会長記者会見
2009年12月22日
永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)
斉藤専務理事報告
事務局から1点ご報告する。
本日の理事会において、お手許の資料のとおり、来年度の次期副会長を内定した。
次期副会長の正式な選任は、9月に内定している次期会長と同じく、来年4月の理事会において行われる。
また、担当委員会についても、正式な決定は次期正副会長が正式に選任された後の正副会長会議において行われる予定である。
事務局からのご報告は、以上である。
会長記者会見の模様
(問)
昨年9月のリーマンショック以降、経済危機が深刻化し、銀行界が赤字決算となった大変な年ではあったが、一年を振り返っての感想と、銀行界における来年の課題をお聞かせ願いたい。
(答)
この一年の総括だが、ご存知のとおり、昨年10月以降は、何と言っても百年に一度の金融危機、戦後最悪の経済危機から脱するということがグローバルにおいても日本においても課題であったわけで、政・官・民が、政策総動員のもと、必死で危機から脱却しようとする一年だったと思う。相当歴史的な一年だったと言えると思う。今までに、G7ないしG20各国で、政・官・民がこぞって世界的な危機から脱却しようという動きに同時に取り組んだことはなかった。まだ万全とは言えないが、なんとか脱却しつつある、最悪期は脱したかなという状況になってきており、歴史的にも非常に重要な一年だったのではないかと思う。国内においても、政府、日銀が政策総動員という状況であった。そうした政策効果を最大限発揮できるように、銀行界としては、一言で言えば円滑な金融ということだが、資金の円滑な供給に向けて最大限の努力をするという形でこの一年間やってきたのではないかという印象を持っている。
もう1点、敢えて言うとすると、感想になるが、やはり金融というのは、経済にとっては黒子であり、企業の実業を支え、実体経済の成長に貢献していく、これは銀行の本来の使命だと思う。これを再確認させられたという意味でも非常に印象深い一年だったのではないかと思う。
来年の課題ということだが、銀行界としては、何と言ってもまだ経済が万全ではないので、金融の円滑化が一番の課題である。とくに中小企業金融に関しては、12月4日に「中小企業等金融円滑化法」が施行されたところであり、これに万全を期していくというのが一番の課題であろう。2点目の課題も、現在進行しているところであるが、グローバルベースの金融規制改革が刻々と動いている。実際、来年は、自己資本比率規制等で、12月頃には成案がまとまるというタイミングである。こうした問題で我々としても精一杯の意見を発信していくというのは必須であり、大きな課題として意識している。
3点目を言うとすると、やはり郵政改革問題となろう。これについては、現在各方面へのヒアリングが開始されているところであり、郵政改革法案(仮称)が通常国会のいずれかのタイミングで、提出されるということになる。したがって、我々としてもそれに向かっていろいろな形で情報発信していく必要がある。これも非常に大きい問題として捉えている。加えて言うとすると、金融・資本市場の機能強化、レベルアップという課題は常にある。非常に期待しているのは、もう少し時間はかかるが電子債権記録機関であり、新しいインフラとして非常に期待しているところである。そういう分野をどうしてもやっていかないといけない。
また、利用者保護についても、振り込め詐欺などが典型であるが、努力を傾注していかないといけない。挙げればきりがないほど、課題はあるということではないかと認識している。
(問)
先ほど会長から課題としていただいた自己資本規制についてであるが、先週、バーゼル委員会から市中協議案が発表されたが、案によると規制の実施には経過期間が設けられる見通しとなり、銀行に対する増資圧力も一旦は後退したという見方もあるが、案への評価と邦銀への影響について考えをお聞かせ願いたい。
(答)
バーゼル委員会から先週、市中協議案が公表された。市中協議案の内容は非常に多岐にわたっているが、このうち主要なポイントを挙げてみると、(1)分子においては従来から言われていた資本の質、(2)資本バッファー、(3)分母においてはリスクアセットの掛目等のリスク捕捉の強化、(4)補完的指標としての「レバレッジ比率」、(5)流動性規制等となる。
今回の特色は、自己資本比率規制を円滑に導入していかなければいけないので、実体経済に対する配慮等として、元々言われていた「段階的実施」も織り込まれていることに加え、「グランドファザリングを十分に長期に亘り設定する」というコメントがついたことが特徴的かと思う。この点については、本邦の当局にも多大なるご尽力をいただいたという印象を私も強く持っており、謝意を表したい。ただし、このグランドファザリングというのが、どの項目に対して実施されるのかということは明らかではないし、期間の問題も「十分に長期に」という表現はあるが、具体的に明示されてはいないというのも事実である。
さらに各項目を見ると、精査にはもう少し時間がかかるが、事前に我々が想定していた規制、例えば前回申しあげたコアティア1(コモン・エクイティ)から何を控除するかは、当初想定していた項目が全て対象となっている。以前から申しあげているとおり、2月からはQISと言われる影響度調査が開始される。我々はここで協力もするし、意見も言っていかないといけない。また、4月中旬には、パブリックコメントの締切りもある。
今回の案はあくまでたたき台だが、今後、成案になっていく過程で、緊張感を持って我々の主張を言っていかないといけないと感じている。したがって、邦銀に対する影響という質問もあったが、12月中に成案が決まった後2012年から実施されるという前提にはなんら変更はないし、「グランドファザリング」が、具体的にどういうものに対して、どのくらいの期間になるのかが重要だが、これは、影響度調査とパブリックコメントにかかっているのではないかと理解している。
(問)
来年の課題のところで取りあげた経済、万全な経済ではないという言葉もあったが、短観を見るとDIは改善傾向にあるが、中小は引き続き水準は厳しい。改めて現在の景況感と来年の見通しを教えてほしい。
(答)
現在の景況感は、どなたに聞かれても同じ回答になるのではないかと思う。やはり、海外景気の回復が輸出の増加に繋がるとともに、経済対策の効果がベースとして効いている。これを背景に持ち直しの動きを続けているというのが現在の状況であり、これは意見が一致するところかと思う。ご指摘の短観などをみても、正にそうした状況を示しているということであろうと思う。
来年、今後の見通しとなると、どうしてもやや弱くみることになる。先日、7~9月期の実質GDP成長率が1次速報の前期比年率4.8%から、2次速報では同1.3%に下方修正された。これは設備投資が下方修正されたことが大きく、非常に気になるところである。
したがって、やはりメインシナリオとしては従来から申しあげているとおり、緩やかではあるが、外需と公需に支えられながら回復傾向を辿るということであるが、回復のピッチは少し低下してくるのではないかという印象を持っている。輸出が成長率の押し上げに効くのは限界的な増加部分であり、ここからさらに輸出が伸びてくるかとなると、期待はしづらい。新興国向けは堅調だが欧米向けは現地の自動車購入支援策が切れてくる影響が出るといったこともあり、限界的な伸び率がどんどん高まるような状況ではないのではないかと思う。経済効果も、成長率の押し上げ効果を期待するなら、対策の積み増しがないといけない訳である。そうでないならば、時間の経過とともにややパワーが落ちてくる、経済を押し上げる力がちょっと落ちてくるということである。
一方で、民需に経済対策効果が波及すると非常に良いのだが、やはり、設備投資や個人消費がそれに繋がるように力強さを増してくる状態ではないのではないかと感じている。したがって、回復のピッチがやや低下する、そして場合によってはであるが、この年明けから来年度初めにかけて踊り場を迎えるかもしれない。踊り場とは、限りなくゼロに近い成長ということである。そういうこともありうるかなという印象を持っているということである。加えて、今後の景況感がやや弱いだけに、リスクシナリオもいろいろとある。現在、景気を支えている外需が少し落ちる、また足許ではだいぶ円安に振れているが、先日のように急激に円高が進むとか、雇用情勢が想定以上に悪化するなどのリスクシナリオが重なってくると二番底もありうる。二番底の意味はマイナス成長ということであり、定義は様々あろうが、マイナス成長が続くという意味で私は申しあげているが、そういうリスクも意識しておかないといけないだろうと思っている次第である。
(問)
アメリカの大手金融機関が年内に公的資金を返済するということだが、それに伴って、米国の金融機関が正常化したといえると見ているか。また、競争力等も回復したと見ているか。
(答)
大手6行のうち4行が公的資金を返済している。残るシティ・グループは返済に今暫く時間がかかるかもしれないが、ウェルズ・ファーゴは近く返済する見込みであり、大手行の殆どが公的資金を完済したという状況になると思う。ただ、米銀大手の実績を見ていると確かに回復しているが、これはトレーディングの影響を反映したためである。今の市場環境だとトレーディングの収益が大きいというのは間違いない。ただこれまでも申しあげているとおり、商業用不動産の悪化傾向は終わっておらず、与信関連費用が高止まるというよりは、まだ増える可能性もある。最悪の事態はかなり前に脱却しているが、今から高収益が続くかというとそうではないだろう。これは金融大手の話であり、地銀は今年に入って140行も破綻している。米国当局も、まだまだ厳しい状況は続くとコメントしている。従って、まだ楽観はできないというのが、トータルの印象である。
競争力については、もともと公的資金の問題と切り離したとしても我々が有利であったと思ったことはない。米銀は様々なスキル、ノウハウ、顧客基盤を持っているので、従来は、我々邦銀が有利で、相対的に今はどうかといった判断はできないのではないか。
(問)
先ほど、来年に向けた景気認識について、メインシナリオは緩やかな回復、ただし二番底リスクというのもあるというお話であったが、二番底リスクが顕在化するような状況になった場合、政府や日本銀行に対して、どのような政策を求めたいと考えているか。また、金融業界としては、こうした景気状況のなかで、中小企業金融の円滑化の話もあったが、どのような形で景気を支えていきたいと考えているか、改めてお聞かせいただきたい。
(答)
先ほど申しあげれば良かったが、そのような状況が起こる、そうした恐れが非常に強いという状況になれば、政府当局・日銀に適時・適切な対応を是非お願いしたいということである。何が必要かということについては、我々が申しあげるべきものではない。経済情勢等に関する計数をもっとも持っておられるところが、適時・適切に判断され、実際にそういう施策が発動されるということが極めて重要であり、是非お願いしたいということである。我々金融界ができることは、金融を通じて実体経済を下支えする、非常にシンプルに言えば、円滑な資金供給、金融の円滑化という使命があるわけで、これをきちんと果たしていくことしかないのではないかと思う。
(問)
先月同じような質問があったと思うが、現在、消費者金融業界の規制の見直しを金融庁が行っており、業界としても先月何らかの提案をしたと思うが、会長は、来年に入ってからの消費者金融業界の展望をどう考えているか、また、政府に対する規制緩和の必要性をどうお考えか。
(答)
ご指摘のとおり、改正貸金業法が来年6月に完全施行されるが、現在の経済環境の下で完全施行された場合、貸し手・借り手とも非常に苦しい状況に陥る可能性がある、という問題はあると思う。ただ忘れてはいけないのは、この貸金業法には、多重債務者問題を解消し、健全な貸金業界・消費者金融業界を作るという大きな題目がある。したがって、非常に価値のある法律だと思っている。ただ、この状況下でどうするか、貸金業協会から10月終わりに発表された総量規制の影響等々を見ると、総量規制に抵触すると思われる人は利用者の半分くらいおり、6月から施行されることを知らない人がその半分くらいいらっしゃる状況でもある。したがって、法律の附則に書いてあるとおり、最終そのまま施行してよいのかどうかについて、金融庁の副大臣以下のPTが貸し手・借り手からヒアリングをやっておられる最中である。それらの結果を踏まえて、適宜適切な対応策が出てくると思う。銀行業界としても協力できるところがあれば精一杯の協力はしていきたいと思っている。
(問)
今朝方、藤井財務大臣の会見で、日本航空の政府保証に絡む予算の措置がなされないかのような発言がされているが、現状をどのように見ているのか。政府側の動きとJALにおける年金投票の動きについて、銀行界としてどのように見ているか。もし最悪のシナリオとなると、銀行界としては今までの経緯から見ると納得がいかないことがあるのか、教えていただきたい。
(答)
私が外出する直前にインターネットでそういう情報が流れていたと記憶しているが、詳細内容を確認していないのでコメントが非常に難しい。ただ、ご指摘のご発言が正しいのであれば、非常に違和感のあるご発言、との印象を持っている。11月に関係5閣僚の確認書的なものが出され、内容は「検討する」という内容であったわけだが、それから1ヶ月位で、そうした発言があるのには違和感がある。いずれにせよ、企業再生支援機構、JAL、銀行団で様々な協議をしており、内容についてはコメントできないが、みんな全力でJAL再生のために努力しているところである。JALさん自身も、年金問題をはじめ、社長以下が全力で当たっておられるという印象が非常に強い。是非、企業再生支援機構を中心として、再生に向けた合意案を纏めあげていただきたい。