2010年6月22日

全国銀行協会

平成23年度税制改正に関する要望

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために
(1)金融所得課税の一体化の推進等
(2)確定拠出年金税制の見直し
(3)資産流動化関連税制の拡充
(4)国際的な金融取引の円滑化
2.経済の活性化と課税の適正化のために
(1)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(2)教育資金形成支援制度の整備
(3)印紙税の軽減・簡素化
(4)登録免許税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(2)国際課税の見直し
(3)企業グループに関連する税制の見直し
(4)公益法人関係税制の整備

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために

 経済活動のグローバル化や少子高齢化が進展するなか、わが国経済が今後も持続的に成長するためには、金融・資本市場の競争力を強化し、その魅力を向上させていくことが大切である。そのためには、1,450兆円を超える家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供することが重要であり、金融所得課税の一体化の推進や確定拠出年金税制の見直し等を通じて、個人投資家にとって利便性の高い効率的な金融・資本市場の構築を後押ししていくことが必要である。
 また、金融機関がこれまで以上に多様で質の高いサービスを提供し、わが国金融・資本市場を支えていくために、イスラム金融取引に係る税制の整備や、特にアジア地域での円投資促進のため、同地域を中心に新租税条約の締結国を拡大し、貸付金利息に対する源泉税を免除すること等を通じて、グローバルな金融取引を促進していくことが重要である。
 さらに、国際的な市場間競争が一層激化するなか、わが国金融・資本市場が内外の利用者の多様なニーズに応えていく観点から、民間国外債やデリバティブ等の国際的な金融取引の円滑化に資する税制を整備していくことが求められる。

(1)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化を推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が対応可能な、実効性の高い制度とすること。
  • 少額の上場株式等投資のための非課税措置(日本版ISA)について、個人投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素なものとすること。

 少子高齢化の進展から貯蓄率が顕著な低下傾向を示すわが国では、個人金融資産の効率的な活用が経済活力を維持するための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当って中立的であることが求められる。
 政府税制調査会は平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出した。この流れに沿って、平成20年度税制改正では、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされ、平成21年に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」の附則において「金融所得課税の一体化を更に推進すること」が盛り込まれた。さらに、「平成22年度税制改正大綱」には、「金融商品間の損益通算の範囲の拡充に向け、平成23年度改正において、公社債の利子及び譲渡所得に対する課税方式を申告分離課税とする方向で見直す」と明記された。
 このような状況を踏まえ、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認める、いわゆる「金融所得課税の一体化」をさらに推進していくことを要望する。

 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、預金等をはじめとする各金融商品の特性を考慮し対象範囲を順次拡大することも想定されることから、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な、実効性の高い制度とすることを要望する。

 また、平成22年度税制改正では、上場株式等の配当所得および譲渡所得等に係る軽減税率の廃止による本則税率の実現にあわせ、少額の上場株式等投資のための非課税措置(日本版ISA)が、平成24年から3年間の時限付きで法制上措置された。引き続き、投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素なものとすることを要望する。
 なお、本制度を長期的な視野に立った個人の幅広い金融資産形成に資するものとするため、将来的には、非課税措置の延長や拡充の検討が望まれる。

(2)確定拠出年金税制の見直し

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金の対象者を拡充すること。

 高齢化社会における自助努力による老後の生活保障を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割は大きく、平成23年度末に廃止が予定されている適格退職年金制度の受け皿の1つとして、その重要性はますます高まっている。また、確定拠出年金の一層の普及は、より多くの個人に対して投資性商品を選択する機会を提供し、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しすることにもつながるものである。
 こうした確定拠出年金制度の重要性に鑑みれば、わが国においても、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本として、税制上の十分な優遇措置が講じられるべきである。
 平成16年度税制改正では、確定拠出年金の拠出限度額が引き上げられるとともに、公的年金等控除の縮小および老年者控除の廃止等、拠出時非課税と給付時課税の措置がなされた。老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、引き続き、税制面での整備を推進し、確定拠出年金を私的年金制度の中核として発展させる必要がある。
 したがって、運用時非課税を実現し、国際的に見劣りのない制度とする観点から、退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃することを要望する。
 また、個人型確定拠出年金の加入対象者を確定給付型の企業年金のみを実施し企業型確定拠出年金は実施していない企業の従業員まで拡大すること等、確定拠出年金の対象者を拡充することをあわせて要望する。

(3)資産流動化関連税制の拡充

  • SPC等の不動産取得に係る不動産取得税等を非課税とすること。少なくとも、現行の不動産取得税の軽減措置の適用期限(平成23年3月末)を延長すること。
  • SPC等を通じた資産流動化における質権・抵当権の設定に係る登録免許税の特例措置を恒久化すること。少なくとも適用期限(平成23年3月末)を延長すること。

 資産流動化はリスク分散・管理のために極めて有効な手段であると同時に、一般企業や内外投資家に対して多様な資金調達手段や投資商品の選択肢を提供するものである。こうした観点から、平成10年にSPC法が施行され、さらに平成12年には、運用対象の拡大等を目的に同法および投資信託法の改正が行われた。
 同様に税制面においても、特定目的会社(SPC)と投資法人の両者(以下、「SPC等」という)の不動産取得に係る不動産取得税、およびSPC等を通じた資産流動化における質権・抵当権等の移転に係る登録免許税軽減等の特例措置が講じられた。
 流動化資産の受皿にすぎないSPC等に担税力はなく、課税は直ちにこれらが発行する証券の利回り低下をもたらし、資産の流動化を阻害する。経済活性化の観点から、金銭債権や不動産等の資産流動化促進が求められるなか、こうした資産流動化のツールであるSPC等の税負担は、極力軽減されることが必要である。
 したがって、SPC等の不動産取得に係る不動産取得税等を非課税とすること、少なくとも現行の軽減措置の適用期限(平成23年3月末)を延長することを要望する。
 また、SPC等を通じた資産流動化における質権・抵当権の設定に係る登録免許税の特例措置を恒久化すること、少なくとも適用期限(平成23年3月末)を延長することを要望する。

(4)国際的な金融取引の円滑化

  • イスラム金融について、取引の実質を踏まえた税制上の措置を講じること。
  • 金融機関等が行うデリバティブ取引に係る付随契約(CSA:Credit Support Annex)にもとづき授受する現金担保から生じる支払現金について、源泉徴収を免除すること。
  • 非居住者等が受け取る民間国外債の利子等について、非課税の対象外とされる特殊関係者の範囲を一部緩和すること。

 イスラム金融とは、イスラム法に則した金融取引を総称するものであり、金利の概念が用いられず商品売買やリース等の形式が用いられること、教義に反する事業に関連する取引が認められないこと、等の特徴がある。近年、中東諸国の潤沢なオイルマネーを背景にイスラム金融の規模は拡大傾向にあり、非イスラム教国においても自国市場におけるイスラム金融の育成に積極的に取り組む例がみられる。特に、英国やシンガポール、香港等においては、配当等(利子相当分)を利子とみなすことや、印紙税等の二重課税の排除等の税制上の措置を通じて、イスラム金融の促進が図られている。
 世界的にイスラム金融の存在感が高まるなか、潤沢なオイルマネーを呼び込むとともに、一般企業に対して多様な資金調達手段を提供することは、非常に意義深いものである。こうした状況下、わが国においても、銀行の子会社にイスラム金融が解禁されたものの、税制面では一般の金融取引とのイコール・フッティングを図るための措置が十分講じられているとは言い難い。
 そこで、わが国金融・資本市場の競争力強化等の観点から、例えばイスラム債(スクーク)における収益分配金を利子として取り扱うなど、取引の実質を踏まえた税制上の措置を講じることを要望する。

 また、金融機関等はデリバティブ取引を行うに当り、一般的に国際スワップ・デリバティブス協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定める付随契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保としている。
 現在、現金を担保として授受している場合、担保提供者(ISDAマスター契約の対象取引は本店・支店が混在するが、通常、担保提供者となるCSAは本店のみ)に対し、受入れ期間に応じて現金を支払うが、これについて源泉徴収が行われている。しかし、わが国金融機関が信用リスク削減等のためにデリバティブ取引を円滑に行うことを可能とし、ひいては金融・資本市場の類似取引(例えば、レポ取引のように有価証券取引に関連した現金授受)との整合性の観点から、源泉所得税を課さない扱いとすることが必要である。
 したがって、金融機関等が行うデリバティブ取引に係るマスター契約およびCSAにもとづき授受する現金担保から生じる支払現金について、源泉徴収を免除することを要望する。

 平成22年度税制改正では、非居住者等が受け取る民間国外債の利子等の非課税措置が恒久化される一方で、特殊関係者が新たに定義され、非課税措置の対象外とされた。わが国金融機関は、自己資本比率の維持・向上のために海外子会社も関わるスキームを用いて資本調達を行っているため、上記の改正によって影響が生じている。
 また、民間国外債の発行者である銀行持株会社等が証券業務を営む海外現地法人等を有する場合、当該海外現地法人等が当該債券の売買注文の相手方となり、一時的に保有するケースについても課税されることとなり、円滑な業務運営に影響を及ぼす懸念がある。
 したがって、例えば証券業務を営む海外現地法人を除外する等、特殊関係者の範囲を一部緩和することを要望する。

2.経済の活性化と課税の適正化のために

 わが国経済は緩やかな回復局面にあるものの、自立的回復力は弱く、景気の下振れリスクは依然として大きい。このような経済情勢にあっては、民間部門の投資・消費需要を喚起していくことは引き続き重要課題であり、住宅投資拡大策として住宅取得の促進に資する税制措置を拡充すること等は有用である。さらに、少子・高齢化が急速に進むわが国において、可処分所得が低迷し、高等教育費の負担感が高まるなかで、将来にわたり活力ある経済・社会を維持する観点から、家計の長期的な教育資金形成を税制面から支援していくことも有用である。
 また、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税や登録免許税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している可能性がある。そこで、これら流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

(1)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を図ること。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が、国民に与えられることが重要である。
 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法においては、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充された。
 しかしながら、わが国経済においては、住宅投資が拡大することに対する期待は依然として大きいところである。
 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化を図ることを要望する。
 なお、民間金融機関のローンに関して、住宅金融支援機構の「【フラット35】S 」の金利優遇と同等の税額控除制度を措置することをあわせて要望する。

(2)教育資金形成支援制度の整備

  • 教育資金形成を目的とした一定額の金融商品の取得・保有に対する優遇制度を措置すること。

 わが国では少子化傾向に歯止めがかからず、総人口は平成17年には減少に転じている。このような状況下、将来にわたって様々な分野において厚みのある人材層を形成し、活力ある社会・経済を維持するための施策が不可欠であることから、子ども手当の支給や公立高校の実質無償化が実施され、高等教育における奨学金制度の充実等を進めることとされている。
 子育て世代に対するさらなる支援を図り、家計による長期的な教育資金形成を支援・促進するため、教育資金形成目的で取得・保有する一定額の金融商品の利子等に対し、税制上の優遇措置を講じることを要望する。

(3)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう、軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

(4)登録免許税の軽減・簡素化

  • 手数料的な性格であることを踏まえ、担保権の信託における抵当権等の信託登記をはじめ、登録免許税の税率を低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。

 現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず負担が極めて重い。このため、わが国企業の競争力強化に必要な組織再編成や、資産流動化、担保権の信託を利用するシンジケート・ローン取引等の経済取引に影響し、経済の活性化を阻害している面がある。
 登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、大幅に軽減・簡素化することを要望する。

3.適切な経営環境を確保するために

 世界経済が調整局面からの改善を続けるなか、企業や金融機関を取り巻く環境は急速に変化しており、適切な経営環境を確保するためには、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進めることが一段と重要になっている。
 なかでも、貸倒れに係る税務上の償却・引当基準等や外国子会社合算税制等の国際税制について適切な見直しを図ることは、金融機関の自己資本の強化等の観点からも極めて意義深いものである。また、同様に、会計基準の国際的な収れん(コンバージェンス)、さらには、国際会計基準の強制適用も今後見込まれるなか、税制と会計の今後のあり方について整理を行う必要もあると考える。
 また、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進する観点から、公益法人関係税制における適切な措置を引き続き講じることも必要である。

(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越期間(現行7年間)の延長、繰戻還付制度の凍結措置を解除し繰戻期間(現行1年間)の延長を図ること。

 わが国金融界は長年の懸案であった不良債権問題から脱却したものの、その過程においては、貸倒れに係る財務上と税務上の取扱いの差異や繰越欠損金などによって、多額の繰延税金資産が発生し、その資産としての脆弱性が問題視されるという状況が生じた。
 世界経済が調整局面から改善を続けるなか、わが国経済の持続的回復・成長に資する金融システムを構築するうえで、不良債権問題の再発防止や自己資本の強化等の観点から繰延税金資産の発生・解消にかかわる課題はあらかじめ解決しておく必要がある。そのためには、金融機関が実施している自己査定等にもとづく財務上の償却・引当を税務上も幅広く認めるなど、貸倒れに係る企業会計と税務上の取扱いの差異はできる限り縮小させていくことが望ましい。少なくとも、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲や実務上の取扱い等について、債権毀損の実情に応じたものとする観点から見直すことが重要である。
 このような状況を踏まえ、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げるなど、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。

 また、法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担を平準化し、経営の中長期的な安定性を確保するうえで重要な制度である。特に、景気後退期における不良債権の規模は大きく、その処理に伴い発生する欠損金の控除について十分な繰越期間を設ける必要がある。しかしながら、繰越控除制度については、その期間が7年とされ、欧米主要国との比較において、明らかに見劣りする。また、繰戻還付制度については、平成21年度改正において凍結が一部解除されたものの、対象が中小企業等に限定されているほか、繰戻期間が1年とされていることから、十分な措置が講じられているとは言い難い。
 したがって、欠損金の繰越期間(現行7年間)を少なくとも10年に延長し、繰戻還付制度の凍結措置を解除し繰戻期間(現行1年間)を少なくとも2年に延長すること、なお、この場合、既存の繰越欠損金についても繰越期間延長の対象とするとともに、合併法人の欠損金を被合併法人にも繰り戻して還付できるようにすること、をあわせて要望する。

(2)国際課税の見直し

  • 外国税額控除制度における繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間(現行3年間)を延長し、外国子会社合算税制における出資比率変動等に係る二重課税の排除について適切な見直しを図ること。

 外国税額控除制度は、わが国企業の海外展開を支え、国際的な二重課税を排除する制度として重要な役割を果たしている。
 しかしながら、わが国金融機関において、過去に海外子会社の売却等に伴う売却益が発生したものの、現行の外国税額控除制度において繰越控除限度額(余裕額)や繰越控除対象外国法人税額(限度超過額)の対象期間が3年とされていること等の理由から、部分的に国際的な二重課税が発生したケースがある。
 したがって、こうした問題を解決するため、外国税額控除制度における繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間(現行3年間)を少なくとも7年に延長することを要望する。

 また、外国子会社合算税制は、租税負担割合の低い国に所在する子会社等を通じてわが国企業が取引を行うことによって、税負担を不当に軽減・回避する行為に対処することを目的として創設された制度である。平成22年度税制改正において、外国子会社合算税制について二重課税を排除するため改正がなされたが、対象となる特定外国子会社等の株式等の売買・償還等が行われ出資比率等が変動した場合など一部のケースで引き続き二重課税が生じている。
 わが国金融機関には、特定外国子会社等が関わるスキームで資本調達を行っているケースがあり、国際的に自己資本規制強化等に係る議論が進められているなか、多様な資本調達手法を確保しておく観点からも、こうした二重課税の排除が望まれる。
 したがって、外国子会社合算税制における出資比率変動等に係る二重課税の排除について適切な見直しを図ることを要望する。

(3)企業グループに関連する税制の見直し

  • 完全支配関係にある子会社を清算した場合、親会社において清算損益を認識できるようにすること。

 企業グループを対象とした法制度や会計制度が定着しつつあるなか、法人の組織形態の多様化に対応し、課税の中立性や公平性等を確保する観点から、平成22年度税制改正において、グループ内取引等に係る税制が整備された。
 その際、完全支配関係にある子会社の清算に係る損益が認識されなくなる一方で、清算時に当該子会社が有する繰越欠損金を親会社が引き継ぐことができるとされた。
 しかし、繰越欠損金には繰越期限があるため、完全支配関係にある子会社に期限切れとなった繰越欠損金がある場合には、当該子会社を清算した際、期限切れの繰越欠損金に相当する損失を認識する機会が失われることとなる。
 したがって、完全支配関係にある子会社の清算に当っては、繰越欠損金の引継ぎもしくは清算損失の認識のいずれか選択可能とすることを要望する。

(4)公益法人関係税制の整備

  • 現行の公益法人等が新制度に円滑に対応できるようにする等の観点から、固定資産税等について適切な措置を講じること。

 全銀協ならびに地方に所在する銀行協会は、経済活動を支える手形交換制度や各種決済制度の企画・運営、一般消費者を対象とする相談業務、銀行図書館の運営など、わが国経済の発展と国民生活の安定向上に資する非営利事業を営んでおり、その大多数は旧民法第34条にもとづく社団法人・財団法人であり、現在、特例民法法人となっている。
 平成20年度税制改正では、公益法人制度改革関連法(平成20年12月施行)に対応するため、公益法人関係税制が整備され、同法に定める公益社団法人・公益財団法人や、一般社団法人・一般財団法人のうち共益的活動を目的とする法人等について、収益事業課税を適用する等の措置が講じられた。このなかで、固定資産税等に関しては、公益社団法人・公益財団法人の施設について、旧民法第34条にもとづく社団法人・財団法人と同様の非課税措置が講じられるとともに、一般社団法人・一般財団法人に移行した法人の既存の施設(図書館、博物館等)についての非課税措置が平成25年度まで継続するとされ、「平成22年度税制改正大綱」において、平成22年度に結論が得られるよう必要な検討を行うとされている。
 公益法人制度改革の目的は、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し民による公益の増進に寄与すること等であり、公益的な性格からこれまで非課税措置が講じられてきた施設の性格に、本来、何らの影響を及ぼすべきものではない。
 したがって、特例民法法人が一般社団法人・一般財団法人に移行する場合の、これらの施設に対する平成26年度分以降の固定資産税等についても非課税とする等、現行の公益法人等が新制度に円滑に対応できるようにする等の観点から、適切な措置を講じることを要望する。