2005年11月22日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤常務理事報告

 本日の理事会で決定した事項のうち3点についてご報告する。
 第1点は、年末に向けた金融の円滑化について、お手元の資料のとおり、申し合わせを行った。 次に、銀行業界の行動規範である「倫理憲章」について、CSR(企業の社会的責任)への取組みを盛り込むなどの所要の見直しを行い、タイトルも「行動憲章」と改定することを決定した。なお、主な改定内容は、お手元のニュース・リリースをご覧いただきたい。
 第3点は、準会員の新規加入があったことである。中国の北京市に本店のある「中国建設銀行」の本年12月1日からの加入を承認した。この結果、全銀協の会員は253会員となる。
 決定事項の報告は以上であるが、調査結果について報告する。
 お手元に、本年7月から9月における「盗難通帳による払出し件数・金額等」ならびに「いわゆる偽造キャッシュカードによる預金等引出し」に関する会員アンケートの集計結果をお配りしている。
 盗難通帳による被害は、1頁目にあるとおり、45件、7億8,800万円となった。前期と比較して金額が大きく増加しているが、これは、一部の銀行において大口の被害が発生した結果であり、当該金額を除くと、大勢としては減少傾向にある。


会長記者会見の模様


(問)
 旧興銀の中山素平会長がお亡くなりになったが、会長のコメントをいただきたい。
(答)
 私が銀行に入ったときには、既に日本興業銀行の会長でおられたと思う。戦後の発展に、金融面から、また産業面から、大変立派な功績を残された方だと存じている。また、銀行の頭取・会長をつとめられた後、学校法人国際大学の理事・特別顧問をされるなど、本当に直前まで、人材育成に尽くされた大変立派な方だと思う。謹んでお悔やみ申しあげる。


(問)
 景気の現状についてであるが、このところ日銀の量的緩和の解除を巡って、日銀と政府与党の意見の対立がしばしば見られるようになっているが、こうした点も踏まえて足元の景気と経済動向について認識を改めて教えてほしい。
(答)
 景気の現状については、穏やかな回復が続いているとみている。先般7~9月期の実質GDP成長率が発表されたが、前期比で年率+1.7%で、4期連続でプラス成長となっている。成長率は、4~6月期が+3.3%なので若干下がったが、中味をみると、個人消費と設備投資はともに増加基調を維持しており、輸出も回復している。今般のGDPの統計は、日本経済の回復が続いていることをあらためて確認する内容であったと理解している。
 また、これを受けて、多くの調査・研究機関が経済見通しを上方修正していると聞いている。 今後の日本経済は、アメリカ経済の行方や原油価格の動向など引続き注視すべき点はあるが、国内民間需要主導の着実な自律回復を続けているとみている。また、雇用と所得の回復を背景に個人消費は底固いと思うし、設備投資も企業収益の回復や技術革新、日本製品に対する需要の増加を背景に、拡大基調を続けるのではないかと思っている。
 また、金融政策の転換点については、中央銀行が行う政策について私がコメントする立場にないが、あえて個人的な見解を申しあげれば以下のとおりである。
 まず、量的緩和の政策を解除する場合にはインフレ率や景気の動向に基づいて判断するというのが、日本銀行のスタンスだったと思う。そして日銀は、「展望リポート」のなかで、解除に向けた条件が整いつつあるとの認識を示している。足下の経済の動きをみていると、そういう方向に向かっていると私も考えている。景気の回復が続き、消費者物価指数も近いうちにプラスになるだろうと思う。
 ただ一般論で申しあげると、今のようなデフレの状況のなかでの政策変更に関しては、やはりいろいろなことを個別に評価したうえで、適切な判断を下す必要があると思う。インフレが非常に進んでいるという状況ではなく、むしろデフレ下であるので、私は日本銀行の意見と政府の意見もしくはスタンスが乖離しているとは思わないが、せっかく再生の芽が見えてきた日本経済にとってどのような政策が一番良いのか、慎重かつタイミングを良く見て判断いただくのが良いのではないか、というのが私の個人的な感想である。
 一言で申しあげると、少し実勢を後追いする形で政策変更が起こっても良いのではないかというのが、金融界から見た政策判断変更のタイミングということだと思う。


(問)
 政府系金融機関の統廃合の論議であるが、政府与党は大詰めに入って、最終的には一つの機関に政府系金融機関をまとめても良いのではないかという案を軸に調整に入っている話も出ているが、銀行界としての要望、考え方を改めてお願いしたい。
(答)
 前回の会見の後で、10月21日に経済財政諮問会議のワーキンググループで、全銀協の会長としての意見を述べさせていただいたが、その時の考え方と大きな変化はない。その際、環境認識として申しあげたのは、まず第1に、民間金融機関の現状については、長年の懸案であった不良債権処理がほぼ終わり、この4 月よりペイオフ解禁が混乱なく実施されるなど、安定感を取り戻しつつあること、また、公的資金の返済についても、メガバンクでは完済の目処が立つなど、各金融機関を巡る状況は大きくフェーズ転換を始めており、より前向きに、かつ、より幅広いリスクを民間で取れる状況になってきているので、民間の金融機関が担いうる領域はかなり拡大していくものと考えている。
 第2に、金融技術・情報処理技術の発展がめざましく、また、各種制度の整備や国際的な競争の促進で、民間による金融サービスの多様化・専門化は大きく進展している。特に、プロジェクトファイナンス、シンジケートローン、デリバティブ取引など新商品の開発や、クレジットスコアリングの活用などが飛躍的な発達を遂げた結果、従来であれば採りあげることが難しかった案件についても、対応可能となる案件がかなり増えたという認識を持っている。
 そういう意味で、私どもはこのような環境認識を踏まえて3つの提言を申しあげた。1番目は、今日的な目で政策金融の役割を改めて見直していただきたいということ、2番目は、民間にできることは民間に委ねていただきたいということ、3番目は、必要最低限の規模と手法に限定して、政策金融の融資の残高を圧縮して、資金の流れを「官から民へ」と大きく変えていただきたいということ、これらが重要であると申しあげた。
 最初に、当初の政策目的との整合性の検証であるが、政策金融の役割は、経済や金融市場の発展段階やマクロ経済環境の状況などによって大きく変わると考えている。したがって、政策金融の目的のなかには、既に達成されたものもあり、今次の改革にあたっては、改めて政策金融の対象とされている領域について、国家による政策的関与の必要性について再検証していただきたいということが1点目である。
 次に、冒頭に申しあげた環境認識を踏まえると、民間の金融機関のみでは対応しえない領域への限定的な、補完的な政策金融にしていただきたいということである。ここは「民間にできることは民間に委ねる」というのが政府の方針であるので、対応できないところに限定してやっていただきたいということが2点目である。
 3点目は、手法であるが、従来は基本的にはほとんどは直接融資という形で入口から出口まで、ある意味では大きなお金の流れを作ってきたが、現在の企業部門の資金余剰等を見てみると、政策金融機関が直接融資をすることで、民間の資金供給を「量的」に補完する意義はほとんどないのではないかと考えている。むしろ政策金融の対象の領域であっても、保証などの形で間接的な手法による民間金融機関の補完・支援を中心とすることが重要ではないかとの提言をした。
 こうした手順により、見直しをしていただくことが重要であるが、政策目的というものは変わるので、そういう意味ではこの政策金融を常にタイムリーに見直しをすることが必要だと思うので、郵政の民営化における「民営化委員会」のような第三者による継続的な見直しを行うための仕組みを是非構築していただきたいということである。
 新聞報道で拝見している限りでは、今申しあげた3つの部分が、かなりいろいろな観点から織り込まれていくようである。全体の量も圧縮するということのようであり、また、機能も見直しをして、止めるものは止めるとのことであり、この辺りはわれわれが主張してきた方向性と同じである。手段にしても、間接的な手法も考えるとのことであり、政府が目指している方向と私ども民間金融機関側から申しあげている方向にはあまり大きなギャップはないと考えている。


(問)
 先ほどの金融政策のところで、少し実勢を後追いする形で政策変更が起こっても良いのではないかとおっしゃったが、ここのところをもう少し敷衍していただきたい。
(答)
 例えば、物価が非常に高騰して、インフレ状況だと、先手を打ってインフレを退治するという機能が、日銀の大変重要な機能である。デフレの状況下では、日銀が先導して、デフレを一挙に解消するというのはなかなか難しいのではないかと実感として申しあげた。消費者物価指数もその一つであるが、いろいろなチェックポイントを確認しながら、大丈夫だというところで解除していただくというのが、無難なやり方ではないかと思う。なかなか難しい政策判断だと思うが、先手を打ってどうかするというよりも、確実にここで大丈夫だという時に解除していただいた方が、デフレに逆戻りするリスクは少ないのではないかと思う。今のゼロ金利もしくは量的緩和の状況が正常だとは思ってないが、解除は非常に難しいので、ぜひ慎重に、かつ、いろいろなポイントを押さえてやっていただきたいというのが、私の個人的な意見である。


(問)
 郵政の持株会社の社長に、前会長の西川さんが就任されることが決まったということで、当日もコメントを出されていたかと思うが、改めて印象とか望まれることをお聞きしたい。
 もう一点、ぜんぜん違う話で恐縮だが、今日、行動憲章なども出されているので、ちょっとお伺いするが、先般、報道で、アメリカの団体で、世界の大手銀行 50行の取締役の中で女性の比率を調べたところ、日本とイタリアだけ、ゼロだったという状況があって、私の勤務先の新聞社も同様の事情でたいへん恥ずかしいのだが、このような状況にあることについて、全銀協会長としてどのようなご見解をお持ちか。
(答)
 郵政の新しい持株会社のトップに前全銀協会長の西川さんがなられたことについては、当日、全銀協会長としてコメントを出させていただいたが、郵政民営化に関しては、全銀協が肥大化に対する懸念を長年に亘って提起してきたし、問題の本質は大きくなりすぎたことであるので、この点をよくお分かりの方が新しいポストに就かれることで、私どもとしては、政府が目指す良い形の民営化の方向に行っていただけると思っている。何といっても郵便貯金で200兆円以上、簡保で100兆円以上、合計300兆円を超える世界的に見ても異常に膨れあがった金融資産をスムーズに、サイズを小さくしながら、民営化するかということは、至難の業だと思うが、これを円滑に行わないと本来の趣旨に反することになる。10年間という時間があるが、民間金融機関の側から見てもこれが上手くいっていただくことを期待している。そういう意味では金融機関のことをよく理解されており、冒頭に申しあげたとおり、問題の本質をよくお分かりの大変立派な経営者だと思う。民営化のために一肌脱いでいただくことについて、敬意を表したいと思う。
 2番目の女性の役員がゼロという件であるが、私は男性とか、女性とかあまり意識をしたことはなく、適切な方が役員になれば良いと思う。女性が多ければ良いとか、少なければ良いとかいう問題意識はまったく持っていない。女性で役員ポストに就く方は、全国の企業のなかで見ても確かに少ないと思うが、これはアメリカと比べるとか、外国と比べるということではなくて、それぞれの国に特性があり、それを踏まえてどうなのかということだと思う。日本の場合、女性が役員ポストに就くことに関するハンディキャップというか、不利な条件がまだあるかも知れない。民間企業は、そのようなバリアーを取り除こうとしているが、全体のインフラが出来上がらないと上手く行かない。ただ、社会の構成は男女大体半々だから、そういう意味ではバランスの良い方が良いというのは私も率直にそう思う。


(問)
 2点お伺いする。
 まず、量的緩和の件であるが、デフレ脱却については、福井日銀総裁もいろいろな意味があり、使う人によって意味も違うとおっしゃっているが、金融界から見てデフレが終わった、デフレを脱却したというのはどういう状況を言うのか考えをお聞きしたい。
 また、郵政についてであるが、西川さんが民営化に際して、リスクを取ること、既存の銀行の真似をしない、独自のモデル、先行メリットを発揮したいとおっしゃっていた。こうしたことは金融機関が果たしてできるのか。そのための課題は何か。銀行の側から見て、どういう助言、示唆があるかをお聞きしたい。
(答)
 最初の質問で、何をもってデフレ脱却というかという点であるが、1つは名目成長率が実質成長率よりも高くなるという状況が必要になるかと思う。
 また、資産の価値が上がらなくてもよいが、せめて下がらない、下げ止まる状況が必要かと思う。消費者物価だけでなく、地価も下げ止まりつつあるとは言え、まだ下がっている。資産の価値の安定も1つの指標ではないかと思う。
 2番目の質問であるが、西川さんの会見はアメリカにいた時に新聞で拝見した。経営にはリスクがあるので、経営者でリスクを取らないというのはありえない。普通に、民間の経営者としての所信を話されたのではないかと私は受け取った。
 独自のモデルとか先行メリットということについては、われわれがやっていないことについて、独自の領域を開拓されて、その先行メリットを享受するのであれば、それは大変立派なことだと思う。


(問)
 金融グループの中間決算の発表であるが、今のところ前田会長のところだけ発表されていて、この後、今日夕方、明後日夕方と出揃うが、史上空前というか、非常に好決算で、通期の見通しも概ね上々ということになる。数年前と比べると隔世の感があると思うが、分析というか、どうみていらっしゃるか、これからどうなっていくべきかについてご所見をお伺いしたい。
(答)
 今週一杯かけてほぼ全部の金融機関の決算が出揃うと思うが、表面的には非常に好決算に見えるが、過去10年くらいの長い期間で見れば、その大半が非常に厳しく、資本金がどんどん減少する決算を続けて来た。日本の金融機関、とりわけメガバンクはかなり厳しい試練を経て、やっと少し立ち直ったということだと思う。
 他行の決算内容を全て見ているわけではないが、みずほグループで考えてみると、いわゆる金融機関による事業再生、不良債権処理等のマイナス部分の手当て、リストラによるコストの引下げなど、必死に2、3年かけて行い、ようやく出口が見えてきたため、表面的には好決算に見えるが、これはマイナスが無くなったことによる部分がかなり大きい。公的資金が入っていない銀行は別だが、公的資金が入っている銀行にとっては、一生懸命に剰余金を積みあげ、配当を抑えながら、まず公的資金を返済することが健全化計画の柱である。
 どこのメガバンクも厳しい決算を経てやっと今の形になったところであり、国際競争力が戻ったと申しあげるにはあまりに早いと思う。格付けもメガバンクは概ねシングルAであり、国際的に十分な活動をするためには、せめてダブルAという格付けが必要である。現状は水面下からやっと少し頭が出たという状況だと思う。
 ただし、過去の景気循環による銀行決算の赤字・黒字ということではなく、日本経済全体の構造変化を全て織り込んだ形の赤字であったことから、それぞれの金融機関の経営者が本当に腰を据えて再建に取り組んできた。今までやったことのないことをたくさんやって、やっとここまで来たというのが実感である。もう少ししっかりした形で足元の業績を伸ばさないと、十分な金融サービスを提供できないと思っている。何と言っても資本金が不十分で、収益が不十分となると、インフラ投資もできない。金融機関が、サービスを拡大するためには、かなりのインフラ投資が必要である。これができないと、結局、競争して負けるということである。
 ただし、ここ2、3年の傾向は、本当に追い込まれ、過去の前例を全部断ち切って、新しいサービスの開拓に努めてきた。例えば、シンジケートローンがこれだけ大きなマーケットになったのは、それだけ真剣に取組んできたからとも言える。また、ポートフォリオを調整する手段として、これだけ発展することもなかったのではないかと思う。
 また、新しい非金利収入拡大への取組みも重要である。みずほの場合、この上期は金利収入はマイナスで、それを非金利収入で埋めてやっとプラスという状況である。非金利収入を生む取引を各銀行が一生懸命開発したことは、復活の源泉となっていると思う。
 貸出金の残高は、みずほグループも末残ベースだと少しプラスになったが、まだ、力強いとはとても言えない。海外は貸出残高がプラスになっているが、国内も底を打って、プラスになれば良い形になると思う。
 それぞれの金融機関も足元を見つめ直して、本来のお客様に対するサービスというものに向かい始めたので、昔に戻るという心配はないと思う。


(問)
 大手行を中心に、預金者保護法の施行前に盗難・偽造等の被害への補償が始まっていると思うが、そのなかで、過去の被害への補償の問題であるが、早速われわれ報道機関のところに、「3年前盗難にあってその補償に関する相談をしたところ過去の被害は対象外ですと言われました」という声が寄せられていたりしていて、改めて法施行前のあるいはカード規定改正前の被害に対してどのような方針で臨まれるのか、金融界全体としてどのような補償ないし対応のあり方が望ましいとお考えかお聞かせ願いたい。
(答)
 前の会見でも申しあげたが、施行前のケース、例えば3年前、4年前のケースについては、盗難、偽造等いろいろなケースがあると思うが、私が申しあげているのは、基本的には預金者も銀行も被害者で、盗難をした人間が加害者であり、この3者の関係をどうやって調整するかということである。新しい約款ができる前の事例については、よくお話し合いをさせていただくしかないと思う。犯罪にはいろいろなケースがあるので、一律にこれはどうかというのはなかなか難しい問題である。金融機関としては預金者と十分にお話し合いをさせていただきたいということである。お互いに言い分はあり、銀行もなかなか立証できない部分もあるが、やはり合理的なところで納得のいく解決を目指すしかないと思う。一番極端な例は裁判であり、すでに過去の事案で裁判になっているケースもあるが、われわれはその前に話し合いで解決出来ればそれが一番良いと思っている。全銀協としての対応というより、個別にそれぞれの金融機関で対応するしかないと思う。


(問)
 仮に、コールセンターに電話したところ、「過去の被害については対象外です」と言われたとすると、それは明らかに預金者保護法の附則第2条と齟齬をきたしているかと思うが、どう考えるか。
(答)
 仮に、そのようなケースがあったとすれば、具体的に教えていただきたい。われわれからもう一回改めてアプローチさせていただく。


(問)
 今、倒壊の恐れがあるマンションについて話題になっているが、そういう所を銀行ローンで買った人たちは、今後、ローンを払うのが理不尽に感じたり嫌になったりするのではないかと思う。そういった方に対しての救済策など考えられるのか。
(答)
 一般的に申しあげると、売り手には瑕疵担保責任の問題であるので、欠陥品を売った場合には売った方が何らかの補償していただかないといけない。まず、作った方がどうやって補償するかということではないかと思う。銀行がどういう風に関係して来るかは、報道以上のことは承知しておらずこれ以上のお答えはできない。