会長記者会見
2025年6月19日
半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)
辻専務理事報告
事務局から3点ご報告申しあげる。
1点目は、お手元の資料のとおり、金融庁の監督指針改正を踏まえ、貸金庫規定ひな型の改正等を実施した。ひな型には、格納できないものを明示したほか、利用目的の確認を行うこと等を追加した。また、業界共通の周知ツールも金融庁と共同で作成しており、いずれも、本日、会員行に通知した。ひな型の改正概要や周知ツールは資料をご参照いただきたい。
2点目は、お手元の資料のとおり、中長期的にリスクマネーの循環を活性化していくためのあるべき金融仲介の構造、プレイヤー、制度等に関する政策提言を検討する場として、「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」を設置した。設置の背景や目的等は資料をご参照いただきたい。
3点目は、お手元の資料のとおり、新株予約権付融資の普及に向けた法務面の課題検討を行う場として、「新株予約権付融資に関する検討会」を設置した。設置の背景や目的等は資料をご参照いただきたい。
会長記者会見の模様
(問)
2点質問する。1点目、全銀協の貸金庫規定のひな型改正について、変更内容を詳しく教えてほしい。また、三菱UFJ銀行としては、今後、どのような対応を行うのか伺いたい。2点目、「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」について、立ち上げの背景や狙い、どのようなことを目指すのか、詳しく教えてほしい。
(答)
まず、貸金庫の方からお答えする。
5月30日に、金融庁からパブリックコメントの回答が示されるとともに、同日、監督指針が改正された。改正内容としては、管理態勢、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与等への対応、事案の公表等の大きく3点と理解している。
全銀協としては、監督指針の改正を踏まえ、貸金庫規定のひな型の改正、利用目的等の確認のための申告書の参考例の策定、お客さまへの周知のための金融業界共通のポスターの作成を行い、会員行へ通知したところである。これらを参考に、監督指針の改正を踏まえた対応を行うこと、ならびに、お客さまへ多くの影響があることから、十分かつ適切な周知期間を設け、丁寧な対応に努めるよう会員行にお願いしている。
三菱UFJ銀行では、本日の全銀協としての対応も踏まえ、貸金庫規定の改定方針を明日公表する予定である。規定改定については、ホームページでの公表や、貸金庫をご利用のお客さまへのダイレクトメールでのご案内等を行い、実際の改定は来年2月とし、十分な周知期間を設ける。貸金庫の新規のご契約のお客さまには、すでに現金の格納はお控えいただくようご案内している。既存のお客さまにも、次回ご来店時等、規定改定までに現金等の格納できないものは取り出していただき、利用目的の確認に関する申告書をご提出いただくよう、ご協力をお願いしていく。お客さまへの影響の大きさも踏まえ、混乱をきたすことのないよう丁寧な対応を行って参りたい。
併せて、貸金庫室内への防犯カメラの設置等により、管理態勢の高度化対応やマネロン防止対策も進めていく所存である。
2点目の中長期的な金融仲介のあり方についてだが、まず、このWGの設置に至った私たちの問題意識について説明したい。
4月の会見の冒頭でも触れたように、日本経済は「失われた30年」と称された長期停滞から抜け出しつつあるが、今後、自律的・持続的な成長軌道に本格的に回復できるかどうかの、極めて重要な局面、正念場にいると考えている。労働力人口が減少する日本において、自律的・持続的な経済成長を遂げるには、生産性の向上につながる、企業の大胆な投資が必要となる。GX、DXをはじめとした領域で出てくるこれらの多額の成長投資は、これまでとはリスクの量や質のレベルが異なるものも多くあると考えている。
これに対し、銀行グループの間接金融機能や企業への直接出資等を含むリスクテイクの強化に加え、資本市場の活用等を幅広く検討しながら、日本全体でのリスクマネーの循環を活性化していくことが不可欠であると考えている。
これは銀行界だけではなく、証券や投資信託、生命保険など、金融仲介に関わるプレイヤーとともに検討すべき大きな取組みだと考えている。こうした問題意識を踏まえ、全銀協に、法律や経済の有識者のほか、先ほど申しあげたような業界団体や関係当局で、中長期的な金融仲介のあり方を議論するWGを立ち上げた経緯にある。
具体的な検討事項は今後定めていく予定だが、まずは資金の需要側である産業界、供給側である家計や機関投資家のニーズをよく分析したうえで、海外制度なども参考にしながら、日本の金融仲介における課題を明らかにしたい。
そのうえで、年度末を目途に、金融仲介のあるべき姿の定義や、それを実現するための制度・規制に関する提言、銀行界としての必要な取組みを取りまとめることを目指しているところである。また、状況に応じて説明したい。
(問)
2点伺う。今月17日に行われた日本銀行の金融政策決定会合で、2027年3月までの国債の買入れ減額方針が決定した。現在の四半期ごとの4,000億円の減額から2,000億円への減額となり、減額スピードが落ちたかたちだが、その受止めと、減額スピードが緩やかになることの銀行業界への影響はどう見ているか。関連して、超長期金利が上昇していることについての受止めも伺いたい。
2点目は、先日、骨太の方針が閣議決定されたが、そのなかで資産運用立国の実現策として、金融関連ではNISAの制度拡充や金融経済教育の充実、銀証ファイアーウォール規制のあり方についての検討などがあった。この受止めと、全銀協としてどのように取り組むか、教えてほしい。
(答)
まず、日本銀行の国債買入れ減額等について回答する。
今月の日本銀行の金融政策決定会合で、月間の長期国債の買入れ額について、今年度は従来どおり四半期ごとに4,000億円ずつ減額するペースを維持しつつも、2026年4月以降については2,000億円に減額ペースを緩めることが決定されている。決定会合前の市場参加者の声としては、減額ペースの維持を求める声が多数である一方、一部に減額ペースの縮小を求める声もあったと認識しているが、そうしたなかで、日本銀行は自身の国債保有割合の低下を通じて市場機能の改善を図るとともに、市場の安定性にも配慮した結果、来年度も減額は継続するものの、そのペースは減速させるという決定に至ったものと考えている。
また、国債市場の流動性を改善する観点から、国債補完供給に係る減額措置の要件緩和の対象銘柄の拡充等も発表されている。
日本銀行が買入れを減額した分の国債については、現在の国債保有者の状況を踏まえれば、主に生保や海外投資家、銀行等が購入の受け皿になり得ると考えられる。また、利回り上昇を受け、個人向け国債の販売が増加していることに加え、2027年から販売対象が法人にも拡大される予定である。こういうかたちで投資家層の拡大が進む可能性もあるとみている。もっとも、経済規模対比で見た政府債務残高が先進国で突出して高い日本において、仮に財政赤字が拡大し、政府債務残高の増加に歯止めが掛からない場合には、国債の安定消化が困難となる可能性もあると認識している。
また、超長期金利については、グローバルな財政懸念の影響も指摘されていることに加え、足元では、生命保険会社を中心とした超長期債への需要の減退によって需給バランスが崩れているともいわれており、特に上昇が顕著となっている。
こうした状況を踏まえ、市場の安定性に目配りしながら国債市場の機能改善が進められていくとともに、より長期的な観点で財政自体の規律維持や国債の発行残高・年限構成、保有者層の多様化等に関する幅広い議論が行われていくことが望ましいと考えている。
2点目のご質問である骨太の方針、成長戦略について回答する。先週閣議決定された骨太の方針には、「賃上げを起点とした成長型経済の実現」を主軸に据え、それを確実なものとするため、まずは米国の関税政策や食料品をはじめとする物価高など、当面のリスクへの対応に万全を期す姿勢が示されている。
そのうえで、成長戦略の要として、日本全体で1%程度の実質賃金上昇のノルム定着を目指し、企業の稼ぐ力を高める「投資立国」に向けた産業政策や、国民の資産形成を後押しする「資産運用立国」も推進するとしている。また、政権が重要政策に位置づける「地方創生」をより前面に出したことも特徴だと受け止めている。
財政運営は、プライマリーバランス黒字化の達成時期を、従来の2025年度から「2025年度から2026年度を通じて可能な限り早期」へと変えつつも、「経済再生と財政健全化の両立」を重視し、財政健全化の旗を下ろさないことが明記されている。
骨太の方針に加え、「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」の改訂版も公表されているが、官民が連携し、構造的な課題の克服に取り組む方針が示され、中小・小規模事業者の賃上げ環境の整備や投資立国の実現、スタートアップ育成等々、多岐にわたる内容となっている。
総じて申しあげると、家計の需要面と企業を中心とした供給力、双方の押上げを企図し、日本全体の底上げのために、都市だけではなく、地方にフォーカスを当てていることなど、日本経済が長期的かつ持続可能な成長を目指すための適切な方向性をお示しいただいたものと受け止めている。
銀行界に関連の深い項目について触れると、家計には、全世代の国民がライフプランに沿った資産形成を行う環境整備として、特に高齢者と若い世代におけるNISAの一層の活用や、iDeCoの限度額引上げの実現を目指すことが示されている。企業に対しては、投資専門子会社の投資対象の拡充、大規模M&Aなどに係る大口信用供与等規制の一時的な限度額の超過の許容、さらには新株予約権付融資における新株予約権の利息制限法等に関する論点等の検討、また、銀証ファイアーウォール規制のあり方についての検討も盛り込まれている。
銀行界としては、骨太の方針と、「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」で示された投資立国や資産運用立国、地方創生といった重要施策にしっかりとアラインし、わが国企業や家計の成長と社会課題の解決に貢献して参りたい。
(問)
スタートアップ関連で伺う。グロース市場の上場維持基準の厳格化等、いろいろな動きがあるかと思う。先ほど新株予約権付融資に関する検討会の設置を発表されているが、スタートアップ支援に対して、銀行界としてどのように対応していくのか伺いたい。
(答)
まず、スタートアップは新しいアイデア、技術によって経済成長の原動力となるイノベーションを生み出し、環境問題や少子高齢化等の社会課題の解決に貢献し得る重要な存在であり、銀行界としても、こうしたスタートアップの成長・育成に対して、金融・非金融の両面から支援を行うことが求められている。
冒頭にご説明したとおり、全銀協では「新株予約権付融資に関する検討会」を立ち上げ、資金の出し手となる金融機関や事業者、借り手となるスタートアップ企業、法務・会計等の有識者に加えて、関係省庁とも連携のうえ、新株予約権付融資を適切に実施するための法令解釈の明確化を進めていきたいと考えている。
具体的には、商品設計別の利息該当性の明確化、利息に該当する場合の法定上限金利の範囲内であることの疎明方法の明確化、借り手が期限前弁済した場合の取扱いの明確化などを予定している。
また、金融面での支援強化だけではなく、非金融面からの支援も重要と認識している。さまざまな企業と取引を有する銀行は、大企業とスタートアップの結節点となることができるため、各行が有する顧客基盤を梃子としたビジネスマッチングや提携により、オープンイノベーションを促進し、スタートアップの創出や事業成長を支援していくことが可能であると考えている。
また、銀行自身についても、生産性向上等に向けた社内のDXの推進など、スタートアップとの連携を強化していく必要があると考えている。
銀行界としては、金融・非金融両面からスタートアップ企業の支援に積極的に取り組み、ユニコーン企業の創出にも貢献して参りたい。
(問)
1点目は、米国関税の影響について。先日の日米首脳会談においても、関税に関する協議は合意に至らなかった。米国関税について、改めて国内経済への影響をどのように見ているか、また銀行業界としてどのように事業者を支援していく方針か。2点目は、ニデックと牧野フライス、台湾の企業と芝浦電子など、最近同意なき買収に関するニュースが増えている。銀行業界としてどのように受け止め、どう対応していくのか伺いたい。
(答)
まず、1点目の米国関税の影響だが、1月の政権発足以来、トランプ政権は中国やカナダ、メキシコへの国別関税に始まり、鉄鋼・自動車への品目別関税、さらには4月のグローバルな相互関税など広範な関税政策を推し進めている。足元は、中国や英国との間で一定の通商合意に達し、他国とも交渉が進められるなど、さらなるエスカレーションへの歯止めが期待される動きが出てきている一方、ご指摘のとおり、日米交渉はまだ合意に至っておらず、引き続き不確実性は高いと受け止めている。
日本への影響は、特に自動車をはじめとする製造業において、輸出減速によって生産や企業収益の下押し影響が想定されるほか、関税政策を巡る不確実性が設備投資の手控えにつながる可能性がある。また、こうした企業への影響が、雇用や家計の所得に波及すれば、個人消費にとっても重石となる。加えて、為替や金利の変化といった金融市場を通じた影響もあると見ている。
影響の大きさについては、民間のエコノミストの間では、日本のGDP成長率を0.2%から0.6%程度下押しするとの見方が多いようだが、実際には関税政策が最終的にどのようなかたちに落ち着くかにより決まるため、現時点で影響度合いを正確に見通すことは難しい。
まずは、足元で進む日米の通商協議が日本経済にとって良いかたちで決着することを期待しつつ、経済や金融市場の動きに注意深く目を凝らして参りたい。
政府が4月25日に発表した「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」でも、影響を受ける企業に対する金融面の支援強化が盛り込まれており、全銀協では通達を発信して会員行の第一線の職員までの周知徹底と顧客企業への適切な情報提供を要請した。
銀行界として、関税の影響が多岐にわたることを念頭に、事業者に寄り添って、丁寧かつ親身になって、資金繰りをはじめとしたさまざまな支援を進めて参る所存である。
2点目の、同意なき買収については、2023年8月に経済産業省が「企業買収における行動指針」を公表し、従前の「敵対的買収」という呼称が「同意なき買収」に改められるとともに、対象会社の取締役会は、具体性・目的の正当性・実現可能性が備わっている「真摯な買収提案」については、真摯に検討するよう求められるようになった。
これらの企業価値の向上を重視した考え方が浸透してきていることや、実際に同意なき買収の成立事例が出てきていることもあり、日本においても同意なき買収の事例が徐々に増えているのではないかと思う。
銀行界としては、企業が買収を検討・実行する際は、経済産業省の行動指針も踏まえて、企業価値向上の観点から検討が進められることを期待したい。個別案件についての対応方針は、それぞれの案件に固有の事情も考慮したうえで、各行にて慎重に対応を判断していくものと考える。
(問)
日本銀行の国債買入れ減額に関連して伺いたい。今後、大口の買い手としてメガバンクが期待されていると思うが、財政赤字拡大の懸念も広がるなか、足元の国債市場をどう評価するのか。併せて、2024年の都市銀行の国債買い越し額が2022年の2割程度にとどまっていることへの受止めと見解も伺いたい。
(答)
先ほどの質問とも少し回答が重複するところがあるが、足元の国債市場への評価について、金利面の動きをお話しすると、もともと日本銀行の利上げ等を背景に長期金利は上昇傾向にあったが、グローバルな財政懸念に加えて、超長期ゾーンにおいては需給バランスの問題も影響し、金利上昇が顕著となっていると指摘されている。
今回の決定会合において、日本銀行は、今年度は従来どおりのペースで国債買入れを減額していくことを決定したが、日本銀行が買入れを減額した分の国債は、現在の国債保有者の状況を踏まえれば、主に生保や海外投資家のほか、ご質問にあったメガバンクを含む銀行などが購入の受け皿になりうると考えられる。また、先ほども触れたが、利回り上昇を受けて個人向け国債の販売が増加していることに加え、販売対象が法人にも拡大される予定であり、投資家層の拡大が進む可能性もあるとみている。
ご質問の2024年のメガバンクの買い越し額については、個社ごとに戦略が異なるため一概に言えない部分も大きく、また、全銀協の会見であるため詳細は触れないが、冒頭に述べたように、政策金利の引上げ等を通じ、円金利が上昇する局面、かつ、国債買入れ減額が計画どおり進み、先行きの円金利も上昇基調をたどるとの見通しが広がるなかで、買い越し額が一定程度に収まったものとみている。
(問)
銀行界のリテール戦略の展望について伺いたい。先日は三菱UFJフィナンシャル・グループからリテール戦略の発表があったり、NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収したり、三井住友フィナンシャルグループとSBIホールディングスが資産運用会社を立ち上げるなど、各社のリテール戦略を巡る動きが活発になり再編等も進んでいる。改めて金融のリテールビジネスの競争環境をどう見ているか伺いたい。
2点目、先日、郵政民営化法の改正法案が国会に提出された。改めて銀行界としての受止めを伺いたい。特に、郵便局ネットワークに国の資金が支出されるという建付けになっているが、その点についての賛否も伺いたい。
(答)
まず、銀行のリテール戦略であるが、金利のある世界の到来による資産運用ニーズの高まり、社会のデジタル化の進展によるお客さまの行動の変容、また多くのFinTech事業者の登場など、ご指摘のとおり、銀行のリテールビジネスを取り巻く環境は近年大きく変化している。このような環境のなかで、各行においては、スマートフォンから利用できるアプリを通じて、グループ内外のさまざまな商品・サービスを提供し、利便性を高めるとともに、利用する商品・サービスに応じた預金金利の上乗せやポイント還元等を行って、利得性も同時に訴求するなど、リテールビジネスの強化に取り組んでいるところである。これらのビジネス強化の過程においては、これまで以上に大胆にM&Aや業務提携が活用されていることも特徴である。
また、小売事業者や通信事業者が経済圏や顧客基盤を活かして、金融事業を非金融事業と一体的に提供する動きも活発であり、業界の垣根を超えた競争も生まれている状況である。
今後、生成AIも含めたテクノロジーのさらなる発展やビジネスへの実装、金利・物価・賃金等の状況を踏まえた資産運用ニーズのさらなる高まり、またNISAやiDeCo制度の拡充など、制度的な後押し等も十分に想定されるなか、リテールビジネスを取り巻く環境の変化や競争の激化は、継続するのではないかと思っている。
引き続き各社が、それぞれの強みを活かして商品・サービスの魅力を高めて切磋琢磨することで、お客さまのニーズにより一層応えていくことが重要と考えている。
2点目の郵政民営化法の改正法案についてだが、そもそも、郵政民営化の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じ、国民経済の健全な発展を促すことにあると思っている。
こうした考えのもとで、郵政民営化法において、日本郵政が保有する金融2社の全株式を「できる限り早期に」処分することを目指す旨が定められ、改正郵政民営化法の附帯決議において、金融2社の全株式処分に向けて日本郵政に具体的な説明責任を果たすよう努めることが求められている。
そうしたなかでの今回の改正法案だが、日本郵政が保有する金融2社株の処分について、「できる限り早期に」という文言が削除されているほか、日本郵政に対し、当分の間、金融2社株の3分の1超の保有義務を課すこととされている。この持株比率規制は、改正法案の附則において、「当分の間、3年ごとの郵政民営化の進捗状況についての総合的な検証の際に、郵政民営化委員会および政府が見直しを検討する」と規定されているが、銀行界としては引き続き金融2社の全株式処分に向けた筋道が早期に示され、その実現に向けた取組みが着実に進むことを期待している。
また、今回の改正法案では、附則において、「3年ごとの総合的な検証の際に、上乗せ規制のあり方について郵政民営化委員会および政府が検討する」と規定されているわけだが、銀行界としては、ゆうちょ銀行に間接的な政府出資が残る限り、上乗せ規制は緩和されるべきではないと考えている。
加えて、今後の検討に当たっては、間接的な政府出資が当分の間残ることを前提に、改めて民間金融機関との公正な競争条件が確保されているか検討されることが重要と考えている。今後の法案審議において、民間金融機関の意見を十分に考慮し、建設的な議論が進められることを強く期待している。
最後に、ご質問いただいた郵便局網への財政支援については、これは郵政事業のユニバーサルサービスの提供を維持するための措置と理解しており、全銀協としてはコメントする立場にないと考えている。
(問)
2点伺う。1点目はATMについて。先日、富士通がATM生産からの撤退を発表して、一部では3メガバンクでもATMの共同運営の検討が行われているといった報道もあった。維持コストがかかるなかで、キャッシュレス化が進み、ATMの需要は減っていくと思うが、今後のあるべきATM運営について考えを聞かせてほしい。
2点目が、貸金庫のひな型改正について追加の質問になる。金融庁の監督指針を踏まえた今回の対応だと思うが、なぜ現金を預からない方針にしたのか。そのご見解、判断理由を教えていただければと思う。また、個別行としては、今後も貸金庫自体は続けるということだが、なぜ現金を預からないなかでも続ける必要があるのか、改めて聞かせてほしい。
(答)
まず、ATMについては、現金ニーズに応える社会インフラの一つとして重要な役割を担っている一方、キャッシュレス化の進展、インターネット・バンキングの普及により、設置台数は減少傾向にあると認識している。各金融機関においては、現金の利用が減っている現状も踏まえたうえで、お客さまの利便性の維持・向上やATM維持に必要となるコスト等も踏まえて方針が判断されていくものと認識しており、ATM運営に関する他社との提携・共同化といった取組みも選択肢の一つだと考えている。
個別行の取組みになるが、三菱UFJ銀行と三井住友銀行では、2019年からすでに一部ATMの共同利用を開始している。なお、ご質問の3メガバンクによる共同運営の件については、当事者から公表されているものではなく、この場での言及は控えさせていただく。
銀行界としては、社会インフラとしての機能を維持しつつ、社会の変化やお客さまのニーズに応じ、安心・安全で持続的なATMネットワーク、金融サービスのあり方について、今後も検討を続けていくテーマだと思っている。
次に、貸金庫への現金格納については、監督指針およびパブリックコメントの回答において、現金はその流動性、匿名性から、犯罪収益の追跡が困難となる可能性が高く、マネー・ローンダリングや不正利用等の観点からリスクが高いため、格納可能な物品から除外すべきとされている。こうしたことから、今回、現金を格納できないものとする方針としたものである。
個別行として、なぜ続けるのかということだが、お客さまの資産をお預かりすることは銀行にとって重要な業務である。三菱UFJ銀行としてはまず、今回の監督指針の改正も踏まえ、お客さまに安心・安全にご利用いただく態勢をしっかり整備していく。そのうえで、今後お客さまのニーズの変化や、さらなる業務負荷、コストの高まりがある場合には改めて方針を見直すこともありうる。安心・安全な態勢構築に対応するなかで、課題を踏まえて随時方針を検討していく。
(問)
地銀の預金について伺う。一部の地銀で、預金量が減る預金流出のような現象が起きている。これは金利が立ち、銀行がさまざまな政策を打ち出すなかで、競争が激化していることも背景にあると思う。安定的な預金の確保は、銀行にとって最も重要な命題の一つだが、金利だけ、利得性だけによる預金集めには、調達コストの増加や粘着性の弱さという課題もある。この点について、金融当局もリスクの検証作業を始めたとの報道もあるが、業界団体のトップとして、どういう問題意識を持っているのか、安定的な預金確保はどうあるべきか、考えを聞かせてほしい。
(答)
ご指摘のとおり、2024年度末時点で、地銀・第二地銀の約4割に当たる38行において、預金残高が前年比減少している。預金減少行は前年度から倍増しており、預金獲得に向けた各行間の競争が強まっているのは、ご指摘のとおりだと思う。
昨年度の決算では、日本銀行の利上げを受けて、預金金利の上昇を上回るペースで貸出金利息が増加し、多くの銀行が増益となっている。こうしたなかで銀行の経営上、貸出の安定的な原資として預金の重要性が高まり、預金金利を高く設定し、預金の獲得に注力する銀行が増えているということだと思う。
問題意識というわけではないが、今後、政策金利のさらなる引上げに応じて、各行の預金獲得の動きは一層強まっていくと予想されるなかで、資金調達コストの拡大により資金収益の拡大が下押しされる銀行が出てくる可能性も、私は否定できないと考えている。
もっとも、ご質問のとおり、お客さまの口座選択は預金金利のみによって決まるものではない。例えば個人のお客さまでは、昨年から開始された新NISAや、金利上昇局面への転換により、他の金融商品の魅力が高まるなかで、預金口座から運用商品が買いやすいユーザーインターフェースを持つ銀行が好まれるなど、利便性も重要な要素となっている。
また、法人のお客さまでも、利便性の高い決済サービスの提供やお客さまのビジネスに資するコンサルティング機能の発揮によって、自行をメインの決済口座として選択してもらう努力が重要になっていると考える。
安定的な預金の確保に向けては、会員各行がそれぞれの経営戦略を踏まえたうえで、お客さまへ魅力ある金融商品・サービスの提供に尽力していく、私はこれこそが肝要だと思っている。
(問)
有価証券報告書の総会前開示について1点伺いたい。銀行界では有価証券報告書の総会前開示が全社で実施される予定ではあるが、半数超が総会前の前日や2日前の開示にとどまっており、金融庁が求める3週間以上前の開示には至っていない現状がある。金融庁の要望に応えると銀行担当者にとって相当な負担になると思うが、現状の対応の受止めと銀行界でのベストプラクティスや今後の課題について教えてほしい。
(答)
本件について、今年3月の大臣要請では、有価証券報告書の開示は、本来、株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましいとしつつも、実務上の課題も存在することから、今年はまず株主総会の前日ないし数日前に開示することが求められたと認識している。これまで銀行界で株主総会前に有価証券報告書を開示しているのは数社にとどまっていたが、この要請を受けて今年はほとんどの銀行が総会前開示を実施予定であり、早期開示に向けた対応に進捗が見られたと受け止めている。
社内の決定権限の変更をはじめ、規定の見直し等により早期開示に対応している銀行もあるようだが、株主総会の3週間以上前の開示については、今後、サステナビリティー情報も含め、有価証券報告書のボリュームが大幅に増えるなか、対応は容易ではないと受け止めている。
今後については、会社法で求められる事業報告書との一体化、株主総会の後ろ倒し対応等々、制度の見直しも含めた幅広い検討が必要と考えている。
(問)
預貸ギャップについて伺う。先ほどの質問にあったように、一部の銀行では預金が減っているが、誰かへの貸金は必ず誰かへの預金になるため、預貸ギャップ自体は変わらないということが基本的なテキストブックに書いてある。そのなかでも預貸ギャップが縮んでいくことがあるのか、あるとしたらどういう理由なのか教えてほしい。
(答)
国内のマクロ全体で見た預貸ギャップのことだと思うが、ご指摘のとおり昨年後半から確かに縮小に転じている。これは直接的には貸出の増加ペースが預金を上回っていることによるものだが、まず貸出については企業の設備投資や家計の住宅購入に係る資金需要に支えられて、足元まで底堅い伸びが続いている。
預金も増加が続いているものの、貸出と比べると伸びが鈍化している。これはなぜかという点について、そもそもの話になるが、マクロの預金残高が増減する要因には大きく3点あると思っている。1点目は『銀行が貸出によって預金を生み出す信用創造のルート』、2点目は『銀行が日銀当座預金から国債を購入し、その資金が政府支出を経て最終的に銀行預金に流入するという財政のルート』、そして3点目は『証券投資等を中心とした海外との資金移動のルート』である。
このうち、1点目の銀行の信用創造のルートについては、先ほど申しあげたとおり、貸出は底堅さを維持しており、預金の減速要因にはなってはいない。
一方、2点目の財政のルート、また3点目の海外との資金移動のルートについては、コロナ禍において赤字が大幅に拡大した財政収支が、この1年程度は平時の水準を目指す流れにあったこと、また、新NISAの開始などを受け、家計の海外投資が拡大していることを踏まえると、預金の伸びが鈍化する要因になっているのではないかと考えている。
個別の金融機関ごとに見れば、預貸ギャップの状況は一様ではないが、ご質問のような国内全体について考えると、貸出がしっかりと伸び、家計の投資の積極化といった流れのなかで生じる預貸ギャップの縮小は、マクロ経済の前向きな動きと捉えて良いと思っている。
(問)
2点伺う。1点目は債券市場における5月の金利の急騰の背景には、参議院選挙を前に物価高対策として消費税などの減税が取り沙汰され、それによって将来的な財政悪化への懸念が高まっていることが一因になっているという指摘もある。海外ではトラス・ショックの例もあるが、会長として、消費税減税をどう考えているか。マーケットへの影響、あるいは金融機関の経営に与える影響をどう考えているか。
2点目は、政府が金融機関に公的資金を注入する、いわゆる金融機能強化法にもとづく制度の延長が検討されている。この制度を巡っては返済の目途が立たない事例もあり、銀行ではないが、資金注入先の不正が見過ごされる事例も見られている。こうした状況を踏まえて、この制度の効果、あるいは課題をどう認識されているのか。それから、制度改正に際して全銀協としてどのようなことを求めていこうと考えているか。
(答)
1点目については、参議院選挙を控えて、消費税減税も含めたさまざまなテーマに関して、活発な議論が行われているものと理解している。一般論として、消費税は広く全世代の国民全体が負担すること、また財源として安定的であることなどから、社会保障財源としての重要性が高いと理解している。
政府の検討内容に対してコメントする立場にはないが、短期的には、足元の物価高への対応や賃上げを通じて、景気回復の持続をより確実なものとすることが重要である。一方で、少子化対策、社会保障の持続可能性の確保、財政健全化といった従来からの中長期的な課題の重要度も一層増していると認識している。参議院選挙の有無に拘らず、これらの短期・中長期の課題への取組みが着実に進むことを期待している。それぞれの政策をどのように実行していくのか、財源のあり方の検討も含めて、国民に分かりやすい、丁寧な政策議論を進めていただきたいというのが私の思いである。
2点目、金融機関への公的資金注入制度の延長を検討している件だが、金融機能強化法にもとづく公的資金注入制度は、預金保険法にもとづく公的資金注入制度とは異なり、破綻懸念がなくても国が予防的に公的資金を注入できる制度であると認識している。2004年の創設以降、リーマンショックや東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大などの危機時に改正が行われ、金融機関の健全性を維持し、経済の安定を図るための枠組みとして、30の金融機関に対し、予防的な資金注入がなされるなど、有効に機能してきたと考えている。日本全体で少子高齢化や人口減少が進み、特に地方においてその影響が色濃く出るなかで、地域を支える金融機関の役割は一層重要となる。地域の資源を活用した付加価値の創出や、地域の課題解決に資する取組みの支援等により、地域経済の活性化への一層の貢献が求められるなかで、こうした制度の延長が検討されていることを心強く感じている。
ご指摘いただいたとおり、公的資金の注入から完済にかけて、結果的に長い年月を要した事例等があることは認識している。銀行界としては、各行が制度の活用もきっかけに、自らの改革に向けた議論を深めるとともに、地域経済への一層の貢献に邁進し、経営基盤の強化や収益性向上を図り、自律的な経営を実現していくことが重要だと思っている。
(問)
貸金庫への格納品が規定の定める範囲を逸脱することがないかといった利用目的を書面等で申し出ていただくことを追加するということだが、新規の利用者だけではなく、すでに貸金庫を使っている利用者に対しても適用するということか。
(答)
既存のお客さまについても同様に適用することになる。
(問)
中東情勢が緊迫化しているなかで、メガバンクなどでテヘランに駐在している行員もいると聞いている。こういった方々の退避や、中東情勢の緊迫化に伴う経済へのマクロ、ミクロの影響等を聞かせてほしい。
(答)
まず、中東地域の安定はわが国を含めた世界経済にとって重要であり、国際社会の努力によって、事態が早期に収束することを願っている。
経済への影響については、金融市場では、13日の空爆直後には各国の株価が下落し、安全資産とされる米国債や金価格の上昇など典型的なリスクオフの動きとなった。その後のマーケットは一旦落ち着いたように見えるものの、足元にかけて軍事的な情勢が一段と緊迫しており、当面は不安定な相場に十分な警戒が必要だと思っている。
原油価格は、イラン産原油の供給懸念などを反映し、足元では1バレル70ドル台半ばと、空爆前から約1割水準が切り上がっている。原油価格の高騰が続けば、米国では関税引上げにさらなるインフレ圧力が加わり、日本や欧州などでも関税起因の景気減速懸念があるなかでのコストの増加要因となるなど、各国でスタグフレーションのリスクが高まることになると懸念している。物価、景気への影響を通じ、各国中銀の政策判断にも影響を与える可能性もあるのではないかと見ている。
もっとも、原油の需給バランスの観点では、イランの生産シェアは4%程度である一方、OPECをはじめとする産油国には十分な増産余力があり、原油価格上昇時には、米国のシェールオイルなどの増産も進みやすい環境にはなると見ている。他方で、中東でのさらなる戦火の拡大や、ホルムズ海峡の通航障害など、原油の供給障害が他の産油国にまで及ぶような極端なエスカレーションが生じれば、原油価格も大きく高まるおそれがあると見ている。そうした場合には、スタグフレーションのリスクが顕在化することも懸念されることから、情勢について最大限の注意を払う必要があると認識している。
邦人行員の退避については、大変な状況にあるのは間違いない。今、政府等の協力を得ながら、まさに退避を進めている状況と認識している。
(問)
日本製鉄がUSスチールの買収を完了したと発表したが、融資する立場としての受止めを伺いたい。
(答)
ご質問の案件については、条件付きで案件を承認する大統領令が発せられ、現地時間の18日に手続が完了したものと承知している。これは全銀協会長としてのコメントというより、個人的なコメントになるが、まずは長期間にわたり粘り強い交渉で案件をまとめあげられたことについて、関係者に敬意を表したいと思う。鉄鋼産業は、高品質な素材供給を通じ、日本全体の競争力を支える基幹産業であるが、現在の鉄鋼業界の事業環境を踏まえると、さらなる需要捕捉に向けた海外戦略が重要であると認識している。今回成立したパートナーシップが、両者の競争力の強化や成長戦略の実現につながることを期待している。
(問)
貸出増加支援資金供給の新規貸付が6月末で終了する。今回の終了により、銀行の資金調達環境にどのような影響が生じるとお考えになっているか。特に、地銀を中心に調達コストの上昇などの影響も考えられると思うが、今後、長期的に見て、与信姿勢の見直しや貸出金利の引上げといった広範な銀行の貸出戦略の変化につながる可能性はあるとお考えか。
(答)
当該オペは、金融機関の貸出促進を目的として2012年に導入され、当初は最長4年までの固定金利貸付のかたちで設定されたものだと認識をしている。2024年3月のマイナス金利解除と同時に、期間が1年に短縮され、同年7月の政策金利引上げ時に金利タイプが変動金利に変更されるなど、徐々に制度が縮小されてきて、今回まさに貸出が堅調に推移するなか、金融政策の正常化に向けたプロセスのなかで進められているものと受け止めている。
当該オペは、安定的な資金調達手段として、今年6月時点で110を超える金融機関が利用している。1月の決定会合では、6月末をもって新規貸付を終了する旨が公表され、経過措置として、7月から12月末までに満期が到来する貸付は、5割を上限に借換えが認められることになった。今後は2027年度にかけ、段階的に約70兆円の残高が?落していくと理解している。
銀行界への影響ということだが、当該オペによる低利調達が終了した後、資産サイドでは、住宅ローンを含む貸出金利の引上げや債券運用の採算目線への影響が生じる可能性がある。また、預金を含む負債サイドの調達金利に影響が及ぶことも予想されるので、私どもとしても今後の状況を注視して参りたい。