2004年11月24日

西川会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤常務理事報告

 本日の理事会では、まず、年末に向けた金融の円滑化について、お手元の資料のとおり、申し合わせを行った。
 次に、お手元に、この9月末を基準に行った「盗難通帳による払出し件数・金額」および「いわゆる偽造キャッシュカードによる預金引出し」等に関するアンケート結果をお配りしているが、最近、偽造キャッシュカードによる預金払出しが増加しているとの結果が出ている。
 本件については、すでに被害届提出に係る申し合わせを全銀協として行っているが、このような事態を踏まえ、更に、会員間で偽造キャッシュカード問題への認識を高めるべく、これまで全銀協で検討・収集した情報等を会員に還元するとともに、全銀協ホームページにおいて、「キャッシュカードが偽造され、預金が引き出される被害が発生している」ことに対するお客さまへの注意喚起を行うなどの対応をとることとした。


会長記者会見の模様


(問)
 銀行の決算の関連であるが、4大メガバンクの決算を見ていくと不良債権問題は大体目標達成に目処がついたという感じがする。こうしたことについてどのような見解をお持ちか。また、ポスト金融再生プログラム期における、銀行経営あるいは行政のあり方について伺いたい。
(答)
 ご承知のように、各行における不良債権処理は着実に進捗しており、この9月末で主要行の大部分が半減目標を前倒しで達成するということになると思う。こうした折に主要行の格付の引上げが一斉に行われたということは、市場や投資家が銀行を見る目もはっきりと変化してきているということだと受けとめている。
 本年度末までの残りの期間は、このような取組みの仕上げの時期と考えており、名実ともに不良債権問題を解決して、金融システムへの信頼を確固たるものとするよう引き続き努力をする所存である。
 来年度以降については、金融機関同士の自由で公正な競争促進、金融サービスの担い手の拡大、利用者ニーズに的確に対応できる新たな商品、サービスの開発等による金融の一層の活性化を実現していくことが重要だと考えている。こうした取組みを通じ、お客様の視点に立ったより質の高いサービスの提供が行えるように努めてまいりたい。
 現在、金融庁においては「金融重点強化プログラム」の策定作業が進められていると聞いているが、これに関しても規制緩和の一層の推進など民間の経営努力や創意工夫が十分に活かされるような対応をお願いしてまいりたい。


(問)
 郵政民営化の関係であるが、政府が近々大綱を取りまとめるようであるが、これについて銀行業界としてどういう問題点があると考えているか。また、これに関連して出口の住宅金融公庫の問題も併せて改革の俎上にのぼっているが、これをどのように進めるべきと考えているか。
(答)
 ご承知のように郵政民営化については、先に政府方針として「基本方針」が取りまとめられ、それに基づき、ただ今政府内において法案化の作業が進められているところである。
 この「基本方針」の内容について、郵貯に関連して、私ども銀行界として特に問題と考えている点、これを3つに絞って申しあげたい。
 まず、その第1は「適切なリスク遮断」に係る問題である。 郵貯会社は、金融機関としての経営の健全性が強く求められるわけであるので、郵政の他事業の損失が郵貯会社に及ばないよう、事業間のリスク遮断が確実にできる制度設計が必要である。また、国家保証のついた旧契約に係る資産と、その保証のない新契約分との一括運用の仕組みがどのように作られるかによっては、旧契約に係るリスクが郵貯会社に及ぶ、逆に、旧契約から生じた収益が新会社の経営上利益の補填になりかねないといった問題がある。こうした問題に十分配慮した制度設計を行うことが必要と考えている。 2点目は「窓口ネットワーク会社」に係る問題である。
 この窓口ネットワーク会社は、幅広い事業分野への進出が展望されているわけであるが、この窓口ネットワーク会社と郵貯会社が一体運営される場合には、郵貯会社との間の適切なリスク遮断、民間との公正な競争条件確保、そして民業圧迫の懸念等の面で問題が大きいと考えられる。
 こうしたことから、窓口ネットワーク会社については、一定の業務範囲制限、民間金融機関と同一の金融商品販売ルールの適用、金融庁による監督といった施策が必要だと考えている。 3点目は「民営化プロセス」に係る問題である。
 プロセスというのは、準備期、移行期の業務のあり方についてであるが、地域金融の健全性や規模の縮小を通じた民間金融システムへの円滑な融合といった点への配慮が不可欠であると思う。
 こうしたことから、移行期においては、預入限度額の引下げ、郵便貯金事業に政府出資が残る間の貸出業務への参入禁止等の措置を講じていくことが必要と考えている。
 次に、住宅金融公庫の見直しについてであるが、公的金融の出口である政府系金融機関の見直しについては、2001年に「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、これを受け、住宅金融公庫においても段階的な業務の縮小、資産残高の圧縮、組織形態の見直し等が進められている。
 住宅金融公庫については、2007年3月末までに廃止して新たな独立行政法人に移行することが予定されている。改革後の住宅金融公庫における公的な関与は、そういう意味からも必要最小限の分野での間接的なサポートに止めることが適当である。この分野においては、民間金融機関の融資活動が大変活発であるので、やはり民間活力を最大限に発揮し得る市場にしていくことが是非とも必要である。
 こうしたことから、住宅金融公庫廃止後に設置される独立行政法人が、自ら直接融資業務は行わず、現在の公庫から引継ぐ既往債権の管理と、証券化支援事業のみを専ら行う機関となる方向性での見直しを、着実かつ速やかに進めていただきたいと考えている。
 我々民間金融機関としても、お客様の多様なニーズにしっかりとお応えできるよう引続き努力をしてまいる所存である。


(問)
 西武鉄道が上場廃止に至った一連の問題に対する所感と、西武・コクドグループに対しては各銀行から大きな融資があると思うが、それが不良債権化することで金融システムに悪影響が及ぶ懸念がないのかという点についてのご見解を伺いたい。
(答)
 西武グループに一連の問題が起こったことについては、大変残念に思っている。ご承知のように西武グループにおかれては、経営改革委員会を設置して、今後の経営改革に向けた検討がなされることになっている。個別行としては、こうした改革の方向性を評価しており、引き続き主力3行の協調体制の下で、経営改革の具体策に応じた協力をしていきたいと考えている。
 西武グループの有利子負債は1兆円を超えるが、これが不良債権化するという懸念は、私は無いと考えている。鉄道以外の事業、特にスキー場などを含めたリゾート関係の事業、ホテル事業の一部、あるいはゴルフ事業の一部等には、業績の芳しくない事業もあるようだが、全体としては、相当なキャッシュフローを生み出している。そういった状況から見て、不良債権化する懸念はないと考えている。ただ、現在の状態のまま経営を続けるということは適当ではないということで、急いで改革を要することから、経営改革委員会を設置して事業再編などもその中で検討していくことにされている。
 そうやって事業を再編し、そして効率化を進めることになれば、さらに業績が改善して、キャッシュフローの増加につながることが、期待できるのではないかと考えている。


(問)
 ペイオフ解禁の問題について、一昨日金融庁が出した統計によると、全国の金融機関の96.4%が決済用預金を導入したか、あるいは検討しているかあるいは準備していることが発表された。これについて会長はどうみているか。一部では、例えば5月の内閣府の研究所の報告書によれば、ペイオフの延期等は預金者の市場規律を弱めたという調査結果が出されたが、決済用預金があることで預金者の市場規律はどうなると思われるか。
(答)
 一昨年の9月の金融審議会答申だったと思うが、決済機能の安定は金融機関の健全性確保によることが基本であるということが指摘されている。我々金融機関としても強固な財務基盤の構築、そして収益力の強化により、健全性の確保を果たすよう努力を続けている。今回導入される決済用預金は、万が一、それが損なわれたという場合に備えるものとして、今ご指摘のあったようなモラルハザードの発生防止に配慮しつつ導入された制度であると認識している。利息がつかない預金である決済用預金を選択する預金者がいらっしゃるのであれば、それは預金者の多様なニーズのひとつとして、我々としては尊重すべきものであり、それに応えるのも金融機関の責務であると考えている。


(問)
 ゼロ金利政策が続く以上、預金者はやはり安全志向に流れると思うが、これについてはどう思われるか。
(答)
 確かにゼロ金利政策が続いてきた。今後しばらくは続くであろうとみられるが、これは勿論のことながら永久に続くものではない。当然、この先いずれかの時期にゼロ金利政策は解除され、そして次第に銀行の預金金利も正常化していくことが考えられる。そういうことであるので、やはり金利がつかない預金を選択されるということは、いずれ限定的なものになっていくであろうというように私は考えている。


(問)
 竹中前金融大臣が中心となって策定された金融再生プログラムの目標となっている不良債権比率の半減が、1年前倒しで、ほぼ全部の主要行で達成できるとのことであるが、当初、銀行は、腰だめ的な不良債権の積み増しなどはできれば避けたいという姿勢で取組んできたと思う。不良債権処理が進む中で、りそな銀行への公的資金注入を機に景気など周りの環境が良くなって回復した面もあろうかと思うが、実際に不良債権比率が低下したことで期待される具体的なプラス効果、例えば貸し出しが増えていくのかなど、そのあたりについて見解をお聞きしたい。
(答)
 不良債権問題はやはり銀行経営において、ひとつの大きな課題である。人員面でも、不良債権処理に大きなウェイトをかけて、相当な人数、優秀な人材を投入して、この問題の解決に努めてきているというのが実情である。この不良債権問題から脱却できるとなると、経営資源的にも自由度が大きく拡大してくるという可能性がある。そしてまた、クレジットコストが大幅に減少してくると、ボトムライン収益の大きな拡大が期待できるわけであり、そこから生じてくる自己資本を戦略分野に投入していくというかたちでの経営強化ということも期待できる。いわば、足を引っ張っていたものが無くなって、前向きの経営展開ができる、やりやすいようになってくるという効果が期待できるということである。


(問)
 当初、政府から、銀行はどちらかというと問題を先送りしているというような言われ方をされていたが、政府に尻を叩かれるようなかたちでやってきたということについては、政府の対応を評価するのか。
(答)
 決して、銀行は不良債権処理を先送りしてきたわけではない。そういう認識はない。問題債権については、きちんと自己査定を行い、またそれに基づいて償却引当を計上していくということも間違いなくやってきている。そうした結果、来年3月に設けられた半減目標というものが半年乃至1年前倒しで達成されるという結果になってきているということである。


(問)
 銀行の保険の窓販の問題について、現状どのように見ているか伺いたい。
(答)
 来年4月というターゲットが一応あるが、まだ保険窓販解禁の具体的な内容が明確にされていない。ご承知のように一部の保険商品についてはすでに解禁されて我々も積極的に取り組んでいるが、追加的なものに関しては、その準備状況について今何とも申しあげられる状況にない。金融審議会の報告書で示された方向性に則って、3年後の全面解禁に向けた対応をしっかりと行っていただくことを私どもは強く希望している。色々と弊害防止措置の問題が言われるわけであるが、弊害防止措置として必要なものは当然必要であるが、実務に即したもので必要かつ十分なものとすべきであると考えている。