2005年9月20日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤常務理事報告

 事務局から2点報告する。
 一つは次期会長を内定した。先週の9月15日に開催の正副会長会議において、東京三菱銀行の畔柳頭取を次期会長に推薦することが決定され、本日の理事会においてこれを了承した。なお、会長の正式な選任は、来年4月の理事会において行われる予定である。
 もう一点は、去る7月19日のこの場において骨子を報告したが、平成18年度の税制改正要望について、本日の理事会において、お手元の資料のとおり最終決定した。この要望の枠組みは、前回報告したものと同様である。

会長記者会見の模様


(問)
 選挙で与党が圧勝ということになったが、それについての感想と、郵政民営化法案が特別国会にあがり、ほぼ今までどおりの形で成立する見込みとなっているが、改めて要望等あれば考えを聞かせてほしい。
(答)
 まず選挙結果に関しては、全銀協会長としてコメントする立場にないが、郵政民営化が問われた選挙でもあったので、そういう観点からお答え申しあげる。郵政民営化が最大の争点であったが、この点は、国民の賛意が確認されたということだと思う。
 全銀協としても今まで会見の場、もしくは衆議院郵政民営化特別委員会の場で参考人として申しあげてきたことであるが、私どもは、郵貯事業の本質的な問題は、その規模が極めて大きいことに加えて、その資金が市場原理の埒外に置かれていることにより、わが国金融市場の公正な価格形成を歪め、効率的な資金配分を阻害している点にあると考えている。こうした問題点を解決することこそが、民営化本来の目的であると思う。
 郵政民営化関連法案では、郵貯銀行について、他の金融機関との公正な競争条件を確保する観点から、民営化の当初から、政府保証の廃止と預金保険料の支払い、納税義務の負担、適切なリスク遮断を行う観点から、新旧勘定の分離、持株会社による郵貯銀行株式の完全処分等が規定されており、この法案が可決・成立するのであれば、問題解決のための前進であると考えている。
 しかしながら、私どもは民営化の目的を実現する観点から、特に、移行期間が非常に長いわけであるので、「規模の問題」と「業務範囲の問題」に十分配慮が必要だと考えている。
 まず「規模の問題」という観点から申しあげると、少なくとも政府の関与が残る期間中は、「民間にできることは民間に委ねる」との構造改革の大原則に則り、郵貯の規模も縮小していくべきだということである。また、200兆円を超えた多額の資金について運用・調達のリスクをきっちり管理して、運用利回りを確保していくことは、われわれ民間の立場から見れば容易なことではないと推察されるので、ビジネスモデルとして適正に成り立ちうる規模まで、その大きさを縮小するというのが経済合理性に合っていると考えている。
 また、「業務範囲の問題」については、移行期において、仮に、公正な競争条件が確保されないままで、経営の自由度が先行して拡大されることになれば、実質的に官業の一段の肥大化を招き、問題を一層複雑化かつ深刻化させかねないと考えている。
 そういう意味で今回の選挙であれだけ徹底して民営化の議論が争点になったわけであるので、本来の目的が実現されるような改革が着実に進められていくことをわれわれも注視する必要があると思う。


(問)
 景気についてであるが、今日、日経平均株価も1万3,000円にのり、先月日銀や全銀協の一部統計で貸出もプラスになっている。景気の現状についての見方を教えてほしい。
(答)
 銀行の貸出残高がプラスとなった要因については、住宅着工が好調で住宅ローンが増加していることに加え、従来、企業向け貸出はずっと減少してきたが、その減少幅が縮小してきたことによるものと考える。
 また、設備投資についても以前から増加していたものの、企業が財務リストラを進める過程で、投資を内部資金で賄っていた状況がずっと続いており、資金需要、即ち銀行の貸出増加には結びつかなかった。ここへ来て、M&A関連など前向きな企業活動がさらに広がりを見せ、企業の財務リストラもかなり進展したので、資金需要に少し動意が見えてきたということではないかと思う。実際に、銀行の窓口には様々な案件が従来に比べて寄せられるようになったと思う。
 景気について申しあげると、IT製品の在庫調整が進み、輸出も持ち直し、踊り場からは少なくとも抜け出したような感じがする。企業の収益力が高まり財務体質が強化されていることと、企業の事業領域拡大が加速していること、さらに設備投資と、雇用と所得、消費の間での自律回復メカニズムが働いていることを踏まえれば、日本経済の回復トレンドは以前よりしっかりしたものになってきていると考えている。
 4-6月GDPが予想以上に良かったこともあり、今年度の実質成長率は2%に達するのではないかと思う。合わせて、インフレ率も来年春頃までにはプラスになるのではないかと思っている。
 但し、金融業界にいる者としては、勿論、健全な資金需要の増加には積極的に対応しているが、まだそれほど強くなったと言うまでには至っていないと感じている。
 私どものシンクタンクが2005年度と2006年度の経済見通しを、8月と9月の時点で修正しているが、これを見ると2006年度に寄与する分が少し 2005年度側に前倒しになり、結果として2006年度分は実質GDPを少し低めに見ている。少し前倒しになったが、爆発的に伸びるにはもう少し時間が掛かるのではないかと思う。例えば主要な指標でみると、個人消費は、今年は1.6%、来年は1.3%とみており、設備投資は、今年は7.8%であるが、来年は3.2%ということである。色々な指標もマチマチであるが、完全失業率は4.2%が3.7%に下がるとみており、全体のトレンドは良くなっているが、それがどんどん良くなるというのは少し違うのかなと思う。例えば日経平均株価については、今年度は1万2,000円を超えないと見ていたものが、現状は1万 3,000円を少し超えるくらいまで来ているが、来年の見通しは上方修正していない。そういう意味で、株価底割れの心配は少なくなったが、これ以上大きく上昇するということではないと思う。以上のことからすれば、完全にデフレから脱却するには、もう少し時間が掛かるのではないかと思う。


(問)
 全銀協会長の内定の時期というのは、毎年、こんなに早かったか。
(答)
 去年も大体これくらいの時期であったと思う。事務方の立ち上げ準備に3ヶ月から4ヶ月かかる。早く内定しないと立ち上がりが遅くなるので、例年9月から10月くらいに内定をしていたと思う。


(問)
 今、景気の関係で言及されたインフレ、デフレの見方であるが、来春までにはインフレ率はプラスになるとおっしゃられた一方で、デフレからの完全脱却はもうちょっと時間がかかるとのことであるが、一方でいわゆる量的緩和の出口論議というのがぼつぼつ起きている。日銀の審議委員等の発言の中でも、それに関連する言及が目立っていると思うが、その辺はデフレ脱却のタイミングとの兼ね合いで、どのような日銀の金融政策の舵取りが望ましいとお考えか。
(答)
 量的緩和をどうするかは日銀が決めることであるが、個人的に申しあげると、率直に申しあげて、量的緩和は、実態を追認するような形で解除が進めば良いのではないかと思う。市場金利も今や市場追随型になっているので、量的緩和議論が無くなった頃が緩和の出口ではないかと、少し矛盾した言い方ではあるが、そういう感じを持っている。


(問)
 郵政公社についてお聞きするが、先ほど郵貯の規模を縮小すべきという発言と、ビジネスモデルで適正な範囲までビジネスを縮小していくべきだとの発言があった。
 1 つめの質問は、具体的にどれくらいまで、何を基準に縮小すべきだとおっしゃるのか、また、それに対して何らかのアクションを今後、取られるのか。もう1つの質問は、先ほど、2百数十兆円のお金が民間に流れるとおっしゃったが、10月3日から投信を郵政公社が販売するが、それをどう捉えているか、脅威と見ているのか、それとも経験からみて脅威とは全然感じず、むしろチャンスとして捉えているか。先ほど、条件がイコールでないうえでビジネスをしていくのは如何なものかとおっしゃったが、いまだに民営化は決まっていないし、政府というブランドがついているわけであり、その辺りをどう捉えているか。
(答)
 最初に縮小の仕方であるが、自然体でどんどん縮小するかどうかはわからないが、新しい銀行で、今のメイン商品である定額貯金がそのまま中心になるかどうかがポイントではないかと思う。
 この点はわれわれが決める問題ではないが、定額貯金を主たる原資とした今の姿のままで民営化することは難しい。いろいろなことを考えて適正規模にもっていかなければならない。以前にも申しあげたが、銀行は、運用が先にあり、そのうえで、どういう期間のどういうサイズの調達を行うかを決める。今までの郵貯のモデルは集めることが目的で、運用が目的ではなかった。それを運用と調達をマッチングさせるという銀行モデルに持っていく時の方法を研究されていると思うが、その中で規模の問題を抜きに議論はできない。また、どういう商品で調達するか、どういう運用をするかについて十分に議論することが必要である。その際、「民間にできることは民間に」が政府の方針であり、イコールフッティングが実現するまでの間は、貸出業務などの民間がやっている業務に単純に進出するのでは矛盾していると思う。
 郵政公社による投信販売が脅威かどうかはわからないが、現時点ではイコールフッティングになっていないので、率直に言って好ましくないと考える。私どもは、時間をかけて社員教育を行いながら、リスクの所在を十分勉強させながら投信販売を行ってきた。そして数年で銀行窓販は投信販売の5割のシェアを占めるようになった。ある程度の時間はかかると考えている。


(問)
 偽造・盗難カードの補償を減額するとか、あり方についての問題を説明していただきたい。
(答)
 これまでも、何度も申しあげてきたが、まずは被害を少なくすることが重要であり、各行ともICカード化を行ったり、限度額を引き下げたり、いろいろな形ですでに対応しているが、このような努力は今後とも継続していくことが必要だと思う。
 また法律は、来年の2月から施行されるが、この法律は議員立法であるので、全銀協としては、約款の改定等もかなり準備を進めてきているが、これを含めて議員の先生方にも十分ご理解をいただいたうえで準備を完了させ、実施に移したいと考えている。


(問)
 減額する場合の条件みたいなものは、ある程度想定はされているのか。
(答)
 補償については、最終的には個別の話になるので、一般論で申しあげることは難しいと思う。おそらく一件一件被害にあった状況が違うので、一律に申しあげるのは不適当だと思う。いろいろなケースがあるので、被害者の方の気持ちとわれわれの対応があまりギャップが出ないようにするというのが、本質ではないかと思う。専門窓口を作ることなど、今、対応しているところである。


(問)
 今の関連で、約款の改定、ひな型の改定の進捗状況が現時点でどうなっているのかについて確認をしたい。
(答)
 約款の改正についてはほぼ出来上がりつつあるといったところと思う。全銀協としては、整斉と準備をしてきたが、この法律は議員立法であるので、関係の方々に十分説明して、実施に移していきたいと考えている。


(問)
 先ほど、郵便貯金銀行のところで話があり、民間がやっていることと同じことをやるのはどうかとおっしゃっていたが、例えば定額貯金で集めたものを国債や財投にまわすといったものからどう転換するかという意味で、貸出が入ってこないと新しい市場への参入ということにならないが、貸出についてもう一度認識を伺いたい。
(答)
 通常の貸出業務については、日本では十分に民間で役割を果たしていると思うので、新たに官業が出てくるようなマーケットではないと思う。民間がやれない分野や、やっていない分野を政府がやることには反対していないが、全く同じ分野、例えば住宅ローン業務に参入するのは少し問題ではないかと思う。
 預金が集まって、その一部を国債で運用する場合はあるが、国債を買うために資金調達するという銀行モデルはないのではないかと思う。いずれにせよ、民営化委員会がチェックすることになっており、実際にどういう業務が行われるのかを見たうえでないと、コメントすることは難しい。


(問)
 折に触れて、郵貯銀行の業務がだんだん決まっていく過程で、銀行業界として釘を刺すとか、要望という形はあるのか、そういう方法をとられていくことになるのか。
(答)
 ぼんやりした絵は分かるが、実際にどういう形で営業されるか、それからBSがどうなってPLがどうなるのかというのを見たうえで、実態を見て判断するということだと思う。民営化委員会でウォッチするという条項が入っており、どんどん業務が拡大することにはならないのではないかと思う。


(問)
 2点伺いたい。1点目は政府系金融機関の見直しについて、どういう考えを持っているか。2点目は、小泉政権が大勝したわけだが、金融界として、政治献金を今後どういうようにされていくかという考えを伺いたい。
(答)
 まず、最初に政府系金融機関についてであるが、政府系金融機関は複数あるが、それぞれ政策目的があって業務を行っているわけだから、その政策目的がなくなった場合にはそれに関連する業務を止めるのが筋だと思うし、そういう見直し方がある意味では合理的なのではないかと思う。2つを1つにするという議論は、少し違うのではないかと思う。要するに、民間がやっていることと同じことをやるというのは、政策目的とは合わないはずだから、そういう観点で政府系金融機関のやっている仕事の中身を分解して、その中で民間が丸々やっていて、政策の部分がいらないのではないかという部分を見直ししていただきたいということである。数が多いとか少ないとかいう議論は、そこだけではかえってミスリードするのではないかと思う。 政治献金については、全銀協として対応する問題ではなく、あくまでも個別行の判断だと思う。みずほグループとして申しあげると、現時点で政治献金に応じられるような状況ではないと考えている。公的資金を返すというステージであるし、そちらの方が優先するのではないかと思う。


(問)
 公的資金を返し終わったら、献金をする可能性はあるということか。
(答)
 返し終わったら検討するが、返し終わったら直ちに献金するということではない。