2010年7月20日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、「中小企業等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を取りまとめた。
 中小企業・個人のお客さまに対する金融の円滑化において、一層の創意工夫、質の高い金融商品・サービスの提供を通じて、国民経済の健全な発展に貢献する視点から、銀行界の総意として共有すべき理念を、全部で5項目からなる「行動指針」として制定した。
 事務局からの報告は以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 与党は消費税の増税に言及しながら選挙戦に臨んだわけだが、結果は過半数割れとなった。まずは、この選挙結果についてどのように受け止めているのか、ご所見を伺いたい。
(答)
 今回の選挙は、民主党が政権を取ってから9ヶ月間の評価を受けた選挙だというふうに考えている。その間、カネの問題、普天間の迷走、強行採決などの議会運営における一種の規律の揺らぎ、最後に、正論ではあるがやや唐突感があるかたちで出てきた消費税の問題などがいろいろと重なり合ったということ、これが国民の今回の厳しい評価に繋がったということではないかと思う。一方で、2007年にねじれ国会になったときも、衆議院で(自民党が)多数を取った一方で、参議院では大変厳しい、逆のかたちとなったように、ある意味で国民がバランスを取ったというような結果ではないかと思っている。
 ねじれ現象というものは、甚だ議会運営上は難しいわけだが、それだけに国会において、与野党の十分な議論が、それぞれの課題についてなされ、議論を通じて、国民に説明責任を果たしていくのが一番大事ではないかと思う。日本が解決すべき課題というものははっきりしているわけで、菅政権のもとで、いろいろと具体的な対策を打ち出してきている。そういうものを十分議論し、そして国民に納得してもらうようなかたちで発信していくということは、少々時間がかかるかもしれない。スピード感が求められる時代ではあるが、逆に国民の納得を得るということを中心に議会運営がなされていくということが大事ではないかというふうに思う。
 比例区の投票数を見ると、民主党が1,850万票近く取って、自民党に450万票くらいの差をつけているわけなので、政党という意味では、引続き、菅政権は信任されているというふうに解釈もできる。毎年、総理大臣が代わるというようなことは、もうピリオドを打って、腰を据えて日本の抱えている問題を議論し、検討を深め、より具体的なかたちにして、そして解決をしていく、行動していくことが求められているのではないかと思う。


(問)
 前回の国会でねじれているなかで、例えば日銀の総裁がなかなか決まらなかったというのが、記憶に新しい。再びねじれ現象が起きてしまったわけだが、郵政法案などの重要政策についてはどのように議論が推移されそうか、そのあたりの見通しを教えていただきたい。
(答)
 郵政法案についても議論を深めていくということが大事だと思うが、郵政の改革法案についていろいろと申しあげてきた立場からすると、少し独断と偏見が入ってしまうかもしれないが、今回の選挙結果では、国民新党が7名候補者を立てられて、当選はなかった。既存の3議席も失われたという事実からすれば、やはり郵政改革法案が一つの争点であったというふうに解釈できないわけでもないのではないか。これは、共同声明を出している全銀協からすれば、そういう解釈も成り立ち得ると考えるということであって、そうだというふうに申しあげているわけではないが、そういった事実を踏まえて、今後の国会において議論を深めていただければと思う。
 今後、秋の臨時国会において、(郵政法案を)最優先課題としてこれを審議するということ、廃案になったけれども原案どおり提出するということが、民主党と国民新党の間の合意とされている。しかし、今回の選挙結果を踏まえて、その対応について我々が従来から主張しているような線へ戻していただくということを我々としては引き続き求めていきたいと思っている。


(問)
 日銀が先週開いた政策決定会合で展望レポートの中間評価を実施している。今年度の成長率に関しては、2.6%に上方修正し、来年度は1.9%という見通しを出しているが、マクロ景気の現状認識はいかがか。
(答)
 マクロ景気の判断は、先月に申しあげた内容と基本的には変わっていないと思う。アジアの成長に牽引された外需が日本の景気を引っ張り、次第に良くなってきている。日銀の短観の企業の業況判断DIを見ても、しっかりと改善してきている。外需というと、大企業・製造業中心ではあるが、製造業の皆さんに聞いても、リーマン・ショック前のピークまではいかないけれども、8割から9割くらいになってきているのではないか、とのことである。それから、年間の収益見通しを聞いてみても、回復ぶりを示す感じであるので、私は、緩やかであるが景気回復の初期段階が続いている、と思っている。いろいろとリスクファクターは当然あるが、そういわれながらも、1~3月、そして4~6月と成長を続けてきているので、しばらくこういったゆっくりとした緩慢な成長が続くのではないかと見ている。


(問)
 会長が先日、フィナンシャルタイムズにも寄稿されていたが、バーゼルの協議案が先週末発表され、それと同じ時期にアメリカでも米国の規制強化法案というのが成立に向かって署名された。会長は、行き過ぎた規制は弊害があると寄稿にも書いていらっしゃったが、これらの規制の導入ということについて、改めて見解をお聞かせ願いたい。
(答)
 私はコマーシャルバンクとして考えた場合に、ごく当たり前のことをフィナンシャルタイムズに寄稿したまでである。おそらく内外の多くの銀行はそのように考えているのではないかと思う。ただ、リーマン・ショック後に金融危機が起きたことは事実であり、そういうものを反省して、どういうかたちでその再発を防ぐのか、また、起きた場合にどのようなかたちで破綻の処理をしていくのか議論されるのは当然であるし、そういった点について議論が深まっていくということは良いこと。但し、それが現実の問題とあまりかけ離れた議論になってはいけないということを寄稿で申しあげているわけである。
 先週、バーゼル委員会があったが、その内容について詳細は存じあげない。プレスリリースでも具体的な話は出ておらず、制度設計とか水準なども今回は示されていない。そういうなかで、今後は今月下旬に開かれる中央銀行の総裁、監督当局長官の会議でどういう議論がされて、検討が深まり、具体的な内容が出てくるのかどうか。プレスリリースを見る限りにおいては、予定どおり議論が深まっており、ソウルサミットには具体的なかたちで示したいと書かれているので、その線に沿って議論がされているのだと思う。ただ、トロントサミット後の声明文や、FSBからのサミット首脳への報告書の中で書かれたように、様々な意味で、各国の経済状況、それから制度の状況(の違い)を踏まえて考えていく、そういったものにプラスして言えば、我々が従来から主張しているビジネスモデルの違いということも含めて、今後のバーゼル委員会での議論も深まって行くのではないかと思う。
 アメリカの金融規制改革法案については、私もまだ消化不足であるが、金融監督の仕組みを変えましょう、それからいわゆる消費者保護の問題も入っているものであると認識している。やはり我々にとって気になるのは、いわゆるボルカールールで、ヘッジファンドへの出資などについて、Tier1の3%までとするような、いろいろな制限が加わってくる。おそらく、日本の銀行にとってすぐに何か影響があるとは思えないが、規制の内容をよく検証していかないとわからない。今の時点で影響が全くないとは言わないが、当初の案よりはかなり緩和された現実味のあるものにはなってきていると思う。このあたりは我々もよく検証を重ねていく必要があるのではないかと思っている。


(問)
 日銀の成長分野への新貸出制度についてだが、御行も各行個別で取組みファンドを設立すると発表されたが、その取組みと意欲について、もう一度会長にご見解を伺いたい。
(答)
 前回も申しあげたが、我々銀行は常に新成長分野に対し融資をしてきているわけであって、知恵を絞り、工夫もしてきている。今回の貸出制度は、資金供給のレートが安く、期間も長くできるという、ある意味インセンティブがあるので、そのインセンティブをどういうふうに呼び水として我々が使っていくかということである。66社が制度利用に係る申請を行い、受理されていると聞いているが、各銀行それぞれが創意工夫を重ねて努力していくということだと思う。私ども個別行については、1,500億円の枠ということで申請をしている。そのなかで、特に「環境」、地域的には「中国」、「その他」に3分の1ずつ枠を配分して、具体的な案件に対応していくという予定。ほかの銀行ではまたいろいろと考え方があって、さらにそれを呼び水として大きなファンドを作られるところもある。具体的なかたちでこれを実行していくということで、成長につながっていくような本来の融資のあるべき姿を追求し、単なる貸出競争に終わらせずに日本の成長につなげていくということにしないといけないと思う。


(問)
 2点伺いたい。消費税の議論のなかで、選挙を受けて与党の方も消費税増税の議論をすべきだというお話があったが、過半数割れを受けて、若干消費税増税議論の方が、先送り感が強まっているという見方があるが、その辺についての見解はいかがか。
 また、過半数割れに伴って、国家戦略局構想の方が若干頓挫気味になっており、司令塔不在が懸念されているが、その辺についてどうご覧になっているのか。
(答)
 2点目の質問は、コメントする立場にないので、控えさせていただく。
 1点目の質問は、これは先送り感があるかどうかは別として、ある意味で話しの持ち出し方に唐突感はあったかもしれないけれども、思い切って、議論の土台を選挙で問われたということだと思う。一般的に言えば、消費税増税に賛成だという人は6割いるというアンケートもあるぐらいだから、これはよく議論をしていかないといけない。それから、ムードではなく、この日本の今の財政状況というものを具体的に、国民にもっと知らせていかなければならない。それから、当然のことながら、日本の将来の社会保障制度の問題も含めて、国民が理解を深めていくということは、大変重要なことだと思う。目先、「税金が上がるから嫌だ」ということではなく、国民が納得できたというようなかたちに持っていかないと、日本の財政の問題というのはなかなか解決しないし、強い社会保障もなかなかできない。全銀協で消費税の問題について議論したことはなく、統一した見解はない。しかし、税金全体の問題というのは、その国の財政問題そのものであるので、「入」と「出」、両方とも議論し、いろいろな手段を講じていく必要がある。特に「入」のところについて言えば、法人税は国際競争力の観点から税率の引下げが必要だという意見も強くある。そういった法人税の問題や所得税の問題、消費税の問題、これを十分議論していかないといけない。やはりそのあたりを国民に分かりやすく、議論の内容をどう伝えていくか、説明責任をどう果たしていくか、ということが大事だと思う。消費税というのは、いろいろなやり方があると思うけれども、私はやっぱり避けて通れない道ではないかと思っている。他の先進国、発展途上国との比較においても、日本の消費税というのは非常に低いわけである。そういったなかで、財政は大変大きな赤字を抱え、国および地方の長期債務残高のGDP比は先進国の中で一番高いわけであるから、そういう問題を解決していくためにも、避けて通れない手段だと思っている。


(問)
 1点目は、欧州の信用不安の現状について邦銀からみた景色、特に流動性の問題等どのような状況にあるかについて教えてほしい。2点目は、金融検査マニュアルや金融再生プログラムの策定に関わった木村剛氏が、検査忌避の容疑で逮捕されたが、この点に関して会長の所見をお伺いしたい。
(答)
 欧州の今の状況というのは、もともとギリシャ問題からはじまって南欧問題になり、しかしそれについては欧州委員会そしてIMFが7,500億ユーロのパッケージを出して、いったん収まっているわけである。そういった意味ではマーケット自体は一応の落ち着きを見せているが、強いて言えば今後の各国が大幅な緊縮財政を組むということでも景気の先行き不安、それからこの23日に発表される欧州の銀行のストレステストの結果、これを見極めたいという気分があると思う。流動性の問題で今、何かが問題になっているということではない。ストレステストの結果発表待ちというのが、今の状況ではないかと思う。しかし、そのストレステストの結果についても、何か必要があれば自ら資本調達の道を開き、そしてそれが出来ないケースでは、公的な資本または融資というものについての用意があるということを言って、セーフティネットワークとしてのバックストップはかけているわけである。欧州の信用不安が大きく問題になるかどうかは、それはストレステストの結果次第というのが今の状況ではないかと思う。
 木村氏の話は、私どもは新聞報道しか知らないので、なかなかコメントし難いが、全銀協としては6月の段階で、当面全銀協の活動を自粛したいという申出を受理している。今後、事実が明らかにされていくと思うが、もし新聞に報道されているようなことが事実であるとすれば、我々と同じ銀行員として非常に遺憾であるということになると思う。今の段階では断定できないが、検査マニュアルの手引きまで書かれた方で、金融庁の顧問もされて我々の実務についても影響力のあった方だけに、そういうことが事実であるとすれば、非常に残念であるというのが、私の印象である。今は断定しないが、もし事実であるとすればそういう印象を持っている。


(問)
 米国の金融改革法案の一つの考え方として“too big to fail”を許さないということで、何を持ってfailかというのは別にしても、破たん処理においては公的資金を投入しないというスタンスを出しているが、そうした金融行政をどうお考えになられるか。
 また、破たん処理に関して、納税者に負担させる“bail-out”よりもcreditorに負担させる“bail-in”がよいのではないかという議論があるが、それについてはどうか。
(答)
 “bail-in”という議論については詳細を存じあげないので、破綻処理に係る一般論になるが、銀行にとってのcreditorにはdepositorがいる。今、(米国の)中小金融機関が破たんをしており、bail-outしているのかどうか、詳細を存じあげないが、仮に、大きな銀行が破たんした時に、預金者に負担を強いるようなケースになれば、非常に大きな問題になるだろう。日本の預金保険法では1,000万円というペイオフの上限があるので、それを超える分については(預金者を含めたcreditorに)負担が発生することになるが、そうした事態に至らないように事前のセーフティネットをどう作るかが非常に大事だと思う。日本の場合は事前の資本注入も含めて仕組みができあがっている。
 “too big to fail”という問題については、米国の金融改革法案では、そうしないために仕組みを作っていくということと、公的負担をしないという方向性が示されている。公的負担をしないということであれば日本の生保業界でもやっているような、政府による救済資金の代わりに民間で積み立てたお金でやっていくのか、私もよく分からないが、それも一つの手段ではあると思う。欧州でいま言われているのは、銀行税を課してそれを基金にしてそういうことに対応していく、したがって国民負担にしない、そういう考え方が一つとしてある。日本の場合は、2000年代のいろいろな問題を通じて一つの仕組みができているので、今まで仕組みができていなかった欧米においてそういう考え方をいろいろ議論しているのは理解できないことはない。ただし、実際にそうなったときに、それが本当にワークするのかどうか、という印象はある。