Q.老後生活に入ると増える支出、注意すべき支出はありますか?

<私、悩んでいます>

夫はあと数年で定年退職となり、いよいよ老後が近づいてきましたが、不安なのは老後資金が足りるかどうか。今のところ、老後を迎えても今の生活費とあまり変わらなければ、公的年金と退職金や貯蓄の取り崩しで何とかなると思いますが、新たに増える支出、注意すべき支出はあるでしょうか?(56歳/女性)

ファイナンシャル・プランナーからのアドバイス

  • 医療費のアップや介護費用、住宅のリフォーム費用は計上の必要性あり
  • これまでボーナスから捻出していた支出は、月割りで生活費に加算
  • 人生100年時代、長生きリスクを認識しよう
さらに読む

介護費用は介護保険である程度軽減される

老後資金について、準備した額が足りるかどうか不安を抱いている現役世代は少なくないと思います。しかし、必要な老後資金は、各世帯によって当然異なります。そこでポイントとなるのが、老後を迎えてからの生活費。それを割り出すことで、およそ必要な老後資金額が見えてくるからです。

特にご相談者のように50代であれば、現在の生活費がその判断材料となります。食費や水道光熱費、通信費、交際費などは60歳以降もしばらくは大きく変わらないはず。途中、お子さんが社会人になれば教育費が不要になり、払い込みが終了する保険があれば、当然、その分の保険料は下がります。

では、老後になって増えたり、新たに発生する生活コストはあるでしょうか。まず、イメージされやすいものとして医療費があります。ところが、実際にかかる医療費は、さほど高額ではありません。総務省「家計調査(家計収支編)・2020年」(※1)によると、1世帯あたりの保健医療費(治療・看護費用、医薬品・医療用品の購入費用等)は、世帯主が60〜64歳の世帯で月額1万4,815円、65〜69歳で1万7,281円、70〜74歳が1万6,240円、85歳以上でも1万7,625円。高齢になるほど高額になると考えがちですが、健康保険による高額療養費制度などによって、医療費の自己負担額が一定額に抑えられていることが、この数値からうかがえます。もろちん、医療費には個人差がありますが、ひとつの目安として、夫婦で月2万円を計上しておけばカバーできるでしょう。

もうひとつ、老後を迎えて心配となるのが、介護費用です。ただし、これも公的介護保険でコストはある程度軽減されます。要介護度(要支援1〜2、要介護1〜5)によって、訪問介護や施設でのデイサービスやショートステイなど、必要に応じた介護サービスを限度額の範囲内で、自己負担1〜3割(本人もしくは世帯の所得等で負担率が変わる)で利用できるからです。

例えば、要介護1の場合、支給限度額は月額16万7,650円(※2)。その金額を超えなければ、仮に1割負担の場合、発生する自己負担額は1万6,692円以下ということになります。また、実際の介護では公的介護保険が適用外となるコストも発生しますが、それらを加算して在宅介護のケースで月額5万円(要介護1〜5の平均)程度と言われています。ただし、市区町村でも個々に、介護保険適用外のコストを軽減する制度を備えています。それらを上手に利用すれば、さらに介護費用は下げられるでしょう。

(※1)同調査「〈用途分類〉1世帯当りの1か月間の収入と支出〈世帯主の年齢階級別〉・二人以上世帯」より
(※2)介護保険による区分支給限度基準額(2019年10月以降)

老後になって家計管理の重要度は増す

加えて、大きな支出として考えておきたいのは、持ち家の場合の住宅のリフォームです。35歳で住宅を取得すれば、新築であっても60歳の定年時には築25年。多くの場合、老後に入ってから住宅リフォームのピークを迎えます。

一般財団法人住宅リフォーム推進議会「平成26年度住宅リフォーム実例調査」によれば、築30年以上の場合、リフォーム費用に1,000万円超の費用がかかった割合は、マンションでは11.7%、一戸建ては43.5%に達しています。リフォームの平均費用は約757万円、中央値でも約500万円という結果が出ています。

しかし、リフォームと一口に言っても、トイレや浴室などの水回りから耐震化、バリアフリーと幅広く、費用も100万円以下から1,000万円超までバラつきがあります。したがって、ある程度の額は必要ですが、あくまで準備した老後資金から回せる額を予算として、その範囲内で可能なリフォームを検討すべきでしょう。

また、実際は増えていなくても、そう感じてしまうコストがあります。ボーナスから捻出していた支出費目です。具体的には、住宅ローンや保険料の年払い分や固定資産税、車検や自動車税などクルマの維持費、旅行費用、家電等の大きな買い物など。生活費を考える場合、それを月割りにし、毎月の生活費に加算する必要があります。

もうひとつ意識すべき点が、長寿化によるコストの増大。つまり長生きリスクです。これまで、老後資金の必要額は85〜90歳までを寿命として試算することが一般的でしたが、「人生100年時代」と言われる今、100歳を想定して試算する必要が出てきました。仮に、公的年金だけでは年間60万円不足となる場合、単純に計算して、10年寿命が延びれば600万円、必要額を増やす必要があるということです。

その意味で、現役時代と同様に、老後になってからも家計管理はきっちりしておく必要があります。60歳以降は新たなローンは組まず、生活費については各費目で予算を立て、その範囲内でやりくりしていく。そういう意識がより大切になるでしょう。

(※1)いずれも平成25年度実績にもとづく推計値

(※2)標準地域の場合。地域によっては金額が異なる