会長記者会見
2002年7月23日
寺西会長記者会見(UFJ銀行頭取)
斎藤理事報告
全銀協では、このたび、お手元に配布している資料のとおり、平成15年度税制改正要望の骨子を取りまとめた。
ご承知のように、今年は、関係各方面において、例年よりも早くから税制改正の議論がスタートしていることから、全銀協としてもこうした動きに対応すべく、関係の委員会で検討して取りまとめたものである。
なお、正式な平成15年度税制改正要望については、この骨子をもとに、さらに検討を行い、9月に取りまとめる予定としている。 私からの報告は以上である。
会長記者会見の模様
(問)
今年度の税制改正要望骨子のポイントおよび昨年度との違いについて伺いたい。
(答)
ご承知の通り、本年度は、税制改革に関する議論が前倒しで行われ、先月には、経済財政諮問会議および政府税制調査会が基本方針を公表したところである。全銀協としても、こうした情勢を踏まえ、前倒しで税制改正要望の検討を行い、昨日開催された税制委員会において、要望の骨子について合意を得るに至った。なお、関係各方面の検討は今後も引き続き行われることから、我々としても、そうした動きを踏まえつつ、要望の肉付けを行っていく必要があると認識している。
要望の内容であるが、足下の厳しい経済情勢に鑑みれば、一刻も早いデフレ経済からの脱却に資するような税制施策の可能性を追求したいと考え、「金融・産業の同時再生の推進」や「経済活性化」といった点をキーワードとして要望の枠組みを構築した。
具体的には、1.金融・産業の同時再生の推進、2.金融・資本市場および 産業の活性化、3.適切な経営環境の確保、4.金融商品・取引に対する課税の適正化が要望の4本柱となる。
個別の要望項目については、お手許の資料の通りであるが、経済活性化へのインパクト等も鑑みれば、1.(1)欠損金の繰越・繰戻制度の見直し、1. (2)産業活力再生特別措置法に基づく税制支援措置の拡充、2.(1)株式税制の更なる見直し、2.(4)土地税制の見直しなどがポイントであろう。
ただし、その他の項目も大事なテーマと考えており、今後関係各方面との連携を密に、要望の実現に向けて取り組んでまいりたい。
昨年度との違いであるが、景気に多少持ち直しの兆しが見られるとはいえ、我が国経済全体の置かれている状況は、依然として非常に厳しいと認識している。かかる認識のもと、経済を再び活性化し、早期回復への道筋を確たるものとするために、我々としても、銀行界に直接関係のあるテーマだけでなく、産業界の再生や活性化に資するようなテーマについても幅広く視野に入れた要望とすることとした。
具体的には、「金融・産業の同時再生の推進」を第一の柱として掲げ、銀行界のみならず産業界においても期待が大きいと考えられる「欠損金の取扱い」や「産活法に係る税制措置」といった項目を盛り込んだ点、また、第二の柱である「金融・資本市場および産業の活性化」において「証券税制」や「土地税制」、さらには「研究開発・設備投資に係る税制措置」などを盛り込んだ点などが、今年度要望の特徴である。また、ここ数年来の懸案とされてきた外形標準課税については、「現下の経済情勢に鑑み、外形標準課税は導入しないこと」とした。税制改正に寄せられる国民の切なる期待を考え、我々銀行界としても、国民経済的観点に立って、今後の要望活動に取り組んでまいりたい。
(問)
最近の円高と株価低迷も踏まえて景況感について伺いたい。
(答)
我が国の景気については、先月この場で、輸出の増加や在庫調整の進展等を主因に最悪期を脱しつつあると申しあげたわけであるが、基本的には、こうした見方を変えてはいない。足元の出荷・在庫の動きをみると、在庫調整の終了をうかがわせるものとなっており、回復の道筋は、徐々にしっかりしたものになってきているように思われる。
確かに、最近の日米株価の下落や、円高の進展など、日本経済の先行きを懸念させる材料が出てきていることは事実である。とはいえ、米国株の急落は、企業会計不信といった実体経済とはやや異なる要因が影響している。金融市場の動向や、その実体経済への影響に十分注意する必要はあるが、基本的には、我が国の景気回復シナリオがすぐに頓挫してしまうことはないとみている。
(問)
様々な所でペイオフの延期論・解禁論について議論されているが、改めて会長の見解を伺いたい。
(答)
ペイオフの問題に関しては、これまで申しあげてきた通り、来年4月からの全面解禁を前提に、経営努力を重ねることにより、預金者の信頼回復に努めていくことが最重要と考える。現在もそのスタンスに変更はない。
ただし、各方面からの議論に耳を傾けるとともに、預金動向等を注視していかねばならないことは、言うまでもない。
各方面からペイオフの延期論が上がっていることについては、現状の金融システムに対する評価として、真摯に受け止める必要があるものと考えている。
預金動向について若干申しあげると、このところ、定期性から流動性預金へのシフトがかなりの規模で進展していることは事実である。ただし、今のところ、業態間で大きな資金シフトが発生している状況ではないと我々は認識している。
(問)
金融庁の新体制に期待することを伺いたい。
(答)
申しあげるまでもなく、現在、金融界における最大の課題は、不良債権問題への対応である。各金融機関とも、経営の最重要課題として取り組んでいるところであるが、引き続き、政策面においても税制の見直し等、不良債権処理促進のための環境整備を進めていただくことを期待している。
また、同時に取り組むべき課題として、新しい時代にふさわしいビジネスモデルの構築があげられる。この点、先般発表された、“日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会”の報告書も踏まえ、変化に対応した規制枠組みの再構築等、金融分野の前向きな構造改革を推進するための諸施策の検討も期待したい。
(問)
ペイオフに関して、各方面から延期を求める声が出ているが、会長自身はペイオフを「全面解禁した場合のリスク」、「延期した場合のリスク」について、それぞれどのように見ているのか。
(答)
ペイオフ解禁に向けて何か起こるのか、とのご質問であろうかと思うが、先ほども申しあげたように、まずもって我々金融機関としては、金融システムの混乱が生じないように経営の健全化に全力投球し、その結果として預金者の信頼を回復していくことが責務であろうと考える。すなわち、我々の努力がまず第一にあろうと思っている。
我々のこうした努力が預金者や市場にどのように受けとめられるのかということの鏡として、預金動向等について十分注意を払っていくことが必要と考えている。
(問)
15年度税制改正要望骨子のなかにある、「欠損金の繰越期間の大幅延長」、「繰戻期間の延長」については、それぞれどの程度の延長を考えているのか。また「株式等譲渡益課税について、一定の要件の下、非課税とすること」とあるが、これは具体的にどのような要件を想定しているのか。
(答)
欠損金の繰越期間と繰戻期間については、現在、具体的にどの程度の期間が我々にとって必要であるのかということについて、取りまとめているところである。繰越控除が認められている期間は日本では5年であるが、欧米諸国の例をみると、アメリカでは20年、イギリス・ドイツでは無期限になっており、これらを参考にどの程度の期間が妥当であるのか、きっちりと議論をしてまいりたいと考えている。繰戻還付期間については、日本では現在1年であるが凍結中である。例えば、フランスでは3年認められており、こうした欧米の事情も踏まえ、今後検討してまいりたい。今後、9月の理事会における要望の最終取りまとめにむけて、関係各方面と内容を詰めてまいりたいと考えている。
株式等譲渡益課税の非課税要望における「一定の要件」とは、例を挙げて申しあげると、「この9月から証券会社が申込の受付を開始することを予定している特定口座を通じて、向こう2年の間に購入した株式の譲渡益については、非課税にする」といったようなことを考えている。
(問)
格付についてお尋ねしたい。7月2日にUFJ銀行を含めてムーディーズから格下げを受け、現在の評価は各行とも98年の金融危機時と同程度の低いものとなっているが、この点について、実状を反映しているものかどうかということについて考えを伺いたい。また、東京都が取引金融機関を格付しようとする動きがあるが、どのように受け止めているのか。
(答)
格付についてということであるので、個別行として回答する。現在の格付については、銀行に対する一つの評価ということで真摯に受け止めたいと考えている。我々の課題である、不良債権問題の抜本的な解決や株式売却を通じた市場リスクの圧縮に加えて、収益構造、コスト構造の抜本的改革にスピードを上げて取り組んでいくことで財務基盤を一日も早く充実させて、格付の向上に繋げてまいりたいと考えている。
東京都の銀行格付の動きについては、一つの時代の流れであると考えている。企業も個人のお客さまも銀行を見る目は非常に厳しくなっており、こうした目にしっかり応えていくことが時代の要請であろうと考えている。その行き着くところが企業や地方公共団体による格付であろう。こうした動きも念頭に置きながら我々は収益構造の改革等に真剣に取り組んでいかなければならないと考えている。
(問)
アメリカでは、エンロンやワールドコムの粉飾がなかなか見抜けず格下げが遅れたという事態の影響から、格付そのものの信憑性が問われているが、会長は格付の信憑性・信頼性についてどのようにお考えか。
(答)
エンロンやワールドコムの件については、基本的には例外的なことであろうと受け止めており、これが現在の格付制度全般の屋台骨を揺るがすことになるというような認識は持っていない。
(問)
郵政関連法案が近々成立の見通しであるが、内容面を含めた評価について伺いたい。
(答)
今国会で審議されている日本郵政公社法案については、企業会計原則の導入、金融庁長官による立入検査権限の規定等、従来我々銀行界が主張してきた内容の一部が認められたとはいえ、民業補完等の目的規定が明確化されなかったことや、国庫納付についても規定は設けられたものの、当面支払いの先送りが予想されるなど、残された課題は多いと認識している。一方、同法の施行に関連して改正される郵便貯金法においても、郵便貯金の預入限度額について、国および地方公共団体の預金が新たにその対象に加えられたが、我々銀行界がかねてから要望してきた現状1,000万円の預入限度額の引き下げは盛り込まれておらず、遺憾である。銀行界としては、これらの点を中心として、国営の公社である限りは、制度本来の目的に立ち返ってその事業運営を限定的なものとし、事業の規模や範囲を縮小する方向で検討がなされることを強く求めてまいりたい。
(問)
今のは各論の評価であったと思うが、全体としてはどのような印象を持っているか。
(答)
総論としては、今まで手がつけられなかった郵貯の問題に手がついたということは大きな前進と言えるかもしれないが、我々にとっては各論レベルで競争原理が機能する仕組みになるのかどうかが重要であると考える。今後、国庫納付等々各論について、イコールフッティングの確保をベースに様々な議論がなされるよう強く求めてまいりたい。
(問)
ペイオフについてお伺いしたい。金融機関としてはまず、経営努力が大切という話であったが、具体的には何をこれからあと7ヶ月少々の間にやっていくべきと考えるか。
また、金融機関の間でも利害が異なり、また与党と政権との間では、これから秋口には政局の大きな焦点になっていくと思うが、預金者の立場から見ると、このようなデリケートな問題が政局の焦点になっていくということ自体が預金者の心理を動揺させる一つの要因になってくると思う。このように議論が進んでいくこと、デリケートになっていくということ、今の議論の進め方について関係者の一人としてどのように考えるか。
(答)
これまで様々な議論がなされてきているが、まず大事なのは、金融機関の経営努力である。不良債権処理を進める一方、車の両輪の一つである収益構造改革およびコスト構造改革等をスピーディーに推し進め、我々の健全な姿を利用者の皆さまに見ていただくことが重要であると考える。これまでも官民あげて金融システムの安定化、不良債権問題の解決に向け、様々な取り組みを行ってきたことで、金融システムに対する不安はかなりの程度払拭されているのではないかと考えている。ただ、各方面からペイオフの延期論が出ていることも事実であり、我々としては、経営努力を重ねていくことで改めて利用者の皆さまの信頼回復に努めてまいりたい。
議論の進め方についてであるが、こういった延期論が出てくることは、我々に対する警鐘だろうと受け止めている。今後の議論の進め方につき、何か申しあげるよりも、そういった議論がなされていること自体を真摯に受け止め、経営努力で克服していかなければならないと考える。
(問)
ペイオフに関連して1点お伺いしたい。先ほど全面解禁をめぐる各方面の議論があって、それらは真摯に受け止める必要があると言ったが、そういった意見を真摯に受け止めて、全銀協としてどういった形で対応をしていこうと考えているか。また、与党は9月には結論を出したいと言っているが、これを全銀協の議論の目途とするのか。
(答)
銀行界の内部でもいろいろな意見があるということは皆さまご承知のとおりである。「金融システムに対する内外の信頼を取り戻すためには、スケジュールどおり実行すべきだ」という意見がある一方、「仮に金融機関から資金流出が相当程度発生すれば、企業への資金供給にも影響を与えることになりかねない、また風評リスクも懸念される」という両論があることは事実である。ただ、銀行界内部の認識としては、まず我々自身の経営を見直して、経営努力を積み重ねることで、預金者の信頼回復に努めていくことが何よりも重要であるというスタンスがマジョリティーを占めているものと思う。したがって、現時点で、全銀協としてペイオフの全面解禁の是非やタイミングについて意見を集約するという対応は想定していない。
(問)
ペイオフの関連でもう一つ質問であるが、本日の理事会でもペイオフの問題が多少議論になったかと思うが、第二地銀協会長から全銀協として行動を起こして欲しいという要望はなかったか。
(答)
本日、理事会後の懇談会において、森本第二地銀協会長から第二地銀協の中ではペイオフ全面解禁に対して慎重な意見がかなり強いというような発言はあったが、第二地銀協から何か要請があったということではない。
もちろん、こうした意見は真摯に受け止めたいし、今後も預金動向等、各行の状況も踏まえて、緊密な意見交換を行ってまいりたい。
(問)
第二地銀協の意見交換の場でこういう意見が出されたということを、森本会長が会長に伝えたということか。
(答)
本日の理事会の後の懇談会という自由なフリーディスカッションの中で、そのようなお話を森本会長からお聞きしたということである。
(問)
第二地銀協では、かなり具体的に、ペイオフ全面解禁した場合のリスクを挙げて、慎重に対応を考えるべきではないかと言っているが、全銀協ではどのようなリスクがあるかというような意見交換は行なわないのか。
(答)
今のところ、具体的な議論を行なっているわけではない。ただ、業態によって様々な事情、意見があることは事実であり、今後もディスカッションの中で吸収していく必要があると考えている。
(問)
預金シフトの動向につき、改めて見解を伺いたい。
(答)
業態別の預金をもう少し詳しく見てみると、足下2002年の3~5月で預金の対前年同月比の増減率は、都銀が1割ぐらい増え、地銀が若干増加、第二地銀が約2%の減少となっている。銀行以外では、信金が2%程度の減少である。
ただ、この都銀の実質預金の増加の主因は、都銀内における譲渡性預金からの振替やエンロンの事件を契機としたMMFからの資金の振替等が大きな原因と受け止めている。業態間で、地銀、第二地銀から都銀に大きな資金シフトが起こっているということではないものと認識している。
(問)
先ほど、ペイオフについて、集約すれば、信頼を取り戻すにはペイオフ全面解禁の実施が必要ということと、風評リスク等があるのではないかという2つの考え方があるとおっしゃっていたが、その2つの考え方のうち、今の時点では、会長自身は最初のほうの考えをお持ちということになるのか。
(答)
繰り返しになるが、銀行界内部のマジョリティーの考え方は、まず、我々の経営努力を通じて預金者の信頼回復に努めていくことが最重要であるということであり、私自身もそのような認識である。
(問)
最近また株価が少しあやしくなってきているが、株価の低迷が金融機関の経営ないしは金融システムに与える今後の影響についてどのような見方をされているのか。また、そういった状況がペイオフの延期論に何か影響を与えるのか、それともそれは別問題なのか、その辺についての見解を伺いたい。
(答)
株価下落の影響ということであるが、一般論で申しあげると、時価会計が導入されている下、株価の低迷は最終損益の悪化や、自己資本、配当可能原資の減少等に繋がっていくわけであり、決算や財務に影響を与えることは事実である。こうした観点から、我々は株式保有残高の圧縮を進めてきているわけであるが、今後とも、こういったリスクを回避するために、大手行各行とも株式の売却に注力していくことになろうと考えている。現時点で中間決算に与える影響を予測することは非常に難しいが、景気の回復軌道もしっかりしつつある中、株式市場が活性化することを期待したい。
株価の低迷とペイオフについてであるが、株価低迷に耐えうる我々の収益力があれば金融システムの安定化に繋がっていくわけであり、まずは自分達が経営努力を積み重ねて、預金者の信頼を回復していくということが今求められているものと考える。
(問)
2点伺いたい。1点は、地域金融機関を中心に当局から再編促進策が出ているが、地銀では必ずしもこの合併促進策に対して前向きではないという印象を受けるが、全銀協としてはどう見ているか。もう1点は、ワールドコムに関して、高木長官は邦銀の貸出による影響は微々たるものだと言われていたが、これについて改めてどのような影響があったのか確認したい。
(答)
銀行が市場や利用者から評価される金融機関になるためにも、また金融システム全体の安定を確保していくためにも、各行において経営体質の強化、財務体質の健全性の向上が強く求められていると認識している。再編や合併、統合は、こうした目的を達成するための一つの選択肢であり、基本的には各経営者の判断により進められるべきものであるが、再編をより行ない易くするための環境整備を実施しようという議論は意義があることと考える。
2点目のワールドコムの与える影響については、全体を承知していないのでUFJ銀行のことだけを申しあげると、決算に大きな影響を与えるようなことはない。
(問)
信用リスクに見合った金利設定ということに大手行を中心に5月から取り組まれているが、会長として、個別行としての立場でも結構だが、現状と問題点・課題をどう捉えているか伺いたい。
(答)
UFJ銀行のトップとして申しあげる。信用リスクに見合った金利を頂戴するという取組みは以前より行なってきたが、この4月から、行内の格付けを開示して透明性のある交渉を行なっている。約3ヶ月が経過したが、この間、お客さまの関心は非常に高く、是非開示をして欲しいとの申し出を何度も頂いている。これを受けて、私どもでは格付け開示の対象を拡大する決定も行った。今後、お客さま1社1社との話し合いになるわけであるが、透明性も高めながら、お客さまのご理解を得て進めてまいりたいと思っている。まだ、具体的な成果を申しあげられる段階にはないが、着実に成果が出始めていると認識している。