2008年9月24日

全国銀行協会

平成21年度税制改正に関する要望

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために
(1)金融所得課税の一体化の推進
(2)確定拠出年金税制の見直し
(3)資産流動化関連税制の拡充
(4)非居住者等に対する利子等の非課税措置の拡充
(5)租税条約に関する手続の簡素化
(6)新たな形態の取引に係る税制の整備
2.経済の活性化と課税の適正化のために
(1)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(2)株券等の電子化に伴う特定口座制度の整備
(3)印紙税の軽減・簡素化
(4)登録免許税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る無税償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰戻還付制度等の拡充
(2)外国税額控除制度等の見直し
(3)公益法人関係税制の整備

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために

 経済活動のグローバル化や少子高齢化が進展するなか、わが国経済が今後も持続的に成長するためには、わが国金融・資本市場の競争力を強化し、その魅力を向上させていくことが大切である。そのためには、1,500兆円におよぶ家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供することが重要であり、税制面からも金融所得課税の一体化の推進や確定拠出年金税制の見直し等を通じて、個人投資家にとって利便性の高い効率的な金融・資本市場の構築を後押ししていくことが必要である。
 また、国際的な市場間競争が一層激化するなか、わが国金融・資本市場が内外の利用者の多様なニーズに応えていく観点から、非居住者等に対する非課税措置の拡充のほか、租税条約に関する手続きの簡素化やネットワークの拡大等、国際的な金融取引の推進に資する税制を整備していくことも求められる。
 さらに、金融機関がこれまで以上に多様で質の高いサービスを提供し、わが国金融・資本市場を支えていくために、新たな形態の取引に係る税制等、時代のニーズにマッチした環境整備も重要である。

(1)金融所得課税の一体化の推進

  • 金融所得課税の一体化を推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組みについては、実務面から十分な検討を行い、納税者、金融機関が受入可能な実効性のある制度とするとともに、その導入に当っては十分な準備期間を設けること。

 わが国では、少子高齢化の進展から貯蓄率が顕著な低下傾向を示すなか、個人金融資産の効率的な活用が経済の活力を維持するための鍵となっており、個人投資家にとって魅力のある効率的な金融・資本市場を構築することが喫緊の課題となっている。そのためには、金融商品がリスクに見合ったリターンを形成するとともに、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税については、簡素でわかりやすく、金融商品の選択をゆがめることのない中立的なものとすることが求められる。
 政府税制調査会が平成16年に公表した「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」においても、金融商品に対する課税方式を均衡化するとともに、損益通算の範囲をできる限り広げていく方向性が打ち出されている。この流れに沿って、平成20年度税制改正では、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされたほか、平成22年からは特定口座を活用した簡易な損益通算についても認められることとなった。
 このような状況を踏まえ、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金を含め損益通算を幅広く認める、いわゆる「金融所得課税の一体化」をさらに推進することを要望する。

 また、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、実務面から十分な検討を行い、個人投資家の納税の事務負担や商品を提供する金融機関の事務負担等に十分配慮し、納税者、金融機関が受入可能な実効性のある制度とすることを要望する。さらに、全国銀行の個人預金口数が約8億口あること等に鑑み、その導入に当っては、納税者への周知徹底や金融機関におけるシステム対応等に十分な準備期間を設けることを要望する。

 なお、「貯蓄から投資へ」の流れを一層強く推し進めるとの観点から、一定の要件のもと課税の軽減・免除措置が講じられる場合にも、金融資産に対する課税の簡素化・中立化や、納税者、金融機関の事務負担等に十分配慮した制度設計とし、個人投資家にとって魅力が高まる枠組みとなることが望まれる。

(2)確定拠出年金税制の見直し

  • 確定拠出年金に係る拠出制限を緩和すること。
  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。

 高齢社会における自助努力による老後の生活保障を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割は大きく、平成23年度末に廃止が予定されている適格退職年金制度の受け皿の1つとして、その重要性はますます高まっている。また、確定拠出年金の一層の普及は、より多くの個人に対して投資性商品を選択する機会を提供し、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しすることにもつながるものである。
 こうした確定拠出年金制度の重要性に鑑みれば、わが国においても、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本として、十分な税制上の優遇措置が講じられるべきである。
 平成16年度税制改正では、確定拠出年金の拠出限度額が引き上げられるとともに、公的年金等控除の縮小および老年者控除の廃止がなされる等、拠出時非課税と給付時課税の措置がなされたが、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金給付の縮減可能性等を勘案すれば、引き続き、税制面での制度整備を推進し、確定拠出年金を私的年金制度の中核として発展させる必要がある。
 したがって、拠出限度額のさらなる引上げや、個人型年金の加入対象者の拡大等、確定拠出年金に係る拠出制限を緩和することを要望する。

 あわせて、運用時非課税を実現する観点から、退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃することも要望する。

(3)資産流動化関連税制の拡充

  • SPC等の不動産取得に係る不動産取得税等を非課税とすること。少なくとも、現行の不動産取得税の軽減措置の適用期限(平成21年3月末)を延長すること。
  • SPC等が支払う利益配当について、損金算入が認められる要件を緩和すること。具体的には、機関投資家以外のCMBS(商業用不動産ローン担保証券)の発行体からの借入も認めること。

 資産流動化はリスク分散・管理のために極めて有効な手段であると同時に、一般企業や内外投資家に対して多様な資金調達手段や投資商品の選択肢を提供するものである。こうした観点から、平成10年にSPC法が施行され、さらに平成12年には、運用対象の拡大等を目的に同法および投資信託法の改正が行われた。
 同様に税制面においても、特定目的会社(SPC)と投資法人の両者(以下、「SPC等」という)の不動産取得に係る不動産取得税の軽減措置等が講じられたほか、一定の要件を満たす場合に、SPC等が支払う利益配当について損金算入を可能とする規定の整備が図られた。
 流動化資産の受皿にすぎないSPC等に担税力はなく、課税は直ちにこれらの発行する証券の利回り低下をもたらし、資産の流動化を阻害する。経済活性化の観点から、金銭債権や不動産等の資産流動化促進が求められるなか、こうした資産流動化のツールであるSPC等の税負担は、極力軽減されることが必要である。
 したがって、SPC等の不動産取得に係る不動産取得税等を非課税とすること、少なくとも現行の不動産取得税の軽減措置の適用期限(平成21年3月末)を延長することを要望する。

 また、銀行等の機関投資家にとって、SPC等に対する貸出債権を、CMBSを発行するために設立された他のSPC等に譲渡することは、リスク分散・管理を図るうえで有用と考えられる。しかしながら、現行制度上、SPC等が支払う利益配当の損金算入が認められるためには、その資金借入は銀行等の機関投資家からのものである必要があり、結果として、銀行等の機関投資家は、CMBSを発行するために設立されたSPC等に貸出債権を譲渡することが困難となっている。
 したがって、証券化市場のさらなる発展を通じて、金融システム全体のリスクシェアリング機能を高める観点から、損金算入が認められる要件について、銀行等の機関投資家以外のCMBSの発行体(SPC等)からの借入も認めることを要望する。

(4)非居住者等に対する利子等の非課税措置の拡充

  • 非居住者等が受け取る民間国外債の利子等の非課税措置を恒久化すること。
  • 非居住者等が受け取る振替制度を利用した社債の利子について非課税措置を講じること。

 企業活動がグローバル化し、国際的な金融取引が活発化するなか、効率的で多様な資金調達手段を確保することがわが国企業の国際競争力の維持・向上のために重要である。現在、非居住者等が受け取る民間国外債の利子等については、時限的に非課税措置が講じられており、わが国企業の発行する外債の円滑な消化のために非常に大きな役割を果たしている。また、このことは、海外投資家の円建外債への投資を促進することを通じて、円の国際化等にもつながるものである。
 したがって、非居住者等が受け取る民間国外債の利子等の非課税措置を恒久化することを要望する。

 他方、海外投資家によるわが国公社債への投資を円滑化することは、わが国資本市場の活性化や国際化、円の国際化、公社債市場の流動性向上等に資するものであり、こうした観点から、現在、非居住者等が受け取る国債や地方債の利子等について非課税措置が講じられている。
 したがって、わが国資本市場の活性化や国際化等をさらに進める観点から、非居住者等が受け取る国債や地方債の利子等に加えて、振替制度を利用した社債の利子についても非課税措置を講じることを要望する。なお、わが国におけるカストディ銀行の事務負担にも十分配慮した仕組みとすることもあわせて要望する。

(5)租税条約に関する手続の簡素化

  • 租税条約の規定にもとづき利子・配当に対する所得税の軽減・免除を受ける際に提出する「租税条約に関する届出書」の手続を簡素化・合理化すること。

 わが国と諸外国との間の投資交流の促進は、相互の金融・資本市場の活性化に資するものである。こうした観点から、平成16年に発効した日米新租税条約やその後の日英新租税条約、日仏新租税条約等においては、投資所得に対する源泉地国課税の大幅な軽減・免除措置が盛り込まれた。
 一方、これらの新租税条約においては、濫用防止を目的として、税の減免等の特典を受けるための要件が厳格化されており、条約の適用を受けようとする海外投資家は「租税条約に関する届出書」とともに「特典条項に関する付表」および「居住者証明書」を提出することが求められている。さらに、これらの書類は、利子・配当を受け取る都度、その保有する銘柄ごとに提出する必要があり、このことは事務代行を行っているわが国のカストディ銀行にとって、重い負担となっている。
 会社法の制定後、四半期配当の実施等により企業の配当回数が増加しているほか、日米新租税条約をモデルとした諸外国との租税条約の見直し等も見込まれるため、今後は事務負担がさらに増大すると予想される。こうした事務負担の増大は、将来的に、海外からの資金流入を通じたわが国金融・資本市場の発展の阻害要因となる可能性もある。
 こうしたなか、平成20年度税制改正では、平成22年1月以降に支払われる上場株式等の配当について、カストディ銀行が源泉徴収義務者となることにより手続の簡素化・合理化が図られた。しかしながら、それに先立つ平成21年3月末に海外投資家が受け取る配当の軽減税率の適用期限が到来すると、租税条約の特典を受けるため海外投資家からの軽減税率適用申請が急増し、一時的にせよ、カストディ銀行の事務負担が極めて大きくなることが想定される。
 したがって、租税条約の規定にもとづき利子・配当に対する所得税の軽減・免除を受ける際に提出する「租税条約に関する届出書」の手続を簡素化・合理化することを要望する。

(6)新たな形態の取引に係る税制の整備

  • イスラム金融について、取引の実質を踏まえた税制上の措置を講じること。
  • 排出権取引に係る税制上の取扱いを明確化すること。

 イスラム金融とは、イスラム法に則した金融取引を総称するものであり、金利の概念が用いられず商品売買やリース等の形式が用いられること、教義に反する事業に関連する取引が認められないこと、等の特徴がある。近年、中東諸国の潤沢なオイルマネーを背景にイスラム金融は急速にその規模を拡大しており、イスラム教国だけでなく非イスラム教国でも自国市場におけるイスラム金融の育成に積極的に取り組む例が増えている。特に、英国やシンガポール、香港等においては、印紙税等の二重課税の排除や、利子相当分を利子とみなす等の税制上の措置を通じて、イスラム金融の促進が図られている。
 世界的にイスラム金融の存在感が高まるなか、潤沢なオイルマネーを呼び込むとともに、多様な資金調達手段を提供することは、非常に意義深いものである。こうした状況下、わが国においては、本年中にも銀行の子会社にイスラム金融が解禁される見通しである一方、税制面では一般の金融取引とのイコール・フッティングを図るための措置が十分講じられているとは言い難い。
 したがって、わが国金融・資本市場の競争力強化等の観点から、イスラム金融について、取引の実質を踏まえた税制上の措置を講じることを要望する。

 他方、排出権取引は、平成17年に発効した京都議定書において、先進国による温室効果ガスの削減をより柔軟に行うために導入された仕組みの1つである。京都議定書の第1約束期間(平成20年~24年)が始まるなか、昨年11月に排出権の取引インフラである国際取引ログが稼働を開始したほか、本年6月に排出権の取得・譲渡等が銀行の取扱可能な業務として位置付けられるなど、近時、その取引環境が急速に整備されつつある。また、京都議定書の規定とは別に、国内排出権取引についての試行・検討も進められている。
 排出権取引をめぐっては、会計上の取扱いについて企業会計基準委員会から実務対応報告が公表されている一方で、税制上の取扱いについては印紙税法上の取扱いを除き、明確化されていない。
 このような状況を踏まえ、排出権を償却する場合の損金算入の可否等、排出権取引に係る税制上の取扱いを明確化することを要望する。

2.経済の活性化と課税の適正化のために

 サブプライム問題に起因する信用不安や資源価格の高騰を背景に、世界経済は調整局面が続いており、わが国経済も、内需の低迷と輸出の減速により停滞感が強まっている。このような経済情勢にあっては、民間部門の投資・消費需要を喚起することが極めて重要な課題となっており、特に、経済活性化の効果が大きい住宅投資の拡大策として、住宅取得の促進に資する税制措置を拡充すること等への期待は大きい。
 また、平成21年から実施される株券等の電子化に対応して、現在認められていない担保株式の特定口座への再受入を可能とすることは、顧客の利便性向上に資するものである。
 さらに、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税や登録免許税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している面が否定できないため、その軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

(1)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 現行の住宅借入金等の所得税額の特別控除制度を恒久化すること。少なくともその適用期限(平成20年12月末)を延長すること。あるいは、これに代わる新たな税制上の措置を講じること。

 住宅は、国民の経済活動や社会生活の基盤となる重要な資産であり、良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が、国民に与えられることが重要である。こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法においては、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定されている。
 また、現下のわが国経済は、サブプライム問題や資源価格の高騰の影響もあって停滞感が強まっており、住宅投資が拡大することへの期待は経済活性化の観点からも非常に大きい。
 一方、持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、景気浮揚にも資するとの観点から措置された現行の住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成17年以降毎年段階的に縮小され、本年12月末をもって廃止されることとされている。
 したがって、現行の住宅借入金等の所得税額の特別控除制度を恒久化すること、少なくとも、その適用期限(平成20年12月末)を延長することを要望する。あるいは、現行制度に代わる税制上の措置として、住生活の安定の確保および向上の促進に資する新たな税制上の措置を講じることを要望する。

(2)株券等の電子化に伴う特定口座制度の整備

  • 株券等の電子化に伴い、顧客が担保として銀行に差し入れる特定口座内の上場株式等について、特定口座への再受入を可能とすること。

 現行の実務において、顧客が金融機関から融資を受ける際に、上場株式等が担保として利用される場合には、現物株券等を金融機関に差し入れる方式が広く用いられている。
 しかしながら、平成21年1月に予定されている株券等の電子化後は、上場株式の現物株券等は無効となり、株券等の発行は行われなくなるため、上場株式等を担保として金融機関に差し入れるためには、代わりに、証券口座を通じた担保設定を行うことが必要となる。特定口座内の上場株式等を担保として利用することも可能であるが、その場合には、担保が解除されて当該上場株式等が返戻されたとしても、法令の規定により、取引証券会社等が元の特定口座で受け入れることは認められない。
 このように担保に供した上場株式等の再受入が認められず、顧客が特定口座利用のメリットを享受できない場合、特定口座の利便性が著しく損なわれることとなる。また、特定口座の利用が広がるなか、上場株式等の担保利用に対する阻害要因となる懸念もある。
 したがって、顧客が担保として銀行に差し入れる特定口座内の上場株式等(異なる口座管理機関の間で振替が行われた場合を含む)について、特定口座(担保設定の際の振替元口座以外の特定口座を含む)への再受入を可能とすることを要望する。

(3)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう、軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

(4)登録免許税の軽減・簡素化

  • 登録免許税の税率をその手数料的な性格から、低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。

 現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず負担が極めて重く、わが国経済の構造改革のために必要な企業の組織再編成や、資産流動化等の経済取引に影響し、その活性化を阻害している面がある。
 登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、大幅に軽減・簡素化することを要望する。

3.適切な経営環境を確保するために

 わが国企業が、バブル崩壊後の厳しい調整過程を経て雇用・設備・債務の過剰を解消し、財務体質のさらなる強化に向けた取組みを進めるなか、不良債権問題から脱却したわが国金融機関においても、企業価値の持続的な向上に向けた成長戦略が着実に実践されてきている。
 一方、近時、企業や金融機関を取り巻く環境は急速に変化しており、適切な経営環境を確保するためには、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進めることが一段と重要になっている。なかでも、貸倒れに係る無税償却・引当基準等や外国税額控除制度等の国際税制について適切な見直しを図ることは極めて意義深いものであり、同様に、会計基準の国際的な収れん(コンバージェンス)に対応した税制の見直し等も求められる。
 また、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進する観点から、公益法人関係税制における適切な措置を引き続き講じることも必要である。

(1)貸倒れに係る無税償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰戻還付制度等の拡充

  • 貸倒れに係る無税償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間(現行1年間)の延長等を図ること。

 わが国金融界は長年の懸案であった不良債権問題から脱却したものの、その過程においては、貸倒れに係る企業会計と税務上の取扱いの差異や税務上の繰越欠損金などによって、多額の繰延税金資産が発生し、その資産としての脆弱性が問題視されるという状況が生じた。
 今後、わが国経済の持続的成長に資する金融システムを構築するうえでは、不良債権問題の再発防止の観点からも繰延税金資産の発生・増加につながる課題はあらかじめ解決しておく必要がある。そのためには、金融機関が実施している自己査定等にもとづく無税償却・引当を幅広く認めるなど、貸倒れに係る企業会計と税務上の取扱いの差異はできる限り縮小させていくことが望ましい。少なくとも、貸倒れに係る無税償却・引当の範囲や実務上の取扱い等について、債権棄損の実情に応じたものとする観点から見直すことが重要である。
 このような状況を踏まえ、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げるなど、貸倒れに係る無税償却・引当の範囲を拡大することを要望する。

 一方、法人税における欠損金の繰戻還付・繰越控除制度は、事業年度ごとの課税負担を平準化し、経営の中長期的な安定性を確保するうえで重要な制度である。しかしながら、繰戻還付制度については、繰戻期間が1年に限定されているうえ平成4年度以降凍結されており、十分な措置が講じられているとは言いがたい。繰越控除制度についても、その期間が7年とされ、欧米主要国との比較において、明らかに見劣りする。
 したがって、平成22年3月末に期限が到来する欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間(現行1年間)を少なくとも2年に延長すること、なお、この場合、合併法人の欠損金を被合併法人にも繰り戻して還付できるようにすること、等を要望する。

(2)外国税額控除制度等の見直し

  • 外国税額控除制度等の国際税制について、適正な二重課税排除、制度の簡素化、国際競争力の強化、経済の活性化等の観点から、適切な見直しを図ること。

 外国税額控除制度は、海外拠点の新設、統廃合、企業買収・売却等が積極的に行われるなか、国際的な二重課税を排除する制度として重要な役割を果たしており、わが国企業の国際的な業務展開を支えている。
 しかしながら、わが国金融機関において、過去に海外子会社の売却等に伴う売却益が発生したものの、現行の外国税額控除制度において繰越控除限度額(余裕額)や繰越控除対象外国法人税額(限度超過額)の対象期間が3年とされていること等の理由から、部分的に国際的な二重課税が発生したケースがある。
 他方、組織再編成の一環として、海外において従来の事業持株会社の上位にさらに統括持株会社を設立し、その結果、事業持株会社傘下で実際に事業を行う会社が、従来の孫会社から曾孫会社になる事例も発生している。この場合、曾孫会社は間接外国税額控除の対象とならないことから、国際的な二重課税を回避できないという問題もある。
 こうした問題を解決するためには、外国税額控除の繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の対象期間を少なくとも5年に延長するとともに、間接外国税額控除の対象を曾孫会社以下まで拡大することが必要である。
 また、近時、わが国と同様に外国税額控除方式を採用している米国や英国において、当該方式から国外所得免除方式への移行についての検討がなされている。仮に、わが国においても、企業の海外利益の国内還流を促して投資を活性化する等の観点から、こうした国際税制の抜本的な見直しが行われる場合には、財務・金融拠点の海外流出を助長するとの懸念にも配慮しつつ、国外配当所得等の大宗を益金不算入とする方向で検討がなされることが望まれる。その際には、優先株式に係る受取配当の取扱いについても見直しが図られるべきである。
 このような状況を踏まえ、外国税額控除制度等の国際税制について、適正な二重課税排除、制度の簡素化、国際競争力の強化、経済の活性化等の観点から、適切な見直しを図ることを要望する。

(3)公益法人関係税制の整備

  • 現行の公益法人等が新制度に円滑に対応できるようにする等の観点から、固定資産税等について適切な措置を講じること。

 全銀協ならびに地方に所在する銀行協会は、経済活動を支える手形交換制度や各種決済制度の企画・運営、一般消費者を対象とする相談業務、銀行図書館の運営など、わが国経済の発展と国民生活の安定向上に資する非営利事業を営んでおり、その大多数は民法第34条にもとづく社団法人・財団法人(以下、「民法第34条法人」という)となっている。
 平成20年度税制改正では、本年12月に施行される公益法人制度改革関連法に対応するため、公益法人関係税制が整備され、同法に定める公益社団法人・公益財団法人や、一般社団法人・一般財団法人のうち共益的活動を目的とする法人等について、収益事業課税を適用する等の措置が講じられた。このなかで、固定資産税等に関しては、公益社団法人・公益財団法人の施設について、現行の民法第34条法人と同様の非課税措置が講じられるとともに、一般社団法人・一般財団法人に移行した法人の既存の施設(図書館、博物館等)についての非課税措置が平成25年度まで継続することとされた。
 公益法人制度改革の目的は、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し民による公益の増進に寄与すること等であり、公益的な性格からこれまで非課税措置が講じられてきた施設の性格に、本来、何らの影響を及ぼすべきものではない。
 したがって、民法第34条法人が一般社団法人・一般財団法人に移行する場合の、これらの施設に対する平成26年度分以降の固定資産税等についても非課税とする等、現行の公益法人等が新制度に円滑に対応できるようにする等の観点から、適切な措置を講じることを要望する。