2010年10月19日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から3点ご報告する。
 1点目は、全銀協の組織のあり方についてである。本日開催された理事会、およびその後に開催された総会において、公益法人制度改革への対応を踏まえた全銀協の組織のあり方について了承された。
 これまで、全国銀行協会は任意団体として、その事務局事務を社団法人である東京銀行協会に委嘱している。今回の組織の見直しでは、新たな全銀協は、現行の東京銀行協会を母体とし、現行全銀協の事業を全て集約した後、名称を「一般社団法人全国銀行協会」と変更し、法人格を有することとしている。
 なお「新全銀協」への移行については、今後、関係当局(内閣府の公益認定等委員会)に申請を行うこととし、移行時期は、来年(平成23年)4月を目途としている。
 2点目は、「クラスター弾に関する条約の発効を受けた銀行界としての取組みについて」である。本件は、10月8日に、お手許の資料のとおり公表させていただいた。条約の発効や国内法の施行等を踏まえ、クラスター弾の製造を資金使途とする与信は、国の内外を問わず行わないことを申し合わせたものである。
 3点目は、「新型インフルエンザの発生を想定した業務継続計画に関する訓練の実施について」である。お手許の資料のとおり、いわゆる強毒性の新型インフルエンザ発生の状況下においても生活維持に必要な銀行業務を継続することが重要であるとの認識のもと、業界ベースで業務継続計画(いわゆるBCP)に関する訓練を、来る11月26日(金)に実施するものである。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 日銀が10月5日の金融政策決定会合にて打ち出した包括緩和についての評価を伺いたい。あわせて、今後の景気見通しについても伺いたい。
(答)
 日銀の包括緩和策についてであるが、今までかなり思い切った金融緩和をしているが、さらに追加の緩和策をされた。一つ目は、政策金利を「0~0.1%」と従来の「0.1%」から実質ゼロ金利とし、幅を持たせたがゼロ金利を容認したこと、二つ目は、適用期間というものを一定の中長期的な物価安定が確認できるまで続けるという「時間軸」を約束したこと、三つ目は、幅広い金融資産の買い取りを含む日銀のB/Sを使っての資産買い取りのために35兆円の基金創設をしたということで、大変思い切った手を打たれた。
 今までもかなりの金融緩和をしてきて、市場ではお金がかなり余っているにも関わらずやはり資金需要というのは出てこない。そういうところに問題があるわけで、金融面で見るとかなり手が出尽くしたということではないかと思う。実体経済というものをどういうふうに成長させていくかが課題である。従来から申しあげているように、日本の場合、デフレ状況がずっと続いているわけだが、デフレ状態というのは単に金融だけの問題ではなく、むしろ需給の問題ということもあるわけで、金融と実体経済の両方の対応が大変重要である。したがって、金融のほうは手を打ってきたので、これからは実体経済、特に成長戦略というものの具体化が大変重要になってきている。
 経済の足許をみると、政策効果、自動車の減税や補助金の効果が剥落していく一方で、輸出の面でいくと円高が引続き歴史的に高い水準で続いているということは、加工製造業のところはかなり下押しにならざるを得ない。そういうことから、内需についてもかなり回復してきたと思っていたところが、ここにきてそういう状況から回復傾向に陰りが見られる。トータルすると、成長が鈍化して足踏み状況に陥りつつあるのではないかということ。そういうなかにあって、先ほど申しあげた日銀の政策効果に何を加えていくかというと、これはなかなか難しい問題であるが、時間をかけても、今政府が掲げている成長戦略に優先順位をつけて、しっかりと具体化していくということ以外にないと思う。


(問)
 第1四半期は、各大手行はそれぞれ好決算であったが、中間決算ではどのような見通しか伺いたい。
(答)
 今、上期決算の集計中であるので、蓋を開けてみないと分からない。
 第1四半期の決算状況を考えると、引続き資金需要が弱いことから、預貸金利ざやが、足踏み状態に入っており、増える状況にない。そのなかにあって、クレジットコストが大幅に減少したということと、長期金利の低下から保有している長期国債に含み益が発生し、それを実際に売却して売却益を得るというようなことで、収益的にはかなり良い数字があがってきたのが第1四半期である。
 第2四半期についても同じような状況であり、各行の決算としては、そのトレンドの上にあるのではないかと思う。
 ただ、実態をみると依然として本業である預貸金利益が右肩上がりに増えるという状況ではないというところが、おそらく課題ではないか。


(問)
 現状の経済の見通しに関連して伺いたい。内閣府が発表した月例経済報告でも今の景気は足踏み状態であると、まさに奥会長が言われた表現と同じであるが、現場としてもその認識は共有できるのか。この内閣府の景気認識は1年8か月ぶりの下方修正であるが、この状態は長引くと考えているかお聞かせいただきたい。
(答)
 今の欧米の景気の状況を見てみると、ヨーロッパでは、ドイツ以外の景気は、緊縮財政のもと、先行き弱含みである。米国も依然として先月も申したように雇用の問題、不動産の状況を見ていると強い状況にはない。引続きFRBは、金融緩和策によって景気回復を図ろうとしている。海外においては全般的にそういう状況のなか、日本においても同じ状況にある。いわゆる施策として打ってきた政府の財政支出が期限を迎え効果が剥落してきていること、足元、円高が高水準になっていること、企業の設備投資自体は少し出てきているが金融にはねずに引続き潤沢な手元資金の範囲内で実施されている状況で、なかなか経済活動として活発化してきていないことから、新興国の状況に変わりはないけれども、やはり足踏み状況は続くのではないかと思う。


(問)
 FSB(金融安定理事会)において、システム上重要な金融機関と呼ばれる巨大金融機関、これは日本のメガバンクも対象に含まれると想定されるが、そうした巨大金融機関に一般の金融機関よりも、一段と高い自己資本比率規制や資金繰り規制を課すべきだという議論が浮上している。これが実現した場合、先日合意したバーゼルIIIに上乗せして規制を課すことになるが、こうした動きについて全銀協の会長としてどのように見ているかお聞かせいただきたい。
(答)
 私はこの資本サーチャージの上乗せについてはおかしな話だなと思う。現在、議論がいろいろと進んでおり、今度の週末に行われるG20の蔵相・中銀総裁会議等でなんらかの形が出てくるのかもしれないが、すでにコアTier1で7%などとなってきているうえ、さらにひとつのルールを、大きい銀行だからといって全てにあてはめるというのはいかがか。それぞれの銀行にはホームカントリーがあり、そこにかなりの業務を依存しているが、各国の金融状況、法制度、または経済状況は異なっている。そういった環境の違いをあまり考えないで、「one size fits all」という形で、一定のルールを適用するということに対しては非常に違和感がある。各国の状況の違いに加えて、銀行ごとにそれぞれビジネスモデルが違う。例えば証券業務を多くやっているところ、トレーディング勘定をたくさん持っているところ、さらには、法人業務や個人業務、発展途上国の業務など、それぞれビジネスモデルが違うわけで、そういうのをひとくくりにするということには非常に違和感がある。しかも一定のベースのルールがあるうえに、大きいからということで、さらにルールで一定の上乗せをするというのは、一体何を根拠にパーセンテージを決めるのか、ということにもなりかねず、議論はいろいろされるだろうけれども、おそらく日本の銀行は、非常に違和感を覚えているのが正直なところではないだろうか。


(問)
 先月の武富士の会社更生法があったことで、他の消費者金融も過払いの請求が増えるのではないかという懸念が出てきている。消費者金融が資金調達している社債市場なども含めて、金融システムへの影響を会長はどのように見ているかお聞きしたい。また、消費者金融に出資している銀行などへの影響はどのようなものなのか。たとえば、アメリカのGEも以前売却した消費者金融事業に対して引当金を積み増したりしたが、そのようなことに対してどのように考えているか。
(答)
 消費者金融業界においては、アイフルのADR、武富士の会社更生法の適用という大きな出来事が続いているので、その影響がいろいろと心配されている。ただ、武富士の場合は、この数年間でかなり営業資産を減らしてきたということで、銀行借入を縮小させてきた。したがって、銀行借入というよりは、むしろ社債市場への影響が心配されるわけだが、今の外部負債が確か1,000~1,500億ぐらいではないかと思うが、それがどういうふうに社債市場への影響としてでてくるのか。今後の更生法のなかでの状況を見ながら影響をより深く注視していく必要がある。また、一般の借入人の方の過払いの問題にどう展開していくのか。いまのところ顕著な動きは出てきていないと聞いているが、問い合わせは増えているということから、全く影響がないとは言えない。今後、注意深く見ていかなければならない。さらに、そこに、出資しているところはどうするか、貸しているところはどうするのかということであるが、おそらく過払いの問題がどのように収束していくのかその辺を見ながら対応を決めていくということになる。業界の問題は別として、業として成り立っていることから、今後についてはそういうなかで、たとえばリストラを大幅にしてボトムラインを守っていくといった自助努力は当然引続き行われるし、出資しているところは出資しているところで、どういう風に今後の状況を見ていくのか、それによっていろんな対応が変わっていくのではないかと思っている。


(問)
 2点伺いたい。一つは日本航空の経営問題である。11月末に向けて更生計画が立つかどうかというところにあるが、民間銀行団として新規融資のことも含めて、どういう判断をしておられるのか。現状のJALの経営が改善しているといえるのかどうか。あるいはリストラ策について満足いくものだと思っておられるのか。あるいは政府の対応ぶりについて現状どう判断されているのか。
 もう一つは、前の金融大臣が導入された金融円滑化法の影響と、それを延長されるべきかどうか。更には導入の際には、金融検査マニュアルの緩和もしていたと思うが、それが不良債権問題についてどういう影響があり、今後どうすべきであるとお考えか聞かせていただきたい。
(答)
 JALの問題については、全銀協として言うことではないので、あまりこの場で触れることは適当ではないと思うが、数字だけを見ると業績は改善してきているようだ。これだけの大きな倒産というか、会社更生法適用会社の話だから、影響は大きいわけであり、金融としてはその実態をしっかりと見ながら対応をしていく必要がある。各行は各行の判断で対応されるだろうが、大きな問題、即ち再生していくという方向へのベクトルは一致しているのではないかと思っている。
 それから2つ目については、自見大臣がおっしゃっている内容は聞いているが、延長すべきかどうかについては、自動的に延長するということではなくて、やはりその時の経済の状況、金融の状況を見極めながら検討していくということだろう。あくまでも今回の場合、経済状況が良くない状況において、中小企業の金融というものを支援するという立場から実施されたわけである。では、経済状況が非常に良い・活発化している状況でこういうことが起き得たかというと、なかったのだろうから、状況を見極めながら判断していかれる話ではないか。だから、恒久的な措置ということにはならないだろうし、時限的な対応、もともと1年ということだから、そういう前提として状況を見ながら考えていくということである。今後の不良債権の問題として、どういう影響が出てくるかは、正直言って今のところよく見えない。全体的に見ると、中小企業の倒産件数は前年比で見ても減ってきている。この効果があったかどうかは分からないが、経済状況が冴えないなかにおいて倒産件数が減っていることについて、これがどういう要因によるものなのか、まだ実態分析ができておらず、分からないというのが実情。今後、不良債権が時間とともに増えてくるのか、当面そのままの状況で推移していくのか、まだ見極めがつかない。


(問)
 先ほどお話があった日銀の追加緩和のなかで5兆円、債権の買い取りの部分がこれまでやってこなかった部分だと思うのだが、今後それがどのように影響してくるのかということについてご意見をいただきたい。
(答)
 正直言って分からない。今までもかなりお金が出ているなか、金融資産の買い取りを打ち出してきているわけだが、買い取りを始めてみてどういう動きになってくるのか、初めての試みであるので、私にもよく分からない。


(問)
 2点お伺いしたい。1点目は、包括緩和の効果というところでは、先ほど会長もおっしゃられているが、市場では資金が出ているのに、資金需要が出てこないというのが問題ということだとすると、緩和の効果があまり期待できないのではないかということを考えているのか。2点目は、消費者金融に関連して、消費者金融各社の株が下落しているが、特に著しく下落しているのがプロミスであると思うが、なぜプロミスが一番大きく下落しているのかといえば、三井住友銀行が、どれぐらいプロミスに対してコミットをしようとしているのかがよく見えない点にあるのではないか。実際問題として、持分法適用会社の出資比率であるのに対して、アコムに関しては、三菱UFJフィナンシャルグループは出資比率が高いというところで疑念を呼んでいるという指摘もある。あらためて、プロミスに対する考え方、コミットの仕方を教えて欲しい。
(答)
 1点目の包括緩和の量的なところについては、すでにかなり出ているので、どれだけの効果があるのか分からないが、ゼロ金利について、今後どういう風に影響が出てくるのか、0.0~0.1%と言いながら、足元は0.08%とか0.09%という状況なので、今後、具体的にどのような効果をもたらすのか、よく見ていかないといけない。一方で、緩和の効果という点で、今回思い切ったメッセージを市場に与えたということが、非常に大事なことだと思っている。量的な観点からも、やはりアメリカのFRBの緩和の量を見ても日本のほうがずっと量的緩和しているわけだが、なかなか効果が出てきていないというのが現状ではないかと思っており、量的な面よりもそういったメッセージの強さ、最後とは言わないが本当に思い切ったところまで踏み込んだと感じているので、それをどういう風に市場が受け止め、それが実体経済にどういう風に影響をしてくるのか。すぐには、影響は見極められないので、よく見ていく必要がある。
 2点目のプロミスの話に関しては、個社の問題なので、ここであまり言及しないが、持分法適用会社として、社長も送っており、しっかりと支えてきているし、今後もその方針に変わりはない。


(問)
 包括緩和の件で伺いたい。銀行の収益への影響についてどのようにお考えか。
(答)
 銀行の収益への影響というと、2つの面がある。預金の利ざやは縮小する一方、短期金利の低下は長期金利の低下にも影響するので、保有している債券の含み益が増える、または収益が実現化する。このようにプラス・マイナス両方あるので、収益的な影響は限定的であると思う。
 特に、無担保コールレート(オーバーナイト)を0.0~0.1%の間で推移させるといっても、足元は0.08~0.09%くらいであり、預金の利ざやが一挙に縮小しているということでもないので、それを考えても限定的と言えるのではないか。


(問)
 FSBにおける議論の1つとして、資本のサーチャージの話が議題として入っているが、それ以外に監督規制の強化等、議題として注目していることがあれば教えていただきたい。
(答)
 FSBの議論としては、主として資本サーチャージの問題と、コンティンジェント・キャピタルの問題、Bail-Inの問題、の3つがある。
 コンティンジェント・キャピタルというのは、いわゆる普通株ではないが資本の毀損性がある、(平時は)優先的な(性質を持つ)劣後というようなイメージのものだろうが、具体的にどういう性格のものになるのか分からない。今まで我々が資本として入れていないものなので、既存の資本をこの資本でリファイナンスしていきなさいと言われても、マーケットがあるかどうか分からない。本当にとれるか分からないし、マーケットに投資家がいるのかも分からないので、その辺が不安である。市場のないものを、市場があるかのように議論がなされてきたという感じを持っている。
 それから、Bail-Inというのは、大きな銀行が破たんする前に、事前に債務整理とか、キャピタルのリストラクチャリング等をすることにより破たんを未然に防ぐというものだが、これも議論としてはあるが、実務的にどうやっていくのか、各国当局は具体的にどうしていくのか、それぞれの国の倒産法制との関係など、非常に不明な点が多い。
 キャピタル・サーチャージ以外の、この2つの議論は、まだまだ実務面も含めて詰める必要があるのではないかと思っている。正直なところで言えば、あまり導入については望ましくない、というふうに思っている。