2006年6月20日

畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から、お手元の資料のとおり、「銀行の公正取引に関する手引」の改訂を決定したことについてご報告する。
 全銀協では、平成4年6月に会員銀行における独占禁止法への対応を図る際のガイドという位置づけで、本手引きを制定した。
 今回の改訂の目的は、本年1月の独占禁止法の一部改正、4月の銀行法の一部改正、更には昨年12月に公正取引委員会から会員銀行に出された「金融派生商品に係る不公正な取引に対する排除勧告」等を踏まえて、これらの内容を本手引に反映するというものである。
 なお、排除勧告に関連する事項としては、融資先企業に対して金融取引を行うにあたっては、当該企業の選択の自由を拘束することのないよう留意するということを盛り込んでいる。
 手引自体は非常に大部のため、本日配付していないが、お手元のニュースリリースに今回の改正のポイントを記載している。また、全文については、本日、全銀協ホームページに掲載し、広く皆様にも閲覧いただけるようにしたので、必要な場合はそちらをご覧いただきたい。
 さらに本件につき、お知りになりたい点があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。 


会長記者会見の模様

(問)
 景気が引き続き回復を続ける中で、最近の動向として、ここ1ヶ月あまり株価の下落が非常に目立っている。海外でも新興諸国などで大幅に下落しているわけであるが、その辺を踏まえて最近の経済情勢もしくは株価の動向、今後の見通しについての考えを聞かせてほしい。それと併せて日銀の方では量的緩和解除後の当座預金の削減プロセスもほぼ終えたという状況になって、ゼロ金利の解除の時期に注目が集まっているわけであるが、株価の動向も踏まえて今後の解除の時期などについての見解をお聞かせ願いたい。
(答)
 5月あるいは4月の会見のときにも、同様のご質問をいただいた。その際、今回のわが国の息の長い景気拡大は、好調な企業業績をベースにしてバランス良く続いている、生産・所得・消費の循環がバランスが取れて拡大していると申しあげた。また、先行きも、各企業の来年3月期の業績予想も増益が見込まれているなど当面不安はないというようなことを申しあげてきた。そういう見方に関しては、特に今回は変えていないし、前回の記者会見以降、4月の経済指標が少し出たかと思うが、例えば機械受注など企業活動を見ても、むしろ順調であり、先行きを心配させるようなものは出ていないのではないかと思う。一方、株価がかなり下落したことは事実だと思うが、この現象は日本のみではなく、海外、特にアジアの各市場の動きがさらに激しかったことは皆さんご存知のとおりだと思う。これは、米国のインフレ動向や金融政策に対する不透明感が強まった中で、これまでかなり株価が上昇していたので、上昇分の利益確定売りというものも加わって、世界的に株式相場全体が一時的に調整局面に至ったと考えるのが適切ではないかと思う。現に先週は、株価が少し戻すなど、調整局面が現れているのではないか。
 ゼロ金利の解除であるが、3月に量的緩和の解除を行ったあと、日本銀行の方で所定のプロセスを経ていろいろなデータから総合的に判断されるだろうという見方は、引き続き変わっていない。足下の株価の変動が、そういう見通しに基本的な影響を与えるとは見ていない。むしろ、私が以前から申しあげているのは、金融の窓口から見て、いわゆる借入需要が強まっている、力強く盛り上がってきているというようには感じられないという点である。最近のデータを見ても、引き続きそのように考えている。


(問)
 日銀の話が少し出たが、今、福井総裁の村上ファンドに対する1千万円の資金拠出が明るみに出て、大変大きな問題になっているが、福井総裁は内規などには違反していないということだが、野党や国民の間で批判が高まっており、辞任を求める声も強いということである。福井総裁が村上ファンドに対して資金を拠出したという事実、もしくは総裁就任後もその資金拠出を続けたということについての頭取としての認識をお聞かせ願いたい。
(答)
 この点については既に大変大きく報道されており、またいろいろな方々のコメントも多く出ているし、特にこれに付け加えるようなこともないと思うが、日本銀行という存在を考えたときには、金融政策の舵取りが大変難しい時期であるので、全銀協という立場からすれば引き続き安定的な適切な金融政策の運営が行われることが非常に大事だと考えている。
 個人的に申しあげると、総裁に就任するときの対応については、その対応があったかなと思うが、この問題についてもこれまた報道されているが、日銀の内部の服務ルールの見直しが日銀自身で行われる方向だと、私は理解している。


(問)
 先日、金融商品取引法が成立して、頭取におかれては銀行もしくは全銀協の方でもコンプライアンス体制の強化に力を入れていると思うが、改めてこの法律の成立の意義について見解をお聞かせ願いたい。
(答)
 この法案の狙いは、金融商品が多様化していく中で、投資家保護を目的として投資性のある金融商品に包括的あるいは横断的に販売ルールを制定することだと思う。したがって、基本的に「貯蓄から投資へ」という大きな流れを着実に進めていく中で、必要かつ重要な法整備であると思っているところである。投資家の方々の安心・安全・ご満足と、これを取り扱う金融販売業者との共存共栄が図られて、初めて貯蓄から投資へという流れも順調に進んでいくものであると考える。どちらか一方に偏ることなく、投資家保護の点も着実に金融機関がこなしながら進めていくことが適切であると思うので、そういう意味でも時宜を得たものであると考えている。


(問)
 福井総裁の村上ファンドの件であるが、先程、会長は個人的には、就任する時にもう少し対応があったかなと思うとおっしゃったが、もう少しどういう対応の仕方があったというようにお考えなのかわかりやすく教えていただきたい。
 また、いろいろ意見があるが、福井総裁のこれまでの功績とか手腕それはあるとして置いておき、結果責任という、国民に対してこれだけご本人も騒がせたとおっしゃっているが、その結果責任、金融政策に対する不信感なりを抱かせたことに対する責任の取り方はどうあるべきか、どういうふうに感じているか教えていただきたい。
(答)
 先程お話したとおりと言うか、日銀の内部にルールがあって、それに則してされていたということだと思う。ただし、今回の対応の中でいうと、日銀の内部の服務規程自身を、見直す必要があったのではないかというような考え方、これが今のところ、私が申しあげていることであり、それ以上に何か細かく申しあげることはない。


(問)
 結果責任についてはどうか。
(答)
 結果責任ということをおっしゃる趣旨がよくわからないが、要するにその当時ルールに違反していなかったということで、今回、そのルールの方を見直していくという方向であると理解している。


(問)
 金融政策そのものへ不信感を抱かせてしまったというそのことについてはいかがか。
(答)
 金融政策そのものに、今、不信感を抱かせているとは思っていない。ここまでいろいろな難しい時期の運営があったと思うが、このように日本経済が回復して、そして今こういう大事な時期にあるということで、そういう面から言えば、引き続き安定した金融政策運営が望まれるということを申しあげた。


(問)
 今の福井さんの問題で、世論調査でも福井さんの進退についてかなり厳しい、われわれマスコミの予想以上の世論というか預金者の反発があると思うが、会長は福井さんが職責を全うしたいという気持ちを支持されるか。それともやはり責任は取るべきだという考えも理解されるか。そのへんをお聞かせ願いたい。
(答)
 重ねてのご質問であるが、日本銀行は非常に独立性のある存在であるから、その判断は独立的になされるべきものであって、全銀協会長としての立場で、そういうことをコメントすることはないのではないかと思う。


(問)
 先ほどの話の中で出た貯蓄から投資への関係で、今回、福井総裁のやったことで投資というものに対するイメージが下がってしまうおそれはないか。そのことについてはどのように認識しているか。
(答)
 貯蓄から投資へという政府の方針、大きな流れというものについて、今回の動きが影響するというふうには思わない。


(問)
 福井総裁の問題であるが、7年間で預けていた1千万円が2千万円以上になったという見方が強まっている段階であるが、これが事実だとして、総裁に就任するときに対応すべきだったというのは具体的にはその段階で解約すべきだったとお考えなのか。金融政策を司る立場の責任のある方が、7年間で元本が倍以上になる投資をしていたということに対する認識はどうか。
(答)
 どのくらい利益をあげられたかということについては、正しく聞いていないのでコメントは差し控えたい。先ほど来申しあげているとおり、日銀の中にルールがあって、そのルールに則って今まで運用をされてきたということである。ただ、そのルールは今後見直す方が良いのではないかという議論が進んでいるわけであり、私もそう思っているところである。


(問)
 日銀のルールの見直しの中で、資産公開のあり方であるが、英国、アメリカでさまざまなやり方があるが、例えばアメリカの連銀では夫婦で、全て細かくではないがレンジを持って夫婦の資産公開をしているが、そのようにした方が良いとお考えか。
(答)
 いろいろな事例もあるであろうし、日銀自身が今後検討の中でよく勉強され、適切に判断されていくものだと思っている。


(問)
 公的資金の話であるが、三菱東京UFJ銀行は晴れて完済されたが、その返し方について、最後の3千億円弱の公的資金をマーケットに投げた形で完済したわけであるが、本来、自己株取得というのが筋なのではないか。お金がないわけではないのに、ダイリューションをおかしてまでこの選択をした理由を教えてほしい。あまりマーケットフレンドリーではない選択をとったような気がするので、そのあたりのご説明をいただきたい。
(答)
 個別行の話になるので、全銀協会長会見の場でコメントするのはいかがかとも思うが、公的資金は、昨年10月時点で1兆4千億円ほどあったわけであり、それを無理なく早期に返済するという中で、いろいろな資本政策も採らせていただいた。3 月に発表した最後の返済については、自己資金での返済と売り出しを混ぜてやらせていただいた。決定をした時点では、株式市場はなかなか予測が難しいところがあり、そういう中でダイリューションの問題も株数からいって市場では何パーセント以内であれば常識的にそれほどの影響はないかというチェックをしたうえで、実行した。総合的な判断としては、全体としてバランスを取った判断ができたのではないかと思っている。


(問)
 傍から見ていると、無理なく早期にというふうにおっしゃったけれども、返済のスピードを優先するためにマーケットに押し付けたというふうにも見える。
(答)
 それもひとつの見方かも知れないが、私どもとしては、健全化計画の中で自己資本もある程度不安がないように維持しながらというところと、公的資金返済後はより積極的な経営も必要なので、そのためにどのような資本政策をしたら良いか、かつ、海外の投資家の方などの比率も上がっている中で、個人の方にも持っていただくチャンスをどういうふうに捉えていったら良いか、といったことを総合的に考えたつもりである。決して押し付けたような気持ちでやったわけではない。


(問)
 また話が戻るけれども、福井総裁の件なのだが、そもそも法律にも違反していないし、日銀の内部ルールにも勿論則っていたということで、特段問題というふうにはお感じになられていないようなのだけれども、日銀総裁という、透明性、公正性、非常に注目される立場の方がこうした行為を結果的にしていたことに対してモラル的にも問題はないとお考えなのか。
(答)
 どうも重ねてご質問があるのだけれども、当初お答えしたとおりだし、日本銀行というのはきわめて独立性の強い存在なわけで、そこの組織が独立性をもって運営していく責任もあるので、あまり他から、私のような立場で、これが良い、あれが悪いというようなことは差し控えたい。


(問)
 先ほども質問があったけれども、一般国民の反応というのが非常に厳しい反応が出ているわけだけれども、それはひとえにこうしたモラルという点に国民が反感・反発を覚えているのだと思うが、こうした、逆に国民の反応というのは、ご理解されるか。それともちょっと奇異に感じられることなのか。
(答)
 それはひとつの見方かと思うが、一方で、金融政策をグローバルに展開している中での運営の安定性というものもまた非常に重要なことという認識も、国民にはおありになるのではないかと思う。したがって、最初に私は全銀協の立場としてコメントするならば、そういう点も非常に重要であると申しあげた。


(問)
 資産公開の問題なのだけれども、いままで日銀の独立性を尊重して、任せたことなのだけれども、それでこういう結果をもたらしたのだが、それで新しい資産公開も日銀総裁、あるいは、奥さんも含めて、あるいは他の幹部も含めて、見直すことを検討されていると思うのだけれども、これを全部日銀に任せるということは、信頼できるのか。また同じような自分に有利な制度を作ってまた問題を起こすという可能性が出るのではないか。
(答)
 繰り返しになるが、日銀自身が責任をもって自分で深く検討し対応することであると思う。


(問)
 2点ある。繰り返しの確認になるが、福井総裁の村上ファンドの出資の関係で、総裁就任のときに対応はあったかなと思うというのは、その対応というのは、解約することも含めてという意味でとって良いのか。もう1つが、村上ファンドという私募ファンドへの出資だけでなく、社外取締役をされていたときの会社の株式も保有されているということだが、これについては問題ないという考えなのか、それとも何らかの対応があったのかと考えられているのか、伺いたい。
(答)
 繰り返しお答えしているとおり、ここに至ればあったかなと思うわけだが、そのときの日銀のルールに則った対応をされたのだと理解している。その中身が何かということまでは、私は存じあげない。


(問)
 福井さんの問題で恐縮であるが、先ほど、金融政策に不信感を抱かせていると思っていないと言った後に、金融政策の安定的な運営が望まれると言っていたが、福井氏の出資問題は金融政策の遂行の安定性にまったく影響を与えていないという理解ということで良いのか。
(答)
 現時点では影響を与えているとは思っていないというお答えをした。これからについては、将来を予測してお話しすることは適切でないと思う。


(問)
 郵政の話であるが、今、新しい郵政公社の方針、戦略あるいは新しい商品の開発とかを見て、会長はどう考えているか。前の全銀協会長がそういう戦略を進められていると思うが、今の郵政の戦略や商品開発とかはどう見ているか。
(答)
 郵政民営化の原点には、市場原理の埒外に置かれていた非常に大きなものを市場原理の中に組み込んで、より効率的な金融の枠組みを作ろうという大義がある。それについては、全体が賛成というような方向で進んできたというふうに理解している。それに至る過程については、規模を縮小しながら、民間とイコールフッティングな状況に早期にしていただきたいということを、全銀協としては一貫して申しあげている。その点に関しては、今も前も変わっていない。したがって、全体像をどういう具合に着地させるかという大きな青写真というか、マスタースケジュールが示されて、そのプロセスの中でこういう事業は一部拡大するとか、あるいはどのように対応するとかいう話であれば、皆がまたそれを議論したり、意見を言ったりできるような状況になると思う。そういうものもなしに部分的にいろいろなことが出てきても、全体像が見えないので、市場原理の中に入れていくという方向に対してどうかという判断がしにくいと思う。したがって、前から申しあげているように、全体としての大きな計画の中で途中経過としてどういうふうにソフトランディングさせるかということを、まずは聞いてからそれぞれについて判断したいと思う。