会長記者会見
2025年12月18日
半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)
辻専務理事報告
事務局から3点ご報告申しあげる。
1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、次期副会長を内定した。次期副会長は、11月に内定している次期会長と同じく、今後の理事会における正式な選定手続を経て、2026年4月1日付で就任する予定である。
2点目は、お手元の資料のとおり、当協会は、資産形成のさらなる推進に向けて、テレビアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」とタイアップし、特設サイトを12月23日に公開する予定である。特設サイトは、日常の身近な場面から資産形成の必要性に気づいていただけるような仕掛けや、オリジナルのショート動画を用意している。公開後にぜひご覧いただきたい。
3点目は、お手元の資料のとおり、当協会は11月28日に、口座の悪用を防ぐため、口座の売買等は違法であり、新たな口座が開設できなくなる可能性などの重大な代償を伴うことを広く皆さまに周知する、官民一体・業界横断的な広報活動を実施すると発表した。金融庁および警察庁の協力も得て啓発動画を制作し、12月から、両庁のほか、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会および全国労働金庫協会とも連携して、官民一体・業界横断的な広報活動を実施している。
会長記者会見の模様
(問)
2点伺う。1点目は、日本銀行の金融政策について。金融政策決定会合が本日から明日まで開催される。市場では、今回の会合における追加利上げが確実視されているが、会長は利上げの可能性をどう見ているか。関連して、次回会合以降の先行きの金融政策とターミナルレートについても見立てを伺いたい。
2点目は、今日が今年最後の会見になると思うが、この1年の振り返りと、来年の経済の見通しについて所感を聞かせてほしい。
(答)
まず1点目のご質問については、あくまで個人の見解としてお答えする。
ご指摘のとおり、本日から金融政策決定会合が開催されているが、これまでの会見でもお話ししたとおり、従来、日本銀行が示してきた「経済や物価見通しの実現に応じて、引き続き利上げを進める」という考え方に沿って金融政策運営の議論がなされているものと認識している。
利上げの可能性について、植田総裁は今月1日の懇談会の挨拶において、見通しに係る上下双方向のリスクに言及しつつも、見通しが実現する確度は少しずつ高まってきていると述べた。また、10月会合後の記者会見でも、利上げ判断の重要な要素として挙げていた賃上げの持続性と、その見極めのための春闘の初動のモメンタムについて、精力的に情報収集をしていると述べたほか、今回の会合で、これらの情報を踏まえて、利上げの是非を適切に判断したいとも発言している。
こうした発信等を踏まえると、日本銀行が今回の会合で利上げを行う可能性は、相応に高いと考えており、実際に市場でもそうした見方が多数を占めていると理解している。
金融政策の先行きについての質問だが、今後も日本銀行は、冒頭話した考え方に沿って、先行きの利上げのタイミングやターミナルレートを模索していくものと認識している。
従来から日本銀行は、名目中立金利のレンジを1%から2.5%と幅を持って示してきており、また、植田総裁は、最終的にどこまで政策金利を引き上げるのが適当かについて、若干の不確実性があると発言している。中立金利は、日本経済の巡航速度の実力である潜在成長率や、家計や企業などの経済主体が見るインフレ期待によって変わってくるものと考えている。
前者の潜在成長率では、将来の成長に繋がる企業の投資が今後も底堅さを維持し、日本経済の供給力の強化や生産性の上昇に結びつくかどうかが、一つの重要な要素になる。後者のインフレ期待については、グローバルな一次産品価格の上昇等による単なるコストプッシュ型のインフレにとどまるのか、こうしたインフレへの転換を起点として経済全体の需給が引き締まり、経済成長を伴ったディマンドプル型のインフレが定着していくかどうかが、大きな影響を与える。
足元では、為替を含め金融市場も大きく動いており、これらが経済・物価に与える影響やターミナルレートを含む金融政策判断にどのような影響を与えるか、予断を持たずに注意深く見ていきたい。まずは明日公表される金融政策決定会合の結果や日本銀行による説明に注目している。
2点目の今年の振り返り、来年の見通しについてのご質問だが、2025年を振り返ると、私達が経済、社会構造の歴史的な転換期にいることを実感させられた1年であった。最大のテーマは、米国の関税政策への対応であったと思う。日本にも相互関税・品目別関税が課され、自由貿易やサプライチェーンの最適立地を礎とした企業戦略は再考を迫られている状況である。
一方、国内経済は、「失われた30年」からの脱却への歩みを進めた。多くの逆風のなかでも企業収益は堅調さを保ち、設備投資も拡大を続けたほか、賃上げも33年ぶりの伸びとなった前年からさらに伸びが加速した。「金利のある世界」も到来し、低金利とデフレを前提とした経済構造から、成長とリターンを追求する価値創造型の経済へ移行する好機にあると受け止めている。
AIへの高い期待も加わり、株価も一時5万円の大台をつけたが、長期金利や為替相場も含め値動きが大きく、新たな環境下で市場も適切な評価を探っているところと感じている。
2026年を展望すると、海外経済の動向や関税政策の影響には留意が必要だが、企業の積極的な設備投資意欲と人手不足に起因する賃上げの動きを背景に、生産設備や研究開発投資、人的資本投資の拡大を支えとして、日本経済は成長を続けると見ている。
政府においても、危機管理投資・成長投資として17分野を選定し、来年夏の成長戦略に向けて、官民で具体的な投資計画を策定していく方針が示された。「強い経済」の実現に向けた投資拡大という「供給サイドの強化」が重要テーマに位置づけられている点を、私としては心強く感じている。
お客さま、そして日本経済にとって、新たな発想と勢いを持って変革に踏み出せる2026年となるよう、銀行界としても金融の立場から貢献していきたいと考えている。
(問)
2点伺いたい。1点目は、資産形成に関して、令和8年度の税制改正で、NISAの対象年齢の引下げが議論されている。先ほど、全銀協で資産形成特設サイトを作るなど広報を強化されるという話もあったが、その取組み内容と、会長からご覧になってさらに国民が資産形成を進めていくためにはどのようなことが必要だとお考えか伺いたい。2点目は、4月に会長に就任されてからの全銀協の活動の総括と、それを踏まえて来年の全銀協の活動につなげていきたい内容があれば伺いたい。
(答)
まず1点目、資産形成については、若い世代を含めた幅広い層からの関心が高まっているが、インフレ等の影響も背景に、その重要性は一層増している状況にあると認識している。
令和8年度の税制改正については、NISAの対象年齢の引下げや対象商品の拡充が議論されており、こうした制度の充実はライフスタイルやニーズに応じた資産形成を進めるうえで、大きな後押しになるものと考えている。
さらに、資産形成を推し進めていくためには、現役世代の取組みを促すことも大切である。30代から50代は、教育費や住宅ローンなど多くの負担を抱える一方、将来に備えるための資産形成を行う重要な時期でもある。この世代が適切な知識を持ち、実際に行動に移すことで、長期的な運用の効果を得られるほか、将来に向けた安心感を高めることが可能となる。
こうした認識のもと、全銀協では12月23日から3か月間、テレビアニメのコンテンツを起用し、資産形成に関する広報活動を展開する予定である。特設サイトを開設し、日常の身近な場面から資産形成の必要性に気づいていただけるような仕掛けや、オリジナルのショート動画を用意している。まだ資産形成に踏み出していない方には、ぜひ一度ご覧いただきたい。また、今回の広報はSNS等での発信に加え、銀行の窓口や職域でも展開し、現役世代に直接働きかけていきたいと考えている。
併せて、資産形成を始めるに当たっては、金融経済に関する正しい知識の習得が不可欠である。特設サイトではJ-FLECと連携し、学習動画へのリンクを提供している。銀行での相談に加え、こうしたコンテンツもぜひ活用していただければと考えている。
銀行界としては資産形成が国民一人ひとりに定着するよう、創意工夫を重ねながら取組みを進めていく。
2点目の全銀協会長としての総括であるが、4月に会長を引き継いだ後、今年度については「日本の成長加速と社会課題解決に貢献し、活力あふれる未来への礎を築く1年」と位置づけ、三つの柱で活動を進めてきた。
第1の柱である「インベストメントチェーンの活性化を通じた『成長と分配の好循環』の加速」においては、人手不足や物価高、米国関税政策の影響を受ける事業者への資金繰り支援に注力するとともに、中長期的な視点での企業の投資喚起と資金需要の支援に向けて、「金融仲介ワーキング・グループ」を設置し、有識者や当局、他の金融団体と議論を重ねているところである。
また、10月のJapan Weeks期間中、海外マネーの呼び込みをテーマに全銀協としてイベントを開催したほか、施行を来年に控えた企業価値担保制度に対しても活用に向けたポイントを策定し、会員行の制度活用を支援している。家計の投資促進に関してもNISA・iDeCoに関する要望や現役世代に対する金融経済教育の広報、顧客本位の業務運営の徹底に取り組んでいる。
第2の柱の「安心・安全で利便性の高い、時代に即した金融インフラの実現」においては、手形・小切手の電子化の総仕上げに向けた取組みのほか、全銀システムの安定稼動の維持、APIゲートウェイの対応、次期全銀システムの開発も進めている。また、中長期的な視点で資金決済システムのあるべき姿や将来像を検討するために、全銀ネットに設置した「資金決済システムの将来像に関するスタディグループ」で議論を続けている。
第3の柱の「健全かつ強靭な責任ある金融システムの維持・高度化」においては、マネー・ローンダリング対策として、マネー・ローンダリング対策共同機構におけるAIスコアリングサービスを開始した。特殊詐欺等の金融犯罪は手口が多様化・巧妙化するなかで、その抑止に向けた社会的要請が高まっている。個社での取組みに加え、金融機関同士による不正利用口座の情報共有の枠組み構築に向けた検討も進めている。口座売買の違法性を周知する広報動画の作成・配信など官民一体、業界横断での啓発活動も通じ、安心・安全な金融取引の実現に向けた対策を続けている。
全銀協の活動は、毎年、その時々の局面における喫緊の課題に機動的に対処しつつ、一方で、毎年会長が交代しても、例えば今年度でいうと、先ほど触れた中長期的な金融仲介の在り方や資金決済システムの将来像のように、わが国経済や社会の構造的課題、企業・家計のお客さまのニーズの変化の潮流も踏まえた中長期的な視点で検討すべき骨太なテーマについては継続性を持って対応してきている。
来年4月にはみずほ銀行の加藤頭取にバトンを渡すことが内定しているが、銀行界としての重要なテーマについては、仕上げるものはしっかりと結論を出し、中長期的なテーマは議論の道筋をつけたうえで次年度に引き継ぐことができるよう、年度末まで全力で取り組んで参りたい。
(問)
2点伺いたい。一つは、冒頭に話があった日本銀行の利上げに関する質問だが、明日の会合で日本銀行が利上げを決めると、政策金利は約30年ぶりの高い水準になる。それに連動して預金や貸出の金利も引き上げられていくことになると思うが、そうすると、今現場にいる行員の方々もほとんど経験したことのないような領域に踏み込んでいくことになると思う。その際に、銀行業界全体としてどういう変化が起こると見ているか。あるいはどういう姿勢で臨むかを伺いたい。例えば預金金利の水準などを巡り、銀行の経営体力によって今後業界内にもばらつきが生じてくることも考えられると思うが、会長としてはどのように見ているか。
もう一つは、政府が近く、首都直下地震の新たな被害想定を公表する見通しである。報道によると、最悪の場合、経済被害は83兆円という話も出ているが、今後起こり得る首都直下地震に対して銀行業界としてどのように対応する方針か。特に金融については、本社機能やシステム、資金、人材等が東京に一極集中している課題があると思うが、こうした課題についてどう認識しているか。
(答)
1点目の日本銀行の利上げについてだが、金融政策決定会合で議論がなされ、仮に政策金利が0.75%まで引き上げられれば約30年ぶりの水準となり、歴史的な環境変化だと言えるのではないかと思っている。ご指摘のとおり、本格的な金利のある世界は多くの行員にとって未経験の領域であるほか、30年前と比較すると、顧客接点のデジタルシフトや金融サービスにおけるAI・デジタル技術の活用など、過去にはなかった大きな変化も生じている。30年前に金利のある世界を経験した人間にとっても今回は同様ではないということだと思う。こうした環境変化も踏まえて、お客さまの成長と課題解決に資する提案を行っていくことが重要だと考えている。
金利のある世界のもとでは、銀行経営上、貸出等の資産に対応する安定的な調達原資として預金の重要性が高まっており、各行は預金金利全体の引上げにとどまらず、退職や相続で得た資金に特別に高い金利を設定するなど、預金獲得に向けて戦略的な取組みを強めている。
また、お客さまの口座選択は金利のみによるものではなく、例えば個人のお客さまでは、預金を起点に投資信託や株式など、魅力的な投資メニューをそろえられているか、さらには利便性の高いデジタルチャネル等を通じて、決済も含め多様な商品が一体的に提供されているかといった点も重要な要素だと思う。
法人のお客さまでも、利便性の高い決済サービスを提供し、お客さまのビジネスに資するコンサルティング機能を発揮できているかといった点が、経常的な預金の預入先としての金融機関の差異化のポイントになると考えている。
刻々と変化する市場の金利環境、技術革新、競合となる金融機関の動向、お客さまのニーズを的確に捉えながら、預金金利の設定も含む、より良い商品・サービスの提供やチャネルの利便性などに各行が工夫を凝らし、競争していくことが重要だと考えている。
2点目の首都直下地震に関するご質問だが、被害想定が政府の首都直下地震対策検討ワーキング・グループで議論されてきたことは承知しており、近く新たな被害想定が公表されるとの報道があることも認識している。報道によると、マグニチュード7.3の地震が発生した場合、最大1.8万人の死者、83兆円の経済被害が生じると推計されている。耐震化や火災対策の進展により、前回、2013年の被害想定である95兆円からは減少しているが、なお甚大な被害が見込まれ、電力や下水道等のインフラは前回よりも大きな被害が想定されている。銀行界として、お客さまや行員の安全確保と事業継続に向け、平時より対策をしっかりと講じておくべきとの認識を強くしている。
銀行界の対策だが、毎年、会員行とともに大規模な地震が発生した場合の訓練を実施している。各行の本店が被災した場合を念頭に置いた訓練であり、首都圏所在の銀行では、首都直下地震と近しい災害を想定することになる。訓練を通じた学びは、アンケート調査を通じ、全銀協で取りまとめたうえで、会員向けに還元しており、各行の業務継続態勢の底上げを図っている。
個別行としても、平時からバックアップ手段の確保、危機対応態勢の整備、訓練の実施等により、業務継続態勢の維持・強化を図っている。被害想定の見直しが政府から発表された際には、現状の準備態勢が十分であるかどうか点検のうえで、しっかりと対応して参りたい。
なお、ご質問の東京の一極集中の件は、金融に限った話ではないと認識しているが、経済・社会情勢や人口動態等を踏まえると、東京を含む首都圏に企業の経済活動や、それに伴うリソースがある程度集まってくること自体は自然なことと言えるのではないかと思う。他方で、こうした状況のもとで首都圏における災害が発生した際のレジリエンス、継続的な金融機能の発揮の観点でリスクがあることも認識をしている。そうしたリスクも踏まえ、例えば全銀ネット等の決済システムは、他の地域に所在するバックアップシステムに切り替え、業務継続が可能な態勢としている。また、会員行でも、ほとんどの銀行がシステムセンターのバックアップ拠点を地理的に離れた場所に設置している。
実際の災害発生時には、政府や自治体ともコミュニケーションを図り、人命を最優先に、お客さまや従業員の安全に十分配慮したうえで、社会インフラである金融機能の提供という、銀行界としての社会的使命をしっかり果たして参りたい。
(問)
2点質問がある。1点目、長期金利が一時18年半ぶりの水準に急上昇したかと思う。足元の長期金利の上昇をどのように受け止めているか、また、今後の国債の格下げリスクや、日本経済、銀行界への影響をどのように見ているのか教えてほしい。銀行にとっては、債券の評価損の拡大といった懸念点もあるかと思う。金利上昇リスクへの対応についても伺いたい。
2点目、政府で旧姓の通称使用の法制化が議論されているかと思う。銀行口座の開設手続の際の利便性が高まると言われているが、すでに金融界では旧姓使用が認められているところが多いと認識しており、現在の銀行界の対応状況について伺いたい。また、法制化に伴ってどのような対応が必要になるか、実務面での影響についても伺いたい。
(答)
まず、1点目の長期金利に関するご質問について、先月もお答えしたが、この1か月の間に長期金利は一段と上昇し、足元では2%に迫る水準まで上昇している状況かと思う。
海外からの一次産品の輸入も多い食料品を中心に物価が高止まりし、インフレ期待も高まるなか、本日から開催されている日本銀行の金融政策決定会合において、利上げが決定されるとの見方が影響していることに加え、来年度の本予算の策定に向けた動きも進みつつあるところ、財政拡張に対する思惑によるマーケットにおける国債需給の緩みからも、金利に上昇圧力がかかっていると見ている。
経済への影響という意味では、デフレから脱却してインフレ環境へと転換し、金融政策の正常化が展望できるなかで金利水準が切り上がっていくこと自体は自然なことと考えられる一方で、企業や家計の借入に係る利払い負担にも徐々に影響が及ぶことが想定される。
銀行経営においては、与信費用の発生や国債の評価損の拡大などに影響が及ぶと見ている。足元、公表された中間決算においても、地銀、第二地銀を中心に国債の評価損の拡大による影響が出てきている。
こうした金利上昇リスクについては、各金融機関が健全性の確保に向け、資産・負債のバランス管理や市場動向のモニタリング、ストレステストや流動性確保も含め、態勢を構築のうえで対応していると承知している。
もっとも、先行き、大幅な財政拡張や、それによる債務の拡大に歯止めがかからないような事態になれば、やはり政府の債務残高が先進国で突出して高い日本において、国債の安定消化が困難となる可能性や、金融市場では急激な円安や金利の上昇、対外収支面では経常収支の赤字化、さらには一層の財政収支の悪化と相まって、国債の格下げリスクにも留意する必要が出てくると思っている。
政府の「責任ある積極財政」のもと、財政状況にも配慮したかたちで政策運営が行われるものと考えているが、現在進められていると見られる来年度の予算編成の状況や、それらを受けた長期金利を含む金融市場の動向については注意深く見ていきたいと思っている。
2点目の旧姓使用のご質問については、内閣府が昨年9月に実施した世論調査によると、結婚して戸籍上の姓が変わった場合に、働く際に旧姓の通称使用を希望する割合が43%とのことであった。さまざまな分野で活躍する女性が増えるなか、ビジネスにおける旧姓使用の必要性が高まりつつあること等を背景に、旧姓使用の法制化について、来年の通常国会へ関連法案が提出される方向と報道されているものと承知している。
銀行界の対応状況としては、少し古いデータだが、2022年に内閣府と金融庁が実施した「旧姓による預金口座開設等に係るアンケート結果」によると、旧姓による預金口座の開設に対応している銀行は7割弱であった。対応していない理由としては、システム改修が必要、マネー・ローンダリング対応上の懸念等の理由が挙げられていた。
また、例えば法定調書の提出など、現行法において戸籍姓の使用が必須とされている場面も存在しており、旧姓が使用可能な銀行においても、必ずしもすべての業務で旧姓が使用できるわけではないと認識している。
仮に旧姓使用の法制化がなされた場合には、システム改修も含め、実務面での整理・対応が必要な事項が出てくると思っているが、預金口座は現代社会の経済活動を支える最も基礎的な金融インフラであり、銀行界としてしっかり対応していきたいと考えている。
(問)
1か月ほど前に銀行の中間決算が出そろったが、特にメガバンクは好調だったと思う。決算への受止めや今後の懸念点等があれば教えてほしい。
(答)
先月も中間決算が出そろう前のタイミングで、マクロデータ等を活用してお答えしたが、その後、公表されたメガバンクの中間決算は、過去最高となる堅調な結果であったと承知している。
今回の中間決算では、金利環境の正常化に伴う預貸金利ざやの改善や、企業向けを中心とした資金需要の底堅さを受けて、特に国内業務における資金利益が増加した。また、法人向けソリューションや決済関連など、手数料の積み上がりも収益面を下支えしたものと理解している。
他方で、同じく金利上昇によって保有債券の評価には一定のマイナス影響が生じているが、今回の中間決算においては、こうした影響を本業収益の増加が吸収し、総じて安定した利益水準が確保されている。日本経済のデフレ脱却と「金利ある世界」への移行が、銀行の収益構造にとって着実にプラスに効いていることが改めて確認できたものと考えている。
もっとも、お客さまの経営環境に目を向けると、依然として人手不足やコスト上昇などの課題が中小企業を中心に存在しており、倒産件数の増加も見られるなど、引き続き注意が必要な状況だと思っている。
こうした環境下においては、金融機関が適切な金融仲介を通じてお客さまや本邦経済をしっかりと支えていくことが重要と考えており、引き続き健全性の維持と持続的な経営基盤の強化を図りながら、経済社会へ貢献して参りたい。
(問)
インフレに賃上げが追いついていないこともあり、個人の自己破産が増えている。司法統計によると昨年は12年ぶりの水準で、今年もそれを上回るペースで増えている。日本銀行の資金循環統計では、消費者信用の残高がリーマンショック前の水準に膨らんでいるが、そのなかには銀行のカードローンも含まれていると思う。こうした現状について銀行界としてどのように見ているか。また、問題意識などをお持ちであれば伺いたい。
(答)
ご指摘のとおり、各種統計によると、近年、消費者向けのローン残高が拡大するとともに、自己破産件数が増加傾向にあると認識しており、物価上昇や金利環境の変化など、家計を取り巻く環境が変化するなかで、資金繰りが厳しくなる方が増えていることが背景にあるのではないかと思う。
消費者信用は、家計の想定外の支出への対応やキャッシュフローの平準化を支える重要な仕組みであり、先ほど申しあげた環境変化に加え、アプリ等を通じた手続きの簡便化や関連サービスの拡大等もあり、残高の拡大につながっていると考えられる。
事業者が適切な審査態勢の整備を進めつつ、利用者自身も自ら無理のない家計管理を行うなど、利用者保護と健全な信用供与を両立させていく取組みが重要だと認識している。
銀行においてもカードローン等の個人向け融資を行っており、全銀協では2017年に、顧客保護やリスク管理の観点から態勢整備を求める申し合わせを行い、以降、会員行の取組調査や事例の展開等を行ってきた。
また、全銀協として、カードローン相談・苦情窓口を設置し、返済に不安を感じた利用者に対し、カウンセラーがアドバイスを行う等の取組みを実施している。予防的な取組みも重要であることから、先月には全銀協を含む消費者信用関係の3団体が共同で、ローンやクレジットカードを正しく利用していただくための啓発・広報活動を行ったところである。
各行においても、利用者の収入状況や返済能力を適切に把握したうえで審査を行い、借入れ後も定期的に信用状況の変動の把握を行うなど、利用者による過剰な借入れを防ぐための取組みを進めてきたと認識している。 引き続き、利用者による過度な借入れの発生防止に努め、より健全な消費者金融市場の育成に努めて参りたい。
(問)
いわゆる商業と銀行持株会社のワンウェイ規制について伺う。楽天が銀行を持てて、銀行が楽天を持てないのはおかしいという議論がある。それは筋論としては正しいと思う。ただし、実際に規制がなくなって、銀行という非常に保守的な組織が自由に商業を行って良いとなったとき、ECに限った話ではないが、例えば楽天のような画期的な事業を創造して大規模に運営する能力が果たして銀行にあるのか非常に疑問である。この点についてはどう考えるか。
(答)
銀行を子会社に持つ会社でも、銀行持株会社にはグループ全体に健全性規制や業務範囲規制が課される一方で、一般事業会社にはこうした規制が存在しない。今ご質問いただいた、いわゆるワンウェイ規制と呼ばれる差異がある。
こうしたなかで、巨大な顧客基盤を持っている通信・小売事業者が銀行業に参入し、非金融事業と金融を合わせた事業を展開することで、お客さまに対し付加価値の高いサービスを提供している状況かと思う。
一方で、企業が投資を行う際に必ず必要となる金融を担う銀行が、顧客基盤や情報、人材など金融で培ってきたリソース、ノウハウを活用して非金融のサービスも提供していくことで、お客さまに貢献できる余地も大きいと考えている。この点、従来は、関連する機能を持つ企業を紹介する、繋ぎ合わせることで貢献をしてきた部分が大きかったが、自ら事業に取り組み、非金融サービスの幅を拡大していくことが重要だと思っている。
実際、2021年の銀行法改正により、他業銀行業高度化等会社の創設や銀行本体における付随業務の拡大等を通じて、銀行グループの業務範囲は大きく拡大し、法改正を活かしてメガ、地銀など業態を問わず参入事例も増加している。
非金融事業への参入は銀行グループがゼロから新たな会社を興すケースもあれば、既存の会社への資本参加・買収等を通じて行うものもある。協働先の知見やリソースも活用しながら、銀行グループという組織として、行員の知見やノウハウの拡充、蓄積を進めていくことが重要だと考えている。
こうした経験を積み重ね、社会や顧客へ価値を提供していくために、規制のイコールフッティングの確保に関する議論がさらに進展することを期待しており、引き続き銀行界としても必要な意見発信を行っていきたいと考えている。
(問)
対外関係について、台湾に関する高市首相の発言を巡って日中間の緊張が高まっている。11月の訪日外国人客数をみると、日本への渡航自粛が呼び掛けられている中国からは前年比3%増と伸びが大きく鈍化している。インバウンド消費や中国へ進出している企業への影響と日本経済への影響について、会長としてどのようにみているか。また、どのような対応が必要と考えるか伺う。
(答)
まず、日中関係は、わが国の経済にとって重要な二国間関係の一つであり、足元の状況を注視しているところである。
この先の展開を予想することは非常に難しい状況だと思うが、これまで日中両国で進められてきた「戦略的互恵関係」や、建設的かつ安定的な関係の構築という大きな方向性に沿って、両国政府間のさまざまな意思疎通により緊張の解消が進むことを期待したい。
わが国経済への影響に関しては、例えば、中国政府が国民へ日本への渡航自粛を呼び掛けたことについては、訪日外国人数や消費に占める中国、香港の割合が全体の約3割に及ぶなか、実際の渡航回避の広がり度合いに応じてインバウンド需要への影響があると思う。また、中国向けの水産物の輸出がどうなるか、この先、ほかの分野でも何らかの動きがあるのかなどによっても、経済・産業への影響度合いは変わってくると思う。
銀行経営への影響については、各行で状況が異なるので一概には申しあげられないが、訪日観光客向けビジネスを展開する企業や中国企業と取引のある本邦所在の日本企業、中国現地での事業を展開する日系企業のビジネスの縮小・業績の悪化を通じ、貸出や決済等の業務への下押しや、与信費用の拡大としての影響が現れることも想定される。
すでにインバウンドでは中国からの訪日観光客の伸びが鈍化しているが、現時点で全体としてお客さまのビジネスに目立った影響が見えてきているわけではないと承知している。引き続き日中関係の状況を注視しつつ、お客さまへの影響の把握も含め、丁寧なコミュニケーションときめ細かな支援にしっかり取り組んで参りたい。
(問)
先ほどの銀行決算の質問と重なるが、会長が評価されたとおり、好業績の要因の一つは日本銀行の利上げによる金利正常化があった。その好業績の一方で、銀行のお客さまからすると預金金利が上がったとはいえ、追随率は40%程度で、クレジットコストをうまくマネージしているとも言えて、貸出しのリスクを取っていないようにも見える。銀行は果たして最高益にふさわしい商品やサービス、付加価値を世の中に提供しているのかについて、会長の考えを聞かせてほしい。明日金利がまた上がるかもしれないというなかで、さらに儲かる世界がやってくるわけだが、儲かったら、今までできなかった新しい付加価値の提供等ができるようになるのか、その点についても聞かせてほしい。
(答)
二つともほぼ関連しているので、まとめてお答えする。
まず、業績についてはメガ、地銀とも堅調な推移を示すものだったという点は、先ほど申しあげたとおりである。金利環境の正常化に伴う預貸金利ざやの改善や、企業向けを中心とした資金需要の底堅さを受けて、本業である資金利益が拡大したほか、業態によって違いはあるものの、法人向けのソリューションや決済関連など、手数料の積上がりも収益を下支えした。
他方で、地銀、第二地銀を中心に、同じく金利上昇によって、保有する国内債券の価格下落に伴う評価損の拡大や実現損の影響が見られたほか、貯蓄から投資の動きの進展や、より高い金利が得られる銀行へのシフトなどもあり、預金残高が伸び悩む、あるいは減少に転じる銀行も出てきている。こうした各行の状況は、引き続きよく見ていく必要があると考えている。
ご質問いただいた内容については、各行が置かれた状況や経営戦略によって対応する方法は異なってくるものと考えている。
例えば、金利のある世界で、戦略的に預金金利、手数料水準を設定していくという銀行もあるし、将来的に提供できるサービスを広げる戦略的な投資を通じた本業の強化に取り組む銀行もあり、そうした取組みも重要だと思う。また、システムやリスク管理の高度化を通じた経営基盤の強化も、安心・安全で利便性の高い金融サービスを支えることになり、お客さまへの貢献につながると考えている。
さらに、銀行は民間企業、上場企業として収益性と企業価値を高め、株主・投資家への責任を果たしていくことが重要であるが、それは本業のなかでお客さまのニーズに応え、課題解決にしっかりと貢献していくことによって達成されるものだとも捉えている。
総じていうと、国全体と地域社会、そこにいるお客さまの発展なくして銀行としての成長、企業価値の向上は成し得ない。こうした考えのもと、各行が自らの状況や特性、強みを踏まえて、適切なバランスを判断しながら、各行の取組みを通じて、お客さまにとってより良いサービスを提供し、本邦経済や社会に貢献していくことが必要だと考えている。具体的な取組みは各行において知恵を絞っていくことだと思う。
(問)
経済安全保障と金融の関係について伺いたい。経済安全保障に関わる個人データを保護するために、金融データも保護すべきという方針が政府・自民党から示されている。半沢会長は、具体的にどのように保護を行っていくか、データセンターの国内移転などはすでに取り組まれているところが多いと思うが、改めてどういった方法が必要になると考えているか。そのために政府からどのような支援策が必要かも伺いたい。
(答)
経済安全保障、個人情報保護に関する質問だが、経済安全保障推進法は、国際情勢の複雑化、社会・経済構造の変化等により、安全保障の裾野が経済分野へ急速に拡大するなか、国家や国民の安全を経済面から確保するための取組みを強化・推進すべく、政府の経済安全保障推進会議や、経済安全保障法制に関する有識者会議等での法制化に向けた議論・検討を踏まえ、2022年5月に成立したと認識している。そのなかでは具体的に、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するための基本方針の策定、安全保障の確保に関する経済施策として、重要物資の安定的な供給の確保、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保等を含む四つの制度が創設されている。
この5月には成立から3年が経過し、同法の附則に則り、見直しも含めた必要な措置等が議論されていると認識している。
今ご質問いただいた件については、足元、政府の経済安全保障法制に関する有識者会議で議論されているデータセキュリティに関する検討課題と理解しているが、現時点で法改正を含め決まった事実はなく、直接のコメントは差し控えたい。
そのうえで、データセキュリティについては、「経済財政運営と改革の基本方針2025」においても、機微なデータの適切な管理や、情報通信技術・サービスの安全性・信頼性確保に向けた対策を講ずること等が指摘されているほか、諸外国でも機微な個人データに関する規律等、必要な検討が進められていると認識している。
安全保障上の重要なデータとして、例えばどのようなデータに対してどういった行為を規律していくのかは検討段階にあると思うが、個人金融データを多く取り扱う銀行界としても、安全保障確保に向けた必要な対策等の検討について、政府とも連携のうえでしっかりと対応していきたい。
(問)
ベンチャーデットファンドやベンチャーに向けた銀行の融資について伺いたい。今年はこの話題が盛り上がった1年であったと思う。日本でもベンチャー企業への融資が拡大しており、ベンチャーデットファンドにも銀行が絡む組成が活発になってきている。銀行からの直接融資ではないファンドの活用が、貸し手や借り手、双方にどういうメリットがあるのかを改めて会長に伺いたい。また、銀行自身も、これまでの伝統的な審査の手法はベンチャー融資になじまなかったというところから、最近は、銀行が独自の与信モデルを有するスタートアップを買収することや、AIを活用するなど、キャッシュフローベースの審査等が議論されてきていると思う。銀行のベンチャー企業の審査における意識や業務改革がどこまで進んでおり、今後に向けてどういった課題があるのか、認識を伺いたい。
(答)
まず、スタートアップ向け融資への取組みについては、各行による戦略や状況も異なると考えており、全銀協として方向感を示すものではないため、あくまで一般論として回答させていただく。
銀行がスタートアップ融資に取り組む際に、ベンチャーデットファンドを通じた融資を行うケースが増えているものと認識している。この場合、出資も含めた外部企業との提携を行うケースがあり、例えばAIや決済等に関するデータの活用など、提携先が有するノウハウや新たな手法等を活用することができると思う。これは借り手にとっても、キャッシュフローや決済データ等をベースとした新たな資金調達が可能となり、従来型の融資にとどまらない資金調達の多様化というメリットがあると考えている。
また、ご指摘のとおり、銀行本体においても財務諸表や半期決算をベースとした伝統的な審査に加えて、キャッシュフローをベースとしたファイナンスや事業性融資の取組みがようやく進んできているという状況と認識している。
他方で、スタートアップ向けの融資手法や審査手法、リスク・リターンの考え方など、知識やノウハウについては蓄積途上だと捉えている。
全銀協としては、スタートアップ融資に対する業界全体の態勢を底上げし、スタートアップ・エコシステムの発展に貢献できるよう、今年の2月にスタートアップ融資実務ハンドブックを発刊した。現在、検討会において進めている新株予約権付融資に関する法的整理や、企業価値担保権の創設も契機としながら、スタートアップ向けの融資の拡大に資する取組みを強化して参りたいというのが、今の状況と我々の取組みの大きな方向感である。




