2010年9月21日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から4点ご報告する。
 1点目は、全銀協の次期会長を内定したことである。先週、9月16日の正副会長会議において、みずほ銀行の西堀頭取を次期会長に推薦することを決定し、本日の理事会において了承された。
 2点目は、「指定紛争解決機関」の指定取得についてである。
 先週の9月15日に金融庁長官および農林水産大臣から銀行法および農林中央金庫法上の「指定紛争解決機関」としての指定を受け、10月1日から業務を開始することを、お手許の資料のとおり公表させていただいた。今般の指定取得を機に、全銀協では利用者保護に向けて、更なる取組強化を図る所存である。
 3点目は、「『フラット35S』の金利引下げ措置の延長に関する要望」である。
 本件は、9月15日に全銀協ホームページで公表させていただいている。具体的な要望事項は、2ページ目の記書きの1点で、「フラット35S以外の民間金融機関の住宅ローン商品についても、優良住宅の取得を目的とするものを対象として、フラット35Sの金利引下げと同等の税額控除制度を措置すること」である。今後、関係金融団体と連名で、関係先に要望する予定である。
 4点目は、全銀協が設立した一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークによる「資金清算業免許の取得」についてである。
 先週の9月17日に内閣総理大臣から「資金清算業」の免許を受け、10月1日から業務を開始することを、お手許の資料のとおり公表させていただいた。これまで全銀システムの運営は東京銀行協会が行ってきたが、10月1日からは全銀ネットが運営する。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 先般、民主党代表選挙が行われ、菅政権が新しく発足したが、この結果、内閣の陣容等を見て、どのように受け止め、何を期待、評価するか伺いたい。
(答)
 民主党代表選の結果、菅総理が勝たれたということについては、対外的な信任の問題、政策の継続性という面から、良かったと思っている。
 与党の中で、現職の総理大臣が代表選を争うということ、野党であれば代表選は良いのかもしれないが、現職の総理大臣を巻き込んでの代表選というのは、今までに例がないのではないかと思う。総理大臣が辞任したあとに、代表選をし、それから新しい総理を決めるというのが従来だったので、違和感がある。
 選挙の結果を見てもう一つ感じたのは、国会議員の票数の差と、サポーター・党員の数字の差の乖離に対し、永田町の論理と一般投票者のロジック・考え方に違いを見出したということであり、新政権はそういったものを重く受け止めて、今後の政権運営にあたっていただきたい。
 繰り返すが、3ヶ月で、菅総理が変わらなかったということは、国際的な信任のうえで、非常に良かったと思う。今度の内閣の新布陣については、適材適所ということで選ばれているので、内政、外交、経済、社会現象等、いろいろと難しい問題がある状況下、この適材適所の人材をフルに活かしていっていただきたい。
 この難しさというのは、政権が民主党であろうと自民党であろうと変わらない。この問題に対して、すでに6月の段階で「新成長戦略」というのが打ち出されており、さらに先般、新成長のための3段階のプログラムが打ち出されている。やはり、そういう目的のための具体的な施策に対し、優先順位をつけ、しっかりと実行していくことが大事ではないかと思う。言葉の重みというものをしっかりと捉えたうえで着実に目に見える実行をしていただくとともに、腰を据えて取り組んでいただきたい。


(問)
 バーゼル規制に関して中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループが規制の「水準」と「移行期間」について公表したが、この内容について、銀行業界としてどのように評価され、どのように対処していくことが必要かについて伺いたい。
(答)
 9月12日に、中央銀行・銀行監督者の会議でいわゆる自己資本比率の「水準」、「移行期間」について合意に達した。一方、規制の全体像は、まだ議論している部分があり、固まっていない。したがって、全体の評価というのは、まだ早いのではないかと思う。これからソウルサミットに向けて議論すべきところが残っているし、巷間伝えられているところによれば、いわゆる米・英・スイスとその他の国の意見の相違があるとのことなので、まだまだ予断を許さないというところではないかと思う。
 ただ、今出てきたところの感じとしては、一見比率自体はそう高くないように見えるが、例えば、コアTier1キャピタルというのが、現在のバーゼルIIのもとにおいては2%であるが、これが資本保全バッファーも含めた新しい規制では、4.5%+2.5%の7%と一挙に3倍以上に高められるわけで、大変厳しいものである。前回の世界的な金融危機の反省に立っていろいろと規制を導入するのはやむを得ない部分があるのだろうが、これだけではなく、他の規制もいろいろと入ってくる。今の世界経済の状況が決して良いとはいえない状況のなかで、そういう規制が現在の経済に累積的に及ぼす影響等にしっかりと目を向けて議論すべきではないかと思う。
 (バーゼル委員会での)議論等を考えると、ややアカデミックであり、もう少し実務的な感覚がいるのではないかと思う。加えて、議論されているような規制の強化は、表面的には、これ以上規模の拡大はあまり認めないという米国で議論されているような動きが見られる一方、すでに大きくなっているところについては、より強くなるべきというような部分もある。失われた十数年というなかで、不良債権処理に多額の資本を費やしてきた日本の銀行にとっては大変厳しい内容ではないかと見ている。


(問)
 バーゼルの関連で伺いたい。バーゼルの具体的な水準等が公表されてからドイツ銀行は大型増資を発表した。欧米勢は規制の概要が決まって結構早めに動き始めていると思うが、日本の銀行は公表された水準に至るまでに、また増資等が必要になってくるのか、そうでなければ内部留保を積み上げるために、収益性を高めるという点でどういった戦略を今後打ち出していかなければいけないのか、欧米勢に遅れていないか、ということを伺いたい。
(答)
 ドイツ銀行の増資の背景については、規制対応だけなのか、それともポストバンクの買収が絡んでいるのか、わからない。そのような固有の目的であれば、それが全体的なトレンドになっていくとは考えていない。私ども個別行の問題として考えてみれば、当面、増資は念頭にない。ここに至るまでに、成長を目的とした増資も行ってきているし、今は、そういった成長戦略を着々と実らせて内部留保を高めていく方針である。全般的に見回した場合、トレンドとしては、自己の成長戦略をしっかりと行うことで、当面は、ダイリューション(dilution)を伴うような増資は、かなり制限的な動きになるのではないかと見ている。特に、最終的なターゲットは2019年ということであり、時間的なバッファーがあるので、そういうなかで、成長戦略の達成や内部留保の蓄積と絡めて検討され、そのうえで必要であればそういう(増資という)選択肢が出てくるかもしれない。ただ、先ほど申しあげたとおり、まだTier1やTier2に算入される証券については議論が続いているので、それらの議論がまず片付くこと、それからもう一つはバーゼルIIのアセット(捕捉)の強化、いわゆる分母となるアセットの新しい基準についても不透明なので、そういったものが固まっていくことが前提になる。


(問)
 国内の企業の資金需要について伺いたい。8月に9ヶ月連続で銀行の貸出が減少したが、現状の足元の資金需要はどうか。また、日銀が新貸出制度を実施するなど、政府レベルで貸出を促進しているが、実際に効果は出ているのか、もしくは今後じわっと出てくるとお考えか。
(答)
 貸出金の動向については、話にあったとおり、9ヶ月連続で前年割れとなっている。ピーク時は430兆円強あったと思うが、全体として資金需要は伸び悩み、減少している。これはやはり何と言っても日本経済の停滞を反映したものであるということ、もう一つは企業活動においてキャッシュフロー経営が徹底されている傾向があるため、新たな設備投資についても外部債務に頼るということは極力避けようとしてきており、企業のデット・エクイティレシオについても非常に下がってきているということが挙げられる。そういうなかで、例えば4-6月あたりを見ると、大企業も中小企業も設備投資は少しずつだが回復の兆しがあるが、これはほとんど手元資金で対応され、現実に銀行借入に結びついてこない。そのようななかで、日銀の新しい貸付制度が始まったわけだが、日銀も言っているように、これはあくまで「呼び水」であるという認識。私どもが見ていると、今までにあった案件をこれに乗り換えていく、手元資金で行おうと思っていた案件について、低利なのでこの際借入して手元にもう少し資金を残しておく、設備投資時期を少し前倒しにして行う、という3つに分けられる。まだまだ、本当に資金需要を惹起するというものではないと思う。やはり経済活動がいろんな意味で活発化してきて、将来に向けた成長に対する確実な自信が出てくるという状況には、少し時間がかかると見ている。


(問)
 尖閣諸島の事件を発端に日中関係が緊張しつつあるが、すでに何か具体的に影響が出ているようなところがあるか。また今後、仮に長期化した場合の影響点、懸念される点があるか。
(答)
 難しい質問である。尖閣諸島の問題により、今すぐに金融業界に影響が起きているということはない。基本的には政治、外交の問題になると思うが、日本の対応としては、外務大臣も中国大使も言っているように、国内法に基づいて粛々済々と対応していくということであろう。中国側の対応について新聞報道等を見ているが、どの程度の広がりでどの程度の規模のものになるのかよくわからない。こうした問題が広く各地に影響し、日系企業への経済活動というものに対してまで非難されるということが広がってくると、これはかなり日系企業にとっては大きな問題になる可能性がある。したがって、そういうことにならないように、司法により済々粛々と対応していくということだと思うが、政治間で早めにスムーズなコミュニケーションをとっていただき、日中経済において、大きな問題になる前に早く手を打つことが必要であると思う。


(問)
 先週、6年半ぶりの政府、日銀の為替介入があったが、これについての評価、どのように受け止めているかといった点についてお聞かせいただきたい。
(答)
 ある意味で、タイミングとしては、民主党の選挙が終わったあとということで、意表を突いたのではないか。為替介入における過去の事例で言えば、1回の介入で1~2円動くところを2~3円と、少し大きな幅で動いたということで、タイミングとしては効果があったのではないかと思う。ただ従来から言っていたことであるが、為替介入というのは、どの水準で入るのかというのは非常に難しいところであるが、円高が進んで行けば行くほど、それを戻すためには大量のお金やエネルギーが必要となる。もう少し早く入るタイミングがあったのではないかと思っている。
 大手製造業に今年度の円ドル為替、予想レートはどれぐらいかを聞いてみると大体90円ぐらい、産業界、輸出業者に聞くと92~93円ぐらいとのこと。これは中小企業も含めてではあるが、採算ラインであると言われている。そこから大きく乖離していけばいくほど、そうした企業の活動、収益に対してのインパクトが大きくなる。このこと自体が、言葉は大げさかもしれないがある意味で国益を損なうことになるわけであり、タイミングについては、そういうことを常に考えてやっていただく必要があるということではないかと思う。


(問)
 2点お伺いしたい。1点目は、先日、日本振興銀行が経営破たんということでペイオフが発動されたが、その受け止めと影響について軽微だという見方もある一方、やはり影響が出るという方もいらっしゃるのでご感想を頂戴したい。
 2点目は、郵政改革法案で先日自見大臣が「国会提出後の修正も」ということで修正に関する示唆もされたが、その受け止めを改めて頂戴したい。
(答)
 日本振興銀行が破綻ということになったのは、極めて残念なことである。元々従来型のコマーシャルバンクに対するアンチテーゼとして、中小企業中心の金融機関を設立したいということで設立されたわけであるが、結果としては、なかなか当初の志どおりにはいかなかったということである。我々も同じ金融業、銀行業としてやっていくのに、銀行業というのはそう簡単な話ではないということを改めて感じたところ。我々は貸金をしているが、貸金業務の裏側には、いつも申しあげるように預金者がおられるわけであって、その預金者に迷惑をかけないようにしっかりと資産運用していくというのが鉄則なわけである。結果として預金者に迷惑がかかるような事態になるということ、今はまだ詳細は分からず、今後の資産査定次第ではあるが、巷間言われているように1,800億円程度の債務超過ということになれば、極めて遺憾だと思う。しかも金融庁の検査について、検査忌避をして実態を隠蔽してきたということも、それが事実とすれば厳しく糾弾されるべき話だと思う。今回の件については、全銀ネットやATMのネットワーク、手形交換といった決済システムには加盟しておらず、それから普通預金も持っていないという極めて独特のモデルであるので、全般的な影響は、私は限定的だと思う。したがって、今後、預金保険機構の下で済々とそういった処理がなされていくということであって、大きな問題にはならないと思っている。一方さはさりながら、これは初めてのケースであるから、問題は起きないであろうという先入観を持たずに、金融の円滑化ということについてしっかりと我々は責務を果たしていかなければいけない。そこで、破綻が公表された9月10日、すぐに全銀協として傘下の各銀行に対し、円滑化について一層の留意をするようにという旨の通達を発牒した次第である。
 それから、郵政改革については、自見大臣の発言について詳細を存じないのでコメントしようがないが、金融担当大臣が郵政改革についての片方の主務大臣であり、総務大臣とともに進められていくわけだが、我々全銀協の立場としては従来から言っている考え方から何も変わることはない。修正云々はあるかもしれないが、改革の本旨を踏まえて、そういう意見もしっかりと踏まえながら、幅広い深度のある議論を続けていただきたいと思う。


(問)
 先ほどバーゼルの話が出たが、バーゼル規制以外にもニューヨーク、ロンドンといった世界の2大金融センターで、これから金融監督の形が大きく変わるという方向で肉付けが始まる。どんな形になるにせよ、今後3~5年くらいでグローバルな規制環境というのは大きく強化される方向であるが、そういった状況下、中期的に日本のメガバンク、あるいは日本の金融機関の経営の形がどうあるべきか、また、果たすべき金融仲介の機能にどのような影響を与えるかということについてコメントいただきたい。
(答)
 非常に難しい時代に入ったなと思う。一方では、内部留保をしっかりと貯めていく、自己資本を厚くしていくというために、新しい成長戦略を踏まえていかなくてはいけない。しかし片方では、規模の拡大について、新しいバーゼル規制のもとで制限がかかってくる。更には、今おっしゃったように、各地の主要なマーケットでその国独自の新しい規制がかかってくるかもしれない。これまでの「マーケットで自己規律を持ちながら拡大していく」ということに対する規制というか、逆の動きになってくるわけだから、この両方の狭間でどういうふうに業務を行っていくかというのは、まさに大変難しい。例えば、米国のドッド--フランク法は、具体的な姿ができるのに1、2年かかるかもしれない。その間、金融行政が、アメリカの中でどう動いていくのか。またイギリスにおいても、ロンドンマーケットと言った方がいいのか、同様の動きが出てくる。したがって規制の動向が、我々の成長戦略に大きな足枷になってくる可能性があるわけである。我々としては、ここで足踏みはできない。しかし、全体として見れば規制以前に比べると、色々な意味で展開のスピードを落とさざるを得ないかもしれないというネガティブなファクターがあるなかで、我々がどう成長戦略を実行していくかということが、邦銀というか、個別行の大きな課題であると思っている。そう簡単な話ではないので、考え方自体を変更せざるを得なくなるかもしれない。


(問)
 自見大臣が中小企業円滑化法の延長について言及したが、延長を何度も繰り返すわけには行かないと思うが、銀行としてはどのように考えているのか。
(答)
 自見大臣の発言の詳細やその背景は詳しくは存じあげないが、この円滑化法の背景としては、今の日本の経済状況を鑑みたうえで、中小企業を中心に資金を円滑化するための一時的な措置ということで、一年の期限があり、平時に戻れば続ける理由はあまりないものと理解している。我々としては、普段から中小企業金融の努力を続けてきたわけであるが、この点、あらためて自覚を促されたものと受け止めている。その結果、企業向けのコンサルティングとか健全化へのアシストを強めてきており、こういった動きについては我々はベースとして出来てきているため、時限法ということで期限を区切ってもよいのではないかと思っている。議論の成り行きを見ていきたい。


(問)
 先ほど話にあったバーゼルの議論であるが、アカデミックになっていて実務的な議論をしたほうが良いのではないか、という説明があったが、具体的な議論の中で、どのあたりがアカデミックな議論の色合いになっているのか、具体的に教えていただきたい。
(答)
 端的に言うと規制を強化すれば全て解決するわけではないということを銀行員の立場から申しあげたいということである。今回のケースでもコアTier1が4.5%、資本保全バッファーが2.5%、さらに議論のうえではカウンターシクリカルなバッファーが必要なのではないかとか、サーチャージが必要なのではないかという何段階もの議論がされている。資本は厚ければ厚いほど安全であるが、一方で、実際に業務を行っている人間の立場からすれば、その国々の状況、ビジネスモデルのあり方、さらには経済金融情勢等を考慮したうえで規制というのはあるべきと考える。「one (size) fits all」ということで、一つの背広で全てをくくってしまえというような考え方は、当局の一律行政の最たるものではないか。そういったものを、アカデミックだと申しあげたわけである。やはり、各国の生きている経済というものをしっかりと支えていくためには「one (size) fits all」という考え方には甚だ疑問を呈さざるをえない。

別添資料:奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)