2006年9月19日

全国銀行協会

平成19年度税制改正に関する要望

1.金融・資本市場の活性化と国際的な取引の推進のために
(1)金融所得課税の一体化の推進
(2)確定拠出年金税制の見直し
(3)資産流動化関連税制の措置
(4)非居住者等に対する公社債の非課税措置の拡充
(5)東京オフショア市場における源泉所得税免除措置の恒久化
2.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る無税償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰戻還付制度等の拡充
(2)外国税額控除制度の見直し
(3)銀行協会に係る非営利法人課税
3.経済活性化と課税の適正化のために
(1)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充
(2)印紙税の軽減・簡素化
(3)登録免許税の軽減・簡素化

1.金融・資本市場の活性化と国際的な取引の推進のために

わが国の景気は拡大局面にあるが、この基調をより確固たるものとし、持続的な経済成長へと繋げていくためには、資金仲介機能を担う金融・資本市場の活性化を図ることが大切である。

そのためには、税制面からも金融所得課税の一体化や確定拠出年金税制の見直し等を通じて、個人金融資産を効率的に活用できる魅力的な金融・資本市場の確立を後押ししていく必要がある。

また、金融のグローバル化が進展するなか、わが国金融・資本市場のプレゼンスを向上させる観点からも、非居住者等に係る税制措置の拡充等、国際的な金融取引の推進に資する税制を整備していくことが重要である。

(1) 金融所得課税の一体化を推進すること。具体的には、

  1. 課税方式の均衡化を図るとともに、損益通算を幅広く認めること。なお、公募株式投資信託の償還(解約)益については、早急に措置を講ずること。
  2. 納税の仕組みについては、実効性のある制度とするとともに、その導入にあたっては十分な準備期間を設けること。また、少なくとも導入までは、上場株式等に係る現行の軽減税率(10%)を維持すること。

少子高齢化に伴う貯蓄率の低下に伴い、個人金融資産を効率的に活用することが、わが国経済の活力を維持するための鍵となっており、魅力的な金融・資本市場を構築する観点から、個人投資家にとって簡素でわかりやすく、中立的な税制の整備が喫緊の課題となっている。こうした背景から、平成16年6月に政府税制調査会から、「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」が示され、金融商品に対する課税方式を均衡化し、損益通算の範囲を出来る限り広げていく方向性が打ち出された。

個人投資家にとって魅力のある効率的な金融・資本市場とは、金融商品がリスクに見合ったリターンを形成し、個人投資家のリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できる市場であり、そのためには、金融商品に対する課税は簡素でわかりやすく、かつ金融取引における選択を歪めることのない形にする必要がある。その際、実効性のある税制を構築する観点から、個人投資家の税制面の事務負担や商品を提供する金融機関の負担や準備期間に十分配慮することが、実務上きわめて重要である。

したがって、金融所得課税の一体化にあたっては、1.金融資産に対する課税の簡素化・中立化を図る観点から、実務面における十分な検討を踏まえ、課税方式の均衡化を図るとともに、預金を含め損益通算を幅広く認めること、さらに、2.具体的な納税の仕組みについては、実務面から十分な検討を行い、納税者、金融機関が受入可能な実効性のある制度とするとともに、その導入に当たって十分な準備期間を設け、少なくとも導入までは、上場株式等に係る現行の軽減税率(10%)を維持すること、をセットで要望する。

なお、現行の税制では、公募株式投資信託および上場株式等の譲渡損益の通算が認められているが、公募株式投資信託の償還(解約)益は損益通算の対象に含まれていない。投資家にとって償還(解約)と譲渡とは経済的にみて実質的に差異はなく、税制面でも同じ取扱いとすることが適当である。個人投資家にとってよりわかり易い税制とする観点からも、公募株式投資信託の償還(解約)益については、他の公募株式投資信託の償還(解約)損や上場株式等の譲渡損との通算を早急に実現することを要望する。

(2) 確定拠出年金税制を見直すこと。具体的には、

  1. 拠出限度額を引き上げるとともに、マッチング拠出を認めること。
  2. 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。

高齢化社会における自助努力による老後の生活保障を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割は大きい。厚生年金基金の解散など、既存の企業年金を取り巻く環境が厳しくなるなか、その重要性はますます高まっている。また、平成13年10月に導入された確定拠出年金制度は、本年 10月に確定拠出年金法附則に定める5年後の制度見直しの時機を迎える。

こうしたことから、確定拠出年金に係る税制は、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本として、十分な優遇措置が講じられるべきである。

平成16年度税制改正において、確定拠出年金の拠出限度額が引き上げられたが、老後に必要とされる生活資金の水準や、確定給付年金制度に拠出限度額が設けられていない点等を勘案し、拠出限度額の一段の引き上げ、および企業型年金加入者による追加拠出(いわゆる「マッチング拠出」)を認めることを要望する。

また、平成16年度税制改正において、公的年金等控除の縮小および老年者控除の廃止がなされる等、給付時課税に対する優遇措置が縮小されていることに鑑み、運用時課税となる退職年金等積立金に対する特別法人税について、現在のような時限的な課税停止措置ではなく、これを撤廃することを要望する。

(3) SPC(特定目的会社)等の不動産取得に係る不動産取得税を非課税とすること。少なくとも、現行の不動産取得税の軽減措置の適用期限(平成19年3月末)を延長すること。

資産流動化はリスク分散・管理のための極めて有力な手段であると同時に、一般企業や内外投資家に対しても多様な資金調達手段や投資商品の選択肢を提供するものである。こうした観点から、平成10年9月からいわゆるSPC法が施行され、さらに平成12年5月に、SPC法および投信法の改正が行われた。

税制面においては、SPC等(以下、特定目的会社(SPC)と投資法人の両者を「SPC等」と総称する)の不動産取得に係る不動産取得税の軽減措置等が講じられた。

流動化資産の受皿にすぎないSPC等に担税力はなく、課税はただちにこれらの発行する証券の利回り低下をもたらし、資産の流動化を阻害する。経済活性化の観点から、不動産等の資産の流動化促進が重要であり、こうした資産流動化のツールであるSPC等の税負担は、極力軽減されることが必要である。

したがって、SPC等の不動産取得に係る不動産取得税を非課税とするか、少なくとも現行の不動産取得税の軽減措置の適用期限(平成19年3月末)を延長することを要望する。

(4) 非居住者等に対する公社債の非課税措置を拡充すること。具体的には、非居住者等の受け取る国債以外の振替制度を利用した地方債等の公社債の利子について非課税措置を設けること。

海外投資家によるわが国公社債への投資の円滑化は、わが国資本市場の活性化や国際化、円の国際化、公社債市場の流動性向上等に資するものであり、こうした観点から、国債について非課税措置が設けられ、数次の改正で拡充されてきた。一方、国債以外の地方債等の公社債については、本年1月から国債と同様の振替制度が開始されているものの、その利子について、非課税措置が設けられていない。

わが国資本市場の活性化と国際化をさらに進める観点から、非居住者等の受け取る国債以外の振替制度を利用した地方債等の公社債の利子について非課税措置を設けることを要望する。なお、その際には、本邦におけるカストディ銀行の事務負担にも十分配慮した仕組みとすることもあわせて要望する。

(5) 東京オフショア市場における源泉所得税免除措置を恒久化すること。

東京オフショア市場は、本邦金融市場の国際化、円の国際化の促進に資するため、昭和61年12月に創設された。取引の自由度や利便性が海外の主要オフショア市場にできるだけ近いことが重要とされ、源泉所得税についても租税特別措置として免除措置がとられてきた。

今後も、わが国金融市場は、国際金融センターとして一層の発展が期待されており、東京オフショア市場において、海外の主要オフショア市場と同様、将来にわたって源泉所得税を課さないことを明確化するため、現行の源泉所得税免除措置を恒久化することを要望する。

2.適切な経営環境を確保するために

不良債権問題からの脱却に続き、公的資金返済の動きも加速するなど、わが国の金融業界の課題は「金融システムの安定」から「活力ある金融システムの構築」へと着実に転換しつつある。

金融システムの活性化や国際競争力の向上に向けた各金融機関における取組みを後押しする観点から、税制面においても、諸外国に比べ見劣りする不良債権関連税制や外国税額控除制度の見直しを進めるなど、経営環境の一層の整備が必要不可欠である。

(1) 貸倒れに係る無税償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰戻還付制度等の拡充を行うこと。具体的には、

  1. 貸倒れに係る無税償却・引当の範囲を拡大すること。
  2. 欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間(現行1年間)の延長等を図ること。

長年の懸案であった不良債権問題については、その解決に目処がつき、金融・産業の一体再生も進んできた。しかし、その過程においては、貸倒れに係る無税償却・引当の範囲が極めて限定的であること等から、繰延税金資産の発生等の課題が生じた。

また、法人税における欠損金の繰戻還付・繰越控除制度は、事業年度ごとの課税負担を平準化し、経営の中長期的な安定性を確保するうえで重要な制度であるが、繰戻還付制度については、現状、繰戻期間が1年に限定されているうえに平成4年度以降凍結されているなど、十分な措置が講じられているとは言いがたく、欧米主要国との比較においても、わが国の制度は明らかに見劣りする。

このような状況を踏まえ、1.貸倒れに係る無税償却・引当の範囲を拡大すること、および、2.欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間(現行1年間)を少なくとも2年に延長すること、なお、この場合、合併法人の欠損金を被合併法人にも繰り戻して還付できるようにすること、等を要望する。

(2) 外国税額控除制度を見直すこと。具体的には、

  1. 繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間を延長すること。
  2. 間接外国税額控除の対象を曾孫会社以下まで拡大すること。

海外拠点の新設、統廃合、企業買収・売却等が積極的に行われるなか、外国税額控除制度は、国際的な二重課税を排除する制度として重要な役割を果たしており、わが国企業の国際的な業務展開を支えている。わが国金融機関においても、事業再構築の一環として、海外子会社の売却等に伴い、海外において売却益が発生するケースも生じている。しかしながら、わが国の現行の外国税額控除制度においては、繰越控除限度額等の繰越期間が3年とされていること等から、部分的に国際的な二重課税が発生するケースが生じている。

また、組織再編成の一環として、海外において従来の事業持株会社の上位にさらに統轄持株会社を設立し、その結果、事業持株会社傘下で実際に事業を行う会社の形態が、従来の孫会社から曾孫会社に変更になる事例も発生している。しかしながら、曾孫会社は間接外国税額控除の対象とならず、国際的な二重課税を回避できないという問題がある。

したがって、外国税額控除の繰越控除限度額(余裕額)および繰越控除対象外国法人税額(限度超過額)の繰越期間を少なくとも5年に延長するとともに、間接外国税額控除の対象を曾孫会社以下まで拡大することを要望する。

(3) 銀行協会に係る非営利法人課税に関して、法人税等の取扱いを現状の公益法人課税と同等の内容とすること。

全銀協ならびに地方に所在する62銀行協会は、経済活動を支える手形交換制度や各種決済制度の企画・運営、一般消費者を対象とする相談業務など、わが国経済の発展と国民生活の安定向上に資する非営利事業を営んでおり、その大多数は民法第34条に基づく社団法人となっている。

現在、政府においては、本年の通常国会において成立した公益法人制度改革関連法に基づき、現行の公益法人制度を抜本的に見直すための具体的な制度運営に関する検討が進められている。

税制面については、政府税制調査会が昨年6月に「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」と題する報告書をとりまとめたが、公益法人制度改革関連法の公布を踏まえ、今後、上記の報告書に基づき具体化に向けた検討が行われるものと考える。その際には、民間による非営利活動を促進・支援する観点から、銀行協会に係る非営利法人課税に関し、法人税、所得税(利子配当等課税)、印紙税、法人住民税、法人事業税、固定資産税等の取扱いを現状の公益法人課税と同等の内容とすることを要望する。

3.経済活性化と課税の適正化のために

わが国における現下の景気拡大基調をより確固たるものとし、持続的な経済成長へと繋げていくためには、住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等により、民間部門の投資・消費需要を喚起することが有用である。

また、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して登録免許税や印紙税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした負担は経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している面があるため、その軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

(1) 住宅取得の促進に資する税制措置を拡充する観点から、住宅ローン利子の所得控除制度の創設を検討すること。

住宅は国民の重要かつ基盤となる資産である。また、住宅投資の拡大に伴う経済活性化の効果は大きく、わが国経済の現下の景気拡大基調をより確実なものとするためにも、住宅投資の促進が求められている。

しかしながら、平成16年度税制改正では、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度を平成17年以降毎年段階的に縮小し、平成20年をもって廃止することとされた。

住宅取得の促進に資する税制措置は極めて重要であり、今後の住宅取得促進税制の恒久化等を視野に入れて、米国に見られるような、住宅ローン利子の所得控除制度の創設を検討することを要望する。

(2) 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう、軽減・簡素化すること。

印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

(3) 登録免許税の税率をその手数料的な性格から低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。

現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず負担が極めて重く、わが国経済の構造改革のために必要な企業の組織再編成や、資産流動化等の経済取引に影響し、その活性化を阻害している面がある。

登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、大幅に軽減・簡素化することを要望する。