2009年11月24日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様

(問)
 景況感についてである。7~9月の実質GDPが年率4.8%成長となった一方で、民間の調べでは中小企業の倒産がいまだ増加傾向にある。こうしたなかで景気に対する現状認識と、今後の見通しについてお聞かせ願いたい。
(答)
 景況感であるが、現状は、景気は持ち直しの動きを続けていると認識している。ご指摘のとおり、7~9月の実質GDP成長率は4.8%とかなり高く、かつ4~6月に続いて2期連続のプラス成長であった。7~9月の数字は、マーケットの予想よりも高かったと思う。これは、ベースのところは外需と経済対策効果に支えられている。これは、4~6月も同様である。ただ、7~9月の成長率がやや高かったのは、在庫投資と設備投資がプラスに転じたためで、これによって成長率が高くなったということだと思う。
 しかしながら、在庫投資、設備投資は、その前に非常に大きな下げを続けており、大幅下げの反動と理解したほうが良いだろうと思う。現実には、経済の絶対水準は非常に低い。生産についても、7~9月はピークの約8割という状況であろうし、稼働率もやっと6割を超えてきたという水準である。したがって、絶対水準はまだまだ低いというのが現況かと思う。
 今後の見通しということであるが、リスク要因はあるが、外需と経済対策効果に支えられて、来年にかけて回復傾向をたどるというのがメインシナリオだと思っている。
 ただし、回復傾向という言葉を使ったが、回復のピッチは、従来から申しあげているとおり非常に緩やかということである。
 そのなかで、リスクシナリオとは、例えば、わが国経済は米国、海外の景気に頼っている面があるので、これがやや失速するとか、円高が非常に進み、これに伴って株価が下落するとか、内外の雇用情勢が、これは決して今、良くないが、更に下ぶれるといったことがある。万が一、これらが二重、三重に重なってきたときには、最近よく言われている二番底のリスクも無いとは言えない。あくまでメインシナリオは、来年にかけては回復傾向をたどるということであるが、そういうことも意識はしておかないといけないと思っている。
 ご質問のなかに小規模企業の倒産の話があったが、確かに統計を見ると10月は悪化したという数字が出ている。景況感自体は、今申しあげたようなところであるが、現在の持ち直しの動きは、まだまだ小規模企業に恩恵を及ぼすという状況には至っていないということかと思う。
 したがって、今後は、景気の腰折れ回避が大事である。今の回復傾向が続いていけば、その恩恵は小規模企業にも及ぶが、腰折れするとそこまで至らないということになる。政策当局におかれては、こういうところを十分に留意しながら、適切な政策を打っていただきたい。われわれとしても、中小企業に対する金融円滑化に全力を傾注したいと思っている。


(問)
 自己資本規制強化の議論について、9月の会見のときに「大きな流れはほぼ決まりつつあるものの、各論では議論の余地がある。」と発言していたと思うが、改めて現状の議論の進捗を整理してお教えいただき、邦銀として主張していくところはどこにあるのか教えいただきたい。
(答)
 9月の会見で「大きな流れはほぼ決まりつつある」ということを申しあげた。その時点では、バーゼル委員会上位機関から公表が出て、資本規制強化の方向性が打ち出されたが、その後、米国ピッツパークや英国で行われたG20でもその延長線としての公表があり、規制強化の大きな流れは定まったということだと思う。
 現在の状況としては、各国当局が規制の各論についていろいろ議論をしている段階にあると認識している。12月末頃までにコンセンサスを得て、12月末から来年の年初にかけて市中協議案が公表され、その後は影響度調査が行われる予定である。最終的には来年の12月末くらいに成案になると認識している。
 ポイントとなる各論は、やはり自己資本の分子である。新たな自己資本として定義されるコアティア1から、何が控除されるのかというところがポイントになる。
 われわれが、今、主張している意見を大きく2点申しあげると、ひとつは各国会計や税務基準の違いを考慮すべきである、ということを強く申しあげている。規制としての公平性の観点から、会計や税務が違うのに一律の基準はおかしいということである。例えば、無形固定資産について申しあげれば、われわれ邦銀では、システムのソフトウェアに大変なコストをかけて対応しており、これは無形固定資産に計上されている。ところが国によっては、これを有形固定資産に計上しているところもあり、有形固定資産の場合は控除されなくて、日本のように無形固定資産に計上しているところは控除されるというのはおかしいということになる。もう一つ例を挙げれば、繰延税金資産の問題。これについても、法人税の違いがある。法人税率は日本は約40%ほどだが、これは国によっておよそ20%から40%くらいの開きがあり、税率の水準が明らかに違う。更に専門的なことを申しあげれば、税務上の繰越欠損について、これが有効なのは日本では7年だが、国によっては20年、あるいは無期限というところまである。こういう違いを捨象して一律の基準でやるのはいかがなものかということである。
 もう一つは、「激変緩和措置」を設けるべきであるということを主張している。資本市場や景気への影響には十分な配慮が必要である。景気回復の腰を折ることがないように、新しい規制は段階的に適用するというのは既にコンセンサスになりつつあるが、例えば、グランドファザリングルールを導入する等、激変緩和措置を規制のなかに入れるべきではないか、という主張もしている。
 市中協議案まであと1ヶ月程となるが、引き続き全力を挙げて意見を申しあげていきたいと考えている。また、その後には影響度調査もあり、来年の末には成案となるということなので、引き続き継続的に意見を発信したいと思っている。


(問)
 先ほどの景気の現状と関連する質問であるが、先週の月例経済報告で政府がいわゆるデフレ宣言を行ったかと思うが、それに対する認識をお聞かせいただきたい。政府と日銀で若干違いがあるような感じもするが。また、それに対して、先ほど政府、金融当局が適時適切な対応を、ということをおっしゃられたが、具体的にどんなことが考えられるのか、お考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 デフレ宣言が出されたのは承知している。ただ、数字を見ていれば、今デフレ基調ということは、誰もがある面では認識していると思う。問題は何かというと、「デフレスパイラルになるのかどうか」という点。物価の下落とともにスパイラル的に景気が悪化していくという状態になったら大事(おおごと)なので、それに対する準備は適切にやらなければいけないということかと思う。
 政府におかれては、今回、正式には決まっていないにしろ、第二次補正予算、15ヶ月予算などの議論が始まっている。先ほども申しあげたが、景気の腰折れは厳に避けなければならない。これと、デフレスパイラルに陥ってはいけないということとは、似通った方向感であろう。当局におかれては、そのような方向感で適時適切に施策を打たれると思っている。


(問)
 先ほど会長が言われた自己資本規制のところである。日本の金融機関として主張は続けていかれるとのことだが、MUFGが先週増資を1兆円発表して、邦銀は全体的にみてもやはり自己資本比率というのは低く、昨日のS&Pでも邦銀は低いというようなレポートもあった。そういう点からみるとやはり邦銀の増資というのは今後相次ぐとお考えか。
(答)
 他行の動向については分からない。それぞれが適時適切にご判断されるものと理解している。今回のMUFGの1兆円の増資登録においては、規制強化がなされるという方向感が明らかになりつつあり、そのなかでグローバルベースの競争条件というのは変わっていくだろうということを念頭に置いている。MUFGの社長もコメントしたが、われわれは引き続き安定的な資金供給を積極的にやっていきたい、金融の仲介機能を積極的に果たしていきたい、その結果、実体経済に貢献したい、そのために財務基盤を強化しないといけない、という考え方から、今回の対応を行ったものである。


(問)
 アメリカの地銀の経営悪化についてうかがいたい。御行もアメリカで地銀を経営されているが、今年になって地銀が相次いで破綻した。主な理由として、商業用不動産ローンの焦げ付きが指摘されているが、こうした地銀の破綻や商業用不動産ローンのデフォルトは、日本を含む世界の金融市場にどのような影響を与えるとお考えか。
(答)
 アメリカの状況は、世界の金融マーケットに大きな影響を与えないと考えている。米国では、足許で124行の地銀が破綻したとの報道があった。昨年の破綻件数は25件で、既に昨年の5倍の規模に達しており、大変大きな数字である。最大の要因は、商業用不動産価格の下落である。この価格がコンスタントに下がり、かつ、価格は下げ止まっていない。この傾向が本年で終わらず、少なくとも来年の前半、場合によっては、もう少しかかるかもしれないという厳しい現況にある。三菱東京UFJ銀行も、地方銀行としては相当規模の大きいユニオンバンクを傘下に保有している。ユニオンバンクの与信関連費用の動きを見ていると、他の地銀と同じような動きをしていることからも、いまのアメリカの商業銀行がおかれた現状は非常に厳しいとみている。ただし、冒頭に申しあげたとおり、このことがグローバルの金融システムに大きな影響を与えるかどうかという点については、否であろうと考えている。


(問)
 貸金業法についてうかがいたい。改正貸金業法について、貸金業者への規制を強化すると、健全な資金需要者が借りられなくなるという弊害が生じるという意見もあって、見直しの議論がまた再燃しているかと思うが、会長は、何らかの見直しが必要だというふうにお考えになるのか、あるいは、このまま修正なしで施行されるべきだというふうにお考えになるのか、お聞かせ願いたい。
(答)
 結論から申しあげると、金融庁のPTが立ち上がっており、そこで、十分調査されると思う。その後、適切な対策が必要であれば打たれるし、必要がないと判断されれば、打たれないという流れになると思う。もちろん、貸金業法の改正というのは、消費者信用市場の健全な発展とか、適正化、これを図るために立案されたもので、これ自体は、有意義な法律であると思っている。
 ただ、この厳しい経済環境のもと、来年の6月に、完全実施、完全施行が迫っている。総量規制の導入、上限金利の引下げ、が実施されることになるが、そうなると、貸し手側、借り手側とも、大きな混乱を生じる恐れがあるのではないか、という声があがっていることは事実かと思う。
 そうしたなかで、金融庁のPTが設置された。貸金業協会からも10月の終わりぐらいに報告が出たが、その時点の調査では、今、消費者金融をご利用の方で、総量規制に抵触する方は約5割。かつ、その5割の方が、総量規制等が6月から施行されるということを知らない、ということであった。
 知らないということだけであれば、報知をしっかりするということであるが、総量規制に抵触する50%の方がこの状況のもとで混乱を生じないのか、というところがポイントかと思うので、そうした点が、PTで調査される内容になるのではないかと理解している。


(問)
 今のお話しだと、混乱が生じる恐れというのはあると、会長もお考えになっていらっしゃるか。
(答)
 わからない。それは、調査してみないとわからないのではないか。感覚で言うべきではないというふうに思っている。


(問)
 増資について教えていただきたい。本日午後のMUFGの株価が457円で、発行登録した日の終値が484円だったが、現在の株価についてどういう評価をされているか。思いのほか下がっていないとお答えいただけるのか、こんなものかなとお答えいただけるのか。
(答)
 なかなか答えづらい質問である。株価はセンチメントによる面も非常にあるので、何が正解かとはなかなか言えないが、ダイリューションが生じるような増資の発表があれば、理論的には株価は落ちる。ただ、それがどれほど予め織り込まれていたのか、ないしはその時々の需給関係、企業の業績に対する見通し、その時のマーケット参加者のリスク許容度等、様々な要素が株価の動きを規定する。単純に増資を発表した段階と今現在の株価を比較することはできないと思っている。


(問)
 先ほどからメガバンクの増資の話が出ているが、MUFGのエントリーに加えて、他の大手銀行も増資が必要なのではないかという懸念というか見通しを世の中一般は持っていると思う。巨額増資というのはそれだけで市場や既存株主、投資家等に大きなインパクトを与えるが、巨額な増資を行うにあたって発行体である銀行はどんな条件を満たさなければならないとお考えか。
(答)
 非常に難しいが、少なくとも必要性、それから広い意味でのエクイティストーリーを示さないとマーケットは受け入れない。現実に増資する過程を考えてみれば、われわれのように発行登録を行う企業と、ダイレクトに発行を行う企業とがあるが、現実に国内外でオファリング等々を行うときには、エクイティストーリーについて説明するということがあって初めてマーケット参加者が購入しようかということになる。そういう点が必要だということは間違いない。


(問)
 今回の場合は打ち止め感が大事ではないかと思っているが、ここから先は十分ということか。
(答)
 その点については、確たる発言は控えたい。


(問)
 日本銀行が11月の金融政策決定会合で、金融危機後に導入した緊急措置の解除を決め、企業金融支援特別オペレーションについて来年3月で打ち切るとしたことに対して、経団連が最近、継続すべきであるという意見書を出している。銀行業界として、どのようにお考えかお聞かせいただきたい。
(答)
 結論から言うと、日銀が言われている環境が整ってきたということであろう。現在なされているCP・社債等の買入れや企業金融支援特別オペは、マーケットが機能していないときの臨時措置であり、それを続けると、非常に弊害が生じるのは間違いのないことである。ただ、どのタイミングで打ち切るかということは、慎重に考えなければならない。CP・社債等買入れは12月末まで、企業金融支援特別オペは来年3月末までという決定をされたが、現実にどれだけ当該措置が使われているか、そのトレンドはどうなのかということについて、十分慎重に検討されたうえでの決断だと思う。実際にCP・社債等買入れを利用して調達しているところは、足許では非常に少ないということは確かである。それが判断の根拠になっていると思われるので、日銀の判断は、それほど私自身には違和感はないと言える。ただし、現在は微妙な段階であり、持ち直しつつある、今後回復軌道に戻るといっても、回復ピッチは非常に弱いという状況である。リスクシナリオが顕在化すれば、今度は二番底ということもあるかもしれない。そういうときには是非、先日止めたばかりだからということではなく、再度措置を行なう等、臨機応変に手段を打っていただきたい。また、政府にも、打つべき手立ては打っていただきたいと思っている。


(問)
 日本郵政について、株式処分停止法案が出されており、政府は今国会で成立させるという方針を示している。その後どうなるのかにもよるが、民営化を前提として進められた様々な施策、例えばATMの接続とか、全銀ネットとの関係とか、そういうものをどのようにされていく方針なのか、まだ方針として決めていないのか、今後何らかの意見表明をしていかなければならないと考えているのか、お聞かせていただきたい。
(答)
 まだ株式処分停止法案がどうなるのかという段階なので、前回の会見で申しあげた以上のことは言えない状況である。今後、郵政改革法案が国会に上程される段階において、はっきりと意見表明をしないといけないと思っている。
 郵政民営化の流れのなか、今まで3年ぐらいかけてやってきたことは、完全民営化を大前提として、一緒に民間金融機関としてやっていく筋道で、様々なことを検討し、実現したものもたくさんある。ただ、それが特別法による特別銀行であったり、株式の大半を政府が持ちフリーズするということであれば、前提条件が全く変わることになる。
 やはり、いつも申しあげているように、公正な競争条件が確保できなくなるので、われわれとしても相当なことを申しあげざるを得ないということになると思う。


(問)
 例えばATMは、利用者利便の観点からいくとどうか。
(答)
 個別論は差し控えさせて頂きたい。