日

福留会長記者会見(三井住友銀行頭取)

辻専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 1問目は、日本銀行の金融政策関連について伺う。マイナス金利解除を受け、多少金利が上昇している状況だが、利上げに伴う足元のマクロ経済の変化や顧客への影響について伺いたい。また、年内の追加利上げの可能性が高いと言われているが、ビジネスモデルの変化や銀行業界としてどのような備えが求められてくるか、会長のご見解をお願いする。
 2問目は為替についてである。歴史的な円安水準が続いているが、円安が経済に与える影響について、プラス要因とマイナス要因を改めてそれぞれお聞きしたい。また、現在の為替水準は日本経済の実力が正当に評価されているものであるかどうかについても会長のご見解をお聞きしたい。
(答)
 1つ目について、ご指摘のとおり3月に金融政策が修正されて以降、TIBORや長期金利は一定程度上昇しているが、貸出残高の増加は続いており、資金需要への影響は顕在化していない。また、足元、個人消費は少し弱含んでいるが、これは金利影響というより物価高によるものではないかと思っている。
 銀行のビジネスモデルについては、従来よりも預金を重視した運営へと変わっていくのではないかと思っている。超低金利下でメガバンクは海外事業を大幅に拡大しているが、これからは預貸利鞘の改善等が見込まれる国内事業の重要性が相対的に高まっていくと考えている。
 また、金利環境、そしてビジネスモデルが変化していくなかでは、バランスシート全体で金利リスクをしっかりとコントロールしていく必要がある。例えば資産サイドにおいては、債券ポートフォリオの残高を減らしていくことや、デュレーションを短くしていくこと、あるいは金利リスクそのもののヘッジといった対応が求められると思う。負債サイドについては、調達コストが上昇していくので、それに対する備えといった対応が必要だと思っている。
 2つ目については、まず、円安によるプラス・マイナスの影響に関して、プラスの影響としては、ご承知のとおり、製造業など輸出産業の価格競争力向上やインバウンド需要の活性化が挙げられる。実際にインバウンド需要については、本年3月の訪日外国人観光客数が単月で史上初めて300万人を超えたほか、1-3月期の1人あたり消費額もコロナ禍以前の2019年の同時期に比べて4割以上増加するなど、円安による押上げ効果が顕著に表れているとみられる。
 マイナスの影響については、輸入価格の上昇に伴う仕入れコストの増加により企業業績が圧迫される点や、価格転嫁を通じて家計への負担が増えていくという点が挙げられると思う。
 このように円安の影響は、主体によってまちまちのため、わが国経済全体にとってプラスかマイナスかということは、一概に判断することができないと思う。もっとも、急激な為替の変動、つまり、円安・円高というよりも、ボラタイルに動くことについて、あるいは、変動スピードという点については、事業環境の不確実性を高め、企業マインドの悪化やリスクテイクの慎重化を招くことから、望ましくないと考えている。
 続いて、足元の為替水準が日本経済の実力を正当に反映しているかという点については、一般的に為替水準は、その時々の内外金利差や国際収支といったファンダメンタルズに加え、地政学リスクや市場参加者のセンチメントなど、さまざまな要素の影響を受ける。日本経済の実力も要素として織り込まれていると考えられるが、為替レートは2国間の相対的な関係性のなかで決まるものであり、相手国側の動向も多分に影響を及ぼすと思っている。とりわけ足元のドル円の相場を見ると、アメリカの景気が想定外に堅調さを維持するなか、FRBの利下げ時期を巡る市場参加者の予想なども昨年から相次いで修正を迫られていることを受け、円安ドル高の傾向が強くなっていると見ている。
 このように、どちらかと言えば米国側の事情が主な相場の変動要因になっている昨今の状況を踏まえると、足元の為替水準がわが国経済の実力を正当に反映しているかどうかについては、はっきりと評価を下すことは難しいと考えている。


(問)
 今日未明にFOMCの結果が公表された。アメリカの利下げが年3回の想定から年1回という見通しになり、米経済の足元の強さの反面、粘着性の高いインフレの長期化を懸念する声も出ている。改めて、日本の金融政策や為替など、諸々の経済環境に与える影響をどのように見ているか聞きたい。
 もう1点は、長期金利について。足元で10年国債の利回りが1.0%近辺で推移しているが、銀行のビジネスに加え、企業や、消費活動等、日本経済にどういった影響が出るとお考えか。その影響と対応についてと、長期金利の今後の動向をどう見ているかも併せて見解を聞きたい。
(答)
 まず、1点目のFOMCの結果について。本日未明にかけて開催されていたFOMCでは、7会合連続となる政策金利の据置きを決定している。ご質問にあったとおりドットチャートと呼ばれる政策金利の見通しは年1回の利下げを示唆しており、前回は年3回だったことを踏まえると、利下げの開始時期が後退している。ただし、翌2025年については前回の3回から4回に増えており、中長期の政策金利見通しは大きくは変わっていない。
 声明文およびその後の議長の会見では、利下げ開始はインフレが2%へと継続的に向かっていることを確認する必要があり、今後の経済指標次第であるという、今までと同じスタンスであったため、FRBは引き続きインフレの再燃に警戒しながら、慎重に金融政策を検討していくのではないかと見ている。全体としては、事前の予想ではドットチャートが示唆する年内の利下げ回数は2回になると見る向きが多かったことから、ややタカ派寄りの結果だったと思う。
 一方で、直前に発表された5月の消費者物価指数が前年同月比プラス3.3%と、水準としては高いが、伸び率は前月に続いて2か月連続で鈍化しているので、FOMC後のマーケットは今のところ、どちらかといえば落ち着いた状況となっている。
 今回のFOMCを踏まえた、わが国の経済環境の見通しについてであるが、為替については日米金利差が縮小するタイミングが後ずれする見通しとなったことから、その分、足元の円安水準が続く時間が長引くのではないかと見ている。なお、金融政策については、日本銀行が実体経済の動向などを確認しながら適切に決定されるものと理解している。
 いずれにしても、FRBの金融政策は、アメリカのみならず世界経済への影響も大きいため、今後の政策変更のタイミングや規模感、あるいはマーケットの反応をつぶさに確認して参る。
 続いて、日本の長期金利について。長期金利の上昇が銀行のポートフォリオに与える影響についてだが、これは各行の状況次第でまちまちであり、一概には申しあげられないが、一般的には新規の長期固定の貸出金や新たな債券投資の利回りは当然改善するので、プラスの影響が見込まれる。一方で、今まで保有していた既存の債券ポートフォリオについては評価損益が悪化する。
 企業活動に関しては、設備投資に向けた長期資金の調達などが影響を受ける可能性があるが、足元貸出残高の増加が続いており、資金需要への影響は今のところ顕在化してはいない。ただし、今後、中長期的に金利が上昇すると、企業や個人のお客さまの返済負担が増加するなどの影響は考えられる。
 個人消費については、足元は低迷しているが、金利上昇というよりはインフレによる実質所得が減少していることが強く影響していると思われる。お客さまの状況には十分留意するとともに、必要に応じて丁寧に対応して参りたい。
 なお、長期金利の今後の動向については、金融政策正常化の流れのなかで、政策金利が引き上げられ、また、国債買入額は減額されていくものと思われるが、いずれにしても相場動向を踏まえたものになることから、漸進的なパスを描いていくと見ている。


(問)
 銀証ファイアーウォール規制について伺う。三菱UFJフィナンシャル・グループでファイアーウォール規制違反が浮上しており、証券取引等監視委員会は処分を勧告するようである。この件に対する受止めと、銀行界として規制緩和を訴えてきた中、この議論にどのような影響が考えられるか伺いたい。
(答)
 報道については承知しているが、現時点では証券取引等監視委員会から処分勧告が下されたという事実はないため、コメントは差し控えさせていただく。
 当然のことながら、金融機関は社会やお客さまから信頼されることが何よりも重要であり、決して我々は信頼を損なうようなことがあってはならないと思っている。
 仮に報道の内容が事実であれば、会員行において皆さまの信頼を損なうような事案が発生したということであり、全銀協会長としても大変申し訳なく思っている。銀行界全体として、事実を真摯に受け止め、改めて管理態勢の見直しを含め、改善を図っていく。
 銀証ファイアーウォール規制の緩和については、金融資本市場の活性化、具体的には顧客ニーズに合った商品やサービスを提供しやすくするなど、金融機能の強化に向けた取組みを推進する観点で、その在り方について長い間検討が進められてきたと認識している。管理態勢の強化を進めていくことが大前提ではあるが、より良い金融資本市場の構築に向けて、あるいは、国際金融マーケットとして、日本、そして銀行界の魅力をしっかりと向上させ、例えば海外から人材や投資を引き付けていくためにも、皆さまと丁寧にコミュニケーションを取りながら、残された論点について、ぜひご議論いただきたいと考えている。


(問)
 銀行界全体の決算について伺いたい。前期は、最高益を出す銀行があるなど、総じて好調・堅調だった印象があり、今期も最高益を予想するところがあると思う。ただ、私自身、銀行業界を十数年見てきて、最高益が出ている、好調だというところがぴんとこない部分がある。それこそ理由なき反抗ではないが、理由なき最高みたいな印象を持っている。銀行はずっと構造不況業種だと言われてきたし、もともと御行もコストに厳しい会社であり、厳しかった当時はそれこそコピーを使うなといったことも行内であったと聞いている。会長ご自身として、銀行がなぜこのように儲かるようにいきなりなったとお考えか、教えてほしい。それとも全銀協の会員行のうち、国内業務を主とする商業銀行は、決してまだそんなに儲かっている状況になっていないとお考えなのか、その辺りを聞かせてほしい。
(答)
 金融政策の変更は3月にあったが、それは年度の終わりぎりぎりだったので、前期の決算には直接的な影響は当然ながらあまりなかった。では、なぜ多くの銀行が最高益を更新したのかという背景だが、一つは、アフターコロナで経済活動が再開して、企業がDXやGXへの投資を加速させたり、あるいは事業ポートフォリオの見直しに伴うカーブアウトなど、M&Aの動きが活発化したことなどが挙げられる。
 私自身、日々いろいろな会社の経営者の方とお話しさせていただいているが、日本経済がまさに「失われた30年」を脱却して、成長の好循環に入りつつあるなか、各企業において前向きな資金需要が益々増大しているということを日々実感しているし、そのおかげで銀行の貸出増加が継続しているということが好決算の一番の原因なのではないかと思う。
 もう一つは、長引く超低金利下、しかも、そのうちかなり長い間マイナス金利が続くなか、それぞれの金融機関が店舗戦略や人材戦略など、不断の見直しをずっと続けており、いわゆる筋肉質な経営基盤を構築してきたことも、ここに来て経済の好転の効果をより増幅させているのではないかと考えている。
 メガバンクの決算について補足すると、海外で事業を展開しているので、欧米金利の上昇を主因とした海外事業の利鞘の改善や、円安を受けた外貨建て収益の円換算額の増加など、市場環境の好転が寄与した面が大きいことも事実である。
 個別行の話になるが、私ども三井住友フィナンシャルグループの決算についても、円価ではいい数字だったが、これをドルに引き直すと、依然として2012、13年あたりの最高益を更新していない。したがって、世界のなかでも、例えばアメリカの大手行の収益規模と比べてみれば、まだまだ改善の余地があると思っている。
 銀行界としては、日本の再成長に向けたパラダイムシフトを後押しするなかで、さらなるビジネス機会を模索し、お客さまとともに成長していきたいと考えている。


(問)
 ファイアーウォール規制について、もう少し細かいところをお伺いしたい。2022年に上場企業に関するファイアーウォール規制が緩和されたが、非上場企業や個人については引き続き規制が存在する状況である。かねてからこの部分についても、銀行業界は撤廃・緩和を訴えてこられたが、改めて会長のお考えをお伺いしたい。また、上場大企業に関し、メガバンクでは、銀行と証券の両方のハットをかぶった、所謂ダブルハットの営業マンが現場で活躍されている動きがある。規制緩和は、お客さまにとってメリットがあるかどうかが肝だと思うが、ダブルハットを始めてみてお客さまの評判はどうか、オペレーション上の問題はないのかといった点についてお伺いしたい。
(答)
 まず1つ目の質問については、非上場企業のお客さまは、証券会社との接点はどうしても薄いと思う。その意味では、直接金融に関する提案を受ける機会に恵まれていない方々が多数いるのではないかと見ている。また、個人のお客さまについても同様の状況であり、銀行や証券の垣根なく、投資への声かけ機会を拡大させることがお客さまのニーズの掘り起こしに繋がり、銀行と証券がセットで一番良いものをお客さまに紹介できるという点でも、貯蓄から投資への推進に効果的であると考えている。
 銀証ファイアーウォール規制の緩和により、金融機関がお客さまの潜在的なニーズにアプローチしやすくなることは、お客さまの気づきにつながり、より充実した支援、お手伝いが可能になると考えており、先ほど申しあげたとおり、関係する各方面の方々としっかりと丁寧にコミュニケーションを取りながら、引き続き緩和を求めていきたいと思っている。
 2つ目はダブルハットに関するご質問だが、銀証兼職組織においては、例えば、お客さまの資金調達ニーズに対して、銀行商品であるシンジケートローンと、証券の商品である社債や公募増資を組み合わせたワンストップの提案を行うことができるなど、お客さまに高い付加価値を提供することが可能となっている。
 個別行の話で恐縮だが、三井住友銀行においても、お客さまから、「案件の初期的な提案から具体的な提案に至るまで、同じ担当者、同じチームが対応してくれてありがたかった」など、ワンストップ提案に関する好意的な声も聞かれている。
 一方で、兼職組織の職員は、銀行と証券の両方の立場を持つことから、コンプライアンス上の留意事項をしっかりと認識し、業務に当たることが不可欠である。また、フロントの人間だけではなく、内部管理部署によるモニタリングも適切に行われる必要がある。各行においては、こうした態勢整備の高度化を前提に、銀証連携を進めていくことが重要であると認識している。


(問)
 2点伺う。まず、日本銀行の金融政策決定会合について伺う。今日、明日行われている6月の金融政策決定会合で、日本銀行が長期国債の買入額を減額するとの見方が強まっている。金利が上がっていく可能性も指摘されているところかと思うが、今回の金融政策決定会合についてどう見ているか教えてほしい。また、個人的な見解でも構わないので、今後の利上げの見通し、道筋と併せて見解を伺いたい。
 2点目は少し変わり、金融・資産運用特区について伺う。政府が先日、金融・資産運用特区のパッケージについて公表したところだが、これに対する受止めを伺いたい。また、この特区の創設に当たり、銀行界としてはどのような取組みをされていくのかについても教えてほしい。
(答)
 1点目は、明日結果が発表されるが、日本銀行の金融政策決定会合については、今のところ、市場では長期国債買入れの減額が決定されるのではないかという見方が非常に強いことは承知している。植田総裁は、足元の円安を受け、為替相場の動向次第で金融政策上の対応が必要になる可能性に言及されたほか、長期金利は市場で形成されることが基本とご発言されたことから、マーケットの注目を集めているのではないかと思っている。
 一方で、長期金利は、3月に金融政策が修正された当時は0.7%程度だったが、一定程度上昇し、1.1%に達した後、今、1%を少し割ったぐらいで推移している。日本銀行としても、足許の長期金利上昇による実体経済への影響を見極めたいのではないか、とも考えられる。そうした見極めとの兼ね合いで、明日、日本銀行が賢明なご判断を下すのではないかと思っている。
 利上げ有無そのものについて、全銀協会長としては予想を控えたいと思う。一般的には、賃上げや定額減税の効果が徐々に現れて物価を押し上げることが予想される状況であるが、植田総裁が重要視されている基調的インフレ率が2%に収束するという目標に向けては道半ばであるということも事実だと思っている。今後の利上げパスについては、日本銀行はインフレ率や実体経済の動向など、データを確認しながら、慎重に決定していくものと思っているので、個人的な見解としては、相場への影響を見ながら漸進的な利上げペースとなるのではないかと考えている。
 金融・資産運用特区について。6月4日に公表された「金融・資産運用特区実現パッケージ」には、魅力的なビジネス・生活環境を整備し、金融業を特定地域へ集積することと、国内外の投資資金を呼び込み、地域の産業・企業が発展しやすい環境を整備することを目的に、さまざまな取組みが盛り込まれたと理解している。
 例えば、開業の手続や資産運用業の登録手続といった行政手続を英語で完結できるようにすることとされている。言語の壁は、わが国に進出する際の主な課題として長い間指摘されてきており、その解消を図ることは非常に重要で効果的なのではないかと見ている。
 また、言語以外にも、外国の方が日本での生活やビジネスに順応するためのサポート体制についても不断に充実させていくことが求められており、銀行界としても取組みの強化が必要であると考えている。まずは、外国の方がさまざまな社会・経済活動の起点となる銀行口座を迅速に、あるいは、円滑に開設できるよう、今回特区に選ばれた4地域の自治体と協力しながら態勢整備を進めて参る。


(問)
 今、資産運用特区の話もあったと思うが、小池知事が「国際金融都市・東京」を掲げて久しいと思う。今に至るまでの成果と、これからの課題についてどう捉えているか。また、今後の日本全体の活性化に対してどういった役割を果たしていくべきか。
 もう1点だが、地方経済の現状についてどう分析されているか伺いたい。地域によっては半導体の投資があるが、総じて人口減少という課題を抱えており、東京都市部との行政サービスの格差もよく話題に上ると思う。都市部との格差について、どうご覧になっているか伺いたい。
(答)
 「国際金融都市・東京」については、2017年に計画策定以降、高度外国人材のビザ要件緩和や、海外金融機関の登録を英語でワンストップに行える「拠点開設サポートオフィス」の設置、日本に居住する外国人の国外財産に対する相続税非課税化などの施策が実現し、国際金融センターとしてのわが国の魅力を向上させる政策が実行されてきたと理解している。
 そのなかで、通称FinCity.Tokyo、東京国際金融機構を中心に、国際金融都市としての東京の魅力を海外にPRする活動が行われており、さまざまな施策が海外に認知されてきたと思っている。
 一方、主要な課題としては、依然、言語の壁が存在しており、外国の方が日本での生活やビジネスに順応するためのサポート体制は、まだまだ求められていると考えている。
 加えて、シンガポールや香港といったアジアの他の金融センターに比べると、やはり法人税が高いという点もしばしば指摘されるところである。グローバルな人材や企業が進出するハードルを引き下げ、東京が選ばれるよう、さらなる取組みが求められていると認識している。
 東京にはアジア太平洋地域の金融ハブとしての役割を果たすとともに、イノベーションの中心としての機能を果たすことも期待している。東京は多くのスタートアップが生まれてきた歴史のある渋谷や大学発ベンチャーが集う本郷など、スタートアップの集積する地域をいくつも有している。海外の金融プレーヤーを呼び込むことで、わが国ではまだ数少ないユニコーン企業を生み出して、わが国の経済を活性化させていくことを期待している。
 地方経済の現状と、東京と地方の格差についてご質問いただいたが、私は「東京対地方」という構図ではなく、地域ごとの違いを考慮することが重要なのではないかと考えている。
 お話しいただいたように、九州では半導体関連事業の需要の盛り上がりなどを受け、設備投資や個人消費が堅調に推移する一方で、北陸では、年始の地震の影響から、個人消費や生産の一部に下押しが見られるなど、足元の景気の状況は全国一様ではなく、まだら模様と言える。金融政策の正常化が始まったところだが、地域経済に与える影響については、地域ごとに一定の差が生じる可能性があると考えている。
 もっとも、日本銀行におかれては、特定の地域に対して、過度にネガティブな影響が生じないよう、マクロデータだけではなく、個別企業へのヒアリングを通したミクロレベルでの情報も駆使して、経済動向をつぶさに把握し、適切な金融政策運営を進められるものと認識している。
 銀行界としても、経済の好循環の恩恵が全国すみずみまで行き渡るよう、それぞれの地域の実情に適したサービスの提供に努めていきたいと考えている。


(問)
 先ほどから質問が出ているファイアーウォール規制の関係で1問伺う。先ほど、緩和を引き続き求めていきたいというような発言があった。一方で、こうした事案が発生したのであれば改善を図っていきたいという言葉もあった。この事案が事実だったとして、今後、緩和を求めていく動きについて、改善の取組みのために一度足踏みをしなければいけないと考えているのか、また、どのような影響があると考えているのか、もう少し詳しく伺いたい。
(答)
 繰り返しになるが、金融機関がお客さまの潜在的ニーズにタッチしやすくなることは、お客さまの気づきに繋がり、より充実した支援が可能になると思っている。法令・規制の遵守、態勢整備は大前提であり、これを愚直にやり続けるしかないと考えている。関係者と、しっかりと丁寧にコミュニケーションを取り、引き続き緩和を求めていきたい。
(問)
 法令などの遵守、態勢整備を前提としたうえで、丁寧にコミュニケーションを取りながら、緩和を求め続けるという理解で良いか。
(答)
 おっしゃるとおりである。


(問)
 4月の話になるが、金融庁が、外貨建保険やリスク性の金融商品に関してモニタリング結果を公表している。知識不足が懸念される顧客への販売や乗り換え販売といった問題も生じているという結果だったが、これに対する受止めと、全銀協として改善すべき点があると考えていれば、その点について見解を伺いたい。
(答)
 昨年7月に、全銀協は、「お客さま本位の業務運営の更なる徹底に係る申し合わせ」を実施している。顧客の最善の利益の追求、そしてベスト・プラクティスを目指した不断の努力が不可欠であり、会員各行に対し、継続的に徹底を促していく必要があると考えている。
 また、生命保険協会のガイドライン改正を受け、4月末に会員行を対象とした説明会を実施した。販売態勢の高度化に向けて、外貨建保険の運用機能を他の金融商品と比較して説明するなど、行内の販売ルールやツールの見直しが各行で進められていくものと認識している。
 今後は全銀協としても、金融庁のモニタリング結果と生保協によるガイドライン改正を踏まえ、取組み事例の横展開や勉強会の開催などを通じ、会員行の顧客本位の業務運営に関する取組みを支援していく。


(問)
 全銀システムについて伺う。全銀システムを運営する全国銀行資金決済ネットワーク、全銀ネットは、このほど資金決済システムの高度化をめぐるワーキング・グループを開き、現行の全銀システムの保守期限の延長を前提にスケジュールを検討する旨、議事録で公表している。延長についての考え方と延長に伴う会員行等への影響をどのように考えているのか。
(答)
 全銀ネットは、昨年の全銀システム障害において、多くのお客さまに対して多大なるご迷惑をおかけしたことを大変重く受け止めており、次期全銀システムの構築においては、障害の未然防止、障害発生時における影響の最小化を念頭に、先の障害の改善・再発防止策を確実に取り込んだうえで、安全かつ着実に開発を進めていく方針である。
 したがって、現行システムの保守期限をありきとするようなリスクを伴うスケジュールでの開発を進めることを避けるため、保守期限の延長を視野に、計画の見直しを進めている。現状、開発スケジュールの策定は、今年10月に行われる見通しである。次期全銀システムが安心・安全かつ利便性の高い、未来志向の金融インフラとなることを目指して対応していく。
 なお、保守期限を延長する場合も、通常の振込ができなくなるというような実務上の影響はないので、これについてはご安心いただきたい。


(問)
 2問お願いしたい。1問目は政策保有株式についてお伺いする。損害保険会社の政策保有株ゼロ宣言といった動きも出ているが、外部環境の変化が銀行界の政策保有株の削減に与える影響はどの程度あると見ているか、ご所見を伺いたい。削減に向けて保有株を整理するなかで、政策保有株から純投資に振り替えると開示情報が少なくなると懸念する声も出ているが、保有目的の整理や純投資目的の株式の開示の考え方についても言及いただきたい。
 2問目は、銀行決算に関して、先ほども総括はあったと思うが、今年度の見通しについてはどうお考えか伺いたい。緩やかな金利上昇局面で、かつ日本銀行の追加利上げも想定されるなかだと、銀行収益の回復は見込まれるかと思う。一方では、顧客の利払い負担が増えてくると想定されるなかで、顧客への還元の考え方についても伺いたい。
(答)
 銀行界では以前から政策保有株式の削減に努めており、損害保険業界における保有株式ゼロに向けた動きによる直接的な影響は限定的と見ている。一方で、政策保有株式に関するアカウンタビリティや削減要請は、ここ最近、より一層高まっており、銀行界としては、引き続き削減に向けた取組みを継続する必要があると考えている。また、政策保有株式の削減は、発行企業であるお客さまの資本政策に影響を及ぼすため、銀行が株式を売却する際には、お客さまと丁寧に対話し、双方が納得したかたちで進めることが重要だと思う。銀行界としては、政策保有株式の削減を通じ、わが国のコーポレートガバナンスの向上に貢献していきたいと思っている。
 保有目的の整理や純投資目的で株式を保有する場合の開示については、政策保有株式は取引先との関係維持強化を目的に、長期安定的に保有されるのに対し、純投資株式は投資リターンを目的に保有されるため、保有目的が全く異なる。したがって、本来政策保有株式として開示すべきものを、個別開示を避けるために意図的に純投資株式に振り替えることは、あってはならないことである。また、保有目的が投資リターンの確保である場合は、純投資目的株式として取扱い、政策保有株式に求められる保有目的や定量的な保有効果、増加理由の詳細な開示が求められるものではないと考えている。
 先ほども少しお話ししたが、前年度決算については各行で状況は異なるが、最終増益となった銀行が多くを占めた。経済の好転を背景に資金需要の拡大が続くなかで、資金利益や役務取引等利益、いわゆる手数料収入が好調に推移したことも主な要因と見ている。また、これも申しあげたが、海外で事業を展開しているメガバンクについては、海外金利が高止まりしたことに加えて、円安で外貨建て収益の円換算額が増大したことにより、さらに業績が押し上げられた格好である。
 今年度の見通しについては、足元、中小企業の倒産件数はじわりと増えてきていることや、先月のG7財務相・中央銀行総裁会議でも懸念の声が挙がったとおり、中国メーカーの過剰生産による中国国内からのデフレの輸出など、リスク要因が存在する。しかし、ご指摘のとおり、金利上昇局面にあることに加え、設備投資向けの資金需要も引き続き旺盛であると見ているので、全体としては今年もよい方向に向かっているのではないかと思っている。こうした環境下、各銀行における顧客サービスの拡充の仕方はさまざまだと思っている。単純に預金金利を引き上げることも考えられるが、例えば、ATM利用手数料の柔軟化であるとか、今の時代、ポイント還元を拡充していくとか、また、IT投資に力を入れて利便性の高い銀行アプリを提供していくなど、各行が創意工夫を凝らして、それぞれの戦略を策定して、顧客満足度の向上を目指していくものと理解している。


(問)
 新紙幣について伺う。20年ぶりとなる新紙幣の流通が7月3日に始まる予定だが、これに対するご所感を改めてお願いしたい。併せて、銀行界としての準備状況はどうなっているか。
(答)
 4月の就任会見で、わが国はまさに「失われた30年」からの脱却に向けたティッピングポイントにあると申しあげたが、そうした非常に重要なタイミングで行われる紙幣の刷新は、まさに新たな時代の幕開けを告げるイベントになるのではないかと期待しているし、私自身非常に楽しみにしている。20年間慣れ親しんだ肖像は変わるが、新たに採用された人物は、まさに今のわが国の世相にふさわしい方々であると考えている。一万円札の渋沢栄一さんは、日本の近代化に大きく貢献した人物であり、日本の再成長の象徴としてふさわしいと思っている。五千円札の津田梅子さんは、女性の地位向上と教育に生涯を捧げたことで知られ、まさに女性の活躍推進の象徴と言えると思う。そして、千円札の北里柴三郎さんは、日本医学の礎を築いたとされ、コロナ禍からの脱却、そして、これからの健康社会を示す象徴となると思っている。
 銀行界にとってはATMの更新、入替えなど相応のコストがかかるイベントであるが、犯罪防止と金融システムの安全性を維持するための必要な投資負担と捉えている。
 全銀協としても、新紙幣の発行に向け、日本銀行と連携を取りながらATMの改修や新紙幣受取り手順の確認など周到に準備を進めてきた。各金融機関が日本銀行から新紙幣を受け取るのは7月3日以降である。その後、店舗に配送され、各種機器に格納されて、初めて引渡しが開始となる。したがって、当日は開店と同時に新紙幣の引渡しが可能となるわけではない。各金融機関の事情に応じて、準備が整った店舗から順次、引渡し可能となる。
 全銀協としては、新紙幣がご希望のお客さまのもとへスムーズに行きわたることを目的に、会員行に対し通達を発信し、各店舗における新紙幣取扱い開始のタイミングについて、丁寧かつ分かりやすくお伝えするように促している。
 また、お客さまに対しても、全銀協のウェブサイトやX(旧Twitter)を通じて、新紙幣をお求めの際には、お取引金融機関へ事前にお問合せをされるよう直接案内している。
 なお、現行の紙幣は引き続き利用できるのでご安心いただきたい。新紙幣の交換に当たっては、皆さま、銀行の窓口にいらっしゃると思うが、金額次第ではマネロンガイドラインなどを踏まえた原資の確認などの手続にご協力いただく可能性もあるので、予めご了承いただきたい。


(問)
 定額減税について伺う。先ほど、日本銀行が定額減税の話など、効果を見極めながら、今後の利上げ等も漸進的に判断していくのではないかとお話しいただいた。定額減税はコスト面などで否定的な声もある一方、効果は当然あると思っている。そもそも銀行業界のトップとして、会長は定額減税をどのように評価しているか伺いたい。
(答)
 足元の日本経済そのものは、マクロで見れば緩やかに回復しているが、実質賃金が25か月連続で前年同月比マイナスとなっていることを受け、個人消費が弱含むなど、局所的に足踏みをしている状況と思っている。
 そのようななかで、定額減税は、家計の所得環境を改善させるために取り得る選択肢の一つであると思っている。これから夏にかけて本格的に現れる賃上げの効果と合わせて、足元、停滞している個人消費が上向き、それにより企業の設備投資が一層活性化することが予想される。消費と投資が経済の両輪として回ることで、今後の経済成長が加速していくことを期待している。


(問)
 日銀の金融政策決定会合の件で伺う。4月の金融政策決定会合で植田総裁は会見中、「基調的な物価上昇に足元の為替が与える影響はないか」という質問に対して、「はい」と答え、その間にも急激に円安が進んだ。こうした会見での植田総裁の発言は、ミスコミュニケーションだったのではないかという厳しい声もあるが、会長はこの発言についてどう評価されているか。
(答)
 4月の金融政策決定会合後の記者会見における植田総裁のご発言に関して、これは日本銀行による分析を踏まえたものであり、それに対する全銀協会長としてのコメントは差し控えさせていただく。


(問)
 都知事選が間もなく告示される。過去には石原都知事によって銀行税が創設されるなど、銀行界にも多分に影響があった。候補者が乱立し、いろいろ言われているなかで、銀行業界として都知事選に望む声や期待するものがあれば伺いたい。
(答)
 選挙に関して全銀協としてコメントする立場にはないので、直接の回答は差し控えたいが、都政への期待については3点ほど申しあげたいと思っている。
 まずは、子育て世代や働く女性、若者への支援、健康で活力ある高齢者が生き生きと活躍できるような社会づくりを積極的に推進していただきたいと思っている。こうした社会づくりは、都民の生活に直結するとともに、東京都のみならず日本経済全体の活性化という観点でも重要であると考えている。
 2つ目に、金融の観点からは、国が掲げる「資産運用立国」の実現に向けた金融・資産運用特区としての取組推進や、スタートアップ支援、中堅・中小企業の活力増進のための施策を、力強く進めていただきたいと思う。
 そのほか、インバウンド観光および関連消費のさらなる拡大も重要である。歴史や伝統文化、食、コト消費など、東京が持つ多彩な魅力を戦略的に発信、PRしていただきたいと思う。世界各地から東京を訪れた観光客が、東京を起点に全国各地へ周遊することで、地域経済も活性化していくのではないか。
 選挙の結果、どなたが知事に就任されても、首都・東京、国際都市・東京が、今後も持続的に成長していけるよう、さまざまな施策を未来志向で推進していただきたいと思っている。


(問)
 気候変動関連で1点伺う。今月後半に定時株主総会を予定されているが、3メガバンクが環境団体から気候変動対応に対する株主提案を受けている。それに対する受止めと、銀行界として、国内外の投資家にも気候変動対応の取組みに対する理解を得られるようにするために、どのように対応するべきか、ということについて伺いたい。
(答)
 銀行界は、気候変動対応を最重要課題の一つとして位置付け、各ステークホルダーと密に連携して取り組んでいる。環境NGOなどの市民社会の声に対しても真摯に耳を傾けている。
 今回3メガバンクに寄せられた株主提案は、脱炭素支援における情報開示の強化と、取締役の気候変動関連に関するコンピテンシーを問う内容だった。株主提案への対応は個別行の判断によるものであるので、全銀協会長としてのコメントは差し控えさせていただくが、SMBCグループの対応について簡単に触れたいと思う。
 SMBCグループでは、昨年9月に公表したTCFDレポート2023で、お客さまの移行計画の確認結果をお示ししたほか、本年5月にはトランジション・ファイナンスの取組み実績に関する対外公表を開始するなど、気候変動リスクに係る開示の高度化に積極的に取り組んでいる。加えて、取締役の気候変動関連に関するコンピテンシーについても、スキルマトリックスにサステナビリティの知見・経験に関する項目を設け、ステークホルダーに開示している。
 銀行業界の気候変動対応の取組みが国内外の投資家に広く求められるためには、金融界のみならず、産業界、政府、国際社会とも密に連携・協力し、一体となって取り組んでいくことが重要である。引き続き開示の高度化に取り組みつつ、国内外のさまざまなステークホルダーとの対話を通じて、気候変動に対する銀行の考え方や戦略について丁寧な説明を行っていく。