2006年9月19日

畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から、2点ご報告する。
 まず、本日の理事会において、平成19年度の税制改正要望について、お手元の資料のとおり最終決定した。この要望の枠組みは、前回7月18日のこの記者会見の場でご報告したものとほぼ同様である。
 次に、これは全国銀行公正取引協議会に関する事項であるが、去る8月に公正取引委員会および金融庁から改善要望があった住宅ローンの広告表示ついて、お手元の資料のとおり、改善点を取りまとめ、9月15日に会員銀行宛に通知した。また、協議会においては、同様に改善要望のあった外貨預金、デリバティブを組み込んだ預金商品、こういうものの広告表示についても、今後、必要な対応について検討を行っていく予定である。
 なお、今回の住宅ローンの広告表示改善について、更にお知りになりたい点があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

会長記者会見の模様

(問)
 貸金業規正法の自民党での審議がようやく決着した。灰色金利の撤廃や少額融資への特例措置などいろいろ議論を呼んだが、この出来上がった案についてどのように評価するか。また、金融庁が貸金業規正法違反の疑いでアコムに対し異例の再検査に入ったが、MUFGとして、大株主として、この事態をどう受け止めているのか。もしコンプライアンス違反が見つかった場合、提携の見直しなどについて考えるのか。
(答)
 今回の自民党の改革案の内容については、過剰貸付規制や、適正金利などの大きな柱で構成されていて、全体として貸金業界および消費者信用市場を健全、安心なものにする内容であると思っている。
 そして、いずれにしても、全銀協会員行の多くは何らかの形で個人のお客さまに対する融資業務を手がけていることを踏まえると、全銀協としても今回の制度改革の考え方・方向性に沿って、多重債務問題の解決に向けて積極的かつ前広に取り組んでいくことが大切ではないかと思っている。
 全銀協として具体的に何をするかは今後の課題となるが、例えば、個人情報保護の手立てをしっかりと行う必要はあるが、ホワイト情報を含めた信用情報の交流の促進であるとか、クレジットカウンセリング協会や「銀行とりひき相談所」でのカウンセリング機能の強化、それから金融経済教育などがある。そうした多重債務問題の解消に資する施策を、当局や関係団体と意見を交換しつつ検討していきたいと思っている。
 アコムについての質問であるが、私どもの持分法適用会社であるアコムについて、金融庁の検査を受けていると伝えられている、これは報道もあるので承知しているが、当然ながら検査内容は存じあげない訳である。一般論で申しあげると、アコムに限らず法令順守、コンプライアンスの遵守は広く金融機関に求められているところであり、何か課題があれば、適切に対応しなければならない。これは大前提であると考えている。
 前からこの記者会見の場でも質問があったときにお答えしているとおり、MUFGグループとしては、やはりお客さまに安心、安全に消費者信用をご利用いただく、そして健全な市場の育成に積極的に対応していきたいと基本的に考えている。そのためにいろいろ学ばなければいけないことは学んでいく、私どもとしてはそういうプロセスに何年か前から入っているつもりであるが、更に今年に入り最高裁の判例なども出ており、健全性への対応のスピードが更に全体として加速しているという認識は十分にある。私どもはDCキャッシュワン、あるいはモビットで、利息制限法範囲内の消費者ローンを提供してきたほか、この8月からはDCカード社のキャッシング金利も利息制限法以下の水準として、いずれも消費者金融のノウハウを学びながら健全な対応を進めているところである。アコムとの提携に関しても、私どもだけではなく、弁護士など第三者も入れて適宜コンプライアンスなどについてのデューデリジェンスも行い、その結果を踏まえて社長に意見を申しあげたりしている。今後もガバナンスやコンプライアンス管理態勢などに改善すべき点があれば、必要な対応を取るべく、われわれの立場でしっかりと対応していきたいと思っているところである。したがって、現時点では提携を見直すと言うようなことは考えていない。


(問)
 先日、全銀協に対して安倍官房長官から、再チャレンジ支援に関する要請があったが、具体的にどのようなお話があったのか。全銀協および個別行として、どのように対応する考えか。
(答)
 安倍官房長官からは、いわゆる勝ち組・負け組を固定しない社会、人生の様々な段階で多くの選択肢が用意されている社会の構築を目指すには、再チャレンジ可能な仕組みの構築が重要であるとの説明があった。これはすでに報道にあったとおりである。そして、特に、金融界との関係では、事業に失敗した人などの再チャレンジの観点から、金融機関が融資する際に個人保証に過度に依存しない、また、個人保証を取得する際には説明態勢を徹底する、そして個人保証に過度に依存しない融資手法の多様化の一層の推進、こういうことなどについての対応が重要ではないかとのご指摘があった。
 加えて、これは経済界全体に対してだと思うが、就業の複線化の問題とか、正規・非正規労働者の間の処遇の均衡の点、更に女性の積極的活用などもご要請があった。
 このうち、金融に関する「個人保証の取得の際の説明態勢の強化」や「担保・保証に過度に依存する融資慣行からの脱却」は、先月発表された金融庁の平成 18事務年度の監督方針にも盛り込まれている点である。安倍長官からは、会合の趣旨を各金融団体で会員にしっかりと伝えて欲しいとのご要請をいただいたので、全銀協の通達を出させていただき、本日の理事会でもその点を説明して、全会員銀行に連絡し、引き続き適切な対応をお願いしたところである。
 言うまでもなく、再チャレンジ支援という問題は、柔軟で活力ある社会を構築する大切な取組みと認識しており、特に、私ども金融界は経済活動、あるいは社会全般と深く関係しているので、この再チャレンジ支援に理解を深めて、これを実践していくことが重要であると考えるし、当日も、私からはそういう話を長官に申しあげた。
 各行すでにいろいろなタイプの融資商品の開発を行っているが、例えば、私どもの銀行の例を申しあげると、スコアリングモデルを活用した中小企業向けの新しい融資商品では、担保と第三者保証を不要としているし、一定の条件を満たせば、代表者の保証も不要としている。そういうようなことをすでにわれわれとしてもチャレンジしている。担保や保証に過度に依存することなく、融資というものをプロジェクト本位に見る、あるいは技術力本位に見る、人物本位に見てやっていくということはわれわれ自身の課題であり、今後、さらに工夫・強化していきたいと考えている。当然ながら、モラルハザードという問題は前提としてクリアしたうえで、そういうことに対応していくというように理解している。
 また、「働き方の複線化」という経済界一般に対してあったご要請については、私どもの銀行でもいろいろなニーズで人材がやや不足気味であり、中途採用の拡大やパート労働者の正規行員への切り替えなどもどんどん行っているところである。また、これも個別行の話で恐縮であるが、私どもの銀行では、女性の活躍を支援するための専門部署「女性活躍推進室」を設置し、育児休業制度の整備や、配偶者が転勤されたときの異動制度など、いろいろなことで積極的に対応しているつもりである。こういうことにも一層力を入れていきたいと考えている。


(問)
 2003年に破たんした足利銀行の受け皿選定が近く公募という形で始まるが、その受け皿選考にあたって、業界として何か要望することはあるか。また、債務超過額によっては銀行界の負担も生じると思うが、それについて現時点ではどのように対応するかお考えはあるか。
(答)
 足利銀行の受け皿については、「足利銀行の受け皿選定に関するワーキンググループ」などで議論が深められていると理解している。金融庁がすでに、基本的な視点として、1つは金融機関としての持続可能性、サステナビリティ、2番目が地域における金融仲介機能の発揮、3番目が公的負担の極小化という3点を掲げられている。これをバランスよく満たされる先が検討されるのではないかと思う。したがって、私どもの業界として特に希望するということではないと思っているが、個人的な見解も入れれば、特に2番目の地域地元における観点というのが重要になるのではないかと考えている。
 銀行界としての負担についてのご質問があったが、これは今後当局が具体的な受け皿銀行や買取価格を決定していく中で、その実施時期や金額などが確定していくのではないかと認識している。それを誰が負担するかということは、負担額の規模や実施時の環境などを踏まえて、法律にもとづいて対応されるものであると思っている。現段階では白紙であると認識している。


(問)
 東京スター銀行のATM無料に関する問題であるが、この問題に関する全銀協としてのスタンスと、個別で申し訳ないが、三菱東京UFJ銀行の今のスタンスを改めてお伺いしたい。
(答)
 この問題に関しては、私どもが何かを発表したというわけではないが、いろいろと報道されているのでお答えさせていただく。まず、一般論として、個々の銀行がお客さまへのサービス向上のために最大限の合理化努力をしていかなければならないということは大前提として、当たり前だが確認させていただきたい。
 その上で今回の件であるが、正式発表でもないのでやや一般論的にお聞きいただきたいが、今のATM相互利用のシステムは歴史があって、最初はそれぞれの銀行が単独でATMサービスをしていたが、ある段階でATMネットワークを繋げた方がより利便性が高まるということで、大変なシステム構築を行って、しかも安全かつスピーディーに、そして決して社会に混乱がないような形でこれをやっていくこととした。当然、それぞれの銀行が単独にやっていた時と比べてコストがかかってくる。そのコストをどう負担するかという時に、各銀行間でお互いにお客さまが利用されてメリットがあるということで、共存の理念で、このコストをこうした形で負担していこうと決めてスタートしたという歴史的経緯がある。
 したがって、個別の銀行間で、お互いがどのように利用しているかはそれぞれチェックをして、話し合いが行われるようなあり方になっている。これは決して全銀協としてではなく、それぞれの銀行がお互いの利用状況の中で、どういうふうにコストを負担していくかを考えているものである。今回、たまたまこういう報道がされているが、他の銀行のケースでもそれぞれの銀行が話し合いをしているというのが実態ではないか。そういった銀行間利用のコストをお互いに負担しあうという問題と、一方で、お客さまからの利用料をいくらに設定するかというその銀行の判断でやる問題は、必ずしも直接的な関係はない。私どもの銀行としては、そうした基本理念に則って、どこの銀行ということなく、いろいろな話はさせていただいている。


(問)

 今日、北朝鮮への経済制裁について閣議決定されたが、内容に関連した取引の実態と今後の対応についてお話をお聞かせいただきたい。
(答)
 今日の午前中に決定された話であるので、実際そういう当局からの指示が出れば、それに則ってきちんと対応していくというのが基本的な考えである。従来から、私どもの銀行も総合的な情勢はよく理解し、慎重な方針をとっているので、現実に何かをやっていたということではないと認識している。したがって、今回の指示によって、それほど大きな変化が現実に起こるとは考えていない。ただ、出されたものをよく読んで、きちんと対応したいと思っている。


(問)
 今日の税制改正要望にも載っているが、確定拠出年金について伺いたい。ちょうど5 周年になったが、これまでの市場の拡大のペースについてどのように評価しているか。また、貴行にとっても非常に重要な戦略分野だと思うが、貴行自体に確定拠出年金を導入する考えはあるのか。顧客に勧めているのであれば、導入しても良いのではないかと思うが、その点についてはどのようにお考えか。
(答)
 税制について不足している点があれば、斉藤専務理事に補足していただくとして、制度ができて5年、わが国なりに着々と制度が拡大していると認識している。銀行としては、事業者側に十分に制度の中身をご理解いただき、そのうえで導入されるという場合は、いろいろなお手伝いをさせていただいている。各社各社で人事部などの担当部署が、いろいろ勉強をされ、社員に周知徹底されたうえで、導入されるというプロセスを取って、わが国なりに浸透してきていると認識している。
 私どもの銀行がどうするかについては、いろいろな意味から検討中である。
(斉藤専務理事補足)
 確定拠出年金に関する私どもの税制改正要望について、説明させていただくと、現在の確定拠出年金の制度について、拠出限度額については低すぎるのではないか、現在の倍ぐらいの水準まで限度額引き上げが図られることがよろしいのではないか、ということがある。もうひとつは、現在の確定拠出年金の形の中で、企業が拠出するものについてあわせて従業員が拠出するいわゆるマッチング拠出といわれているものについて、これが認められていないため、自助努力という観点から考えると、このマッチング拠出というものも容認されてはどうかと思う。こういうことにより、さらに市場の拡大が図られるのではないかと私どもとしては考えている。


(問)
 冒頭の貸金業のところで再度確認だが、いわゆる個人情報について、新しい組織、機構を作るという法案になっているが、全銀協としても情報を共有化するということで具体的に始めるということでよいのか。その道筋みたいなものはどの程度固まっているのか。
(答)
 その点は、まだ全銀協として何か決定をしたわけではない。改革案が出たところであり、そして、多重債務問題は本当に重要な、解決していかなければならない問題である。そういう中でわれわれとしてどういう風に対応していくかということは、よく会員の意見も聞きながら、そういう方向で対応していかなければいけないのではないかと私は思っている。


(問)
 地価の基準価格が出た。大都市でかなり上がっているということだが、この地価の上昇、一説にはバブルに近い状況になっているのではないかという指摘もあるが、このあたりはいかがか。
(答)
 今回報道されているとおり、3大都市圏の地価は上昇しているが、ただ全国で見るとまだマイナスであるし、それから上昇しているものの中身を拝見していると、バブルというような状況ではないと思う。商業地を中心にいわゆるキャッシュフローというか、土地の生産性を見た中で価格が決まっていくという、最近の価格のあり方の中で、経済環境の復活とともにこういう変化が起きてきているというように見ている。したがって、以前のバブルのようだと一部心配される向きがあるのは存じているが、われわれの経済調査室を含めてまだそういうような段階であるという見方はしていない。


(問)
 郵貯銀行の関係なのだけれども、一部報道で全銀協としてのスタンスを変えて業務拡大を一部認める方向でという報道があったけれども、そのような方針転換のようなことはあるのか。
(答)
 一部新聞で報道された日に直ちにそういうことはないというコメントを出させていただいた。そして、それは確か地銀協会長の記者会見でもご質問があり、瀬谷会長も全銀協の副会長でいらっしゃるから、確認をしていることで、全銀協としてそういう方針変換をしたということは一切ない。
 やはり何といっても、私どもがこれは何年間も通じてずっと郵政問題について主張させていただいていることは、一つは適正な規模への縮小ということであるし、もう一つは民間金融機関との公正な競争条件の確保ということであって、民営化されたとはいえ、政府出資が残っている間に、いろいろな業務を拡大されるということについては、私どもとしては非常に問題であると思っている。今この段階において、7月31日に出てきた「実施計画の骨格」の内容について言えば、やはり郵政民営化の原点である市場原理の埒外にあったものが、市場原理の中に入って金融機能を発揮していくためにも、適正な競争条件、そして規模の縮小ということが、極めて大事なことになるという方針は不変である。


(問)
 アメリカのイランへの経済制裁の一環として、邦銀各行、ドル建て送金の自粛などをされるという報道があったけれども、この件で自粛されているサービスの中身と、それがイランの貿易に与える影響についてどのようにご覧になっているのか。
(答)
 私どもがそういうことに関して何か発表したことはないし、そういうものを発表するものでもないと思う。一つ言えるのは、先ほど、今朝の北朝鮮の事案があったが、日本の当局の措置にもとづいて、法律をきちんと守ってやっていくという一点であって、イランについて、何かわれわれが発表したことはない。


(問)
 経済への影響とか、原油の取引が非常にイランとの間で多いわけだけれども、何がしかの影響みたいなものが出てくるとご覧になっているのか。
(答)
 まだそういうようなことをコメントするような段階にもないように思うが、一民間金融機関としては、常に全体の環境の変化に対しては、自分たちなりに判断し、対応していく。

別添資料:畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)