2017年7月13日

一般社団法人全国銀行協会

平成30年度税制改正に関する要望

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために
(1)NISAおよびジュニアNISAの恒久化等
(2)確定拠出年金税制の拡充等
(3)金融所得課税の一体化の推進等
2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために
(1)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し
(2)不動産投資市場のさらなる活性化・拡大に資する税制の見直し
(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(4)事業承継税制の見直し
(5)印紙税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(2)国際的な金融取引の円滑化等
(3)個人番号および法人番号の告知・記載書類に関する見直し等
(4)デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化
(5)ヘッジ取引に係る会計と税務の原則一致の明確化等
(6)受取配当等の益金不算入制度の見直し

 

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために

 わが国では、少子高齢化が急速に進展しており、本格的な人口減少社会に移行しつつある。現役世代の減少と高齢世代の増加に伴い、将来的に、老後の所得確保における公的年金の役割が縮小せざるを得ない可能性も想定されるなか、国民がゆとりある老後生活を送るためには、自助努力による中長期的な資産形成を促していくことが重要である。そのため、少額投資非課税制度(NISA)および未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)の恒久化、平成30年1月から開始される非課税累積投資契約に係る非課税制度(つみたてNISA)の着実な普及に資する所要の措置のほか、確定拠出年金税制の拡充等が求められる。
 一方、こうした取組みは、「貯蓄から資産形成へ」の流れを一層加速させ、家計の安定的な資産形成をより確実にするものである。1,800兆円を超える家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供するとともに、成長企業への資金供給を拡大することで、わが国経済の成長を確固たるものにすることが期待される。

 

(1)NISAおよびジュニアNISAの恒久化等

  • NISAおよびジュニアNISAについて、非課税期間の恒久化および制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)を行うこと。少なくとも非課税期間および投資可能期間を延長すること。
  • NISA、ジュニアNISA、つみたてNISAについて、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、所要の措置を講じること。

 平成26年1月から開始された少額投資非課税制度(NISA)は、「貯蓄から資産形成へ」の流れの促進、ひいては家計の安定的な資産形成に向けて順調に利用が増加しており、平成28年12月末時点の口座数は約1,060万口座、累積買付額は約9兆4,000億円に上っている。また、平成27年度税制改正において、年間投資上限額が120万円に引き上げられたほか、若年層への投資のすそ野の拡大等を図るため、未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)が創設され、0歳から19歳の未成年者の口座開設が可能となった。さらに、平成29年度税制改正では、少額からの積立・分散投資を促進するために、非課税期間が20年間に及ぶ非課税累積投資契約に係る非課税制度(つみたてNISA)が新たに創設され、平成30年1月から買付けが可能となる予定である。
 このようななか、NISAおよびジュニアNISAについては、今後、これらを一層普及・定着させ、幅広い家計に国内外の資産への長期・分散投資の機会を提供し、国民の自助努力による資産形成を支援する観点から、非課税期間(最長5年間)の恒久化および平成35年までの10年間とされている制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)を行うこと、少なくとも非課税期間および投資可能期間を延長することを要望する。
 また、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、a.NISAおよびジュニアNISAについて、非課税期間終了後の移管先を原則として特定口座とすること、b.ジュニアNISAについて、購入した上場株式等や配当金・売却代金等の払出しに関する年齢制限を廃止または緩和すること、c.ジュニアNISA口座への金銭の拠出について、口座開設者本人に限定する制限を廃止すること、d.ジュニアNISAにおいて特定口座の重複を解消する場合には、各行の判断により、課税未成年者口座を集約先とすることを可能とすること、e.NISAとつみたてNISAの勘定種類変更の際に提出を受ける非課税口座異動届出書について、電磁的方法による提出を可能とすること等の措置を講じることを要望する。

 

(2)確定拠出年金税制の拡充等

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金に係る拠出限度額の撤廃、少なくとも引上げを行うこと。
  • マッチング拠出制度における従業員拠出額の要件を見直すこと。
  • 確定拠出年金の脱退一時金の支給要件を緩和すること。
  • 老齢給付金の支給要件および個人型確定拠出年金における加入者資格喪失要件を緩和すること。
  • 第3号被保険者による個人型確定拠出年金掛金への税制優遇措置を設けること。

 少子高齢化が進展するなか、自助努力による老後生活の維持向上を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割の重要性が高まっている。欧米における同種の年金と同様、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本とする十分な税制上の措置を講じ、国際的に見劣りしない制度とする観点から、平成32年3月まで課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃することを要望する。
 また、確定拠出年金については、平成21年度と平成26年度の税制改正で拠出限度額の引上げが行われたほか、平成27年度税制改正において、個人型確定拠出年金の加入対象者が拡大されたが、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、税制面の整備を一層推進する必要があり、拠出限度額の撤廃、少なくともさらなる引上げを要望する。特に、平成29年1月から、企業型確定拠出年金を導入している企業の従業員についても個人型確定拠出年金への加入が可能となったことを踏まえ、企業型確定拠出年金の実施企業において、従業員が個人型確定拠出年金の加入者となることができることを規約に定めた場合であっても、企業型確定拠出年金の拠出限度額について、従来と比して制限されないよう措置することを要望する。
 さらに、企業型確定拠出年金のマッチング拠出の限度額要件のうち、従業員拠出額を事業主拠出額の範囲内とする要件を緩和すること、追徴課税等のペナルティを課した脱退一時金の支給制度を創設するなど、脱退一時金の支給要件のさらなる緩和を行うこと、10年以上の通算加入者等期間が必要となる老齢給付金の支給要件を緩和すること、および60歳となっている個人型確定拠出年金の加入者資格喪失年齢を、規約に定めることで65歳まで引上げ可能な企業型確定拠出年金に合わせ65歳に引き上げることを要望する。
 加えて、第3号被保険者について、配偶者の課税所得から控除する等、個人型確定拠出年金掛金への税制優遇措置を設けることを要望する。

 

(3)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化をより一層推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすること。

 わが国においては、個人金融資産の有効な活用が経済活性化のための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当たって中立的であることが求められる。
 政府税制調査会は、平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出し、この流れに沿って、平成20年度税制改正において、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされた。さらに平成25年度税制改正により、平成28年1月以降、公社債等に対する課税方式が上場株式等と同様、申告分離課税に変更されたうえで、損益通算できる範囲が公社債等にまで拡大され、金融所得課税の一体化に向けた制度整備が進展している。
 このようななか、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めることで、一体化のさらなる推進を要望する。
 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、これまでの実施状況を踏まえ、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関のシステム開発等に必要な準備期間を設ける等、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすることを要望する。

 

2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために

 わが国経済は、政府・日本銀行が推し進める財政政策・金融政策や、成長戦略のもと、企業収益が過去最高水準に達しているほか、雇用・所得環境も改善している。一方で、海外情勢は、米国における政策運営、英国のEU離脱をはじめとする欧州の政治情勢、新興国経済の動向や地政学リスクなど注視すべき事項も多く、わが国経済の先行きは、依然として不透明な状況にある。
 こうしたなか、わが国経済の持続的かつ力強い成長を実現するためには、民間企業の活力を引き出し、日本経済の生産性を向上させることが不可欠であり、インフラや不動産に対する投資に係る税制措置の拡充や、住宅投資拡大策としての住宅取得促進に資する税制措置の拡充、中小企業者の活性化に繋がる事業承継税制の見直し等は、民間部門の投資・消費需要を喚起していくために有用である。
 さらに、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税等の流通税が課せられるケースが多いものの、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している側面がある。そこで、流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

 

(1)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し

  • インフラ資産への民間資金の導入を促進するために、投資法人の導管性要件について、期末時の総資産の帳簿価格のうち、50%を超える保有を求められている特例特定資産の範囲を拡大すること。
  • 特に、再生可能エネルギー発電設備(以下「再エネ発電設備」という。)を運用対象とする投資法人の導管性要件について、
    1. 匿名組合出資を通じた再エネ発電設備の運用方法を賃貸のみとする要件を撤廃すること。
    2. 設立に際して公募により投資口を募集したこと、または投資口が上場されていることとする要件を撤廃すること。

 インフラ資産への民間資金導入促進を図るため、投資法人の導管性要件について、期末時の総資産の帳簿価格のうち、50%を超える保有を求められている一定の特例特定資産の範囲に、公共施設等運営権・道路・空港・鉄道・船舶・送電網・パイプライン・不動産担保ローン等を追加することを要望する。
 また、再エネ発電設備を運用対象とする場合において、a.再エネ発電設備の運用方法が賃貸のみであること、b.設立に際して公募により投資口を募集したことまたは投資口が上場されていること、等の要件を満たすものについては、再エネ発電設備を最初に賃貸の用に供した日から20年以内に終了する事業年度までに限り、再エネ発電設備を資産総額の50%を超えて保有した場合においても導管性要件を満たすとされている。
 このうち、「a」の要件については、匿名組合出資を通じて再エネ発電設備へ投資を行う投資法人に関する導管性要件が明確化されているものの、運用方法が賃貸の場合に限定されており、投資法人がすでに賃貸以外の方法で運用されている再エネ発電設備を投資対象とする匿名組合に対して出資を行う場合に、スキームを再構築する必要があることから、匿名組合出資における賃貸要件を撤廃することを要望する。また、「b」についても、インフラファンド市場のさらなる拡大のため、私募の場合でも導管性要件を満たすこととすることを要望する。

 

(2)不動産投資市場のさらなる活性化・拡大に資する税制の見直し

  • 不動産投資市場のさらなる活性化・拡大に向けて、
    • 投資法人の導管性要件について、
      1. 「借入先要件」を緩和し、機関投資家以外の先を追加すること。
      2. 発行投資口に係る「所有者要件」について、投資法人法が規定する利害関係人まで対象範囲を拡大すること。
    • 投資法人等が海外に不動産を取得・保有する場合に、海外で支払いが発生する直接外国税額について、投資主の配当金受取方式を問わず外国税額控除を可能とすること等の措置を講ずること。

 不動産投資市場を牽引するJ-REIT市場は、さらなる成長が期待されており、投資法人には継続的な借入ニーズが存在する。一方で、「借入先要件」により投資法人の資金調達先は金融機関に限定されていることから、将来、金融機関の貸出余力が限界に到達し、J-REIT市場の成長の制約となる可能性も否めない。こうしたなか、株式会社・合同会社を用いて投資法人向けローンを原債権としたCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities:商業不動産担保証券)の組成・発行を行い、機関投資家以外の法人投資家、個人投資家、外国人投資家へ販売することが可能となれば、個人投資家や海外投資家等、幅広い層からの投資資金流入を通じたデット市場の多様化に繋がり、不動産投資市場の発展に寄与するものと考えられる。
 したがって、投資法人の導管性要件について、「借入先要件」を緩和し、機関投資家以外の先を追加することを要望する。
 また、発行投資口の「所有者要件」として、「50人以上の者」または「機関投資家のみ」と限定されているが、経済・金融情勢の変化等に起因して緊急的なサポートが求められる場面も想定されることから、投資法人法に規定するREITの利害関係人(主にはスポンサー)まで対象範囲を拡大し、スポンサー等が直接エクイティ拠出を行うことができる体制をあらかじめ構築することで、不動産投資市場の安定維持を図ることが望ましい。
 さらに、投資法人等が海外に不動産を取得・保有する場合に、海外で支払いが発生する直接外国税額について、投資主が分配金を受け取る方法として「株式数比例配分方式」を選択した場合、投資法人から投資主への分配金に係る国内源泉所得税の徴収義務者が証券会社等となり、直接外国税額控除ができないことから、配当金の受取方式を問わずに控除できるようにすべきである。また、集団投資信託では所得税の一部として外国税額控除の対象となる復興特別所得税と、国外株式等の配当の際には二重課税調整の対象となる地方税を、投資法人が外国税額控除の対象とすることができるよう要望する。

 

(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を行うこと。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、自然災害に強く良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が国民に与えられることが重要である。
 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法においては、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充され、平成25年度および平成27年度税制改正においても、消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を緩和する観点からの措置が行われたが、わが国経済においては、住宅投資が拡大することに対する期待は依然として大きいところである。
 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化、税額控除の拡充を行うことを要望する。
 なお、上記特別控除の適用を受けるためには、住宅借入金等に係る債権者が交付する「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」が必要とされている。当該証明書は書面に限定されているが、政府の規制改革推進会議の第1次答申に盛り込まれているとおり、税・社会保険関係事務のIT化・ワンストップ化を通じた利便性向上等の観点から、電磁的方法での交付についても認めるべきである。また、その際には、同答申においても今後検討することとされているマイナポータルの活用との関係性について、具体的には企業にとって二重投資の負担とならないか等にも留意するべきである。

 

(4)事業承継税制の見直し

  • 非上場株式等に係る相続税および贈与税の納税猶予制度に係る適用要件を緩和すること。
  • 納税猶予制度における特例非上場株式等の第三者への譲渡等による納税猶予額に係る利子税について、一定の要件のもとで課税を免除すること。

 わが国の生産年齢人口は平成7年以降、減少局面を迎え、中小企業者を巡る採用環境は非常に厳しい状況が続いている。また、大規模な災害や経済・金融情勢の急激な変化により、雇用継続が一段と困難となるケースが生じ得る。
 中小企業者における事業承継を円滑に行うために設けられた非上場株式等に係る相続税および贈与税の納税猶予制度(事業承継税制)においては、5年間平均で雇用の8割以上を維持する雇用要件が課されているが、上記のような状況により、雇用要件を満たすことができなくなった場合、相続税や贈与税の猶予税額を納付する必要が生じ、中小企業者の経営状況をさらに悪化させることになりかねない。加えて、このような要件の存在が、そもそも制度の利用を躊躇させる要因となり、円滑な事業承継を阻害する要因となる可能性がある。
 事業承継税制については、中小企業者における厳しい経営環境を踏まえ、これまでも各種要件の見直し等が行われてきたが、中小企業者にとって一層使い勝手のよい制度とすることにより、中小企業者、ひいては地域経済の活性化をサポートすることが望まれる。
 具体的には、事業承継税制における雇用要件について、さらなる緩和に向けた見直しを要望する。
 また、事業承継税制における特例非上場株式等の第三者への譲渡等による納税猶予額に係る利子税について、中小企業者の納税負担を緩和し、円滑な事業承継を実現するため、一定の要件のもとで免除することを要望する。

 

(5)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

 

3.適切な経営環境を確保するために

 世界経済の不確実性が高まるなか、国内外において企業や金融機関を取り巻く環境は急速に変化している。銀行が金融仲介機能を発揮し、わが国経済の成長を支えるためには、金融機関の競争力を維持すべく、適切な経営環境を確保することが重要であり、法人税、消費税、所得税等について、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進める必要がある。
 欧米金融機関とのレベル・プレイング・フィールド確保の観点からは、貸倒れに係る税務上の償却・引当基準や欠損金の繰越控除制度等について欧米主要国と遜色のないものとすることが望まれる。なお、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、わが国企業の投資意欲や競争力を高めることにも繋がる。
 また、企業活動のグローバル化が進展するなか、国際的な金融取引の円滑化に資する税制の見直しも重要である。OECDが発表したBEPS(税源浸食と利益移転)行動計画の最終報告書の国内法制化に当たり、外国子会社合算税制の見直しなど、対象となる企業の実務負担等にも十分配意した税制を整備していくことや、国境を越えた取引に対する消費税の課税について、取引の実態に即した所要の見直しを行うべきである。
 さらに、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)の基本理念である行政の効率化や国民の利便性向上等が進展するとともに、銀行における事務手続き等が効率化するよう、税制面の整備が行われることが望まれる。

 

(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越控除と繰戻還付制度について、十分な措置を設けること。

 わが国金融界は不良債権問題からすでに脱却しているものの、わが国経済の持続的成長に資する金融システムの維持や、中小企業者等の経営改善、事業再生支援を積極的かつ継続的に進める金融機関の取組みを一層促進する観点から、不良債権税制の拡充が重要である。また、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、企業の投資意欲を高める効果も大きい。
 現在、会計上の引当金基準と税務上の無税基準が大きく乖離している状態にあるが、不良債権問題の再発防止や金融機関の自己資本の強化等の観点からは、金融機関が実施している自己査定等にもとづく会計上の償却・引当を税務上も幅広く認める等、債権毀損の実情に応じたものとすることが重要である。
 具体的には、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げる等、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。
 また、法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担の平準化を通じ、経営の中長期的な安定性を確保するものであり、わが国企業の投資意欲や競争力を高めるうえで極めて重要な制度である。金融機関にとって、景気後退期における不良債権の規模は大きいことから、その処理に伴い発生する欠損金の控除や還付について、十分な措置を設ける必要がある。

 

(2)国際的な金融取引の円滑化等

  • OECDの「BEPS行動計画」最終報告書を受けた今後の取組みにおいて、
    1. 国内法制化に当たり、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保すること。
    2. 外国子会社合算税制について、外国金融子会社等の範囲に係る要件を見直すなど、ビジネスの実態に即した、明瞭、かつ、できる限り簡素な制度となるよう、各種基準等を適切に設定すること。
    3. 行動4(利子控除制限)について、国内法制化に当たっては、金融業の特性を踏まえた慎重な検討を行うこと。

 OECDは、各国が二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動が行われている場所での課税を十分に可能とするため、平成27年10月、「BEPS行動計画」(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)の15の行動計画すべてについての最終報告書を公表した。
 わが国においても、上記最終報告書を受けた国内法制化が順次、進められているが、検討の結果次第では、海外展開している本邦金融機関において、各種税制の見直しによる税額算定の複雑化および税負担の増大や資金調達への影響等が発生する懸念がある。したがって、国内法制化に当たっては、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保することを要望する。
 また、外国子会社合算税制については、平成29年度税制改正において総合的な見直しが行われたが、外国金融子会社等の範囲に係る要件の見直し(a.期末時の総資産等に占める外国金融機関および他の金融持株会社の株式等の保有比率要件の緩和、b.清算中の子会社に係る特例措置の創設、c.内国法人を通じた間接保有の容認)等においては、ビジネスの実態に即した、明瞭、かつ、できる限り簡素な制度となるよう、各種基準等を適切に設定することを要望する。
 加えて、変化の激しい国際情勢等も踏まえ、わが国の制度も不断に見直しを行うべきであり、合算課税等の基準として用いられる租税負担割合の引下げや経済活動基準を満たしている場合における合算判定手続きの免除、益金不算入となる特定課税対象の期限(過去10年分)の撤廃についても、速やかに検討を行うべきである。
 さらに、行動4(利子控除制限)については、OECDが平成28年12月に銀行・保険セクターに焦点を当て、金融業の潜在的なBEPSリスクに対処するためのベストプラクティスを提示していることに十分留意し、国内法制化に当たっては、金融業の特性を踏まえたうえで慎重な検討を行うことを要望する。

 

  • 国境を越えた取引に対する消費税の課税について、取引の実態に即した所要の見直しを行うこと。

 平成27年度税制改正により、国境を越えた電気通信役務(電子書籍・音楽・広告の配信等)の提供等に対する消費税の課税方式として、リバースチャージ方式(国内事業者が申告納税する方式)が導入され、平成27年10月から適用されている。これにより、電気通信役務の提供に係る内外判定基準について、役務の提供に係る事務所等の所在地から、役務の提供を受ける者の住所地等に見直された結果、国外事業者から日本市場向けに国境を越えて行われる電気通信役務の提供については、国内における取引となり、国内事業者に消費税の納税義務が課されることとなった。
 しかしながら、国内に支店等を有する外国法人も国外事業者とされ、国外事業者の日本支店から国内事業者に提供される電気通信役務もリバースチャージ方式による課税の対象となっている。日本に支店を有する国外事業者は、自ら消費税申告を行っており、消費税の捕捉は容易であることから、当該国外事業者から受ける役務提供については、リバースチャージ方式による課税対象から除外することを要望する。
 なお、電気通信役務を提供する国外事業者に対しては、国内事業者において納税義務が発生する旨を表示する義務が課せられているが、十分に周知されているとはいえない状況にあることから、国外事業者へのさらなる理解促進を図ることが必要である。
 また、与党の平成29年度税制改正大綱においては、国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税のあり方について、「課税の対象とすべき取引の範囲及び適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う」とされている。今後、対象取引の拡大等が検討される際には、金融機関の実務負担に十分配慮しながら慎重に検討するとともに、事前に素案を公表し意見を求めるなど、納税者が十分な準備を行い、また納税者側から有用な提案を行えるような環境整備が必要である。

 

  • わが国における、米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する対応について、
    1. モデル2IGAにもとづく対応から、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じること。
    2. モデル1IGAへの移行実現には一定期間を要するところ、それまでのモデル2IGAにもとづく対応について、お客さまの負担を軽減する観点から、米国歳入庁(IRS)宛の「報告への同意」を不要とし、本邦金融機関からのFATCAに関する報告をIRSから本邦税務当局へと変更する措置を講ずること。

 米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する米国と各国との協定(IGA)には、〔1〕各国が国内法を整備し、金融機関が各国税務当局を通じて米国IRS(内国歳入庁)に間接的に米国口座情報を提供するモデル1IGAと、〔2〕金融機関が情報提供について同意を得た口座(協力米国人口座)の情報をIRSに直接提供し、同意を得られない口座(非協力口座)の情報についてはその総件数・総額をIRSに提供するモデル2IGAの2種類がある。
 わが国においては、FATCAに関して、「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」にもとづき、平成26年7月からモデル2IGAにもとづく所要の対応を実施している。
 一方で、各国の税務当局同士が連携し税務情報を交換する取組みについては、上記のFATCA以外に、OECDでも金融口座情報について自動的情報交換を行う共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)が策定されており、わが国においては平成30年に初回の情報交換を行うこととなり、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」(実特法)が改正され、当該改正法は平成29年1月1日から施行されている。
 実特法においては、届出書の提出対象となるお客さまを特定国居住者に限定せず、金融機関との一定の取引を行うお客さまについて、本邦やCRS不参加国の米国を居住地国とするお客さまも含め広く対象としているため、FATCA対象の特定米国人を含むお客さまから、自己申告による居住地国や外国納税者番号の届出を受け付ける手続きとなっている。このため、両制度の対象となるお客さまは、金融機関との間においてFATCAと実特法の手続きを二重に行う必要があり、手続き上の過度な負担を強いることとなっている。
 具体的には、実特法の届出書の記載事項は、特定米国人のFATCA報告に必要な事項を含んでおり、米国様式に準拠したFATCA報告同意書と実特法届出書は重複している。さらに、モデル2IGAによる報告に対応するためには、英語でのFATCA制度の理解、制度改正の動向のフォロー、報告システムの整備が必要になる等、本邦金融機関にとって相当な負担が発生している。
 したがって、お客さまの手続き上の二重負担を解消し、金融機関の報告事務についても2つの制度を並行して対処するという過負荷の状態を回避することは、お客さまの金融機関窓口利便の向上、金融機関の事務の合理化推進の観点から極めて重要である。
 以上から、わが国のFATCA対応について、モデル2IGAにもとづく対応から、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じることを要望する。
 もっとも、本措置への対応には、日米政府間の交渉が必要であり、実現可能性は米国の様々な事情に左右され、また実現する場合にも法改正を要するものと理解している。他方で、上述したように実特法の施行により、お客さまおよび金融機関の手続き上の二重負担は発生しており、今後、長らくこの状態が継続することは適当ではないと考える。そのため、モデル1IGA移行までの次善の対応として、上述のような特定米国人のFATCA報告の内容は、実特法の届出書に含まれていることを踏まえ、現行のモデル2IGAにもとづく対応を修正し、本邦金融機関からのFATCAに関する報告をIRSから本邦税務当局へ変更するとともに、IRS宛の「報告への同意」を不要とする措置、具体的には現在のFATCAの取扱いの根拠となる日米共同声明の修正を含めた措置を講じることを併せて要望する。

 

  • わが国金融機関が外国金融機関等以外の外国法人(海外ファンド等)と行うクロスボーダーの債券現先取引に係る特定利子について、非課税措置の適用対象資産の範囲を拡大すること。

 わが国金融機関においては、海外展開を加速させている取引先企業の外貨調達ニーズに応えるため、安定的な外貨調達態勢を整備することが急務となっている。特に、平成27年度以降に導入されている流動性比率規制により、金融機関は適格流動資産(HQLA:High Quality Liquidity Asset)として外国債券を保有しているが、緊急時への備えとして多様な資金調達手段を確保することが重要となっている。
 このようななか、平成29年度税制改正において、外国金融機関等以外の外国法人(海外ファンド等)と行う一定のクロスボーダーの債券現先取引のうち、振替国債を用いた取引に係る特定利子については非課税措置の対象とされている。
 しかしながら、海外ファンド等が行うクロスボーダーの債券現先取引においては、運用商品に係る制限により振替国債を利用できず、外国債券や海外の政府保証債を利用するケースが多いことから、外国金融機関等と国内金融機関等との間で行われる取引と同様、外国債券等を用いた取引に係る特定利子についても非課税措置の適用対象とすることを要望する。
 また、わが国金融機関による海外におけるその他の短期資金調達についても、安定した外貨調達が継続して可能となるよう、実務負担に配慮しつつ、適切な税制上の措置を講じるべきである。

 

  • 外国金融機関等が国内金融機関等との間で行う店頭デリバティブ取引に係る付随契約(CSA:Credit Support Annex)にもとづき授受する現金担保から生じる利息の非課税措置について、適用期限の撤廃、少なくとも延長を行うほか、実務負担を緩和するための所要の措置を講じること。

 店頭デリバティブ取引の国際的な規制枠組みに関して、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)および証券監督者国際機構(IOSCO)は、平成27年3月に「中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制に関する最終報告書」の改訂版を公表しており、わが国では、非清算店頭デリバティブ取引を行う金融機関について、〔1〕時価変動相当額を変動証拠金として授受する義務、〔2〕取引相手が将来デフォルトした際に取引を再構築するまでに生じ得る時価変動の推計額を当初証拠金として授受する義務を課す内閣府令、告示および監督指針にもとづく規制が策定されている。「〔1〕」の変動証拠金規制については、平成28年9月から一定のデリバティブ想定元本を持つ金融機関に適用され、平成29年3月以降は、すべての金融機関が適用対象とされており、一方、「〔2〕」の当初証拠金規制は平成28年9月から想定元本額に応じて段階的に適用されている。
 このような規制を踏まえ、金融機関は、店頭デリバティブ取引を行うに当たり、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定めるISDAマスター契約および付随する契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保として授受している。本邦金融機関が外国金融機関等非居住者から現金を担保として受け入れた場合、当該非居住者(ISDAマスター契約やCSA契約の対象となる取引は本店・支店が混在しているのが通常で、担保差入は本店が行うことが多い。)に対し、受入れ期間に応じて利息を支払うこととなる。
 現行、平成27年度および平成28年度税制改正にもとづき、外国金融機関等が国内金融機関等との間で行う店頭デリバティブ取引において授受する現金担保から生じる利息について、平成30年3月31日を期限に所得税を課さない非課税措置が適用されている。当該利息に課税されることとなった場合、本邦金融機関のマーケットプレゼンスや競争力の低下を招き、ヘッジ機能の低下による市場流動性悪化に加え、ALM運営や信用リスク管理にも悪影響が生じることから、非課税措置の適用期限の撤廃、少なくとも延長を行うほか、非課税適用申告に係る実務負担を緩和するための所要の措置を講じることを要望する。

 

  • 外国証券等の譲渡に係る消費税の内外判定基準について、明確化を図ること。

 現行、消費税法において、資産の譲渡に係る消費税の内外判定については、原則、当該資産の所在地で判定することとなっている。
 しかしながら、日本の金融機関が外国証券等を譲渡した場合については、その取扱いが必ずしも明確でないことがある。このため、無券面の外国証券等の譲渡については、国外取引(不課税)である旨を明確化することを要望する。

 

(3)個人番号および法人番号の告知・記載書類に関する見直し等

  • 個人番号および法人番号について、
    1. 告知を不要とする取引および告知方法等の見直しを行うこと。
    2. 記載書類およびe-Taxにおける提供事項の見直しを行うこと。
    3. 番号を活用した確定申告手続きの簡素化を図ること。

 金融機関は、平成28年1月以降、投資信託や債券に係る取引等において、お客さまから個人番号や法人番号の告知を受け、金融機関から税務署に提出する法定調書に個人番号および法人番号を記載することとされた。
 このうち、個人番号については、平成28年3月に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」により、同年4月以降、告知が必要とされる一部の取引や手続きにおいて、すでに個人番号の告知を受けている場合には、一定の条件の下、改めての告知を不要とする措置(二度目の告知の不要)が手当てされた。
 しかしながら、例えば手続きの頻度が高い住所変更等においては引き続き個人番号の告知が必要とされているほか、法人番号については二度目の告知の不要が手当てされておらず、すでに本人確認済の口座(3年間の猶予規定の適用を受けられない口座も含む。)についても、法人番号告知の際の本人確認(謄本確認などの確認)が求められているなど、お客さまおよび金融機関にとって大きな負担となっているため、告知を不要とする取引および告知方法についてさらなる見直しを要望する。
 特に、平成30年1月の預金口座に対する個人番号の付番開始後は、預金口座に対する付番のために個人番号の提供を受けた場合、金融機関が備える帳簿がなくても、二度目の告知を不要とすることが望ましい。
 加えて、告知書の提出を求められている取引について、お客さまの告知書への記入に代えて、銀行職員により電子計算機へ登録すること等を可能とし、当該取扱いを行った場合に紙による書類保存を不要とするなど、番号取得の方法等についても見直しを行うべきである。
 また、財形貯蓄制度に係る書類における個人番号および法人番号の記載や、少額投資非課税制度(NISA)におけるe-Taxを使用した個人番号の提供などについても見直しを要望する。
 さらに、調書等への記載のために番号取得が必要な場合における経過措置については、平成30年末が期限となっているが、お客さまの利便性確保等の観点から、期限後も特段の制約なく、分配金・利金等の支払いや国外送金等の取扱いが可能となるよう、必要な措置を講じるべきである。
 このほか、個人番号を活用した複数の特定口座間の損益通算を可能とするほか、法人番号を活用して連結確定申告書の添付書類を簡素化するなど、確定申告手続きの簡素化を図るべきである。

 

(4)デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化

  • デリバティブ取引に係る利益相当額または損失相当額の益金または損金算入について、デリバティブのカウンターパーティの信用力に応じたCVA等の公正価値評価の調整についても、税務上の「みなし決済損益額」として認められることを明確化すること。

 デリバティブ取引に係る評価損益の税務上の取扱いにおいて、内国法人がデリバティブ取引を行い、事業年度終了時に当該デリバティブ取引のうち決済されていないものがある場合には、その時点で当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして、財務省令で定めるところにより算出した利益の額または損失の額に相当する金額(みなし決済損益額)を、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入するとされている。
 一方、デリバティブ取引に係る利益相当額または損失相当額の益金または損金算入において、デリバティブのカウンターパーティの信用力に応じたCVA等の公正価値評価の調整についても、「みなし決済損益額」として認められるかは必ずしも明確ではない。
 全国銀行協会が本年6月に取りまとめた「デリバティブのCVA管理の在り方に関する研究会報告書-市場評価にもとづくCVAの導入に向けて-」では、わが国金融機関における市場評価に基づくCVAの導入について、段階的に導入を目指すこととしているが、税務上の取扱いが明確になっていない場合、導入の阻害要因となりかねないことから、上記の点を明確化すべきである。

 

(5)ヘッジ取引に係る会計と税務の原則一致の明確化等

  • ヘッジ取引に関して、
    1. 企業会計上、ヘッジ会計が適用される取引については、課税上の弊害が認められない限り、原則として税務上もヘッジ処理が認められること等を明確化すること。
    2. 税務上の取扱いをビジネスの実態に即したものとすること。

 ヘッジ取引は、ヘッジ対象の資産または負債に係る相場変動を相殺するか、ヘッジ対象の資産または負債に係るキャッシュ・フローを固定してその変動を回避することにより、ヘッジ対象である資産または負債の価格変動、金利変動および為替変動といった相場変動等による損失の可能性を減殺することを目的として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引であり、企業は多様なヘッジ手段を活用しながらリスク管理を高度化させ、経営の安定化を図っている。
 経済実態に重きを置く企業会計では、ヘッジ会計により、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同一の会計期間に計上することでヘッジ取引の効果を適切に反映させるための処理が認められている一方で、法人税法においては、概ね会計と同様の処理が認められているものの、別段の定めとされており、会計上の基準と税務上の基準が必ずしも一致していない。
 特に、ヘッジの有効性の判定においては、企業がリスク管理を目的に経済実態を反映したヘッジ取引を導入している場合においても、税務上の有効性判定等の規定により、税務上のみヘッジ効果が認められない事象が起こり得る状況となっており、有効性等を証明するため、多大な実務負担が発生している。
 したがって、企業会計においてヘッジ会計が適用される取引については、課税上の弊害が認められない限り、原則として税務上もヘッジ処理が認められるよう、法人税法第61条の5(デリバティブ取引に係る利益相当額または損失相当額)、同61条の6および7(ヘッジ処理による利益額又は損失額の計上時期等)ならびに関連する政省令を削除し、デリバティブ取引等に係る利益額または損失額について、益金の額または損金の額に算入する根拠を法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)に求めるよう措置すること等を要望する。
 また、税務上の有効性の判定が認められない場合において、特別な有効性判定等の申請が認められているものの、現行は所轄税務署長の承認を受けた翌年度以降の適用となっており、機動的なリスク管理が求められるビジネスの実態に即していないことから、承認事業年度からの適用を可能とするべきである。
 さらに、ヘッジの中止に係る処理において、財税基準を一致させるなど、ヘッジ取引に係るビジネスの実態に即した所要の見直しを行うことを要望する。

 

(6)受取配当等の益金不算入制度の見直し

  • 受取配当等の益金不算入制度について、実務に即した見直し等を行うこと。

 わが国の立地競争力を高めるとともに、わが国企業の競争力を高める観点から、平成27年度および平成28年度の税制改正によって法人税率の引下げおよび課税ベースの見直しによる法人税の負担構造の改革が行われた。
 こうしたなか、平成27年税制改正において、受取配当等の益金不算入制度の見直しが行われているが、その具体的な算定方法等について、二重課税排除や実務負担の軽減等の観点から、所要の措置を講じることを要望する。