会長記者会見
2024年10月17日
福留会長記者会見(三井住友銀行頭取)
辻専務理事報告
事務局から1点ご報告申しあげる。
本日の全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)の理事会において、次期全銀システムの稼動予定時期を2028年5月として、開発に着手することを決定した。本件については、すでにご案内のとおり、当協会の会見終了後に、全銀ネット事務局から報道関係者の皆さまに向けた説明会を開催する予定であり、詳細についてはそちらでお問合せいただきたい。
会長記者会見の模様
(問)
1問目、政治関連で伺う。自民党総裁選が終わり、石破新総裁が総理に指名された。所信表明演説なども踏まえて、銀行界として政策姿勢の受止めと期待について教えてほしい。また、27日に衆院選があるが、どのようなことを求めているか。
2問目、全銀システムについて伺う。全銀RC障害が発生してから1年が経過したが、その振り返りと、改善策の進捗状況について伺いたい。また、次期全銀システムの開発スケジュールの策定が本日の理事会で決議されたとの報告があったが、次期全銀システムの概要についても併せて教えてほしい。
(答)
先月の会見でも、新政権への期待に関する質問をいただいた。そのときは、「資産運用立国実現プランのような、岸田政権の成果を引き継いでいただいたうえで、新総理ならではの工夫を凝らした成長戦略に、積極果敢に取り組んでいただきたい」と申しあげた。
石破総理は、実行段階に入った「資産運用立国」への取組みのほか、国内投資のさらなる促進、スタートアップ支援、GX・DXの推進など、岸田前政権の経済政策を引き継ぎ、着実に進めていくと打ち出されている。銀行界としては、これらの取組みが継続されることをまずは歓迎したい。
加えて、石破総理は、地方創生のさらなる推進や、産業に思い切った投資が行われる「投資大国」の実現といった注力政策も新たに示された。新政権には、いわゆる「5本の柱」を積極的に実行することで、日本の再成長、豊かな国民生活、そしてわが国経済の好循環を実現していただくことを大いに期待している。
現在行われている衆院選についてだが、石破総理は、今回の解散を「日本の社会のあり方を大きく変える、日本創生の試み」として、わが国には「コストカット型の経済から高付加価値創出型経済」への転換が必要だと述べられている。選挙戦を通じて、この政策目標をどのように実行していくのか、具体的な道筋を明確に示しながら、国民に分かりやすい、丁寧な政策議論を進めていただきたいと思っている。
2点目について、昨年10月に発生した全銀システムの障害では、お客さまをはじめ多くの方々にご心配とご迷惑をおかけした。銀行界の代表として、改めてお詫びを申しあげる。
全銀ネットでは、昨年の障害の徹底的な原因究明を通じて明らかになった課題に対応するため、「システムベンダーに対する委託者としてのマネジメント強化」、「加盟行を含めたBCPの実効性の強化」、「大規模障害を想定した全銀ネットの危機管理体制の強化」、そして最後に、「システム人材の育成とガバナンス強化」の四つの柱からなる改善・再発防止策を策定した。
いずれについても、全銀ネットと加盟行が一体となって鋭意取り組んでおり、ベンダーとの深掘りした議論や実践的な障害訓練の実施、CIOの設置をはじめとした全銀ネットの体制強化等、順調に対応が進捗していることから、ようやく次期全銀プロジェクトの検討を再開できる状況となった。
新システムの稼動予定時期は、当初の2027年11月から2028年5月に約半年間後ろ倒しとなるが、「スケジュールありきではなく、安心・安全の確保を最優先する」との方針にもとづき、慎重に判断した結果であるので、ぜひご理解いただきたい。
さて、次期全銀システムの基本コンセプトは、引き続き、昨年策定した「安全性」、「効率性」、「柔軟性」を用い、基盤技術や接続方式についても、基本的に変更は加えていない。システム基盤は現行のメインフレームではなく、オープン化する。開発言語はCOBOLからJavaへと全面刷新して、機能の拡張性、柔軟性を向上させる。また、APIゲートウェイを開発し、既存の中継コンピューターより接続にかかる負担を軽減する。
ただし、ベンダーに対しては、開発体制の充実や情報開示の改善を求めるなど、マネジメントの強化を図るほか、システム移行時に障害が発生した場合の備えとして、現行のシステムを並走させ、万一の際は元に戻すことも可能とする方式を採用するなど、昨年起きた障害の反省を最大限活かした運営を行っている。
なお、別途ご案内しているが、全銀ネットがこの会見の後に、次期全銀システムの詳細について説明申しあげるので、よろしくお願いしたい。
(問)
1点目は政策議論のあり方について。選挙戦での経済政策の議論においては、例えば消費税の扱いや給付等、短期的な国民生活に関する議論がどうしても先行するが、将来の日本経済のあり方についても議論が必要だと思う。そういう意味で、望ましい経済に関する議論のあり方について、どのように期待しているか。
2点目は日本銀行の今後の利上げペースに関するご見解を伺いたい。石破総理は、就任後、追加利上げをするような環境にはないと発言した後に、日本銀行と同じスタンスだという補足説明を行っている。一方、日本銀行は、海外経済のリスクや金融資本市場の不安定さを理由に、金融調節の判断には時間的余裕があるという見解を示している。経済がオントラックであれば、前広に金利を調整していくべきか、ご見解を伺いたい。
(答)
1点目に関しては、岸田政権において様々な取組みが進められたことで、明らかにこの1~2年で日本経済が回り出していることを実感している。新政権には、資産運用立国実現プランのもと、貯蓄から投資への流れを推進すると共に、事業者支援やスタートアップ支援の活性化等、今まで取り組んできたことを引き続きしっかりと進めていただきたい。
そのほか、GXやDXについては政府支援で様々な取組みが進んでいるので、こうした分野も今まで以上に活発に推進していただければと思っている。
2点目の日本銀行の金融政策に関しては、具体的に利上げの水準や時期について予想を述べることは差し控えたいと思う。
そのうえで申しあげると、総理のコメントは、あくまで総理個人の見解を示したものであり、金融政策について直接的な示唆を与えたものではないと認識している。
一方で、足元のわが国経済は、ようやくプラスに転じた実質賃金が再びマイナスに戻るなど、非常に繊細な状況にあると思っている。長きにわたるデフレからの脱却に向け、政府と日本銀行が緊密に連携していくことは極めて重要であると考えている。
今後の金融政策については、政策担当者である日本銀行が、引き続き政府とも連携しながら、賃金やインフレの動向、そして金融市場の安定性を慎重に見極め、決定していくものと思っている。
個人的には、日本経済は賃金と物価の好循環が実現するか否かのまさにティッピングポイントにあると見ており、これまでも申しあげてきたが、今後の利上げのペースは、非常にゆっくりしたものになるのではないかと思っている。
(問)
1点目は来月予定されている東証の時間延長に関して、銀行界では投信の販売業務などで対応が求められると思うが、現在の銀行界の対応状況について伺いたい。また、関連して、適時開示の時間の後ろ出しが予想されているところもあり、東証は速やかな情報開示の検討を求めている。銀行をはじめ上場企業の早期開示の実現性や課題について見解を伺いたい。
2点目はバーゼルIIIの最終化について、日本と欧米での対応の足並みが揃わない状況が予想されるかと思うが、この受止めと邦銀の国際競争力に与える影響について所見を伺いたい。
(答)
1点目は、まず東証の取引時間延長により、銀行においては、投資信託の注文の受付時限や基準価額に関わる事務手続に影響が生じる。今回、投信協は、投信売買の受付時限を、現状の「15時」から「15時30分」とする旨を決定している。しかし、各行が実際にお客さまから注文を受け付ける時限を延長するかは、取扱いの商品やサービスが銀行ごとにまちまちであることもあり、全銀協としては一律に方針を定めてはいない。東証の取引時間の延長開始まで1か月を切っており、各行が注文受付時限の見直しの有無について順次公表しているので、適宜ご確認いただきたい。
次に、基準価額に関わる事務手続は、投信会社は販売会社が集計した当日の追加申込みと解約申込みのデータを基に、基準価額を算定、その上で、販売会社が基準価額に応じた勘定処理を行う流れになっている。東証の取引時間延長後もこの一連の事務手続が円滑に行われ、勘定処理に影響が出ないよう、各投信会社と銀行において対応が進められているものと理解している。
続いて、上場企業における適時開示のタイミングについてである。適時開示情報は、立会時間中であるか否かにかかわらず、重要な会社情報の発生後、直ちに開示することが求められている。一方で、「正確で詳細な適時開示を行うべく、一定の社内手続を経る運営としており、開示までには一定の時間が必要」といった意見や、「立会時間中に適時開示情報が公表されることで、それを知っている投資家と知らない投資家との間に不公平が生じる」といった意見など、さまざまな声があることも承知している。したがって、適時開示のタイミングについては、各上場企業がそれぞれの開示体制や開示方針にもとづき判断するものと認識している。
2点目は、本邦では、今年の3月からバーゼルIIIが適用されている一方、欧米主要国ではいまだ適用されていない。米国では昨年7月に規則案が公表されたが、国際合意よりも厳しい内容であったことから、米国銀行界の非常に強い反発を受け、現在見直しが進められている。適用開始は当初予定の2025年7月から遅れる公算が大きくなっている。EUでは、2025年1月からの適用が予定されているが、銀行のマーケット・リスクに対する資本賦課の枠組みを定めたFRTB規制の適用は2026年1月となっており、英国では規制全体の適用が2026年1月まで半年間延期されている。
バーゼルIIIは、世界的な金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めることを目的として議論されてきた。そのため、日本が欧米を待たずに先行して適用することは適切な措置であり、欧米においても可能な限り早期に実施されることが重要であると認識している。
続いて、バーゼルIIIの規制内容についてだが、「第1の柱」と呼ばれる、銀行が最低限維持しなければならない自己資本比率の計算方法において、差異がある状況である。米国では先月10日にFRBのバー副議長より、現在見直し中の修正案の概要が明らかにされた。リスクアセットの計測方法は、多くの点で国際合意の水準に見直される模様だが、一部は厳しいままとなる可能性がある。EUおよび英国の規則案では、無格付企業に対するエクスポージャーのリスクウェイトが国際合意と比較して緩和的なものとなっている。
なお、欧米の各銀行には、「第1の柱」で求められる資本に加えて、監督当局より「第2の柱」として、銀行ごとのリスクに応じた資本の上乗せが求められている。そのため、各法域における規制の強弱を比較するには、「第2の柱」も含めた総合的な検証が必要であり、今後公表される規制の詳細を注視していく。そして、仮に邦銀にとって不利な結果が判明した場合には、国内外に対し、イコールフッティングの確保を強く訴えていく。
(問)
1点目は銀行界の最近の事業環境について。上期が終わったが、「金利ある世界」が到来したことで、一定程度業績に対しては良い影響もあったと思う。銀行を取り巻く事業環境がどうであったか、認識を伺いたい。また加えて、下期の見通しについてもお願いしたい。
2点目は店舗のあり方について。近年、コスト削減を目的に店舗を減らすという動きも見られる一方で、例えば口座開設であるとか、相談業務に特化した特化型の店舗も出てきている。店舗の存在意義がだんだん変化してきていると思うが、こうした店舗のあるべき姿とか、あり方について見解を伺いたい。
(答)
1点目、上期の業績については、各行の収益構造や経営戦略によって大きく異なるので、一概には申しあげられないが、ご指摘のとおり、「金利ある世界」が到来したことは、一定のプラス要因として働いたというように考えている。もっとも金利の上昇以上に、景況感の好転に伴い、企業活動が大変活発化して、例えばDXやGX関連の設備投資や、あるいは事業拡大に向けたM&Aへの資金需要が増加したことなどが、足元の好業績につながっていると認識している。また、個人のお客さまにおいても、NISA口座における買付額は今年上半期で10兆円を超え、すでに昨年1年の5兆円の2倍となっており、「貯蓄から投資へ」の動きに弾みがついてきた。いよいよ日本経済全体が成長の好循環に入ったように感じており、下期についてもこの良好な環境が続くのではないかと考えている。
一方、海外に目を向けると、米大統領選、中東やロシアの情勢、台湾有事といった政局や地政学リスクが存在しているので、先行きが不透明な状況は続いている。ただし、欧米の中央銀行が利下げを開始するなか、世界経済の大幅な減速は回避されるのではないかというように考えている。
また、為替が昨年度対比で円高に振れた場合は、海外事業の比率の高いメガバンクを中心に、海外収益の円換算額に一定程度の影響が及ぶ可能性がある。しかし、先ほど申しあげたとおり、個人・法人の動きが活発化していることにより、マイナス影響は十分にカバーされるのではないかと思っている。
銀行界としては、引き続きお客さまの多様なニーズにお応えすることに全力を尽くして、成長の好循環の定着に貢献して参りたい。
2点目の店舗戦略や店舗運営は、各行のビジネス戦略に大きく依存しているので、あくまでも一般論として、昨今のトレンドについて話したい。
近年、デジタル化が急速に進展し、多くの事務手続がオンラインで完結できるようになった。こうした変化を受け、従来のようにフルバンク形式で、広範に店舗網を敷く必要性は徐々に薄れてきている。しかし、店舗のビジネス戦略上の重要性が低下したわけではない。お客さまからご相談を受け、コンサルティングを行う、お客さまの潜在ニーズに訴えかけるなど、対面サービスを提供するチャネルとして引き続き重要な役割を果たしている。
このような目的を考えると、お客さまのライフスタイルになじみやすい立地や営業時間、そしてユーザーエクスペリエンスを追求した空間の提供など、お客さま視点にもとづく店舗運営がこれまで以上に重要になってきたのではないか。各行が店舗運営においても創意工夫を凝らし、差別化を図り、切磋琢磨していく時代に入ったと見ている。
(問)
規制改革について伺う。会長が就任されたときに、スタートアップを念頭にした出資について規制改革の話をされた。この前も三井住友フィナンシャルグループの中島社長があるイベントで、「ECは銀行業ができるのに我々はECができない」ということを言っていた。銀行界が規制改革で求めていることはいっぱいあると思う。新政権になって今は選挙をやっているが、選挙後は、税制改正や予算が本格的に組まれていく時期を迎えるが、今改めて規制改革でどのようなところがポイントか、注力している項目が何か教えてほしい。
(答)
おっしゃるようにたくさんある。良い機会なので、全部言わせてもらおうと思う。
お客さまの多様なニーズにお応えするため、各社はさまざまな新ビジネスを検討しており、その実現に向け、多くの規制緩和を要望しているのはおっしゃるとおりである。そのなかでも銀行界としては、政府の挙げる資産運用立国および事業者支援の拡充に資する要望項目の実現を特に期待している。
まず、資産運用立国関連の項目について、現行の規制では、金融業の範疇から外れる業務をわずかでも営んでいる場合は、買収は認められていない。このことが、海外の先進的な資産運用技術を取り入れ、資産運用業を高度化していくうえでの妨げとなる可能性があり、緩和を要望している。
また、スタートアップへの資金供給を行う特定投資家の拡大のための要望も重要と考えている。企業経営の経験があり、事業リスクを理解する会社役員や幹部が特定投資家になれる制度とすることや、要件を満たすものの特定投資家になっていない方に対し、非上場企業の情報などを提供できるようにし、特定投資家成りを促すことで投資家層の拡大が見込まれる。
従来から要望している銀証ファイアーウォール規制の緩和については、情報管理体制の整備が重要なのは当然として、資産運用立国を推進する観点から、銀行界として引き続き要望していく。
次に、スタートアップ向けを中心とする事業者支援に関連する要望だが、まず、銀行の投資専門子会社の投資対象が拡充されることを期待している。欧米と比べ、依然としてわが国ではスタートアップへの投資額が少ないなか、上場前後で多額のグロースマネーが必要となるスタートアップに対する資金供給が特に不足しており、また、その担い手も限られている。銀行が投資専門子会社を通じて、さらに寄り添って支援することができるよう、上場済みの企業への投資を解禁するなど、投資要件の一層の緩和を要望している。
また、銀行によるスタートアップへの資金供給には、当然のことながら、本業であるデットの役割も重要である。この点、海外では新株予約権付融資は数多く活用されている。
一方、わが国では新株予約権付融資において、新株予約権が利息に該当するかどうかが不明確なため、意図せずに利息制限法等に抵触することを懸念して、金融機関が新株予約権付融資に踏み切りづらいという状況が存在している。
新株予約権付融資による適切なリターンの確保を可能にし、多くの金融機関がスタートアップ融資を拡大できるよう、利息制限法・出資法の明確化・緩和をお願いしている。
最後に、債務保証制度に関する要望である。政府におけるデット供給の拡大促進策としては、2021年の産業競争力強化法の改正により、大型ベンチャーへの債務保証制度が設けられ、大きな成果をあげている。但し、この制度を利用するためには、非上場企業であることや長期資金であることといった要件が設けられている。昨今のスタートアップの資金ニーズを反映して、銀行が支援を拡大できるよう、短期のつなぎ資金や上場後のスタートアップ、M&Aのバックファイナンスなども対象に入れていただくことをご検討いただきたいと考えている。
(問)
1点目は米国経済について伺いたい。日本銀行の植田総裁が、9月の記者会見で「米国など海外経済の先行き不透明感が意識されており、丁寧に分析して影響を確認したい」と述べ、米国経済の動向を注視するとの考えを示したが、銀行界として、現在の米国経済の状況をどう見ているか、また、日本経済に与える影響についてどう考えているか。
2点目は住宅ローンについて伺いたい。大手行を中心に、短期プライムレートの上昇を受け、10月から変動型の基準金利を引き上げるという動きがあった。顧客の反応や相談の状況は如何か。また、顧客への影響についてどう考えているか。加えて、こうした状況を受け、銀行界としてはどのような対応をされるのか。
(答)
1点目の米国経済については、前回の会見でも触れたが、まず、「底堅い個人消費をはじめ、基調的な強さを保ちながら、FRBによる柔軟なかじ取りもあり、ソフトランディングに向かう」というのが、引き続きメインシナリオであると考えている。
植田総裁が指摘された不透明感については、7月の雇用統計で失業率が4か月連続での上昇となり、「直近3か月の失業率の平均値が過去12か月の最低値を0.5ポイント上回ると、景気後退入りの目安になる」という経験則、「サーム・ルール」に抵触するなど、労働市場の弱いデータが目立ち始めたことを受けたものと認識している。
しかし、その後、8月・9月、特に9月の雇用統計は、非常に強い数字となった。失業率は低下しており、労働市場は減速しつつも、そのペースは緩やかなものにとどまっている様子がうかがえる。その他、先月、FRBが予防的に0.5%の利下げを行い、景気を下支えするスタンスを明確にしたことや、インフレ率が低下傾向にあることなどを踏まえても、着実にソフトランディングに近付いていると見ている。
米国経済が見立てどおりソフトランディングに向かえば、貿易取引をはじめ、米国経済と密接に結び付くわが国経済にとっては、当然ポジティブな影響がある。特に、半導体や自動車関連など、米国の消費動向への依存度が大きい産業にとっては間違いなくプラス要因となる。反対に、もし予想が外れ、深刻な景気後退に陥った場合には、FRBが金融政策の大幅な調整に迫られ、金利や為替の変動が大きくなる可能性がある。その場合、輸出企業にとっては、米国の需要減のみならず、大幅な円高による輸出競争力の低下というダブルの影響も懸念され、注意が必要である。
ちょうど来週、約半年ぶりに米国に出張するので、状況をしっかり見てこようと考えている。
2点目の住宅ローンについては、足元では、金利上昇の影響で返済に窮したり、固定金利型に切り替えるお客さまが目立って増えている状況ではない。
ご指摘のとおり、短期プライムレートの上昇に伴い、大宗の銀行が変動金利型住宅ローンの基準金利の引上げに踏み切っているが、中には、新規案件の獲得に注力すべく、戦略的に金利優遇幅を拡大して、結局は、対顧金利は据え置いているという銀行もある。
また、対顧金利を引き上げたとしても、いわゆる「5年ルール」と「125%ルール」を設けている場合、5年間は返済額が変わらず、それ以降の返済額の増加率も125%に抑えられるため、お客さまには利上げの実感が湧きづらいことも影響しているかもしれない。
一方、漠然とした不安を感じるお客さまもいるようで、先月も話したが、「今後の返済額はどうなるのか」、「固定金利に切り替えた方が良いのか」といったご相談は、少しずつだが増えている。
新規にお借入れを検討されるお客さまについては、依然として変動金利を選択されるケースが多い状況は変わっていない。ただし、SMBCにおいては、昨年度と比較すると、変動金利と固定金利を組み合わせたミックス型を選択されるお客さまが増加しており、金利上昇への備えを意識した動きが見られる。
銀行界としては、複数のシナリオを想定した借入れシミュレーションをお示しするなど、お客さまにより具体的な返済額のイメージをお持ちいただけるよう、従来以上に丁寧な説明に努めていく。
(問)
政策保有株とメインバンクの関係について教えていただきたい。各銀行は、政策保有株の縮減に一所懸命取り組んでいる。かつては、メインバンクといえば取引先の株を持って、それを「メインバンクの証」として、顧客企業とのつながりを証明するものと位置づけていたと思う。これがどんどんなくなっていくわけだが、そうすると、「メインバンクの証」は何で示されるのか、あるいは、象徴されるのか、お考えを伺いたい。
(答)
まさに我々が日頃こうありたいと思っていることを言わせて頂けるご質問だと思う。
まず、ご承知のとおり、銀行による政策投資株式の保有は、従来はメインバンクによるデット・ガバナンスの機能を補完するものとして、言わば「メインバンクの証」と看做されてきた経緯がある。そして、メインバンクとは、これまで貸出や預金、為替取引などでお客さまと最も重要な取引関係を持つ銀行のことを指してきたと認識している。
貸出残高の多寡は、今もメインバンクを定義する上で有用な指標の一つであり、政策投資株式が大きく縮減されるなか、お客さまの事業展開を資金面でお支えするだけではなく、デット・ガバナンスを通じてお客さまの健全な成長を促すことの重要性は、ますます高まっていると思う。
しかし、ここ最近は、お客さまのニーズが加速度的に多様化・複雑化していることを受け、銀行グループは伝統的な預貸金業務にとどまらず、例えばプロジェクトファイナンスや債権流動化等、バランスシートに載らない貸出、そして、証券や信託業務、さらには非金融の分野も含めた複合的なサービスを提供する主体に変化してきている。それに伴い、メインバンク像も再定義すべきではないかと私は考えている。
お客さまが新たな事業戦略を検討したり、お困りごとを解決するにあたり、総合力を発揮し、付加価値の高いソリューションを提供することで、真にお客さまから信頼される銀行、それこそが現代版のメインバンクと呼べるのではないか。
私自身も営業の現場に勤めた経験があり、まさにこれを実感した。単にいくら貸出できるかといった話ではなく、お客さまがどのようなビジネス展望をお持ちになり、それを実現するためにはどういった金融サービスが必要で、銀行グループとして、それに如何に応えていけるか、といった議論を日々行っていた。これは、頭取となった今も、いささかも変わってはおらず、SMBCグループの総力を挙げてお客さまの経営課題解決のサポートを行い、現代版メインバンクとしてファーストコールをいただけるよう、より一層の努力を重ねていきたいと思っているし、会員各行も同じ思いで頑張っていると理解している。
(問)
賃上げについて伺う。先日発表された8月の毎月勤労統計で、実質賃金が前年同月比マイナス0.6%と、3か月ぶりにマイナスになった。この結果の受止めと、少し早いが、来年の春季労使交渉についての期待を聞きたい。
(答)
ご指摘のとおり、先日公表された8月の実質賃金は、前年同月比マイナス0.6%と、3か月ぶりのマイナスとなっている。その数字自体は多少残念ではあるが、6月・7月の実質賃金がプラスとなった主な要因には、多くの企業で夏季賞与が増額されたことがあったので、そうした一時的な押し上げ効果が剥落することでマイナスに戻ることはある程度予想されていた。
一方、基本給に相当する所定内給与の動きを見ると、8月は前年同月比プラス3%と、過去に比べても高い水準で推移している。また、パートタイマーに限って見れば、実質賃金はプラスを維持している。これらを踏まえると、全体としては所得環境の改善に向けた動きが着実に進んでいることを引き続き示す結果だったと思っている。
来年の春闘については、歴史的な賃上げとなった昨年・今年と同様に、力強い賃上げのモメンタムが続くことを期待しているし、それが実現するための環境は整ってきていると思う。
具体的には、まず企業収益が引き続き過去最高水準で推移している。また、人手不足はますます深刻化しており、賃金を引き上げなければ優秀な人材を確保できないのが実情であり、こうしたトレンドは当面変わらないと思っている。実際に、日ごろ、企業の経営者の方々と話をしていても、賃上げの意欲は引き続き非常に高いと感じる。大企業のなかには、来年も大幅な賃上げを行うことをすでに決定・公表している例もある。
一方で、ポイントは中小企業だと思う。大企業に比べて財務的には厳しい状況に置かれているケースが多い中小企業が賃上げの原資を確保していくためには、やはり価格転嫁や生産性の改善を着実に進めていくことが重要である。
政府は、価格転嫁や取引適正化に関するガイドラインを公表し、生産性向上に向けた設備投資に対して補助金を出すなど、さまざまなサポートを行っている。こうした後押しを受けた中小企業の取組みが持続的な賃上げにつながり、成長と分配の好循環が経済の隅々まで広く行き渡ることを期待している。
(問)
全銀ネットについて、去年10月のシステム障害を受け、当初の計画よりおよそ半年遅れてシステムを刷新するということで、冒頭に福留会長からも、反省を活かして運営に取り組んでほしいという言葉があったと思う。改めて、社会的なインフラとして期待することを伺いたい。
(答)
昨年の障害を受け、全銀システムが日本の決済網の中核として極めて重要な役割を担っていることを改めて痛感している。
全銀ネットには、まずは障害を起こさないことに全力を尽くしてもらうとともに、万一障害が発生した際のお客さまへの影響を最小限に収めるべく、平時から備えを固めていってもらいたいと考えており、全銀協も、昨年度取りまとめた改善・再発防止策に全銀ネットと二人三脚で取り組んで参る。
まず、全銀ネットがベンダーのシステム設計・製造工程に深くかみ込んでいくことが不可欠と考えている。ベンダーの開発人員のスキルセットやプロジェクトの推進体制を把握するとともに、必要に応じてプログラム自体を直接確認することも大切である。
全銀ネットは、4月にCIOおよびIT・システム専門の会議体を設置した。CIOを中心にシステム人材のスキルアップを図りつつ、会議体では加盟金融機関も参加のうえ、深度ある議論が行われていると認識している。そうした体制強化により、全銀ネットが障害の兆候を事前に察知し、障害発生を未然に防いでいくことを期待している。
そして、万一の備えとしてBCPを固めるとともに、実践的な障害対応訓練を重ねていくことが、全銀ネット、および加盟金融機関に求められていると認識している。
これからも、安心・安全かつ利便性の高い金融インフラを提供していくべく、全銀ネットの運営高度化に努めて参る。
(問)
1点目は今後も追加の利上げが緩やかに進んでいくと想定されるなか、住宅ローンにおいては銀行間でどのような競争が想定されるのか。金利の引下げや維持について利幅を削ってでもやっていくという選択肢もあると思うが、どういった競争環境が想定されるのか見解を伺いたい。
2点目は金融から遠くて恐縮だが、三井住友銀行の2014年のCMにも出ていた俳優の西田敏行さんが今日急に亡くなられた。世代的にいろいろな作品をご覧になっているかと思うが、受止めと思い出があればお願いしたい。
(答)
1点目について、個人的には金利は非常に緩やかに上がっていくと想定している。したがって、住宅ローンの金利も、基準金利は短プラの動きに合わせて各行少しずつ、おそらく自動的に上げていくと思うが、そこから先の優遇幅については各行の戦略による。こちらの方が利上げの動向よりも影響が大きいのではないかと思っており、まさに各行が住宅ローン業務をどのように進めていくかに関わってくる。もっと伸ばしたいと思えば、利上げ幅よりも金利を優遇して取りに行くという選択も当然あり得る。繰り返しになるが、各行がそれぞれ異なる金利を設定することで、競争が繰り広げられると想定している。
2点目の西田敏行さんの訃報については私も先ほど知ったところである。皆さまご存じのように、非常に親しみのある、日本を代表する俳優でいらっしゃった。映画もそうだし、大河ドラマでもそうであった。多分皆さまの世代は知らないかもしれないが、私の世代では「池中玄太80キロ」の西田敏行さんである。本当に私どもを楽しませていただいたし、心からお悔やみを申しあげたいと思う。
(問)
ドル調達について伺いたい。先月のこの場で配られた税制改正要望の45ページ目に、外国金融機関の債券現先取引に係る利子の非課税措置、いわゆるレポ特例について記載があった。レバレッジ規制が入って、米国銀行などがなかなかレポを取り組みづらくなるなかで、日本の銀行にとってはドル調達が難しくなるのではないかと思っている。邦銀の海外展開にとっては、引き続きドル調達、外貨調達が大きな課題であるかと思うが、ご見解を伺いたい。
(答)
レポ取引を行うと銀行のバランスシートが拡大するので、レバレッジ比率規制により自己資本の積み増しが必要となる。したがって、今後さらに規制が強化されていくと、ご指摘のとおり、レポ取引を減らす金融機関も出てくる可能性がある。その結果、外貨調達にも影響を与える可能性もあると思っている。
私自身、キャリアのかなり長い期間で、外貨調達に心血を注いできた経験がある。そのなかで、歴史的に見ると、邦銀各行、安定的な外貨調達を実現するために、円投やレポ取引だけではなく、外貨建債券の発行やCP市場の活用、さらにはトランザクション・バンキングによる粘着性の高い流動性預金の獲得など、長年にわたって調達手段の多様化を進めており、規制強化や市場の変化に対するレジリエンスも、私が現場でやっていたときと比べても格段に高くなっていると認識している。
(問)
地方経済の景気の現状に関する認識について伺いたい。また、将来に向けたイノベーションが起きにくい、スタートアップ企業が定着しにくい、といった課題への認識と、銀行がそれに対して手当てできることは何か、伺いたい。
(答)
まず地方経済の現状については、足元、年初の震災や、その後の豪雨災害の影響が残る能登地方のように、一部では弱含みの動きも見られるが、多くの地域で緩やかな持ち直しが続いていると認識している。例えば、九州では半導体関連の設備投資が引き続き高水準で推移しているほか、インバウンド消費がコロナ前を上回る地域も多くある。以前、6月の会見だったと思うが、同じく地方経済に関してご質問いただいたときに比べ、状況は着実に良くなっていると考えている。
一方、先行きについては、人口減少という構造的な課題が解決されていないことから、楽観視はできないと思う。今年6月に、政府が「地方創生10年の取組と今後の推進方向」という報告書を取りまとめているが、一部地域では人口が増加に転じるなど一定の成果があったものの、多くの地域では人口減少の大きな流れを変えるには至っていないとされており、地方経済は依然として中長期的には厳しい状況に置かれていると認識している。
次に、地方におけるスタートアップを取り巻く環境についてお話しする。もともと地方においてはスタートアップが育ちにくいといわれていたが、近年では、大学の研究成果を活かしたディープテックベンチャーの設立が増加している。事業化を果たすまでに長い年月がかかるディープテックベンチャーにとっては、いかにエクイティ資金を確保するかが非常に重要である。しかし、その主要な供給者である有力なベンチャーキャピタルの多くは残念ながら都市部に集中していることから、地方のスタートアップにとっては、そのハードルが高いのが実態である。
銀行には、単なる融資による支援にとどまらず、傘下の投資専門子会社を通してエクイティ投資を行うことが期待されており、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルとの橋渡し役も担いつつある。また、協業の候補先や取引先の紹介といった、スタートアップがスケールアップするための本業支援も銀行が得意とするところである。
石破新政権が、地方創生の取組みを支援する交付金を倍増させる方針を打ち出すなど、地方創生をめぐる機運は足元で一段と高まっていると感じている。銀行界としても、政府の動きに呼応してスタートアップ支援および地方創生に主体的に取り組んでいく。
(問)
住宅ローンの話が先ほどから出ているが、その関連で、目的別の各種ローンについても伺う。短プラの引上げで教育ローンや自動車ローンなど、生活に関わるさまざまなローンの引上げも始まっていると認識している。相対的に年収が低かったとしても利用できるようなローンの金利引上げに関して、顧客からの反応があれば教えてほしい。また、顧客への影響や銀行業界としての対応、逆に優遇して顧客を獲得するような考え方もあったりするのか、その辺のお考えがあればお伺いしたい。
(答)
目的別ローンの金利引上げについては、まず、SMBC個別行の話にはなるが、現時点ではお客さまから多くの声は寄せられていないと認識している。これはおそらく、金利引上げ後の最初のご返済は2025年1月からであり、まだお客さまに実感が湧いていない、あるいは、当行では住宅ローンの平均借入額は3,000万円を超えているが、目的別ローンは約100万円と相対的に小さく、返済額への影響が限定的と考えられている、といった背景があるのではないかと思っている。
今後も金利の上昇トレンドが続き、お客さまの返済負担は一定程度、増加することは当然予想される。ただし、銀行界では、もともと目的別ローンの融資に当たっては、年収やお借入れ金額の上限など、返済金額がそもそも過大にならないよう、一定の要件を設定していることが一般的であり、お客さま全体において大きな混乱が生じることは、今のところは想定していない。
(問)
8月に金融資本市場が大きく変動したが、その一因として日本銀行のコミュニケーションがうまくいかず、市場が驚いたことがあったという指摘がある。日本銀行の市場との対話について何らかの課題認識はあるか。
また、何か課題を認識しているということであれば、どのようなコミュニケーションをすべきか。ご見解を伺いたい。
(答)
私個人は、植田総裁をはじめ日本銀行は、講演や記者会見、国会答弁などを通じて、金融政策の考え方について一貫して丁寧に説明されてきたと思っている。
足元、わが国の経済は、長きにわたるデフレから脱却できるかどうかのティッピングポイントにある。日本銀行による金融政策のかじ取りは、景気やインフレ動向次第の極めて難しい対応になっていると認識している。そのため、市場参加者にとっても金融政策の見通しを立てることの難易度が非常に高くなっているのではないかと考えている。
こうした状況下、いよいよ米国が利下げサイクルに転じたことから、金融政策の判断はますます複雑になっている。したがって、日本銀行は今までも丁寧に説明をされてきたと思うが、これまで以上にマーケットと密にコミュニケーションを取り、市場参加者の期待形成をサポートしてもらいたい。