企業価値担保権に関する周知広報ツール [3 MB]
2026年2月19日
辻専務理事報告
事務局から3点ご報告申しあげる。
1点目は、お手元の資料のとおり、当協会の「新株予約権付融資に関する検討会」が報告書を取りまとめた。報告書はスタートアップへの融資形態の一つである新株予約権付融資の普及に向けて課題として指摘されている利息制限法および出資法上の法務面の課題を中心に、検討会における議論・整理の内容を取りまとめたものである。
2点目は、お手元の資料のとおり、当協会は3月10日に「Banking Innovation Gateway 2026~銀行×スタートアップ共創リバースピッチ~」と題したイベントを開催する。このイベントは、新たな技術やアイデアを求める会員行が、自行の課題やニーズをスタートアップ向けに発信するリバースピッチを行い、幅広いスタートアップとのネットワーキングを通じて、協業の可能性を探る機会を提供するものである。詳細は特設サイトをご覧いただきたい。
3点目は、金融庁が公表した企業価値担保権に関する周知広報ツールをご紹介する。企業価値担保権は、事業の将来性に着目した新たな制度として、スタートアップや中堅・中小企業、事業再生・承継案件等への支援の可能性を広げるものと期待されている。お手元の資料のとおり、当協会も趣旨に賛同して名を連ねているが、引き続き金融庁と連携しながら、企業価値担保権の理解促進と、同制度の円滑な実装に向けた準備を支援して参る所存である。
会長記者会見の模様
(問)
1点目、衆院選の結果の受止めについて伺う。ほぼ全ての政党が消費減税を掲げた衆院選となったが、結果を踏まえた財政影響や金利、為替、株価といったマーケット影響について見解を伺いたい。
2点目は、会見の冒頭で紹介された「新株予約権付融資に関する検討会」報告書の内容や、今後の活用に対する期待などについて教えてほしい。
また、スタートアップ支援では、銀行を含めた大企業とスタートアップの協業の重要性は増していると思うが、全銀協での具体的な取組みがあれば教えてほしい。
(答)
まず1点目だが、今月実施された衆議院選挙において、与党が全体の3分の2を上回る議席を得たことは、高市政権の政策実行力への評価、また、成長・危機管理投資等の中長期的な供給力の向上にもフォーカスを当てた成長戦略への期待の表れと受け止めている。
マーケットの初期的な反応としては、総選挙明け、日経平均株価は大きく上昇し、一時的に5万8,000円台に到達するなど、高市政権の成長戦略がさらに進むのではないかという市場の期待の高さがうかがわれた。その後は利益確定の動きなども見られ、足元では高値圏で推移するなか、方向感を見極める局面に入っていると理解している。
ご質問いただいた財政について、昨年の秋以来のわが国の長期金利の上昇には、インフレ期待の高まりや利上げ期待のほか、大規模補正予算等を受けた財政拡張の方向性を巡る思惑が一因として作用してきたとみられる。もっとも、衆議院選挙後、長期金利は一時上昇したが、高市首相が財政の持続性に配慮しつつ財政運営を進める考えを示したことや、片山財務大臣も財政の信認を維持する姿勢を強調したことを背景に、足元では比較的落ち着いた動きとなっている。
消費減税が選挙公約とされたなか、特別国会で審議される2026年度の予算案や、超党派の「国民会議」を立ち上げて夏前までに制度設計が進められていくと見られる消費減税の議論を含めて、「責任ある積極財政」のもとで責任あるかたちでの財政運営が進められていくかどうか、金融市場への影響と併せて引き続き注視して参りたい。
為替についても、地政学を巡る海外情勢や日米の金融政策の変化を背景とする日米金利差の動向など、複合的な要因により変動するものではあるが、わが国の財政拡張に対する思惑も円安の要因となっているとの指摘がある。総選挙後のドル円相場は円高方向への揺り戻しが見られているが、先行き、日米金利差の要因からは円高方向の圧力が働くのが自然である一方で、こうした思惑もあり、円安に振れやすい展開が当面続く可能性も相応にあると見ている。
いずれにしても、安定した政権運営が可能な議席を得るなかで、日本経済の中長期的な成長を実現する成長投資が大胆に喚起されていく基盤が整ったことは望ましいことだと考えており、そうした中長期的な政策展開が財政の信認が確保されるかたちで進み、金融市場の安定が維持されていくことを期待している。銀行界としても、成長投資の実現を支える金融仲介機能の発揮を通じて貢献していく所存である。
2点目について、会見の冒頭で申しあげたとおり、本日、「新株予約権付融資に関する検討会」の報告書を公表した。新株予約権付融資は、利息制限法および出資法上の取扱いに関する課題が指摘されており、昨年7月に検討会を設置し、課題解決に向けた検討を進めてきた。
報告書では、新株予約権部分の利息該当性について、新株予約権の割当ての目的や対価の支払いの有無、融資条件への影響など、商品設計を踏まえた判断が必要としている。また、新株予約権が利息に該当する場合には、オプション評価の手法により新株予約権の価値を算出し、新株予約権も含めた貸出金利が上限金利以内であることを確認する必要性や、借り手が期限前弁済を行った場合において、一定の要件のもとで新株予約権に関する再計算や精算が不要であると考えられること等について、実務面に留意しながら整理を行ったところである。
本検討会には、貸し手、借り手となる金融機関やスタートアップ、法務・会計の有識者のほか、金融庁や法務省にもオブザーバーとして参加いただくなど、幅広い関係者に参画いただき、改めて感謝を申しあげる。
また、こうした金融面の取組みに加えて、企業とスタートアップの協業等を促進するべく、非金融面のスタートアップ支援施策として、オープンイノベーションの促進を目的としたセミナーやワークショップを実施してきた。
なお、会見冒頭で申しあげたとおり、この施策の最後のイベントとして、リバースピッチイベントを3月10日に開催することを公表している。スタートアップとの協働を検討する会員行による取組み課題等に関するスタートアップ向けピッチや、幅広いスタートアップとのネットワーキングを予定しており、その後の具体的な取組み検討の契機となることを期待している。イベントのホームページもリリースしており、詳細はそちらでご確認いただければと思う。
スタートアップ支援は、政府の日本成長戦略会議で示された分野横断的課題の一つにもなっており、分科会における議論も進められている。銀行界としても、新株予約権付融資の普及も契機とした資金供給の強化や、スタートアップとの連携や活用を促すオープンイノベーションの促進など、金融と非金融の両面でスタートアップに対する成長支援を継続して参りたい。
(問)
2点伺う。1つは、「国民会議」に関して、高市総理は食料品の消費税を2年間ゼロにすることについて議論し、6月に中間取りまとめを行う意向を示している。年5兆円と言われる財源については、特例公債に頼らず補助金や租税特別措置の見直しで捻出する考えも示しているが、本当にそのような財源を捻出できるのか、2年後に元に戻せるのか、例えば外食離れにつながるのではないかといった懸念もさまざまな業界で指摘されているところである。会長としては、そもそも2年限定で消費税減税を行うことの是非、あるいは財源のあり方についてどのように考えるか。銀行界として、「国民会議」にどのような議論を期待するか。
もう1点は、2月13日に野村證券、大和証券と3メガグループがステーブルコインを使った株式や債券売買の実証実験を行うことを発表した。これは3メガによるクロスボーダー決済の実証実験に続く動きだと思うが、改めて銀行界全体として、ステーブルコインの流通や使途の拡大についてどう取り組んでいくのか。特に全銀ネットで資金決済システムの将来像を検討されていると思うが、ここでのステーブルコインの対応について、議論の進捗状況なども併せて伺う。
(答)
まず1点目であるが、高市総理は超党派による「国民会議」を創設し、6月中に中間報告を取りまとめる方向で調整に入ったと理解している。衆議院選挙を受けて、安定した政権運営が可能となる議席を確保する中、早期に「国民会議」を立ち上げ、消費税減税の是非や財源確保のあり方などについて、幅広く丁寧な議論が尽くされることを期待している。
消費税減税については、足元の物価高のもとでの家計の負担感を和らげ、消費を下支えする効果が期待される一方で、消費税は全世代が広く負担する安定的な税目であり、社会保障財源として重要性が高いことから、制度設計や財源のあり方によっては、中長期的な財政運営に影響を及ぼす可能性もある。「国民会議」においては、こうした点を含め、国民的な理解が得られる形での整理が行われることが重要と考えている。
高市政権では「責任ある」かたちでの財政運営が進められていくものと考えているが、今後の具体的な制度議論については、金融市場の動向と合わせて、引き続き注視して参りたい。
また、長期的な財政の持続性を確保するためには、将来の利払い費の増加を、経済成長による税収拡大によって賄える状態を維持することが重要と認識している。高市政権には、短期的な需要対策と併せて、中長期的な潜在成長率の引き上げに資する成長戦略を力強くリードしていただくことを期待している。
2点目のステーブルコイン関連の質問について、昨年11月に三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行等の連名で、共同でのステーブルコイン発行とクロスボーダー決済の高度化に係る実証実験を行うことを公表した。この取組みは、信託受益権のスキームでステーブルコインを発行するものであり、委託者となる銀行における規制対応や、受託者たる信託業務を営む金融機関が講じるべき利用者保護措置等、実務対応に関する検討を進めているところである。
また、言及いただいた「ブロックチェーン技術およびデジタルマネーを活用した伝統的資産の取引、権利移転ならびに決済の高度化に関する実証実験」が、2月13日に金融庁「Fintech実証実験ハブ」の支援案件に採択されたことは、先週末に野村證券・大和証券・みずほフィナンシャルグループ・三菱UFJフィナンシャル・グループ・三井住友フィナンシャルグループの連名にてプレスリリースをしたとおりである。
具体的には、ブロックチェーンを活用して、国債・上場株式・投資信託・社債などの伝統的資産に係る法律上の権利を移転する仕組みについて実証実験を行うものだが、当該取引の決済において、メガバンク3行が共同発行を検討するステーブルコインを活用することについても想定している。証券と決済が連動するDvP決済の実現可能性を検証し、将来の決済高度化を見据えた実務面での実効性の確認を行って参りたい。
銀行界としては、こうした取組み等を通じ、ステーブルコインの発行や活用に関する知見を蓄積し、実証実験の成果を実務に活かすべく、しっかりと対応して参りたい。
最後に触れていただいた全銀ネットの新しい決済システムについては最後の検討を進めているところであり、来月には報告したい。
(問)
冒頭の質問への回答でも言及があったが、「責任ある積極財政」が日本経済全体に与える影響をどう見ているか。
(答)
今月実施された衆議院選挙において、与党が全体の3分の2を上回る議席を得たことは、高市政権の政策実行力への評価や期待の表れと受け止めている。
積極財政が日本経済に与える影響についてのご質問だが、足元の実質所得が力強さを欠くなかで、短期的な需要押し上げ策、物価高対策として掲げられた消費税減税により、家計の負担感が和らぎ、消費マインドが一定程度下支えされることが期待される。
併せて、中長期的な供給力の強化に関しても、「責任ある積極財政」を通じて、17の戦略分野における成長投資や危機管理投資の促進と、金融を含む8つの分野横断的な課題への対応を行い、「投資を通じて潜在成長率を引き上げていく」という方向性が明確に示されている点は、日本経済が持続的に成長していくうえで極めて重要だと受け止めている。銀行界としても、企業の成長投資や構造転換を金融面から支えていく役割を果たしていきたい。
他方で、足元では長期金利が上昇基調をたどっている状況である。インフレ環境への転換や金融政策の正常化が進むなかで金利水準が切り上がっていくこと自体は自然なことと考えられる一方、金融市場において財政規律への懸念が強まり、市場の警告として長期金利が急騰するような事態に至る場合には、わが国の経済・財政に悪影響を及ぼすことになる。
こうした点を踏まえて、高市政権には「責任ある」かたちでの財政運営を進めていただくとともに、中長期的な潜在成長率の引上げに資する成長戦略を力強くリードしていただくことを期待している。
(問)
日本成長戦略会議の関係で伺いたい。横断的課題の一つとして「金融」についても資産運用立国推進分科会が始まった。夏の骨太の方針や、成長戦略の取りまとめを今後目指していくと思われるが、金融業界として、今後、成長戦略の実現に向けてどのように貢献していくのか、所感を伺いたい。
(答)
昨年11月に閣議決定された総合経済対策では、17の戦略分野における成長投資・危機管理投資の促進と、金融を含む8つの分野横断的な課題への対応の施策案が盛り込まれている。
それぞれに分科会等の検討体が設置されており、夏の成長戦略に向けて、17の戦略分野では官民投資ロードマップが、分野横断的課題の金融の領域では日本経済の潜在力を引き出す金融面での取組みが議論されているものと承知している。
成長戦略の実現には、金融仲介プレーヤーの多様な資金供給により、企業が成長投資を行うことで企業価値を向上させ、その果実が家計に還元される「成長と分配の好循環」が創出されることが不可欠である。金融仲介プレーヤーのなかでも、銀行は家計、企業の双方にアプローチができる存在として、重要な役割を担うことが期待されている。
17の戦略分野と一口に言っても、すでに事業が相応の経済性を有し、成長投資に向けた量的な支援が求められるものや、将来的な重要性は認識しつつも現時点では経済性が未実証であるもの、さらには、インフラとして必要不可欠ではあるが収益性の確保が難しいものなど、産業あるいは事業、プロジェクト単位の性質や、それにもとづく適切な官民の役割分担、リスクシェアのあり方はさまざまだと考えている。
産業や事業、案件の性質に応じて、銀行が企業との対話や伴走を通じた戦略の策定や、非金融も含むソリューションの提案を行い、企業における「投資の具体化」を支えていくことに加えて、デットやメザニン、エクイティなど、多様な資金を適切に供給していくことが重要になると考えている。
これらの取組みを進めていくためには、銀行が目利き力の向上やリスク管理の高度化を進め、リスクに応じたリターンを得られるファイナンスに取り組んでいくことが重要となるほか、優先度高く取り組む領域を官民で検討していくことや、それぞれの事業の予見可能性を高める取組みも重要になる。
今述べた論点は、全銀協の「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」でも、有識者や関係省庁、他の金融仲介プレーヤーと議論を重ねている重要テーマである。こちらも来月には報告書を公表する予定であり、併せて、産業成長を支えるために銀行界に期待される役割を明文化し、その役割を果たしていくためのオプションや具体的な取組み事例を示すことで、会員行の取組みを後押ししていく予定である。これらを通じ、銀行界として成長戦略の実現に貢献して参りたい。
(問)
日米が合意した5,500億ドルの対米投融資について伺う。昨日、第1弾となる三つのプロジェクトについて政府から発表があった。今後、具体的な展開が予想されるが、日本の銀行界としては、この案件についてどのようなかたちで金融面から関与していく考えか。外交案件でもあり、国主導という意味合いが強いなかで、通常のファイナンスと比べ、融資基準やリスク評価の考え方に違いは出てくるのか。
(答)
日米の関税合意にもとづく5,500億ドルの対米投資について、日米両政府から第1弾として三つのプロジェクトを決定したとの発表があったことは承知している。個別案件の具体的な内容について、全銀協の立場としてコメントすることは差し控えるが、一般論として申しあげる。
昨年の10月末に日米両政府から公表された「日米間の投資に関する共同ファクトシート」には、投資案件の候補企業と事業内容の一覧が示され、エネルギーやAI分野など、総額約4,000億ドル規模の案件が盛り込まれるとともに、10社以上の日系大手企業が名を連ねたと承知している。
今回の対米投資のスキームは、日本企業の対米投資を金融面で支援する投融資枠として設計され、JBICによる出資・融資、NEXI保険を付与した民間金融機関による融資を通じて資金供給される構造と理解している。
事業内容が具体化していくなかで、ファイナンスの検討が必要になるが、いずれの案件においても、JBICやNEXIとの連携が不可欠である。民間銀行としてリスクがコントロールできることや、適切なリターンが得られることが前提となるが、こうした考え方は今回の対米投資案件に限った話ではなく、通常の案件と同様である。
民間銀行として、情報やこれまで培ってきた目利き力を活用しながら、関係省庁や政府系金融機関とよく連携し、日本の産業競争力や供給網の強化、イノベーションの促進、日米両国の関係強化に資する案件に対して、必要な対応を検討していくことが重要と考えている。
(問)
1点目は銀行決算について。1月終わりから2月頭にかけ、3メガバンクが第3四半期の決算を発表した。当期利益が過去最高を更新するなど各銀行とも好調だったと思うが、全銀協の会長としてどのように分析しているか伺いたい。
2点目は金融政策について。3月や4月の金融政策決定会合で利上げをするのではないかという見方も出ているが、会長の見解を伺う。先行きの金融政策とターミナルレートについても会長の考えを伺いたい。
(答)
3メガバンクの第3四半期決算は総じて堅調な結果であり、国内金利の上昇が続くなかで預貸金利ざやの改善が引き続き収益を押し上げている。加えて、企業部門の底堅い資金需要や、法人向けソリューション、資産運用ビジネス、決済関連といった手数料収益の着実な積み上がりも寄与したと認識している。金利上昇局面にあって、保有債券の評価損の拡大や保有債券の入れ替えに伴う損失の計上も発生しているが、本業利益の増加のほか、株価の上昇や海外金利の引下げを受けたその他有価証券全体での含み益の拡大によって吸収されており、最終利益ベースでも高い水準となっている。
お客さまの経営環境に目を向けると、企業部門の収益は高い水準にあるほか、設備投資や競争力強化に向けた企業再編、M&Aをはじめ、総じて活発な企業活動が続いていると見ているが、他方で、小規模・零細企業を中心として、人手不足や物価高なども背景に倒産件数が高止まりするなど、厳しい収益環境に置かれるお客さまもいるものと認識している。
金融機関としては、足元の好業績もてこに、健全性の維持と経営基盤の強化を図りつつ、お客さまの実情を丁寧に把握し、金融仲介機能の発揮やお客さまの課題解決に資するサービスの提供を通じ、わが国の経済の発展に貢献して参りたい。
2点目の日本銀行の金融政策については、あくまで個人の見解としてお答えする。1月の決定会合で日本銀行は、政策金利を据え置いたものの、景気・物価の見通しを上方修正した。植田総裁は会見で「前回の利上げ後も資金需要は緩やかな増加を続けており、金融環境は緩和した状態が維持されている」との認識を示している。
これまでの会見でも話してきたとおり、日本銀行はこの先も、従来示してきた「経済や物価見通しの実現に応じて、引き続き利上げを進める」という考え方に沿って、追加利上げのタイミングを図っていくものと考えている。その意味では、早ければ3月、あるいは4月の会合において、日本銀行が利上げを行う可能性も相応にあると考えており、市場ではそうした見方が多数を占めていると理解している。
現在の日本経済において、賃金と物価の好循環が定着しているか、引き締めを急いだ結果デフレ的な状況に逆戻りしないか、を考慮することは必要だが、経済や物価の変化に対して政策対応が後れをとることで、過度な物価上昇が定着したり、その結果として、将来急激な引き締めが必要となるような事態は望ましいことではなく、判断が難しい局面にあると認識している。
ターミナルレートについては、これまで述べてきたとおり、日本銀行は名目中立金利のレンジを1%から2.5%と幅を持って示している。現在の政策金利は、日本銀行が示したレンジの下限にようやく近づいてきたところだが、中立金利は潜在成長率や家計・企業のインフレ期待により変わるものであることを踏まえ、最終的な利上げの到達点が判断されていくものと考えている。
日本銀行はこの先も利上げの方向性を維持していくと予想されるが、データを丁寧に確認し、市場の動きも注視しながら、政策判断を行っていくことが重要ではないかと考えている。
(問)
今月17日に証券取引等監視委員会が、みずほ証券の社員をインサイダー取引の容疑で強制調査したとの報道が一部で出ている。この件について受止めを伺いたい。また、近年、金融業界でインサイダー取引の摘発等が相次いでいると思うが、この件についても見解を聞かせてほしい。
(答)
証券取引等監視委員会が、みずほ証券社員らの関係先を金融商品取引法違反の疑いで調査したとの報道があったことは認識しているが、個別事案については把握しておらず、本件について、これ以上のコメントは差し控えさせていただきたい。
一方、ご指摘のとおり、近年、インサイダー取引が複数発生していることは、業界としてもしっかりと受け止める必要があると考えている。銀行業務においても、M&Aに係る融資の検討や助言業務等のなかで、インサイダー情報に触れることは多い。インサイダー取引をはじめとする法令違反や不公正な取引の防止に、銀行界としてもしっかりと取り組んで参りたい。
(問)
最近、NTTドコモなど通信大手が携帯ショップを活用し、金融事業を展開する動きが出ている。それに対して銀行の店舗は、地方は閉鎖され、都心部では新型店舗を開くなど対照的な動きが出ている。今後、地方の小規模銀行は、携帯ショップを活用した通信事業者の動きの影響を大きく受けるのではないかと思っているが、全銀協として、全国の携帯ショップを活用する動きについてどう見ているか。
(答)
銀行の店舗戦略については、これまで店舗の統廃合や軽装化を進めてきた一方、足元では金利環境の変化や資産運用への関心の高まりから、店舗での相談ニーズも拡大しており、店舗の形態や立地を工夫した新規出店の動きも見られる状況である。また、地域や生活サービスと協働して地域のハブ機能として活用するなど、銀行店舗は顧客基盤の拡大や地域社会との信頼構築のための大切な接点と位置づけられている。
通信も含めたさまざまな事業者が金融分野に進出する動きは従来から起こっているものだが、こうした事業者は、それぞれが持つ顧客基盤や接点を活用し、利用者の利便性、利得性を訴求するかたちで事業の拡大を図っている。携帯ショップでの金融サービスの提供は、事業者が顧客基盤や顧客接点を活かして金融分野に取り組むための一つの事例と捉えている。
このような競争環境のなか、銀行はそれぞれの戦略や特性を踏まえたうえで、お客さまとの接点であるチャネルの魅力を高めていく必要があると認識している。例えば、特定のニーズへの対応や機能に特化した店舗の出店、ショッピングモールへの出店などを進めていくことが考えられるほか、店舗以外でのお客さまとの接点についても、デジタルチャネルの強化や他の事業者との連携により強化することも考えられる。それぞれの戦略に応じてこれらの取組みを進めるなど、各行がお客さまに選んでいただくための努力を継続していくことが重要だと考えている。
(問)
1点確認と、別の質問を1点伺う。先ほど対米投資の質問があったが、個別案件の具体的な内容について全銀協会長としてコメントは控えるということであった。アメリカ国内でも相当注目されている案件なので伺うが、三菱UFJ銀行の頭取としても、これは個別案件なのでコメントは控えるとの理解でよいか。
(答)
やはり、全銀協の会見で個別行の案件についてコメントすることは差し控えさせていただく。
(問)
それでは、大口信用供与等規制について伺いたい。報道にもあったが、金融庁で現行の規制の緩和が議論されている。規制そのものは銀行の健全性を確保するという観点から一定の必要性があると思うが、確かに足元はM&Aが大型化しているし、そのほか報道等もあったが、東京電力のような企業に対応するために、一旦そうした規制を緩和してもよいのではないかとの議論はあってしかるべきかと思う。これは会員行それぞれの立場もあるとは思うが、今の全銀協の立場として、緩和の必要性をどう感じているか、緩和の際にどういうところに注意すべきなのか伺いたい。
(答)
大口信用供与等規制ついては、金融機関による特定の企業やグループへの与信集中を自己資本の25%以内に制限することにより、金融機関の健全性や金融システムの安定化を図るための規制だと理解している。当該規制について、与信上限の25%を一時的に超過する案件の採り上げを許容する検討が行われているとの一部報道があることも承知している。
近年、日本企業が国際競争力の強化や持続的成長を目指すなかで、海外企業の買収事例も件数・規模ともに拡大傾向にあるのは、ご案内のとおりである。与信上限の一時的な超過の許容が実現すれば、銀行の自己資本の水準に起因する量的な制約が緩和され、日本企業の成長の後押しに繋がり得るものと考えている。
他方で、規制の趣旨である過度な与信集中リスクの抑制は、銀行のリスク管理において大前提となる重要な考え方だと思う。銀行界としては、引き続き健全性の範囲内で規律を持った運用を行うことが必要であり、事業者とよく対話しながら適切に対応することが重要であると考えている。
(問)
銀行と社会的正義について伺いたい。つい先日まで、環境、ESG、ダイバーシティは疑う余地のない普遍的な正義とされてきたが、今、この分断の世の中では、イデオロギー的と捉えられかねない。銀行はパブリックな不偏不党な存在であるとされているなかで、今の世の中において、社会的正義に対してどう向き合い、どのようなスタンスを取るのか。
(答)
個人の考えを交えながらお答えするが、まず、社会的正義という言葉は、その社会が持つ価値観や歴史的背景、さらには時代や局面によって捉え方が異なってくるものであり、先ほどイデオロギーとも表現されたが、近年、国際的にESGやダイバーシティ等を巡る見方が複雑化、分断化しつつあることにも表れているように、一言で語るのは相当難しいものだと思う。
銀行と社会的正義との関係だが、銀行は重要な金融インフラを提供する事業者として、銀行法第一条にも規定されるように、高い公共性を持つ存在である。また、多くの企業や個人と取引関係も有している。
言い換えれば、世の中に与えるインパクトが大きい業種の一つだとも言え、故に、社会的正義を踏まえた社会への貢献が期待されている存在かと思う。
全銀協では行動憲章を公表しているが、これは会員行それぞれが自己規律にもとづき、社会からの期待に真摯に応え、法令やルールを遵守し、社会的責任を果たすべく、不断の努力を行うことを誓うものである。
銀行界としては引き続き、行動憲章やその精神を遵守し、行動の指針とすることにより、お客さまや経済・社会の発展に貢献するという社会的責任を果たして参る所存である。
(問)
足元長期金利が上昇している。保有する債券の評価損の拡大に対して懸念も増しているが、地銀や信金といった地域金融機関への影響についてどのように考えているか教えてほしい。
2点目は、為替介入について伺う。先月、日米当局が為替介入の準備段階となるレートチェックに踏み切ったとみられている。引き続き若干円高の状況でもあるが、円安に触れる可能性が相応にあるなかで今後の為替介入実施の可能性やレートの水準感をどう見ているのか。
(答)
1点目の長期金利の影響についてであるが、長期金利はインフレ期待の高まりや利上げ期待、衆議院選挙を巡る財政拡張の思惑などを背景に上昇してきたが、衆議院選挙後には高市政権が財政の持続性に配慮しつつ財政運営を進める姿勢を示したことなどを受け、足元では比較的落ち着いた動きとなっている。
こうしたなか、直近公表された地銀の第3四半期の決算を見ると、金融機関の保有債券の含み損が拡大しているが、資金利益の拡大を背景に、本業収益は堅調に推移している。また、株式市場の好調に加え、海外金利の段階的な引下げを背景とした外債の含み損の縮小・黒字化も見られており、全体としては十分な財務体力を有していると認識している。
信金についても、直近で確認できる中間決算を見る限り、株式保有が相対的に少ないことから株式市場の好調による下支え効果は限定的であり、その他有価証券全体の含み損には拡大傾向が見られる一方、本業収益は底堅さを維持している。開示が半期ごとである点には留意が必要だが、全体としては一定程度の自己資本が確保されていると受け止めている。
もっとも、個別に見ると資産構成や金利リスクの取り方の違いなどから、含み損の規模が相対的に大きくなっている金融機関が存在することも否定できない。ただし、金利上昇リスクについては各金融機関が健全性の確保に向け、資産・負債のバランス管理や市場動向のモニタリング、ストレステストや流動性確保も含め、態勢を構築のうえ対応していると承知している。自己資本水準や預金の動き、資金繰りの面で特段支障が生じていないことを踏まえれば、現時点で金融システムの健全性に支障をきたすような問題が生じるとは見ていないが、銀行界としては引き続き、金利動向や市場環境の変化、それによる経営・財務への影響を注視しつつ、地域経済やお客さまへの円滑な資金供給が安定的に行われるよう努めていく考えである。
2点目の為替介入やレートチェックについてだが、ご質問のとおり、先月、米当局が為替介入の準備的な措置とされるレートチェックを実施したということは、1月のFOMCの議事要旨にも記載されていたので承知している。しかしながら、為替介入やレートチェックは、あくまでも当局が判断し、実施されることであり、全銀協会長としてはコメントを差し控えたい。
先程の質問への回答と重なるが、為替相場は、地政学の情勢や日米の金融政策のスタンスの違いなど複合的な要因により変動するが、足元は財政運営を巡る市場の思惑が円安の一因となっているとの指摘もあり、円安方向に振れやすい展開が当面続く可能性も相応にあるとみている。
昨年9月に日米財務大臣が結んだ共同声明では、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に対して悪影響を与え得る」とされている。今後も必要に応じて日米当局が連携のうえ、適時適切に判断されていくことと思う。
(問)
質問は2点ある。1点目は、不動産融資についてである。業種別の不動産融資の伸び率は、去年の9月までで8%と非常に高い水準にある。その後、伸びが鈍っているようであるが、8%はバブルではないかと思う。この点に関して会長の見解を伺いたい。
もう1点は、香港についてである。香港が金融都市として復活してきているという印象を持っており、米系金融機関はかなり態勢を充実させ始めているように思う。それに対して、三菱UFJフィナンシャル・グループは、拠点をセントラルから対岸の九龍半島の方へ移していると聞いた。全般的に邦銀のプレゼンスは下がっているという印象を強く持ったが、見解があれば教えてほしい。
(答)
まず、不動産についてであるが、ご指摘のとおり、足元の不動産価格は、都市部を中心に上昇が続いている状況と思う。この背景には、投機的な要素のほか、資材価格の高騰や、建設業界における人手不足等による建設コストの上昇などがあるとみている。
需要面では、不動産向け需要として、企業の設備投資需要や、各地域での再開発案件、住宅需要の底堅さ等を背景に、全体としては増加傾向にある。
金融機関においては、物件の収益性、返済能力の慎重な把握等、健全性確保に向けた取組みをしっかり行いながら、不動産融資が行われていると考えている。
加えて、金利環境や不動産市況の変化が資産価値や借入のキャッシュフローに与える影響も踏まえ、ストレス耐性を検証するなど、審査態勢の強化も図っているところである。
こうした点を踏まえると、現時点で不動産向け融資が一律に加熱しているとは認識していない。金融機関が市場動向を丁寧に見極めつつ、地域や用途ごとの偏在にも注意を払いながら、適切なリスク管理のもとで融資を行っており、現時点では金融仲介機能も健全に発揮されている状況と思う。ただ、金融システムの安全性の確保に向け、今後も状況を注視していく必要がある。
香港の件については、拠点の変更は別の理由であり、香港の位置付けを変えたということでは全くない。
(問)
外から見た邦銀に対する見方が低下しているのではないか。
(答)
三菱UFJ銀行をはじめ日本の金融機関は、中国、香港に進出している日本企業への融資が比較的多いことで、日本企業の動向に影響されていることが一面としてはあると思う。ただ、香港において日本の金融機関の存在感が薄れているかは、良く確認する必要がある。