2009年2月24日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様

(問)
 GDPが30数年ぶりにマイナス成長になったが、国内の経済の状況と今後の見通しについて、取引先等の感触も含めた認識をお願いしたい。
(答)
 先日、内閣府から昨年10~12月期の成長率が発表されたが、前期比年率マイナス12.7%という衝撃的な数字だった。マイナス成長の主因は、海外経済失速に伴って輸出が前期比マイナス13.9%と急減したことである。また、個人消費と設備投資に代表される国内需要も4四半期連続で減少している。
 金融危機の震源となった欧米よりも日本経済の落ち込みが厳しくなったのは、企業収益の悪化や家計の実質所得の目減りなどを通じて、すでに国内需要が傷んでいたことも一因だが、完全に外需頼みになっていた日本経済にとって、輸出急減の影響は甚大だったということだろう。
 今年に入ってからも、景気の悪化には歯止めがかかっていない。需要の急減に対応して製造業は減産を強化しており、今年1~3月期の鉱工業生産は前期比で2割を超える落ち込みになる可能性が高い。1~3月期の成長率も昨年10~12月期に匹敵するぐらいのマイナスになるとの見方が強まっているようだ。
 現下の日本経済は、金融危機に伴う海外経済失速を背景とした輸出の急減が、生産・収益の減少を通じて設備投資と雇用の調整圧力を強める悪循環に陥りつつあり、大変厳しい状況であると認識している。少なくとも今年前半は景気後退局面が続くと予想している。
 米国や欧州、中国など諸外国では、こうした難局を打開するためにさまざまな金融安定化策・経済対策が打ち出され、実行に移され始めている。わが国でも、政府が経済対策・雇用対策を策定したほか、日本銀行が企業の資金繰り支援策を導入するなど、経済・金融両面で対策が講じられている。こうした対策が効果をあげ、早期に世界経済および日本の景気悪化に歯止めがかかることを期待したい。
 もっとも、足許の経済の悪化は大方の予想をはるかに超えるものとなっており、追加の経済対策を早急に検討する必要があると考えている。その際には、短期的な需要対策が必要なことはもちろんだが、加えて、中長期的な視点に立った、真にわが国の発展や競争力強化につながるような公共投資、インフラ整備等も盛り込まれることが重要ではないかと思う。
 日ごろ現場でお客さまと接していても、「経営環境が本当に厳しくなった」と言う声を多く聞くようになり、わが国経済の情勢が日増しに厳しくなっているという実感を持っている。お客さまが様々な努力をなさっているなか、私どもとしても、経済の血脈を支える金融を担う者として、この局面を乗り切るために全力を尽くしてまいりたい。


(問)
 今月上旬までに銀行の12月末までの決算が出揃って、久しぶりの厳しい内容だったと思うが、足元の銀行の環境、経営課題、それからできれば4月以降の新年度の見通し、展望なども含めて考えを伺いたい。
(答)
 国際的な金融・資本市場の混乱は昨年9月のリーマン・ショックを機に深刻化し、内外の実体経済に大きな影響を及ぼし、景況感の急速かつ大幅な悪化、株価の下落などを招く事態となった。
 こうしたなか、08年12月期の大手各行の当期利益は、与信関係費用の増加や株式関係損益の悪化などにより、大幅な減益を強いられた。本業の利益である実質業務純益についても、資金利益が幾分増加傾向にあるものの、市況の悪化で手数料収入などが減少し、全体として低迷した。
 11月にこの場で「実体経済の弱体化が進み、世界的な景気後退が深まるとの懸念が高まっている」ことや、「株式相場の動向に注意していきたい」と申しあげたが、現実はまさに厳しい方向に向かったといえよう。
 次に、09年3月期に向けた見通しを概観する。
 世界的な金融・資本市場の混乱や経済の減速が長期化の様相を呈し、企業業績の見込みも厳しさを増すなど、私ども銀行を取り巻く環境は引き続き厳しいものとなろう。
 大手各行の09年3月期の見通しを見ても、厳しい経営環境を反映したものとなっており、与信関係費用や収益などについての下方修正が相次いでいるようだ。
 以前から申しあげているとおり金融は実体経済の鏡であり、現下の経済情勢にあって、非常に厳しい経営環境は来年度も続くことになろうが、下期以降には政府のさまざまな施策の効果が出始めることを期待したい。
 いずれにせよ、このような厳しい情勢にある時こそ、我々金融機関は原点に立ち返り、銀行としての存在意義を今一度しっかり見つめ直し、お客さまのニーズにしっかりお応えしていくための事業基盤を整えること、いわば顧客本位の経営が重要になってくると思う。
 また同時に、内外の厳しい経済環境や将来の不確実性に耐えうる強固な財務基盤を作りあげることが肝要だと思う。


(問)
 今日の日経平均は、バブル以降一時最安値をつけたが、日本の銀行にとって自己資本がかなり毀損してくると思うが、期末にかかる影響をお聞かせいただきたい。また、企業の期越え資金調達もかなり厳しくなってくると思うが、その影響についても会長のご見解をお聞かせいただきたい。
(答)
 日経平均が最安値圏で推移するなど厳しい状況が続いており、銀行の保有する株式の時価が下落し含み損が生じた場合は、自己資本比率にマイナスの影響が生ずることになる。ただし、有価証券ポートフォリオは株式以外の有価証券も併せて影響が算出されるため、その一部分だけを見て影響を判じるものではない。
 もっとも、保有株式のリスク管理が銀行にとって極めて重要な経営課題であることは間違いない。
 これまでも保有株式を売却することによりリスクを削減したり、あるいは自助努力による資本増強によってリスクのバッファーを強化するなど、個々のポートフォリオに応じた対応が進められてきたが、今後もさまざまな事態を想定して、前倒しで手を打っておくことが肝要であろう。いずれにせよ、個人的には政策保有株式は減少させるべきだと考えている。
 そうしたなか、今般、日銀による株式の買取が再開されたことは、我々にとってありがたい措置であり、歓迎している。現在準備が進められている銀行等保有株式取得機構による買取再開とあわせて、リスク削減にあたっての有力な選択肢になると考えている。
 一方、年度末に向けての銀行の資金調達については、政府・日銀においてさまざまな対策を取っていただいていることもあり、インターバンク市場は比較的落ち着きを取り戻しているものと認識している。


(問)
 米国でシティグループとバンクオブアメリカ等大手行に対して、国有化という観測が拡がっているが、万が一国有化された場合の金融機関への影響(プラス/マイナス面含め)について、どのように考えているか。
(答)
 「国有化」と言っても、様々なパターンがあり、その効果や邦銀への影響について、一概には申しあげにくい。
 ただ、昨夜公表された米財務省、FRB等による共同声明では、金融仲介機能の維持へ向け、金融システムを断固として保護する強い意志が表明されたのは事実であろう。危機の沈静化へ向け、米政府は政策を総動員している状況にあり、大手銀行に注入した公的資金優先株の普通株への転換という政策オプションも排除されていないということではないかと理解している。
 折角ご質問いただいたので、ここで欧米金融市場などに対する私の見方を少し述べさせていただくと、欧米の金融市場は極めて厳しい状況が続いているとの認識である。
 年明けから相次いで公表されている欧米銀の決算内容をみると、昨年9月のいわゆる「リーマン・ショック」を契機とする金融市場の混乱を受けて資産価格が一段と下落した影響が現れているようだ。加えて、各国において、雇用や住宅投資、企業の生産等、実体経済が過去に例のない速さで急速に落ち込んでいることを反映し、不良債権も大きく増加しているようだ。残念ながら、欧米では、金融と実体経済のスパイラル的な悪化が進んでいるとの見方が増えている。
 そうしたなか、各国では、金融セクターへの追加の公的資金活用と併せ、実体経済を支えるための財政・金融政策が総動員されようとしている。既に先月、英国が銀行セクターへの追加支援策を打ち出しているが、今月に入り、米国でもオバマ新政権が、大規模な財政出動と金融安定化のための追加施策の枠組みを発表している。
 米国の金融安定化策は、住宅ローンの借り手支援策やFRBによる融資制度の拡大等も含まれる包括的なプランとなっており、懸案の不良債権については、厳格な資産査定(ストレス・テスト)、不良資産の切り離し、必要に応じた資本増強、といった諸点が骨格となるなど、過去のわが国の不良債権処理と同様の枠組みとなっているように思う。
 以前にも申しあげたと記憶しているが、危機対応としては、損失額を確定し、必要に応じて資本増強を行うことが肝要である。その点、まだ骨格が示された段階ではあるものの、今回の米国の安定化策は、そうした諸条件を揃えていると言えるのではないか。
 もちろん、このプランの具体的な運用にあたっては、難しい点があるのも事実であろう。特に、わが国の経験もそうであったが、実体経済が悪化を続け、資産価格の下落が継続している最中に金融機関の損失額を確定することは非常に困難な作業である。米国当局もそうした困難は十分に承知していることと思うので、今後の運用を見守りたい。
 株価が下落するなど、米当局の政策対応に対するマーケットの評価・反応は厳しい感もあるが、個人的には、厳しい状況下で最大限の対応が打ち出されているのではないかと評価している。
 このように、米国のみならず、欧米各国当局が政策を総動員して危機対応を進めていることは歓迎したい。しかし、これで直ちに欧米金融市場が安定化に向かうと楽観するべきではなかろう。大規模な財政出動が打ち出されているものの、マクロ対策の効果は一定の時間を経て成果を現すものである。世界経済全体が5%以上の高ペースで5年以上にわたり成長を続けてきたものが下降サイクルに入った状況であり、そう簡単に実体経済の悪化や資産価格の下落に歯止めがかかることはないであろう。欧米金融市場の正常化までには、まだ時間がかかるのではないか。


(問)
 今朝の閣議後の会見で与謝野大臣が、この株価の状況を見て必要だったら政府が何か株価対策をしなければならないというように言っていたが、銀行の方を見ると先ほど会長が言われた買取機構の再開というのが今審議されているわけであるが、何か他に金融界としてこういうような対策をやってほしいとか、具体的な思いがあればお聞かせ願いたい。
(答)
 与謝野大臣が会見で話されたことの詳細は存じあげないが、銀行が保有する株式について言えば、日本銀行による買入れが再開され、銀行等保有株式取得機構による買取の再開も参議院で審議されている。これらの施策により銀行が保有株式を圧縮していく際の「受け皿」の枠組みが措置されることは大変有意義であり、ありがたい措置であると考える。また、銀行等保有株式取得機構の買取枠20兆円は、現在銀行が保有している株式や事業法人が保有している銀行株全体のボリュームに匹敵する水準と言えるのではないか。


(問)
 アイデアとして昭和40年代にあったようなマーケットから株を買うような組織を作って、株価をキープするというか、プライス・キーピングするような組織を、当時は日銀と民間銀行がお金を出して作ったそうであるが、そういうアイデアというのは、何かお考えはあるか。
(答)
 過去にはプライス・キーピング・オペレーションを実施してはどうかということが言われたことがあったと記憶している。足元、日経平均が一時バブル後の最安値をつけるといった状況でもあり、株価に対するあらゆる対策を幅広く検討すべき時期なのではないか。ただし、全銀協会長としては、コメントする立場にはない。


(問)
 政府が追加の景気対策を早急にという話をされていたが、具体的にどういった追加の景気対策というようにお考えか。昨日、確か御手洗さんは25兆円の補正予算という話もしているが。
(答)
 日本経済の大幅な悪化は、米国や中国などの海外経済失速を背景とした輸出の急減が最大の要因ではないかと考えている。外需頼みとなっていた日本経済にとって、輸出急減の影響が甚大だったということだろう。今後に目を転じると、当面は米国や中国向けの輸出の急速な回復が見込めないなか、内需拡大ということが重要になるのではないか。その際には、短期的な需要対策のみならず、中長期的に成長力を高めるという観点も必要となろう。例えば、農業や医療・介護分野などの有望な分野で成長を促進する施策を講じることも考えられる。農業は、雇用の吸収力も期待され、ひいては個人消費の増加にもつながり得るし、医療・介護は、少子高齢化への対応が必須の日本において、成長が見込める分野ではないかと思う。加えて、環境・エネルギーもこれから成長が見込める分野の一つではないか。


(問)
 銀行の自己資本の状況についてもう一度教えていただきたい。株価7,000円ということもあるし、おっしゃったように欧米で資産価格の下落が進行している。大手行のなかでも、まだ証券化商品やLBOのアセットなど下落が続いているアセットを持っている銀行もある。こうした状況のなかで、地銀はともかく大手行の自己資本は現在潤沢にあるとお考えか、場合によっては、昨年以降、大規模な増資に各行走ったわけだが、引き続き近いうちに増資をしないといけなくなるような状況なのか、そのあたり会長の考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 昨日もみずほフィナンシャルグループが海外での優先出資証券の発行を公表しているが、大手グループはどこも、昨年より様々な形で資本増強を進めている。その際には、各グループとも株価下落をはじめとする将来の様々な経営リスクを勘案したうえで対応しているものと考えている。


(問)
 会長の今の説明のなかに、この間、条件が決まった8.5億ドルのドル建ての優先出資証券の話が出たが、クーポンが14%とかなり高い気がする。なぜドル建てであんなにクーポンを払って調達しているのか。会社側から説明は聞いているが、改めてなぜ必要なのか、教えていただきたい。
(答)
 みずほとしては、まずもって自助努力で、国内外において多様な投資家から資本増強することが基本であると考えている。クーポンが「高い」とのご質問は、1~2年前との比較でそう言われているのかもしれないが、いわゆる「リーマン・ショック」以降、グローバル金融・資本市場が混乱するなかで、世界の主要金融機関によるTier1優先出資証券資本の調達は、政府保証付等の場合を除いて事実上ストップしている状況にあった。そうしたなか、我々としては、むしろ海外投資家による日本の大手行への信頼感を示す事例として、市場の状況に照らしても適正なコストで相応規模の調達ができたものと考えている。そういう意味で、この調達には十分な意義がある。