2018年7月19日

平成31年度税制改正に関する要望

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために

(1)NISAの恒久化および利便性の向上等
(2)確定拠出年金税制の拡充等
(3)金融所得課税の一体化の推進等

2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために

(1)コーポレート・ガバナンスの強化に資する税制措置の導入
(2)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(3)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し
(4)事業承継のさらなる促進に資する税制の見直し
(5)教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置および結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の恒久化等
(6)日本版スクークに係る税制措置の恒久化等
(7)印紙税の軽減・簡素化

3.デジタル化などの経営環境の変化に適応するために

(1)デジタル化の推進に資する税制の見直し
(2)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(3)国際的な金融取引の円滑化等
(4)個人番号および法人番号の告知・記載書類に関する見直し等
(5)デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化
(6)受取配当等の益金不算入制度の見直し

 

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために

 わが国では、少子高齢化が急速に進展しており、本格的な人口減少社会に移行しつつある。現役世代の減少と高齢世代の増加に伴い、将来的に、老後の所得確保における公的年金の役割が縮小せざるを得ない可能性も想定されるなか、国民がゆとりある老後生活を送るためには、自助努力による中長期的な資産形成を促していくことが重要である。そのため、少額投資非課税制度(NISA)、未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)および非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度(つみたてNISA)の恒久化や、各種NISAの着実な普及に資する所要の措置のほか、確定拠出年金税制の拡充等が求められる。
 一方、こうした取組みは、「貯蓄から資産形成へ」の流れを一層加速させ、家計の安定的な資産形成をより確実にするものである。1,800兆円を超える家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供するとともに、成長企業への資金供給を拡大することで、わが国経済の成長を確固たるものにすることが期待される。

 

(1)NISAの恒久化および利便性の向上等

  • 各種NISA(NISA、ジュニアNISA、つみたてNISA)について、非課税期間の恒久化および制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)を行うこと。少なくとも非課税期間および投資可能期間を延長すること。
  • 各種NISAについて、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、所要の措置を講じること。

 平成26年1月から開始された少額投資非課税制度(NISA)は、「貯蓄から資産形成へ」の流れの促進、ひいては家計の安定的な資産形成に向けて順調に利用が増加しており、平成30年3月末時点の口座数は約1,100万口座、累積買付額は約14兆円に上っている。また、平成27年度税制改正において、年間投資上限額が120万円に引き上げられたほか、若年層への投資のすそ野の拡大等を図るため、未成年者少額投資非課税制度(ジュニアNISA)が創設され、0歳から19歳の未成年者の口座開設が可能となった。さらに、平成29年度税制改正においては、少額からの積立・分散投資を促進するために、非課税期間が20年間に及ぶ非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度(つみたてNISA)が創設され、平成30年1月から買付けが開始されている。
 このようななか、各種NISAについては、今後、これらを一層普及・定着させ、幅広い家計に国内外の資産への長期・分散投資の機会を提供し、国民の自助努力による資産形成を支援する観点から、非課税期間および投資可能期間の恒久化を行うこと、少なくとも非課税期間および投資可能期間を延長することを要望する。
 また、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、各種NISAについて、a.書面による提出・通知が求められている書類について、電磁的方法による提出・通知を可能とすること、b.関係書類の保管期限を届出書受理後5年間等に短縮すること、ならびに、ジュニアNISAについて、c.購入した上場株式等や配当金・売却代金等の払出しに関する年齢制限を廃止または緩和すること、d.ジュニアNISA口座への金銭の拠出について、口座開設者本人に限定する制限を廃止すること、等の措置を講じることを要望する。
 なお、与党の平成29年度税制改正大綱において、複数の制度が並立するNISAの仕組みについて、少額からの積立・分散投資に適した制度への一本化を検討することとされているが、検討を行う場合には、各種NISAの利用状況等を踏まえながら、極めて慎重に検討すべきである。
 さらに、わが国において長寿化が進行し、人生100年時代が迫るなかで、退職世代等の老後に向けた資産形成の重要性が増していることを踏まえ、退職給付等の運用に関する所要の措置を講じることが期待される。

 

(2)確定拠出年金税制の拡充等

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金に係る限度額規制を緩和すること。
  • 脱退一時金の支給要件、老齢給付金の支給要件および個人型確定拠出年金(iDeCo)における加入資格喪失要件を緩和するなど、制度の利便性を向上すること。
  • 第3号被保険者によるiDeCoへの掛金に対する税制優遇措置を設けること。

 少子高齢化が進展するなか、自助努力による老後生活の維持向上を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割の重要性が高まっている。欧米における同種の年金と同様、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本とする十分な税制上の措置を講じ、国際的に見劣りしない制度とする観点から、平成32年3月まで課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃することを要望する。
 また、確定拠出年金については、累次の改正により拠出限度額の引上げや個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象者拡大などがなされたが、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、一層の限度額規制の緩和が望まれる。具体的には、a.拠出限度額の撤廃、少なくともさらなる引上げを行うこと、b.企業型確定拠出年金(企業型DC)の実施企業において、従業員がiDeCoの加入者となることができることを規約に定めた場合に、企業型DCとiDeCoの限度額を合算する制限を廃止すること、c.企業型DCのマッチング拠出の限度額要件のうち、従業員拠出額を事業主拠出額の範囲内とする要件を緩和することを要望する。また、個人の置かれた環境に応じて複雑となっているiDeCoの拠出限度額について、簡素化を図ることを要望する。
 確定拠出年金のさらなる普及に向けては、制度の利便性向上も期待される。具体的には、a.追徴課税等のペナルティを課した脱退一時金の支給制度を創設するなど、脱退一時金の支給要件のさらなる緩和を行うこと、b.10年以上の通算加入者等期間が必要となる老齢給付金の支給要件を緩和すること、c.60歳となっているiDeCoの加入者資格喪失年齢を、規約に定めることで65歳まで引上げ可能な企業型DCに合わせ、65歳に引き上げることを要望する。
 加えて、第3号被保険者がiDeCoに加入する場合において、自己と生計を一にする配偶者やその他の親族が掛金を拠出した場合には、当該掛金を負担した者の課税所得から控除する等、iDeCoへの掛金に対する税制優遇措置を設けることを要望する。

 

(3)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化をより一層推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすること。

 わが国においては、個人金融資産の有効な活用が経済活性化のための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当たって中立的であることが求められる。
 政府税制調査会は、平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出し、この流れに沿って、平成20年度税制改正において、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされた。さらに平成25年度税制改正により、平成28年1月以降、公社債等に対する課税方式が上場株式等と同様、申告分離課税に変更されたうえで、損益通算できる範囲が公社債等にまで拡大され、金融所得課税の一体化に向けた制度整備が進展している。
 このようななか、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金等を含め損益通算を幅広く認めることで、一体化のさらなる推進を要望する。
 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、これまでの実施状況を踏まえ、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関のシステム開発等に必要な準備期間を設ける等、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすることを要望する。
 なお、与党の平成30年度税制改正大綱においては、金融所得に対する課税のあり方について、「家計の安定的な資産形成を支援するとともに税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する」とされている。今後、具体的な検討を行う場合には、家計の資産形成の妨げにならないよう、極めて慎重に検討すべきである。

 

2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために

 わが国経済は、政府・日本銀行が推し進める財政政策・金融政策や、成長戦略のもと、企業収益が過去最高水準に達しているほか、雇用・所得環境も改善している。一方で、海外情勢は、米国における政策運営、英国のEU離脱をはじめとする欧州の政治情勢、新興国経済の動向や地政学リスクなど注視すべき事項も多く、わが国経済の先行きは、依然として不透明な状況にある。
 こうしたなか、わが国経済の持続的かつ力強い成長を実現するためには、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略および構造改革を加速させることで民間の活力を引き出し、日本経済の生産性を向上させることが不可欠である。
 特に、わが国企業においては、企業の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上等の観点から、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現が求められていることを踏まえ、コーポレート・ガバナンスの強化に資する税制上の措置を講じるべきである。
 また、住宅投資拡大策としての住宅取得促進に資する税制措置の拡充や、インフラ等に対する投資に係る税制措置の拡充、中小企業者の活性化に繋がる事業承継税制のさらなる見直し、資金贈与による世代間の資産移転を通じた家計の余剰資金の有効活用等は、民間部門の投資・消費需要を喚起していくために有用である。
 さらに、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税等の流通税が課せられるケースが多いものの、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している側面がある。そこで、流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

 

(1)コーポレート・ガバナンスの強化に資する税制措置の導入

  • コーポレート・ガバナンスの強化に向けて、
    1. 政策保有株式の売却に伴う譲渡益について、益金不算入とする措置を講じること。
    2. 上場株式等の生前贈与に係る贈与税について、一定額の免除を行うこと。

 コーポレート・ガバナンスは、企業が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みであり、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現は、企業の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上等に資するものである。
 平成30年6月には、コーポレート・ガバナンス改革をより実質的なものへ深化させていくために、平成27年6月から適用が開始されているコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われている。
 同コードでは、企業が政策保有株式として保有する上場株式について、その縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきとされたことから、今後は市場売却等により政策保有株式の縮減が進められていくと考えられるが、こうした動きを加速させていくためには、一層の政策的な後押しが期待されるところである。
 したがって、政策保有株式を売却する際に発生する譲渡益について、益金不算入とする措置を講じることを要望する。
 さらに、現状は高齢者層に偏在している上場株式等について、子や孫への生前贈与が促進されれば、適切な議決権行使などを通じ、企業のコーポレート・ガバナンスの強化に資することが期待される。また、こうした生前贈与を進めていくことは、上場株式等が相続前後に現預金にシフトする傾向を抑制し、世代を越えた中長期的なリスクマネーの確保に繋がるうえ、若年層における消費の活性化にも寄与すると考えられる。
 したがって、上場株式等の生前贈与に係る贈与税について、一定額を免除することを要望する。

 

(2)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を行うこと。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、自然災害に強く良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定的かつ公平な住宅取得の機会が国民に与えられることが重要である。
 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法においては、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充され、平成25年度および平成27年度税制改正においても、消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を緩和する観点からの措置が行われた。平成31年に予定される消費税率の引上げに伴う需要変動の平準化、景気変動の安定化に向けては、住宅投資減少を抑制するための十分な手当てが望まれるところである。
 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化、税額控除の拡充を行うことを要望する。

 

(3)インフラファンド市場の拡大に向けた税制の見直し

  • 再生可能エネルギー発電設備(以下「再エネ発電設備」という。)を運用対象とする投資法人の導管性要件について、
    1. 平成32年3月までとされている再エネ発電設備の取得時期に係る要件を撤廃、少なくとも延長すること。
    2. 匿名組合出資を通じた再エネ発電設備の運用方法を賃貸のみとする要件を撤廃すること。
    3. 設立に際して公募により投資口を募集したこと、または投資口が上場されていることとする要件を撤廃すること。

 再エネ発電設備を運用対象とする投資法人において、a.平成32年3月までの間に再エネ発電設備を取得していること、b.再エネ発電設備の運用方法が賃貸のみであること、c.設立に際して公募により投資口を募集したことまたは投資口が上場されていること、等の要件を満たすものについては、再エネ発電設備を最初に賃貸の用に供した日から20年以内に終了する事業年度までに限り、再エネ発電設備を資産総額の50%を超えて保有した場合においても導管性要件を満たすとされている。
 このうち、「a」の要件については、平成32年4月以降の再エネ発電設備への民間資金導入促進に支障を来たすことから、同要件を撤廃するか、少なくとも期限を延長することを要望する。
 また、「b」の要件については、匿名組合出資を通じて再エネ発電設備へ投資を行う投資法人に関する導管性要件が明確化されているものの、運用方法が賃貸の場合に限定されており、投資法人がすでに賃貸以外の方法で運用されている再エネ発電設備を投資対象とする匿名組合に対して出資を行う場合に、スキームを再構築する必要があることから、匿名組合出資における賃貸要件を撤廃することを要望する。
 さらに、「c」の要件についても、インフラファンド市場のさらなる拡大のため、私募の場合でも導管性要件を満たすこととすることを要望する。

 

(4)事業承継のさらなる促進に資する税制の見直し

  • 事業承継のさらなる促進に向けて、
    1. 外国子会社を保有している非上場会社のオーナーが自社株式を贈与する際の株式評価に当たって、当該外国子会社の株式について納税猶予の対象財産への算入を認めること。
    2. 個人株主からの自己株式取得時のみなし配当課税について、撤廃または軽減すること。
    3. 納税猶予制度における特例非上場株式等の第三者への譲渡等による納税猶予額に係る利子税について、一定の要件のもとで課税を免除すること。
    4. 事業承継税制における各種手続きを簡素化すること。
    5. 旧「事業承継税制」から新「事業承継税制」への適用切替えを認めること。

 わが国では中小企業経営者の高齢化が進んでおり、今後5年間で30万人以上の経営者が70歳(平均引退年齢)に達するにも関わらず、後継者が未定の経営者は6割を占めているほか、70歳代の経営者でも承継準備を行っているのは半数に止まっている。こうしたなか、事業承継をより一層円滑化し、高齢化や後継者不足を原因とした廃業を減少させることで、中小企業者の事業継続に繋げ、地域経済の活力維持・発展を実現することが重要である。
 中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する事業承継税制については、平成30年度税制改正において、10年以内に承継を行う者を対象として抜本的な拡充が行われているが、より一層使い勝手のよい制度とすることにより、事業承継のさらなる促進、ひいては地域経済の活性化や雇用の維持をサポートすることが期待される。
 具体的には、海外展開している中小企業者が増加基調にあることを踏まえ、外国子会社を保有している非上場会社のオーナーが自社株式を贈与する際の株式評価に当たって、当該外国子会社の株式について、納税猶予の対象財産への算入を認めることを要望する。
 また、中小企業者の納税負担を緩和するため、個人株主からの自己株式取得時のみなし配当課税について、撤廃または軽減するとともに、納税猶予制度における特例非上場株式等の第三者への譲渡等による納税猶予額に係る利子税について、一定の要件のもとで課税を免除することを要望する。
 さらに、制度の利便性向上を図るため、事業承継税制に係る各種手続きを簡素化するとともに、制度利用者間の公平性等を確保する観点から、平成30年度税制改正以前の旧「事業承継税制」を適用している中小企業者について、同改正後の新「事業承継税制」への切替えを認めることも望まれる。

 

(5)教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置および結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の恒久化等

  • 「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」および「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」について、制度の恒久化または延長を行うとともに、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、所要の措置を講じること。

 わが国の個人金融資産は1,800兆円を超えているものの、その資産は高齢者層に偏在しており、こうした豊富な金融資産を若年層の教育費や結婚・子育て費用として活用することは、若年層における資金の余裕度を高め、消費活性化を通じたわが国経済の好循環をもたらすことが期待される。
 したがって、平成31年3月末が期限とされている「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」および「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」について、それぞれ制度を恒久化するか、少なくとも延長することを要望する。
 また、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」について、明細書の提出による口座からの資金の払出上限額を引き上げるほか、両制度について、預金保険制度を適用した場合の贈与税課税範囲を限定するなど、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減に資する所要の措置を講じることを要望する。

 

(6)日本版スクークに係る税制措置の恒久化等

  • 日本版スクーク(資産流動化法上の特定目的信託が発行する社債的受益権)について、
    1. 海外投資家が受ける社債的受益権の配当(収益の分配)に係る非課税措置について、適用期限を撤廃、少なくとも延長すること。
    2. 不動産の買戻しに係る登録免許税の非課税措置について、適用期限を撤廃、少なくとも延長すること。

 イスラム投資家は、宗教上の理由により金利の受領が禁止されていることから、出資・売買・リース等の形態を取り、イスラム法を順守した金融商品であるイスラム債(スクーク)にのみ投資が可能とされている。
 これを踏まえ、主要国では、イスラム・マネーを呼び込み、金融・資本市場の魅力を高めるとともに、資金運用・調達手段の多様化等を図るために、イスラム債を組成する際に生じる名目的な権利の移転に係る流通税等を恒久的に非課税とするなどの税制上の措置が講じられている。
 一方、わが国では、同様の税制措置は講じられているものの、その一部は時限的なものであり、依然として不安定な状況となっている。
 したがって、主要国の税制上の環境と平仄を合わせ、わが国の金融・資本市場にイスラム・マネーを呼び込むために、平成31年3月末が適用期限とされている、〔1〕海外投資家が受ける社債的受益権の配当(収益の分配)に係る非課税措置、〔2〕不動産の買戻しに係る登録免許税の非課税措置について、それぞれ適用期限を撤廃するか、少なくとも延長することを要望する。

 

(7)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。
 例えば、銀行の預金通帳について、一部の預貯金通帳等と同様に、印紙税の非課税措置の対象とされるべきである。

 

3.デジタル化などの経営環境の変化に適応するために

 世界経済の不確実性が高まるなか、国内外において企業や金融機関を取り巻く環境は急速に変化している。また、急速に進展するデジタル化やキャッシュレス化への対応も待ったなしの状況となっている。こうしたなか、銀行が金融仲介機能を発揮し、わが国経済の成長を支えるためには、金融機関の競争力を維持すべく、適切な経営環境を確保することが重要であり、法人税、消費税、所得税等について、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進める必要がある。
 特に、「ITを活用した社会システムの抜本改革」がわが国における重要課題となるなか、銀行業務のデジタル化の推進も、銀行の構造改革に当たって不可欠な取組みとなっており、電子帳簿保存法における所要の見直しなどを通じて、こうした動きを促進していくべきである。
 欧米金融機関とのレベル・プレイング・フィールド確保の観点からは、貸倒れに係る税務上の償却・引当基準や欠損金の繰越控除制度等について欧米主要国と遜色のないものとすることが望まれる。なお、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、わが国企業の投資意欲や競争力を高めることにも繋がる。
 また、企業活動のグローバル化が進展するなか、国際的な金融取引の円滑化に資する税制の見直しも重要である。OECDが発表したBEPS(税源浸食と利益移転)行動計画の最終報告書の国内法制化に当たっては、わが国企業の実務負担等にも十分配意した税制を整備していくべきである。
 さらに、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)の基本理念である行政の効率化や国民の利便性向上等が進展するとともに、銀行における事務手続き等が効率化するよう、税制面の整備が行われることが望まれる。

 

(1)デジタル化の推進に資する税制の見直し

  • 電子帳簿保存法等について、国税関係書類および国税関係帳簿を電磁的記録により保存するための適用要件を含め、デジタル化の推進および保存義務者の負担軽減等の観点から所要の見直しを行うこと。

 国税関係書類および国税関係帳簿に関して、これらをスキャナや帳票ソフトを使用して電磁的記録により保存するための適用要件については、平成28年度税制改正等で電子帳簿保存法の見直しが行われるなど、規制緩和が進められている。しかしながら、依然として適用要件が厳格であることから、納税者は書類を書面で保存せざるを得ないケースが多く、デジタル化を推進するうえでの妨げとなっているほか、保存義務者にとっても書面の保管や輸送が大きな負担となっている。
 納税者における電磁的記録による保存を促進する観点から、現行は帳簿、書類単位で承認申請が必要である、帳票ソフトを使用した電磁的記録による保存について、帳票ソフトのベンダーによるシステム単位や帳票ソフト単位での認定制度を導入すること等を要望する。
 また、スキャナを使用して書類イメージを電磁的記録として保存するスキャナ保存について、〔1〕国税関係書類(取引関係書類)に対象書類が限定されており、国税関係帳簿(お客さまから受領した入出金伝票等)が含まれていないこと、〔2〕重要書類については、入力期間が書類受領後37日以内に制限されていること、〔3〕書類ごとに認定事業者が発行するタイムスタンプを付与することやフルカラーによる保存を行うことに伴い高額のコストを要すること、等がデジタル化推進の妨げとなっており、所要の措置を講じるべきである。
 なお、非課税貯蓄および財産形成非課税住宅・年金貯蓄に関する異動申告書について、お客さまや金融機関の利便性向上および負担軽減の観点から、電磁的記録による提出・保管を可能とするために所要の措置を講じることを要望する。

 

(2)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越控除と繰戻還付制度について、十分な措置を設けること。

 わが国金融界は不良債権問題からすでに脱却しているものの、わが国経済の持続的成長に資する金融システムの維持や、中小企業者等の経営改善、事業再生支援を積極的かつ継続的に進める金融機関の取組みを一層促進する観点から、不良債権税制の拡充が重要である。また、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、企業の投資意欲を高める効果も大きい。
 現在、会計上の引当金基準と税務上の無税基準が大きく乖離している状態にあるが、不良債権問題の再発防止や金融機関の自己資本の強化等の観点からは、金融機関が実施している自己査定等にもとづく会計上の償却・引当を税務上も幅広く認める等、債権毀損の実情に応じたものとすることが重要である。
 具体的には、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げる等、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。
 また、法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担の平準化を通じ、経営の中長期的な安定性を確保するものであり、わが国企業の投資意欲や競争力を高めるうえで極めて重要な制度である。金融機関にとって、景気後退期における不良債権の規模は大きいことから、その処理に伴い発生する欠損金の控除や還付について、十分な措置を設ける必要がある。

 

(3)国際的な金融取引の円滑化等

  • OECDの「BEPS行動計画」最終報告書を受けた今後の取組みにおいて、
    1. 国内法制化に当たり、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保すること。
    2. 行動4(利子控除制限)について、国内法制化に当たっては、BEPSの趣旨や金融業の特性を踏まえた慎重な検討を行うこと。
    3. 外国子会社合算税制について、米国における法人税率の引下げによる影響等を踏まえ、ビジネスの実態に即した、明瞭、かつ、できるだけ簡素な制度となるよう、各種基準等を適切に設定すること。

 OECDは、各国が二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動が行われている場所での課税を十分に可能とするため、平成27年10月、「BEPS行動計画」(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)の15の行動計画すべてについての最終報告書を公表した。
 わが国においても、上記最終報告書を受けた国内法制化が順次、進められているが、検討の結果次第では、海外展開している本邦金融機関において、各種税制の見直しによる税額算定の複雑化および税負担の増大や資金調達への影響等が発生する懸念がある。したがって、国内法制化に当たっては、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保することを要望する。
 また、行動4(利子控除制限)を踏まえた過大支払利子税制の見直しに当たっては、多国籍企業の課税逃れに対処するというBEPSの趣旨や金融業の特性を踏まえ、慎重な検討を行うことを要望する。
 さらに、外国子会社合算税制については、平成29年度税制改正で総合的な見直しが行われたほか、平成30年度税制改正において外国金融子会社等の範囲に係る要件等の見直しが行われたが、米国における法人税率の引下げによる影響など、変化の著しい国際情勢等も踏まえ、米国のLLCおよびLPS等がパススルー課税を選択している場合や、外国関係会社が連結納税を適用している場合などにおける外国子会社合算税制上の取扱い(課税対象金額の計算方法、外国税額控除の適用の可否等)について、明確化することを要望する。また、対象となる企業の実務負担を緩和するため、租税負担割合の引下げや海外所在子会社の活動実態の判定に当たっての基準の明確化などを要望する。このほか、二重課税を排除するために、益金不算入となる特定課税対象の期限(過去10年分)を撤廃することについても、速やかに検討を行うべきである。

 

  • 国境を越えた取引に対する消費税の課税について、取引の実態に即した所要の見直しを行うこと。

 平成27年度税制改正により、国境を越えた電気通信役務(電子書籍・音楽・広告の配信等)の提供等に対する消費税の課税方式として、リバースチャージ方式(国内事業者が申告納税する方式)が導入され、平成27年10月から適用されている。これにより、電気通信役務の提供に係る内外判定基準について、役務の提供に係る事務所等の所在地から、役務の提供を受ける者の住所地等に見直された結果、国外事業者から日本市場向けに国境を越えて行われる電気通信役務の提供については、国内における取引となり、国内事業者に消費税の納税義務が課されることとなった。
 しかしながら、国内に支店等を有する外国法人も国外事業者とされ、国外事業者の日本支店から国内事業者に提供される電気通信役務もリバースチャージ方式による課税の対象となっている。日本に支店を有する国外事業者は、自ら消費税申告を行っており、消費税の捕捉は容易であることから、当該国外事業者から受ける役務提供については、リバースチャージ方式による課税対象から除外することを要望する。
 なお、電気通信役務を提供する国外事業者に対しては、国内事業者において納税義務が発生する旨を表示する義務が課せられているが、十分に周知されているとはいえない状況にあることから、国外事業者へのさらなる理解促進を図ることが必要である。
 また、与党の平成30年度税制改正大綱においては、国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税のあり方について、「平成27年度税制改正の実施状況、国際機関等の議論、欧州諸国等における仕向地主義に向けた対応、各種取引の実態等を踏まえつつ、課税の対象とすべき取引の範囲及び適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う」とされている。今後、対象取引の拡大等を検討する際には、金融機関の実務負担に十分配慮しながら慎重に検討するとともに、事前に素案を公表し意見を求めるなど、納税者が十分な準備を行い、また納税者側から有用な提案を行えるような環境を整備することが必要である。

 

  • わが国金融機関が外国金融機関等以外の外国法人(海外ファンド等)と行うクロスボーダーの債券現先取引に係る特定利子について、非課税措置の適用期限を延長するとともに、適用対象資産の範囲を拡大すること。

 わが国金融機関においては、海外展開を加速させている取引先企業の外貨調達ニーズに応えるため、安定的な外貨調達態勢を整備することが急務となっている。特に、平成27年度以降に導入されている流動性比率規制により、金融機関は適格流動資産(HQLA:High Quality Liquidity Asset)として外国債券を保有することが求められているが、緊急時への備えとして多様な資金調達手段を確保することが重要となっている。
 このようななか、平成29年度税制改正において、平成31年3月末を期限として、外国金融機関等以外の外国法人(海外ファンド等)と行う一定のクロスボーダーの債券現先取引のうち、振替国債を用いた取引に係る特定利子について、非課税措置の対象とされた。
 しかしながら、海外ファンド等が行うクロスボーダーの債券現先取引においては、運用商品に係る制限により振替国債を利用できず、外国債券や海外の政府保証債を利用するケースも多いことから、非課税措置の適用期限を延長するとともに、外国金融機関等と国内金融機関等との間で行われる取引と同様、外国債券等を用いた取引に係る特定利子についても非課税措置の適用対象とすることを要望する。

 

  • わが国における、米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する対応について、
    1. モデル2IGAにもとづく対応から、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じること。
    2. モデル1IGAへの移行実現には一定期間を要するところ、それまでのモデル2IGAにもとづく対応について、お客さまの負担を軽減する観点から、米国歳入庁(IRS)宛の「報告への同意」を不要とし、本邦金融機関からのFATCAに関する報告をIRSから本邦税務当局へと変更する措置を講じること。

 米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に関する米国と各国との協定(IGA)には、〔1〕各国が国内法を整備し、金融機関が各国税務当局を通じて米国IRS(内国歳入庁)に間接的に米国口座情報を提供するモデル1IGAと、〔2〕金融機関が情報提供について同意を得た口座(協力米国人口座)の情報をIRSに直接提供し、同意を得られない口座(非協力口座)の情報についてはその総件数・総額をIRSに提供するモデル2IGAの2種類がある。
 わが国においては、FATCAに関して、「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」にもとづき、平成26年7月からモデル2IGAにもとづく所要の対応を実施している。
 一方で、各国の税務当局同士が連携し税務情報を交換する取組みについては、上記のFATCA以外に、OECDでも金融口座情報について自動的情報交換を行う共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)が策定されており、わが国においては、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」(実特法)が改正された。当該改正法は平成29年1月1日から施行されており、平成30年に当局への初回報告が実施されたところである。
 実特法においては、届出書の提出対象となるお客さまを特定国居住者に限定せず、金融機関との一定の取引を行うお客さまについて、本邦やCRS不参加国の米国を居住地国とするお客さまも含め広く対象としているため、FATCA対象の特定米国人を含むお客さまから、自己申告による居住地国や外国納税者番号の届出を受け付ける手続きとなっている。このため、両制度の対象となるお客さまは、金融機関との間においてFATCAと実特法の手続きを二重に行う必要があり、手続き上の過度な負担を強いることとなっている。
 具体的には、実特法の届出書の記載事項は、特定米国人のFATCA報告に必要な事項を含んでおり、米国様式に準拠したFATCA報告同意書と実特法届出書は重複している。さらに、モデル2IGAによる報告に対応するためには、英語でのFATCA制度の理解、制度改正の動向のフォロー、報告システムの整備が必要になる等、本邦金融機関にとって相当な負担が発生している。
 したがって、お客さまの手続き上の二重負担を解消し、金融機関の報告事務についても2つの制度を並行して対処するという過負荷の状態を回避することは、お客さまの金融機関窓口利便の向上、金融機関の事務の合理化推進の観点から極めて重要である。
 以上から、わが国のFATCA対応について、モデル2IGAにもとづく対応から、モデル1IGAにもとづく対応に移行するための所要の措置を講じることを要望する。
 もっとも、本措置への対応には、日米政府間の交渉が必要であり、実現可能性は米国の様々な事情に左右され、また実現する場合にも法改正を要するものと理解している。他方で、上述したように実特法の施行により、お客さまおよび金融機関の手続き上の二重負担は発生しており、今後、長らくこの状態が継続することは適当ではないと考える。そのため、モデル1IGA移行までの次善の対応として、上述のような特定米国人のFATCA報告の内容は、実特法の届出書に含まれていることを踏まえ、現行のモデル2IGAにもとづく対応を修正し、本邦金融機関からのFATCAに関する報告をIRSから本邦税務当局へ変更するとともに、IRS宛の「報告への同意」を不要とする措置、具体的には現在のFATCAの取扱いの根拠となる日米共同声明の修正を含めた措置を講じることを併せて要望する。

 

  • 外国税額控除制度に関して、
    1. 二重課税を排除するため、控除限度超過額および控除限度余裕額の繰越期間について、十分な期間を設定すること。
    2. 地方法人税における控除限度超過額および控除限度余裕額について、それぞれ繰越制度を創設すること。
    3. 地方税(法人住民税法人税割)について、還付制度を設けること。

 わが国企業の海外展開が加速し、企業活動のグローバル化が進展するなかで、国際的な二重課税を調整し、居住者の国内・国外に対する投資選択における経済的中立性を保つ外国税額控除制度の重要性は高まっている。
 現行、外国で所得を稼得した時期と、その所得に対する税を納付する時期との「期ずれ」を調整するものとして、外国税額控除制度の控除限度超過額および控除限度余裕額について、いずれも3年間の繰越期間が認められている。
 しかしながら、現行の繰越期間では、二重課税の解消ができないまま控除額が失効するケースがあることから、控除限度超過額および控除限度余裕額の繰越期間について、十分な期間を設定することを要望する。
 また、地方法人税には、所得に対する二重課税を排除する観点から、法人税と同様に外国税額の控除が認められているが、控除限度超過額および控除限度余裕額について、繰越制度は措置されていない。
 こうしたなか、わが国では、近年の法人税率引下げを受けて、控除限度額は縮小しているほか、平成31年10月1日に予定されている消費税率の引上げに伴い、繰越控除制度のない地方法人税の税率引上げが行われる一方で、同制度のある法人住民税法人税割の税率引下げが行われることとされており、実質的に繰越控除制度が縮小されることになる。これにより、支店形式で海外展開を行うことの多い銀行の繰越余裕額が縮小し、将来的に銀行における税負担が増加することが想定される。
 地方法人税において繰越控除制度が措置されていないことの合理的な理由が見当たらないことを踏まえ、地方法人税においても、控除限度超過額および控除限度余裕額について、それぞれ繰越制度を創設することを要望する。
 さらに、地方税(法人住民税法人税割)について、国税は控除税額が本税額を上回った場合は還付することとされている一方で、地方税は還付ではなく翌期以降への繰越を行うこととされていることから、地方税についても国税と同様に、還付制度を設けることが望ましい。
 なお、二重課税の排除を徹底するために、諸外国における税制改正等にも留意しつつ、所要の措置が講じられるべきである。

 

(4)個人番号および法人番号の告知・記載書類に関する見直し等

  • 個人番号および法人番号について、
    1. 告知を不要とする取引および告知方法等の見直しを行うこと。
    2. 財形貯蓄制度に係る書類の記載や、先物取引の差金等決済における所得税法上の告知制度の見直しを行うこと。
    3. 番号を活用した確定申告手続きの簡素化を図ること。

 金融機関は、平成28年1月以降、投資信託や債券に係る取引等において、お客さまから個人番号や法人番号の告知を受け、金融機関から税務署に提出する法定調書等に個人番号および法人番号を記載することとされた。
 このうち、個人番号については、平成28年度および平成30年度税制改正により、告知が必要とされる一部の取引や手続きにおいて、すでに個人番号の告知を受けている場合には、一定の条件の下、改めての告知を不要とする措置(二度目の告知の不要)が手当てされた。
 しかしながら、例えば手続きの頻度が高い住所変更等において、新たに住所等確認書類の提示が必要とされたほか、法人番号については、公開情報であるにも関わらずお客さまから告知を受ける必要があるとされているなど、お客さまおよび金融機関にとって大きな負担となっているため、告知を不要とする取引および告知方法についてさらなる見直しを要望する。
 加えて、告知書の提出を求められている取引について、お客さまの告知書への記入に代えて、銀行職員により電子計算機へ登録すること等を可能とし、当該取扱いを行った場合に紙による書類保存を不要とするなど、番号取得の方法等についても見直しを行うべきである。
 また、財形貯蓄制度に係る書類における個人番号および法人番号の記載を見直すことや、法人のお客さまに係る先物取引の差金等決済に関する支払調書の作成・提出が不要とされている現状を踏まえ、同取引に係る告知を不要とすることで、お客さまおよび金融機関の実務負担の軽減を図ることも望まれる。
 さらに、個人番号を活用した複数の特定口座間の損益通算を可能とするほか、法人番号を活用して連結確定申告書の添付書類を簡素化するなど、確定申告手続きの簡素化を図るべきである。

 

(5)デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化

  • デリバティブ取引に係る利益相当額または損失相当額の益金または損金算入について、デリバティブのカウンターパーティの信用力に応じたCVA等の公正価値評価の調整についても、税務上の「みなし決済損益額」として認められることを明確化すること。

 デリバティブ取引に係る評価損益の税務上の取扱いにおいて、内国法人がデリバティブ取引を行い、事業年度終了時に当該デリバティブ取引のうち決済されていないものがある場合には、その時点で当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして、財務省令で定めるところにより算出した利益の額または損失の額に相当する金額(みなし決済損益額)を、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入するとされている。
 一方、デリバティブ取引に係る利益相当額または損失相当額の益金または損金算入において、デリバティブのカウンターパーティの信用力に応じたCVA等の公正価値評価の調整についても、「みなし決済損益額」として認められるかは必ずしも明確ではない。
 全国銀行協会が平成29年6月に取りまとめた「デリバティブのCVA管理のあり方に関する研究会報告書-市場評価にもとづくCVAの導入に向けて-」では、わが国金融機関における市場評価にもとづくCVAの導入について、段階的に導入を目指すこととしているが、税務上の取扱いが明確になっていない場合、導入の阻害要因となりかねないことから、上記の点を明確化すべきである。

 

(6)受取配当等の益金不算入制度の見直し

  • 受取配当等の益金不算入制度について、実務に即した見直し等を行うこと。

 わが国の立地競争力を高めるとともに、わが国企業の競争力を高める観点から、平成27年度および平成28年度の税制改正によって法人税率の引下げおよび課税ベースの見直しによる法人税の負担構造の改革が行われた。
 こうしたなか、平成27年度税制改正において、受取配当等の益金不算入制度の見直しが行われているが、その具体的な算定方法等について、二重課税排除や実務負担の軽減等の観点から、所要の措置を講じることを要望する。