会長記者会見
2003年11月18日
三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)
鵜飼専務理事報告
私からは、まず、振込などの内国為替業務を営む金融機関相互間のオンラインネットワークである全国銀行データ通信システム、略して全銀システムというが、その第5次のシステムが、昨日、無事に稼働したことを報告させていただく。
本件については、昨日、記者クラブにリリースを配布させていただいているが、この後、三木会長からもお話しがある予定である。
次に、本日の理事会では、年末に向けた金融の円滑化について、お手元の資料のとおり、申し合わせを行った。
会長記者会見の模様
ご質問をお受けする前に、私から一点申し上げる。
第5次全銀システムが昨日、11月17日から稼働した。切替は無事に行われ、順調に稼働している。
全銀システムは、昭和48年4月に発足した内国為替業務を営む金融機関間のシステムで、これまで30年間にわたり内国為替業務の発展に貢献し、決済システムとして先導的役割を果たしてきた。加盟金融機関数は1,679行、37,246店舗となっており、ほとんど全ての民間金融機関が加盟しており、世界にも例を見ない一大ネットワークシステムである。また、平成14年度の取扱高は、件数で12億5千万件、一日平均510万件、金額で2,193兆円、一日平均8兆9千億円に達している。
全銀システムは、取扱データ量の増加および加盟金融機関数の増加等に対応し、これまで順次レベルアップを行ってきたが、平成7年に導入された第4次全銀システムのシステムライフの到来に合わせて、平成11年度から第5次全銀システムの検討に着手し、5年にわたる検討と試験を経て、このたび稼働の運びとなった。
第5次全銀システムでは、①処理能力のレベルアップを図り、1時間当り380万件、一日当り1,500万件の処理が可能となるとともに、②従来の東京・大阪2センター方式に加え、データの暗号化、情報系システムによる還元資料の電子化など、システムの安全性・信頼性の確保や情報セキュリティー対策に更に万全を期している。また、③個別行の破綻が連鎖しないよう決済リスク対策にも十分配意したシステムとなっている。
社会の基盤インフラである決済システムの高度化とその安定した運営は、全銀協が果たすべき大きな役割の一つであると認識している。全銀協では更なる決済リスクの削減の観点から、銀行間資金決済の大口・小口区分によるハイブリッド化などについても検討を進めており、今年度中にも方針を固めてまいりたいと考えている。
(問)
昨日、日経平均株価が1万円を割りこみ、株式相場が再び下値を模索するような気配を見せはじめている。銀行の経営問題についても銀行株の軟化というか、一時からすれば下がっているということで表れてきているように思う。25日には大手銀行の中間決算が公表される。既に上方修正が行われており、良い決算になろうが、そうした見込みにもかかわらず、ここにきて銀行株の下落が顕著になってきている。これについてどのように見ているか。
(答)
銀行株は、このところ下がっているが、これは急ピッチで上昇してきたことの反動が一番大きいかと思う。ただ、昨日の銀行株の下げについては、これに加えてイラク情勢の混乱とかテロの問題やアメリカでの投信会社の不正疑惑などによるニューヨークおよび日本の株式全般の下げの影響等が重なったためと見ている。
しかしながら、銀行を取り巻く環境がここにきて悪化しているというわけではないと思う。わが国の景気も持ち直し傾向にあり、企業業績についても持ち直している。不良債権比率も各行とも順調に低下させてきており、16年度までの半減目標に目処がつきつつあるということだと思う。銀行を取り巻く環境には変化がないというか、むしろ一頃よりも良い環境になっている。既に中間決算の上方修正が相次いでいるが、来週の決算発表では、比較的良い決算が発表できるのではないかと思っている。
(問)
銀行株が下げはじめたひとつのきっかけとして、りそなグループの財務戦略があったように思う。りそなが一般の大手銀行よりも厳しい査定を実施したことで、大手銀行の査定がまだ甘いのではないかとの見方から、買いの主役であった外国投資家の一部に利益確定の売りが出たというのが一つの背景にあったかと思う。最近では地域金融機関の問題もクローズアップされており、査定のあり方についても、りそな基準、一般の大手銀行基準、それよりも甘い地域金融機関基準とトリプル・スタンダードになっており、これが金融システム全体の行き先について不安が出てくる要因ではないかと私は考えているが、その点について意見を聞きたい。
(答)
これは前回も申しあげたが、りそなの査定が他の銀行の査定に大きく影響することはないと思う。りそなは、新経営者がV字型回復を達成すべく非常に厳しい見方に基づき査定されたと思う。私どもは個別に一社一社よく見て、DCF法に基づき査定をやっているので、これがりそなの引当率が高かったからといって、影響を受けることはないと思う。スタンダードがどうなっているのかについてであるが、りそながどのような査定をされたかは明らかではないが、りそながおそらく同じような査定の中でギリギリ厳しく見て、それを集計してあのような結果になったのではないか思う。そうでなく、ただ何%と比率を上げるだけでは、これは問題があると思う。その点については、りそなの経営者も良く理解された上で対応されたことだと思うので、スタンダードが2つになっていることはないのではないか。やはり、DCF法で個別に査定していくというのがスタンダードだと思う。地域金融機関についても、これはむしろリレーションシップバンキングの中で解釈等に若干の差があるかもしれないが、スタンダードがはっきり2つになっているかどうかについては存じあげない。いずれにしろ、これが我々の決算に大きく影響するということはないと思う。
(問)
地域に関連して、銀行界全体の課題として銀行過剰、オーバーバンキングの問題があると思う。とりわけ地方には銀行の数が多く、これをどうしていくかというのが金融行政および金融市場の大きな課題の一つだと思う。その際に、例えばりそなグループの支援に使われた預金保険法102条というものが万能なのかどうかとの観点から、新たな予防注入制度を創設すべきだとの意見が予てからある。直近では福井日銀総裁が発言されたりしているが、全銀協としてはどのように考えるか。
(答)
まず、オーバーバンキングの解消は中々難しいことではあるが、やはり市場原理を尊重して市場機能を活用していくことしかないのではないか。平たく言えば公の関与を極力減らすということだと思う。安易な公的資金の注入であるとか公的金融機関の肥大化、こういったものはオーバーバンキングには非常にマイナスであり、そうしたことはやっていただきたくはないと思う。
次に、予防的注入の話であるが、公的資金についてはこれも予てより申しあげているが、公的資金というのは国民負担に繋がる大変重いものなので、金融システムに不安があるときに入れるものであり、個別の金融機関の救済に使うべきではないというのが基本的な考えだと思う。現在、我々金融界は、自己資本の充実に努め、また収益も一生懸命上げるようにしているので、全体として自己資本の不足が生じている状況ではないのではないかと思っており、公的資金の注入は慎重であってほしいと思う。また日銀総裁のご発言であるが、確かに総裁はペイオフを実現すべきであり、その前に危ない銀行には公的資金を入れる必要があるのではないかとおっしゃっているのだと思う。それはそれで、全くわからないわけではない。ペイオフは、金融システムの安定の為には越えなければならないハードルだと思うので、ペイオフ実施は望ましいと思う。その際に、システム不安に繋がるようなものがあれば、それはその時点で考えるべきであるが、公的資金を入れるかどうかの議論はそこに焦点を当てて検討するのであれば一つの考え方だと思うが、一般的にイージーに入れるべきではないと思う。
(問)
衆議院の総選挙が終わり、連立与党による小泉政権がもう一度継続して政権を担うということになると思うが、新しい小泉政権への注文についてお聞かせ願いたい。特に、金融界に関係するところでは、公約となっている郵政公社の民営化等について、現段階での全銀協としての考え方をお伺いしたい。
(答)
今回の総選挙では、与党が安定多数を確保し、小泉政権の路線が支持されたと受けとめている。したがって、引き続き、構造改革の加速とデフレ克服に向けた政策対応をお願いしたい。
具体的には、やはり、規制改革ということで、いろいろな規制を撤廃してほしいと考える。また、不良債権処理促進のための税制や再生のための税制等の税制改革も進めていただきたい。また、年金などの社会保障制度改革もある。
今お話に出た、郵政の民営化については、そのなかで最も大きな目玉であるが、これは、金融界としては非常な係わりを持っている。ご承知のとおり、私ども全銀協は、かねてより、郵貯は廃止、または民間金融機関との公正な競争の条件を整えた上での民営化を主張してきた。これから様々な議論がなされると思うが、大事な視点としては、公正な競争が確保されるような要件、金融システムの安定性確保、民営化した郵政公社のリスクの問題、といった基本的なところをまずよく考えていただきたい。個人的には、そういったことを満たすのは難しいと思うので、私個人としては郵貯は縮小、廃止の方向ではないかと思う。いずれにしても、12月までに全銀協としての意見をまとめたいと考えている。
(以上、幹事社質問)
(三木会長)
皆様からご質問をお受けする前に、個別行のことで大変恐縮であるが、この場をお借りして、一言お詫びを申し上げさせていただく。
10月29日発売の週刊文春ほか、複数の雑誌、新聞記事で、弊行の内部情報流出が取りあげられた。
残念ながら、本件は私どもが9月から本格展開している企業再生支援施策の検討過程の資料が外部に流出したものと見られる。
お客さまの個社名や信用格付を含む資料が記事に掲載されるに至ったことは信用を旨とする銀行として、洵に重大な事態と受け止めている。
個社名が掲載されたお取引先はもとより、関係する方々にご迷惑をおかけしたことを、改めて深くお詫び申しあげる。
本件対応のため、お客様に対して、役員をはじめ担当の部長、支社長がお詫びと説明にお伺いする一方、10月29日に、副頭取の畔柳を委員長とし、外部の弁護士にもご参加いただき、行内に調査・対策委員会を設置した。調査・対策委員会では、情報の流出経路の特定、当該施策の情報管理プロセス上の問題点把握、再発防止策の策定に取り組み、11月14日に調査・対策報告をまとめた。
調査では、流出経路の特定までには至らなかったが、当該資料作成・配布に係る情報管理プロセスに改善すべき点のあったことが認められた
直ちに、対応策として、取引先重要情報の管理厳格化、会議資料等の取扱ルールの厳格化を実施済である。行内全体に強く注意喚起を図った。
加えて、本件に係る経営責任、管理責任を明確にするため、責任者に対し行内処分を実施した。
また、今週からは、調査・対策委員会を発展的に解消し、「情報管理強化委員会」を設置した。本委員会では、行内全体の情報管理に係る意識・知識・スキルの向上、組織対応を含めた再発防止策の具体的な立案・実施を全行的に推進していく。
本件は、何よりも信用が求められる銀行にとって、あってはならないことである。全力で再発防止策の徹底、情報セキュリティ管理体制の強化に取り組んで参る。
(問)
先週末にりそなホールディングスの新しい経営健全化計画が発表された。りそなグループとしては、これまでにトータルで約3兆円の公的資金が投入されたわけであるが、計画の中ではいつまでに返済されるということが明記されなかった。これまでの公的資金投入行は、平成何年までに公的資金を返済するということを明記していたが、今回、りそながこのようなケースとなったことについてどのように受けとめているか。
(答)
りそなグループの新経営者としては、非常に強い気持ちでリストラに取り組まれ、人員の削減、組織の簡素化等々の計画を立てられたと拝見した。しかしながら、確かに公的資金の返済については、今回記述がなかった。公的資金注入の前提は、やはり公的資金注入を機に銀行を建て直し、いち早く公的資金から脱却するということを要求されているわけである。今回は、多額かつ時間的な問題もあり、その回答まではできなかったということではないかと思うが、来年にはもう一度計画を出されると思うので、その時点では、返済の計画に触れられるべきではないかと考える。
(問)
先ほどの情報流出の件で、行内処分をなされたということであったが、もし差し支えなければ、どういう立場の方がどういった処分だったのか教えて欲しい。
(答)
この資料の作成および管理にあたった担当役員および部室長については、頭取譴責および給与1ヶ月・10%のカットをした。また、経営責任にもなると考え、私および副頭取の畔柳の2名について、月棒の1ヶ月・10%の返上をした。
(問)
決算を迎えるにあたり、さきほど不良債権比率を順調に減らしているとの話もあった。各行は本業での儲けを重視していくようになると思うが、特に、リテール部門を貴行も含め各行は強化する努力をされていると思うが、これまでリテール強化の努力をしてこられて、どのような手応えあるいは障害を感じているか、また今後の業務拡大の可能性等について教えて欲しい。
(答)
ご指摘のとおり、リテール分野は、今後私ども銀行が取り組んでいく最大の分野だと思っている。今までは、銀行は法人中心であったと思う。リテールについては、融資の面も運用の面もこれからの時代だと思っている。法人は徐々に間接金融から直接金融に移行し、また有利子負債を減らそうとする動きがある。むろん法人は法人でいろいろな提案をしたりフィービジネスに力を入れていくが、個人の分野はこれまで日を当ててこなかったということもあり、銀行は特に個人に注力している。
東京三菱銀行でいえば、まず部門制を敷いて、事業部門としてリテール部門を作ったのが一番大きな変化である。それまでは業務本部のなかで個人を扱っていた。また営業店も支店と支社とに分けて、「リテールは支店」、「法人は支社」ということになり、非常にハッキリした。そういう体制の下で、いままで実施した施策で一番大きいのは、個人向けの新商品を色々と出したということだと思う。住宅ローンであれば「1%ローン」という商品を出し、また少し前になるが普通預金について一定残高以下の方からは口座維持手数料をいただくが、条件を満たす方についてはいろいろな優遇サービスをさせていただく「メインバンク」という商品を提供している。その他、無担保ローンなどいろいろな商品を投入しており、リテール部門の収益は上がってきている。今後、私どもとして来年度あたりに力を入れたいと思っているのは、一つはカードである。ICカードを武器にして、ここにクレジットカード等あらゆるサービスを入れ、通帳も不要にし、本人確認もしっかりできるというカードビジネス。もう一つは、MTFGとして「MTFGプラザ」を開設して、一つのお店の中に銀行、信託、証券を一緒にしてワンストップショッピングができるようなお店を作りたいと思っている。いずれにしても、これからの中期計画のなかで収益を伸ばす中心はリテールとなっている。
(問)
東京都の新銀行構想で、外資系の金融機関を買収するとか幾つか動きがあるが、東京都が具体的にどう外資系の金融機関をマネージできるのかよく分からないが、銀行のオーソリティとしては、その辺りをどう受け止めているか教えていただきたい。
(答)
この件は、詳細が分からないので、なんともコメントできないが、一般論として、前にも申し上げたことの繰り返しになるが、やはり公的な金融機関が安易に民間のところに出てくるべきではないと思う。それから、特に中小企業を重点に営業されると言われているが、これは、やはりコストとリスクの問題がどうしてもある。私どもも今、中小企業を一生懸命やっているので、優良中小企業を開拓しようとすれば我々とのバッティングになるし、それから逆に我々に出来ない先をやるということであれば、これはまたリスクの問題がある。どちらにしてもかなり難しいのではないかと思う。
今回の外銀の買収についても、設立認可よりもそのほうが易しいのではないかというように報道されている。ここで信託をやろうというよりもそういうことなのかなという感じがしているが、よく分からない。
(問)
産業再生機構の件だが、今まで出てきた支援先は割合と小さいところだが、何故、銀行がもっと大型の案件を機構に持ち込まないのか。
(答)
個別案件でいうと、確かに大型案件は持ち込まれておらず、これからそうなればいいとは思う。産業再生機構がもっと活性化するには機構はどうあって欲しいか、また銀行は何をすべきかということで申し上げると、やはり産業再生機構というのは再生を目的とする機構であり、企業の再生、企業を育てるというか育むというか、そういうことについて非常に弾力的であって欲しいという感じがする。これは、買取価格の問題もそうであるし、担保価値の問題もそうである。その企業がゴーイング・コンサーンというか、再生していくとすればその価値はどうかということで見ていただけるといいなという感じはする。また、事前相談等についても弾力的にしていただきたい。そのようなことは私どもも機構にお願いをし、また機構でもそうしたつもりで考えられるということで伺っている。また、銀行としても不良債権問題が、処理から再生へ移っているので、問題先を再生するにはどうすればいいかということを考えた場合に、機構へ持ち込むべきものを持ち込み、機構とのコミュニケーションをよくしていくことが必要と思う。
今の8社が進むと、少しそういう地合ができてくるのではないか。
(問)
大型案件が機構に持ち込まれない一つの問題は引当が足りないということが言われているが、これについてはどのように見ているか。
(答)
持ち込むのは個別の銀行であり、またそれぞれ個別の個社の案件であるので一概には言えないと思う。
私どもに関しては、主力で大口の問題案件というのがなく、質問とずれてしまうが、今回持ち込まれている企業に対して、非主力として機構を活用するというかご協力するということはやっている。
大口先について持ち込まれないのは引当金の問題なのか、あるいはその他に事前協議が十分でないのか、考え方のご理解が得られていないのか色々あるかと思うが、引当が特に問題だということではないと思っている。