会長記者会見
2024年12月19日
福留会長記者会見(三井住友銀行頭取)
辻専務理事報告
(なし)
会長記者会見の模様
皆さまご承知のとおり、会員行において貸金庫窃取事案が発生している。お客さまの信頼を損なう事案が発生したことについて、全銀協会長として大変申し訳なく思っている。本事案を受け、全銀協では、お客さまが引き続き安全に貸金庫をご利用いただけるよう、各行に対し、その管理態勢について改めて確認をお願いする旨の通達を、全銀協会長名で12月18日に発信した。
同様の事案が発生しないよう、管理態勢を点検し、その高度化に引き続き努めるとともに、従業員一人ひとりに対して、法令遵守はもとより、高い倫理観と良識にもとづいて行動することの必要性を改めて徹底することが重要である。お客さまの信頼にしっかりとお応えすべく、全銀協としても会員各行の取組みを後押ししていく。
(問)
本日の日本銀行の金融政策決定会合で政策金利の維持が決定されたが、その受止めと今後の利上げ時期や利上げペースについて見解を伺う。
2点目は、米国大統領選に関連して伺う。トランプ政権が誕生する見通しとなったが、トランプ氏勝利の受止めとトランプ政権に期待すること、また、日米関係の影響をどう見るか、見解を伺いたい。
(答)
昨日、本日と行われた決定会合において、政策金利の据え置きが決定された。足元のわが国の経済を見ると、実質賃金は6月に前年比でプラスとなったが、8月にマイナスに戻り、直近10月には再びプラスに転じるなど、プラスとマイナスを行ったり来たりの動きを見せており、長きにわたるデフレからの脱却に向けて非常に繊細な状況が続いていると思っている。今回、日本銀行は、経済・物価が想定どおりに推移していくかについて、賃上げの持続性や基調的インフレなどのさまざまなデータから慎重に見極める必要があると判断されたものと受止めている。
今後の利上げの時期やペースについては、具体的な予想を述べることは差し控える。
ただし、賃金については、毎年1月中旬に経団連が公表する、経営労働政策特別委員会報告に注目している。この報告では、春闘における経営側のスタンスが示されるため、来年度以降の賃上げのモメンタムがよりクリアに見えてくるのではないかと思っている。
また、物価に関しては、次回の金融政策決定会合後に展望レポートが公表されるため、日本銀行が物価情勢の現状と先行きをどのように見ているかを注目している。
その後は、1月末のトランプ政権始動後の米国経済の動向や、来年の春闘の結果次第で、日本銀行は金融政策を判断していくものと考えている。
個人的には、コンスタントに利上げが行われるようになるためには、物価の上昇トレンドがもう少し明確になる必要があるのではないかと考えている。
2点目について、トランプ氏は今回、米国史上2人目となる、一度再選に失敗したものの次の大統領選で勝利するという「カムバック」を果たされた。加えて、獲得した選挙人の数では大変な圧勝だったということも踏まえれば、非常に意義のあることではないかと考えている。
言うまでもなく、米国は、わが国にとって安全保障上の同盟国というだけでなく、経済面においても最大の投資先かつトップクラスの貿易相手国であり、最重要のパートナーである。新政権の下でも、そうした両国の関係がさらに深まることを期待している。
その点、第1期トランプ政権を振り返ってみても、当時の安倍首相との緊密なトップ外交を中心に、日米関係の深化が大きく進んだと認識している。先日も、大統領選での勝利が判明した直後にトランプ氏と石破首相の電話会談が行われ、日米同盟をより高い次元に引き上げていく方針を相互で確認するなど、さらなる関係強化に向けた取組みもすでに始まっている。
足元、ロシアによるウクライナ侵攻や中東地域の緊張が長期化するなど、地政学を巡る不透明感が増していることを踏まえても、法の支配にもとづく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくために日米両国が果たす役割は、一段と重要になっている。
したがって、次期トランプ政権の下で、引き続き、日米同盟を基軸として経済・社会全般にわたり両国の関係がさらに発展するとともに、国際秩序の観点でも、日米が相互に協力し一層のリーダーシップを発揮することを期待している。
(問)
まず、三菱UFJ銀行の貸金庫の窃取事案を受けて、他の銀行でも同様のリスクはないかという懸念が出ていると考えている。通達を出したということだが、業界としてどのように受け止めて対応していく考えか。また、個別行の話にはなってしまうが、三井住友銀行でも同様のおそれがないか、併せて伺いたい。
続いて、政府・与党で税制改正大綱の検討が進んでおり、全銀協の要望項目のほか、ラピダスを念頭に置いた次世代半導体支援を巡る税優遇、住宅ローン控除の延長といったことが俎上に載っている。税優遇の実施がラピダスの進めている資金調達の追い風になるか、住宅ローン減税の延長の影響など、税制改正大綱の検討状況における銀行界の影響に対する、現時点の分析について伺いたい。
(答)
まず、改めて、会員行においてお客さまの信頼を損なう事案が発生したことについて、全銀協会長として大変申し訳なく思う。冒頭お伝えしたとおり、昨日、全銀協会長名で、会員行に対して通達を発信した。貸金庫の管理態勢を点検し、その高度化に努めるとともに、従業員一人ひとりに対し、改めてコンプライアンスの重要性や良識にもとづいた行動の必要性を再徹底するようお願いしたうえで、会員行が貸金庫の管理態勢を点検する際の参考となるよう、具体的な点検項目を例示列挙している。お客さまの信頼にしっかりとお応えすべく、全銀協としても会員各行のこうした取組みを後押ししていく。
三井住友銀行で同様のおそれがないかという点だが、本事案による窃取の手口、経緯等の詳細がまだ分かっていないため、確たることは申しあげられないが、現状、そのような事案が発生しているという認識はない。お客さまに安全にご利用いただけるよう、引き続き管理態勢の高度化に努めていく。
続いて、本年度の税制改正では、いわゆる「103万円の壁」の見直しのように、特に個人の消費や投資を活性化させるための税制が手厚く措置されると受け止めている。近年は、資産所得倍増が重要な政策テーマとされ、NISAの抜本的な拡充などが措置されてきた。この流れに沿って、本年度は、全銀協の最重点要望でもある私的年金税制の拡充が一定程度実現するものと想定している。iDeCoを含む確定拠出年金は、新NISAとともに、貯蓄から投資への流れを促す制度であり、銀行界では、今回の改正も活用し、お客さまのライフプランに沿った資産形成の提案を一層進めていきたいと考えている。
なお、質問にあった住宅ローン減税については、住宅取得のハードルを下げるとともに、住宅購入者の可処分所得を増やし、消費などを後押しする効果があると承知している。そして、本年度は、特に子育て支援の観点での措置も講じられると理解している。わが国経済全体への影響が大きい税制であり、銀行界としても注目している。
一方、法人分野に目を向けると、主要産業の国内回帰や産業創成の観点から、特定の産業に対する税制措置も議論になっている。個別企業に関する事項についてはコメントを差し控えるが、一般論として申しあげると、税制も含めた政府支援は民間からの資金供給拡大の一助となることが望まれる。特に半導体産業は、わが国の経済成長や経済安全保障上、重要な分野であることから、官民が連携して資金供給を行う枠組みが適切に構築されることを期待している。また、事業承継税制についても、来年以降も利用可能とするための措置が講じられると理解している。経営権の円滑な承継による事業の維持、発展を促すことは、わが国の産業構造の基盤を支えるものであり、銀行界としても本税制の後押しを受けながら、承継のサポートを行っていく。
(問)
まず、足元で三井住友信託銀行の元行員によるインサイダー事案や今回の三菱UFJ銀行の貸金庫の窃取事案など、業界の信頼が危ぶまれるような事案が続いている。業界のトップとしての受止めと、こうしたことに対してどのように向き合って信頼回復に努めるのか、お答えいただきたい。
次に、米国大統領選に関連して伺う。トランプ氏が勝利したことに伴い市場のボラティリティが大きくなっている。銀行のポートフォリオ運用にも一定の影響が出ると見ているが、こうした不確実性や、株価や為替等の市場変動リスクをどのように捉えているか、また、銀行経営に与える影響をどのように見ているか、見解を伺いたい。
(答)
まず、足元の会員行における不芳事案については、全銀協会長としても、一銀行員としても、非常に残念に思っている。銀行は、お客さまからの信頼の積み重ねを土台としており、こうした不芳事案が発生すると、その信頼を再構築することは非常に難しいものになると受け止めている。二度とこうした事案が起きないよう、再発防止に向け、隙のない仕組みづくりをするとともに、こうした事案は個人の特性により引き起こされる部分も大きいため、当然ながらカルチャーの変革も不断に進めていかなければならない。その大きなポイントとして、お客さまが銀行を信頼して取引をしてくださっているということをしっかりと認識し、各場面においてどう行動すべきか、一人一人の行員が考え抜くことを強く動機付ける必要があると考えている。
次に、市場のボラティリティに関してお話しするうえで、まず米大統領選の結果を受けて、市場がどのように動いたかを簡単に振り返りたい。
ご承知のとおり、大統領選の投開票は現地時間の11月5日に行われ、6日早朝の段階で早くもトランプ氏の勝利が確実となった。それを受けて、トランプ氏の公約である景気刺激的な政策や規制緩和への期待から、米国株が急伸した。また、景気加速に伴いインフレ圧力が高まるとの予想から、米長期金利も上昇したほか、ドル高も進んだ。その後、株価は上昇トレンドが続いていたが、長期金利とドルについては、11月下旬以降、FRBによる利下げ観測が強まるなかで下落に転じ、今月上旬にかけ、大統領選後の上昇分を相殺する水準まで下げた。
こうした市場の動きについては、変動幅は相応の大きさであるものの、乱高下とは異なり、不確実性の高まりを背景とするものではないと認識している。むしろ、当初は大統領選が大接戦になると予想され、結果が確定するまでに時間がかかるとの見方があったなか、比較的早く結果が判明したことで不透明感が晴れ、市場が第2期トランプ政権の誕生を、一気に、かつ、良い方向に織り込んだ動きと見ている。実際、米株や米国債のボラティリティ指数であるVIX指数やMOVE指数に関して大統領選前後の動きを見ると、投開票が近づくにつれてボラティリティが上昇した後、結果の判明とともに急速に低下し、直近まで低位で推移していた。
こうした動きから、大統領選の結果を受けて市場のボラティリティが高まったとは認識していないが、本日未明のFOMCを受けた米株の下落によってVIX指数が上昇したように、ボラティリティが低い状況が今後も続くとは限らないので、当然のことながら、予断を持たず、動向を注視していくことが重要と考えている。
とりわけ、トランプ氏の公約のなかでも関心を集めている大型減税の延長や関税政策については、いつ、どのようなかたちで実現するのか、あるいは実体経済への影響はどうか、といった点を今後も注目していきたい。
最後に、銀行経営への影響に関しては、あくまでも個人的な見解ではあるが、邦銀の場合、例えばALMの観点で考えてみても、米国の金利やドルの変動が経営に大きな影響を与えるほどの極端なリスクテイクをしている感覚はない。また、ビジネスの観点では、米国の景気拡大は当然ながら邦銀にとってもフェイバーな状況と言えるし、特に米国におけるオペレーションの規模が相対的に大きいメガバンクにとっては追い風になると考えている。
一方で、インフレ再燃のリスクは根強く指摘されており、仮に再度インフレが高進した場合、金融政策の急転換に伴う金利上昇により、景気後退やクレジットの悪化を招く可能性もあるので、慎重に動向を見守っていくことが重要と考えている。
(問)
まず、各銀行の決算についてである。11月に中間決算が出揃い、大手行を中心に好調な決算が続いたと認識している。中身を詳しく見ると、本業は好調であった一方で、株式の売却益や、為替や金利といった特殊要因の影響も幾分あったと思う。追い風参考という見方もあるなかで、改めて今回の決算において特殊要因を除いた本業の業績についてどのように分析しているか、また足元の銀行界の事業環境についてはどのようにご覧になっているか、ご見解を伺う。
次に、金利が上昇していくなかで、一部の銀行で、預金金利を高く設定して、預金獲得を狙う動きが活発化していると思う。こうした動きは今後さらに広がるとお考えか。また、高い金利を設定することで自社の収益に影響を及ぼす可能性もあると思うが、銀行の経営において慎重な判断も必要になっていくなかで、こうした金利を設定する際に留意すべき点はどのようにお考えか。
(答)
まず、メガバンクの中間決算について申しあげると、上期の連結純利益の合計は2年連続で過去最高を更新し、3行とも2025年3月期の純利益予想を上方修正している。これには、ご指摘のとおり、政策投資株式の売却益や為替相場の影響などで、下駄を履かされている部分もあるのは確かである。一方で、本業自体も国内外において非常に好調であり、特殊要因を除いた実力ベースでもしっかりと増益を果たしていると思っている。
国内にフォーカスすると、金利上昇の恩恵もさることながら、法人のお客さまの活発なコーポレートアクションに伴い、資金需要が引き続き堅調に推移していることが、法人向けビジネスを押し上げる大きな要因となっている。また、個人のお客さまの貯蓄から投資への動きも活発化しており、こうした事業環境の改善トレンドは、地域金融機関も含めた銀行界全体の業績を後押ししている。日本経済全体で成長の好循環は定着しつつあり、今後は金融政策の正常化も相まって預貸金収益のさらなる拡大が見込め、資産運用ビジネスの成長も期待できる。
一方、現時点ではあまり大きなリスクとは見ていないが、原材料費や人件費等の高騰により収益が圧迫される業種においては、財務状況が苦しくなる可能性がある。また、中国やドイツといった景況感が悪化している国々もあり、現地企業、また、それらの国々への輸出に依存している企業については、信用コストが発生するリスクもある。そして、言わずもがなだが、地政学リスクにも注意が必要である。
銀行界としては、万全のリスク管理のもと、リスクマネーの供給を積極的に拡大するとともに、資産運用をはじめとしたお客さまの多様なニーズに全力で応えることで日本の再成長に貢献していく。
次に、預金金利の設定は各行のビジネス戦略に大きく依存しているため、今後の動きを一概に予測することは難しいが、預金獲得に向けた差別化の手段として、金利水準を大幅に引き上げている銀行もあることは認識している。ただし、お客さまが預金先を選択する際の判断材料は、必ずしも金利のみではないと考えている。例えば、お客さまが困ったときに気軽にご相談できるよう身近な場所に店舗があるといったことや、ウェブやアプリによるデジタルサービスの利便性、銀行取引にとどまらない複合的な商品・サービスの提供など、お客さまから選んでいただくための訴求ポイントは、多岐にわたると思っている。
金利設定時の留意点については、預金金利を大きく引き上げた場合、当然ながら調達コストが上昇し、収益面の影響が生じるが、そのほかにも、後日、金利を引き下げた場合に、逆に急速に預金が流出してしまうリスクにも注意が必要である。したがって、資産と負債のバランスをしっかりと見極め、資金調達コストの動向やお客さまの金利に対するセンシティビティを考慮したうえで、金利水準を設定することが重要だと考えている。
(問)
銀行員が高い倫理観を持つことは大事だと思うが、不祥事が起きるたびに、99.9%の銀行員は、「そもそもそんなことは、自分たちは絶対しないし、やってはいけないということは当たり前だ」と思っていると思う。そこでさらに「コンプラ意識の向上」と言われても、「そんなことは分かっている」とならないか。むしろ必要なのは、ごく少数ながら悪意を持って悪いことをする人が出てきても、それができない仕組みをつくることではないか。そういう仕組みの導入について、どのようなお考えをお持ちか。
(答)
繰り返すが、従業員の不正を防ぐための内部管理態勢の構築は、すべての企業にとって最重要のテーマの一つである。そのなかでも、おっしゃるように公共的使命を背負っている銀行は、お客さまや社会から揺るぎない信頼を得ることが、事業を継続していくうえで必須の条件であると考え、従前より、内部管理態勢の整備に注力してきた。
例えば、不正を未然に防止するため、業務フローの随所にシステム上の制御や、複数人による検証ルールなどを導入している。また、定期検証や内部通報制度の整備など、不正を早期発見する仕組みづくりにも取り組んできた。そして、不正を行う動機の芽を摘むべく、健全な組織文化の醸成にも日々努めている。
しかしながら、内部不正のリスクは、社会情勢やデジタル技術の進展、あるいは提供する商品・サービスの内容、そして店舗、システムインフラなど、その時々の環境に応じて変化する。そのため、一度つくりあげた仕組みであっても、その有効性をあらゆる角度から不断に検証していくことが必要だと思っている。
仕組みをつくるうえでの難しさについては、先ほど申しあげたとおり、リスク自体が変化していくこともそうだが、そのほかにもさまざまなハードルがあると思っている。例えば、朝から夕方まで支店で働く従業員の行動を逐一記録し、第三者がその記録を検証することはなかなか困難である。仕組みをつくるうえでは当然ながら、そうした物理的な制約も踏まえ、実効性を確保していく必要がある。
また、営業活動に対し、過度に影響を及ぼすリスクについても考慮が必要である。極端に厳しいルールや監視体制で従業員の自由を奪ってしまうと、本来あるべき営業の活力までが失われ、お客さまの期待に応えるうえでの大きな妨げにもなりかねない。
したがって、内部管理態勢の構築に当たっては、ルールや仕組みづくりといったハード面に加え、従業員自身が状況に応じて自ら考え、正しく行動するためのプリンシプルづくりや、意識醸成といったソフト面の対策を組み合わせることが重要だと思っている。銀行界としては、今後もハードとソフトの両面から内部管理態勢の強化に取り組み、より安全で信頼性の高い金融サービスを提供するために努力を続けていく。
(問)
先ほど来、話題になっている貸金庫の件で2点質問をお願いする。
1点目、三菱UFJ銀行は、予備鍵の管理が1人の責任者に任されており、しかも点検の仕方が不十分であったために、管理責任者が自由にその予備鍵を使え、また、元に戻せば気づけない体制だったと説明している。こうした話を聞くと、ほかの銀行はどうなのかと思うところ。1人に管理を任せていないか、封筒の保管状態はどうか、保管されているだけではなく使った形跡がないかを調べることがポイントになるのではないか。これまで取材していると、多くの銀行で、多かれ少なかれ似たような管理態勢となっているのではないかと思うが、その点はどのようにお考えか。また、三井住友銀行において、今被害は出ていないとしても、管理責任者が単独で予備鍵を使える状態であったかどうかという点については、どういう認識をお持ちか。
2点目、関連して、全国銀行協会のホームページには、貸金庫は銀行員が勝手に開けられないものと紹介されているが、三菱UFJ銀行の件ではそうではなかったということが分かった。それにより、過去に同じような被害がなかったのかどうかというところに関心が集まっていると思う。この点はいかがか。遡って各行にヒアリングしたり、調べたりする必要性がないかどうか、どのようにお考えか。
(答)
今回の窃取の手口、経緯の詳細がまだ分かっていないため確たることは申しあげられないが、各行の管理態勢については、昨日、通達を発信し、見直しを促しているところである。
三井住友銀行においては、本事案の通達の内容も踏まえ、現在、それぞれのお取引についてお客さまに安全にご利用いただける状態にあるのか、改めて管理態勢を点検しているところであり、ご指摘の、例えば、副鍵袋の個数確認や割印の照合についても進めている。
銀行界全体で、同じようなケースが過去にあったかというご質問については、全銀協としては、個別行における不祥事案の発生の有無については関知していない。
(問)
1点目は、新NISAに加えて、iDeCo、企業型DCの掛け金の合計額の上限が拡充される場合、両制度を上限まで利用できる顧客は、ある程度限られていると想定している。そうしたなか、銀行においては、顧客のニーズや想定する顧客属性をどのように整理し、両制度を使い分けて提案を推進していくべきか、見解を伺いたい。
2点目は、足元、大手行において大規模なフィンテック企業への出資・買収といった動きが相次いでいると思うが、この動向についてどのように見ているか教えてほしい。銀行グループとして総合的なデジタル金融サービスを提供していくうえで、フィンテックのサービス、ノウハウ、人材を取り込む流れは強まっていくと見ているか、今後の展開についても伺いたい。
(答)
1点目について、2025年度の税制改正において、iDeCoを含む確定拠出年金全体の拠出限度額の拡充が議論されていると承知している。新NISAとともに、「貯蓄から投資へ」を促す制度であり、国民の安定的な資産形成の実現に向けた重要なピースになると認識している。
こうした個人のお客さまに対する投資制度は拡充が図られてきているが、提案・推進においては、必ずしも各制度の上限までご利用いただくのではなく、投資の目的や資金使途に応じた使い分けをお勧めしていくものと認識している。
新NISAは、18歳以上の日本国内居住者であれば、いつでも・誰でも利用することができる、幅広い世代の多様な資産形成のニーズに応える制度である。解約の制限もなく、例えば住宅購入や子どもの教育など、ライフイベントに応じて積み立てた資金を機動的に取り崩すことができる。したがって、お客さまのより豊かな生活を実現することを目的に、ライフプランとリスク許容度に応じ、長期・積立・分散投資をベースに、余裕資金を充当していただくことを想定している。
一方、iDeCoや企業型DCは年金制度の一部であり、安心して老後を過ごすための資産形成の一助となるものだと理解している。したがって、新NISAとは異なり、引き出しには、「加入から10年以上経過していること」や、「原則60歳以降」という要件が設けられており、機動的な取り崩しを想定したものではない。運用状況をにらみながら、老後における積み立て予想額の過不足に応じ、活用いただくものと認識している。
2点目について、わが国で有望なフィンテック企業が登場し始めた当初、決済や会計、資産運用といった分野で、銀行とフィンテック企業は激しく競争を行っていた。その後、API連携を通じてフィンテック企業が一部の機能を銀行のアプリに提供する、銀行がフィンテック企業に対して送客するなど、幅広い分野で一定の協調関係が生まれてきた。こうした時期を経て、ご質問にあるように、足元では銀行グループがフィンテック企業への出資・買収を行い、一体となってお客さまに革新的なサービスを提供する流れが強まっている。
銀行は顧客基盤や資本力、信用力に強みがある一方で、フィンテック企業は新しい発想や開発力、アジャイルな対応力に優れている。フィンテック企業は銀行の強みを活用して事業の急拡大につなげることができるのに対し、銀行はフィンテック企業の人員、ノウハウといった優位性を活かして、有機的にシナジーを発揮することで、お客さまに提供するサービスを高度化させることができる。
銀行とフィンテック企業が深く結び付くことは、お客さま、銀行、フィンテック企業のすべてにメリットがあることから、この流れは不可逆であり、今後も強まっていくのではないかと考えている。
(問)
本日、日本銀行が発表した多角的レビューでは、黒田日銀総裁の下で行われた大規模な金融緩和について、一定の副作用はあったものの、全体としては経済にプラスに影響したと評価している。これに関連して、会長として、長く続いた金融緩和による日本経済への功罪についてどう考えるか伺いたい。また、ここ1年で、イールドカーブ・コントロールの変更やマイナス金利解除等、金融政策が変更されたが、これが融資先の企業行動にどういった影響、変化をもたらしたか、考えを伺いたい。
(答)
本日、日本銀行が発表した多角的レビューについては、まだ読めていないため、現時点で思っていること、分かっている範囲でお答えする。
まず、量的・質的金融緩和政策やマイナス金利政策といった非伝統的な金融政策が導入された当時の日本経済は、長期にわたるデフレと低成長に苦しんでおり、企業の設備投資や個人の消費が停滞していた状況だった。個人的な意見だが、こうした政策は資金供給の拡大や借入金利の低下を通じて、日本経済を底打ちさせた要因の一つになったほか、国民の間に長らくはびこっていたデフレマインドというノルムを転換させる一助にはなったのではないかと考えている。
一方、新発債の大宗を中央銀行が買い上げるという、極めて異例な状況が続いたことで、市場機能が低下してしまったことは否めない。長期金利の水準や変化は、市場が将来の経済や物価・財政などをどのように考えているかといった情報のシグナルを提供しており、このシグナリング機能が十分に発揮されていなかったのではないかとも考えている。
その後、マイナス金利政策が解除され、金利のある世界に戻った。国内金利の上昇により、資金調達コストは上昇しているが、全体として資金需要は堅調であり、貸出残高は伸びてきている。これには、金利の引上げが極めて慎重なペースで行われていることに加え、日本経済が底を打ち、企業活動が非常に活発になってきていることが背景にあると考えている。これも個人的な推察ではあるが、金利上昇トレンド、つまり資金調達コストの先高感は、企業にとってはむしろ、新しい投資の決断を早めるうえでのインセンティブになっている可能性すらあるとも思っている。
引き続き、成長と投資の好循環のなかで、金融政策の正常化が進み、経済と金利の順回転が確固たるものになることを期待している。
(問)
2点伺う。1点目は、ポイント経済圏に対応している銀行やカードかどうかという視点で金融サービスを選ぶ消費者が増えていると思う。多くの個人客と関係を築くうえでポイントの重要性が高まっているなかで、個人顧客、またパートナーとなり得るフィンテック企業からの存在感を高めるために、銀行としてはどのような点が最も重要になるか、見解を伺いたい。
関連してもう1点伺う。金融と非金融の垣根が低くなり、異業種参入の可能性が高まっていると思う。一方で、銀行が異業種に参入することに対しては厳しい規制がある。銀行がこれからも成長し続けるために、規制のあり方も含め、会長としてどのような考えか見解を伺いたい。
(答)
これまで、個人のお客さまが取引銀行をお選びになる際、お勤め先による指定を除けば、例えば店舗へのアクセスの良さや金利や手数料の優位性、信用力やイメージなどを基準に判断されてきたのではないかと思う。近年では、デジタル化が急速に進展するなかで、各行はインターネット・バンキングの使いやすさを追求し、非金融を含む複合的なサービスの提供により差別化を図っている。こうしたデジタルチャネルの利便性も銀行選びの大きな要素になっていると考えられる。また、日本独特のポイントのお得感も非常に重要視されるようになってきた。ポイントを含む商品やサービスの魅力を総合的に訴求することが、お客さまに対して銀行の存在感を高めていくうえで必要不可欠なものとなってきている。
過去を振り返ってみれば、銀行とフィンテック企業は、正直なところ、先ほど申しあげた競争関係にあったと思うが、この数年でその関係は大きく変化している。お客さまの多様化するニーズに応えるべく、銀行が複合的にサービスを展開するため、アジャイルに、自由度高く、さまざまなサービスを開発できるフィンテック企業との協業が有効であることも間違いないと思っている。フィンテック企業の視点に立って考えると、協業する銀行を選ぶ際に重視するのは、顧客基盤やデジタルを起点としたビジネス戦略、IT投資のスタンスなどだと思う。そして、フィンテック企業が銀行の顧客基盤をより有効に活かすためには、ポイント経済圏の存在も非常に大きいと思う。あらゆるサービスがつながるポイント経済圏は、お客さまとの接点が飛躍的に拡大するため、金融機関だけでなく、フィンテック企業にとっても複合的な取引機会が生れる魅力的なビジネス環境であると考えている。
2点目のご質問について。社会構造やライフスタイルの変化により、お客さまのニーズが多様化するなか、異業種のプレーヤーが続々と金融分野に参入し、金融と非金融を跨ぐようなサービスを提供しており、お客さまに広く受け入れられている。例えば、ショッピングサイトやフリマサイトでは、商品の売買に決済サービスが直接組み込まれ、高い利便性を実現している。皆さまの中にもこうしたサービスを利用されている方が多数いるのではないかと思う。しかしながら、銀行がこうした金融、非金融を跨ぐサービスを提供するには、規制面での制約が大きな足かせとなっており、残念ながらお客さまのニーズを十分に満たせていないのではないかと、我々も思っている。もちろん、異業種との連携により、これまでにないサービスを展開する事例も増えてきているが、機動的、かつ、きめ細やかなサービスを提供していくためには、やはり銀行にはこれまで以上の自由度を与えていただく必要があると思っている。
従来、金融規制が大事にしてきた顧客保護や金融システムの健全性維持といった点はしっかりと守りつつ、できる限り規制緩和が進められることを切に願っている。それにより、我々銀行界は、かつての銀行の殻を破り、多様化するお客さまのニーズにしっかりとお応えしていくことができるのではないかと考えている。
(問)
国内のLBOファイナンスについて伺う。今年3月に全銀協が出した報告書では、LBOマーケットの拡大を踏まえ、大型案件では3メガへの集中リスクを指摘し、中小型案件では地銀のリスク分析能力の不十分性などに言及した。報告書が出てからあっという間に1年弱たち、M&Aやバイアウトはさらなる盛り上がりを見せている中、足元、セブン&アイ・ホールディングスの件で、改めて全銀協報告書で指摘された課題が突きつけられていると感じている。案件がさらに大型化し、大手行が背負うリスクはより重くなってきていると思う。全銀協の報告書ではプライベートデットやセカンダリー市場の発展も解決策として挙げているが、足許の進捗はどうか。さらなる発展のためには何が必要か。ハードル等があれば教えてほしい。
(答)
近年は上場企業の非公開化や事業のカーブアウト、また、中小企業の事業承継等の増加を背景に、国内のLBOファイナンス市場は拡大している。金融庁によると、大手行の国内LBOローン残高は、2019年3月の2.6兆円から昨年9月には6.6兆円まで増加し、地域銀行については、2019年3月の2,300億円から昨年の9月には1.4兆円まで増加している。LBO案件は今後も増加が見込まれることから、投資家層の拡大や市場の透明性確保、リスク管理体制の高度化など、LBO市場における金融機能のさらなる強化が必要だと考えている。
足元、大手行にリスクが集中している状況に鑑み、ファンド、機関投資家も含めた多様なレンダーや投資家が国内外から参入し、プレーヤーの裾野が拡大することが必要である。そのためには、LBOローンがより魅力のあるアセットとなることが重要であり、リスクに見合ったリターンの確保はその大前提となる。また、新たに参加するプレーヤーが案件を検討しやすい環境を整備していくことも重要である。こうした課題への対応とLBOローン関連データの整備など、市場の透明性を高め、適切な投資判断を後押しするマーケットインフラを充実していくことや、案件組成、審査、期中管理といったLBOローンを取り扱ううえで基本となる考え方を各プレーヤーに浸透させていくことなどが考えられる。
全銀協としては、相応に時間のかかる地道な取組みではあるが、今年3月に発表した報告書を踏まえながら、今後も関係者と議論を継続し、LBOローン市場の健全な発展に貢献していく。
(問)
日本の国債の格付けについてお考えをお聞きしたい。現在、日本の国債の格付はシングルAである。2022年、有力な格付会社の一角は、わが国の安定的な経常黒字と新型コロナ対策の有効性の2点を評価したが、あくまでシングルAで据え置いた。
メガバンクの第2クォーター決算発表で、あるグループのトップが、日本国債の格下げリスクに対する懸念について話した。11月末には補正予算案が閣議決定され、国債を追加発行する方針が示された。さらに、足元では「103万円の壁」に注目が集まっているが、これまで財源問題にはほとんど触れられず、議論が行われてきている。そうしたなか、日本国債の格下げへの懸念についてお話を伺いたい。
(答)
私どもは、リスク委員会等で、常に経営上どういうリスクを抱えているか、あらゆるシナリオを想定した上で議論している。また、そのリスクが顕在化したときにどう対応しなければいけないか、つぶさに点検しては経営に報告し、今後の方針について日々議論を行っている。
そうしたなか、懸念というよりはテールリスクではあるが、将来発生したら最も困ることの一つが国債の格下げであり、いざ発生すれば銀行の外貨調達に多大な影響を及ぼすことになる。特にメガバンクは、アセットの大半を外貨が占めるようになっており、外貨調達コストの上昇や調達における取引相手の減少といったかたちで影響を受ける可能性がある。
財政政策については、これまでも、「経済あっての財政」、逆に、「財政規律こそ優先すべき」、といった意見が対立してきた。私個人としては、そのどちらか一方に偏るのは、国債格付を維持するうえではリスキーであると考えており、政府には、財政と経済を両輪としたバランスの取れた政策運営を推進していただくよう期待している。
(問)
日本の銀行界を代表しての回答と理解してよいか。
(答)
メガバンクの一角として話した。
(問)
今行われている財政の議論は、ほとんど財政規律を意識していない、MMTのようなものに感じられるが、どうお考えか。
(答)
あくまで個人的な見解ではあるが、日本に限らず、現在、世界的に拡張的な財政政策が進められているが、この背景としてはポピュリズム的な動きが非常に大きいと思う。時代としてそうした傾向になりつつあり、強い懸念を持っている。例えば、長期金利の上昇は様々な資産のバリュエーションに影響を与え、非常に大きなリスクに繋がるため、それに対して無意識では困ると考えている。
(問)
来年度の税制改正を巡って、「103万円の壁」の見直しの議論がある。その背景には物価上昇や金利の上昇など、手取りが追いつかない、または手取りが増えている実感がないという若い世代の声があると思う。そうした現役世代の生活の実感を向上させていくために、経済や金融サイドから何かできることがあるという考えはあるか。
(答)
基礎控除等の合計額を103万円から引き上げる、いわゆる「103万円の壁」の見直しは、パートタイムで働く方々の所得税を意識した働き控えを解消する施策と承知している。働き控えが解消すれば、一部業種で深刻化する労働力不足の解消にもつながることが期待される。加えて、今回は基礎控除額の引上げにより、幅広い層の手取りが増加するとみられ、個人消費の拡大も見込まれる。壁の見直しが成長と分配の好循環を定着させる取組みの一助になることを期待している。
質問についてだが、まずもって物価が適度に上昇し、金利が正常化に向かうことは、経済が成長していることの表れでもあり、ポジティブな動きだと理解している。若い方々にそのことを実感してもらう、あるいは意識を変えていくための奇策は思い当たらないが、経済界としては過去2年間行ってきた高水準の賃上げを今後もしっかりと継続し、実質賃金や手取りの増加につなげていくことが重要だと考えている。
金融界としては、個人のお客さまへの直接的なアプローチではないが、企業の成長投資、あるいは事業再生・再構築、そしてスタートアップによる新事業創出などをファイナンス面から後押しすることで、日本経済の成長期待を高めるとともに、賃上げの原資である企業業績の改善にも貢献し、若者たちがポジティブな方向に意識を変えていくことに期待するとともに、それを一生懸命お手伝いしたいと思っている。