2024年7月18日

福留会長記者会見(三井住友銀行頭取)

辻専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


 まず、先週より続いている大雨災害について一言申しあげる。
 今月9日から全国各地で発生している大雨災害については、広域にわたり甚大な被害が発生した。県道が崩落し、500人超の住民が孤立状態となった島根県出雲市に対しては、災害救助法が適用された。また、愛媛県松山市では、土砂崩れによって3人の方が尊い命を落とされた。亡くなられた方々に対し謹んでお悔やみを申しあげるとともに、被災された皆さまに心からお見舞いを申しあげる。
 被災地域が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災された方々が通常の生活を一刻も早く取り戻すことができるよう、銀行界としても払戻しや融資に係る柔軟な対応を行うなどしっかりと支援して参る。


(問)
 2問お願いする。1問目は、銀証ファイアーウォール規制について。6月21日に閣議決定されたいわゆる「骨太の方針2024」では、そのあり方について検討を行うことが盛り込まれる一方で、6月24日には銀証ファイアーウォール規制違反などで、金融庁が三菱UFJ銀行などに対し業務改善命令を発出した。こうした状況が銀証ファイアーウォール規制に関する議論に与える影響と、これまで規制緩和を求めてきた全銀協として、今後の議論にどう関わっていくのか、現時点の会長のお考えを伺いたい。
(答)
 会員行において、お客さまの信頼を損なうような事案が発生したことを、全銀協会長として大変申し訳なく思っている。本件を契機に、銀行界として改めて管理態勢の強化や見直しを行い、お客さまからの信頼回復に務めて参る。
 他方で、いわゆる「失われた30年」から脱却しつつあるなか、資産運用立国の実現や日本の再成長に向けた取組みは待ったなしだと思っている。そのような状況下、金融機関が大企業だけではなく中堅・中小企業のお客さまに対しても、また法人だけでなく個人のお客さまに対しても、今まで以上に隅々まで証券サービスを提供することが重要であると認識している。
 銀証ファイアーウォール規制の緩和は、サービス提供の入り口として、金融機関がお客さまの潜在的なニーズにタッチする機会を増やし、気づきを与えるうえで非常に重要な要素と考えている。管理態勢の強化、見直しを不断に行っていくことと並行して、関係する皆さまと丁寧にコミュニケーションを取りながら引き続き緩和を求めて参りたい。


(問)
 2問目は、新紙幣関連で伺う。7月3日に、約20年ぶりとなる新紙幣の発行が行われ、会員各行での準備などもあり、大きなトラブルはなかったと認識している。まずは、このことについての受止めを伺いたい。
 また、新紙幣発行の一方で、国や銀行業界としてもキャッシュレス化の取組みを進めているが、今回の新紙幣発行と、それがキャッシュレス化に与える影響や新紙幣発行を契機にキャッシュレス化にもどのように銀行界として取り組むのか、会長のお考えを伺いたい。
(答)
 まずは、今月の新紙幣の取扱いの開始については、日本銀行や金融機関の皆さまによる周到な準備、そして何より、金融機関の案内を踏まえて冷静に対応してくださったお客さまのご協力のおかげで、大きなトラブルなく、このような大きなイベントを乗り越えることができたと考えている。関係者の皆さまとお客さまには心から感謝申しあげる。
 次に、今回の新紙幣発行と、それがキャッシュレス化に与える影響についてであるが、そもそも新紙幣を発行する主な目的は偽造対策の強化と認識しているが、一部では新紙幣発行を契機に券売機や運賃箱をキャッシュレス決済専用の機種に更新するような動きも見られており、キャッシュレス推進に繋がる副次的な効果もあるようである。
 個人としては、効率化やデータ利活用の観点から、将来的には完全キャッシュレスを実現すべきだとは考えているが、高齢者の方々を中心にスマートフォンなどによるお取引に不慣れな方々はまだまだいらっしゃり、金融包摂の観点から、当面、現金は役割を持ち続けるとも思っている。
 また、社会慣習の観点からも、現金は存在意義を持っていると考えている。例えば、結婚式のご祝儀として華やかなご祝儀袋に現金を包んで祝福の気持ちを新郎新婦に伝えるといったような素敵な慣習が日本社会にはある。また、お年玉についても、お子さんたちが現金を受け取ることで、お年玉をもらったという実感を持って大いに喜ぶものであり、お金のありがたみを知るきっかけになっているのではないかとも思っている。このように現金は単なる決済手段としての役割だけでなく、社会慣習を支える役割も担っているのではないだろうか。
 ただし、最近では、このようなご祝儀やお年玉を電子マネーで贈るケースも出ていると聞いている。銀行界としては、こうした社会慣習の変化にも注意を払いながらキャッシュレス化を推進して参る。


(問)
 一つ目、金利の上昇局面の事業者支援について伺う。今後、追加利上げがどこかであって、貸出金利が上昇していくと、その金利の負担に耐えられない企業が出てくると思う。例えば廃業支援も含め、銀行界としてどう事業者支援に取り組むか伺いたい。
(答)
 コロナ禍をきっかけに増大した債務や物価高、または人手不足などの影響により、中小・小規模事業者を中心に未だに厳しい経営状況にあるお客さまもおり、足元の倒産件数は増加傾向が続いている。このなかで、金利上昇は景気拡大の証ともいえるが、ミクロで見れば財務影響に注意が必要な企業が出てくることも想定される。中小・小規模事業者がこうした状況を乗り越えるうえで、生産性向上や事業再構築による収益力の強化は不可欠であり、各行は資金繰り支援にとどまらない支援に積極的に取り組んでいるものと理解している。
 例えばDXを通じた業務の効率化、業務あっせんを通じたビジネスの拡大など、お客さまの本業支援を通じた経営改善に取り組む会員行が増えている。また、自力での経営改善が難しいお客さまに対しては、お客さまのご意向を十分に踏まえたうえで、抜本的な再生支援のほか、場合によっては第三者への事業譲渡や廃業に向けた支援も行われている。その際、円滑な支援に必要となる知見、リソース、資金等を確保するため、補助金や融資制度、税制優遇措置などの政府の支援制度、そして、官民のさまざまな支援機関、専門家とのネットワークをフル活用することが重要であると考えている。
 なお、全銀協では、昨年11月に「お客さまの経営課題を見極め、早期に解決策を提案することを通じて、経営改善や再生支援などの総合的な支援に注力していく」旨、申し合わせを行っている。加えて、今年の1月には「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を改定し、ガイドラインにもとづく私的整理手続の運用改善を図った。引き続き、会員行による事業者支援の取組みを続けていく。


(問)
 サイバーセキュリティについて伺う。最近も深刻なサイバー攻撃が相次いでおり、場合によっては事業が止まってしまうリスクも顕在化している。さらに、顧客の情報と引換えに身代金を要求する事例もあり、こうしたことを踏まえて、今後、業界としてどのように取り組まれるかを伺いたい。
(答)
 サイバー攻撃の被害は、茲許の地政学的な緊張の高まりなどを背景に、世界規模で増加傾向にあり、その手口は日々、高度化かつ多様化している。
 日本国内においても、企業や団体におけるランサムウェアの被害が業種を問わず拡大しており、あらゆる企業において、サイバー攻撃の最新の傾向を踏まえたセキュリティ対策について検討する必要があると認識している。特に、金融機関は国民生活や経済活動を支えるインフラ事業者として、より一層強固なサイバーセキュリティ対策を講じる必要があると考えている。
 6月28日に、金融庁が公表した「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン(案)」では、サイバーセキュリティに関する基本的な考え方と金融機関に求められる管理態勢が示され、サイバーセキュリティ管理態勢強化に向けた「基本的な対応事項」および「対応が望ましい事項」が規定されている。
 これを踏まえて、各金融機関においてはサイバーセキュリティ対策に関する経営陣の関与や理解を一層深め、脆弱性対策や、サイバー攻撃を想定した演習によるレジリエンスの確認および強化、また、カルチャー醸成などの各種施策に対して、自社の規模や特性に応じてリスクベースで取り組んでいくものと理解している。
 ご承知のとおり、サイバーセキュリティの態勢整備に関しては、金融機関ごとにシステムの構成や運用が異なるため、業界で一律の対応が大変難しく、各金融機関において、自社のリスク評価にもとづいた対応が求められている。
 全銀協としては、好事例集の発行や経営層を対象とした勉強会の開催などを通じ、会員行の対応をサポートしていく。


(問)
 為替について伺う。7月上旬には1ドル161円台をつけるなど約38年ぶりの安値を更新した一方で、直近足元ではまた円高に振れているという状況である。改めて、最近の為替相場の動きへの受止めと今後の為替の見通しについて伺いたい。
(答)
 少し振り返ると、ドル円相場は今年に入ってから年初は140円台で推移していた。140円近辺から20円程度上昇してきたわけだが、その最大の要因は、おそらく米国経済が大方の予想を超えて底堅く推移し、景気減速のペースが想定より緩やかなものになっていることを受け、FRBが利下げの開始に慎重なスタンスを示してきたことだと言われており、私もその認識である。
 ところが、ご承知のとおり、今月3日、1986年12月以来の円安水準となる1ドル162円に迫った後、6月の米国CPIが予想に反して前月比マイナスとなったことをきっかけに、円高方向に調整し、現在は150円台の後半で推移している状況かと思う。パウエルFRB議長がインフレの抑制について、「1-3月期は進展がなかったが、4-6月期は幾らか前進した」という趣旨の発言をしたり、アメリカの大統領選の結果は見通せないが、トランプ氏が、「現在は大幅なドル高・円安となっており、大きな通貨問題を抱えている」というような趣旨の発言をしたことを踏まえると、これまでの円安方向のトレンドから、この1週間ぐらいで、潮目が変わる可能性が出てきたとも思っている。そうは言っても、日米の金利差は依然として大きく、当面、円安圧力そのものは継続すると見ている。米国経済の動向により、相場が今後も上下に触れやすい状況も続くのではないか。
 しかし、いずれ米国は利下げ局面に入ると思うし、金利差は縮小していくというのがベースシナリオである。政府による為替介入の効果も一定程度あるだろうから、ここから急ピッチに、年初から20円上げたように円安が進んでいく雰囲気はなく、時間の経過とともに緩やかな円高トレンドに移っていくのではないか。ただし、米国経済が再加速し、インフレ懸念が再び浮上してくると、日米金利差の拡大が意識されて、再び円安が加速するリスクもあるため、この点は注視している。


(問)
 銀行と顧客の力関係について伺いたい。優越的地位の濫用というのが久しぶりに話題になっている。銀行の借り手に対する優越的地位は、地方の中小企業などではあてはまると思うが、そもそも問題視されるのは優越的地位の濫用であって、しかも濫用の結果、公正な市場競争が阻害されることが問題で、優越的地位にあるということは別に問題ではないと思っている。そのなかでお聞きしたいのが、果たして銀行は今、顧客に対して優越的地位にあるのかという点。最近、多数の銀行が取引している企業の粉飾事案などもあったほか、デットガバナンスという言葉が出てきて、銀行にはデットガバナンスを発揮してほしいなどの指摘が出てくると、もう銀行は顧客に対して優越的地位でも何でもなく、むしろ立場は劣化して弱くなっているのではないかと考えている、この点について、会長はどうご覧になっているか。
(答)
 2000年代に入ってから、企業セクターは資金余剰の傾向が強くなり、お借入れの需要が低下してきた一方で、直接金融市場、証券市場の発達によって企業の資金調達手段が多様化して、銀行貸出が企業の資金調達に占める割合も低下してきている。また、日本銀行による異次元の金融緩和を受け、銀行間の貸出競争が激化し、いわゆる借り手市場において、お客さまに対する銀行の取引地位は徐々に低下してきたと考えている。ただし、個別には中小企業など銀行借入れに資金繰りを依存しているお客さまも存在しており、そうしたお客さまに対しては、当然ながら優越的地位の濫用防止に十分留意する必要がある。
 なお、銀行の取引地位により、企業の情報開示姿勢は変わり得るかもしれないが、銀行がご融資を行う前提として、優越的地位とは関係なく、お客さまに必要かつ適切な開示を求めるものであり、仮に不適切な開示があれば厳格な姿勢を示すところである。とはいえ、なかには巧妙な手口で粉飾が隠蔽されているケースもあるため、銀行の融資担当者はお客さまとよく対話し、時には実地調査も行いながら、開示された情報の適切性についてしっかりと確認していく必要があると考えている。


(問)
 銀証の兼職について伺いたい。2022年6月にホームベースルールが撤廃された。兼職者は銀行、証券、どちらの非公開情報に対してもアクセスできるようになったと理解しているが、3メガバンクにおいて、あまり銀証の兼職が進んでいないと認識している。行政処分が出るなどの事態もあったが、規制緩和が行われているにも関わらず、銀証兼職が進まない理由として、何がボトルネックとなっているのか。また、ダブルハットについて、今後どのような展開がされていくと考えているか、見解を伺いたい。
(答)
 最大のボトルネックは人材不足である。2009年までは銀証兼職は規制上認められていなかったため、銀行と証券の両方のスキルを持った人材は、非常に限られていた。銀証兼職が解禁されて以降、一所懸命人材育成を行っており、足元では、同一金融グループ内では、銀行と証券の双方向の人材交流が盛んに行われている。そういう意味では、徐々に人材プールが作られてきているのではないかと認識している。
 もう一つ、銀証兼職を阻んでいる要因としては、外務員の二重登録禁止規制が挙げられる。少しテクニカルな話だが、この規制は、兼職組織の役職員であったとしても、銀行もしくは証券会社のどちらか一方でしか外務員登録ができないという制度である。これによって、証券会社で外務員登録された営業員は、金融商品取引法により定められた商品のうち、銀行系商品については提案することができない。また逆に、銀行で外務員登録された営業員は、証券系商品については提案ができない。この規制により、銀行系商品と証券系商品のワンストップ提案という銀証兼職の趣旨は、完全に実現されていない。
 足元、お客さまのニーズが一層複雑化するなか、金融機関には、銀証一体で総合的な金融サービスを提供し、お客さまの期待に応えることが求められていると認識している。今後、先ほど申しあげた人材面、制度面が整っていくことで、銀証兼職は拡大していくのではないかと考えている。


(問)
 先ほど為替のところで触れられていたが、秋に米統領選が控えており、トランプ氏の当選の確度が高まってきているとの見方もある。選挙結果が日米関係に与える影響をどのように考えているか。また、インフレの懸念等、当選をリスクとして捉える声もあると思うが、銀行業界に与える影響も含めて、どのように見ているのか伺いたい。
(答)
 まずもって、トランプ氏に対する銃撃事件について触れたいと思う。トランプ氏ご本人もだが、負傷された方、そして亡くなられた方に、お見舞いとご冥福をお祈り申しあげる。
 言うまでもないことだが、選挙において、言論ではなく暴力によって影響を及ぼそうとする行為は民主主義の根幹を脅かす暴挙であり、決して許されるものではないということも付け加えたい。
 トランプ氏は共和党の大統領候補として先日正式に選出され、副大統領候補としてバンス氏が指名されている。投票日まで4ヶ月を切るなか、民主党の大統領候補である現職のバイデン氏とともに、ますます白熱した戦いが繰り広げられていくと認識している。現時点では、先週からの動きでは、トランプ氏が有利とは聞いているが、最後まで予測が難しいと思っている。選挙の先行きや、銀行界を含む各方面への影響については、全銀協会長として、何か予断を持ってお答えすることは控えさせていただきたい。
 もちろん両候補が、経済、通商政策や気候変動政策、そして外交あるいは移民、国境政策など、多くの分野で異なる方針を掲げていることは認識している。一方で、いずれの候補が勝利するにせよ、日本にとって米国が引き続き最重要のパートナーである点は変わらないと考えている。また、日米関係も、二国間や地域にとどまらず、法の支配にもとづく「自由で開かれた国際秩序」を共に維持、強化していくうえで、相互に協力して役割を果たす「グローバル・パートナーシップ関係」に進化してきていることも認識している。したがって、経済や外交などさまざまな面で、今後も緊密な協力、連携関係が続くものと考えているし、そうなることを期待している。


(問)
 スタートアップ支援について伺う。宇宙ビジネスを含むディープテック分野など、今後の成長が期待される領域が注目されているが、キャッシュフローが読めないことや固定資産を持っていないことを背景に、デット資金調達のハードルが高いという企業も散見される。一方で、6月に国会で事業性融資推進法案が可決され、今後、企業価値担保権が活用される可能性もある。こうした一連の動きがあるなかで、銀行界はどのようにスタートアップの支援を行っていくべきか、ご所見を伺いたい。
(答)
 おっしゃるとおり、製造業が発達し、技術力や研究開発力に強みを有するわが国においては、特にディープテック領域は、今後の成長領域として期待が高まっている。
 ただし、この分野のスタートアップは、ビジネスモデルが確立されていない初期の段階では、おっしゃるようにキャッシュフローの予測が大変難しく、エクイティによる資金調達が一般的である。
 そうしたなか、次のエクイティ調達までの間、銀行が短期のつなぎ資金を融資することで、スタートアップが事業展開のスピードを緩めることなく、投資家としっかり時間をかけて交渉を行い、満足のいくかたちでエクイティ調達を行うことができると考えられている。
 加えて、スタートアップのビジネスモデルが成熟してくると、事業を大きく拡大させるため、エクイティだけでなくデットによる調達が本格的に検討されるようになる。
 こうしたベンチャー融資を拡充する流れにあるなか、全銀協としては、本年度、「新事業創出・育成支援検討部会」を新設した。わが国ならではの環境に照らし、スタートアップの資金調達環境を整備すべく、政策提言を行っていくとともに、各行のスタートアップ融資拡大の取組みを後押しするため、態勢高度化の参考となるハンドブックを作成予定である。
 なお、ご指摘のあった企業価値担保権については、固定資産を有していないスタートアップなどへの融資において、活用する場面が出てくるのではないかと期待している。実務面において2年半の検討期間があることから、実効性のある制度となるよう銀行界として政府と調整をしていきたいと考えている。
 また、特にディープテックベンチャーに対する融資の拡大という観点からは、経済産業省が創設した債務保証制度の活用が進んでいる。本制度については、今後、上場したもののまだ成長途中にあるスタートアップや、短期のつなぎ資金にも対象が拡充されるよう検討が進むことを期待している。
 さらに、デット提供者の立場にとどまらず、エクイティ投資家としても銀行がスタートアップ支援に貢献できる余地は大きいと考えている。銀行は、投資専門子会社を通じてスタートアップにマジョリティ出資を行うことができるが、現状では投資先は非上場のベンチャーに限られ、上場後1年以内に持ち分を売却しなければいけないとされている。これを、一定の要件を満たせば上場後のベンチャーも対象とするといったかたちに規制が緩和されることで、上場後に伴走者が不在となることで成長が停滞するスタートアップが散見される、というような課題の解決にもつながると考えている。


(問)
 銀証連携における情報共有について伺う。銀証間での情報共有においては、ここ最近、法令違反が発生しており、ルールを守りながら連携を進めることが難しいのではないかとも思う。こうした事案は何がネックとなって起きてしまうとお考えか。情報共有における課題や難しさはどういうところにあると考えているか。加えて、正しく連携を行うためには、どういった取組みが必要と考えているか、伺いたい。
(答)
 まず、各行の役職員の大多数は非常に高い倫理観を持って業務に取り組んでいると認識しているが、残念ながら一部において不適切な行為が行われたということも事実である。各行におけるコンプライアンス意識醸成に向けた不断の取組みと、状況に応じた取組み内容の見直しが大切であると考えている。
 銀行と証券との間の情報連携を正しく行うためには、管理体制の整備もさることながら、役職員一人一人が法令の趣旨を正しく理解することが重要だと思う。お客さまのニーズは多種多様であり、時とともに変容するなかで、各法令がお客さまのどのような権利を保護し、どのような利益を実現することを目的としているのか、本部および営業現場のいずれもがしっかりと理解し、腹落ちしたうえで業務に当たることがポイントなのではないかと考えている。


(問)
 もう1点は、日本銀行の金融政策の関連である。7月の金融政策決定会合のなかで、今後1~2年程度の具体的な長期国債の買入れ減額について決定をするという方針だが、この国債の買入れ減額が行われた場合、銀行界に与える影響について、プラスないしマイナスかを含めてお考えをお願いする。また、実際に減額となった場合に、減額分を誰が購入する可能性があるのかということについてもお願いする。
(答)
 日本銀行が国債買入れを減額し、それによって長期金利が上昇した場合の影響は、各行まちまちだと思われるが、一般的には既存の債券ポートフォリオにおいて評価損益が悪化する一方で、新規の長期固定貸出金利や新規の債券投資利回りが改善するので、総じて見ればプラスの影響が見込まれるのではないかと考えている。
 また、当然ながら、今後、マーケットの資金量が減少していくことになるので、中長期的には預金の重要性がますます高まっていくと思っている。
 お客さまへの影響としては、新規のお借入れにおいて金利負担が増加するため、設備投資などの案件をより厳選する動きがみられるかもしれない。一方で、短期的には、金利の先高観から、前倒しでの資金調達が増加する可能性もあると考えられる。
 日本銀行が買入れを減額した分の国債については、現在の国債の保有者の状況を踏まえると、主に生保や銀行、そして海外投資家が購入することになるのではないかと思われる。ただし、国債のデュレーションごとに業態間の差が生じると思っており、例えば超長期の国債については、生保を中心としたロングマネーの投資家が主要な購入者になると想定される。また、貯蓄から投資への流れがあるなかで、債券利回りの上昇をきっかけに個人による国債保有が進むことも期待されると思っている。


(問)
 ここまでの質問の確認で1点と、別件で1点伺いたい。まず、為替相場の動向について触れたところの回答で、「政府の為替介入の効果もあるだろう」という発言があったかと思う。この為替介入というのは、先週市場で政府が介入したとされている事案のことを指しているのか、それとも一般論やほかの点を指しているのか、確認させていただきたい。
(答)
 私が申しあげたのは、すでに公表されている約10兆円の為替介入であり、相当、ドル円の需給の改善に影響があったのではないかと考えている。昨今の分についてはまだコンファームされていないため、そちらについては回答を差し控える。


(問)
 2点目は金融犯罪対策について伺う。政府は、投資詐欺などが増えていることを受け、6月に「国民を詐欺から守るための総合対策」を策定するなど、金融犯罪に対する取組みを強化している。全銀協でも、金融犯罪増加の状況を踏まえ、申し合わせを実施するなどの取組みをしており、これ以上実効性のある対策は想像しにくくも映るが、銀行界としてどのような対策を考えていくのか。
(答)
 銀行界としては、足元の投資詐欺被害の急増や金融犯罪に係る手口の悪質化を受け、業界一丸となって対策強化に取り組む方針で一致している。可及的速やかに対策を進め、実現に時間を要する根本的な対策についても、着実に取り組んでいく。
 その際には、お客さまの振込時の注意喚起など、振込を行う銀行側の対策だけではなく、犯罪者の受皿口座を排除するといった受取銀行側の対策も重要だと考えている。また、詐欺で得られた資金のマネー・ローンダリングへの対策強化も含め、被害を抑制していく。特にマネー・ローンダリング対策については、本年4月にサービス提供を開始したマネー・ローンダリング対策共同機構を十分に活用していく。
 なお、投資詐欺については、銀行界だけでなく、投資詐欺の勧誘が行われているSNSの運営事業者も含め、全ての関係者が対策を強化し、犯罪を抑え込んでいくことが重要である。引き続き、警察庁や金融庁などの関連当局とも連携し、最大限の対応を進めていく。


(問)
 銀行の店舗について伺う。銀行業界はかねてから、10年スパンの単位で店舗改革を行ってきており、また、デジタル化の進展に伴い、銀行によっては拠点数を大きく削減するようなところもあった。こうした流れや前向きな声がある一方で、窓口の再編によって遠くの店舗に行かなければならず困っているという声もあり、反応はさまざまである。改めて、銀行にとって店舗がなぜ必要なのか、顧客接点の場としてどのような意義があり、それがどのように変わってきているのか伺いたい。日本だと、どうしても中山間地域、高齢者が多い地域があるので、デジタル化についていけない人が出てくる。そうした人たちに対してどのような対応を取っていくのか、お考えを伺いたい。
(答)
 店舗戦略、店舗運営は、各行のビジネス戦略そのものであるので、全銀協として方向性を示すものではないと承知しているが、その前提でコメントさせていただく。
 顧客ニーズの多様化に合わせ、足元でおっしゃるとおりデジタル化が進展している。取引の大宗がオンラインで完結できるようになりつつある。こうした変化を受け、店舗運営の軸足はお客さまとのより深いコミュニケーションに移ってきており、多様化するニーズに対するコンサルティングを提供する場として、さらに充実させていくことが求められていると認識している。ただし、ご指摘のとおり、店舗窓口の減少に伴い、身近な場所で手続きができず困っているというお客さまの声があることも事実である。
 銀行界としては、お客さまになるべくご不便をおかけしないよう、来店が必要な手続きを極力削減していくとともに、リモートサービスの使い勝手をよりよくするよう努めているところである。また、ATMの共同利用など、金融機関同士でサービスを補完し合う取組みも進めている。
 個別行の話で大変恐縮だが、SMBCでは、高齢のお客さまを中心にデジタルサービスの使い方が分からないというお声があることを踏まえ、店頭もしくはリモートチャネルを通じて、直接操作方法をご案内するマンツーマンのサポートを実施している。また、オンライン詐欺やフィッシング対策等に関する情報提供も行い、安心してサービスをご利用いただけるよう努めている。
 今後も、各行が変化し続けるお客さまのニーズに合わせて店舗戦略を検討し、お客さまの満足度向上に努めていくものと期待している。


(問)
 顧客本位の業務運営に関連して、プロダクトガバナンスについて伺いたい。金融審議会の市場制度ワーキング・グループで、プロダクトガバナンスに関する報告書と、顧客本位の業務運営に関する補充原則案が取りまとめられた。この受止めと、全銀協としての今後の対応について伺いたい。販売会社と運用会社の情報連携についても言及があり、実務的な負担も想定されるなかでどのように議論を進めるべきか、その辺のお考えについても伺いたい。
(答)
 顧客本位の業務運営については、これまでは販売会社に対して語られることが多かった印象だが、おっしゃるように、今回は金融商品の組成から販売まで一貫した、いわゆるインベストメントチェーン全体のあり方が問われていると認識している。製造と販売双方で商品のライフサイクル全体をカバーし、どうやって顧客の最善の利益を確保していくかという議論であり、これは非常に重要であると認識している。製販の情報連携に関する実務対応は、これから固めていくとされており、投資信託に関しては、投資信託協会が設置した新たな会議体の場で検討が行われる。全銀協としては、個別行10行から委員を選出する予定であり、12月を目途に取りまとめられる情報連携のあり方について、これから議論していく。
 プロダクトガバナンスにおける金融商品の概念は、全てのリスク性金融商品を含むものであり、対象となる金融商品に優先順位はないと認識している。また、実務面の議論を進めるうえでのポイントとして、情報連携そのものが形骸化しないよう実効性を高めていくと同時に、実務面で過度な負担がかからないようにすることも必要である。そのためには、リスク度合いや商品の複雑性に応じて、連携する情報の粒度にメリハリをつけることも重要である。4月の会見でも申しあげたとおり、顧客本位の業務運営は、全銀協活動の一丁目一番地と認識しているので、業界全体でプロダクトガバナンスの高度化に向けた取組みが浸透するよう、積極的に旗振りを行い、個別行をフォローしていく。


(問)
 郵便料金の値上げについて伺いたい。2024年10月に郵便料金の値上げが想定されているが、銀行業界への影響についてどのように見ているか。先ほどもデジタル化が進んでいるというお話はあったが、今回の引上げを契機に、さらに業務体制の見直しやデジタル化が進むとお考えか。
(答)
 デジタル化は進んでいるが、銀行界でもキャッシュカードのほか、残高証明書などお取引内容のお知らせ、マネロン対策の一環でお客さまに回答をお願いしている書面、あるいは、商品ご案内のチラシなど、実はまだまださまざまな場面で郵便を利用しているため、今回郵便料金が値上げされることにより一定の影響が生じる見込みである。
 しかし、業務体制の見直しやデジタル化は、郵便料金の値上げを契機としたものではなく、お客さまの利便性向上や銀行界の事務コスト、管理コストの削減を目的に、今までも進めてきたものであり、今後も継続的に取り組んで参る。


(問)
 銀証ファイアーウォール規制の関連でお伺いする。三菱UFJフィナンシャル・グループの事案を受けて、今月の日証協の会見で森田会長が弊害防止措置の態勢整備について述べている。プリンシプルベースになっている現状の指針に対して、より明確な規制のルールを示す必要性について訴えていたと思うが、態勢整備の法令化、より強制力のある規制の仕組みを設けるという方向性の是非について、お考えを改めてお聞きしたい。
(答)
 一般的に、規制をルールベースとすることのメリットは、守るべき指針を明確化できることにあると思う。他方で、規制をプリンシプルベースとすることのメリットは、その時々の状況に応じた柔軟な対応を取りやすいことである。規制のあり方については、金融庁がそうしたメリットとデメリットを総合的に勘案し、決定するものと認識している。
 そもそも弊害防止措置は金融機関の大切なお客さまを守るためのものであり、今回の事案を受け、改めて会員各行が銀証連携の取組みを推進していく大前提として、弊害防止措置の重要性を認識したところである。規制がルールベース、プリンシプルベース、いずれの形式であったとしても、その実効性を確保していくことが不可欠であると考えている。


(問)
 来月、金融経済教育推進機構が本格稼働する。これまでも金融機関は各自で金融教育を実施していたが、機構ができることによって改めてどういう取組みができるのか。また、金融リテラシーを高めるために、全銀協としてできることをどのように考えているか、伺いたい。
(答)
 金融経済教育推進機構、通称J-FLECが司令塔となって、官民一体、国全体での効率的な推進が可能になることから、地域もしくは金融機関によってばらつきがあった金融経済教育の質の確保や、教育を提供する機会の均質化が進むものと期待している。また、J-FLECと民間の金融機関が連携することで、これまで以上に中立性を確保した教育機会の提供も可能になり、それぞれが持つネットワークを活かして効率的に補完し合うことで、これまで手が届きづらかった方々にもリーチできるようになるものと期待している。
 双方の連携のあり方についての理解を深めるため、全銀協では、今月末に、J-FLECを講師とした説明会を開催し、会員行から寄せられた質問、要望をFAQとして取りまとめ、周知していく予定である。
 また、国民の金融リテラシーを上げるためには、資産形成のノウハウのほか、生活設計や家計管理、金融トラブルなども含めた幅広い知識を身につけていただき、自身のニーズに合った最適な金融商品を選択するための判断力を養ってもらうことが重要である。そのためには、J-FLECと民間金融機関が手を組み、J-FLECの標準講義資料も活用して、幅広い世代にアプローチする必要がある。例えば小学生向けには、クイズやゲーム要素を盛り込む、中高生向けには学習指導要領にもとづいたプログラムを提供する、また、社会人向けには、自身のライフプランや資金計画を踏まえた準備の必要性を認識してもらい、行動を促せるようにする、などのアプローチが考えられる。このようにして、誰しもが質の高い金融教育を受けることが当たり前の環境をつくることが、国民の金融リテラシーの向上につながっていくものと考えている。


(問)
 先月、政府の、女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチームの中間報告で、金融業が男女の賃金格差が大きい産業として挙げられ、配置や職務の偏りが課題と指摘されている。業界として対応に着手するようにも求められているが、この指摘に対する受止めと今後の取組みについて伺いたい。
(答)
 まず、男女の賃金格差は、男女平等の観点から、また、組織のパフォーマンスや社会全体の経済的な健全性の確保の観点から、当然、解消が必要な課題と認識している。
 6月5日に公表された中間取りまとめによると、金融業界において男女の賃金格差が生じている要因としては、総合職であることによる転勤や長時間労働を敬遠する女性が多いことや、総合職と一般職という従前の雇用管理の影響が残っていることなどが挙げられている。
 実際、銀行では店頭やバックオフィスにおいて事務作業が多く発生するため、それらを担う一般職が活躍する領域が大きい業種であり、これまで一般職は主に女性が担ってきたことは事実である。一般的には、賃金が高い管理職や専門職には総合職がつくことが多いが、これまで総合職に占める女性の割合が残念ながら低く、管理職や専門職に就く女性の数はどうしても男性対比において少なかったため、賃金格差が生じていたと考えられる。
 もっとも、会員各行はこうした男女の賃金格差を放置してきたわけではない。一足飛びに賃金格差を解消させることは難しいかもしれないが、足元、各行は、例えば、女性のキャリア開発を支援するプログラムや、女性がキャリアを中断せずに働き続けられるような柔軟な勤務体系の導入、あるいは、育児や介護と仕事を両立するための休暇制度の拡充、といった施策を通じて、賃金格差解消に取り組んでいると認識している。
 全銀協としても、個別行における女性活躍推進に向けた取組み事例の取りまとめなどを通じて、会員行の取組みを支援していきたい。


(問)
 銀証ファイアーウォール規制について、追加で教えてほしい。さらに緩和を求める姿勢に変わりないとのことだが、中小企業や個人になると、なおさら弊害防止措置が重要になってくると思う。福留会長の銀行でもファイアーウォール規制違反が過去にあったが、あくまで緩和を求めるのであれば、法令違反の際に身を切る覚悟として、しばしば議論に上がるが、巨額の制裁金を課してもらうことも必要ではないか。また、先ほどプリンシプルベースとルールベースの話があったが、プリンシプルベースとはある意味、金融機関に対する「当たり前のことを当たり前にやってください」という期待値の表れだと思うが、金融機関はその期待に全く応えられていないのではないかという気がする。「がちがちに、ルールではめてもらった方がいいんです、我々は」と求めるようなことも必要ではないかと思うが、どうお考えか。
(答)
 まず、そういった議論が、まだ金融界のなかで具体的にはないので、あくまでも一般論として、あるいは個人的な意見として申しあげると、がちがちのルールでも、これだけ大きな規模の業界あるいは従業員の数で、全員が絶対にミスをしない態勢にするというのは、かなりハードルが高いと考えている。そういう意味では、プリンシプルベースでやっていくべきだと思っているし、海外勤務が長かった身からすると、海外の金融行政も基本的にはそちらである。
 さらに言うと、原理原則はしっかりと守ったうえで、もし何かあったときの罰金を巨額にすることで、各金融機関が自律的にルールを守り、お客さまを守る方に持っていくというのが、私の感触では、今のグローバルのなかでの潮流だと思っている。どちらかといえば、日本も歴史的に特殊な環境はあるが、グローバルベースのルールに合わせていくべきではないかと考えている。


(問)
 為替について伺う。トランプ前大統領の発言があったが、それと時期をほぼ同じくして、現役閣僚である河野デジタル大臣がインタビューにおいて為替の水準を踏まえ、早期の利上げをするべきだと発言したことは異例だと思う。これについての受止め、コメントしづらいのかもしれないが、一般論としても現役の閣僚が為替の水準等に言及することをどうお考えになるか。
(答)
 トランプ氏の発言はきちんと読んでいるが、河野大臣が為替について発言されたことは知っているものの、具体的にどういう発言をされたかは、まだ見ておらず、それに対してコメントすることはフェアではないと思うので、コメントは差し控えさせていただく。