2001年11月20日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

菅野専務理事報告

 本日の理事会では、年末に向けた金融の円滑化について、お手許の資料のとおり、申し合わせを行った。
 他には、特に報告すべき事項はない。私からは以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 現状の株価の低迷、とりわけ銀行株の下落が激しいが、これについてどう考えるか。
(答)
 米国IT不況を発端とした世界的な景気減速と同時多発テロによる不確実性の高まり、それに伴う企業収益の低迷や銀行経営環境の悪化が株価低迷の主因と考えている。
 今後、株価がさらに大きく下落するとは考えられないが、アフガン情勢や世界経済の先行き不透明感が払拭されていないことから、上昇余地も限られるのではないか。
 政府・日銀が機動的かつ本質的な政策対応に転じ、民間セクターも事業の再構築やコスト削減によって収益力・競争力を高めることが、株価上昇の条件と考える。
 銀行株の下落については、景気低迷・株価下落による体力の低下や、金融庁特別検査の結果に対する憶測、不良債権処理の行方についての不透明感が、その背景にあると考えている。
 銀行としては、不良債権処理を進め、事業再構築やコスト削減を一層加速することによって、銀行経営に対する不透明感の払拭を図り、収益力を向上させることが必要であると認識している。


(問)
 景気低迷が深刻となり、さらに長期化するとの見方が強まっているが、マクロ経済について銀行界としてどう見ているか。
(答)
 まず外部環境についていえば、米国経済はすでにリセッションに入っており、IT不況の深さや雇用情勢の悪化をふまえると、先行きについても慎重に見る必要があると考えている。米国の不況がアジアや欧州に及んで世界同時不況の様相を呈しており、日本経済を取り巻く環境は一段と悪化している。
 国内景気は、もっと厳しい。輸出が減少し続けており、生産や設備投資の低迷も顕著である。失業率が5.3%と過去最悪を記録するなど、雇用・所得環境へも悪影響が及んでいる。
 銀行から見ていて、景気が本当に厳しいことを感じさせられるのが、企業収益の悪化と地方経済の冷込みである。ほんの少し前までは成長産業といわれ、格付けや株価の高かったIT関連企業が、軒並み既往最大の赤字決算となっているし、中小企業の経営も一段と厳しさを増している。また、空洞化の加速や建設市場の縮小で、地方経済は牽引役も下支え役も失っている状況である。
 このままでは、2001年度の経済成長は98年度の▲0.6%を越える戦後最悪の不況となることは確実であり、2002年度もマイナス成長が続く可能性が高い。
 個人的な印象を申しあげると、日本経済の現状はかつてない状況にあると強い危機感を覚えている。
 こうした、景気低迷や株価下落の背景には、米国経済の急落という循環的な要因とともに、日本経済の構造的な問題があると認識している。
 米国経済の悪化で日本が不況になったということは、内需の回復力が弱かったということに他ならない。その背景には、不確実性の高まりによる個人消費の萎縮や、中国への生産移転に伴う「産業空洞化」の加速、技術革新への対応の遅れなどがあると思う。例えば、今年度上期の貿易黒字が前年比4割も減り、所得収支を下回るなど、明らかな構造変化の兆候が見られる。こういった経済の地殻変動に、もっと敏感になる必要がある。不良債権問題は、確かに避けて通ることができない重要な問題である。ただ、それのみに注目し続けていて良いのかという気がしてならない。
 このような本質的な問題に真正面から取り組まない限り、景気回復は難しいし、不良債権問題の根本的な解決もあり得ない。企業や銀行が、事業の再構築やコスト削減によって、成長力・競争力を取り戻すことが重要なのは論をまたない。一方、政府も政策を通じて、問題解決に一層強力に取り組まれる事を期待したい。
 国民の不安をなくすような年金制度や医療制度の改革、情報化・高齢化社会に適応した都市インフラの整備・構築、規制緩和や技術開発による成長産業の育成、教育の充実による人的資源の強化など、日本経済を再生するために取り組むべき課題は、目の前にもたくさんあるはずである。


(問)
 今回の特別検査に関して、その有効性には色々な議論があるが、銀行界としてはどのように見ているのか。
(答)
 特別検査は、市場の評価に著しい変化が生じている債務者に着目して、当該債務者に対して銀行が企業業績や市場のシグナルをタイムリーに反映した自己査定・引当を行なっているかを当局が検証することで、銀行の自己査定・引当に対する信頼度を高めていくことになると認識している。
 「特別検査」を行なった結果、引当が増えるのか増えないのかは個別の問題であり、何とも申しあげられない。特別検査によって、債務者区分が悪化すれば引当増となるし、債務者区分の悪化に至らなければ、引当は変わらない。
 ただ、特別検査は当然のことながら「銀行の引当を増やすこと」を目的としているものではない。したがって「銀行の引当増加が伴わなければ、特別検査の有効性がない」という主旨の議論は少々残念に思う。


(問)
 不良債権問題に関連して、銀行界としてRCCをどのように活用する方針か。
(答)
 前回の記者会見でも申しあげたように、改革先行プログラムに示されているRCCの機能拡充については、不良債権処理手法の多様化という観点から、歓迎すべきものと受け止めている。
 従来より権利関係が複雑なものを中心として、不良債権処理にRCCを活用しているところであるが、ご承知のとおり、我々銀行からRCCに対する買取りの申込みが、年2回のみに限定されてたことや、買取価格も極めて低い実態にあったことから、我々ユーザーから見て決して使い易いものとはなっていなかった。
 今回の機能拡充が実現し、入札への参加、債権買取価格の弾力化といった新しい機能の追加が図られることになれば、RCCへ売却可能な債権の幅が広がり、従来はRCCへ持ち込んでいなかった不良債権をRCCへ売却する機会が増加するのではないかと思う。つまり、我々金融機関にとっては、破綻懸念先以下の不良債権を最終処理する手段が一つ増えたことになり、こうした点からは、今回の機能拡充に大いに期待している。


(問)
 マクロ経済と政府の政策についての話であるが、現在、二次補正予算が必要ではないかという声が出ており、特に政治のほうではかなり議論が進んでいる。一方、経済界のほうでは二次補正について、そのあり方や必要かどうかも含め、意見が分かれている感じで見ているが、会長としてはどうお考えか。
(答)
 経済界全般の意見としてではなく、私の個人的な意見を申しあげたいと思う。先般決定された2001年度の補正予算についてであるが、まず、この補正予算はテロ事件後に景気が一段と冷込み、雇用情勢もさらに悪化するなかでまさに「時宜を得た」措置であったということである。中身についても雇用対策の充実など構造改革を先取りした適切なものであったと私は思っている。しかし、足下の景気や雇用の冷込みはこれまでになく厳しいという今の状況を考えると、経済がデフレスパイラルに陥ることを避けるためにも、もう一段の景気対策が必要になるかもしれないと考えている。景気があまり悪化すると構造改革の痛みが増幅し、経済再生への取組み自体が頓挫することもあり得るという問題もある。その場合、先ほども少し触れたが、都市部における幹線道路整備やバリアフリー化、官庁、学校、医療機関を結ぶ光ファイバー網の整備など、中長期的にも望ましくかつ景気の下支え効果にも確実であるというメニューをとりあげて、一定規模の第二次補正予算を編成することも検討に値すると考えている。
 その際、これは当たり前のことであるが、不要かつ非効率な支出は整理していかなければならない。補正予算を組む結果として必要であれば、国債発行枠についても柔軟に考える必要も出てくるであろうと考える。
 この国債発行に関連して、国債発行の増加で長期金利が上昇するのではないかということが一つ議論としてある。しかし、財政赤字の大きさもさることながら、これを制御する能力があるかどうか、それから赤字縮小の見通しがあるかどうかということが問題であろうと思う。構造改革を前倒しする形で補正予算が編成され、それによって経済や株価が安定するのであれば、国債に対する市場の信認も失われることはない、そういう点で国債発行についての懸念をあまりに大きく考えるのは現実的ではなかろうと見ている。


(問)
 二次補正予算は検討に値し、前向きに考えたほうが望ましいということか。
(答)
 第一次の中身の評価についてもう少し吟味する時間が必要である。ただ、今のような状況では、第二次補正予算についても検討を進めておくということがあってもよいと考えている。


(問)
 風説の流布について、例えば問題企業30社リストなどが出回り、憶測を呼び、それをまた雑誌が書き立てて、どんどん企業の信認が落ちていくといった動きについて、会長はどうお考えか。
(答)
 金融担当大臣もおっしゃっていたことであるが、風説の流布によって本来、生きられる企業が生きられなくなるというようなことがあってはならない。不公正なことであると私は思っている。
 風説の流布については当然のことながら、例えば上場企業であれば証券取引等監視委員会などで監視をしているところであるが、今のようなマーケットあるいは個別の企業が非常に神経質になっている状態の中では風説というものは、しばしば一挙に広がって、それが企業に対する不当な圧力になるという現象が起きるリスクが大きい。これについては銀行も含めて企業に従事しているもの同士が、もっときちんとした倫理観を持って対応しなければならないと考えているところである。


(問)
 例えば、外資系のエコノミストなどで、具体的な企業名を出して「ここが危ない」、「倒産の危険がある」など、雑誌のインタビューに答えているケースが非常に目立つが、そういった動きについてはどうか。風説の流布に値すると考えるか。
(答)
 そうした評論家やアナリストといった方々は、そういった情報の提供を業としているわけであるので、そのこと自体についてとやかく言う立場にない。ポイントは、不当に企業の信用を傷付けるというようなことがあった場合、それについて証券取引等監視委員会の監視によってそれが「問題」として適正に処理されているということが基本であるという点だ。それともう一つ、先ほど申しあげたように、昨今はマーケットが風評に対して非常に神経質な状況にあるので、実態とかけ離れた風評によって企業の信用が不当に傷付き、不当な扱いを受けるということはあってはならないことであり、我々も含め、そうした情報については皆が責任を持って発信することが大事だと思っている。


(問)
 ペイオフについてお伺いしたい。政府与党の間でもペイオフについては様々な意見があるようであるが、全銀協会長として、来年4月にペイオフを解禁することについてはどのようにお考えか。また、ペイオフを解禁する場合には、どういった環境整備をどこまで行うべきとお考えか。
(答)
 ペイオフ凍結解除の延期に関する議論がなされているということは承知しているが、本年4月に改正された預金保険法において、来年度以降はペイオフ凍結が解除されるとされているわけであり、当然のことながら、我々銀行としては、そうした前提で、名寄せデータ提供のためのシステムの整備や財務体質の強化等の準備を粛々と進めているところである。計画を変更すべきか否かという点について、どちらにすべきであるというようなことを申しあげる立場にはないと考える。
 決められたスケジュールに沿って、それぞれの金融機関が自己責任において準備を進めているところであり、全銀協としてもいろいろな機会を捉え利用者に対する啓蒙を進めているところである。また、システム面の準備状況については、監督当局が個別に検査をすることで進捗状況のチェックが行われている。そうした準備がペイオフ解禁の環境整備に繋がるものと考えている。


(問)
 特別検査を行うことによって、風説の流布が広がる側面があることは否めないと思うが、金融庁に対しては、特別検査を行う際にどのような点に留意してもらいたいとお考えか。
(答)
 前回のこの場においても同様のご質問があり、私からは大変心配しているということを申しあげたかと思うが、企業は信用リスクについて非常に神経質になっている状況にあり、金融庁に対しては、「どういう銀行にどういう企業を対象として検査を行ったかというようなことは絶対に漏れてはならない。銀行としても情報管理を慎重に行うが、金融庁としても念には念を入れて慎重に情報をお取り扱い願いたい」旨の申し入れを、いろいろな機会において行っており、直接、柳沢大臣や森長官にもお願いしているところである。


(問)
 風説の流布を防ぐためには情報管理をしっかりするということ以外にはないのか。金融庁がどの銀行に検査に入ったかという情報は徐々に広がっていくものであると思うし、どの企業を対象に行ったかという情報についても時間が経てばある程度漏れてしまうことは防ぎようがないと考える。情報管理の他に、風説の流布を防ぐための手段はないのか。
(答)
 具体的な知恵は無いと考えている。おっしゃるような意味の風説の流布を防ぐというためだけであれば、一番良い手段は何もしないことであろうと思うが、それは、銀行および金融監督当局の信頼の回復という点で有り得ない選択肢である。したがって、情報管理に注意をしながら特別検査を実行していくという以外に手立ては無いと考えている。アクションを起せば、ジワジワと漏れるかもしれないというご指摘であるが、だからといって特別検査をやるべきではないというレベルの議論はすでに通り越している段階にある。
 皆さまは個々の立場で新しい情報を求めて日夜ご努力をされていらっしゃるものと思うが、個別の情報はしばしば重大な問題を引き起こすものである。昭和の金融恐慌も、個別の名前が出たことで一挙に火がついたものである。報道関係の皆さまには、特に個別の情報については事実に基づいた正確な報道を行っていただくことをお願いしたい。何度も申しあげるように企業は信用リスクについて過敏といえる状況にある。新聞・雑誌・テレビ等において個別の名前が少しでも悪い情報として取りあげられるようなことがあると、取引先企業は直ちに決済条件を変更するなどの動きを見せる状況にあるため、皆さまにも、是非ご協力をお願いしたい。


(問)
 住宅金融公庫について首相自らも廃止と明言しているようである。民間としては大変な追い風とも思えるのだが、一方で民間だけでカバーできるのかという議論もある。この点について会長の考えを伺いたい。
(答)
 首相が先般ご発言された住宅金融公庫の廃止論についてであるが、まず私は、住宅金融公庫そのものが担ってきた政策目的の是非について、財政負担の実態なども明らかにしつつ見直しをはかるということが基本的に必要であると考える。国が住宅政策の一環として、どこまで住宅金融という手段を使って住宅政策に関与していくのかということ、その関与の度合いにより、廃止するのか、完全に民営化するのか、あるいは独立行政法人化するのかが決まってくるだろう。住宅金融公庫の機能が縮小されることについては、私どもが要望していることであるので、廃止という問題はもう少しいろいろな議論が必要だが、機能が縮小するという点では、そういう方向を望んでいる。
 次に、民間で代替できるかという意見についてである。住宅金融公庫融資は、長期、低利、固定金利という商品性を持っている。これは、郵貯や簡易保険などで集めた資金を基にした、マーケットに存在しないような超長期かつ低利の資金調達であり、さらに、一般会計からも年間5千億円前後の財政資金の補填を得て、成り立っているものである。こうした恩典なしに、今の民間の金融機関が全く同じ条件でローンを行うということは採算上難しい。特に、政策的に市場金利より低利なものを供給すべきだという形で国の政策目的が置かれるのであれば、これについては、例えば、利子補給を行うことや税制上の所得控除や税額控除といった恩典を与えるなど、国が一般会計を通じて直接に住宅政策を行うという道もある。そうした点をかみ合わせて、民間で代替していくということになろうかと思う。それが現実にありうる具体的なイメージである。そうしたものなしに、今のままで完全に代替できるかというと、それは大変難しいと考える。


(問)
 一般会計を通じた国の補助があれば廃止もできるということか、それとも縮小が現実的か。
(答)
 住宅金融公庫という法人の存在は別として、住宅政策を行っていくということでは、住宅取得のための金融には補助金を与えるとか、税金の面で優遇措置を行うなどいくつかの政策があり、そういうものを組み合わせていくことも考えられよう。住宅金融公庫の存在そのものは、今いろいろなことが議論されている。例えば、融資額を圧縮していくことであったり、証券化の面で民間の手助けをするなどの機能が議論されている。ただ、それは住宅金融公庫そのものの法人格としての形態をどうするかということとは少し距離のある別の議論かと考える。


(問)
 ペイオフについては、粛々と準備を進めており、計画を変更すべきかどうかは今申しあげるべきではないと判断を留保されているが、万一準備が進まなかったら、延期ということはあり得るのか。
(答)
 先ほど申しあげたとおり準備については、十分、来年4月に間に合うと考えている。


(問)
 再延期はすべきでないということか。
(答)
 すべきかすべきでないかということではなく、現時点では準備状況として再延期をする理由がないということである。しかし、これからまだ4ヶ月もあり、今後どういう状況が出てくるかわからないので、確定的なことを申しあげる段階ではなく、従来のスケジュールに則っていろいろな準備がされているということである。


(問)
 金融システムに問題が生じたら再延期もありうるか。
(答)
 「金融システムに問題が出てきた場合」ということであれば、すでに金融システムに問題が出てきた場合に備えてのセーフティネットの仕組みができている。金融システムに問題が出てきた、だからペイオフ解禁を延期する、というストレートな話にはならないと考える。


(問)
 ゼネコンや流通業界については再編・淘汰が必要だとの意見が結構あるが、これらの業界に対する最大の債権者である銀行からみて、どう考えるか。
(答)
 全銀協会長として特定の業界についてコメントするのは如何かと思うので、コメントをご容赦いただきたいわけであるが、一般的に申しあげて、ゼネコン業界に限らず産業界が過剰債務や非効率性といった構造上の問題に対して改革を進めていくことが、金融界における不良債権問題と同様に、景気回復の大きな要素であると考えている。その過程で、それぞれの業界で再編が進んでいくということは、業界を問わず、ある程度避けて通れない方向であろうと見ている。


(問)
 現段階でペイオフを再延期する理由がないと言われたが、どういう理由が出てきたら再延期ということになり得るのか。
(答)
 仮定の議論であるので、どういう状況になれば再延期になるかということは、正直なところ、何とも申しあげられない。


(問)
 住宅金融公庫以外の政府系金融機関についての考えを伺いたい。これらも住宅金融公庫と同じように、かなり利子補給を受けて銀行と競合する関係にあるところがあると思うが。
(答)
 具体的にどういう金融機関がということは差し控えるが、一般的に世界各国ともそうであるが、政府が金融機能を直接担うということはそう大きなウエイトを占めないのが一般的である。政府がやる手法というのは民間が行う金融に対して補助金を出すとか、保証をするとか、あるいは税の面からの優遇措置をつけるというような、本来の財政的手法で施策を打っていくというのが一般的であり、私どもは金融という機能については民間に最大限任せて欲しい、もし政策的に必要な低利子でというようなことがあれば、それは補助金の形で政府がインセンティブを与えるというやり方が我々は望ましいと考えている。ともすれば、どの機関でもそうであるが、一つの組織ができると自己増殖作用を持つものである。そういう意味で、金融については政府の担う金融機能がもう十二分に大きくなりすぎた。ここはもう一度、構造改革の基本理念である、民間が担えるものは民間にまずやらせる、そのうえで何が足りないかということを考える、という観点で政府系金融機関については見直すべきであると考えている。


(問)
 今の銀行業界の最大の問題は儲からないということだと思う。貸出しはどんどん減り、貸したい先からは逆にお金が戻ってくるという状況であるが、こうした流れを止めるにはどうしたら良いと考えるか。
(答)
 儲からないということにはいくつかの要素があるが、確かにどんな世の中でも貸したい先が常に借りてくれるとは限らないという状況がある。そこをうまく折り合いをつけて商売をしていくということであるが、いずれにしても今は、よく言われるように、企業についていうとバランスシートを出来るだけ軽くする、つまり有利子負債を減らすということがここ10年間位続いている動きであり、財務についての戦略であるので、どうしても景気の低迷による資金需要の低迷以上に、そうした構造変化の影響で貸出しが伸びないということがある。ここでどうするかということであるが、もう一つの儲けの要因は金利である。金利については、リスクに見合った利ざやが取れていないという指摘がある。これは長い間日本の間接金融中心の金融システムの中で、一時期、非常に金融が緩んだ時期には例えばリスクの相対的に高いところにもトリプルAの会社と同じレベルの金利を適用するというようなこともあった。そうした取引慣行は、金融機関のリスク対応の利ざやという考え方の浸透によって徐々に変化しつつあるが、とにかく需給関係が非常に緩い状況にあるので、なかなか思うようにリスクの高いところから高い金利を取れない、即ちリスクに対応した適正な金利に変更してもらえないというのが今の苦しみかと思う。ただ、現実の動きとしては、不良債権のコストというのは大変なものだから、不良債権化するようなリスクが相対的に高い企業であれば、それに見合うような大きな利ざやをいただかないと貸出は続けられないというのも事実であり、そうした意味で、リスクに見合った利ざやを頂戴するような動きを少しづつ進めて行く、そしてやがてそうした銀行のプライシングが世の中にきちんと受け入れられるようになるということが銀行の貸出関連の収益を高める唯一の道であろうと考えている。もう一つ収益力の問題については、我々としては貸出以外の分野をしっかりと育てていくことが重要である。例えばわかりやすい例では、投資信託が銀行の窓口で着実に個人の金融資産の多様化というなかで伸びている。そうした新しいお客様のニーズに対応した商品で新しい収益源を作り出していくということを他方でやっていく。こういった複合的な努力で銀行の収益力を回復し、高めていくというのが基本の戦略である。ただ、繰り返しになるが、今のような経済状態で貸出が伸びないということは、銀行の収益にとっては相当に大きな重しになっていることは事実である。