2008年9月24日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から3点ご報告する。
 1点目は、全銀協の次期会長を内定したことである。先週、9月18日の正副会長会議において、三菱東京UFJ銀行の永易頭取を次期会長に推薦することを決定し、本日の理事会において了承された。正式な選任は、来年4月の理事会において行う予定である。
 2点目は、本日の理事会において、平成21年度の税制改正要望について、お手許の資料のとおり最終決定した。この要望の枠組みは、前回7月22日のこの記者会見の場で公表したものである。内容は、前回報告したものと同様である。
 3点目は、苦情・紛争解決支援への取組み強化に係る申し合わせについてである。
 前回の記者会見において、全銀協では、業界内部に紛争解決支援機関として「あっせん委員会」を設置し、併せて金融商品取引法上の「認定投資者保護団体」の認定を受けることについて、報告させていただいた。
 今回は、こうした取組みを踏まえ、一層の「苦情・紛争解決支援機能の強化」、「紛争解決支援制度の利用促進」を図るべく、申し合わせを行うものである。この申し合わせでは、会員銀行は「あっせん委員会」を利用し、あっせん案の尊重を通じて迅速な解決に努めることとしているほか、利用者等への周知など、5項目の申し合わせを行っている。
 私からの報告は、以上である。なお、本日ご報告した内容について、さらにお知りになりたい点があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 リーマンの破綻に始まりアメリカの金融市場はかなり混乱が続いており、日本の大手行もそれに支援を差し伸べるというような動きも出ているが、この一連の金融市場の混乱について、日本の金融機関への影響などについて所見をお聞きしたい。
(答)
 米国の金融市場が動揺をみせていることは気がかりである。今年に入って、米国ではすでに10を越える地方金融機関等が閉鎖されている。また、大手についても、今月に入ってから、住宅公社2社や保険会社への公的支援方針が決定されたり、投資銀行の破綻や合併など、いくつかの大きな動きがあった。一方で、ドルのインターバンク市場の収縮、金融機関の株価急落など、金融市場の混乱は一段と拡大をみせ、先週末、ついに米国政府は大規模かつ総合的な対策に乗り出すこととなった。
 今回の対策を境として、米国政府の対応は、「個別対応、個社対応」から、金融システム全体を対象とする枠組みの創設、いわば「総合的な対応」へとステージを上げたと言えるかもしれない。
 これまで、米国政府は、モラル・ハザードの懸念に留意しつつも、金融システム全体の安定性を優先して、個別の事案毎に対応を行ってきた。その結果、住宅公社2社と保険会社AIGに対して一定の公的支援の方針が決定されたわけであるが、この判断は、グローバル金融市場の混乱を回避するという観点からも望ましいものであったと考えている。本来は、民間金融機関が自助努力で毀損した資本を回復することが基本であることは間違いない。しかし、そのような過程で、金融秩序維持の観点から何らかの公的関与が必要と判断される場合には、判断は慎重に行いつつも、行動は迅速に行うこともまた重要であろう。市場は急変するものであり、スピード感を持った政策対応を臨機応変に実行に移すことが求められる。
 加えて、米国政府は、不良資産の公的資金による買取、MMFの保護、株式市場対策、といった項目について、大きく踏み込んだ施策を先週公表している。特に、不良資産の買取構想については、その規模も大きく、市場にも非常に注目されている。本件については、まだ米国でも議会での意思決定プロセスが進行中であり、最終的にどのような形で具体化するかはまだわからない。買取価格をどのように決定するかなど、いくつかの重要な問題がまさに今も議論されているのだと思う。
 一昨日には、G7からもこの措置を歓迎する緊急声明が出されている。今回の対応は、これまでの「個別・個社対応」から「総合的対応」へステージを上げたものであり、さらには、「米国金融市場への対応」から「国際金融市場全体の安定化へ向けた取組み」へと軸足を移したものと考えている。うまくいけば、非常に複雑かつ根深い一連の問題が、解決へ向けて動き出す第一歩となりうる構想であり、その行方を注目しているところである。
 翻って、わが国の状況であるが、こうした米国の状況とは大きく異なる。国際的な金融資本市場の混乱を受けて、国内の金融機関に影響が生じていることは事実である。しかし、その損失の規模は、欧米の金融機関に比して相対的に限定されており、経営を揺るがすようなものとはなっていない。直近で生じたリーマン・ブラザーズ破綻の影響についても、現時点での集計をみる限り、わが国金融機関の経営に重大な影響は確認されていないようだ。
 米国大手金融機関の資本増強や再建において、わが国の大手金融機関が相次いで関わっていることをみても、今回の問題がわが国に与える影響が相対的に小さいことがうかがえよう。
 また、インターバンク市場についても、現時点では、海外金融市場との比較において、本邦短期金融市場の流動性や安定性に特段の懸念はないと考えている。一部で、資金の出し手が慎重になっている面があるようだが、日銀による潤沢な円資金供給や新たなドル供給スキームの導入といった対応により、異常な金利の上昇や信用収縮は見られていない。とはいえ、金融資本市場はグローバルに密接に関連しており、緊張状態は続いている。今後の状況については十分に注視していく必要がある。
 いずれにせよ、こういった時こそ、事態を冷静に受け止めることが肝要であると思う。
 最後に、米国の今後の動向についてであるが、足許でも目まぐるしく状況が変化しており先行きを見通すことは非常に難しい状況にある。確かに、今月に入っていくつかの大きな動きがあった。特に、米国政府が大きく踏み込んだ総合対策を打とうとしていることは心強い。しかしながら、これで「山を越えた」かどうかはまだわからないし、先行きは楽観視していない。米国の不動産価格が底打ちし、反転して、ようやく問題が解決に向かっていくのではないかと見ている。


(問)
 アメリカの景気後退に伴い日本でも最近、倒産件数が増えたり景況感が悪化しているわけであるが、それに伴い金融庁の方から貸し渋りについていろいろと指導もあったところであるが、この問題について現状認識や今後の見通しについて教えていただきたい。
(答)
 まず、景況感についてだが、一言で申しあげれば、海外、国内ともに大変厳しい局面を迎えていると感じている。
 海外経済について言えば、欧米先進国の景気が悪化していることに加えて、このところ中国やNIEs諸国など新興国の経済も減速しつつあるようだ。
 こうしたなかで米国の住宅公社や大手金融機関の経営問題で国際金融市場の不安は大きく高まっている。米国発の金融不安が今後どの程度広がるのか、予断を許さない状況である。また、北京五輪を終えた中国経済が、安定的な高成長を維持できるのかも不透明である。原油価格は一時よりも下落したが依然として水準は高く、新興国を中心にインフレが景気に悪影響を与える懸念も残存している。
 当面の世界経済は減速傾向が続き、金融市場でも景気の下振れリスクが意識されやすい状況が続くと考えている。
 国内に目を転じると、足元の日本経済はすでに景気後退局面に入っている可能性が高いと認識している。4~6月期の実質GDP成長率は、国内需要と輸出がともに落ち込み、前期比年率▲3.0%のマイナス成長となった。
 日本の景気悪化の主因は、これまでの資源や食料価格の高騰に伴う交易条件の悪化による海外への所得流出だろう。日本はエネルギー・食品分野での輸入依存度が欧米などと比べ高く、価格高騰のインパクトも大きくなる。貿易黒字が昨年から大幅に減少し、企業収益が悪化しているのはその表れだろう。法人企業統計によれば、4~6月期の企業業績は2四半期連続で前年比減収減益となっている。
 業績の悪化を背景に企業の慎重姿勢も強まっているようで、設備投資もこのところ横ばい圏内で勢いがなくなってきている。
 また、ガソリンや電気代、食品などを中心とした物価上昇の影響で家計の実質所得が目減りし、個人消費も低迷している。住宅需要も停滞しており、国内需要は全般に弱含んでいる。
 輸出環境についても、海外景気の減速が続くなかでは、改善には時間がかかりそうだ。こう考えると、当面の日本経済は、国内需要と輸出がともに伸び悩み、厳しい局面が続く可能性が高いのではないか。
 原油価格が下落し始めたことでコスト上昇圧力はやや緩和する可能性もあるが、それが世界的な需給緩和の裏返しなのであれば単純に喜ぶこともできない。米国発の金融不安が世界に波及する事態になれば、日本の景気後退も予想以上に深刻化するおそれがあり、従来以上に景気下振れリスクを警戒していく必要があると考えている。

 次に、中小企業金融の状況について申しあげる。
 国内景気の後退局面入りがほぼ確実視されるなかで、米国金融市場の動揺が米国実体経済を通じてわが国経済に及ぼす影響も懸念されており、近時の原油・原材料価格の高止まりや個人消費の低迷等を背景として、業況の厳しさを訴える中小企業の声がさらに増えてきている。
 貸出の状況については、貸出全体が増加している一方で、中小企業向け貸出は昨年後半から前年比マイナスに転じており、マイナス幅は拡大傾向にある。特に、卸売業・小売業・サービス業といった個人消費関連業種向けや、マンション市況等の低迷を受けた建設業向けが減少している影響が大きい。
 景気の後退感が強まるなかで、その影響を受けやすい先を中心に、業況悪化に備えようという守りの気持ちが一段と強まっているように思う。それが、設備投資に対する慎重な姿勢や、運転資金の伸び悩みにつながっており、資金需要の低迷をもたらしていると感じている。
 景気後退に伴い、業況が悪化する企業も一部に出てきているが、企業の資金ニーズに何とかお応えすべく、事業内容等に関するよりきめ細やかな審査を行っている。日銀短観における、金融機関の貸出態度DIは依然プラスではあるが、こうした取組みがプラス幅の低下に現れてきているのではないかと思う。
 しかしながら、私どもとしては、バブル崩壊後の極めて厳しい状況を克服して自己資本も充実し、貸出余力も総じて上昇している。現在は貸出資産を増やすことに逡巡するような状況にはなく、各銀行とも、お客さまとのお取引の基盤となる「貸出」をできるだけ伸ばしたいと考えているのではないかと思う。
 銀行界では、お客さまの資金ニーズに積極的に応えるべく様々な工夫をしているところである。
 例えば、みずほ銀行においても、お客さまの商品・売掛債権等の事業用収益資産を活用した融資、環境配慮型企業向け融資などに積極的に取り組んでいる。また、小規模法人のお客さまに特化した融資業務専門子会社を活用し、お客さまの資金ニーズにきめ細かく対応している。
 なお、全銀協として取り組んでいる電子債権記録機関の設立検討も、中小企業に対して、手形割引に替わる資金調達手段を提供しようとする新たな試みである。
 さらに、資金供給に止まらず、事業承継や海外進出支援といった各種ソリューション等の提供を通じて、企業の経営支援に積極的に取り組んでいきたい。
 銀行界は、不良債権処理に追われた厳しい時代の反省に立ち、銀行資産の健全性維持や預金者保護を図る観点から、信用リスクの顕在化により発生する損失を抑制すべく、信用リスク管理の高度化に努めてきた。
 一方で、同時に、銀行の社会的役割が「適切にリスクをとり、企業の資金需要に対して円滑な資金供給を行うこと」であることは十分に認識しており、これまでも様々な工夫を凝らして中小企業のお客さまへの適切な資金供給に取り組んできている。
 しかしながら、個別のお取引においては、お客さまからの借入の申し込みにお応えできないケースもあるかと思う。そうした場合には、お客さまにご納得いただけるように十分説明を尽くすことが重要であると考えており、会員各行にも徹底を図っているところである。
 お客さまから大切なご預金をお預かりしている身としては、景気後退に伴い与信コストが増加傾向にあるなど、経営環境は難しくなってきていると感じている。
 繰り返しになるが、私どもとしては、「円滑な資金供給」と「財務の健全性維持」の双方を適切に実現していくことが強く求められており、こうした金融機関の重要な役割期待を今一度認識し、引き続き円滑な資金供給にしっかりと取り組んでまいりたいと考えている。


(問)
 銀行のATMの手数料の件で聞きたい。個別行の話で恐縮だが、三菱東京UFJ銀行が東京スター銀行に対してATMネットワークを遮断すると通告した。銀行のネットワークに関わることなので、会長はどのようなお考えかについてうかがいたい。
(答)
 今日、東京スター銀行が会見を行ったことは聞いているが、内容の詳細は存じあげない。本件は、個別の銀行と銀行の契約に関することなので全銀協会長としてコメントする立場にないし、それぞれの銀行がどのようなお考えかも存じあげない。ATMネットワークは既に相当広がっており、社会的にも重要となってきているが、そういったことも踏まえたうえでの結論なのではないか。


(問)
 東京スター銀行がMUFG側に法的措置、いわゆる銀行のネットワークは公的なものであり、一方的に遮断するのは法的にもおかしいということを発表した。これに関してはどのようにお考えか。
(答)
 法的措置を取るのかということに関しては具体的には何も聞いていない。仮に東京スター銀行が裁判所に持っていくとすれば、それも手段のひとつかと思うが、そこは司法の判断としか言いようがない。すなわち、そのことに関しては全銀協会長の立場としては何も申しあげられない。法的に問題があるのかも含めて今後検討されるのであろうが、この二つの銀行の係争に関する発言は差し控えさせていただく。


(問)
 いわゆる銀行間の手数料格差があるということでMUFGは遮断を申し入れたということであるが、みずほ銀行ではそのような措置は検討されているか。
(答)
 本件は、われわれみずほ銀行だけでなく、他の銀行も関係があるかもしれない。みずほ銀行では詳細を検討しておらず、今のところ何も決めていない。


(問)
 先ほど、会長が言われていた米政府金融安定化対策の一環として、政府が75兆円の不良資産を買い取るという議論がされているが、その公的資金の原資の調達で米国債の増発も予想されると思うが、その際、為替やボンドマーケットにどのような影響が考えられるとお考えか。
(答)
 金融安定化対策については、その各種影響も含めて、米国政府が現在鋭意検討されているところであり、市場への影響についてはコメントを差し控えたい。


(問)
 本対策に関連して、何らかの形で日本の金融機関が協力できることはあるとお考えか。それとも米当局からそういった要請は、日本の金融機関に来ているか。
(答)
 そうした要請は、私のところには来ていないし、本邦当局に来ているかどうかも承知していない。仮定の話として、万一そうした要請が来た場合には、日本の金融機関としていかに対応すべきかについて、関連当局とも連携しながら検討していくことになるのではないか。


(問)
 アメリカの金融安定化策について、個別から総合へ移ったという話があったが、10年位前の日本の金融危機の時には、公的資金の投入で資本を増強するという策があったかと思うが、今回のアメリカの措置は不良資産の買取というところに今限定されているような形で伝わって来ている。これが、会長自身の経験から踏まえて、うまくワークするのかどうか、ご所見をうかがいたい。
(答)
 各種の報道等を見ている限りでは、不良資産の買取を行うことにより銀行の資本が不足する場合の手当てが論点になっていることは認識している。しかし、今はまだ、米政府による不良資産の買取構想が議会の承認手続きを経るプロセスに入っているところであり、さらなる対策の必要性についてはコメントを差し控えたい。いずれにせよ、米国当局は金融システムの維持を最優先課題と捉え、適切に対処しておられる。今後ともその方向で対応されていくことを期待したい。


(問)
 リーマン・ブラザーズ以降、度重なる破綻や救済合併等で、これまで高い収益を上げてきた投資銀行が意外に脆くて、その業務も限界が見えてきたというような指摘もあるが、こういう意見があることに関して会長はどのようにお考えか。
 また、この分野は、邦銀も力を入れて強化してきた分野だと思うが、今後、そうした戦略への影響はどのようになるのか教えていただきたい。
(答)
 いわゆる「投資銀行」といっても、個々のビジネス・モデルは一様ではなく、多様なビジネスを展開している。その全てが行き詰ったわけではない。今回の問題を通じ明らかになったことは、短期のマネー・マーケットにおける調達に依存して、過度なレバレッジを利かせて自己勘定での投資を行うというビジネス・モデルの不安定性であろう。行き過ぎた収益至上主義のなかで、利用者のニーズから遊離してしまった感がある。こうしたモデルについては、おそらく何らかの形で修正がなされていくのではないかと感じている。
 繰り返しになるが、投資銀行業務のすべてが行き詰ったということではなく、これからも引き続き重要な業務として行われていくことになろう。金融機関の存在意義を突き詰めてみれば、利用者に対してどれだけの付加価値を提供できているか、という点に帰着するのではないか。投資銀行であれ商業銀行であれ、お客さまを向いて、そのお役に立つことを通じて収益を上げていくというスタンスが、今まで以上に強く求められてくるものと考えている。


(問)
 10年前を翻って、当時非常に苦労した時期があったと思うが、先ほどのAIGや住宅公社へ米国政府が支援する時代になって、さらに証券会社を含めた邦銀が買収するなど、逆転というか、こちらからお金を出す状況になったことについて、この1~2週間で急激に動いたことではあるが、全体的にどうご覧になっているか。
(答)
 わが国金融機関による個別の出資等が相次いでいるが、これらのタイミングの妥当性や投資効果などについては、各グループ独自の戦略に関わることであり、全銀協会長として申しあげることはない。
 ただ相対的に言えば、先ほども申しあげたとおり、欧米の金融機関に比べれば日本の金融機関はそれほど痛んでおらず、米国金融機関の資本増強においてわが国の金融機関が相次いで関わっていることを見ても、今回の問題がわが国に与える影響が相対的に小さく、体力的にもまだ余力があることの証左であろう。


(問)
 振り込め詐欺の対策を全銀協でもいろいろやっているようだが、件数的には多少減っている動きもあるようだが、まだまだ被害は多いようである。今後の取り組みとして何かあれば教えて欲しい。
(答)
 残念ながら、今年に入って振り込め詐欺の被害が急増したこともあって、われわれは各種の対策に力を入れてきたところである。警察庁の発表によれば、7月の被害件数・金額とも6月対比約1割減少したことは、やっと頭打ちの傾向が出てきたのか、と言う気もするが、引き続き対策に取り組んでいく。
 少し長くなるが、しっかりと説明させていただく。
 振り込め詐欺は、お客さまの大切な預金を騙し取る許しがたい犯罪である。特に最近は、高齢者を狙い、また銀行のATMを使用した犯罪が急増している模様である。今年に入って7ヶ月で既に13,700件/193億円を超える被害が報告されており、重大な社会問題となっている。
 ATMをはじめとしたわが国の決済システムは、利用者の方々から世界的に見ても高い信頼を寄せられていると思う。振り込め詐欺はそれに乗じた犯罪であり、撲滅に向けて全力を尽くしていく。
 私どもとしては、「事前の対策」と「事後の対応」の両面について、従来以上に真摯に取り組んでいきたいと考えている。
 まず、「事前の対策」、すなわち、振り込め詐欺被害の未然防止に繋がる対応である。たとえば、銀行の窓口やATMコーナーでの声掛けは、地道ではあるが有効かつ重要な対策だと考えている。実際、私どもみずほにおいても、詐欺を水際で防いだ事例が数多くある。あるいは、不審な口座開設を防ぐための本人確認などの強化や、異常な取引を検知するための事務・システム対応も、詐欺防止に一定の効果があると思っている。また、還付金等詐欺など、被害者を巧みにATMコーナーに誘導のうえ、携帯電話で操作を指示する手口が増加していることから、ATMコーナーにおける携帯電話での通話をご遠慮いただくための呼びかけを7月から開始している。これは、全国の銀行のみならず、信金・信組・農協・漁協や、コンビニATMなど他業態も同様であり、業態を超えて振り込め詐欺被害防止に努めているところである。
 全銀協としては、会員銀行に対し、こうした「声掛け」や「事務・システム対応」をこれまで以上に実施するよう促していきたいと考えている。また、利用者の方々に対しては、巧妙化する犯罪手口への対策を含めて徹底して注意喚起を行っていきたい。
 「事後の対応」については、6月に施行された「振り込め詐欺救済法」に則り、犯罪被害金を速やかに支払うための手続を6月から開始しているが、今後も被害者の方から金融機関に申し出ていただけるよう、引き続き幅広く周知を行ってまいりたい。
 全銀協では、6月を「振り込め詐欺撲滅強化月間」と位置づけ、巣鴨で全銀協主催の啓発イベントを開催したほか、啓発活動を集中的に実施し、相応の効果があったものと考えている。
 さらに、現在の状況を踏まえ、今月16日に警察庁刑事局長、金融庁監督局長と意見交換を行い、警察庁・金融庁そして全銀協の三者が振り込め詐欺撲滅のために協力していくことを確認したところである。その一環として来月(10月)を、警察当局と共に「振り込め詐欺対策強化月間」と位置づけ、全国で行われる警察主催のイベントにも参加する予定である。今後も、振り込め詐欺撲滅へ向けて、私ども銀行業界が自主的・自律的に社会的役割を果たすべく、私自ら先頭に立ってしっかりと取り組んでまいりたい。
 われわれも従来以上に積極的に取り組んでまいるが、報道関係の皆さんにも是非ともご支援をいただきたい。よろしくお願いしたい。


(問)
 金融商品取引法の施行からまもなく1年が経過する。当初、説明の時間がかかりすぎるというクレームがあったと思うが、それに対する対応と現状どのように改善してきたかについての認識をうかがいたい。
(答)
 正確な短縮時間は把握していないが、みずほ銀行に関して言えば、説明する時間は相当短くなってきたと思う。お客さまと接する場合は、適合性の原則を徹底しながら対応している。なかには余計な説明をしてもらっては困るというお客さまもいらっしゃるが、お客さまの知識や投資経験など実情に適合した説明を行うという原則に沿って銀行が適切な対応を取るということに尽きる。
 一方、最近は投信をはじめとする運用商品の販売が低迷している。これは説明時間の問題というよりも、むしろマーケット環境が悪化したことに起因している。サブプライムローンの問題が顕在化した昨年から相当落ち込んできており、残念ながら、「貯蓄から投資へ」という流れは若干減速気味という感じを受けている。マーケット環境が回復すれば状況は変わると思っており、そんなに心配していないが、少なくとも本件は説明のやりすぎという問題ではないと認識している。


(問)
 中小企業向け貸出について、昨年1年間の各行の中小企業向け貸出残高の推移を見ると、みずほ銀行は突出して減っており、また金融庁も注目しているようだが、何か理由はあるのか。
(答)
 前年度は、国内企業の資金需要が低調な状況にあるなかで、お客さまとの取引基盤の強化に積極的に取り組んだものの、様々な要因で貸出残高が減少した。
 いくつかの要因があるなかの1つの要因としては、2002年4月の3行統合以来、店舗の数を相当減らしてきたことがあげられるのではないかと考えている。みずほ銀行では、店舗の統合・集約等により、法人取引を扱っている拠点を、統合時の513拠点から前年度末の243拠点まで、270拠点減らしてきている。専門性を要する法人取引を集約することで営業担当者のノウハウを蓄積し、お客さまに質の高いサービスを提供すべく取り組んできたところであるが、一方で、この数年間に法人取引を行う拠点を相当減らしてきたことが、結果として、中小企業向け貸出減少につながっているのではないかと思っている。
 店舗については、今のところ個人向け店舗を中心に徐々に増やしつつあるが、今後はそういったことを踏まえ、日本経済の状況も見極めながら、法人向け店舗を増やしていくことも検討し、中小企業のお客さまとの取引にもっと積極的に取り組んでいきたいと思っている。
 みずほ銀行は、中堅・中小企業マーケットと個人マーケットに特化した銀行であるので、中小企業向け貸出は、まさにお客さまとのお取引の基盤であると考えている。そういった意味で、中小企業向け貸出が落ちているのは望ましくなく、今後は貸出をできるだけ伸ばしていく方向に持っていきたいと思っている。


(問)
 まもなくゆうちょの民営化がスタートして1年が経とうとしているが、この1年を振り返ってどのような影響が見受けられたのか。また、今後どのようなことが懸念されるか。
(答)
 例えば、預入限度額1,000万円の撤廃などは、規模の再拡大につながる懸念があり、「規模の肥大化といった構造を是正し、市場における公正な競争を促すことを通じて、国民の利便の向上および民間への資金の還流を図る」という郵政民営化の本旨に反する結果となる恐れがあると考えている。私どもとしても、こうしたことがないよう、民間金融機関の立場から、郵政民営化の進捗をしっかりと見守り、必要に応じて意見を発信していきたい。


(問)
 ゆうちょ銀行では新規業務をいくつか開始しているが、その影響はないか。
(答)
 ゆうちょ銀行が既に開始した新規業務の中には、一部、影響のあるものも見受けられる。ゆうちょ銀行は、利用者利便の向上の観点から、新規業務の検討をしてきたものと考えているが、まずもって、肥大化したバランスシートの規模の縮小や民間金融機関にふさわしいビジネス・モデルへの革新を図り、民間金融市場に円滑に融合することが先決ではないか。


(問)
 新内閣について、一般論で良いが、財務大臣と金融担当大臣の兼務について、どう考えるか。財金分離の原則に反すると言った指摘も一部であるが、見解をうかがいたい。
(答)
 財務大臣と金融担当大臣が兼務になるという報道があるようだが、全銀協会長としては一般論だとしてもコメントする立場に無い。財金分離という観点で財務大臣と金融担当大臣がそれぞれおられるということだろうが、現在の状況においてはそういったことではないといった議論もあるのだろう。いずれにせよ、総理がお決めになることなので、コメントは差し控えたい。