2025年11月13日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から4点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、次期会長をみずほ銀行の加藤頭取とすることを内定した。次期会長は、今後の理事会における正式な選定手続を経て2026年4月1日付で就任する予定である。
 2点目は、お手元の資料のとおり、全銀協では会員銀行におけるスタートアップ支援の強化に向けたオープンイノベーション推進施策を開始した。本施策は、会員銀行におけるオープンイノベーションの理解促進と実践支援を目的としており、オープンイノベーション手法の普及を通じた非金融面からのスタートアップの事業成長支援を目指すものである。当協会は、今後も会員銀行とともにスタートアップ支援の強化に向けた取組みを継続して参る。
 3点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、中小企業金融等への取組みに関する申し合わせを行った。銀行界として、引き続き中小企業等の多様な経営課題に応じたきめ細かな支援を徹底し、金融仲介機能の発揮に全力を挙げて取り組んで参る。
 4点目は、お手元の資料(マネー・ローンダリング共同機構ウェブサイト)のとおり、昨日、当協会の子会社であるマネー・ローンダリング対策共同機構において、不正利用口座情報共有に関するシステムの開発等に係る事業者の募集を開始した。本件は、金融機関同士が不正に利用された口座情報を共有することで、特殊詐欺等の金融犯罪抑止を目指すものである。これは、政府の「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」にも掲げられており、枠組み創設に向けて、これまで関係当局と継続的に協議しているところである。今後は、2027年4月のシステムリリースに向けて、引き続き関係当局とも連携して取り組んで参る。

 

会長記者会見の模様


(問)
 2点伺う。1点目、高市政権発足の受止めと新政権の政策への期待や注文などがあれば伺いたい。
 2点目、全銀協の次期会長人事にみずほ銀行の加藤頭取が内定されたということだが、どのようなことを期待されているか教えてほしい。
(答)
 まずは、この臨時国会において、高市早苗自由民主党総裁が第104代内閣総理大臣に選出されたことを歓迎している。特に、憲政史上初の女性の内閣総理大臣が誕生したことは、日本の政治の新たな1ページとして大変意義深いものであると受け止めている。
 期待していることとしては、高市政権の最重要課題でもある国民生活に直結する物価高・経済対策を着実に進めていただくとともに、税・財政・社会保障の一体改革や少子化対策といった中長期的な課題に対しても積極的に取り組んでいただきたいということである。高市政権では雇用促進につながる税制措置の検討も含め、「危機管理投資」を通じた成長戦略を加速していくとしているが、このなかで金融の力も重要であると認識している。銀行界としても、これまでの資産運用立国に向けた取組みを継続し、貯蓄から投資への流れをさらに加速させ、日本経済、特に国内産業への投資促進と、地方経済の活性化にも貢献して参りたいと考えている。
 他方、政権運営においては、日本維新の会との連立政権樹立後も、引き続き少数与党という状況である。高市政権の目指す「強い経済政策」や「強い外交安全保障政策」の推進に向けて、政権与党として、与野党間での丁寧な政策議論をリードし、実現していただくことを期待している。
 2点目、次期会長についてだが、ご案内のとおり、加藤頭取は、現在わが国のリーディングバンクの一つであるみずほ銀行を率い、先読みが難しい社会経済情勢が続くなかにあっても、その手腕、実績は申し分ない方である。
 全銀協においても、前回会長を務められた当時は、経済の持続的成長と社会課題解決への貢献に尽力され、新NISA制度の円滑な開始、経営者保証や事業再生に関する各ガイドラインの改定、カーボンニュートラルの実現に向けた対応など、銀行界の多岐にわたる課題に対し、大変見事なリーダーシップを発揮された。
 これらを総合的に鑑み、本日の正副会長会議、理事会において、新会長として最もふさわしい方と判断したものである。


(問)
 1点目は冒頭紹介のあった不正利用口座情報共有の事業者募集の件で、この情報共有の枠組みについては3月に報告書が出ているが、その後の全銀協の取組みの進捗状況を伺う。
 2点目は日本銀行の金融政策に関連して、10月の金融政策決定会合で利上げの見送りが決められた。一方、植田総裁は、次の利上げに関しては来年の春闘の初動のモメンタムを見極めて判断するという考えを示している。現在、企業の中間決算も順次出てきて、そうした収益状況なども踏まえて、来年の賃上げのモメンタムを会長自身どのように見ているか。そのうえで、次の利上げのタイミングをどう見ているか。足元で円安が進んでいる点など、さまざまなものを考慮する必要もあると思われる。マーケットでは、利上げは12月か来年1月ではないかとの見方もあるが、会長自身の見方、あるいは利上げが適切と思われるタイミングについて伺う。
(答)
 まず1点目だが、昨日11月12日、不正利用口座情報の共有システムの運営主体となるマネー・ローンダリング対策共同機構は、共有システムに関するベンダー選定における一般競争入札を開始した。公募期間は今月19日までを予定しており、提案書の提出期限は2027年4月予定のシステムリリース時期を踏まえて、来月24日までとしている。不正利用口座の情報共有は、特殊詐欺等の金融犯罪が一層巧妙化・複雑化している中、金融機関同士で共有される情報にもとづいて、犯罪者や共犯者、あるいは被害者の口座を検知し、被害金の散逸を防ぎ、お客さまの被害拡大を防ぐことを目的としている。
 全銀協では、昨年12月に検討会を設置し、本年3月に本枠組みの構築に関する論点を報告書として取りまとめて以降、試行運用も含めて具体的な検討を進めてきた。
 こうしたなか、システム面に関しては、業務要件の大枠がまとまったことから、共有システムに関するベンダー選定における一般競争入札を開始した。より多くの金融機関が参加し、実効的な枠組みとなるよう推進していきたいと思っている。
 引き続き、お客さまが安心・安全に金融取引を行っていただけるよう、日々巧妙化・複雑化する金融犯罪に対して、官民一体となった対策を取り続けて参りたい。
 2点目について、個人の見解として答えられる範囲でお答えするが、10月の金融政策決定会合では、政策金利の現状維持が決定された。日本銀行の経済・物価に関する基本的な見方は、国内景気は総じて緩やかな回復傾向にありつつも、米国の関税影響など海外経済を巡る不確実性はなお高い、としている。
 また日本銀行は、関税による下押しの影響が出ている製造業の収益動向が大事な材料であるとの認識を示し、それらを踏まえた来年の春闘の初動のモメンタムについて情報を集めていきたいと説明している。
 このような認識のもとで、日本銀行は米国の通商政策の影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性や、来年の春闘に向けての労使の交渉状況がどのようなものになるか見極めるため、10月の会合では、金融政策の現状維持を決定したものと理解している。
 為替については、足元で再び円安圧力が強まる展開となっている。米国の関税政策に起因する景気・物価への影響をはじめ、金融政策判断に影響を及ぼす内外情勢の先行きは依然として不確実性が高く、FRBと日本銀行がその見極めや政策変更に時間を要するとの見方もあるほか、高市新政権における経済・財政政策の具体化が待たれるなかで、その影響がまだ明らかになっていない状況であることを踏まえると、当面は現状程度の円安が続く可能性も相応にあると見ている。
 これらを踏まえた今後の金融政策の見通しであるが、日本銀行は経済・物価見通しの実現に応じて、引き続き利上げを継続する方針を示しており、金融政策の大きな方向性は不変であると見ている。植田総裁も記者会見において、各国の通商政策を巡る不確実性が残る中、食料品価格の高止まり、これに起因する家計の期待インフレ率の上昇リスクに言及し、物価については中心的な見通しが実現する確度が少しずつ高まってきていると述べている。
 わが国をはじめ、米国の関税政策の影響が次第に明らかになっていくとみられるなか、日本銀行は今後も企業の賃上げやインフレの動向、政府の政策運営や為替をはじめとするマーケットの変動が景気・物価に与える影響も含め、情勢を丁寧に見極めつつ、利上げのタイミングを探っていくということではないかと見ている。


(問)
 2点お願いしたい。1点目は会見の冒頭で説明のあったスタートアップ支援の強化について。オープンイノベーションの理解促進と実践支援に向けた推進施策を進めるとのことだが、具体的にどのような内容なのか。また、今回こうした取組みをこのタイミングで始めるのはどういった背景があるのか。
 2点目は企業業績について。各社が決算を発表しており、AI、人工知能関連で好調な企業や米国関税の影響を大きく受けている企業など、いろいろあるが、全体として会長はどのようにご覧になっているか。
(答)
 まず、銀行界ではスタートアップへの取組み強化を重点施策の一つとして位置づけており、今般、従来からの金融面におけるスタートアップ支援に加え、オープンイノベーションの促進といった非金融面での支援施策も行うこととした。
 さまざまな企業と取引を有する銀行は、企業とスタートアップの結節点となることができ、各行が有する顧客基盤を梃子にして、スタートアップとの提携や協業によるお客さまのオープンイノベーションを促進しつつ、スタートアップの事業成長を支援することができると考えている。具体的な取組みとして、会員行のオープンイノベーションの理解促進と実践支援を目的に、オープンイノベーションに関するセミナー、ワークショップ、リバースピッチの三つのコンテンツを予定している。
 第1弾として、まさに昨日、セミナーを開催した。セミナーでは、有識者や関係当局もお招きし、オープンイノベーション手法の一つであるベンチャークライアントモデルや政府の取組み等に関する基調講演のほか、銀行界におけるスタートアップ協働とオープンイノベーション活性化に向けた課題や、銀行が果たすべき役割に関するパネルディスカッションを実施した。
 今後、各行における実践支援を目的に、ワークショップとリバースピッチイベントの開催を予定している。ワークショップを通じて各行がスタートアップとの連携によりどのような課題に対応できるかを検討し、リバースピッチイベントでは、実際にスタートアップとのネットワーク構築までを実践していただきたいと思っている。
 こうした非金融面での取組みも通じて、銀行界としてスタートアップの成長に貢献するとともに、スタートアップとの協働を通じた銀行業務のさらなる高度化にも取り組んで参りたい。
 2点目の企業業績については、足元まで公表されている各社の決算を見ると、全体として見れば底堅い利益水準を確保していると評価し得る内容ではあるが、個々の産業を見ると、まだら模様の決算という印象を持っている。
 質問いただいたAI関連業種については好決算となる企業が多いわけだが、特に米国においてAI投資の過熱感を指摘する声も出ていると承知しており、先行きの動向については注視が必要な状況だと認識している。
 非製造業においては、人手不足等の構造課題に直面しているほか、インバウンド需要拡大の一服や物価高による消費抑制の影響が出つつも、業績自体は好調さを維持している状況と認識している。
 一方、製造業においては、為替の追い風を受けながらも、自動車などの輸出型の製造業を中心に米国の関税政策の影響が顕在化しているほか、資材価格や人件費といったコスト上昇も業績の重石となっている状況かと思う。
 先行き、わが国の経済は、人手不足等も背景とした賃上げの流れの継続、インフレ率低下に伴う実質賃金の改善が見込まれ、企業の設備投資も高い水準が続いていることから、景気は下支えされると見ている。こうしたなか、企業業績も減益を余儀なくされる業種は出てくると見られるものの、今年度を通じ、全体として見れば底堅さを維持すると想定している。
 ただし、米国の関税政策の影響をはじめとして、わが国経済や企業業績を巡る情勢は依然として不確実性が高く、銀行界としては、引き続き事業者に寄り添い、丁寧かつ親身になって資金繰りをはじめとしたさまざまな支援を進めて参る所存である。


(問)
 2点伺う。1点目は、銀行界の規制緩和要望について、主要な項目を教えてほしい。2点目は、不動産価格のボラティリティが銀行ビジネスに与える影響を教えてほしい。足元で住宅やオフィスの物件価格が急騰中だが、投機目的の転売が価格押し上げの一因であるとして、一部専門家からは実需との乖離を指摘する声も出ている。仮に相場が崩れるなどの価格変動があった際の銀行財務への影響、リスクシナリオなどはどのようにお考えか。
(答)
 まず、1点目の規制緩和についてお答えする。デジタル化の進展や社会課題解決への意識の高まりなどを背景に、お客さまのニーズは多様化し、私ども銀行を取り巻く経営環境も大きく変化している状況かと思う。
 銀行界として、これまで以上に金融仲介機能を発揮しながら、社会やお客さまに対し、より付加価値の高いサービスを提供することを目指してさまざまな規制緩和要望をしているところだが、主要な要望として三つの切り口で説明させていただく。
 一つ目は、「資産運用立国」関連の要望である。日本の成長に重要な役割を担うスタートアップへのリスクマネー供給の強化に資する投資専門子会社の投資対象拡充を昨年度に続いて要望している。また、今後、巨額の投資が見込まれる重要領域への円滑な資金供給に向け、大口信用供与等規制の緩和等も要望して参りたい。
 二つ目は、暗号資産に関する要望である。グローバルでの動向を踏まえ、わが国でも暗号資産等に関する議論が活発化しており、銀行界も備えを行っていくことが重要と考えている。すでに金融審議会でも議論が行われているが、銀行グループによる暗号資産の取扱いや、暗号資産ETFの組成・取扱いに向けた規制緩和について、関係省庁と議論して参りたい。
 三つ目は、業務範囲規制に関する要望である。巨大な顧客基盤を抱える通信・小売事業者等の金融ビジネスへの参入が相次ぐなか、適正な競争環境を確保しつつ、銀行界も社会や顧客のニーズに応じて提供するサービスの幅を拡大していくことが重要になると考えている。2021年の銀行法改正の5年後見直しのタイミングを見据え、銀行業高度化等会社の認可要件の緩和を要望する。
 これらの要望の実現に向け、全銀協としても必要な意見発信を続けて参りたい。
 続いて、2点目の不動産価格についてお答えする。足元の不動産価格は都市部を中心に上昇が続いており、この背景には、ご指摘があった投機的な要素のほか、資材価格の高騰や建設業界における人手不足等による建設コストの上昇などがあるとみている。
 不動産価格の上昇は、インフレ環境に転換するなかで生じていることではあるが、首都圏のマンション価格を中心に、過去と比較して大幅な上昇が見られるなかで、金利の上昇も相まって住宅の購入需要に影響を及ぼすとも考えられる。
 一方、都市部への人口流入による実需の支えのほか、国内の不動産市場は事業法人やREIT、ファンド、個人など、それぞれのリスク選好によって多様な投資家が存在しており、市況悪化局面にも一定の買い支えが予想され、一方的に価格が下落するような状況ではないと現時点では認識している。
 仮に不動産価格が急落する状況となった場合の銀行への影響については、各行のポートフォリオによって異なるが、個人向け住宅ローンの担保価値の下落を受けた信用コストの拡大、また、市況が不安定なもとでの住宅購入の先送りによる新規貸出の減少などがまずは想定される。また、不動産関連のビジネスを営む企業の財務状況の圧迫、その他、幅広い融資先企業に関する担保価値の毀損による貸倒引当金の積み増しなど、信用コストの増加が懸念される。
 こうしたリスクに備えて、銀行界では金融庁や日本銀行等ともコミュニケーションしながら、財務の健全性を検証するストレステストの実施や、バーゼル規制に沿った自己資本比率の充実に努めているところである。
 不動産市況は金融システムに影響を与える重要な要素であるため、銀行界としてはリスク管理を徹底し、市況に大きな変動が生じた際には、お客さま支援も含めて機動的な対応を行って参る所存である。


(問)
 2点伺う。1点目は中間決算について。3メガの中間決算の発表が明日に控えている。すでに開示されている大手行でも好調な決算となっているが、銀行経営を巡る環境認識についてどのように見ているか伺いたい。
 2点目がステーブルコインについて。3メガバンクが共同でステーブルコインの発行に向けた実証実験を始めるとの発表もあった。世界でもステーブルコインを巡る動きが激しくなっていると思う。日本の銀行界としてどのように対応していくか伺いたい。また、4月の会見でも資金決済システムの将来像に向けた議論を始める予定とおっしゃっていたが、進捗があれば伺いたい。
(答)
 1点目については、明日メガバンクの中間決算が集中しているため、この場では、第1四半期決算とその後のマクロデータ等を踏まえたかたちで話をさせていただく。3メガの第1四半期の純利益は好調であった前年同期とほぼ同水準となるなど堅調であったが、その主因としては、金利環境の正常化や資金需要の拡大に伴い、銀行の主な収益である資金利益が拡大していることがある。その点、貸出関連の統計によると、7月以降も資金需要の底堅さと貸出金利は改善傾向が持続しているほか、株価上昇によって株式関係損益も好調さを保っているとみられ、これらが銀行決算の押し上げ要因になっていると考えている。
 他方で、お客さまの経営環境に目を向けると、日米の関税交渉が合意に至るなど先行きの不透明感は一定程度和らいだものの、中小企業のお客さまを中心に人手不足や物価高等による倒産が増加するなど、引き続き楽観視できる状況にはないと理解している。
 銀行界としては、今後も、先読みが難しい経営環境にあるお客さまへの付加価値の高い提案を通じて、前向きな企業活動を後押ししながら、自らの業績目標の達成、成長戦略の実現につなげて参りたいと考えている。
 2点目のステーブルコイン関連だが、ステーブルコインは特に国際的な取引や送金を迅速かつ低コストで行う手段として有効と言われており、米国ではステーブルコインの包括的な法的枠組みに当たるジーニアス法が7月に成立し、米ドル連動型ステーブルコインの市場規模は、今後数年で数兆ドル規模まで拡大するという分析、試算もあると認識している。
 わが国においても、ステーブルコインに関する法整備が世界に先駆けて実現しており、投資家保護や金融の安定性を確保しつつ、国際競争力の確保を目指す取組みが進められており、金融庁の2025事務年度「金融行政方針」においても、円建てステーブルコインの活用等が促されている。
 足元では、資金決済法にもとづく第二種資金移動業者に登録されたJPYC株式会社が10月27日に円建てステーブルコインの発行を開始した。銀行界においては、個別行の話になるが、先週末に三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ信託銀行、Progmatの連名でプレスリリースをさせていただいたとおり、共同でのステーブルコイン発行とクロスボーダー決済の高度化に係る実証実験について、金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択された状況にある。
 円建てステーブルコインが発行され、流通していくことは、利用者にとっての新たな選択肢の拡大や、わが国における金融サービス等のイノベーションの活性化に寄与し得ると考える。他方、ステーブルコインの流通におけるAML/CFTへの対応、金融仲介機能への影響抑制、利用者資産の保護についても留意していく必要があると考えている。
 ステーブルコイン以外のデジタルマネーの議論も行われているなか、グローバルな潮流や利用者ニーズの多様化等も踏まえ、官民が連携して各種論点の整理を進め、安心・安全で利便性の高い、時代に即した金融インフラの実現に向けてしっかり貢献して参りたい。
 また、全銀ネット傘下に資金決済システムの将来像について多面的・多角的な視点で議論を行う会議体として設置された「スタディーグループ」において、わが国資金決済システムのあるべき姿や将来像について検討を行っている。これまで7回開催し、ステーブルコインも含めた決済領域における新たな潮流を踏まえた対応についても議論を行っている。今後、スタディーグループにおいて議論を深め、今年度中には議論の模様を報告書として取りまとめることを予定している。残り半年を切ったが、しっかり検討を深めていければと考えている。


(問)
 本日、会員行の富山銀行が、東京でホテルや飲食店を手掛ける株式会社Plan・Do・Seeから出資を受け、同社が筆頭株主になるという発表をした。同社は富山の会社ではなく、こういった動きは珍しい。地銀の再編が続いているが、そのなかで新しい流れができたエポックメーキングな案件ではないかと思う。金融庁の伊藤長官も、地銀の経営のあり方について、金融機関同士の再編だけではなく、他業態との提携も含まれるという認識をかねてより示しているなかで、こうした流れについての見解や、地銀の異業種との資本関係を含めた連携にどのような可能性があるのか、見解や受止めを教えてほしい。
(答)
 本日、富山銀行が株式会社Plan・Do・Seeと資本業務提携契約を締結した旨を公表したことは認識している。個別の金融機関の経営に関することでもあるので、詳細に触れることは差し控えるが、富山銀行の公表によると、「富山県をはじめとする北陸エリア等におけるホスピタリティ産業の一層の成長・発展を通じ、当地域における所得向上や雇用創出、人材開発を推進する」ことが目的とのことである。
 近年では、各行が地方創生の実現を目指して、金融・非金融両面での取組みを進めるとともに、再編などで経営基盤を強化する機運も高まっている状況かと思う。また、今回の事例のように、地域をまたいで非金融事業者と資本業務提携を結び、連携を深めていくなど、提携・統合のパターンも多様化していくと思う。
 今後も、各行が自らの経営戦略に照らし、幅広い選択肢のなかから、地方創生の実現に向けた最適な判断をしていくことが重要だと考えている。


(問)
 2点伺う。高市政権における日本成長戦略本部の日本成長戦略会議が先日始まり、AI・半導体や防衛など17分野への成長投資をしていくとされた。成長戦略には金融の力も必要との話があったが、改めて政策に関する受止めを伺いたい。
 もう一点、高市政権が進めていくと見られる積極財政政策は、長期金利の上昇にもつながる懸念があると見られるが、それに対する考えを伺いたい。
(答)
 まず、1点目だが、日本成長戦略本部、日本成長戦略会議において、危機管理投資や成長投資として、AI・半導体や造船、量子、バイオ、航空・宇宙等の17の戦略分野に対し、来年夏の成長戦略策定に向けて、今後、官民投資の促進策が取りまとめられていく方針が打ち出された。また、17の戦略分野を横断する課題も8つ選定されており、金融もこのうちの一つに掲げられている。
 経済安全保障や大規模災害の観点でのレジリエンス強化、日本の国際競争力の強化に欠かせない領域での供給力強化の重要性は論をまたず、金融面でも資産運用立国など、これまでの政策とも連続性のある取組みも打ち出されていると捉えている。
 11月10日の日本成長戦略会議では、投資促進につながる税制措置の検討など、来年夏の成長戦略を待たずに総合経済対策に盛り込むべき施策案が提示された。金融分野では、地域金融力強化プランの策定や有価証券報告書における人的資本開示の充実、コーポレードガバナンス・コードの改訂、NISA制度のさらなる充実等の検討が挙げられており、銀行界として、今後の政府内での検討の行方をしっかり見ながら議論に貢献して参りたい。
 2点目にも関連するが、財政面では、高市政権は戦略的な財政出動を行っていく方針を掲げており、これまで政府が説明されてきたプライマリーバランスの単年度での黒字化目標について、数年単位でバランスを確認する方向に見直す考えも示されている。他方で、政権も「責任ある積極財政」と称されているとおり、財政状況にも配慮された形で政策運営が進められることの重要性は、私は引き続き不変だと思っている。
 長期金利の動向について、大きな方向感としては、日本銀行による金融政策の正常化という流れや、物価の高止まりを受けたインフレ期待の高まり等を背景に、長期金利に上昇圧力がかかりやすい環境が継続しており、足元の10年物国債利回りは1.6%台後半から1.7%程度で推移している状況かと思う。
 今後については、高市政権における物価高に対応する総合経済対策の具体的な内容や、少数与党となっているなかでの与野党間の協議の状況などを注意深く見つつ、財政状況への配慮や市場からの評価という観点にも目配りした、バランスの取れた政策運営が行われることを期待している。


(問)
 1点伺う。邦銀によるプライベート・クレジット・ファンドに対してファンドファイナンスやレバレッジの提供などを通じた関与が増加している。海外ではファースト・ブランズ・グループの破綻など一部懸念もあるが、こうした取引の規模やリスク管理の現状についてどう認識しているか。足元の状況等に懸念があるのか伺いたい。
(答)
 近年、世界的にプライベート・クレジット・ファンドをはじめとするノンバンク部門の資産規模が急速に拡大している。これを受けて、金融機関によるノンバンク向けの貸出も増加しており、金融当局を中心にノンバンクがシステミック・リスクを生み出す可能性について、警戒を強めている状況かと思う。
 プライベート・クレジット・ファンドのリスクとして、運用資産の流動性が低く、投資先の情報開示も限られることから、モニタリングや評価が難しい面が挙げられる。特に足元では、米国の通商政策に端を発するマーケットの混乱や、アメリカの自動車部品メーカーの不正に起因する経営破綻等により、ノンバンク部門の保有資産の質に対する懸念が取り沙汰されるなど、まさに見えないリスクに対する懸念が高まっている状況である。各国の監督当局は、こうした状況を踏まえつつ、投資先や資金調達構造の実態の把握、レバレッジ管理の強化を進めていくものと認識している。
 国内に目を向けると、本邦金融機関が海外投融資を拡大するなかで、現状では海外ファンド向けの投融資は、限定的な規模にとどまっており、ポートフォリオの分散管理や融資先の選定、融資手法の高度化等を通じ、リスクをコントロールできている状況と理解をしている。
 ただし、海外のノンバンク部門による日本市場への投資拡大等から、グローバルな金融市場の変動が日本の金融システムに波及しやすくなっているなかで、ストレス時の資産価格変動や信用コストの増加のリスクも高まっている。今後もこうした国際的な動向を注視しつつ、慎重なリスク管理を継続し、金融システム全体の安定維持に努めて参りたい。


(問)
 2点伺う。1点目は、金融庁が金融機関に経営改善を求める早期警戒制度について。現在、運用の見直しが検討されており、新たに金利の変化や人口減少のリスクが判断基準となる見込みである。こうした動きへの受止めや、地域金融機関をはじめ会員行に与える影響について考えをお聞きしたい。
 2点目は、銀行業界のシニア人材活用について。定年を延長したり、取引先や関連会社への出向者を減らすことで、シニア人材を積極的に活用する動きがある。こうした動きについてどう捉えているか。
(答)
 まず、早期警戒制度自体は、現時点では最低所要自己資本比率を満たしている地域金融機関に対して、その健全性の維持・向上を図るための措置として2002年に導入され、その後、2019年からは金融機関ごとの「持続可能な収益性」や「将来にわたる健全性」に着目し、早めのモニタリングを実施する枠組みとして見直しが図られたものと認識している。
 今回の金融庁の「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」では、人口減少を踏まえた個人預金量の減少、また、金利上昇局面における有価証券評価損といった環境変化に触れながら、持続可能な収益性と将来にわたる健全性を確保するために、こうした環境変化が地域金融機関の収益性や健全性に与える影響について、個別の金融機関の状況も踏まえつつ、より深度ある検証を行っていくことが提案されている。また、深度ある検証においては、定量的なデータにもとづいた説得性のあるシナリオを設定したうえで検証を行い、金融庁と地域金融機関との間で経営状況について認識を共有する方向性も示されている。
 金利や人口動態は、中長期的な銀行ビジネスの収益環境や顧客基盤の前提となるものであり、金融機関が自らの経営上の課題と捉えていくことや、当局との対話のテーマとしていく方向性について、私は、そのとおりだろうと考えている。やはり重要なのは、各金融機関が自らの営業基盤を置く地域の人口、企業、産業などの特性を踏まえ、地域活性化や産業育成、顧客の課題解決などにどのように貢献していくのか、そのための持続的な経営基盤をどのように確保していくのかをしっかりと検証し、必要な取組みを進めていくことだと考えている。
 2点目だが、少子高齢化や労働力人口の減少が進むなか、定年の延長など、シニア世代を活用する動きが銀行界のみならず全業種的に広がっている。
 個別行の話となるが、三菱UFJ銀行においても、2027年度から満60歳である定年の満65歳までの延長や、年齢における行員区分の廃止等からなる人事制度改定を行うことを検討している。この人事制度の改定を通じ、年齢にとらわれないキャリア形成と実力本位の昇格・登用の実現や、次世代を担う若手・中堅層等がチャレンジの機会を従来以上に得られる人事運用を目指していきたいと考えている。
 人生100年時代を見据え、若手からシニア世代を含め、全ての行員が、年齢・性別等、また、新卒採用・キャリア採用といった採用形態にかかわらず、安心して挑戦を続けられる環境を整え、従業員の活躍と人生の充実を支援していきたいと考えている。
 シニア世代の活用は、専門性の高い人材の社外流出防止や人材不足の緩和につながるが、そのためには、年齢にとらわれない公正な評価と適材適所の配置が重要だと考えている。これを実現するために、定年後再雇用制度の見直しや、役職定年などの年齢を基準とした制度の緩和が進むものと見ている。
 全銀協においても、行動憲章に「多様な人材の活躍を促進する制度や柔軟な働き方を実現する。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場環境を確保する」と定めている。全銀協として、多様な人材の活躍、働きやすい職場の実現が進むよう、各行における取組みを今後も支援して参りたい。


(問)
 金融のイノベーションについて、商業銀行のイノベーションと置き換えて伺う。歴史的にまずは預金、貸出、為替の三大業務が人類に大きなインパクトを与えたと思われるが、そこまで振り返らなくても、1980年代のATMも人々の生活に相応の影響を与えたと感じる。その後、イノベーションで同等のものは思いつかないが、会長はATM以降で商業銀行のイノベーションにどのようなものがあると考えているか。
(答)
 全銀協会長というより、あくまで個人の見解でしかないが、まず私はイノベーションという言葉には、単なる技術革新だけでなく、例えば新商品やサービスの創出、業務プロセスの革新、経営態勢の見直しやリスク管理の高度化など、新たな付加価値を生み出すためのさまざまな取組みが含まれると考えている。
 商業銀行の固有業務は預金、貸出、為替であり、これ自体は古くから変化していない。これらを併せ営むことで企業や家計の経済活動や金融取引を支えることの重要性は今日的にも何ら変わりがなく、銀行に求められる最も基礎的で不可欠な機能と思っている。
 ただ、その中身や提供方法においては、私の定義によれば多くのイノベーションが起こってきたと思っている。商品・サービス面では、投資家のリスク選好に合わせた多様な運用商品が生み出されてきたほか、チャネルについても先ほど触れていただいたATM以外にインターネット・バンキングやスマホアプリの実装が進んだ。また、プロセス面でも、印鑑照合等による本人確認ではなく、堅牢な生体認証へと進歩しており、決済データ等を活用した与信判断によって、従来アクセスできなかったお客さまへの資金供給も可能になっている。
 また、銀行の業務も付随業務、金融関連業務、従属業務へと広がり、子会社・兄弟会社におけるさまざまな金融サービスも加わっている。社会やお客さまが銀行に求める機能が広がっていることの表れだと受け止めているが、そうして考えると、私達の提供価値も従来の銀行業務、銀行という会社の枠だけでなく、グループ、さらには連携するグループ外の事業者が提供するサービスまで含めて考えることが重要である。
 かつてシュンペーターはイノベーションについて、「非連続的に生産要素が組み合わさる“新結合”」と定義したが、自社やグループ内外にある技術やサービス、アイデアなどを掛け合わせて、イノベーションを起こしていくことが必要だと感じる。三菱UFJ銀行に限らず、多くの銀行が取り組んでいるが、グループ内外で連携し、預金や投信等の資産運用や決済サービス、ローン等の取引をお客さま一人別に提供し、日常的にご利用いただくなかでポイントを還元していくといった取組みも、“結合”を通じた一つのイノベーションと言ってもよいのではないかと考えている。
 今後、さまざまな面で生み出されるイノベーションの核となるのは、生成AI技術であることは論をまたない。そうした新たな技術を大きなイノベーションにつなげるには、過度に失敗をおそれない企業カルチャーや挑戦を志向する人材が極めて重要であり、そうした基盤の有無が金融機関の競争力の源泉になると考えている。
 最後に、金融機関自身のイノベーションの追求ももちろん重要だが、同じくあるいはそれ以上に重要なのは、革新的な技術・アイデアを有する企業の成長投資の喚起や、資金供給を通じて世の中のイノベーションを後押ししていくことだと考えている。スタートアップ企業への支援等を通じて、銀行界としてその役割を発揮できるように今後も取り組んで参りたい。


(問)
 日本の銀行のイノベーションに関連して、金融仲介、与信分野においては金利がなかったことで、イノベーションがこの15年ぐらい進まず、課題が残ったままになっていると思う。半沢会長の全銀協体制となって、6月から「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」で検討を始められたが、会長の任期からすると、折り返しにきていると思う。このタイミングでWGを設置した意味合い、これまでどういうことが議論されてきたのか、それによってどういう課題が明らかになってきているのかを教えていただきたい。
(答)
 ご指摘いただいたとおり、すでに4回の会合が終わり、本当にあっという間に折り返し地点に来たという印象である。改めてこのWGの設置目的を説明すると、日本の持続的な成長の実現に向けて、銀行界としてこれまで以上に貢献したいという思いから始めたものである。
 日本経済は長らく続いたデフレと長期停滞から抜け出しつつある状況である。この流れを自律的・持続的な成長軌道に本格的につなげていくことが何よりも重要と考えている。30年来の悲願とも言えるが、この歴史的好機を何としても活かしたいと考えている。
 WGに参加いただいている法律・経済の有識者、金融庁、経済産業省、日本銀行、証券や生命保険、投資信託など他の金融仲介プレイヤーにおいても、この問題意識は共有されていると感じており、過去、何度もチャレンジしてきた中で、「今度こそは違う」という点を打ち出したいという思いがある。
 最初の2回の会合では、産業界から成長投資を進める上での資金調達も含めた課題をヒアリングし、第3回では銀行界を含む金融仲介プレイヤー側から見た課題を明らかにした。それらを踏まえ、先週、第4回の会合で金融仲介の課題を「投資喚起」、「資金供給」の軸で総括したところである。
 これから年度後半にかけて、金融仲介のあるべき姿の定義や、金融仲介プレイヤーとして必要な取組み、制度・規制に関する提言を検討し、年度末までに報告書に取りまとめる予定である。
 これまでに整理した課題、今後の具体的な検討ポイントについても説明させていただく。「投資喚起」では、金融機関が企業の成長投資や事業再編等を促進するとともに、人材や情報、顧客基盤を有効活用し、非金融事業等も通じて成長投資を支援することが課題である。
 「資金供給」においては、リスク・リターンの適正化や資金供給の担い手拡大、官民のリスクシェアを通じて量的な支援を充実させること、知見や人材を最大限活用したリスクプロファイリングを通じ、デットとエクイティの双方でリスクテイクを質的にも拡大していくことが課題である。
 また、「投資喚起」と「資金供給」を果たすうえで大前提となる、金融機関における人材育成やカルチャー改革も大きな課題である。さらには、地域で金融仲介機能をどのように維持・強化していくかも課題であり、地域金融機関における経営基盤強化等についても検討していきたい。
 銀行界では、長く厳しい低金利環境の中で、これまでコスト削減、効率化を徹底して進めてきたが、冒頭述べたとおり、歴史的な好機を迎え、金利ある世界が訪れた今こそ、こうした議論に取り組むべき局面にある。容易には解決が困難な中長期的な課題も含めて、参加者とともに検討を深めて参りたい。


(問)
 今、ご説明されたリスク・リターンの適正化は、貸出金利の適正化ということに近いと思うが、日本では貸出金利が適正かどうかの基準が非常に曖昧だと思う。昔は規制金利があり、金利体系そのものが説得材料だったと思うが、自由化された中でそういうものがない。リスク・リターンの適正化をどこに求めるかというと、実勢金利、つまりセカンダリーマーケットや証券化における金利形成などになると思うが、WGではどのような議論となっているか。
(答)
 リスク・リターンの適正化、これはWGでも多くの参加者が指摘する重要な論点、難題の一つである。
 ご指摘のとおり、説得力のある貸出金利の提供にあたって、マーケットによる実勢水準の形成が非常に重要だと思う。プライシングの適正化に向けて証券化、流動化等を通じたセカンダリー市場の拡大、また、さまざまなリスクアペタイトを有する投資家の育成を通じて、市場全体の価格発見機能を向上することが必要だと思っている。
 一方で、わが国では社債をはじめ、直接金融の規模が限られ、この機能が十分に発揮されていない状況かと思う。鶏と卵になるが、ローンのプライシングが低すぎると、投資家のリターン目線に合う資金需要は発生しないため、直接金融市場は活性化せず、マーケットによる実勢水準の形成が難しくなる。
 従って、この問題を解決するためには、発行プロセスの簡素化や投資家の育成といった直接金融の活性化に向けた取組みと、ローン市場のリスク・リターン改善に向けた取組み、両面からのアプローチが必要と考えている。
 ローン市場のプライシングの決定要因は、複数考えられる。金利のある世界における政策金利や資金供給の原資となる預金などのファンディングコストはその一つである。また、資金需要サイドで当該資金がどういった投資に充てられるのか、例えば今後発現が見込まれる新領域・新技術に係るハイリスク・ハイリターンな投資へのファイナンスになるのかによっても左右されると思う。こうした預貸の動きの中で定まる、国全体としての資金需給もプライシングの決定要因になる。
 いずれにしても、成長投資に係る資金需要は、我々間接金融だけではなく、直接金融を含む重層的な金融仲介ルートで担われるべきものである。このWGの中で、今述べたような複合的な要素も踏まえて、リスク・リターンの適正化についても議論していきたいと考えている。


(問)
 WGでの議論は提言、報告書という形で公表することになるのか。いつまでにまとめるのかを教えてほしい。
(答)
 まずは、中長期的な金融仲介のあるべき姿の定義、課題に対する打ち手の検討に注力して、今年度、報告書に取りまとめることを考えている。
 課題に対する打ち手としては「銀行自身による変革や対応」、「官民や他の金融仲介プレイヤーとの協調」、「規制や制度による対応」、この三つの軸で中長期的な視点からの検討を行っている。
 今年度検討した課題の打ち手は、来年3月までに対応が終わるものではないため、WGの形式はさておき、中長期的に対応しつつ議論を深めていくことを想定している。その中で必要となる規制・制度の見直しがあれば要望していくことも考えているが、まずは来年3月までに報告書を仕上げることを想定している。


(問)
 先ほど、高市政権の財政に配慮する姿勢は不変ではないかという見解を示されていたが、財政健全化の指標であったプライマリーバランスの単年度黒字化の枠を外すような議論がなされている。このこと自体が、今の日本国債の信認に与える影響を現時点でどのようにみているか。
(答)
 まず、プライマリーバランスを複数年度で見ることについては、日本経済の成長に向けて、単年度の会計に過度に縛られずに中長期的な視点から必要な成長投資を大胆に行う目的で議論されていると認識している。その観点では理解しうるものである。
 他方で、政府の債務残高が先進国で突出して高いわが国において、これまでプライマリーバランスの単年度での黒字化目標を用いて財政規律を維持していく方針を対外的に説明してきたわけであるから、複数年度への目標へ移行することについて、政府の財政規律に関する考え方が後退したと受け止められないように、その意義をしっかりと説明して、市場や国民からの信認を維持していくことが重要だと思っている。