2026年10月15日

加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)

松本専務理事報告

 事務局から2点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、次期会長を三井住友銀行の福留頭取とすることを内定した。次期会長は、今後の理事会における正式な選定手続を経て2027年4月1日付で就任する予定である。
 2点目は、10月27日にJapan Weeksにおける全銀協主催のイベント「MUSUBU! JAPAN DAY - Connecting Capital for Japan's Growth -」を開催することとした。本年度は、「海外の投資家や資産運用会社等に対し、日本の金融・資本市場の魅力を伝え、投資を呼び込む」というJapan Weeksの趣旨を踏まえ、「日本の成長を支える資金循環」をテーマに開催したいと考えている。メディアの皆さまにもぜひご参加をいただきたい。

会長記者会見の模様


(問)
 来年度の全銀協会長に三井住友銀行の福留頭取が内定された。次期会長に期待すること、また新体制のもとで、銀行界として特に取り組んでほしい課題についてどのように考えるか、伺いたい。
(答)
 次期会長に内定した福留頭取は、現在、わが国のリーディングバンクの一つである三井住友銀行を率いておられ、その手腕、実績ともに申し分のない方だと思う。全銀協においても、前回会長を務められた当時は、資産運用立国の実現を推進すべく、国民の金融リテラシーの向上に向けたJ-FLECとの連携の枠組みの検討や、プロダクトガバナンスの高度化による顧客本位の業務運営の徹底に向けた取組みのほか、今年5月に施行された企業価値担保権の活用推進に向けた議論を牽引され、さらに、会員行のスタートアップ融資への参入促進に向けた具体策の検討など、銀行界の多岐にわたる課題に対し、大変素晴らしいリーダーシップを発揮してこられた。こうした点を総合的に踏まえ、本日の正副会長会議および理事会において、新会長としてふさわしい方だと判断させていただいた。
 足元、銀行界としては、成長投資・危機管理投資への資金供給、決済インフラ転換やサイバーリスク・金融犯罪への対応など、まさに幅広い課題に向き合っている。福留新会長には、こうした議論を先頭に立ってリードしていただくことを期待している。
(問)
 日本国内の企業で不正アクセスによる情報漏えいが相次いでいる件について伺う。金融庁も、非対面での本人確認について、ICチップ情報の読取りへの移行を前倒しするよう要請した。銀行界として足元の脅威をどのように認識しているか。また、今回の金融庁の要請を踏まえて、全銀協や銀行界としてどのような対応を進めていく考えか。
(答)
 企業への不正アクセスにより顧客情報が漏えいするおそれのある事案が増えていることを深刻に受け止めている。背景には、サイバー攻撃の手口や侵入経路が多様化していることがある。漏えいした情報がフィッシング詐欺やなりすまし、不正送金などに悪用される可能性があり、それに伴って金融サービスへの信頼が損なわれることを大変懸念している。
 今般、金融庁からも注意喚起が行われており、全銀協としても会員行に対して、サイバーセキュリティ対策の実施状況の再確認や、非対面取引における慎重な本人確認、ICチップの読取りによる本人確認方法の早期導入について促している。
 各行では、本人確認や認証の強化、アクセス権限の適切な管理、システムの監視・検知機能の高度化に引き続き取り組んでいる。特に口座開設時の本人確認に際しては、偽造・変造された本人確認書類による不正な取引を防止し、特殊詐欺等に悪用される口座利用を抑止する必要がある。金融庁から要請のあった口座開設時のICチップ情報の読取りによる本人確認については、犯収法施行規則の改正に伴い、2027年4月からの全面的な導入に向けて各行とも対応を進めているところである。一方で、足元の状況や、今般の金融庁からの注意喚起を踏まえると、各行において可能な限り速やかに、本人確認書類の画像確認からICチップ読取りへの移行を進めていく必要がある。
 個別行の取組みになるが、みずほ銀行では、すでにICチップ情報の読取りによる本人確認を導入している。一方、本人確認書類の画像を受領する方法も併用しており、今後の対応については、注意喚起の趣旨に則り検討を進めていく。
 引き続き、金融サービスに対する信頼確保に向け、関係機関とも協力しながら、官民一体となって対策を強化していきたい。
(問)
 臨時国会が始まり、高市総理は、冒頭の所信表明で、改めて「責任ある積極財政」を掲げ、政府が一歩前に出て財政出動を行い、国内投資を引き出す考えを示した。一方、金利が上昇するなか、財政規律や国債市場への影響にも目配りが必要かと思う。改めて、銀行界として政府方針をどう受け止め、また政府と民間金融の役割分担をどう考えるか伺いたい。
(答)
 個人の意見としてお答えする。高市総理は所信表明で、「責任ある積極財政」について、単に歳出を増やすということではなく、「強い経済」と「財政の持続可能性」の両立を目指すものであるという、基本的な考え方を改めて示したものと理解している。
 そのうえで、所信表明では、「経済や市場が想定と異なる動きを示した場合に、その影響を十分に分析し、必要な対応を機動的に講じる」というご発言があった。これは、景気が想定以上に悪化した場合などに、国民生活を支えるために必要な対策を迅速に行うことに加え、国債市場に異変が生じた場合には、政策運営を柔軟に見直すといった市場への配慮も含む内容であると受け止めている。
 日本経済を取り巻く環境は、不確実性が大きくなっている。経済・市場の動向や、その影響を見極めながら、必要な対応を政府が機動的に講じることは重要なことである。引き続き、市場との対話を丁寧に重ねながら進めていただければと思っている。
 また、政府と民間の役割だが、政府が提唱する戦略17分野への370兆円超の巨額の投資を資金面で支えるためには、銀行界だけではなく、多様な金融仲介プレイヤーとの連携・協力が不可欠である。民間金融機関が資金供給をしていくためには、対象事業の予見可能性を高めていくことも重要であり、政府と適切に連携していくことが大切だと考えている。
 政府には、「責任ある積極財政」の理念に従い、国民の暮らしを豊かにする持続的な経済成長と財政規律の維持を通じた市場の信認確保の双方を実現する財政運営を継続していただきたいと考えている。


(問)
 地方銀行の再編について2点伺いたい。先日も北東北3県の地方銀行で経営統合に向けた基本合意がなされたという報道が出ていた。地方銀行を巡っては、かねてから、人口減少が進むなかで銀行数が過剰なのではないかという指摘があったと思う。改めて、地方銀行のあり方や、今後の存続について見解をお伺いしたい。
 2点目は、地方銀行の再編が進むことで、中小企業からは競争がなくなり、借入条件等で不利になるのではないかという不安の声も聞こえてくる。このような不安を払拭し、地方銀行が再編を行っていくうえで、銀行業界として求められていることについて、お考えをお伺いしたい。
(答)
 地方金融機関は、地域の中堅・中小企業への金融・非金融両面での支援、あるいは地方活性化への取組みを通じて、言わば、地域の「要」として広範な役割を果たしていくことが期待されている。
 金利上昇によって、地域金融機関の収益は改善傾向にはあるが、構造的には、人口減少や少子高齢化による地域経済の縮小、または、金利のある世界になってきたことによる預金競争の高まりなど、厳しい事業環境にあると思っている。
 そうしたなかで、政府からも「地域金融力強化プラン」や「成長投資を促進するための金融戦略」のなかで、他のプレイヤーとの連携によるM&Aや成長投資へのアドバイス、経営改善サポートのほか、事業性評価にもとづく融資の促進や、まちづくり事業への参画など、幅広い取組みを期待されている。
 地域の「要」として、求められる期待に対してどのように持続的に役割を果たしていくかが課題である。このような環境において、より一層、サービスの改善や業務効率化、収益力の向上を求められているなかで、他の金融機関との統合や再編の動きがあると考えている。決して、経営統合することが目的ではなく、この厳しい環境を乗り越えて、しっかり役割を果たすために、こういった判断をされているのではないかと受け止めている。
 2点目は、経営統合・再編することで、競争がなくなり、取引条件が不利になるかということについてだが、必ずしもそうではないと思う。先ほど申しあげたように、地域金融機関は地域の要であり、その役割を果たしていくことで、地域にとってマイナスになるようなことにはならないと思う。
 さらには、金融サービスのデジタル化も進んでいるので、地方のお客さまであっても、県を跨いでアクセスするという選択肢もあることから、特定の銀行しか選ぶことができないという状況ではないと思う。
 このような状況のなかで、しっかりと役割を果たすための収益力や機能を持つことが、昨今の経営統合や再編検討の背景にあるのではないかと思う。


(問)
 メガバンクは、中国に多くの店舗を構え、しっかりビジネスをされているが、日中関係が非常に冷え込むなか、おそらく行員の家族帯同も難しく、赴任を希望しない人が増えている状況もあるのだろうと思う。地元企業との取引にも影響が出ているのではないかと思うが、メガバンクのビジネスにどのような影響が出ているか、また、どう改善していくべきか、会長のお考えを伺いたい。政府間の問題であり、民間にできることには限界があると思うが、外交面でも外務大臣同士も会えず、APECでも日中首脳会談は開かれないだろうと言われている。そうしたなかで、先日、岩屋氏が日本国際貿易促進協会の会長として河野洋平氏の後任に就かれ、交流を始められたが、どのように評価されているのか。
 二つ目は、みずほ銀行がAIの専門外の方をコンバートされるとの報道について伺いたい。専門家でない方にAIの開発ができるのか、あるいは銀行業務が分かっていればできるのか、その辺はよく分からないが、AIを導入すると人が減るから、その余剰人員をAI担当と称して勤務形態を変え、そのなかでうまく転換できない方々は辞めてもらうという、実はリストラ策ではないかと受け取った方も多いのではないかと思う。その辺の実情を教えていただけるか。
(答)
 みずほ銀行は中国に16拠点を展開しており、現地採用の行員を含めて1,500名ほどが勤務している。個別のビジネス内容の詳細までは申しあげないが、しっかり事業に取り組んでいる。また、政治・外交に関するコメントは差し控えるが、ビジネスの観点では、中国は世界第2位の経済大国であり、日本企業にとって大変重要な市場だという認識は変わっていない。
 日中両国間の貿易の結びつきは大変深く、多くのお客さまが中国市場と強固なサプライチェーンを構築していることは事実だと思う。そうした意味で、重要なマーケットだと考えている。
 中国市場の競争環境は厳しさを増しており、中国企業も非常に競争力をつけている。一方で、日本企業にも強みはあり、高付加価値製品や、部素材分野における先端技術、外食産業などのサービス分野に対する需要については、引き続き期待ができると考えている。先ほどご指摘のあった日中間の地政学的な問題は、企業活動に少なからず影響を及ぼしている面はあるが、中国が日本にとって重要な貿易・投資相手国だという点は変わりない。
 そうしたなかで、どのように対応していくか難しい面もあるが、我々経済人からすれば、人的往来や経済交流を進めていくことが重要ではないかと思う。銀行界としては、経済を下支えする金融インフラとして、国際的な規制やルールを遵守しつつ、グローバルに活動するお客さまを金融面でサポートしていきたいと考えている。
 二つ目のAIの話は、みずほ個別の話になってしまうが、決してリストラ策ではない。AIについては、我々がこの数年しっかり取り組んでいるなかでわかってきたことであるが、非エンジニア社員、いわゆるIT人材ではない方でも十分に活躍できる領域である。むしろ業務をしっかり理解している人の方がAI活用に取り組めると認識している。ビジネスとテクノロジー双方を理解する人材を増やす、これがAIを活用するに際して大事なのではないかと思う。IT人材にしっかりとビジネスを理解してもらいながらAI人材を作るということも当然行うが、双方向で人材を活用しながら次世代の金融サービスを作っていきたいと考えている。


(問)
 防衛関連企業の投融資のあり方について伺う。日本政策投資銀行やメガバンクのなかでも、これまでの方針を転換して、慎重姿勢から検討対象にしていくという流れがある。こういった防衛関連企業に対する投資のあり方の変化の兆しなどをどう受け止めているか。また、みずほ銀行頭取としてどう対処していかなければいけないとお考えか、この2点について伺う。
(答)
 これまでの会見でも申しあげてきたことの繰り返しとなるが、日本成長戦略においても、防衛分野は戦略17分野の一つであり、官民で重点的に投資を行っていくべき領域と認識している。また、デュアルユースと言われるAI、無人化、宇宙分野などの新たな技術領域において、スタートアップ企業の有する技術を活用していくことも重要だと考えている。
 銀行界としては、クラスター弾など、国際条約で禁じられている非人道兵器の製造を資金使途とする与信案件や、クラスター弾の製造を行っている企業に対する与信については、その資金使途にかかわらず、これを行わないこととする旨の申し合わせを行っている。こういった国際条約を踏まえる必要はあるが、通常の与信案件と同様に各種リスクや採算性等を勘案のうえ投融資を判断することは、これまでも今後も変わりないと考えている。
 また、個別行としてのみずほ銀行の具体的な方針等はここでは控えるが、考え方については、今私が申しあげたとおりである。


(問)
 10月1日にサイバー対処能力強化法および同整備法が施行された。強化法に関しては、大手行には、基幹インフラ事業者としてシステムの製品名の届出やインシデント情報の共有が求められているが、どのように対応していくか。また、整備法では無害化に向けたアクティブサイバーディフェンスの態勢強化が行われると思う。これは銀行界だけに限らないかもしれないが、銀行界として特にメリットがあるというようなことがあれば聞かせてほしい。
(答)
 10月1日に施行されたサイバー対処能力強化法は、基幹インフラ事業者がサイバー攻撃を受けた場合等に政府への情報共有や政府から民間事業者への情報共有、対処支援等の取組みを強化することを目的にしている。サイバー対処能力強化法への対応として、対象となる金融機関は、特定重要電子計算機を導入した際の届出や、当該システムのサイバー攻撃等のインシデント事象を認知した場合の報告が必要になる。また、情報共有・対策のための協議会への参加を通じ、被害防止に関する情報共有も求められる。
 銀行界としては、20行が基幹インフラ事業者として指定されており、特定重要電子計算機の特定やインシデント発生時の迅速な報告、政府・関係機関との情報共有に向けた対応を進めている。
 サイバーセキュリティ対応は個別行あるいは銀行界だけで対応することは難しいので、官民連携でしっかりと情報を共有しながら取り組めることがメリットと考えられる。このような枠組みに参画しながら、官民がより関係強化に努めていくことが非常に重要である。


(問)
 国内の金利上昇が続いているが、不動産投資や開発に向かう資金需要に変化が出てきているとお考えか。特に海外の機関投資家による対日不動産投資姿勢に変化はあるとみているか伺いたい。また、価格が上昇しているなかで、金融機関の貸出の姿勢にも変化が出ているかどうかも教えてほしい。
(答)
 まず全体感としては、2025年度末の不動産融資残高は約121兆円、直近の年間増加率はプラス8%で、継続して増加傾向というトレンドに変わりはない。
 2026年度も不動産取引は依然として活況であり、不動産融資残高は6月末時点では2兆円増の123兆円台に達している。この背景には、都心部を中心とした実需あるいは円安などを背景とした海外投資家のインバウンド投資、建築資材や人件費の高騰による既存物件への注目など、複数の要因が組み合わさった結果があると認識している。
 こうした背景のなかで、海外機関投資家による対日不動産投資のトレンドについては、各社それぞれ投資戦略は異なる部分があるので一概には申しあげられないが、取引先から伺う限り、日本は重要な投資先の位置づけであるということに変化はなく、引き続き投資意欲は旺盛と考えている。
 ただ、やはり以前の低金利、低インフレを前提とした環境から、金利上昇とインフレが共存する環境に移行しており、高い収益性があるものや、賃料キャッシュフローの成長性が見込まれる案件などに資金が集まっていく傾向は、あえて言えば変化と考えられる。
 金融機関の与信スタンスに変更があるかどうかは個別事情によるが、足元は依然として活況で残高が増えているという点で、全体としては引き続き旺盛な需要に対応していると言える。


(問)
 2点伺いたい。1点目が、デジタル通貨やオンチェーン金融などの関係である。9月末に金融庁が、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の初会合を開いた。また、10月には一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構も始動した。デジタル通貨やオンチェーン金融の動きがかなり活発化しているが、銀行界としてこれらの分野に対する期待感や今後の課題意識をどのように見ているか。
 2点目は、足元の金融環境に絡む部分で、今月1日公表の日銀短観では、「資金繰り判断DI」や「金融機関の貸出態度判断DI」はほぼ横ばいの状態だったかと思う。日本銀行がみている「金融環境は依然として緩和的」というところに沿う結果だったように思うが、会長として現在や今後の金利動向をどのように見ているか。
(答)
 1点目、オンチェーン金融についてである。「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」は、政府の「成長投資を促進するための金融戦略」にもとづき、AIやオンチェーン技術の進展を踏まえ、決済・金融インフラの将来像を官民で議論する場と受け止めている。
 金融のオンチェーン化は、日本だけではなく各国において、試行錯誤を経ながら実装への取組みが進められている。日本が国際的に後れを取らないためにも、同フォーラムを核として、官民で議論が進むことを期待する。
 銀行界としては、将来の変化を見据えつつ、現時点で確認できる課題から、着実に取り組むことが重要だと考え、トークン化預金やステーブルコインについて証券決済、貿易取引、クロスボーダー決済など、具体的な活用の可能性の検討を進めている。
 しかし、銀行間決済の基盤整備のように、個別の金融機関における活用可能性の検討だけでは解決できない事項があり、それは課題の一つである。一方で、個別の金融機関が、そのような基盤整備を待つだけでは実装に向けた進展が遅れる側面もある。そのため、具体的な利用場面の検証と、共通基盤や相互運用性などの環境整備を相互に関連づけながら並行して進めることが必要である。
 全銀協では、特にトークン化預金について、銀行界で課題や方向性を共有し、幅広い金融機関が参加できる仕組みや、次世代の銀行間決済基盤の役割について検討を深めていく。
 また、処理能力や手数料、不正取引への対応、本人確認、マネー・ローンダリング対策など、慎重な検討を要する論点もある。新しい技術を取り入れる場合でも、預金・決済に対する信頼性、安全性、安定性と、利用者保護を図ることが前提である。銀行界として、可能性と課題を冷静に見極め、関係者と連携し、決済・金融インフラの発展に主体的に貢献していきたい。
 2点目の日銀短観の数字を踏まえた金利動向についてだが、ご質問いただいた「資金繰り判断DI」が横ばいで推移していることが意味するのは、これまでの金利上昇にもかかわらず、企業の資金繰りは全体として悪化していないということかと思う。実際には、個社のお客さまごとに状況が異なる部分があるが、全体の印象としては、我々実務をしている者としても同様の認識を持っている。
 そうした意味では、日本企業の財務健全性は総じて改善しており、現時点では、全体感として、金利負担増加の影響は限定的ではないかと評価している。
 また、金利動向については、先ほどお話しされた日銀短観のDIのなかでは、「販売価格判断DI」が高止まりしており、企業の価格設定姿勢はなお強く、日本銀行も物価上昇率が2%を上振れていくリスクを警戒している。みずほ総合研究所では、今後の日本銀行の利上げペースは3か月に1回程度に早まり、ターミナルレートは2%になると予測している。
 長期金利については、市場のターミナルレートの予想水準が高まっているなかで、足元では3%程度に上昇している。みずほ総合研究所においても、2027年度にかけて消費者物価の上昇ペースが鈍化していくとみており、長期金利の水準は2026年度末時点でも3%程度と予想している。
 ただし、不確実性が大変高まっている。原油価格の高止まりに加えて、AI投資ブームに伴う民間の資金需要の増加もあるため、コストプッシュのみならず、需要の拡大、投資の拡大というようなかたちでも、引き続き金利の上昇圧力がかかりやすい状況であると認識している。
 今後、金利上昇がさらに加速した場合には、住宅市場や企業業績に影響が及ぶ可能性もあると考えており、銀行業界としても、お客さまの資金繰りを十分に把握しながら、柔軟に対応していく必要があると考えている。


(問)
 個人向けのAIエージェントが銀行預金の粘着性に及ぼす影響について伺いたい。先月、MetaがMuseという個人向けのAIエージェントを発表したときにアメリカで話題になったのが、AIエージェントが個人の家計のキャッシュマネジメントを全部自律的にやるようになると、常に利回りの高いところに資金を移すようになり、その結果、今まで銀行が享受してきた比較的低コストで粘着性の高い預金を失うようになるのではないかということだった。アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミストなども、AIエージェントによる銀行取り付け騒ぎが起こるのではないかという刺激的なレポートを書いていたり、バンク・オブ・アメリカのアナリストも、顧客の預金における慣性がAIエージェントによって失われるリスクを指摘したりしているが、会長はどのようにお考えか。
(答)
 まず、AIの活用についての基本的な考えを簡単に申しあげると、生産性の向上や顧客サービスの高度化、あるいは犯罪や不正の防止などに大きく貢献する技術だと考えており、日本の成長や金融サービス発展の観点からも、健全な開発、健全な利活用を進めていくのが重要だと思う。
 そうしたなかで、お客さまが個人向けのAIエージェントを預金の口座管理に活用する動きは、当然考えられることである。足元、金融機関は預金の粘着性を期待し、各行、様々な金利優遇やポイントなどのキャンペーンを通じて預金獲得の取組みを行っている。このようななかでAIエージェントが浸透してくると、預金獲得の戦略や預金ビジネスの全体を考え直す必要も出てくると思う。
 一方で、例えば預金の取引銀行を選ぶ場合、AIエージェントの実装が進んだとしても、利便性や利得性、効率性だけで選ぶかというと、必ずしもそうではなく、信頼性や安心感で判断されるお客さまは多く存在すると考えている。以前から申しあげているが、預金獲得は金利水準以外の要素も極めて重要である。接遇応対や信頼といった面も含めて、様々な企業努力を通じ、お客さまに安心して預金いただくことが、粘着性の高い預金の獲得・維持につながると考えている。
 一時的な預金集めにとどまらず、お客さまにとって魅力のあるサービスを継続的に提供することが一番重要ではないかと思う。そういったところを各行がしっかりと切磋琢磨して、お客さまから選ばれる銀行になることを大切に経営して参りたい。


(問)
 ドル調達について改めて認識を教えてほしい。夏の概算要求の時期が過ぎて、JBICの概算要求と財投要求に注目していたが、対米投資案件に関して彼らが大きく負担を増やすようなメッセージは出なかった。ドル調達はいよいよ正念場で、計算上、今のスキームが要請する額が3メガだけではなかなか負担が難しいという状態なのに、明確な解決策がないまま突き進んでいるように見える。改めて、邦銀は外銀に比べてドル調達が容易ではないわけだが、今後、多額のドル需要に対して、改めて課題意識とどう対応していくのかを教えてほしい。
(答)
 外貨調達に関する質問だが、我々のバランスシート運営がベースになるので、その観点から一般的な話をする。銀行のバランスシート運営においてはバーゼル規制の制約があり、国際基準行にはLCR(流動性カバレッジ比率)やNSFR(安定調達比率)といった流動性規制を遵守することが義務付けられている。また、そうした流動性規制が適用されない国内基準行においても、預貸率等の流動性指標やストレステストの結果を常にモニタリングしており、しっかりとした財務規律を持って流動性の維持に取り組んでいる。
 先月の記者会見で話したように、足元では非常に旺盛な資金需要があり、安定調達比率は低下傾向にある。また、地銀でも預貸率は上昇傾向にある。ただし、念のために申しあげると、その水準が規制基準を下回るといったことは生じておらず、あくまでもそういうトレンドということである。
 邦銀にとって円は預金による調達で賄える部分が多い一方、やはり外貨は預金が相対的に少なく、市場から調達してこなければならない。そうなると、短期資金市場の急変などの影響を受けるため、安定的かつ機動的な外貨調達手段が必要であることは、従前からそもそもの課題として取り組んできたものである。
 ご質問のとおり、対米投資、あるいは政府の成長戦略への対応などにおいて、当然ながらさらなる資金需要の増加が想定されることは我々も認識している。
 では、それにどう対応していくかというと、従来の課題に対する取組と大きく変わることはない。将来の資金需要の増加に対しては、預金獲得や社債発行、市場性調達の拡充に取り組み、金融機関としてしっかりと資金支援ができるだけのバッファを持ち、外貨の調達状況や各銀行としてのリスク、収益性にもとづいて、適切な判断を行いながら、ALM運営していくことにほかならない。我々もしっかりと課題を認識しながら、そういったニーズに応えていくことを命題として取り組んでいきたい。


(問)
 先日、郵政民営化委員会で、ゆうちょ銀行が通常貯金の限度額の撤廃要望を出したようである。今後、民営化委員会は月末に銀行界等にヒアリングを始めるということだが、来年3月に撤廃要望がどうなるかが出るまでに、政府や民営化委員会、または永田町などに対して、銀行界としてどういうことを求めていくか。
(答)
 ゆうちょ事業改革の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じ、国民経済の健全な発展を促すということである。
 公正な競争条件の確保の観点から、ゆうちょ銀行に政府の関与が間接的に残っている状態では、やはり上限撤廃というのは認められるべきではない。極めて慎重に検討されるべきである。まずは完全民営化への道筋が具体的に示され、その確実な実行が担保されることが最低限必要である。
 銀行を含めた民間金融機関は、資金供給機能や、成長支援機能を一層強化し、わが国における資金の好循環を創出していくことが求められている。また、地域における信用創造機能やコンサルティング支援機能等、重要な役割を果たしている。そのようななか、安定的な預金調達基盤を確保し拡大する重要性は、従来にも増して高まっている。仮にゆうちょ銀行の預入上限が撤廃されたり、民間金融機関と同様の業務が認められたりすると、地域金融機関への影響は甚大である。
 地域の金融システムや地域経済へ悪影響が及ぶことを強く懸念しており、こういった論点を踏まえた適切な議論が行われることを期待している。銀行界として関係者にしっかりとその声を届けていきたい