2009年6月23日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様

(問)
 景況感に明るい兆しが出てきているようであるが、会長ご自身の考えと、それを踏まえた貸出の状況について、先行きを含めて見解をお伺いしたい。
(答)
 まず、景況感であるが、やはり依然として非常に厳しい状況であることは不変だと思う。ただ、足元では下げ止まりの動きが段々と広がっている、という印象を持っている。指標をご覧いただくとお分かりになると思うが、わが国にとって大変大きなウェイトを占める輸出や鉱工業生産が、3月、4月とプラスに転じてきている。これが、センチメントに相当影響を与え、日銀および政府の景気判断も改善してきた、という印象を受けている。
 グローバルベースで金融・経済危機から脱却するため、中国、米国を中心に世界各国があれだけの大型景気対策を実施しているのだから、当然のことながら、その影響が出始めている、ということだと思う。
 それが、いわゆるセンチメントにも相当影響を与えて、報道等でも「底入れ」や「底打ち」という表現が使われるようになった。客観的な経済指標もそうであるが、景気ウォッチャー調査などを見ても分かるとおり、センチメントは非常に改善している。株価も、本日はかなり値下がりしたようだが、3月に比べれば3~4割は上昇している。今後の景気については、夏場には底入れし、年末から来年の年初にかけて回復局面に入ってくるのだろうというのが、メイン・シナリオと考えている。
 ただ、リスク・シナリオも数多くある。冒頭申しあげたとおり、依然として極めて厳しい状況であることは不変であるため、何らかのリスク・シナリオが発生すると景気が腰折れすることも十分想定しうる。このため、政策総動員という形で対応がなされているわけである。センチメントへの影響は別として、先般の経済危機対策が本格的に執行されるのはこれからであり、その効果に期待している。当局には、すでに政策を総動員していただいているわけであるが、引き続き適時適切な対応をお願いしたいと考えている。
 次に、貸出の状況であるが、昨年9月から今年3月までの金融・経済危機と称される状況の下、貸出残高は全国銀行ベースで約11兆円増加した。内訳は、大・中堅企業向けが約10兆円、中小企業向けが約1.4兆円であり、率にして4%程度増加したということは前回の会見でも申しあげたかと思うが、4月に入って借入需要は明確に落ち着いてきたように思う。
 大・中堅企業向けについては、一時期、直接金融による調達が非常に難しい状況に陥ったため、相当程度、間接金融がそれを代替した。足元、直接金融は、まだ完全に回復したとはいえないが、次第に落ち着きを取り戻し、相応のところまで回復してきている。実際、社債は6月にかなりの発行が予定されているし、CPもスプレッドが昨年10月初めの水準程度まで低下している。発行額や残高はそこまで回復していないと思うが、いずれにせよ直接金融は相応の水準まで回復しているため、間接金融による代替が減少し、大・中堅企業向け貸出も伸びなくなるとみている。
 一方、中小企業向けについてみると、一般的には、売上が伸びて設備投資も活発に行われる局面で資金需要が発生するが、昨年10月から今年3月は、そのような状況になく、逆に、売上が減少し在庫が積みあがった局面であったと思う。そのような状況では、一時的には資金需要が出る。しかし、期末の資金需要期を越え、また、在庫が相応に捌けてきた一方で売上は伸びない、設備投資需要も低迷が続く、という状況になると、資金需要は落ち着いてくる。
 まだ、5~6月の実績は判明していないが、4~6月の貸出需要は非常に落ち着いたものになろうと思われる。また、先ほど申しあげたシナリオからすれば、今後も貸出需要が順調に伸びていくという状態にはなかなかならないだろうとの認識である。


(問)
 株式の持合いの問題であるが、金融審でも話題になっているが、株式持合いについてのお考えと、それから保有株式取得機構の意義について改めて伺いたい。
(答)
 現在、株式取得機構と日銀に株式の買取りをしていただいている。株式取得機構では本年3月に株式の買取を再開したが、これは銀行界としては、非常に意義のある、ありがたい制度であると理解している。これまでも政策投資株式の保有リスクは大きいと言われてきたが、銀行界としては相当程度株式を減らしてきており、その残高はピークの半分以下になっている。
 しかしながら、今回の金融危機においても株式保有リスクが顕在化し、非常に大きいリスクであることをあらためて痛感した。したがって、銀行として株式を減らす努力をしなければならないというのは共通した認識であると思うが、本件は「クロスホールディング」という持合いの側面、即ち、長い歴史と相手方のある課題でもある。したがって、何パーセント減らすとか、幾ら減らすということではなく、あくまでも個社毎に丁寧にご説明し、ご納得を得ながら保有株式を減らしていく努力を最大限行っていくことが重要であると思っている。
 株式取得機構等を使うことは、株式市場等のマーケットに直ちに影響を与えないバッファにもなっており、株式を売却していく手段として非常にありがたい制度であると理解している。


(問)
 産活法の問題であるが、エルピーダメモリが日本政策投資銀行と民間金融機関の間で協調融資のような形で支援をするのではないかとの見通しが出ている。政策金融と民間金融とのリスク分担などについて、どうあるべきかお考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 個別案件についてコメントするわけにはいかないが、一般論として申しあげれば、「官と民のリスク分担がどうあるべきか」ということについては、個別事案に接してみないと分からないと思う。すなわち、ケースバイケースで、「どれが最適な組み合わせか」ということを模索していくという形になるであろう。
 4月30日、経産省より公表された産活法の認定基準には、その4番目に、「官」すなわち指定金融機関の出資を前提として、民間の融資ないし出資等による協調・協働が必要である旨、盛り込まれている。したがって、当然、官と民の協調はひとつの要件であるということだと思う。これは異例なことではなく、例えば、大きなプロジェクトに対してファイナンスする場合に、1つの企業のリスクを1つの銀行が全て負担することは、基本的にないことと同様である。こうした場合は、協調融資での対応がなされるわけで、そういう大きな流れのなかで捉えれば、官と民が協調するという要件は、違和感のある基準ではない。したがって、産活法が発動されるケースでも、当然、官と民が協働して、協調しながら対応していくことが必要なのだろうと理解している。今後、個別事案が複数出てくると思うが、例外なくそういう形になるだろうと思う。
 ただ、こうした事案はどうしてもリスク分担の話になりがちだが、一番大事なのは、当該企業が本当の意味で再生できることにあると思う。再生計画の策定過程も非常に大事だが、それを実現していくことが大事である。こうした段階においても、われわれ銀行は精一杯の努力をし、企業等と協力して、高いフィージビリティのある再生計画を作り、その実行段階においても協力できるものは協力していくという姿勢が、本当は一番大事であろうと認識している。


(問)
 先日、アメリカのオバマ政権が発表した金融規制改革案で、銀行の自己資本比率規制なども含めて金融機関の規制を強化する内容が盛り込まれていたが、海外でも展開するメガバンクにも少なからず影響があると思うが、会長のご意見をお聞かせいただきたい。
(答)
 オバマ大統領が公表した金融規制改革案は、金融危機に対する反省と、再発防止のために何をやらなければいけないかというパッケージだったと理解している。改革案は、連銀(FRB)への権限の集中、消費者・投資家の保護、金融機関の破綻処理の枠組み整備、デリバティブ等金融商品の規制強化等、多岐にわたっているが、個々のパッケージ自体は非常に評価できる。ただ規制や監督は、ある方向性には有効だが、その一方で活力を削ぐ側面もある。したがって、行き過ぎた規制や監督にならないようにお願いしたい。トータルとしては非常に評価しうるパッケージになっていると思う。日本の金融機関への影響は、少なくとも発表されている範囲では分からない。


(問)
 株式マーケットが3月末から回復しつつあるが、4~6月の銀行収益はどのような状況なのか。投信販売や住宅ローンの状況も踏まえてお聞かせいただきたい。
(答)
 1~3月とそう変わっていないとの認識である。投信販売は、19年がまずまず、20年が前年の半分程度へ落ち込んだ後、今年2月をボトムに多少なりとも売れ始めてきたと感じている。ただ、ベクトルは多少良い方向へ向かっているが、それほど大きな伸びではない。住宅ローンも同様である。メガバンクの決算を見ていただくと、ご存知のように、21年3月期は与信関連費用と株式減損が非常に大きかったが、株価がこのような状態であれば、株式減損は発生しない。6月が終わっていないので正確には分からないが、銀行収益のベースの部分が良くなりつつあるか、と聞かれるのであれば、それほど好転はしていない。冒頭で申しあげたとおり、もう少し景気が好転して経済が循環し、資金需要もでてくるという段階にならないと、銀行の収益がベースの部分で好転するというわけにはいかないだろう、もう少し時間がかかるだろう、との認識である。


(問)
 英国のターナー卿が来日し、異例の記者会見を行った。そこで英国の金融規制について話をしていたが、米国や英国が金融危機後の秩序づくりというところで土俵争いをし、いろいろな主張をしている状況である。そのなかで邦銀の立場を今後どのように示していくのか。先般、全銀協ではこの件についてパブコメを出していたが、その状況認識と今後の立場について、どのように発信していくのか聞かせていただきたい。
(答)
 もともと米国当局よりも英国を中心としたヨーロッパ当局の方が、規制・監督を強化しなくてはいけないという意見は強かった。そのなかで、英国FSAが、一つの考え方のたたき台として発表したのが「ターナー・レビュー」であると理解している。したがって、国際的コンセンサスが得られたものではないが、英国当局が出したものとして、かなり影響力はあるだろうと思われる。これをたたき台にしながら、将来の規制・監督のあり方を議論して、国際的なコンセンサスをつくっていくという過程にあると理解している。
 全銀協もコメントを出させていただいたが、ポイントは二つあると考える。ひとつめは、金融危機後の経済が磐石な状態にならない限り、新たな規制を導入してはならないという導入時期の問題がある。ふたつめは、規制・監督というのはグローバルベースの共通尺度で考えなければならないものであり、包括的な国際的コンセンサスを得たものとして出すべきではなかろうかということである。自己資本の問題における「コアTier1比率」で4%以上等については、本当の意味での国際的コンセンサスとなっているとは思っていない。特に資本の問題については、非常に影響も大きいので、総合的かつ慎重に考えるべきである。多くの論点が書かれているが、今申しあげたような点が私が思うエッセンスである。本件については、今後もさまざまな形で、バーゼル委員会等で議論されていくと理解している。


(問)
 自己資本については、景気が良いときには資本を積んで悪いときには資本を取り崩すという議論がある。金融機関にとっては収益性が低くなり、問題の震源地となっていない邦銀にとっては有難迷惑な話ではあるが、この考え方に対しては、どのように考えているか。
(答)
 100年に1回という金融危機が現実に起こったことにより、これに対する対応案として、いろいろな案が議論されて国際的なコンセンサスをつくっていくというのは非常に大事なことであると思っている。日本の金融機関は、金融危機の影響が小さかったから関係がないということではなく、金融というのはグローバルベースで循環しており、グローバルで勝負している邦銀もまさに共通の土壌に立っている。したがって、現状においては、今後の金融危機再発防止のために、当局も最善を尽くすし、民間も最善を尽くす、そういう議論のなかでのコンセンサスであれば、統一的なルールとしてわれわれも採用することになると思っている。ただし、その過程においては、われわれの立場からも意見を申しあげさせていただき、われわれの状況も理解いただいたうえで、統一ルールをつくっていくことが大事なことだと思っている。


(問)
 今までの質問と関連するが、先日のG8の財務大臣会合等でも、フレームワークをつくって、国際的な金融の監督等について枠組みをつくっていこうということで合意したと思うが、そのなかで、邦銀の立場をきちんと理解してもらうために、戦術的なもので具体的に何かお考えのことがあれば教えてほしい。
(答)
 戦術と言われるとなかなか苦しい。先日開催されたG8では、その前のG20と同じことが合意されているので、大きな進展があったということではないと思う。むしろ、現在の環境を踏まえて何をやるのか、回復基調にあるからといってこれにブレーキをかけるようなことはしない、というコンセンサスがメインだったと思う。次のステップとして、現時点で出口議論をするのは相応しくないが、いずれ議論する時期が来るので、出口に係わる考え方を整理しておいた方が良い、というコンセンサスもあったと理解している。与謝野大臣も出口戦略は中期的な課題との主旨の発言をされたが、これはそういうことを表しておられると理解している。
 民間銀行レベルで様々な会合があるし、官庁レベルでも民間が入った形の会合もある。バーゼル委員会が良い例だと思う。あらゆる会合を通じてわれわれの意見は主張するし、当局にもわれわれの意見をご理解いただき、そういう場で堂々と議論していただく、そういう正攻法しかないと思っている。


(問)
 冒頭、景況感に関する質疑で、メイン・シナリオとは別にリスク・シナリオに言及されていた。そのなかで、何らかの理由で景気が腰折れする可能性もあるという趣旨のことを言われたが、リスク・シナリオについて、具体的に何がきっかけになり、どのような事態になるのか、お考えがあれば教えていただきたい。
(答)
 リスク・シナリオとしては、様々なことが想定される。現在、世界経済を牽引しているのは中国であるといってよく、米国も着実にキャッチアップし、日本も景気回復に努めている。中国はすでに景気が底入れし、米国と日本は夏場頃に底入れするものとみている。ただ、例えば、本日もセンチメントの要因で株式市場が下落した。直接的には、世界銀行が今年の世界の実質経済成長率予想をマイナス2.9%に下方修正したことが影響したと思うが、むしろ世銀予想の方が通常の見方であろうと思う。
 回復の兆しが現れる局面では楽観的なシナリオが提示されるが、逆の材料が出ると景況感も反対方向に大きく振れる。こうした現象は至るところでみられるものである。自動車や電機の生産も、在庫調整が概ね完了し回復傾向に入りつつあるが、水準自体はピーク時の7割程度で、稼働率も5割程度にとどまる。そうしたなかで生産が多少低下しただけでも、景況感は全く変わってくる。リスク・シナリオとは、そうした様々な要素を総合したものであると考える。楽観シナリオにしても、多数のシナリオが挙げられる。その中心的な部分をメイン・シナリオと申しあげているわけである。長期金利の上昇がリスク・シナリオというのもひとつの考えであり、様々なケースが考えられると思う。


(問)
 国内のCMBS市場の話だが、最近フィッチ、ムーディーズといった格付会社が、日本の国内CMBS市場は2010年に危機に直面するのではないか、多くのノンリコースローンがリファイナンスできずにデフォルトし、CMBS市場自体が大きな問題を抱えることになるのではないかとの見方を示している。米国ではすでに当局が対策を取っているが、本邦では政府や日銀等がCMBS市場を支えるような対策をとっているのか、また、ノンリコースローンについてはリファイナンスの問題は実際に起きているかどうか、という2点についてお伺いしたい。
(答)
 日本について申しあげるとすれば、J-REITのような不動産関連の融資が相当出ている。J-REITの指数をみても、ピークの半分以下に下落しており、リファイナンスはなかなか苦しいということは事実だと思う。すでにそういう形で行き詰った事例が出ている。現在官民ファンドのスキームが議論されており、これが発動された場合には日本型の対応となるが、まだ正式に決まっているわけではないと理解している。


(問)
 やや時期尚早かもしれないが、ポスト金融危機における邦銀のビジネスモデルは、どのようになるのか。先ほど、4~6月で資金需要が落ち着いてきたというお話もあったが、そのような状況で、どのように収益をあげていくのか、同時に、社会的使命をどのように果たしていくことになるのか。その辺りの構想はいかがか。
(答)
 かなり先の話になるとは思うが、個別行の取り組みに即して申しあげた方が良いと思うので、MUFGがどう考えているかについて申しあげると、やはり大企業取引は、CIB(Corporate Investment Banking)モデルの推進である。現在、業務提携を協議しているモルガン・スタンレーとの戦略的アライアンスは、その典型である。投資銀行業務は、今般の金融危機で問題視された部分もあったが、本質的には絶対に必要な機能であり、グローバルベースでも、国内でも、総合的な金融サービスをパッケージとして提供するという意味で、本来の大企業取引においてビジネスチャンスを得ていくには、これを駆使することが必須であると理解している。したがって、内外ともにCIBモデルを強化する方向で取り組んでいくというのが、今後の戦略であると思う。
 中堅・中小企業取引では、CIBモデルから得られたノウハウを汎用化して応用するといったビジネスモデルを想定している。それがお客さまにも喜ばれ、お役に立つというものでないと、本当の意味でビジネスモデルとは言えないし、銀行のビジネスにもならない。また、リテール分野では、足元、運用商品の市場環境は非常に厳しいが、貯蓄偏重という日本の状況は国際的にみて異例であり、ベースとして「貯蓄から投資へ」という大きな流れが進むのは確実である。そうしたなかで、いかにお客さまに喜んでいただき、銀行もビジネスを成立させていくかがポイントである。運用商品、住宅ローン、カード業務を含む消費者金融と、トータルソリューションとして品揃えを行うことによって、お客さまのニーズにお応えし、お客さまに満足していただきながら、収益もあげさせていただく。これが、ある意味、日本型のビジネスモデルであろうし、今後模索していきたい。先般、MUFGは中期経営計画を策定したが、前半は、そのような取り組みはなかなか難しいと思っている。しかし、1年半後以降の後半においては、今申しあげたビジネスモデルを再構築し、トップラインも伸ばしていきたいと考えている。当然ながら、その際はグローバルベースでの展開が大きな柱となろう。