2007年2月20日

畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から、2点ご報告する。
 まず、1点目は、本日、理事会に先立ち、自粛勧告等委員会を開いて、先週15日に金融庁から行政処分を受けた三菱東京UFJ銀行への対応について審議した。その結果、全銀協として同行を「厳重注意」とする措置を決定した。
 もう1点は、お手元に資料を配付しているが、今般、銀行業界における独占禁止法遵守に関する対応状況についてアンケート調査結果を取りまとめた。これは昨年6月に公正取引委員会が公表した「金融機関と企業との取引慣行に関する調査」において、金融機関の2割以上が、平成13年の報告書や公正取引委員会の関係するガイドラインを認知していなかったという結果が判明したことから、同委員会から当協会へ周知徹底依頼があり、その周知徹底策を実施した後に会員銀行の認知度や対応状況をフォローアップするために実施したものである。
 今回の調査結果では、会員銀行全行が同報告書を認知しているという結果が出ている。 なお、本アンケートについて、さらにお知りになりたい点があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。


会長記者会見の模様

 まず、皆様からのご質問をお受けする前に、個別行のことで恐縮であるが、先日も記者会見を開いてお詫びを申しあげたとおり、三菱東京UFJ銀行が、金融庁より、銀行法第26条第1項にもとづく一部業務の停止を含む業務改善命令の行政処分を受けたことに関して、この場をお借りして、改めてお詫びを申しあげる。
 本件に関して、先ほど斉藤専務理事から報告があったとおり、本日、全銀協から「厳重注意」処分を受けた。この「厳重注意」を極めて重く受け止め、その意味するところを十分に踏まえて、今後の全銀協活動に取り組んでまいるとともに、全銀協会長として任期まで職責を全うすべく、誠心誠意務めてまいる所存である。
 まことに申し訳ございませんでした。


(問)
 本日から、日銀の金融政策決定会合が始まったが、全銀協の会長として、現在足元の経済指標とか経済状況を踏まえたうえで、日銀が追加利上げを行うべきなのかどうか、あるいは、現在の日本経済に対する認識をどう捉えているのか、併せて教えて欲しい。
(答)
 まず、経済全体に対する見方は、先月、この場でお話したものと基本的には変わっていない。先週発表された昨年10~12月の実質GDP成長率が8四半期連続のプラス成長を記録するなど、企業業績をベースとして、景気の回復傾向が続いているという見方は変えていない。しかしながら、その一方で、機械受注など設備投資関連指標の一進一退、あるいは消費者物価の弱含みなど、留意すべき点があるほか、雇用者所得の伸びの鈍化もあって、個人消費の持ち直しのテンポが足元にかけて鈍化している。したがって全体としてみれば、景気の拡大傾向は続いているという認識であるが、足元は強弱様々な経済指標が入り混じっているという微妙な局面ではないかと思っている。
 やや具体的に私どものお客様からの見方を紹介すると、業界によって多少差はある。自動車、鉄鋼、化学、機械、商社といった業界では、海外需要の拡大を主因として、来年度の業界動向や企業収益を引続き良好と予想される先が多いように思う。その一方で、非鉄や紙、パルプ、石油といった業界では、販売競争の激化などを理由に、企業収益の先行きをやや心配される声があった。また、小売や建設といった業界でも、個人消費の回復の鈍さや公共事業の減少等を背景に、比較的慎重な見方をされる方が多いように見ている。
 そういう経済の見方をベースとして、追加の利上げについての質問であるが、前回の記者会見でも申しあげたとおり、銀行の立場からすると、銀行の調達サイド、すなわち、預金者にとっては利上げが望ましい、一方、運用サイド、すなわち貸出先のお客様からすれば、いろいろな先行きを考え、低金利の継続を望まれている。両サイドの間に立って資金仲介を行っている私ども銀行としては、どちらにすべきかというような意見を申しあげることは難しい立場である。先ほど申しあげたような足元の環境を総合的に勘案されて、日本銀行が適切に判断されることと思っている。


(問)
 大手銀行が、過去最高益を更新する中で、以前までは縮小傾向にあった海外への再進出という動きを強めているが、その中で昨年末にBTMU、あるいは今年に入ってSMBCが米国当局から処分を受けるという事態になっているが、その現状について全銀協の会長としてどのように考えているのか。あと、こういうことが立て続けにあったということで、邦銀のマネロンなどの対応が、欧米と比べ甘いのではないかとの疑念も抱かれるが、そのことについての見解も教えて欲しい。
(答)
 米国の当局から指摘を受けたということはご指摘のとおりであるが、銀行によって米国における業務の規模とか内容が異なるので、それによって米国当局が求める水準なども異なると認識しており、本邦金融機関の対応と欧米金融機関の対応を単純に比較することもできないかと思う。
 これは決して言い訳ではないが、米国においてAML(アンチマネーローンダリング)に関しての行政処分が、既に発表されている中で、私どもを含めたわが国の金融機関だけではなく、ヨーロッパの銀行などで、私どもの国以外でも10行以上、そういう処分が出ている。したがって、なかなか一律には申しあげられないが、いずれにしても、私ども、当局から行政措置を受けるということは、非常に遺憾なことであり、大いに反省しなければならないことであり、厳粛に受け止めて、改善に向けて必要な対応方針を打ち出し、今、私どもとしては、実行プロセスに入っているところであり、確実に実行していきたいと思っている。そして、そのマネーロンダリング防止ということは、米国にとどまらずグローバルベースで対応すべき課題と認識しており、MUFG全体で、日本、世界を通じて対応の強化を進めていかなければならない、そういう認識である。


(問)
 盗難カードおよび偽造カードについて、2点、伺いたい。預金者保護法が施行されて 1年少し経過したが、この1年を見ると、支払い限度額の引き下げであるとか、生体認証の導入であるとかは、基本的には個別金融機関の対応かと思われるが、この1年を見て、全銀協会長としてどのように評価しておられるのか。また、一方で法律の見直しが夏にも来ると思うが、今後の課題というか、見直しのポイントはどのようなところにあるとお考えか。
(答)
 昨年2月の預金者保護法施行後の全銀協での主な取組みを申しあげると、昨年1月に「カード補償情報センター」を設立し、偽造・盗難キャッシュカードの被害に関する情報を登録して金融機関相互で利用することにより、補償手続きの迅速化・円滑化を図っている。昨年3月には「全銀協ICキャッシュカード標準仕様」を改正し、ICカードを利用して生体認証を行う際の共通仕様を定めている。さらに同年10月からは「金融犯罪ゼロキャンペーン」を開始し、偽造・盗難キャッシュカード等による預金の不正な払い出し、あるいはインターネット関連犯罪等について、具体的な手口や対応策を広く認知、ご理解いただいて、被害を未然に防止することを目指し、活動を続けているところである。
 今後は、会員行に通知している「インターネット・バンキングにおいて留意すべき事項について」というものを来月中に改訂し、昨年開催した金融庁の「情報セキュリティに関する検討会」における検討結果や金融庁の監督指針の改正内容を盛り込むこととしている。全銀協では引き続き、各行の先進的な取組み事例を情報共有したり、セキュリティに関する会員銀行向けセミナーを開催するなどして、業界全体のセキュリティ対策のレベルアップに資するように努めていく計画であるが、実際上、このような全銀協加盟行の取組みと併せて、支払いの限度額を設定した動きが浸透してきており、事案自体は、手元に数字はないが、だいぶ収まってきていると感じている。一方で、ネットバンキングなどについては、いろいろな技術革新も行われていくと考えられるので、ますますこちらサイドとしても勉強して、それに対応するように、未然に防ぐように努めていかなければならないと考えており、そうした姿勢で取り組んでいきたいと思う。


(問)
 銀行業界にとって好調だった、投信販売や保険商品の販売が、足元ではこれまでの伸びに比べて鈍化しているようだが、この背景としては、金融商品取引法の施行を踏まえて顧客への説明責任とか、コンプライアンス強化の対応がひとつの要因にあるという見方もあるが、この点について、今後、顧客への徹底をはかりながら販売力を強化していくという、その両立をはかるという意味で、どのように銀行が取り組んでいくのか、考えを伺いたい。
(答)
 確かに、一時に比べればそういう数字が伸び率として、少し鈍化傾向にあるという見方もできると思う。ただ、1年を通して見たときに、例えば、私どもの銀行の総預かり資産の数字を見ると、投資商品の販売は着実に伸びていると思う。お客様がある程度認知されて、知識も増やされて、よく考えて対応されようとするような動きが出てきているというのであれば、それはそれで意味のあることである。われわれとして、「貯蓄から投資へ」という動きに臨むにあたっては、何といっても、投資家保護の点をきちっと整備して、そのうえで着実に成長していくということが望ましい。商品が出た途端の伸び率をずっと続けなければ問題であるというような見方は、むしろしていない。まして、今年から金融商品取引法の施行が始まるので、そこから要請されることのインフラをきっちり整えて、対応するということは当然であるので、あまり短期的な数字に一喜一憂してはおらず、全体として必要なことをきっちりやって、「貯蓄から投資へ」という大きな流れを、共存共栄の世界にしていくということが大事だと思っている。


(問)
 一つ前の質問の続きであるが、預金者保護法ができてから、一部に犯罪集団などが、偽装をして盗難されたということで、払い出しを銀行の方に請求をしたりといった例が出てくるようになってきているかと思うが、今後の見直しを踏まえて、銀行業界として、現状であればほとんど重過失と認定する例は非常に少ないと思うが、つまり結構要求されたら補償するということがかなり広く行われていると思うのだけれども、これをもうちょっとさらに厳格にするとかというのを業界として求めていくというお考えはあるのか。
(答)
 被害に遭われた方への対応は、少なくとも例えば私どもの銀行では、法律の趣旨に従って、かなり積極的に行ってきた。今残っている問題としては、直接ではないかもしれないが、口座に振込などで残されたお金をどういうふうに元に戻すかということがあるが、それについていえば、今ちょうど法律を作っていただくということになっており、法律の下で公平に早期にお返ししていきたい。今まではお返しはしたいのだけれども、後からどなたか債権者が出てこられるなどで、却って問題が起こってしまうことをおそれてお返ししていないというところもあるので、そこに関してはぜひ法律をというお願いをして、法案を固めていただいているところだが、そういう形でなるべく早期に返還できるようにと進めている。


(問)
 むしろ伺いたかったのは、たくさん払ってあげるのは良いことだと思うが、その制度を悪用して、盗まれたということを偽装して、たくさん銀行の方からせしめ、いわゆるモラルハザード的なことが一部散見されていると思うが、これに対して何か、非常に対応は難しいと思うが、法律に決められているので払わなければいけないということ、これは何か見直しをしていくという考えはないかということ。
(答)
 法の施行が昨年の2月で、見直しはその2年後ということになっており、来年2月になるので、この春から夏にかけて、改正の要否を含めた議論が深められるというように認識している。


(問)
 年明けから食品業界などを中心にM&Aの流れが非常に活発になってきていると思う。これまで銀行はかつては産業再編なり、業界再編を非常に主導してきたという時代もあったかと思うが、その後、公的資金の注入があったり、不良債権処理があったり、いろいろなことを経て、また今こういう状態になっている。こういう状況で、銀行がM&Aなり、業界再編に果たしていく現在の、かつてとの比較で、かつてはこうであったが、これからはこうあるべきだとか、実際にどういうふうにやっているとか、銀行の役割という部分での認識を伺いたい。
(答)
 確かにいろいろな企業の合併、買収という問題が議論されている。これはやや教科書的なお答えで恐縮であるが、それが適正に行われれば企業価値を高めて、業界再編を促し、日本経済全体の価値向上にも繋がるということだと思う。ただし、再編の背景や事情は様々なケースがあり、個々の事案に応じて、お取引先の考え方をよくお聞きして、ケースに応じてわれわれ銀行の立場から意見を申しあげたり、あるいは関わらせていただくということだろうと思う。結果として、企業価値を高めるものであるかどうかということが一番大事なポイントで、企業と銀行との関係は、そうしたことを超えて、やはりずっと続くものであろうと思う。


(問)
 先日の行政処分に関連して、これから改善計画を3月16日までに出されるということだと思うが、例えば反社会的勢力との関わりであるとか、法令遵守態勢の整備とか、どういった改善策を考えているのか、改めてお伺いしたい。
(答)
 先日の個別行の記者会見でも申しあげたとおり、基本的にガバナンス態勢を一層強めて、銀行の公共性や経営の健全性に照らして、しっかりとしたガバナンス態勢を築いていくということがまず第一だと思う。その精神に則って行政処分の内容を踏まえた対応策をとっていくということだが、命令を先週の木曜日にいただいたところなので、3月16日に向かって固めていくが、今回の命令の内容にも照らして、ガバナンス態勢の一層の整備にプラスして、全役職員に対するコンプライアンス教育の徹底、コンプライアンスに関する委員会の機能の強化、監査機能の強化等の内容になるように考えている。これからまさによく詰めて、行政処分を踏まえて検討を深めたいと思っている。