2010年4月15日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、自己資本規制についてである。お手許に資料をお配りしたとおり、昨年12月にバーゼル銀行監督委員会から公表された「銀行セクターの強靭性の強化」および「流動性リスク計測、基準、モニタリングのための国際的枠組み」の2つの市中協議文書に対して、当協会の意見書を、本日、スイスのバーゼル銀行監督委員会に提出した。内容の詳細について質問等があれば、後ほど、事務局までご照会いただきたい。
 2点目は、郵政改革についてである。郵政改革は、法制化の最終段階にある。このため、郵政事業の制度設計において留意されるべき事項等について、お手許の「郵政改革について」としてお配りしている。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

(問)
 永易会長、今日が最後の会見となると思うが、この1年を振り返って、お感じになったことや、まだ言い足りないこととかあればお願いしたい。
(答)
 それでは、この1年間の総括と、若干の感想を申しあげたいと思う。
 振り返ってみると、私が全銀協会長に就任した昨年4月は、戦後最悪とも言われた経済危機からの脱却に向けて、政・官・民の総力を挙げた取り組みが、まさに本格化しつつある時期であったと思う。
 これを受けて、私は、就任会見で、「21年度は、わが国経済にとって、危機脱却から成長軌道へと『流れを変える年』になろう」との認識をお示しし、銀行界としても、これに最大限貢献していくため、大きく2つの課題を掲げたわけである。
 第1の課題は、「当面の緊急対応を後押しするための資金供給の円滑化」であった。これまでも申しあげてきたとおり、資金の円滑な供給は、銀行にとって重要な社会的使命であるが、特にこの1年は、「100年に一度」と言われる深刻な危機からの脱却、経済活性化のために、「官と民の適切な役割分担のあり方」について、官と民とで共に知恵を絞り、協働した年であった。危機対応業務での公的金融機関による民間の補完はその好事例であったと思う。
 他方で「民が行うべきことは民で」との精神により、金融円滑化における民間の自主的、能動的な取り組みも強く求められた。昨年12月に施行された「中小企業等金融円滑化法」が、銀行に貸付条件変更等に関する努力義務を課したのも、銀行の自主性を重んじたためであったと理解している。
 第2の課題は、「わが国金融・資本市場の機能強化に向けた制度・インフラ整備」に対応する、ということであった。具体的には、「(i)商品・サービスの多様化に向けた態勢・インフラ整備」、「(ii)金融取引の安心・信頼の確保」、「(iii)新たな規制の枠組みづくりに向けたグローバルな対応」といった項目を挙げさせていただいた。
 いくつか例を挙げると、インフラ整備では、昨年7月に全銀協として電子債権記録機関の設立を正式に決定し、この6月には準備会社の「でんさいネット」を立ち上げる運びとなった。電子記録債権は、企業に新たな資金調達手段をもたらすことで一層の金融円滑化につながるものであり、今後の普及に期待を寄せているところである。
 「金融取引の安心・信頼の確保」では、2度にわたって振り込め詐欺防止啓発イベントを開催する等、金融犯罪の未然防止に向けて、さまざまな取り組みを行ったが、その過程では警察当局と緊密に連携させていただいた。
 また、今年度は1年を通じて、海外の金融危機の反省を踏まえ、新たな規制のあり方につきグローバルな議論が展開された年であった。特に、自己資本規制見直しの議論では、全銀協から、過度な規制が銀行の貸出余力や経済成長に及ぼす悪影響を訴える一方、金融当局・日銀からも、国際交渉の場で大変粘り強い働きかけを行っていただいた。こうした官民タッグの結果、足許の議論は、邦銀の意見も汲んだ形で、多少なりとも現実的な方向に変わりつつあると思う。
 一方、官のあり方、民との関係という点で重大な問題をはらんでいるのが、郵政改革の議論である。これについては、本日も会長コメントを発表しているので詳しくは申しあげないが、郵便貯金事業が完全民営化ではなく政府関与が残るならば、業務範囲は民間銀行よりも制限的・抑制的であるべきであるということは、重ねて申しあげておく。
 以上を踏まえて総括すると、21年度は、金融のあり方が改めて問われた1年だったと言えよう。米国を発端とする金融不安が世界経済の大混乱を招き、経済危機からの脱却においても金融機能の維持が求められたという事実は、金融が実体経済に及ぼす影響力の大きさ、金融の責任の重さを、改めて我々に示したものと言えよう。自己資本等を巡る一連の規制の議論も、まさに「金融のあるべき姿」を模索する過程と捉えることができると思う。それだけに、我々は、常に、金融が本来果たすべき使命は何かを自問しつつ活動していかなければならないし、金融のあり方が変わることによって実体経済をゆがめるようなことがあってはならないと考える次第である。
 22年度は、持ち直しに転じた経済の流れを確固たるものとし、再び成長軌道を歩むべき年であろうと思う。銀行界も、危機対応モードを脱し、本格的に前向きな成長戦略へと転換する、変革の時期を迎えつつあると思う。
 斯かる認識のもと、全銀協は、引き続き業界団体としてリーダーシップを発揮し、金融円滑化の徹底、顧客利便の向上と利用者の安心・安全の確保、金融・資本市場の機能強化に貢献していかねばならないと思う。と同時に、私ども三菱東京UFJ銀行も、一会員行として、これを全力で支えていきたいと考えている。


(問)
 足元の景況観について、日銀の3月短観でも少し上振れというか、判断前進があったし、今日もさくらレポートで少し良くなってきつつあるようなところが示されているが、会長がご覧になって景況感が、今と先行き、どのようにご覧になっているか教えてほしい。
(答)
 景況観、景気については、毎月述べているが、現状の景気というのは、持ち直しの動き、これを持続している状況かと思う。ポイントは、やはり海外景気と経済対策効果、これを背景として、今申しあげたような持ち直しの動きを続けているという認識である。日銀からも短観を始め、いろいろな資料が出ているが、それを見てもそのように実感しているということである。実際、大企業・製造業の景況観も、4期連続でベクトルが上を向いている。絶対水準はまだ低いが、改善が続いているということだと思う。また、10‐12月期の実質GDP成長率をみた時も思ったことだが、企業の設備投資、これが一つのキーワードである。そこで、これを今回の短観で見ると、設備投資計画は、まだ前年度比マイナス1.3%だけれども、この水準は、年度の期初計画としてはなかなかのものではないかと感じている。したがって、現在は持ち直しの動きを続けているという評価かと思う。
 ポイントは、4月以降どうなるのかというご質問かと思うが、この点については、やはり3月の会見でも申しあげたかと思うが、当面は回復のピッチが鈍化する、少し低下するということはやはり不可避であろうと思っている。やはり輸出というのは、常に伸び率が上がっていかないと成長率にはプラスに寄与しないが、伸び率がさらに高まっていくという状態ではない。これが一つ。それと、経済対策効果も時間の経過と共にその効き方、成長率の押し上げ効果はどうしても減殺してくるわけである。
 こうした外需や経済対策効果が効いている間に、本当は民需の本格的な自律回復がオーバーラップすると非常にいい形になるのであるが、肝心の民需が本格的自律回復というにはまだまだ弱いということがあるので、年度の前半、特にこの4-6月は、回復のピッチは鈍化するであろうと思っている次第である。
 しかしながら、以前の会見ではまだ二番底の危機がやはりあるということを申しあげたと思うが、景気の回復、ベクトルの方向、基調というものは、やはり良い方向に行っていると思う。したがって、二番底リスクは非常に軽減されているという状態かと思っている次第である。


(問)
 郵政改革の関係であるが、先だって、考え方を全銀協として示され、書面も出しているが、今日、改めてこういう1枚紙で郵政改革についてコメントをなさったその理由を教えていただきたい。
(答)
 お手元に、ペーパーが配布されていると思うが、郵政改革は、これから法案になっていくわけである。2月、「私どもの考え方」を出しているが、この法制化のタイミングで、現在の情勢を踏まえた意見発信が必要であろうということで、このペーパーを出させていただいた。少しだけコメントをさせていただくので、お手元「郵政改革について」をご覧いただきたい。
 第二パラグラフの最後、「こうしたなか、3月30日、政府が郵便貯金の預入限度額を現行1,000万円から2,000万円へ引き上げの方針を確認したことは、極めて遺憾」ということは、どうしても言いたい内容で、ここに述べさせていただいた。
 そのうえで、今後、法制化の最終段階になるので、これに対する私どもの要請という形で、お示しした5つを述べているわけである。
 「1」は、恒久的に政府関与の残る郵貯について、「新たに制定される法律の目的規定等において、『少額貯蓄手段の提供』、『民業の補完』の位置づけを明確化」してほしいということである。
 「2」の、預入限度額引上げについては、既に政府方針が発表されている一方で、「業務範囲の拡大」について、現在、議論されているものと認識している。これは容認できず、やはり原点にある「公正な競争条件の確保」および「官業は民業の補完に徹する」という観点から制限・規制をかけなければならない、法制化に向けてそうしていただきたいということを述べている。
 「3」はリスク遮断に関してなので省略させていただいて、「4」は、「仮に」業務範囲の拡大を検討する場合でも、「届出」制のもとではなく、これまでの郵政民営化委員会の枠組み同様、第三者機関による意見を聞いたうえで、内閣総理大臣および総務大臣による、「認可」制にしていただきたいということを述べている。
 その後、「5」については、第三者機関は定期的にチェックしてほしいということである。郵貯の業務範囲について、フリーハンドを持たせる「届出」制はやめていただきたい。常に第三者機関にチェックしていただきたい。預金動向等がチェックできる枠組みにしてもらいたい、ということである。
 これらが現時点での我々の希望で、特に「4」「5」を付加しているということである。私どもの郵政改革に関する考え方というのは、従来より不変である。ただ、現時点で「4」「5」は、少なくとも確保していただきたいという要請である。こうしたことを是非言っておきたい、申し述べておきたいという気持ちで、今回リリースさせていただいた。


(問)
 マーケットで人民元の切り上げについてかなり観測が高まっていると思うが、その場合、円高圧力というのはどのくらい進むか、円高が進んだ場合、日本の景気と企業の活動にどのような影響を与えるのかをお聞かせいただきたい。
(答)
 人民元の切り上げに関しては、多くの報道がなされている。ガイトナー財務長官が北京に行かれたり、核サミットでもそれがテーマになったりということで、ある面では当然の報道だと思うが、この種の問題について全銀協会長としてコメントするのはいかがなものか。中国当局も自主的に判断すると強調されているので、コメントは差し控えさせていただきたいと思う。ただ、ご質問の後段の影響という点について、仮定の議論はなかなか言ってはいけないが、大幅な切り上げが行われて、それにつれて円やアジア通貨が上昇するということを言われていると思うが、少なくともそのような大幅な引き上げにはならないと思う。非常に小さな、数十ベーシス程度の引き上げとすれば、日本経済にとっても為替にとってもそう影響は大きいものではないだろうと思っている。


(問)
 先ほど永易会長が1年の総括をおっしゃったが、次期会長に期待すること、永易会長の時に結果が出なかったことで、郵政改革もその1つだと思うが、次期会長に期待することは何か。
(答)
 宿題をお持ちいただくことになってしまうのであまり言えないが、私の時代で全部終わったという項目は、いま申しあげたとおり、ほぼない。IFRSの問題にしろ、自己資本比率規制にしろ、郵政の問題にしろ、すべてそうである。我々は1年の任期で会長をバトンタッチするが、世の中の動きはそこで切れないのでどうしても引き継ぐことになってしまうが、ぜひ継続して、全銀協としてフォローしてもらいたいと思う。私も全力でやったが、奥頭取も全力でやられると思う。我々三菱東京UFJ銀行も一会員行として全面的にサポートしていくことになると思う。


(問)
 2点お伺いしたい。
 1点目は、先ほど1年間を振り返ってということで、今年度は持ち直しから再び成長軌道の年ということだったが、これに合わせて金融危機を受けて今後のあり方を考えるというお言葉もあったが、景気の再びの成長軌道に向けてどんなことを金融業界として取組んでいくべきか、改めてお伺いしたい。
 2点目は、郵政の話に戻るが、ペーパーの「4」、「5」のところ、特に預入限度額のあり方を図るために第三者機関をきちんとということだが、これについて、政府でも第三者機関の設置を検討などと言っているが、銀行業界としては第三者機関の設立も含めてどういった制度設計をしていくべきか、どのように意見表明にかかわっていかれるかお伺いしたい。
(答)
 第三者機関に関するご質問から申しあげると、このキーワードは、第三者機関も重要だが、「届出」制ではなく、「認可」制であるというところにある。郵貯の業務範囲につき、「認可」制を前提で議論をするのと、「届出」制で議論をするのは全く違うと思う。第三者機関で検討された意見・結論を尊重して、内閣総理大臣、総務大臣が業務範囲等を決めるわけなので、メンバー構成も大変重要だと思う。有識者を中心とした利害関係のない中立的な委員に真剣に検討していただき、それで結論を出してもらうというところがポイントだと思う。
 第三者機関を設置したとしても、「届出」制のうえでの第三者機関だと、全く色彩は変わると思う。無いよりあるほうがいいに決まっているが、我々の主張としては、「認可」制を前提とした第三者機関ということである。
 1点目の銀行界としての成長路線についてだが、やや私の気持ちが先走ったような表現になったかと思う。ただ、常に企業、銀行界とも色々なものを追いかけている、構造改革ばかりやっているということでは、将来の展望はない。一方でやるべき時には後ろ向きなことも当然やる、ただ、大きい流れ、潮目が変わってくる段階では、成長路線の方の検討もしなければならない。それが企業であろうと、銀行界であろうと、あるいは個人の世界でもそういうことが言えると思う。そういう意味のことを申しあげたわけで、具体的に銀行界として何かを大きく意識しているわけではない。ただ先ほど申しあげたなかで、一番期待されるのは電子債権記録機関である。これはぜひ早く作りあげてほしい。中小企業金融に非常に役立つし、企業の事務効率化にも非常に効果がある。そのようなメリットをもたらす金融サービスの多様化である。昔は商業手形割引が銀行貸出の3~4割を占めた時代もあったが、これに代替できるくらいの可能性のあるものだから、早くできて大きく育ってほしいという気持ちは非常に強い。それと、今年度積み残した色々な課題を早く片付けて、前向きな施策―具体的には申しあげられないが―、そういう方向に向かってほしいという気持ちをこめて申しあげたということである。


(問)
 1年を振り返ると、大手銀行が相次いで実施した巨額増資があったが、これについて金融システムにどういう影響を与えたのかという評価をいただきたい。
 また、各銀行が軒並み実施した巨額増資に見合うビジネス展開ができているのかどうか、評価をいただきたい。
(答)
 なかなか難しい質問だが、確かにメガバンクが、この2年間ぐらいにわたって巨額の増資をやってきたことは事実である。特に後半の増資は額も大きかった。これは個別行になってしまうが、何のために増資をするのかというと、銀行の社会的使命の原点である円滑な資金供給のためである。コマーシャルバンクとしては間接金融、金融仲介機能をきちんと果たさないといけないということが原点にある。これを果たすための必要条件である。
 昨今の自己資本比率規制の問題の議論は、まだ決着はついていないが、これをクリアするためにはどうしても増資が必要という判断があるわけだが、本当の社会的使命を果たすためにはどうしてもコアTier1を増強していく必要があるから増資をした。その結果、現在の状況としては、全体的には非常に落ち着いてきている。
 要するに、資本がないから貸出ができないとは思われていないと思う。そういう安心・安全感を与えるのも我々の使命の1つと思っているので、増資にも意義があったのではないかと考える。まだ自己資本比率規制の問題は決着がついていないので、少なくともただいま現在はそう思う、ということである。
 2番目の質問、資本を使うのであれば新しいビジネス展開があって当然ということであるが、それは当然だと思う。せっかく増資をして資本が増強されたので、それを使って新しいビジネスにトライするというのは、当然のことながら考えているが、これは個別論に関わるので、具体的なことは申しあげるわけにはいかない。ただ、先ほど申しあげたように、規制が強化された場合でも我々の社会的使命としての金融の円滑化がきちんとできていて、そのうえで余っている資本があればそういうものに使っていくということである。今期からすぐに走る、こういうものをやっていく、というかたちではお答えしかねるというのが現在の率直な気持ちである。ただ、頭ではいろいろなことは考えている。


(問)
 郵政民営化に絡んでであるが、亀井大臣等より預金保険料の引下げ案も出ているが、それについての所見を伺いたい。
(答)
 私がダイレクトに聞いたわけではないが、郵貯の預入限度額引上げと併せて、いわゆるペイオフ限度額というか、預金保険の限度額を引き上げ、一方で保険料を引き下げるというような報道がされているということは承知している。ただ、この2つの議論、すなわち預金保険制度のあり方、どうあるべきかという問題と、郵貯の限度額の問題というのはまったく関係ないもので、これらは分けて考えるべきであると思う。
 預金保険制度は、昭和46年にできたもので、本来の目的は、金融システム全体としての信用秩序の維持を守るという役割にある。例えば、保険限度額が高ければ高いほどいいのか、―1,000万円が2,000万円、2,000万円が3,000万円―、それはそうとはいえない。コストがかかるだけでなく、様々な効率性の問題もでてくる思う。では、それは低いのが良いかというと、微妙なバランスがあり、限度額は、様々な及ぼす影響度をトータルで慎重に議論して、これまでも決定したものと思うし、もし変えるのであれば、相当の議論を慎重に積み重ねたうえで判断しなければならないと思う。ちょっとお調べいただければわかるが、1,000万円という数字は国際的に見ても非常にいいバランスにある。非常にリーズナブルなゾーンに入っている。我が国の個人の一人当たりの貯蓄額は、2月の提言書にも記したが、300万円くらいである。そうすると、この1,000万円を今すぐに引き上げる必要があるのかというと、私個人としては引き上げる必要はないのでは、とお答えするしかない。ただそれは申しあげたとおり、非常に慎重な検討を、様々な影響度を考えてやるべきであると思う。
 もう一つは、保険料の問題である。この保険料についても、法律の規定に沿って議論すべきは議論し、変えるべきは変えるということになると思う。もともと保険料というのはどんなふうにして決まっているのか。従来は0.012%であったものが、平成8年度、一気に7倍に引上げられたわけである。0.084%。これが現在の保険料率である。なぜそうなったのかというと、預金保険機構は信用秩序の維持、金融システムを守るためにあることに由来している。その頃は、金融システムを再構築するために、資金援助が非常に多かった時期である。預金保険機構の最後の収支尻は、その責任準備金に表れてくるが、これが巨額のマイナスを抱えてしまったわけである。したがってそれを埋めるために、保険料を上げねばならないといけないということで、7倍に一気に上げられたわけである。それから10年以上かかって、本年度末にはそれがプラスになる見込みである。漸くこのタイミングまで来たということなので、来年度になれば、どれだけの保険料にすれば良いのかという議論は当然に出てくるのではないかと思う。
 ただ、郵貯問題の議論とはまったく別に、そういう見直しの時期がおそらく来るのであろうと考えている。再度結論を申しあげると、預金保険制度のあり方と郵貯問題はまったく別物であるということである。


(問)
 郵政改革について2点お伺いしたい。1点目は、本日、発表された「郵政改革について」のコメントの第5番目の要望である「預入限度額のあり方を計るためにチェックできる枠組みを構築すること」という解釈の仕方についてであるが、2,000万円に預入限度額が引き上げられることを前提とした話か、それとも今までどおり1,000万円でも限度額のあり方を計るための枠組みが必要であるということなのか、教えていただきたい。2点目は、このコメントにも書かれているが、金融セクターのなかでの平等、不平等という議論はよく理解できるが、日本郵政がこのように大きく転換されてしまうことが、国民経済的にあるいはマクロ経済的に、あるいは金融システム上、どういうリスクをもたらすのか、例えば昔であれば、金融の二元論というのがあって、郵貯が公定歩合の操作にも関与し、公定歩合の操作が自由に出来なかった時代もあった。そういうことも含めて、今、永易会長は、どこまでのリスクを頭に描いているのかお聞かせいただきたい。
(答)
 前半の質問については、預入限度額が2,000万円でも1,000万円でも、両方対象になる。我々は、このような改革の方向性であれば、預入限度額の引下げを検討すべきと主張している。引下げたときにおいても、どのようになったのかということもよく検証する必要があるということである。したがって両方対象になる。2,000万円だけを想定しているわけではない。
 2番目の質問は大きな問題であり、これは2月公表の、「私どもの考え方」にも縷々説明している。言えばキリがないぐらいの大きい問題である。金融システムにとっても、日本経済にとっても非常に大きい影響を与える可能性がある。
 過去、郵貯の存在は、まさに財政政策にも金融政策にも非常に大きい影響を与えてきたと思う。財政については、郵貯資金が預託金を通じて公的部門に資金還流していたものが、国債への投資に変わってきている。金融については、あれだけ巨大な郵貯があると金融政策が非常に効きにくくなる。更に、郵貯と政策金融機関が、結びつくとますます効きにくいことになる。そういう現象を日本国は、ずっと経験してきた。
 郵貯は、民営化が進められる中で段々と残高が減ってきて、こうした影響も段々小さくなってくるという過程にあった。250兆円を超える資金が170兆円になったことから、影響度はあるが小さくなるという過程であった。ところが限度額を引上げて、残高を拡大しようということになると、財政政策にも金融政策にも、より影響を与えることになると思う。郵貯問題は、こうした大きな影響を及ぼす、国民経済的議論をすべき内容を、内在している案件だということである。これらは、「私どもの考え方」にも縷々述べてあるのでご参照いただきたい。


(問)
 この1年間の間で、JALの経営破たんという大きな事象があった。これに関して伺いたい。先月末に、企業再生支援機構に対してメガバンク3行が債権の買取を申込み、JALから手を引くのではないかという観測が一時流れた。JALの再生が難しいと判断したからなのか、JALの再建計画が黒字回復をしていく見込みがあるのか、会長はどのようにご覧になっているのか。
(答)
 JALの問題は個別問題であるので、従来から、基本的にコメントを申しあげられないと言ってきた。ただ、一般論としてのコメントを述べさせていただいてきたつもりである。
 最初の買取については、まさに個別問題であるので、コメントは差し控えたい。後半の問題、すなわちJALが再生できるかどうかについては、現在、更生計画を、JALが主体となり、企業再生支援機構、政府も関わって作ろうとしている最中である。現時点で再生可能かどうかというのではなく、再生が可能になるような計画を策定しているところと思う。6月に更生計画を提出するタイムスケジュールに載っており、現在はそれに向けた積み上げの最中と認識している。
 昨年11月くらいに一般論として申しあげたとおり、金融機関側が更生会社をどう見るかということについては、更生計画を本当に実現できるのか、「実抜計画」というが、これが本当に抜本的なものであって、実行すれば収益をキチンとあげられる会社に出来る限り早期になれるのか、検証をするわけである。そうした計画がない限り金融機関は追加支援はできない、というのが一般論である。したがって、今回、策定の最中にあるJALの更生計画をよく見させていただくことになる。我々の審査基準から言って、それが審査に是非耐えうるものにしていただきたいと思っている。


(問)
 最後に一言お願いしたい。
(答)
 一言御礼を申しあげる。この1年間、全銀協の会長を務めるにあたり、ここにお集まりのみなさまをはじめ、全銀協職員のみなさま、関係者のみなさまに、大変お世話になり、ご指導ご協力をいただいた。あらためて厚く御礼申しあげる。来週からは、三井住友銀行の奥頭取が会長に就任される。皆さま、よくご存知のとおり、奥頭取は大変高いご見識と、卓越したリーダーシップをお持ちであり、また2度目の会長ご就任とのことで、経験も大変豊富な方である。必ずや銀行界を力強くリードしていただけるものと確信している。奥新会長への一層のご支援をお願い申しあげ、私の最後のご挨拶とさせていただく。大変有り難うございました。