2004年3月23日

三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)

斉藤理事報告

 本日は、理事会に続いて総会を開催し、平成16年度の事業計画案および予算案を諮ったほか、平成16年度の理事を、お手元の資料のとおり選任した。任期は4月20日からである。なお、会長、副会長は、4月20日に開催する理事会において選任することとしている。
 次に、本日の理事会では、お手元の資料のとおり、「大口決済システムの構築等資金決済システムの再編について」と題する報告書を取りまとめた。これは、いわゆる日銀ネット、外国為替円決済システムおよび全銀システムというわが国の主要な資金決済システムについて、大口資金専用の「大口決済システム」を新たに構築することにより、リスク削減や資金決済効率の向上を図るとともに、大口資金決済の一元化を展望して、その再編を図ることを提言するもので、本日、日本銀行に提出している。
 なお、本件は、内容がいささか専門的であるので、ご質問等については、別途、事務局にご照会いただきたい。
 また、お手元に2種類のパンフレットをお配りしている。全銀協では、従来から、銀行の役割や金融の仕組み等について、各種の学校向けパンフレットを作成してきているが、今般、これまでのパンフレットの内容・体裁等を一新して、新たに中学生向けおよび高校生向けのパンフレットを作成し、全国の高等学校、中学校等へ配付したので、ご参考までにお配りさせていただいたものである。
 なお、全銀協としては、学生や社会人への金融に関する教育・啓蒙活動の重要性がますます高まっていることを踏まえ、今後共、この分野に注力して参りたいと考えている。これ以外にも様々な企画を検討しており、それぞれ完成次第、皆様にもご報告したいと考えている。 


会長記者会見の模様


(問)
 個人消費がようやく持ち直し傾向を見せ、株価も堅調に推移している。景気の現状の分析と先行き、為替や株価の動向をどのように見ているのか。あわせてこうした環境の中で3月末が近づいてきているわけであるが、3月期の銀行決算の景色はどのようなものになりそうなのか、その見通しを聞かせてほしい。
(答)
 景気は、着実に回復していると思う。輸出の好調に加え、生産や設備投資も増加している。地域別やセクターによりバラつきがあると言われているが、景気の回復が徐々に地方や今まで遅れていたセクターにも及ぶなど、広がりを増してきていると思われ、景気の回復は着実に続いているのではないかと思っている。
 為替は、一旦、円安の方向に振れた後、今、戻ってきているが、政府・日銀の介入の腰がしっかりと入っている一方で、日本の景気が回復していることによる円高要因を踏まえると、105円から110円の間での動きになるのではないかと思っている。株価は、企業収益が非常に良く、景況感も良いことから悪材料はさほどないと思う。問題はテロへの懸念であるが、株価の地合いはそれを除いては悪くはないと思っている。そういう中で金利、特に長期金利は、景気の緩やかな回復に応じた若干の上昇はあるかもしれない。しかしながら、一方で当面デフレの解消ができないと思われるので、その上昇余地は非常に限られたものになるのではないかと思っている。
 そのなかでの銀行決算であるが、ご承知のように中間決算は多くの銀行が久々の黒字を計上することができた。下期も景気が良好であり、株価も安定していることから黒字定着はまず間違いないのではないかと思っている。私どものMTFGグループでいえば、昨年11月末に公表した黒字予想どおりの着地になると思っている。


(問)
 決算について重ねて伺うが、昨日、地価動向について発表があり、また一方で、特別検査が入っている状況がある。不良債権の処理の進捗についてはどのような見通しを持っているか。どのように影響すると考えているか。
(答)
 不良債権については、銀行によって若干のバラつきはあるものの、やはり大きく峠を越え、16年度末までに不良債権比率を半減させるという再生プログラムの目標達成が視野に入ってきたと言って良いと思う。半減目標の対象は主要行であるが、昨年9月末で6.5%になり、3月にはまた下がるであろう。私どもMTFGの例で言うと、スタート時点では8.1%だったが、既に昨年9月で3%台になり、3月には3%を切り2%台に入ると思う。そういうことで多少バラつきはあるが、峠は越えているのではないかと思う。地価については、全体では下がっているが場所によっては上昇するところも出てきており、少し動き出してきたかなと思う。しかし、全体としてはまだ下落傾向が続いている。担保としている土地等の評価については決算のたびに見直しているので、地価動向により全体の不良債権比率が悪くなるような大きな影響は出ないと思う。


(問)
 産業再生機構が正式にカネボウの支援を決定した。先月の会見では三木会長から、化粧品事業を支援して本体を支援しないという当時のスキームのあり様や債権放棄を伴わないとされた当時の状況について、果たしてフィージブルかというご意見があったかと思う。今回正式に決定した機構のカネボウ支援についてどのように評価しているのか。また先行きについてどのように見ているのか。
(答)
 前回は、冒頭に「報じられているところでは」という前提で申し上げた。その時点では、化粧品部門を外に出してそこへのみ支援するのでは、というようなことが報じられていたので、そうだとすると、如何なものかと申し上げた。その後、いろいろ曲折があったようだが、化粧品部門を含めたカネボウ全体について再生するということに決まった。カネボウは大きな会社であり、取引銀行も多数あるので、民間だけではなかなか難しい案件であり、これを再生機構で取り上げるということは妥当なご判断だと思っている。ただ、今後、金融機関の調整も大変だと思うし、残った会社の再生もそう簡単ではないので、これからが再生機構の腕の見せどころではないかなと思っている。また、全体のデューデリジェンスをきちんとされた上で、買取価格を決められることになるのだろうと思っている。


(問)
 銀行での保険の窓販について議論の最中だと思うが、ここにきて大臣から先送りのような発言があり、また自民党のなかでも、原則解禁とする政府に対して異論というか反論が相次いでいる。現在の議論の進捗についてどのように評価し、銀行側としてどのようなスタンスでこの議論に臨んでいるのか、改めてお聞きしたい。
(答)
 自民党のなかに全面解禁について厳しいご意見があることは承知している。しかし、私どもの主張は現在も変わっておらず、お客様のライフプランについていろいろとアドバイスをしていくなかで、保険を銀行でというニーズはある。ワンストップショッピングという面でもニーズはある。ニーズがあるということならば、お客様の立場に立ってそれはそれで解禁して、仮に弊害があるならその弊害をどうやって防ぐかを議論していただきたいと思う。弊害が予想されるのでこれは止めておこうという議論が進んでいるのは非常に残念であるし、ニーズに応じるにはどうすれば良いか議論すべきだと思う。もっとも、金融審の方はまだ結論を出しておられないので注目している。一方、総合規制改革会議の答申が、「15年度中に」から「速やかに」となったとのことだが、「速やかに」ということで、速やかにやっていただきたいなと思っている。また、16年度中に必要な措置を講じると言うところは変わっていないので、私どもとしては引続き全面解禁を希望しており、どういう行為規制を入れるかということに焦点を絞っていただきたいと思っている。


(問)
 証券仲介業に関してお伺いしたい。4月に事業法人で認可され、年内にも銀行にも解禁されるであろうという議論になっている。そこで、一つ目に、一般的に銀行業界としての受けとめ方、銀行にとってのメリットについて、二つ目に、よく議論されている利益相反の問題、典型的には、業績の悪化した融資先の企業の債務を弁済させるために、銀行が社債や株式を発行させるのではないか、ということについて、三つ目に、今回の話はあくまでも仲介業だけの話であるが、将来は引受業も含めた証取法65条の銀証分離という規定の全面撤廃まで進めて欲しいと思っているかどうか、についてお伺いしたい。
(答)
 まず一つ目の質問についてお答えすると、これはやはり、ニーズのあることであるので、我々としては仲介業に取り組みたいと思っている。実際に、例えば、貸出の話をお客様としていても、お客様にとって間接金融で調達するか、直接金融で調達するかというのは、隣り合わせであり、そういう中で、我々の仲介の意義というものもあるのではないかと思っている。極力早く実現できるとよいと考えている。それにあたって、利益相反があるのではないか、社債等を発行させて借入を回収させるという懸念はないかということであるが、こういった行為はすでに証取法でも禁止されており、そういうことは決してないと思う。法律で禁止されている他に、今銀行では非常にコンプライアンスというものを重視しており、またそれを破るようなことがあると、マーケットでやっていけなくなる、ということもある。法的整備はすでになされており、新たに過度な措置がなされることがないよう、スムーズな証券仲介ができることを希望している。
 また、証券仲介が実現した後の証取法65条の問題、引受けを含めてどう考えるかという問題については、やはり65条の持つ今日的意義というものについて、もう一度議論を深めていただきたいと思う。証取法65条において、なぜウォールをここに引いたかというと、3点ほどあると思う。一つ目は、銀行の健全性を保ち、証券の損失が預金者に及ばないようにするということ、二つ目が利益相反の問題、三つ目が圧力販売の問題である。そのうち利益相反、圧力販売の問題については、先ほども申しあげたように、法的にきちんと処罰されるということがはっきりしているので、これは65条の問題とはいえないと思う。そこで、問題は銀行の健全性が保たれるかということになるが、これは、やはり、以前に比べると銀行のリスク管理、特に総合リスク管理というものが非常に進んできて、各行とも全体のリスクというものを常にウオッチしながら経営をしているので、そういう中で解決していけるのではないかと私は思っている。いずれにしても、65条の必要性については、だいぶ時代が変わっていることもあり、今日的意義を議論していただきたい。


(問)
 65条自体は証券会社を守るための法律ではないという理解でよいか。
(答)
 当初は、銀行の力が強かったし、そういうこともあったかと思うが、法的整備もでき、状況も変わってきている。65条自体は、証券会社を守るということと、もう一つは銀行の健全性、預金者を守るということもあったと思う。そちらの方は、リスク管理態勢がしっかりと構築されたということを申しあげたわけである。


(問)
 公的資金の返済の問題について伺いたい。今年度末もいくつかの銀行が公的資金の返済を検討しているやに聞いている。銀行経営の改善の状況等とあわせて、これをどのように見ているか、会長の見解を伺いたい。
(答)
 公的資金は当然ながら返さなければいけないものである。それ故、経営陣が頑張ることで収益をあげ、その結果余裕が生じたら、少しでもというか、余力がある限り返されるということは望ましいことであり、重要なことだと思う。公的資金は、言うまでもなく個別銀行の救済ではなく、金融システムの安定化を目的に注入されているわけであるから、公的資金を得たのち、経営に努力されて、ある程度の経営の安定を得られた場合は、それを極力早期に返されるということは非常に良いことだと思う。


(問)
 大阪府の外形標準課税について、府は税率を0.92%とする条例案を議会に提出をして、これに対して野党の方で0.9%丁度という対案を出すような動きもあるらしいが、そういった府議会の議論の進捗と銀行の和解の可能性等についての見通しを改めて聞かせていただきたい。
(答)
 これについては大阪府から私どもの方へ直接申し入れとか提案というものを受けてはいない。対案について私は詳しくないが、0.92%という条例案が上程されていることは確かである。前回も申し上げたとおり東京都との外形標準課税問題で最高裁にも判断を仰いで、最高裁を交えての和解という形で、0.9%で決着したことはひとつの実績だと思う。したがって、0.9%なら結構だと言うつもりはないが、やはり東京都と同じ0.9%であれば、歩み寄る余地が拡がるかなというように思っている。


(問)
 来月から日銀短観の調査方法が少し変わって、対象企業が1万社超に増えるようであるが、その件について何かあれば伺いたい。
(答)
 まだ良くは存じないが、日銀短観は皆が注目している景気指標である。したがって、実際の状況を正しく反映していることが望ましく、調査範囲が拡がる、新たに業種を加えるということは、大変良いことではないかと思う。


(問)
 冒頭で景気の見通しについて見解をお聞きしたが、特に個人消費の今後の見通しについて、所得が回復しないなかで本当に個人消費が強くなるのかどうか懐疑的な見方もあり、会長の見解を改めてお聞きしたい。また、最近、大手銀行において個人部門の戦略を強く打ち出されているが、そのような環境下で銀行はどのような動きをしていくことになるのか。
(答)
 個人消費は、確かにそれほど強くはない。輸出や設備投資に比較すると、個人消費は弱いと思う。ただし、そのようななかでも少しずつ明るさが出てきている。個人消費については、年金問題や医療問題をはじめとして国民負担が先行き重いのではないかということがどうしてもある。また雇用面でも、どんどん雇用が増える状況ではないので、日本全体の景気が着実に回復するなかで、個人消費についてはやはり遅れている。今年度は外需依存から脱却して内需の成長ができるかどうかポイントの年だと思うが、まだそこのところが何とも言えない。個人消費は、強くはないが、ただそのなかでも幾分、例えばデジタルカメラなど一部には明るさが見えはじめたという状況であると認識している。
 銀行のリテール戦略については、私どもも含めて、各行とも力を入れていくことになると思う。これは、中期的に見て更なるサービス提供が可能な分野、金融機関側から見れば収益が期待できる分野は個人分野であると考えているからである。これまでは法人部門に多くの経営資源を投入していたし、中心でもあったが、個人についてはまだこれからやることがいろいろとある。お客様の運用面のお手伝いもあるし、調達面でもサービスや商品を多様化する余地がある。
 銀行の採用が増えるという報道があったが、これもリテール分野での戦力を高めるということが目的となっている。不良債権の処理に目途が立ち、黒字化も果たされてきており、これからはお客さまにいかにサービスするかということを考えなければならないなかで、やはりリテール分野は銀行にとっては収益機会が豊富にあるマーケットでもあり、各行それぞれ工夫を凝らしながら増強することになろう。


(問)
 先日、日銀の福井総裁が就任して1年が経過したが、この1年間の評価と2年目の課題についてお聞きしたい。
(答)
 総裁について私が評価するのはおこがましいが、感想を述べると、福井総裁は就任されるやいなや機動的な動きをされ、何とか景気を回復したい、デフレを脱却したい、という強い意向が伝わってきた。たとえば、日銀当預の残高を増やす、資産担保証券の買取を行う、少々景気に変化があった場合でも金融緩和政策を当面続けると意思表示をされるなど、われわれ金融界を含め非常に安心感、安定感を受けたし、良かったのではないかと思う。ただ、今後は、出口政策の問題があり、これからが大変ではないかと思う。福井総裁が今までもやってきておられるように、マーケットとの対話とか、状況を見て機敏に判断するということで対応いただきたいと思う。また、景気が回復してくれば、それに応じた金利機能の回復もいずれ課題になってくるであろうし、期待しているところでもある。


(問)
 本日、全銀協の理事会で大口決済システムの提言をまとめられたとのことであるが、小口決済についてもシステムの統合やアップデートが進んでいると思う。ただ、その一方で、昨年来、オンラインシステムのトラブルが目に付くようになっている。そのようななかで、システムの利用者である銀行も事態の把握や原因の究明に時間がかかったり、一般消費者への説明がスムーズでなかったりすることが見受けられた。銀行として、そのようなトラブルについてどのように情報発信していくべきであると考えているのか、またオペレーショナルリスクの管理の問題になろうかと思うが、トラブルがあった時の対処法について業界で話し合うような考えはあるのか。
(答)
 ご質問にお答えする前に、本日とりまとめた「大口決済システムの構築等資金決済システムの再編」の提言について一言ふれたい。これまで内国為替の決済は、一日のなかで決済時刻を定め、それまでに未決済で溜めた銀行間の貸借の清算をその時刻に一斉に行っているが、そうなると未決済資金が大きくなるというリスクがあった。そこでリスク軽減等のために、内国為替においても大口取引は日銀ネットを利用して即時決済すると共に、それ以外の小口取引は従来どおり決済時刻に一斉に決済しようという提言である。それにより、決済の安定性等を高めようというものである。
 ご質問の件であるが、ご指摘のとおり、オンラインシステムのトラブルにおいて、その時の措置が必ずしも良くないのではないか、もう少し利用者に対してきちっと説明すべきではないか、という点は全くそのとおりである。銀行の決済は社会システムに組み込まれた重要なものであり、これにトラブルが生じた場合にはお客様に非常にご迷惑がかかる。しかし不幸にしてそれが起きた場合には、早く処置すると同時にそれを速やかにご報告するということをしなければならない。具体的な申合せはしていないが、たとえばインターネットですぐにお知らせするというようなことは始めている。銀行界全体でそのような取組みを行う必要があるかどうか、ただ今のご指摘を受けて改めて考えたい。

別添資料:三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)