2015年7月16日

一般社団法人全国銀行協会

平成28年度税制改正に関する要望

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために
(1)NISAの恒久化等
(2)確定拠出年金税制の見直し等
(3)金融所得課税の一体化の推進等
2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために
(1)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し
(2)不動産投資市場のさらなる活性化・拡大に資する税制の見直し
(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(4)印紙税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(2)国際的な金融取引の円滑化等
(3)法人税率引下げに伴う代替財源の検討等

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために

 少子高齢化が進展し、今後、人口減少社会へ本格的に突入するわが国においては、自助努力による中長期的な資産形成を通じて国民が豊かな老後生活を送ることができるようにすることが大切である。

 そのためには、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化や確定拠出年金税制の見直し等を通じて、国民の安定的な資産形成を後押しするための枠組みを整備することが必要である。

 これにより1,700兆円を超える家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供して、「貯蓄から投資へ」の流れを一層確実なものとし、成長企業への資金供給を拡大することで、デフレ脱却に向けて前進しつつあるわが国経済の成長を確固たるものとすることが重要である。

 

(1)NISAの恒久化等

  • 少額投資非課税制度(NISA)および未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)について、制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)および非課税期間の恒久化を行うこと。少なくとも投資可能期間および非課税期間を延長すること。
  • マイナンバーの活用による口座開設手続等の簡素化を図ること。

 平成26年1月から開始した少額投資非課税制度(NISA)は、「貯蓄から投資へ」の流れの促進に向けて順調な滑り出しを見せており、平成27年3月末時点の口座数は約879万口座に上っている。また、平成27年度税制改正において、年間投資上限額が120万円に引き上げられたほか、若年層への投資のすそ野の拡大等を図るため、未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)を創設して0歳から19歳の未成年者の口座開設が可能となった。

 このようななか、今後、これらを一層普及・定着させ、幅広い家計に国内外の資産への長期・分散投資の機会を提供し、国民の自助努力による資産形成を支援する観点から、平成35年までの10年間の時限措置とされているNISAおよびジュニアNISAについて、制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)および非課税期間(最長5年間)の恒久化を行うこと、少なくとも投資可能期間および非課税期間を延長することを要望する。

 加えて、平成27年10月から国民に通知されることとなっているマイナンバーを活用し、口座開設手続における住民票提出等手続の省略や、勘定設定期間終了後に同一金融機関での利用を継続する場合の手続の簡素化等、個人投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素な制度とすることを要望する。

 

(2)確定拠出年金税制の見直し等

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金に係る拠出限度額の撤廃、少なくとも引上げを行うこと。
  • マッチング拠出制度における従業員拠出額の要件を見直すこと。
  • 確定拠出年金の脱退一時金の支給要件を緩和すること。
  • 個人型確定拠出年金について、第3号被保険者による個人型確定拠出年金掛金への税制優遇措置を設けること。

 わが国において少子高齢化が進展するなか、自助努力による老後生活の維持向上を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割の重要性が高まっており、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本とする十分な税制上の措置を講じる必要がある。したがって、運用時非課税を実現し、国際的に見劣りしない制度とする観点から、平成29年3月までの時限措置として課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃することを要望する。

 確定拠出年金に係る拠出限度額については、平成21年度と平成26年度の税制改正で引上げが行われているが、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、税制面の整備を一層推進する必要があり、拠出限度額の撤廃、少なくともさらなる引上げを要望する。

 また、平成24年1月から開始された企業型確定拠出年金のマッチング拠出の限度額要件のうち、従業員拠出額を事業主拠出額の範囲内とする要件を緩和すること、追徴課税等のペナルティを課した脱退一時金の支給制度を創設するなど、脱退一時金の支給要件のさらなる緩和を行うことを要望する。

 さらに、第189回国会に上程されている「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」においては、個人型確定拠出年金の加入対象者を拡大し、企業年金加入者、公務員等共済加入者、第3号被保険者を新たに追加することとしている。個人型確定拠出年金の掛金は全額が所得控除の対象となるところ、課税所得のない第3号被保険者はそのメリットを享受できないことから、第3号被保険者の掛金を配偶者の課税所得から控除する等、税制上の優遇措置を設けることを要望する。

 

(3)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化をより一層推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすること。

 わが国においては、個人金融資産の有効な活用が経済活性化のための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当たって中立的であることが求められる。

 政府税制調査会は、平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出した。この流れに沿って、平成20年度税制改正においては、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされ、さらに平成22年度税制改正においては、「金融所得課税の一体化を更に推進する」とされた。また、平成25年度税制改正においては、平成28年1月以降、公社債等に対する課税方式を上場株式等と同様、申告分離課税に変更したうえで、損益通算できる範囲を、公社債等にまで拡大することとされ、金融所得課税の一体化に向けた制度整備が進展している。

 このようななか、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めることで、一体化のさらなる推進を要望する。

 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、その対象範囲が順次拡大されることを念頭に、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関のシステム開発等に必要な準備期間を設ける等、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすることを要望する。

 

2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために

 わが国経済は、政府・日本銀行による大胆な財政・金融政策に加えて、成長戦略の遂行もあり、企業収益の向上、賃金上昇が消費の拡大とさらなる投資を生むという循環が動き始めているところである。

 こうした経済の好循環を持続させるには、民間企業の活力を引き出し、日本経済の生産性を向上させることが不可欠であり、インフラや不動産に対する投資に係る税制措置の拡充や、住宅投資拡大策としての住宅取得促進に資する税制措置の拡充等は、民間部門の投資・消費需要を喚起していくために有用である。

 また、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している側面がある。そこで、流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

 

(1)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し

  • 投資法人に係る課税の特例および特定投資信託に係る受託法人の課税の特例を拡充すること。

 平成26年度税制改正において、投資法人に係る課税の特例および特定投資信託に係る受託法人の課税の特例について、対象となる投資法人および投資信託の要件に「再生可能エネルギー発電設備及び公共施設等運営権以外の特定資産の割合が50%を超えること」が追加された。ただし、平成29年3月までの間に再生可能エネルギー発電設備を取得して賃貸の用に供した投資法人で(以下「3年要件」という。)、〔1〕公共施設等運営権の割合が50%を超えないこと、〔2〕設立に際して公募により投資口を募集したことまたは投資口が上場されていること、〔3〕再生可能エネルギー発電設備の運用の方法が賃貸のみであることが規約に記載されていること、の要件を満たすものについては、再生可能エネルギー発電設備を最初に賃貸の用に供した日から10年以内に終了する事業年度に限り(以下「10年要件」という。)、上記の追加された要件を満たす必要がないこととされ、再生可能エネルギー発電設備を資産総額の50%を超えて保有することが可能となっている。

 しかしながら、上記の課税特例の適格要件は厳格で案件の組成が難しく、インフラファンド市場拡大の妨げとなると考えられる。再生可能エネルギーの普及促進や、インフラファンド市場の育成を通じた東京市場の国際競争力強化の観点から、投資法人等が再生可能エネルギー発電設備を資産総額の50%を超えて保有する場合に付されている上記の3年要件および10年要件を撤廃すること、少なくとも両期間を延長することを要望する。

 また、わが国の厳しい財政状況のもと、真に必要な社会資本の整備・維持更新に民間資金の流入を促す観点から、投資法人等を通じた公共施設等運営権への投資促進に向けた見直しを行うなど、課税の特例を拡充することを併せて要望する。

 

(2)不動産投資市場のさらなる活性化・拡大に資する税制の見直し

  • 投資法人の導管性要件について、「借入先要件」を緩和し、機関投資家以外の先を追加すること。

 不動産投資市場を牽引するJ-REIT市場は、さらなる成長が期待されており、投資法人には継続的な借入ニーズが存在する。一方で、貸出を行う金融機関は限定されており、将来、金融機関の貸出余力が限界に到達し、J-REIT市場の成長の制約となる可能性も否めない。こうしたなか、株式会社・合同会社を用いて投資法人向けローンを原債権としたCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities:商業不動産担保証券)の組成・発行を行い、機関投資家以外の法人投資家、個人投資家、外国人投資家へ販売することが可能となれば、個人投資家や海外投資家等、幅広い層からの投資資金流入を通じたデット市場の多様化に繋がり、不動産投資市場の発展に寄与するものと考えられる。

 したがって、投資法人の導管性要件について、「借入先要件」を緩和し、機関投資家以外の先を追加することを要望する。

 

(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を行うこと。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、自然災害に強く良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が国民に与えられることが重要である。

 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法においては、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充され、平成25年度および平成27年度税制改正においても、消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を緩和する観点からの措置が行われたが、わが国経済においては、住宅投資が拡大することに対する期待は依然として大きいところである。

 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化、税額控除の拡充を行うことを要望する。

 

(4)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

 

3.適切な経営環境を確保するために

 国内外において経済構造の変化が進行するなか、企業や金融機関を取り巻く環境も急速に変化しており、適切な経営環境を確保するうえで、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進めることが一段と重要になっている。

 貸倒れに係る税務上の償却・引当基準や欠損金の繰越控除制度等について欧米主要国に遜色のないものとし、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、日本企業の投資意欲や競争力を高めるほか、金融機関の自己資本の強化等の観点からも極めて意義深いものである。

 また、外国子会社合算税制の見直しや、OECDで検討されているBEPS(税源浸食と利益移転)行動計画への対応等に当たっては、国際的な金融取引の円滑化等に配意した税制を整備していくことが必要である。

 なお、金融審議会においては、金融グループを巡る制度のあり方について、グループ全体での柔軟な業務展開を可能とする方向で検討が進められており、今後こうした制度面の見直しと整合的なかたちで税制面の整備が進められることが望まれる。

 

(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越控除と繰戻還付制度について、十分な措置を設けること。

 わが国金融界は不良債権問題からすでに脱却しているものの、わが国経済の持続的成長に資する金融システムの維持や、中小企業者等の経営改善、事業再生支援を積極的かつ継続的に進める金融機関の取組みを一層促進する観点から、不良債権税制の拡充が重要である。また、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、企業の投資意欲を高める効果も大きい。

 現在、会計上の引当金基準と税務上の無税基準が大きく乖離している状態にあるが、不良債権問題の再発防止や金融機関の自己資本の強化等の観点からは、金融機関が実施している自己査定等にもとづく会計上の償却・引当を税務上も幅広く認める等、債権毀損の実情に応じたものとすることが重要である。

 具体的には、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げる等、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。

 法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担の平準化を通じ、経営の中長期的な安定性を確保するものであり、わが国企業の投資意欲や競争力を高めるうえで極めて重要な制度である。また、金融機関にとって景気後退期における不良債権の規模は大きく、その処理に伴い発生する欠損金の控除や還付について十分な措置を設ける必要がある。

 

(2)国際的な金融取引の円滑化等

  • 外国子会社合算税制において、
    1. トリガー税率(現行「20%未満」)を引き下げること。
    2. 益金不算入額となる特定課税対象を過去10年分に制限する規定を撤廃すること。
    3. 外国子会社合算税制の適用除外基準のうち「事業基準」において、主たる事業が「航空機の貸付け」である場合は、現地での事業の実体がある場合でも合算課税の対象となるが、これを改めること。また、「資産性所得」から航空機の貸付料を除くこと。

 外国子会社合算税制における、いわゆる「トリガー税率」は、平成27年度税制改正により「20%以下」から「20%未満」へ引き下げられたものの、この水準においてはシンガポールや香港等のアジア主要地域が同制度の対象に含まれることとなる。したがって、国外に進出する企業の事業形態の変化や諸外国における法人税等の負担水準の動向に対応し、わが国企業の国際競争力を維持する観点から、トリガー税率をさらに引き下げることを要望する。

 また、外国子会社合算税制によって合算された所得から配当があった場合、過去10年間に発生した特定課税対象金額の5%については、益金不算入(外国子会社配当益金不算入と併せ、100%の益金不算入)とすることができるが、二重課税を排除する観点から、この期間を廃止する措置が求められる。

 現状、航空機の貸付けを主たる事業としている特定外国子会社は、その事業の実態等に関わらず、外国子会社合算税制の適用除外を受けることができない。しかし、所在地国における事業実体と、所在地国で事業を行う経済合理性がある場合には、あえて航空機の貸付け事業を例外扱いする理由に乏しいことに加え、本規定により、同様の規定のない他国から事業へ投資する者と比して競争上不利な条件におかれることとなる。

 したがって、特定外国子会社等の適用除外要件における事業基準について、特定事業の定義から「航空機の貸付け」を削除すること、これに合わせ、航空機の貸付けを主たる事業とする特定外国子会社等の非関連者基準または所在地国基準の適用については、その国際的な事業活動に照らし、非関連者基準を適用すること、また、「事業(特定の事業を除く)の性質上重要で欠くことのできない業務から生じたもの」である場合に資産性所得課税の対象外とされる所得の範囲について、航空機の貸付けによる所得をその対象に含めることを要望する。

 

  • 店頭デリバティブ取引に係る証拠金の利子の非課税制度の対象となる取引の範囲を拡大すること。

 金融機関等は、デリバティブ取引を行うに当たり、その時価変動に伴うカウンターパーティの信用リスク削減手段として、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定めるISDAマスター契約およびその付随契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保として授受することが一般化している。

 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)および証券監督者国際機構(IOSCO)は、G20ピッツバーグ・サミットでの合意にもとづき、平成25年9月に中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制に関する報告書を公表し、わが国においても、平成26年7月に関係する内閣府令等の案が公表された。本規制においては、中央清算されないデリバティブ取引について、金融機関およびシステム上重要な非金融機関との担保契約の締結、担保授受が義務化されることとされており、国際合意である平成28年9月からの実施に向けて、本邦金融機関も多様な国の金融機関等と契約締結を進めていく見込みである。

 以上の状況を踏まえ、平成27年度税制改正においては、外国金融機関等が、国内金融機関等との間で平成30年3月31日までに行う店頭デリバティブ取引に関して当該国内金融機関等に預託する証拠金で一定のものにつき支払を受ける利子について、非課税適用申告書の提出等を要件として、所得税を非課税とする措置が講じられたが、本措置の対象は金融商品取引法に規定される店頭デリバティブ取引に限定されており、CSA契約に一般的に含まれる先物為替や商品デリバティブは含まれていない。担保金額の算定はCSA契約の対象を一括して計算し、源泉徴収免除分と非免除分の切り分けができないことから、現行の措置で制度の実効性を確保することは困難である。

 担保に係る課税関係の存在を理由に、外国金融機関等から契約締結を拒否される、または契約が締結できたとしても取引を敬遠されたり、不利な条件での取引を強いられ、本邦金融機関のマーケットプレゼンスや競争力の低下を招くこととなれば、ヘッジ機能の低下による市場流動性悪化に加え、ALM運営や信用リスク管理にも悪影響が生じることが懸念される。

 したがって、本措置の対象となる取引の範囲を先物為替や商品デリバティブにまで拡大することを要望する。

 

  • OECDで検討されている「BEPS行動計画」について、
    1. 国内法制化に当たっては、金融業の特性を踏まえたルールとすること。また、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保すること。
    2. 行動13(移転価格文書化の再検討)の国内法制化に伴う提出資料と既存の関連資料との重複を回避すること。

 OECDは、平成25年7月に「BEPS行動計画」(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)を公表し、BEPSに対処するために必要な15の行動計画を策定した。

 各国が二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動が行われている場所での課税を十分に可能とするため、OECDは各行動計画について、新たに国際的な税制の調和を図る方策を勧告することとしており、平成26年9月には第一弾の報告書が公表された。今後、平成27年12月までに、すべての計画について報告書が公表される予定である。

 報告書の公表後は、わが国でも国内法制化が検討されることとなるが、検討の結果次第で、海外展開している本邦金融機関に対して、当局への追加の報告負担を含めた実務負担の増大や、各種税制の見直しによる税負担の増加、資金調達への影響等が発生する懸念がある。

 したがって、「BEPS行動計画」の各報告書にもとづいた国内法制化の際には、業界特有の規制・監督を受けている金融機関の特性を踏まえたルールとすることを要望する。また、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備のための十分な準備期間を設けることを併せて要望する。

 なお、行動13(移転価格文書化の再検討)については、平成26年9月に最終報告書が公表された後、平成27年2月には「移転価格文書と国別報告書の実施ガイダンス」が公表され、平成28年に開始する事業年度から報告書の提出が求められることとされた。このように早期の体制整備が求められるなか、実務における負担の軽減の観点から、国内法制化に伴い提出が必要とされる資料と重複する内容の資料を廃止する等、既存の関連資料との重複を回避することを要望する。

 

  • BtoB取引での国境を越えた電気通信役務の提供に係る消費税の課税方式として導入されたリバースチャージ方式(国内事業者が申告納税する方式)について、
    1. 現行制度における対象を見直すこと。
    2. 今後の対象取引の拡大の検討に当たっては、実務負担に十分配慮しながら慎重に検討すること。

 平成27年度税制改正により、国境を越えた電気通信役務(電子書籍・音楽・広告の配信等)の提供等に対する消費税の課税方式として、リバースチャージ方式(国内事業者が申告納税する方式)が導入され、平成27年10月から適用されることとなった。これにより、電気通信役務の提供に係る内外判定基準について、役務の提供に係る事務所等の所在地から、役務の提供を受ける者の住所地等に見直されることとなった結果、国外事業者から日本市場向けに国境を越えて行われる電気通信役務の提供については、国内における取引となり、国内事業者に消費税の納税義務が課される。

 電気通信役務の提供が国内において行われたか否かは、その役務の提供を受ける事業者の本店等が国内にあるか否かにより判定されることから、本邦法人の国外支店が国外事業者から受ける役務提供もリバースチャージ方式による課税の対象となる。しかしながら、当該役務提供は本制度の課税対象とすべき取引ではなく、また国外の付加価値税との二重課税が生じる可能性もあることから、リバースチャージ方式による課税対象から除外することを要望する。また、日本に支店を有する国外事業者は、自ら消費税申告を行っており、消費税の捕捉は容易であることから、当該国外事業者から受ける役務提供についても、リバースチャージ方式による課税対象から除外することを併せて要望する。

 なお、与党の平成27年度税制改正大綱においては、国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税のあり方について、「課税の対象とすべき取引の範囲及び適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う」とされている。今後、対象取引の拡大等が検討される際には、金融機関の実務負担に十分配慮しながら慎重に検討するとともに、事前に素案を公表し意見を求めるなど、納税者が十分な準備を行い、また納税者側から有用な提案を行えるような環境が整備されることを要望する。

 

  • わが国における、米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する対応について、
    1. モデル2IGAにもとづく対応から、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じること。
    2. モデル1IGAにもとづく対応の開始時期は平成29年1月1日とするとともに、移行に当たっては、利用者への周知や、金融機関における体制整備等について十分考慮すること。

 米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する米国と各国との協定(IGA)には、〔1〕各国が国内法を整備し、金融機関が各国税務当局を通じて米国IRS(内国歳入庁)に間接的に米国口座情報を提供するモデル1IGAと、〔2〕金融機関が情報提供について同意を得た口座(協力米国人口座)の情報をIRSに直接提供し、同意を得られない口座(非協力口座)の情報についてはその総件数・総額をIRSに提供するモデル2IGA、の2種類がある。

 わが国においては、FATCAに関して、「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」にもとづき、平成26年7月からモデル2IGAにもとづく所要の対応を実施している。

 一方で、各国の税務当局同士が連携し税務情報を交換する取り組みについては、上記のFATCA以外にOECDでも、金融口座情報について自動的情報交換を行う共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)が策定されており、わが国においては平成30年に初回の情報交換を行うことを想定し、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」の改正が平成29年1月1日から適用される。

 CRSにおいては、各国の金融機関は非居住者の口座情報について自国の税務当局に報告することとされていることから、CRSの導入に伴い、本邦金融機関は、米国IRSと本邦税務当局の双方に非居住者等の口座情報を提出することが求められることとなる。さらに、モデル2IGAによる報告に対応するためには、英語でのFATCA制度の理解、制度改正の動向のフォロー、報告システムの整備が必要になる等、本邦金融機関にとって相当な負担が発生している。したがって、わが国のFATCA対応について、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じることを要望する。

 なお、モデル1IGAにもとづく制度の開始時期については、本邦におけるCRS導入と同時期の平成29年1月1日とすることが合理的と考えられるが、移行に当たっては、利用者への周知や、金融機関における体制整備等について十分考慮することを併せて要望する。

 

(3)法人税率引下げに伴う代替財源の検討等

  • 法人税率引下げに伴う代替財源の検討に際しては、特定業種に負担が偏重することがないよう十分に配慮すること。
    また、受取配当等の益金不算入制度について、実務に即した見直し等を行うこと。

 法人税改革については、平成26年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレ脱却から好循環拡大へ~」において、20%台への法人実効税率引下げを平成27年度から開始することが明記された。また、同年6月には政府税制調査会が「法人税の改革について」を公表し、わが国の立地競争力を高めるとともに、わが国企業の競争力を強化するために法人税率を引き下げることや、法人税の負担構造を改革すべく課税ベースの見直しを行うという改革の方向性が示された。

 以上を受けて、与党の平成27年度税制改正大綱においては、平成27年度を初年度とし、以後数年で、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指すとし、税率引下げと課税ベースの拡大は2段階で進めることとされた。すなわち、第1段階として、平成27年度税制改正において、欠損金繰越控除の見直し、受取配当等益金不算入の見直し、外形標準課税の拡大、租税特別措置の見直しを行い、第2段階として、平成28年度税制改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保しつつ税率引下げ幅のさらなる上乗せを図り、さらにその後の年度の税制改正においても、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するとされた。

 一方で、上述の政府税制調査会がまとめた「法人税の改革について」においては、法人税の改革と併せて検討すべき事項として、「イギリスで銀行税が導入され、法人課税の一翼を担っている例もあり、必要に応じ、法人税率引下げの財源確保の一環として、法人課税の一翼を担うような新税の導入の可能性も検討すべきである」とされている。

 今後、法人税率引下げの代替財源に関するさらなる検討が進められる際には、特定の業種に負担が偏重することで経済活動に歪みを生じさせ、わが国の経済活動を阻害することがないよう十分に配慮されることを要望する。

 なお、上述のとおり、平成27年度税制改正において受取配当等の益金不算入制度の見直しが行われているが、その具体的な算定方法等についても、実務に即したものとなるよう見直しを行うことを要望する。