2008年2月19日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 まず1点目であるが、本日、盗難通帳やインターネット・バンキングにより預金等の不正な払戻しが行われた場合に、銀行に過失がない場合でも補償の対象とするという申し合わせを行った。内容は、お手許の資料のとおりである。銀行界では、預金等の不正な払戻しが、お客さまからの信頼を根幹から揺るがしかねない重大な問題であると認識しており、業界を挙げて対応に取り組んでいるところである。今般、預金者保護法の趣旨を踏まえ、お客さまの立場に立って対応を行うことを主眼として、業界の自主的な取組みとして申し合わせを行うこととした。また、この申し合わせは、本文のほかに別紙1~3として普通預金規定(個人用)の参考例、過失・重過失の事例、インターネット・バンキングに係る補償の対象・要件・基準等を添付している。
 2点目は、全銀協主催のシンポジウムおよび講演会のご案内である。
 いずれもお手元に資料を配付しているが、シンポジウムについては、2月29日の午後2時から、「金融経済教育をいかに充実していくか」というテーマで開催する。当日は、当協会において取りまとめた調査レポートの報告のほか、パネルディスカッションも行う予定である。本件については、既に皆様にご案内を差し上げているが、本日、改めてご紹介させていただくので、是非、ご参加いただきたい。また、3月3日の午後2時からは「環境問題に関する講演会」を開催する。この講演会は、環境問題の重要性に対する認識を共有するという目的で、平成7年度から会員向けに開催してきたものであるが、昨今の環境問題に対する関心の高まりも受けて、昨年度から一般の方にもご参加をいただいている。是非、ご参加いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 先般発表のGDPでは、10-12月期の成長が3.7%と非常に高い伸びを記録したわけであるが、景気の現状と見通しについてどう見ているか。また、株式市場は最近落ち着きをみせているようであるが、サブプライム・ローン問題を踏まえたうえで、どのように見ているか。
(答)
 日本の景気の現状であるが、今、お話があったとおり、昨年の10-12月期の実質GDP前期比伸び率が年率3.7%ということで、引き続き経済自体の腰はしっかりしているのではないか。とは言え、全体的な環境を見ると、今、おっしゃったサブプライムの影響、アメリカの実体経済への影響等々がこれからじわじわと出てくる可能性が非常に高いと見ている。
 3.7%プラスということについては、外需が引き続き堅調で、そして設備投資も順調であったことから、企業部門が強く牽引する形でこういう成長を遂げてきたと思う。引き続き、1-3月の機械受注も今のところ、堅調ということであり、企業部門の底堅さは続いていると思う。
 ただ、全般として見れば下振れリスクが高まっているということはあると思う。まず、住宅着工については、建築確認の影響が峠を越したとは思うが、依然として低水準であり、実体経済のマイナス影響は続いているということがある。また、原油、その他の原材料の価格の上げが、家計、そして企業部門の業績へのマイナス影響として出てきていると思う。それからサブプライムの問題が震源地の米国では実体経済に影響が出てきており、これが今後、デ・カップリングで済むのか、またはリ・カップリングになっていくのか、あるいはトリプル・カップリングになっていくのかなど、これを深く見極めていく必要があるのではないかと思うが、少なくとも、なんらかの形でのリ・カップリングというものは、局所的に起きてくるのではないかと思っている。このため、短い期間と長い期間で見ないといけないと思うが、米国の経済の影響というものが全く世界に影響がないというようなことにはならないであろうと思っている。そういった意味で、日本の経済自体も少し減速気味の傾向が、今後続くのではないかと見ている。


(問)
 冒頭、事務局から説明があった「預金等の不正な払戻しへの対応」であるが、この預金者保護法に関する全銀協の自主ルールについて、改めて会長から背景、狙い、課題等についてうかがいたい。
(答)
 平成18年2月に現行の預金者保護法が施行されたとき、2年後を目途に検討をすることになっていた。われわれとしては、預金者の銀行に対する信頼、利用者としての安心・安全というものをどう高めていくかについていろいろと議論してきた。今回は、いわゆる盗難キャッシュカードの問題ではなく、預金者保護法の対象となっていない盗難通帳、インターネット・バンキングについて、そういった安心・安全の観点から、銀行に過失がない場合でも、一定の基準に従い補償していくということで、お客さまの安心・安全というものを高めていくこととしたものである。
 また、今後、なりすましとか、それに類似した金融犯罪が、こういった自主ルールのなかでも出てくる可能性がある。そういうことは、安心・安全とは別の次元の問題であり、取り締まっていかなければならないことなので、当局と情報をよく交換しながら、そういった事態に対応していきたいと思っている。
 なお、個別行としての対応であるが、私ども三井住友銀行では、不正な出金に対するホットラインを本日設置し、事件に遭われた方からの相談について、積極的に対応していきたいと考えている。


(問)
 日本銀行の総裁を巡って国会で審議が続いているが、5年間政府からの独立を保証される日本銀行の総裁選びにあたって、どのような議論を期待されるのか。また、今、話のあった物価上昇であるとか、景気の不透明感が漂うなかで、日本経済の現状と照らし合わせて、新総裁の政策課題はどのようなものだとお考えか。
(答)
 日銀の新総裁のイメージについて、私は申しあげる立場にないので、1月の会見でも申しあげたが、今の段階で期待するところといわれてもなかなか難しい。ただ、個人的には、日銀総裁という立場は、インフレなりデフレなり物価について、そして経済運営、政策金利運営ということについて大変知見の深い方、経験の豊かな方、さらには先見性のある方、こういったいろいろなリクワイアメントがあると思う。そうした意味では、現在の環境を考えてみると、経済環境にしても金融環境にしても、厳しいというか、かなり複雑な様相を持った状況にあるのではないかと思う。それだけに一つは、政治の場の議論で、総裁選びについて空白期間を置いていただきたくない、そういうことがあってはならないと思う。二つ目には、そうした環境のなかで、勉強している時間があってはならない。そのまま、実務的にもすぐ判断できる方が望ましいと思う。
 これは私個人の意見だけではなく、ある新聞でアンケート結果を出していたが、エコノミスト、アナリストの皆さん方も、同じようなリクワイアメントを持っていらっしゃるのではないかと思う。そうしたアンケートの結果について、違和感がなかったというのが、個人的な意見だ。


(問)
 今の話と関連するが、短期的には現在、金融市場も非常に混乱しているし、すぐに手腕を問われると思うのだが、今後5年間といった、ある程度中長期的な視点で見た場合に、日銀総裁が日本経済のこれからの成長をどう考えるのか、そうしたなかで日銀総裁に果たしてもらいたい役割は何か。会長の考える日本経済のこれからの課題などを含めたうえで、日銀総裁に期待し、取り組んでもらいたいこととしてどのようなことがあるか。
(答)
 やはりこれからの日本の経済について、非常に成熟化したなかで、成長をしっかり遂げていくことは大変、大きな課題だと思う。年を経るにしたがって、少子化、高齢化は進むわけであるし、しかも金融ということで見れば、金融工学が進むなかでの行き過ぎの是正とか、5年間を取ってみてもいろいろなものが出てくると見込まれる。長い目で見て自分が何をやるか、という考えは当然皆さんあると思うが、同時にそれ以上に大事なのは、過去の知見に基づいて、先を見ながら、適時適切にどういう対応を、きちんとできるかということにある。これは危機管理という観点からいくと、大事な要素だと思う。
 したがって、成長を維持するという長期的な目的と同時に、いろいろなことがこれから金融の世界では起きてくると思うので、そこに対する変事への対応力というか、応用力、知見というか、適宜適切に対応できる幅広い知識と、世界的なネットワークを持てることが、非常に大事な要素だと思っている。今度のサブプライム問題を見ても、日本だけの問題ではなく、世界的に情報、認識を共有し、それに対応していくというようなことがないと、日本だけが成長を遂げていくことはできない。まさに日本の金融自体もグローバル化のなかにあるわけで、先程申しあげた、デ・カップリングがそのままずっと続くはずはないと個人的には思っているし、多かれ少なかれ、リ・カップリングが起きると考えた場合、グローバル化のなかでしっかりと対応できることが、私は一つの大きな要素だと思っている。


(問)
 マネーローンダリング対策であるが、一部のメガではシステムの導入を決めたという報道もあって、業界全体の対応というのは今後どのようにされていくのか。システムを導入したり、人的な配分をしていくとなると、コスト増にもなると思うが、そのあたりの考え方を教えてほしい。
(答)
 マネロンについては、日本は昨年の1月から10万円超の現金振込みの際に本人確認が必要となる等、いろいろと対応してきているが、それ以上に、異常な取引をどのように抽出していくのかということも、大事な要素だと思う。このような取引をモニタリングするためのシステム化というのは、実はアメリカでいろいろやっているのだが、今後、今やっている以上に行わなければならない可能性は高くなってくると思う。
 今度、FATFの日本に対する審査が3月くらいに予定されていると聞いているので、そういったなかから当局との協議、また民間とFATFとの協議等を踏まえて、どう向上させていくかというのは課題としてあがってくるであろうと思う。今でも問題のあるような先については、フォーカシングをしてやるようなシステムはあるが、それ以上にどういったシステムがいるのか、これは今後考えて行きたいと思う。


(問)
 サブプライム・ローン問題に関連して、第3四半期で金融機関の損失額が中間期に比べて拡大してきたと思うが、改めて邦銀、日本の金融機関に与える影響について、どのように認識されているかうかがいたい。
(答)
 邦銀の影響については、第3四半期でほぼ出尽くしているのではないかと見ている。ただし、その後の問題として出てきているのは、サブプライムのCDO、CLOやその二次商品から、それを一部保証しているモノライン保険会社の業績が、ここにきて悪化していることである。これをどう考えていくか、どういう影響があるか、よく見ていかなくてはならない。
 日本の銀行は第2四半期でいったん損失を出し、その後、流動性不足のなかでサブプライム関連商品等の価格が付かない状況になり、第3四半期においては、それに対する減損、売却損を計上し終わっていると思う。
 モノラインの問題について、われわれ個別行では12月末に引当を積んでいるが、その後モノラインが格下げになったり、赤字を計上したりしており、今後、日本の銀行にそういった影響が少し出てくると思われる。
 日本の銀行が米国でビジネスをやっていく以上、モノラインの保証を受けることはあり、多かれ少なかれ影響がある。それがどう影響してくるかについては、モノラインの業績、さらにそれに対する増資でもって、格付けをどうやって維持していくか、このあたりが今後のポイントになってくる。ただし、大きな影響にはならないと思う。
 サブプライム問題全体について、世界的に見れば、前回もこの場で、幅と底がもう一つ見えないと申しあげたが、欧米の銀行の決算が1月以降出てきて、かなり大きな損失を計上し、増資もしてきている。欧米の銀行でいくと、現在第1クオーターだが、次第に底が見えてきつつあると感じている。日本の銀行については、そう問題はないと思っている。


(問)
 盗難通帳とインターネット・バンキングの補償の件を改めてうかがいたい。預金者保護法の見直しの時期ということで、重い腰を上げたというふうにも見られると思うが、今まではなぜ補償の対象にしていなくて、どのように考えを変えたのか教えてほしい。
(答)
 預金者保護法は、もともと盗難キャッシュカード等が対象であるが、これは盗難通帳とは性格が違う。そういった意味で、重い腰といわれると、ちょっとどうかなと思うが、銀行界としては、ずいぶんと思い切った対応をしてきていると思う。この2年間の状況を踏まえ、次の消費者・利用者保護の動向を読みながら、それを先取りして動いたというのがわれわれの感覚である。
 インターネット・バンキングも今回対象に入っているが、インターネットについては、個別の事案としてそれぞれ対応するということになっている。なぜ、過失割合云々ということになっていないかというと、インターネット・バンキングは、銀行自体もセキュリティを高めているが、それぞれやり方が違うし、画一的に判断ができないということがある。また、インターネットでは、フィッシングといったものや、もっと単純な、たとえばインターネットの暗証カードを配達したところを盗ったりするものなど、いろいろなケースがあり、画一的な補償対応をできないということで、今回は基準を定めていない。ただ、われわれとしては、補償を行うことまで踏み込んだというようにご理解をいただければと思う。

別添資料:奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)