2007年10月23日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

 

斉藤専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 お手元にご案内を配付しているが、全銀協では、来週31日の午後2時から「わが国金融産業の国際競争力をどう強化するか」というテーマでシンポジウムを開催する。
 このシンポジウムでは、年内に予定されている金融庁の「金融・資本市場競争力強化プラン」の取りまとめに向けて、関連する諸課題についての提言を公表し、パネルディスカッションも行う予定である。
 本件については、既に皆様にもご案内を差しあげているが、本日、改めてご紹介させていただくので、是非、ご参加いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 現在の景気認識について伺いたい。先週末のG7では、サブプライム・ローン焦げ付き問題に端を発する金融市場の混乱や経済の先行き懸念というものが示されたと思うが、会長の現在の国内外の景気に対する認識を伺いたい。
(答)
 サブプライム問題に端を発する市場の混乱から2ヶ月が経ち、そのなかで認識されたいろいろな問題への対応について、G7での認識が共通化されたということは時期的にも大変良いタイミングであったのではないかと思う。そういった認識に基づいて、今後、不安定・不透明ななかで緊急時の対応には、G7が協調して対応されるのではないかと思っている。
 国内の景気であるが、結論的に言うと一部弱い動きが見られるものの、基本的には、ここ半年続いているような形での緩やかな成長を続けていくのではないかと見ている。
 例えば、日銀短観の9月調査によると、その業況判断では、製造業、大企業では引き続き堅調であるが、中堅・中小企業、非製造業の部分ではやや企業マインドの悪化が見られている。また、9月の景気ウォッチャーの調査も弱含みが続いていると出ている。
 一方で、鉱工業生産は、8月は増勢に転じているし、弱さが懸念されていた機械受注、これも7~9月は前期比増加が見込まれている。また、設備投資についても、見込については、引き続き堅調が予測されている。企業の増益基調も目下のところ、続くものと見られている。確かにサブプライム問題に端を発する市場の混乱があり、これが落ち着いてくるには少し時間が掛かるのではないかと思うが、日本経済そのものを見てみると、やや減速しつつも緩やかな成長を続けていくということであると思う。
 国外の経済と言うと非常に幅が広いが、米国の景気を見る場合、サブプライム問題というものの直接的な影響と、市場の影響を分けて考える必要があるのではないかと思う。サブプライム問題というのは、米国の住宅問題であり、一昨年あたりからいろいろと言われてきているが、在庫が積みあがってきている。また、価格については場所によってはかなりばらつきがあり、例えば、自動車産業の中心である中西部においては、価格の下落が大きい一方、西海岸では数%から1割程度下落している。一概に言えないが、やはり住宅在庫が積みあがってきて、売れ行きも落ちているというようなことから見て経済の足を引っ張っていることは間違いないと思う。次に、市場の影響であるが、株式相場が下落し、政策金利が0.5%引き下げられたが、クレジットのスプレッドは一時よりは縮小しているものの、サブプライム問題以前の状況には戻っておらず、企業の調達コストが高くなっている。また、サブプライム問題に端を発した市場の混乱に関する心理的な影響を見ると、米国の景気が、これから先、減速するのではないかという見込みが高くなっている。現在出ている指標はそう悪くはないということだが、先行きはそういうことが懸念されているということだと認識している。


(問)
 昨日、自民党の金融調査会で保険商品の銀行窓口販売を予定通り全面解禁することについて了承され、事実上12月22日の全面解禁が、ほぼ決定されたということになったと思うが、これについて感想と評価をお願いしたい。
(答)
 関係者の皆さんの大変なご努力でスケジュールどおりの解禁がほぼ間違いなくなったということで、これ自体、私どもは大変評価している。保険の窓販というのは確か2001年の4月に開始されて、以来段階的にきて、この2007年12月に全面解禁ということであるが、個人的な評価でいくと、やはり随分時間がかかっているなと、率直に言って思う。とは言え、その間に銀行窓販については、体制の整備、コンプライアンスの整備、そして今度の場合は、専門家である人達の養成または採用、または出向を受けるといった体制の整備が要るわけであり、その準備にわれわれとしても万全を期してきているということである。改めて関係各位のご努力に対して敬意を表したいと思う。


(問)
 シティグループなど、欧米の大手金融機関が相次いでサブプライム、レバレッジ・ローン関連の損失処理を行ったが、日本の金融機関はサブプライム関連のローンのエクスポージャーは小さいと言われているが、来月の中間決算を控えて改めて日本の銀行の決算で、そのような評価損などが想定されているのか。もう一つは、ノンバンク、消費者金融向けの融資絡みでの損失というのは日本の金融機関の財務内容を悪化させるか。
(答)
 日本の銀行の中間決算ということであるが、これから各銀行がそれぞれ取りまとめるもので、個別の問題であり、今ここで私が申しあげる立場にない。ただ、われわれも時価評価をしてきており、当然その部分のインパクトは決算において明らかにされていくと思う。今までもそれぞれの銀行で、サブプライム問題についての可能な開示はしてきている。最終的に決算において説明されるので、それを待ちたいと思う。ただ、日本の銀行への影響は極めて限定的なものに止まると聞いている。
 ノンバンクの問題であるが、当然われわれ日本の銀行は、一つは貸出金については自己査定をして、それ相応のきちんとした対応をしている。それから、もう一つはノンバンクに投資しており、それぞれの銀行によって違うが、その株式の今般の下落リスクというのは、当然決算に反映されていくことになると思う。


(問)
 サブプライムの関連で、追加でお聞きしたいのだが、日本の銀行においては、極めて限定的な影響しかないだろうと言われたが、次の行動として、例えばいろいろな証券化商品をまた増やすといった行動に出るかと思うが、そういった対応について何かお考えはあるか。
(答)
 今般のサブプライムの波及影響を見ていると、やはり金融商品、証券化商品に対する懸念というものがマーケットに出てきたのではないかと思う。したがって、金融商品、証券化商品の中身、その分析力、それに対する格付けという問題が起きているし、当然、レバレッジド・バイアウトというような、いわゆるストラクチャーものに対する不安、懸念というものが今回、増幅されて出てきている。こういったもので、揺れた振り子が真中に戻ってくるのには、少し時間がかかるのではないか。逆に、非常にストレートな現物というものに対しては、わかりやすい部分があるので、お金が引き続き入ってきているという見方をしている。たとえば石油やコモディティには、引き続きお金が入ってきている。ところが、金融商品化されたものについては、やはり不安がある。これが、どのように正常化されるかということであるが、投資家が安心できる、わかりやすい商品をどういうふうに作りあげていくかということがこれからの一つのテーマではないかと思う。そういった意味では格付け会社の金融商品に対する格付けの信頼性というものも、改めて一つの課題になってくると思う。


(問)
 銀行の保険窓販の全面解禁にあたって追加措置が求められており、金融庁では内閣府令等の改正を早急に進めていきたいということのようだが、こうした動きに対して銀行サイドとしては問題ないと考えているのか。
(答)
 具体的なものを見て対応することになるが、今聞いている限りにおいては、対応できるものと思う。ただし、販売者としての責任、製造者としての責任について、個別に銀行と保険会社との間できちんと取り決めをしていかなければならない。われわれが保険窓販の全面解禁を主張してきたのは、お客さまの利便性、受益者の利益を中心に考えてきたわけであり、そこにおいて、お客さまからの質問等がたらい回しになったりすることがないような態勢を、しっかりと作りあげていかなくてはいけないと思っている。確か概ね3年後にもう一度見直しをするということになる部分があると思うが、それに対して全く心配ない態勢をどのようにわれわれとしても作りあげていくか、改めて点検して対応していきたいと思っている。


(問)
 日本の銀行株が軟調な展開が続いているが、これをどう評価するか。金融セクターは世界的にも軟調に推移しているが、先ほどの説明にもあったように、サブプライムの影響は欧米ほど日本の銀行はないが、一方で、ノンバンクのリスクとか、貸し出しがあまり伸びていないとかの要因が指摘されている。今の銀行の株価水準が、ファンダメンタルズに照らして安すぎるという評価なのか、投資家の間では、なかなか銀行株を買うきっかけがないという人が多いと思うが、今後の展開も含めて、お聞かせいただきたい。
(答)
 当事者に対して、今の銀行株についてどう思うかといわれても、なかなか評価しにくい。どうして下がるのかなという感じは正直言ってある。非常に乱高下しており、需給要因とか海外の投資家が手元のキャッシュを積み上げたいために、流動性の高い銀行株を売っている部分があるのかなと見ているが、どうしてなのかというのが正直なところである。


(問)
 2点伺いたい。来月で97年11月の金融危機の始まりから丸10年が経つ。この10年間、頭取自身、金融危機のなかで大きな役割を果たしてきたと思うが、振り返ってみて、感慨、感想をお聞かせいただきたい。
 2つめは、この10年を経て金融危機が終わったわけであるが、銀行というのは本当に復活したのか。銀行というのはステークホルダーが多い。預金者、貸出先、株主、ある意味で納税者もステークホルダーになったわけであるが、そのステークホルダーたちの期待に今応えられているのか。銀行復活の度合いは大体何合目まできているのか。
(答)
 金融危機が何年から始まったかというのはなかなか難しい。私が94年に国内の企画部門の部長になったときに、当時からバブルの崩壊、住専問題というようなことで、先行きに非常に不安があり、20世紀に解決はちょっと無理だろうと思った。その後、信組、証券会社や銀行の問題、外においてはアジア危機、ロシア危機といった問題から、全面的なデフレ進行、不良債権問題、公的資金の導入、そして2002年からの竹中プランと続いて、本当に激動の時代であった。
 金融危機は振り返ってみるといろいろな要素が複合されていると思う。不良債権、土地の問題がそうだが、日本経済自体がプラザ合意の後、「過剰な設備」、「過剰な人員」、「過剰な債務」という3つの問題を抱えていて、その後、水が引いていくとそれが大きな問題として浮かび上がってきた。これを産業界が自分の力で、とにかく大変なリストラで克服しようとし、できないところについては、金融が債権放棄などいろいろな処理をしながら蘇生させ、またある時は法的手続きまで打って対処してきた。
 ただ、そういう経済の問題だけではなくて、もうひとつ、私は、戦後50年の制度疲労というものが出てきたのではないかと思っている。個人的な感想であるが、やはり90年代前半から後半にかけての問題というのは、証券不祥事等、コンプライアンスの問題が大きくあった。利益補填の問題、総会屋の問題、そして官と民の問題など、いろいろなものがそこに出てきて、複合的な要素から、経済だけではなくて、心理的なもの、世の中の変化というものも、非常に影響していたという気がする。アメリカでも同じようにエンロンの問題などがあったが、世界的に戦後50年乃至55年の制度疲労を直すということでこの10年、特に日本は苦労してきた。大変苦しい思いをしてきたが、この失われた10年、15年を経て間違いなく金融界は、前進をし、進歩をしてきたのではないかと思っている。経済界においても新興国が復活してきたということは当然大きな要素である。素材産業が非常に良くなり、メーカー、製造業が生き返った。しかし、片方で国内のサービス産業や小売りというのは依然として難しい状況におかれているし、価格転嫁が進まないなかでは、中小企業は依然として苦しんでいるという事実にもわれわれは眼を向けないといけない。
 そういった意味で、何合目かと言われると、なかなか難しい。山の頂上が目的ですと言われてもその頂上がどういうものか、たとえば世界的なトッププレーヤーとして3メガがどうかという問いなのか、それとも銀行界がどうか、でも違う。公的資金の返済ということについて宿題を抱えた途中の銀行もあるし、銀行界としての評価というのはまだできないが、間違いなく2001年~2004年の大変厳しい時期を乗り越えてきて、前進を始めている。また前進のスピードも上がり始めているというふうに思う。


(問)
 サブプライム関連で1点伺いたい。G7以降を含めて、各国の監督当局の間で今後の解決策というか、FSFだとかバーゼルの金融市場委員会等で議論が今後進んでいくかと思うが、民間の金融機関としては、議論に対してどのような期待や要望や、何か考えがあれば示してほしい。
(答)
 これからどうなるか、今後、監督当局の間でどのように議論が進んで行くのかについては詳細を存じあげない。ただ、一言申しあげると、マーケットに過剰に介入するようなことにならないようにしていくことは、大変大事な要素だと思っている。その頃合いが非常に難しい話だと思う。


(問)
 先般イオン銀行で口座開設等が始まったが、改めて所見を感想を含めて伺いたい。
(答)
 私は、こういった特徴のある銀行が出てくるというのは大変結構なことではないかと思っている。金融も常に新しい角度からのイノベーションが求められているし、新しいタイプのモデルを作りあげていくというのは、われわれにとっても刺激になるので、民として結構なことだと思う。
 ただ、これに関連して言うと、日本の場合、銀行業以外の一般事業会社が銀行を持つことを認めているが、銀行が一般事業会社を持つことはできないとされている。片道なわけである。アメリカの場合は原則両方できない。ヨーロッパの場合は国によって違うのかもしれないが、両方できるのではないかと思う。われわれとしては一般事業会社まで全部持ちたいという気持ちは毛頭ないが、金融に近い部分というのは逆もあってよいのではないかと思う。別の次元の話であるが、一般事業会社が銀行を持てる、しかし逆は持てないという点については、限度はあるが両方できるようにするということも考えられるのではないかという思いはある。
 繰り返しになるが、イオン銀行が開業されたことについては、銀行免許が下りているわけであり、小売業としてのイオングループの新しい試みとして、われわれにとって大いに刺激になると思うので歓迎している。


(問)
 先週、みずほ証券が法令違反を起こし、金融グループのなかでの証券会社と銀行の間の情報の扱いが問題になっている。奥会長が就任した時に、1つの銀行グループの中で情報がより自由に扱えるようになると良いとおっしゃっていたが、今の時点でも規制緩和が望ましいと思われるか、今の考えを伺いたい。
(答)
 みずほ証券において、情報共有についてルール違反があったということは極めて残念である。われわれ銀行業、または銀行グループとしては、その業務の性格からして高い遵法精神が求められており、改めてルール遵守ということについて気持ちを引き締めてやっていかなければならないと思う。
 やはりルールはルールである。ただ、今おっしゃったように、私が会長に就任したとき、日本の金融資本市場の活性化、グローバル化、そういったものを図っていく必要があると申しあげた、そのことに私はいささかも変わりはない。グローバル化するお客さまの利便性というものを考えたうえで、しっかりと対応していかなければいけない。
 情報共有といったルールは、基本的に利益相反と優越的地位の濫用防止という2つの目的のために設けられたものであり、それに対する手段としてルールがあるわけである。その手段が、目的との関係において、世界との比較で見た場合に、行き過ぎてはいないかというような部分が出てきているわけである。そういった議論が始まったところであるので、こういうことがあったということは残念であるが、しかし、きっちりと議論をしてお客さまに使いやすい形にしていただきたいと思う。