2010年11月24日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会で、中小企業金融等の円滑化に向けた取組みについて、お手元の資料のとおり申し合わせを行った。
 わが国経済や中小企業を取り巻く状況を踏まえ、銀行界として適切に金融仲介機能を発揮し、中小企業等の資金需要や返済条件変更等のお申出に対して真摯かつ丁寧に対応し、金融の円滑化に全力をあげて取り組むことを申し合わせたものである。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 各行の中間決算が出揃ったところであるが、その受け止めと、併せてマクロ環境を含めて下期の見通しをお願いしたい。
(答)
 現在、中間決算の全体の姿については、全銀協において取りまとめ中であり、いずれ分析を発表させていただく。
 ざっと見ると全体的に好決算であったが、共通点は、不良債権関係処理費用、いわゆるクレジットコストが比較的少なく済んだということと、それから国内の長期金利が上期に低下したことによって、その機を捉えたトレーディング、市場営業部分で利益が上がっている。国内だけではなく、海外も長期金利が下がったことでそういう利益が上がった。肝心要の貸金を中心とする本業のところでは、依然として利ざやが縮小し、そして全体のボリュームも下がっているということで、大変厳しい課題が残っていると思う。
 下期については、下期の見込み額を発表しているところの数字を見ると、上期の倍ということにはならない。比較的慎重な見方をしているという感じを受ける。その背景は、やはり上期と同様の長期金利の低落というのは望めず、逆に先般の米国の第2次量的緩和の実行とともに長期金利が跳ね上がったということの影響を受けて、国内の長期金利も上がってきている。それから、クレジットコストについては、なかなか見通しがたいが、上期のようにはいかないのではないか。国内の金融円滑法のもとで、中小企業向け貸出に係る条件緩和が進んでいるわけであるが、こういった部分がいつまで持つのかというところもあり、国内の全体の景気動向次第ではクレジットコストも増える可能性がある。それから資金需要については、これも下期に盛り上がってくるだろうかというとその転換点があるような動きにはなっていないということで、各行とも慎重な見方をしているのではないかと思っている。
 全体の景況感としては、この上期は4-6月期のGDP成長率が年率換算で1.8%、7-9月期が3.9%。7-9月期はご存知のとおり、いわゆる自動車関連の補助金、これが切れることによる駆け込み需要、それからタバコの増税前の駆け込み需要、こういったものがあり跳ね上がってきているものであるが、これが反動落ちになるだろうというのが、大方のエコノミストの見方である。したがって、下期は少し停滞感が強まっていくのではないかと見ている。その理由は今申しあげたような景気刺激策の効果が剥落していることと、円高、これが80円を割り込むということではなくなったものの、83円前後ということで、歴史的には、大変な円高の状況にあり、このマイナス影響が見込まれるということ、それから内需自体は少しずつ回復に向かいつつあるように思えるが、自律的で本格的な回復にはまだ程遠い状況にある。なかなかマクロで見ても停滞感が強まっているということであるので、そういった意味でも着実な資金需要が出てくるかどうかという点に関して、銀行業界への影響というものは慎重に見ざるを得ないというのも致し方ないと思う。


(問)
法人税減税とそれに伴う財源措置についての議論がされているが、本件についてどのように考えているのかお聞かせいただきたい。
(答)
 法人税の5%減税というものが議論されており、その代替財源として10項目あるが、そのなかで銀行業界にとってインパクトの大きいと思われるのが、欠損金の繰越控除の制限、また、現在、25%未満出資先の受取配当金の50%が益金不算入となっているがこれをゼロにする問題、それから、もう一つ貸倒引当金の廃止、こういった話が出てきている。
 いずれも銀行業界にとってインパクトの大きい話であって、全銀協はいずれに対しても反対とのスタンスを貫いている。
 法人税の減税というものを「企業関連の税制で埋め合わせしましょう」といういわゆる税収の中立という観点から考えているのだろうが、それでは何のための法人税減税だというのか。法人税減税は企業の国際競争力を強化し、それを通じて、国内の投資機会を増やしていこうというもので、決して5%に止まる話ではないかと思う。国際的なスタンダードから考えると日本の実効税率は40%と高く、大体は20%台となってきている。もうちょっと長期的な視点から考えていかなければならないのではないか。したがって、単年度ではなくて、もうちょっと長期的に、どこまでをターゲットとして何年掛けてやっていくのか、そのための財源というものを企業関係税制だけで埋め合わせるのか。それでは無理だということであって、長期的に考えて、企業が元気になり、法人税の税収を増やしていくという観点があればこそ、そういう企業減税を行うということになってくるわけで、そういう意味で税制の抜本的な見直しをやる時期に来ているというふうに私は思う。他国の例を見ても、例えば、イギリスにおいても「企業減税をします。しかし、その片方で税収の確保というのは別の形でやっていきます」ということであった。韓国においても、97年以降の企業減税、法人税の下げと片方でやっぱり消費税等の問題が当然と出てくるわけであって、そういった抜本的な見直しをやってきたので、今の韓国は元気だとよく言われる。そういう風に長期的な見方をしていくためには、税制の抜本的な見直しをこの時点でやっていく必要があるのではないかと思う。


(問)
 北朝鮮と韓国の間で一時砲撃戦になっているが、この受け止めをお願いしたい。
(答)
 まず、今回の突然の砲撃によって貴重な人命が失われたことに対して、遺憾の意を表したいと思う。ただ、北朝鮮の問題は直接銀行業界には関係がなく、具体的な影響は現時点ではない。今回の事件は、隣国である韓国で起きたものであるが、改めて、外交、北朝鮮の存在というものを再認識しているところである。日本の直接的な問題ではないにしても、間接的に、大変危惧する憂慮すべき事態ではないかと思う。銀行業界も韓国において、支店を出店し、金融業務を行っている。それだけに事態を憂慮しているが、幸い関係各国が非常に冷静に対応しているので、大きな問題とならないと思う。また、今日の金融マーケットのドル-ウォンの動きを見ても、一方的にウォン安の方向に向かっている、ということでもないようなので、一安心しているところ。ただし、こういう危機が、常にこの東アジアに存在しているということ自体は、我々も頭に入れておかないといけないと思う。


(問)
 質問事項は2点ある。1点目は、日本貿易会が経団連に先日申し入れを行った新卒の採用時期の適正化の問題について、銀行業界としてどのように取り組んでいくのか。また、この問題に関連して、経済界の一部では、大量に新卒を採用している大手銀行が若干消極的だという意見がある。このような声に対しての考えがあれば聞かせて欲しい。
 2点目は、住専勘定の2次損失の問題であるが、来年末にこの処分が行われる予定である。国が約束どおり半分負担する場合には、来年度中に予算措置が必要になってくるが、この問題に対して銀行業界としてはどのように取り組んでいくのか。
(答)
 1点目の、日本貿易会の話は新聞で拝見しているが、経団連に正式に要請されたかという事実関係は存じあげない。いずれにしても、そのような動きがあるのは十分了知している。もともと、経団連の中には採用に関する憲章がある。採用に対する公平な機会、また正常な学校教育と学習機会を確保するという観点からも憲章では考慮されているので、今までその枠組みで採用活動を実施してきているわけである。私どもとしては、このような議論が起こってきていることに対して、業界単独ではなく、色々な業界で横断的に議論をして、出てきた結果については従っていくということである。
 銀行はご存知のとおり採用の人数が他の業界に比べると多く、個別行であっても、メガバンクになると相当な数になる。例えば、私どもでも、この2010年4月の入社人数は、800人を超えており、ピーク時の2008年には1,500人をはるかに上回っていたのではないかと思う。一定のレベルでその規模の人数を確保していくということは、我々にとっては重要な課題である。
 他業界の人の話を聞いていると、理工系というのは、夏休みぐらいから卒論の勉強が始まるので、採用の開始時期が8月というのは遅いという意見もある。その他にも様々な意見があるので、そのようなことを含めて方針が出れば従っていきたい。銀行界が慎重かどうかということについては、私は、慎重に議論していくことは必要だと考えている。結論が出ればそれに対して従って行くことは、やぶさかではない。
 2点目の、住専勘定の話であるが、2011年度末で回収の作業を終える予定ということで、その意味で時限はあと1年ということになるので、当局においてはその時の対応について検討を始めていると思う。住専の問題が出てきたときに、最終的な2次ロスの負担方法についても大枠が固まっているので、その枠の中で最終的な処理方法について議論が進んでいくものと考えている。


(問)
 日本のTPPへの参加の議論について、賛否両論あると思う。農業保護の観点から慎重な意見もあり、今後、政府がどう協議を進めるか注目されているが、全銀協会長としてどのようにお考えか。
(答)
 全銀協が直接TPPの問題の影響を受けるかというと、考えつくところはあまりないと思う。ただ、日本全体として考えた場合、TPPに入るということは、最終的にわが国の国際競争力を強めるということと、環太平洋には新興国がたくさんあるので、その新興国の成長を日本に取り込んでいくという意味からいくと、大変意味のあることではないかと思う。その議論が始まるということは大変いいことだと思う。ただ片方で、関税がなくなる、物とサービスの行き来が自由になるので、それについての影響がどうあるのか、業界によって大変インパクトを受けるのではないか。特に農業の話が今議論になっているが、そういうこと自体、もっと細部にわたって議論を進める必要があると思う。それから、TPPに一挙に進むのか、それまでにもう少しOne to OneでのEPA等を行ったうえで参加するのか、それも含めて議論を深めていく必要があるのではないかと思う。そういった意味で、最終形になってくれば、総論においては賛成できる部分もあるが、それをどういう形で進めていくかについてはしっかりとしたシナリオ作りというか、工程作りが必要になってくると思う。


(問)
 アイルランドが財政危機に陥り、EUやIMFに金融支援を求めているが、欧州の金融システムという点で、南欧等に飛び火するのではないかという懸念もある。日本の金融について、為替で円高への揺り戻し等があるのではないかという懸念もあるが、日本の金融に与える影響というのはどの程度お考えか。
(答)
 アイルランドの問題は、もともと今年の春にギリシャをはじめとする南欧の問題が起きたときに、PIIGSという話が出ていた。PIIGSというのは5ヵ国だが、アイルランドは、そのうちの1ヵ国に入っていたので、当時から財政の問題・金融の問題は危惧されていた。それがいろいろな意味で欧州の景気の先行きに対する不安要因だと言われてきた。それが顕現化してきたということである。しかし、当然のことながらEUを中心として10兆円規模の緊急融資をやっていくわけであり、そういったセーフティネットはできているので、金融不安というものに至ることはないと思う。ただ、これから財政緊縮して財政を立て直していく道すじをどのようにつけていくかということなので、それについては十分見ていかないといけない。
 日本の銀行に対しての影響となると、それぞれの銀行によってエクスポージャーは違うと思う。ただ、アイルランドについては、直接、または保険会社の保証を通じてエクスポージャーを持っていると思うが、そう大きなエクスポージャーを持っているとは思わない。それから、アイルランドの国債保有についても各行によって違うので分からないが、例えばSMBCではアイルランド国債は持っていない。そういうことから考えると、直接日本の銀行業界に対する影響はどうかということであれば、限定的だと思うし、これが欧州におけるドミノの一つかというと、すでにギリシャもスペインもアイルランドもこのように問題が出てきており、ある意味で予想の範囲内なので、全体として金融市場を揺るがすような大事ではないと思っている。


(問)
 先ほどの住専損失の2次ロスの問題だが、政府の損失の部分を民間に穴埋めしてもらうという可能性も全くないとは言えないと思うが、仮にそういう要請があった場合、銀行業界としてはどういう対応を取られるのか。考え方を教えていただきたい。
(答)
 住専の2次ロスについては、今の段階ではあまり深くコメントできないが、やはり基本的には、2次ロスは政府と民間で折半だという原則、これは貫く方向で色々と検討していただくほかないのではないか。そういうふうにまた検討していただくことを私どもとしては望むということ。なったらどうだという仮定の問いには今は何とも申しあげられない。


(問)
 貸金が伸びないという話に関連しての質問だが、日銀の成長基盤貸出に関して来週2回目のオファーがある。これまでの会長会見のなかで言及されていたと思うが、時間が経ち、一部の銀行のなかでは、いわゆる金利ダンピング競争の一助になっているという指摘もある。会長自身、今までなされた施策の評価や、改善を望まれることがあれば、改めてお聞かせいただきたい。
(答)
 まだ評価をするのは早いと思う。日銀も(施策の効果の)限界についてはよくご存知のうえで「呼び水」にしたいという言葉を使っている。「呼び水」になるかどうかは、まだ今の段階では何とも言えない。今、指摘があったように、0.1%のベースレートが金利ダンピングに繋がるおそれがあるのではないかということについて、私も以前、会見でお話をさせていただいたことがあった。とはいえ、もう少し先に設備投資をしたいと思っていたものを、比較的低利なので前倒しにしましょうとか、手許資金でやろうと思っていたもの(設備投資)を借入でやりましょうとか、いずれも計画があって、後で考えようとしたものを先にやったり、その調達手段を手許資金よりも借入で賄うという面はある。これが「呼び水」かどうかは、後でやると考えていたものを前に持ってきて、投資するのであれば「呼び水」と言えば「呼び水」である。何をもって「呼び水」というかということではあるが、効果がないわけではない。ただし、本当に全体の資金需要を盛り上げるものになっているかというのは、金融政策だけの問題ということでは決してないわけで、これはなかなか時間がかかると思う。デフレという状況のなかで、どのように資金需要を盛り上げていくかというのは並大抵のことではない。企業者のマインドも前向きになり盛り上がってくる状況になれば別だが、現時点ではなかなかそこまでに至っていない。しかし、これが一つの方策として意味がないかと言えば、私は意味があると思うし、これからもう少し時間をかけてみていく必要があると思う。


(問)
 貸し出しのところだが、企業向けが伸びない中、住宅ローンを確保しようと各社行っているなかで、金利の競争が厳しくなっている。新規もなかなか増えてこないところで、今後どういう展開になっていくのか今の考え方について足元の動向も踏まえて、認識を教えて頂きたい。
(答)
 住宅ローンについては、言われたとおりの状況。収益をしっかりと確保していくという意味では大変厳しい。競争は激化しており、そこで採算を確保していくというのはなかなか厳しい。量的にも前年対比で見ると落ちていたのではないかと思う。企業金融について言えば、11ヶ月マイナスである。これも反転するきっかけが出てくるかというと、なかなか難しい。かかる環境下、冒頭でも申しあげたとおり、本業のところでの下期の業績の見通しは厳しい状況ではないかと見ている。