2010年5月25日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、電子債権記録機関「でんさいネット」の準備会社設立についてである。本日、開催した総会において、お手許の資料のとおり、電子債権記録機関の準備会社として、「株式会社 全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)」を6月8日に設立することを決定した。
 新会社は、1,300を超える全国の参加金融機関と連携して、平成24年5月の開業を目指している。
 2点目は、「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」の実施についてである。本日開催の理事会において、お手許の資料のとおり、6月15日から7月14日までの1ヵ月間を「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」とし、振り込め詐欺被害防止のための啓発イベントの開催や、口座売買禁止の呼びかけを行うこととする。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 前期決算の銀行業界全体の総括、金融危機の影響をどの程度払拭できたと考えているのか評価をお聞かせいただきたい。
(答)
 銀行の前年度決算については、全銀協においてとりまとめ中であり、詳細な分析ができているわけではないが、振り返ってみると、昨年の1-3月はリーマン・ショックの尾を引いて実体経済が大幅に落ち込んだ時期である。確か、GDPベースで-15.9%という記録的で大幅な落ち込みをしたときである。それから、実体経済の回復の道を探りながらやってきた。また、政府がいろいろな景気刺激策をパッケージで打ち出して、その効果が年の後半になってでてきた。
 2008年度の決算は、株価の大幅な下落による株式関係の償却、不良債権額の増加等が重なり、赤字決算に陥る銀行が多かったと記憶している。そこからの回復ということで、この2つの面からみるとかなり回復してきた。不良債権処理額が減ったということと、有価証券の償却が減ったということである。
 一方で、業務粗利益というか、トップラインの収入が増えてきたかというと必ずしもそうではない。銀行の粗利のかなりの部分を占める貸金の収益については、伸び悩むというか、貸金自体は前年度も減ってきているわけでトップラインの右肩上がりというのは、実現できなかったということで課題を残した。
 繰り返しになるが、先ほど申しあげた2つの大きなマイナス要因が縮小されたことによって、黒字決算する銀行が増えたということだと思う。

 先行きについて、銀行の収益の見通しについては、必ずしも見方が一本でまとまっているわけではない。不良債権の額についても今年の先行きがどうなるかは見方が分かれるところである。また、株式相場についても足元落ち込んでいることもあり、なかなか一筋縄ではいかないと思っている。しかし、こういうなかではあるが、今年度においても銀行の与えられた使命、金融仲介の義務をしっかり果たしていく、金融の円滑化をしっかりと果たしていく、そういうことをベースにして、収益力の強化を目指していくことに変わりはないということだと思う。


(問)
 ギリシャ財政危機であるとか、北朝鮮の地政学リスクなどもあるが、国内外の経済の見通しについて、どのような見解であるのかお聞かせいただきたい。
(答)
 不透明・不確実・不安定な状況が世界を覆っているという感じがする。ギリシャ問題に端を発したユーロ・マーケットでの金融の不安定化、また、北朝鮮を中心としたいわゆる地政学的な問題の顕現化など、いろいろあるので、こういう状況は経済にマイナスの影響を与えることは間違いない。
 ギリシャに端を発したヨーロッパの問題、南欧等4ヵ国の問題については、EUの理事会、そしてIMFが共同して7,500億ユーロの緊急融資枠を設定した。今後、各国の政府がこれを承認するという手続きに入るが、これによって当面考えられる手は打たれた。こうした短期的な対策は打てており、それによって市場も一定期間安定する。この間に各国は、財政再建の道筋について、かなり困難な難しい道であるが、しっかりと市場に示していく必要があると考えている。
 ユーロの問題、EUの問題、そして金融規制の強化という問題、それらに端を発するユーロ安、逆に言うとユーロの独歩安であるが、それに対する日本であれば円高の問題などがあり、経済的にもいろいろとマイナスの要因として漂っているのが現状ではないかと思う。
 ただ、国内の今の足元の経済だけを見ると、堅調なアジア向けの輸出を中心として経済を引っ張っており、加えていろいろな経済刺激策としてのパッケージが引続き効果がある。ただ、輸出・消費の両面で経済を引っ張っているが、今後アジア、特に中国の金融引き締めの問題やそれから経済刺激策のパッケージの期限切れなどマイナス要因もあるので、よく見ていかなければならないと思う。足元の1-3月期の経済の動向を見るとGDPが前期比年率で実質4.9%、名目でも同じくらいだということで、経済の回復という意味では一応、堅調な回復に向けた動きへの初段階、ファーストステージ的なところにいるのではないかと見ている。
 しかし、いろいろなグローバルな不確定要因がどういう風に影響を及ぼしていくか、なかなか今の段階では見極めがたいというのが現状であると思う。


(問)
 日銀が新しい貸出制度の素案を発表したが、これに対する基本的な評価をお聞かせいただきたい。
(答)
 新しい貸出制度、いわゆる成長産業への貸出制度というものが発表されたが、産業別の貸出制度の創設というのは、日銀としては初めてというか、かなり思い切った手を打ってこられたと思う。従来から日本はデフレの状況にあり、デフレ・ギャップが存在するなかで、どのようにデフレを克服していったらいいか政府でも議論されている。また、それを金融面でもどのようにアシストしていったらいいか、どのようにリードしていくかということも日銀の頭にはあると思う。
 デフレの問題は非常に根が深く、金融の問題だけで解決できるかというと、なかなかそうでもない。やはり、日本の経済自体がどのように回復していくか、そのためには成長戦略というものが非常に重要になってくる。そのなかで、日銀としてもそういう制度をもって、成長への支援というか役割を担っていくということでは、気持ちとしては、非常によく理解できるものである。
 そこで我々が、これをどのように使っていくかについては、これからの日銀と金融界との実務的な協議になっていくと思う。現段階で細かいことは言えないが、政策金利で1年という低金利で貸し出してロールオーバー可能だということは、非常に魅力のある制度であると思う。ただ、実務的に言うと、何が成長産業なのか、どのように貸し出していくのか、仕切りや定義になると難しさも伴う。これを実務的にひとつひとつこなしてやっていかなくてはならない。
 個別行として考えると、やはり我々自身も本来、今までもそういう成長産業に向けて、いろいろな機会を捉えて金融面での支援をしてきているし、そういう成長産業を育てていくことに腐心してきている。大きなプロジェクトから個別の企業の小さな案件までいろいろあるが、これらに対して、どのように日銀の制度を使っていくのか、これからの設計にしっかりと噛み込んで、日銀の目指すところに、我々も協力していきたいと思っている。


(問)
 関連した質問だが、0.1%で1年というのは確かに魅力的ではあるが、今の金利情勢からすると、金融機関は資金余剰で、安い金利でたくさんの資金を調達できるという環境のなか、どれくらいのプラスの効果があるのか。
 お聞きしたいのは、成長分野というものがあるならば、日銀に何も言われなくても、皆さん積極的に貸出をしていると思われるので、この制度ができることによって、そういった分野に貸出が増えるということがあるのか。
(答)
 それは設計次第である。貸出が増えるというか、すでにあるものにそういうものを適用することによって、借入人自体の金利負担が、例えば0.1%という低金利で長期の貸金をできるのであれば負担が減るわけであるから、そういった意味で借入人にとっては有利であるので、需要が出てこないとも限らない。
 ただ今回の成長戦略というのは、いろいろなものをこれから作っていきましょう、プロジェクトを作りましょうという話である。今まであるものよりも、これから需要そのものを作っていきましょうということである。そういう意味では時間はもしかしたらかかるかもしれない。しかし、こういう制度が出来るということ自体はプラスになるだろうと思う。


(問)
 マーケットを見ると、ユーロ安であり、ドルに対しても高くなっている。もうひとつ深刻なのが、株安がかなり急ピッチで進んでいる。これらに対する会長のご感想、影響や見通しについてお聞かせいただきたい。
(答)
 それだけ不安やネガティブな要因がマーケットにあるということだと思う。1つ目がまさにギリシャの問題に端を発したユーロ安の問題、2つ目に、よく解説されているが、金融規制が強化されることになると、お金の血流というものがかなり閉ざされるのではないか。
 例えばギリシャ問題に端を発したユーロの問題というのは、すでに、信用創造という意味では、インターバンクのマーケットの金利がじわじわと上がってきている。何となく不安を持っているから、銀行間でありながらも、そういう状況が出てきている。リーマン・ショックのときは、一挙に金利が上がったのだが、今回はじわじわとヨーロッパの中で上がってきている。こういうことが、グローバル化の中で、他のマーケットに波及しないかという不安が1つ目。
 2つ目が、金融規制によって、動向が不安視されているという点。米国における金融規制改革法案が、昨年、下院で可決され、今般、上院で修正案が可決された。これから両院の協議に入っていく、ということであるが、そういうものを含めて、動向を不安視するということがある。そういうものが市場への悪影響を起こさないか、実体経済に影響を起こさないのか、そういうようなことが2つ目。
 それからやはり、成長を続けているエマージングマーケットもいろいろな意味で、本当に安定した成長と言い切れるのかという不安感がある。特に輸出依存型、すなわち輸出が経済を引っ張っている日本の場合には、この不安が拡大したことから、日本の株価も下がっているのではないかと思う。
 1日も早くそういった不安感が除去されていく、先ほど申しあげた地政学的な理由もひとつの理由かもしれないが、そういったものが早く取り除かれることが大変大事ではないかと思う。


(問)
 先ほど会長がおっしゃられた規制の話だが、米国で今後両院一本化して通す・通さないということになると思うが、欧米でのヘッジファンド等への金融規制に対して、業務縮小を余儀なくされる金融機関もたくさん出てくると思われるが、そのあたりのところをどうお考えか。
 また、日本の金融機関への影響、少なくとも株には重しになっていると思うが、それ以外での影響をどのように見ているか。
(答)
 一言ではなかなか言い切れない部分がある。米国の上院の案も良い部分と心配な部分と両方ある。監督規制当局をシンプルにしていくという考え方はよくわかるが、例えばボルカー・プランが上院の案に入っているということがどうなのか、非常に急ブレーキをかけているような感じがする。それから欧州でもいろいろあるが、どれが確定的な案なのか我々もよく分からないところがあり、そのあたりはよくリサーチをかけないといけないと思っている。
 ただ、今のところは、まだ議論が続いているということなので、両院協議が続くなかで、米国の法案については、やはり現実的なもの、よりプラクティカルなものになっていくのではないかと望んでいる。それから、バーゼルで協議されていることとの関連も含めて、規制が多層にわたっている気がしている。米国ではバーゼルIIがまだ入っていないなかで、新たにバーゼルIIIというか、新バーゼルの議論に入ってしまっており、一体どうなっているのか、どういうふうに道筋をつけていくのかよく見えないので、なかなかこちらもうまく語ることが難しい状況にある。


(問)
 日本の金融機関への影響はどうか。
(答)
 いま、いろいろ議論がG20から始まり、Financial Stability Board(FSB)で議論するというような話になっているので、日本も巻き込まれないとは限らないが、日本の現在に至る過程において、つまり、失われた10年・15年の中で、いわゆるシステミック・リスクを経験してきて、それに対する対応はかなりできてきている。逆にそういうものを、今、欧米の当局も非常によく勉強してきているのではないかと思う。そういった意味では、我々が同じ土俵で、また同じように巻き込まれるというのはちょっと違うのではないか、という気持ちが非常に強い。
 したがって、それぞれの国のシステム・制度・監督の仕組み、そういったものを尊重しながらこういう議論をしていくべきであり、自分の国の制度がいいから、それをグローバルという名前で統一して押し付けてこようということであれば、我々はいろいろと発言していかないといけないと思う。おそらく当局もそういうふうに考えていただいているのではないかと期待している。


(問)
 2点質問がある。最初は、財政規律の問題だが、政府の来年度の国債発行額が今年度と同じくらいの44.3兆円程度と言っている一方で、今国会での財政健全化法の提出が見送られるような見通しで、財政規律に対する懸念が出てきていると思う。そこで国債の最大の投資家である銀行界の見解をお聞かせいただきたい。
 もう一点が、今年度以降の各銀行の成長戦略の一つとしてアジアでの成長が一つの軸になると思うが、日本の銀行がアジアで既に展開している欧米列強と比べて優位に立てるところ、もしくは現在劣後しているところがどのような部分であるか、お聞かせいただきたい。
(答)
 日本の財政というものは、ご承知のとおりであり、幸い日本国内におけるファイナンスというものは、今のところうまく回っている。そういう意味であまり心配はないが、やはりいろいろな面から見てこの財政の問題というものは早く健全化の道を示さないといけないと思う。ただ、現実に税収が非常に落ち込んでいて、高齢化の中での社会保障費の支出とか、景気刺激策とか、いろいろなものがあるので、そのバランスをどのようにするかという意味では非常に難しい時期だと思う。
 したがって、いろいろな意見が出てくると思うが、大筋で言えば44兆円が良いかどうかは別としても、早く財政再建について一定の道筋を早く議論して示す必要があることは事実だと思っている。銀行が国債を多く買っていることについて、リスクを内包しているのではないかということについては、ある意味ではリスクを取っているかもしれないが、リスク管理というものをきっちりとやることによって取れるリスクはとっているということが現状だと思う。

 それから、成長戦略について、アジアがどうしても浮かびあがってくるが、その背景には、やはり、国内経済の先行きについてどう見ていくかということがある。すなわち、銀行が成長を遂げていこうとするなか、例えば、潜在成長率が2%前後で、少子高齢化が進んでいるという状況において、どのようなモデルを描いていくかということになると、なかなかきれいな絵は描けず、非常に厳しい状況になる。
 こうしたなか、日本全体のことにも関係してくるが、成長をどのように実現していくかということになると、すぐ隣に、アジアという現在成長している地域があり、銀行も日本の事業会社と同じように、そこにどのように取り組んでいくかを考えている。ただし、戦略は、それぞれによって違うと思う。皆が、アジアと言っているが、その中身は、戦略と戦術と時間差という点での差別化というものをかなり皆さん持っていると思う。
 我々自身、個別行としても、そのようななかで、アジアの成長をどのように取り込んでいくかということについて、いろいろと考えて、今までもやってきているし、これからも実行していくつもりである。


(問)
 1点お尋ねしたい。亀井大臣が、郵政の議論の文脈の中で、銀行が法人税を払っていないことと、社会的責任を関連付けた発言を繰り返しているが、会長としてのご意見があればお伺いしたい。
(答)
 銀行批判するときにいつもこの話が出てくるが、我々はイレギュラーなことをしているのではなく、ルールに則ってやっている。結果として法人税を払えていないことは事実であるが、なぜ法人税が払えなくなったかといえば、やはり日本のバブル経済の崩壊とともに、アセットの質が低下したことから生じてきたものである。すなわち、不良債権処理、それから株の減損処理、そういったものから積み上がってきたものである。それを税のルールに則して処理した結果、現在、法人税を払えていないという事実があると思う。
 したがって、先ほども申しあげたように、よく政治家の先生方は銀行批判の時はそうおっしゃるし、かつては東京都の石原知事もそういうことをおっしゃられたこともあるが、ルールに則ってやっていることは理解して欲しい。ルールに則した結果としてそうなっていることは、我々としても残念なことだと思っている。しかし、一日も早く、私企業として、また社会を構成するひとつの存在として、法人税を払っていきたいと考え、努力をしているところである。
 我々としては、ここ3年くらいの間に法人税を払えるようにしたい。過去のいろいろなものの積み上がりの結果であり、なかなかすぐにというわけにはいかないが、そういうふうにしていきたいと考えている。


(問)
 JALの件で、更生計画がかなり遅れているような印象があるが、融資をされている金融機関の立場から感想・所見をいただきたい。
(答)
 JALの件について、今、機構がいろいろと調査し再建案を作っている時だから、私どもというか個別行としては、今それに対して何か言う立場にない。ただ遅れておられるということなので、いざ入ってみるとやはりいろいろと大変なんだなという感じを持っている。途中経過についてもよく意見交換しながら、見ていきたいと考えている。


(問)
 郵政改革法案で伺いたい。前回20日、他の団体と一緒に声明を出されたが、ここにきて与党幹事長から今国会審議中に法案を成立させるというような話も出ている。銀行協会、銀行団体側からの意見・考えが向こうに果たして伝わっているのかと思うが、今後さらに次のステップとしてどういうふうに働きかけをしようと思っているのか教えていただきたい。
(答)
 私どもが前回20日に実施したのは、その2日前に本会議で趣旨説明がなされ、いよいよ審議入りという段階にあることを踏まえ、これがいわばラストチャンスとして、共同声明を出し、陳情あるいは説明をしたわけである。それまでも、いろいろな働きかけをしてきたし、全銀協としても与党の委員会にも出て、いろいろと主張も説明もしてきた。
 したがって私どもとしては、今のところやることはやったと考えている。今後、委員会から参考人という要請があれば出て行くことになると思うが、国会の議事運営の問題について我々が立ち入るところではないので、今のところ動きを静観していくということになると思う。