2007年11月20日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

 

斉藤専務理事報告

 事務局から3点ご報告する。
 1点目は、年末に向けた金融の円滑化についてであり、本日の理事会で、お手元の資料のとおり申し合わせを行った。
 2点目が、マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策に関してである。全銀協ではこれまでも会員向けハンドブックの作成や、会員セミナーの開催等、マネー・ローンダリング等への対策を講じているが、最近、国際的にもその取り組みの更なる強化というものが要請されているところである。そこで、この程、「リスクベース・アプローチに関するガイダンス・ノート」を新たに策定し、会員に通知した。このガイダンス・ノートは、マネー・ローンダリング等は銀行経営上のリスクであると位置づけ、銀行において取引相手や商品毎のリスクに応じた対策をとる場合の考え方を説明したものである。本日、資料は配付していないが、詳細についてお知りになりたい方は、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。
 3点目が、去る10月31日に開催した金融調査研究会公開シンポジウムの報告である。当日は、約200名の方に参加いただき、盛況のうちに終えている。お手元には、当日配付した提言とその要旨およびパネルディスカッションにおける主な発言を事務局でまとめたものを配付しているので、後ほどご覧いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 株安・円高が進んでいるが、現在の景気についてどのように見ているかを教えてほしい。
(答)
 現在の景気の状況を見ると、企業部門は比較的底堅い動きをしているのではないかと思う。ご承知のとおり、この7-9月の実質GDPは前期比2.6%ということで、意外と良い数字が出ており、輸出も設備投資も引き続き堅調であることから、企業部門の動き自体はしっかりしている。ただ、片方で景気の下振れリスクというものがいろいろ出てきている。ひとつは、建築基準法の改正、所謂建築確認の問題であるが、この7-9月の前年比の確認件数の落ち込みは約4割となっている。住宅着工は、幅広い業種に影響があり、景気のインパクトが大きいものであるから、これが長引くと影響を受けてくる。また、原油価格、株式市場の影響もある。内外の株式市場においては、このところずっと低落しているので、この心理的影響というものは大きく出てくる。さらに、今まで堅調な企業業績、増収・増益が今年度見込まれていたが、サブプライムを契機とする円高が、今後、この下期にどう影響が出てくるか。このようなネガティブ要因を考えると、この下期から来年の前半というものは日本の景気が少し減速するのではないかと見ている。


(問)
 大手行の中間決算の発表がほぼ出揃いつつあるが、これをどのように見ているか。
(答)
 まだ決算は出揃っておらず、詳細は分析していないので、コメントするには少し早いのではないかと思うが、一般的にいうと各銀行単体の業務純益ベースでは、まずまずというところ。しかし、サブプライムの影響、9月期決算に当たっての株価下落を受けた減損処理等が出てきており、それぞれの銀行において影響を受けている。やはりサブプライムの問題というものは影響がある。ただし、中身を見てみると、公表されたデータで見る限りにおいては、リスク的には限定的であったと見ている。


(問)
 金融審議会の方で銀証のファイアーウォールの見直しや、銀行業務の拡大が議論されているが、どのように考えているか。
(答)
 東京マーケットや日本の金融・資本市場の国際化、特にアジアにおける地位の向上というものをしっかりと考えていく上で、こういった銀証の問題を含めての規制緩和、規制のあり方について議論していただき、そういう方向へリードしていただくということを大いに期待している。


(問)
 最近の株価低迷についてどう考えるか。下落が止まるきっかけについて、どのような見通し、予想を持っているか、お聞かせいただきたい。
(答)
 なかなか株価の動きのことは難しい。10月半ばまで戻してきた高値から2千5百円ぐらい落ちており、1万5千円台を割り込むケースもあるし、今は1万5千円程度。これは米国の株価が日本の株価に連動しているケースが多く、そういった意味でサブプライムの影響が大きい。
 先行きについては、米国の景気がどうなるか、日本の企業業績がそれに伴ってどう影響してくるかということになるが、今はこれらのマイナス要因が表に出ており、株価が低落しているのではないか。また、東京マーケットは外国株主の売買高が大きいが、比較的流動性の高い東京マーケットで、キャッシュ化をしているという部分も否定できない。
 なお、この後どう反発していくかということは、なかなか今のところ説明ができないが、テクニカルに言えば、ファンドの決算が11月、外国の金融機関の決算が12月であることから、期末に近い売りが比較的出ているかもしれない。それが時期とともに、少し静まれば反発する要因の1つになる。今後、11月のファンドの決算、12月の海外の金融機関の決算が明らかになるにしたがって、市場が消化しはじめ、それが十分消化しきれば灰汁抜けしていくであろうと思う。現状は、反発要因よりも、少し弱気な要因、ネガティブ要因が表に立って、しばらくは1万5千円から1万6千円ぐらいの間で、神経質な動きになるのではないかと思っている。


(問)
 先ほどおっしゃっていた景気への影響、下振れのリスクが出てきていて、景気に影響が出てきたときに銀行の業績に与える影響についてはどのように見ているか。
(答)
 銀行の今期の業績への影響というのは、すぐに出てくるものではないと思う。年間の見込みについては、今、いろいろと出されている数字でいくのではないかと見ている。例えば、貸出金、預金の金利は政策金利が動くか動かないかということで影響はあるかと思うが、恐らく今の状況であれば、なかなか政策金利を上げるのは難しいと考えられる。もし上がればその分はプラスになるだろうが、実際に上がるのが期末近くになれば効いてくるのは来年度になるが、もともとそうした前提で年間を見込んでおり、その意味で影響は出てこない。また景気が非常に減速し、それが長く続くようであれば、例えばクレジットコストの問題で、今すぐということではないが、中長期的には影響が出てくるかもしれない。足許の倒産の傾向を見ていると、大企業はそれ程ないが、中小零細のところは件数ベースでこの上期も昨年対比増えている。そうした傾向が景気の減速によって続くとなると、クレジットコストはいろいろと影響を受けるかもしれない。個々の金額ではそれほど大きな問題にはならないが、数が増えるので、金額的には従来見ていたよりも少し増えるかもしれない。影響はそうした程度であり、収益への影響は当面は限定的だと思う。


(問)
 金融危機から10年ということでお聞きしたい。銀行の決算を見ると、過去最高益の更新とはいかないようだが、そこそこの利益が出る数字になっている。今後、銀行経営として顧客還元策と収益向上のバランスが求められる気がするが、その点を会長はどうお考えか。
(答)
 それぞれの銀行によっていろいろな顧客利便の向上策というのは当然ある。まず申しあげたいのは、私どもとしては、収益の増減にかかわらず、常にお客様の利便性向上のために努力をしてきたつもりである。ただ、金融危機の間においては、そうした利便性向上へいろいろと手を打つことがなかなかできなかったことも事実だと思う。むしろネットワークの統合とか、そういうことに力を入れてきた、またはエネルギーを割かざるをえなかったことから、利便性の向上についてなかなか手を打ってこれなかった。ただ、その間でも、お客様にどういうサービスを提供したら良いかということは常に考えて、可能な限り手を打ってきたつもりである。そこから銀行が新しいフェーズに入って、さらにいろいろな意味でお客様の利便性向上、サービスの向上、商品の向上、質の向上ということに力を入れてきているわけであり、収益が減ったらそれを止めます、収益が増えたら増やします、という類のものではないと思う。株主への還元という立場から言えば、配当というのは収益の多寡を配当政策に反映させていく。お客様へのサービスの向上、利便性の向上というのは、常に考え、対応することである。引き続き、各行がいろいろ戦略的な意味も込めて、お客様の利便性向上に対応していくことだと思う。


(問)
 今日、あおぞら銀行と住友信託銀行が広範囲な業務提携の発表をし、今後これが業界再編の引き金になるという見方も一部にあるようだが、その辺についての会長のお考えをお聞きしたい。
(答)
 住友信託銀行とあおぞら銀行の業務提携の内容自体、詳しく承知していないので、それが業界再編の引き金になるのか、ならないのかということについては、コメントは差し控えさせていただきたい。いろいろなアライアンスは、今後もそれぞれの銀行として戦略上考えていると思うし、そういうものがそれぞれの銀行の業務強化、さらには収益強化につながるのであれば、いろいろな形が考えられるのではないか。ただ、統合につながるかどうかは、わからない。たとえば、個別行として三井住友銀行、また三井住友フィナンシャルグループでいえば、クレジット業務、消費者金融業務は一つの戦略としていろいろなアライアンスを持っている。ただ、銀行対銀行ということで、今回の業務提携が一つの例であるが、それぞれの銀行の狙いまで私は承知しないので、統合に発展するかどうか、銀行業界が全体として再編となるかどうかはわからない。


(問)
 サブプライム関連の損失について伺う。大手行が7月頃にサブプライム関連の損失見通しを発表したときに比べて、中間決算では損失の幅が大きく拡大している。会長ご自身が、7月頃のサブプライム問題に対する影響の認識と現状の認識がどの程度変わったのか、この辺を伺いたい。
(答)
 サブプライム問題は、サブプライムの一次商品と二次商品とに分けられるが、二次商品であるCDO、CLOの格付けが8月以降、さらに一斉に下がってきて現在に至るわけだが、当時、私は市場がどのように消化していくかということについては、しばらく半期決算なり、年間決算を見ないとその消化するのに少し時間がかかるかもしれないと申しあげたと思う。
 現在は、サブプライムの問題にとどまらず、金融商品全体に影響し、流動性の問題まで広がっており当時より問題が広がっているということも事実だと思う。ただ、全体の金融から見れば、まだ部分的な問題ではないかと思うので、早く各国が手を打っていけば、この問題は収束を迎えるものだろうと思う。早く安定化に向けた手が打たれることが大事だと思っている。
 それから今、9月末の日本の銀行のサブプライムに関する影響、損失等が発表されてきている。サブプライム関連の商品の中身は、それぞれの銀行によって違うであろうし、値付けといったものも、今、正常な状況にあるわけではない。しかし、会計士の皆さんもしっかりと見ており、しかも出てくる数字というのは最終的には限定的なものだと私は思うので、それほど心配はしていない。


(問)
 ここに金融産業の国際競争力強化という紙があるので、関連でお伺いしたい。このなかにも人材の確保というのがあるが、今、会長から見て日本の銀行業というのは若い人材が集まってくるような魅力的な業種になっているとお考えだろうか。昨今、かなり人材不足が各業界でもいわれていて、業界を挙げて人材確保に取り組もうという動きも出てきている。そのなかで銀行業界に人を集めるだけの魅力が、若者に対してあるのかどうかということを伺いたい。もしそうでないとすれば、どういうところが課題となっているのかをお聞かせ願いたい。
(答)
 銀行業自体、金融危機から10年ということで、それを脱して新しいフェーズに入り、前向きに動いているなかで若い人たちに魅力を訴えて来ている。一時はリクルーティングのランキングが非常に低かったわけだが、ベスト10入りする金融機関が増えているということ自体、われわれにとっては非常に嬉しいことだと思う。若い人材が今後そういった各金融機関においてのびのびと働いて、そして日本の銀行、金融機関を何とか世界に通じる銀行にしようという経営の意思と、若い人たちの希望がともにかなえられるように努力していく必要があるし、また、そうすることによって若い人たちが希望をもって働ける、そして銀行にどんどん来ていただくということをわれわれとしては望んでいる。

別添資料:奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)