2009年1月27日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様

(問)
 世界的に景気悪化が深刻化するなかで、日本でもこのまえ日銀が09年度の実質経済成長予想をマイナス2.0%に下方修正するなど景況感の悪化が大幅に進んでいると思われるが、会長から見た現在の日本経済のおかれた状況と、今後の見通しについて教えていただきたい。あわせて銀行経営にそれがどのような影響を与えているのか、また今後出てくるのかも教えていただきたい。
(答)
 昨年秋以降の金融危機の影響を受け、実体経済の悪化が世界規模で進行している。日本では、海外経済が急激に失速したため、昨年12月の輸出が過去最大の落ち込みとなった。金融危機の震源となった欧米向けだけでなく、中国・ロシア・中東などの新興国向け輸出も減少するなど、輸出はまさに総崩れの状況になっている。自動車など輸出ウェイトの高い業種が大幅な減産に踏み切り、その影響で川上の素材業種も減産を余儀なくされている。昨年10~12月期の鉱工業生産は前期比で2桁を超える空前の減産となった模様である。
 もともと海外需要に依存した成長を続けてきただけに、日本経済が受けるダメージは大きくならざるをえない。世界経済の好調を背景に輸出が持続的に拡大することを前提としてビジネスをしてきた企業の多くが、事業計画の大幅な修正を迫られているのではないか。足元の業績悪化と需要の先行きに対する不透明感から、国内・海外での投資計画を見直す企業が相次いでいる。今後、設備投資の減少幅が拡大してくることも確実な情勢となっている。
 金融危機は、個人消費や住宅販売といった家計の支出行動にも影を落としている。株価の低迷や雇用不安などから、消費者マインドに関する指標は軒並み過去最低水準を更新している。多くの人々が消費を切り詰める傾向を強めており、自動車や百貨店売上、住宅販売の落ち込みが顕著になっているのはその表れであろう。
 一言でいえば、輸出の急減を起点として、内需全般に下押し圧力が加わるという大変厳しい状況に陥っているのが、日本経済の現状であると思う。今のところ輸出や生産に下げ止まりの兆しは見られず、少なくとも今年前半は、相当なペースでの景気悪化が続くことを覚悟しておく必要があるだろう。
 金融安定化・景気回復に向けた取組みが世界各国で強まっており、わが国でも各種の対策が講じられている。こうした対策が効果を挙げ、徐々に景気の悪化に歯止めがかかることを期待している。
 しばらくは、銀行にとって非常に厳しい経営環境が続くであろう。ただし、バブル崩壊から立ち直り、約6年間に亘り経済成長を持続したわが国経済の底力を信じている。過度に悲観的になることなく、むしろこうしたときにこそ、中長期的な視点も併せ持って「着実に前進する」ことが重要と考えている。


(問)
 信用保証協会の保証枠拡大とか日銀が企業の資金繰支援など打ち出すなど、公的支援策をいろいろと出しているが、その効果がどの程度出ていると認識しているか。特に大企業とか中小企業、それぞれの最近の資金繰りがどのようになっているかについて教えていただきたい。あわせて欧米では金融機関への資本再注入などいろいろ追加的対策が打ち出されているが、そういうような追加の経済対策、金融対策のようなものが、今後、日本に必要になるのかについての見解についても教えてほしい。
(答)
 景気が悪くなると企業の資金繰りに影響が出てくるものだ。日ごろ現場でお客さまと接していても、特にこの3~4ヶ月、お客さまを取り巻く経営環境が厳しくなっているとの声を聞いている。
 そうしたなか、企業の資金繰り確保に向け、政府、日銀により講じられた様々な対策は、大変に心強いものであり、中小企業については緊急保証の承諾実績が大きく伸び、大企業についてもCP市場が落ち着きを取り戻しつつあるなど、着実に功を奏していると認識している。
 一方で、世界的な景気悪化は続いており、今後は、年度末に向けた資金需要への対応が重要となる。企業の業況判断が大幅に悪化するなか、中小企業を中心に前向きな資金需要が低迷する一方、年度末に向けて厚めの資金を手当てしておこうという経営者の守りの気持ちも強まると考えられる。
 先週は日銀が最大3兆円のCP買入れを決めたが、これを含め、現在検討されている資金繰り対策の適切かつ着実な実施と、第二次補正予算に組み込まれた資金繰り対策拡充の早期実現が期待される。
 私ども銀行界としても、こうした政府の方針を十分に踏まえ、企業の資金需要にしっかりとお応えすべく取り組みを進めている。
 全銀協で公表している「全国銀行 預金・貸出金速報」の12月末の速報値を見ても、全国銀行123行の貸出金は前年同月比で4.6%と、10月以降、毎月その伸び率が高まっている(10月:3.6%、11月:4.4%)。
 CPの発行環境悪化を受けて大企業向け貸出が伸びていることに加え、まだ正式な統計が出揃っていないが、私の実感を申しあげると、中小企業向け貸出金についても増加傾向にあるのではないかと感じている。
 全銀協としては、中川金融担当大臣との意見交換会や、ご当局からいただいた要請文の趣旨を踏まえて、中小企業金融の円滑化について申し合わせを行うなど、業界を挙げて取り組みを強化しているところである。
 みずほ銀行の例を挙げさせていただけば、この趣旨がきちんと理解されるよう、私自身、あらゆる場面で指示をし、営業現場に徹底した。特に、ここ数ヶ月は急激な景気悪化をうけた運転資金需要への対応に積極的に取り組んでいる。10月末にスタートした緊急保証制度を活用した融資を既に3,700社(1月22日現在)を超えるお客さまに実行しているが、保証協会以外の融資も含め、この間の中小企業向け貸出は増加している。
 全国各地で様々なお客さまとお会いするなかで、特に強く感じているのは、昨年の秋以降の急激な環境変化が、お客さまの想像を超えた大きなものとなっているということである。資金繰りの厳しさは言うまでも無く、そもそも受注や売り上げが、過去に経験したことのないスピードで悪化しており、今後の目処を立てるにあたっても過去の経験が全く役に立たないとの悩みをお聞きすることが多い。こういった中小企業のお客さまが抱えておられる問題に迅速かつ一歩踏み込んで対応していくことが重要であり、こうした地道な取り組みを進めていきたいと思う。
 今後も、経済の血脈としての機能を発揮するべく、「円滑な資金供給」と「財務の健全性維持」の双方の役割期待を肝に銘じつつ、適切にリスクをとって、円滑な資金供給に着実に取り組んでまいりたいと考える。


(問)
 株価水準についてうかがいたい。今日8,000円に戻したが、しばらく7,000円台まで落ち込んでいた。この8,000円という水準は銀行の財務にどのような影響を与えるのか。3月末の株価次第では減損処理がかなり大きくなるのではないかという見方もあるようだが、どのように考えているのか教えていただきたい。
(答)
 邦銀は、政策保有株式をこれまで相当減らしてきているが、未だ相応の規模を保有している。株価下落により、場合によっては減損処理が生じ損益が悪化するなど、決算に影響が出てくることもあろう。前にも申しあげたが、個人的には、今後も状況を見据えつつ保有株式の削減に努めていくべきだという方向感を持っている。なお、株価水準自体についてのコメントは差し控えさせていただきたい。


(問)
 世界の金融機関と比べると、日本の金融機関はメガも含めてTier1の比率が決して高いとは言えないと思う。8,000円という形で3月末を越えると、また資本増強が必要になってくるのではないかと思うが、そのあたりはいかがか。
(答)
 主要外銀の多くには、現在、公的資金が注入されており、そのような状況下でTier1比率を単純に比較することにどこまで意味があるかは難しい問題である。また資本増強が必要かどうかという点については、将来の不確実性も勘案しつつ各行が個別に判断していくということではないか。ちなみに、みずほについては、仮に資本が必要と判断した場合にも、まずは自力調達を基本に進めていく考えである。


(問)
 欧州でRBSが巨額の損失を出したり、シティも大規模なリストラをもう一回やるとか出ており、世界的にはもう一度金融不安が再燃している形になっている。実体経済のところはさておき、この再燃した金融危機を会長はどのように捉えているか。
(答)
 米国では資本注入が行われたものの、不良資産の新規発生が続いていることもあり、米国金融機関の不良資産処理はまだ道半ばとの感がある。やはり、米国の実体経済が一段と悪化していることが大きいのではないか。銀行は実体経済の鏡と言われるが、そういった意味で経済の悪化が銀行の財務内容にも反映してくることは避けられない。米国のみならず欧州でも厳しい状況がしばらく続くと思われ、追加的な公的資金の注入も含め一段の政策対応が必要となってくる可能性がある。


(問)
 金融機能強化法において、第二地方銀行から幾つか申請をするという話があるようだが、今後、大手行が公的資金の申請が必要となる状況が想定されているかどうか、見通しについてうかがいたい。
 また最近、いわゆる民間企業に公的資金を入れて支援するという枠組みについて話があるようだが、この点についてどのように評価しているかうかがいたい。
(答)
 札幌北洋ホールディングス・北洋銀行と南日本銀行が申請の検討を開始されたとのことだが、各行独自の判断に基づくものでありコメントする立場にはない。
 金融機能強化法そのものについて申しあげれば、現在の状況のみならず、フォワードルッキング的な要素を踏まえた申請が可能であるなど、金融市場の安定化のために有意義な措置といえ、銀行界にとっても非常に有難い施策と考えている。もちろん申請を行うかどうかは、個別の経営判断であるが、各行の実情に応じた選択肢が増えたことは大変意義深いと思う。
 一方、民間企業への公的資金注入については、経済産業省が現在検討中であるようだが、詳細は存じあげない。100年に1回といわれる金融危機でもあり、我々民間金融機関のみならず、金融庁、日銀はじめ政府全体で、出来ることは何でもやるとの方針のもと、様々な検討がなされることは、経済活性化の観点からも有意義なことではないか。


(問)
 先日、香川銀行と徳島銀行が経営の統合を発表した。個別行の事情といえばそれまでだが、こういった統合を会長がどのように見ているか。こういった再編を伴う経営の強化というのは今後進んでいくか。このあたりの考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 一般論で言えば、生産性向上に向けた提携・統合・合併等は常に経営の選択肢の一つであると考えている。具体的には個社の戦略によるものであり、何とも申しあげられないが、日本の場合はオーバー・バンキングの状況にあるとも言われており、生産性向上の観点から今後再編が増えてくるかも知れない。


(問)
 株価が9月末と比べると3,000円くらい落ちて、多額の減損を抱えていると思う。また、不良債権がみずほ銀行も増えていると聞くし、取引先の格付けが下がって、リスク・アセットも増えているのではないかと思う。そうするとやはり、貸出余力というか、貸出能力というのはだんだん小さくなってくるのではないかと思うが、これを打開する方策などはあるのか。
(答)
 みずほの場合、昨年12月に3,550億円の優先出資証券を発行して、自力での資本増強を図ったところであり、貸出余力に問題はないと考えている。もちろん半年先や1年先にどのような状況に直面するかはわからないが、例えば、株価が急落する、あるいは不良債権が急増するといった万一の事態が起これば、更なる自己資本の増強が必要となることはあり得る。ただし、みずほについて言えば、そういった場合でも、まずもって自助努力で対応することを基本としたいと考えている。