2011年1月25日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、1月26日から2月28日までの約1ヶ月間を「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」として「金融犯罪防止啓発活動」を実施することを決定した。
 その活動の第一弾として、お手許の資料のとおり、1月26日(水)に、丸の内オアゾにおいて「STOP!振り込め詐欺 金融犯罪防止啓発イベント」を開催することとした。
 当日は、西川史子さんを「一日振り込め詐欺防止隊長」としてお迎えし、来場者参加型のプログラムで、振り込め詐欺の手口や防止策等をわかりやすく説明する。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 今月14日に内閣改造が実施された。新しい内閣に対する評価をお願いしたい。また、昨日国会が召集されたが、どのようなことを期待されているか。さらに、政府は税と社会保障の一体改革を進めようとしているが、それについてどのようなお考えをお持ちか聞かせて欲しい。
(答)
 14日の内閣改造、まさに「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げて発足された菅内閣の2回目の改造ということである。今後の政策論議、国会運営の観点から熟慮され、登用されたという印象を持っているし、そういうなかでも、とりわけ大きな議論となる消費税、そしてTPPの問題においても、本年の6月までと時限を切って、不退転の覚悟で論議を行っていくとおっしゃっている。現在は日本にとって非常に大事な時期であるので、こういった問題についても不退転の覚悟で取り組むということで、この内閣を発足されたというふうに捉えている。
 ただ、現実をみれば、党内の問題、与野党の問題、さらには社会、経済、外交といった面において、難問が山積している。そういったものについて、しっかりと論議し、かつ、国民への説明責任を果たし、そして国民の理解を深め、これを行っていくということが極めて大事だというふうに思っている。
 そういった意味で、大変であるが、やはり日本がここで立ち止まってはいけないわけで、一つ一つ問題を片付けていく、道筋をつけてアクションを起こしていくことを期待したいというふうに思っている。


(問)
 大学新卒者の採用活動の見直しの動きをどのように受け止めているか。
(答)
 経団連の方で倫理憲章を、13年度入社の採用から、新卒者への説明・広告等は3年生の12月から、また、実際の採用活動は4年生の4月からということで、改訂を行うこととなった。一方で、先日、経済同友会の方から、説明会・広告等は3年生の3月から、実際の採用活動は4年生の8月から、という提言が出された。議論はいろいろとあると思う。時期が早すぎるという意見、遅すぎるという意見、両方あるわけだが、早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。それから、理系と文系ではその採用の環境が違うとか、学生の方も早く就職を決めて勉強に打ち込みたいということもあるだろう。そういった採用側、そして大学側の意見を取り入れて、最大公約数として決められたのが、経団連による倫理憲章の改訂であると思っている。
 個別行としては、この経団連の倫理憲章にもとづいて、13年度入社の採用から対応を行っていくことになると考えている。1年という間、または1年3ヶ月、4ヶ月の間をどういうふうに時間配分をするか、学生にとっても3年から4年に移るときの時間の使い方が非常に決め手になってくるのだろう。その点に関しては、いろいろと意見があるが、実態を見ながら議論を進めていったらよいと思う。経済同友会が実際に提唱しているのは14年度の採用からということなので、まだまだ議論を行う余地があると思う。また、景気の状況によって採用環境も変わるし、それから実際には国家公務員試験、地方公務員試験などの公務員試験が大体5月から6月にあるわけで、そういった時期においては、学生の方もいろいろと勉強の片付けもするので、まだまだ議論をされたらよいと思う。我々としては、最大公約数の中で採用活動を行っていく方針である。


(問)
 為替デリバティブで中小企業が損失を膨らませる問題が顕在化しているが、全銀協として何か対応する方針はあるのか。
(答)
 円高がかなり進んで定着している現況にあるなか、企業、とりわけ中小企業の方々が、この円高に伴う為替デリバティブの問題を抱えておられることは十分に承知している。昨年の12月の会見の場においても、私は「個々の銀行が本当に親身になってお客さまの相談に乗って、具体的に対応を行っていただきたい」ということを申しあげたが、基本的にその認識に変わりはない。こういった認識に則ったうえで、もう少し踏み込んで申しあげれば、会員の各行におかれては、それぞれがより自発的に法令等の定める範囲内において、例えば、本業がしっかりしているが、こういう為替デリバティブの問題で、倒産なり、そういう危機に瀕しないようにするための対応をしっかりと行っていくとか、それから、やはりお客さまの実態というか、利用企業を積極的にフォローして、お客さまの現在の状況、そしてニーズというものを踏まえて、解決策を具体的に提供していくということが必要だというふうに思う。
 一方で、全銀協としては、会員各行がそれぞれにそういったかたちでフォローしても、具体的に解決できないようなケースに対しては、ADRによる解決を行っていくことになるかと思う。現在、全銀協の寄せられる相談、紛争解決の申立て、これは数が増えている。この中にはデリバティブ一般も含まれているが、なかでも為替デリバティブに関するものが増えている。こうしたなか、そういった処理手続きのスピードアップ、これは全銀協として対応をしていかなければならないと思っている。


(問)
 採用活動の件で、金融の場合、特に外資系の企業との人材の奪いあいが懸念されると思うが、最大公約数として決まったルールに従うことで優秀な人材が先に外資系の企業にとられてしまうのではないかという不安はないか。
(答)
 それは今までもそうだし、特に、外資系ということを意識したことはない。そういう不安はない。


(問)
 1点目は、税と社会保障の一体改革、特に消費税の議論について、どのようにお考えか可能な範囲で見解を伺いたい。
 2点目は、本日の日銀の金融政策決定会合で、足許のGDPの見通しが上方修正、来年度に関しては若干下方修正、消費者物価も上方修正されているが、12月の内閣府のマクロの見通しよりも、さらにもう少し強めの数字が出ている。実態としてマクロをどのように感じているか、お聞かせいただきたい。
(答)
 税と社会保障の一体改革について、消費税は当然大きな議論になってくる。他の先進国をみても、日本と同じような問題にいろいろと行き当たっているところがあり、消費税の一定水準までの引き上げ、しかも、日本よりも高い水準でやられているのが一般的であると思う。
 日本の場合、経済が大きく拡大して法人税収が大きく増えるのか、長期的にそういう環境が展望できるのかというと、なかなかそれは難しい。日本経済の根底にある問題として、少子高齢化に現実に行き当たるわけであり、それを直視していった場合、やはり消費税の引き上げというのは、避けて通れない議論だと思っている。
 この議論は、おそらく総論は賛成であるが、各論はどうかということ。この各論のところを、もうそろそろ、どういうタイミングで、どういう経済環境になればどうするのか、引き上げ幅をどうするのか、どこをターゲットにしていくのか、そういう議論をしていく必要があるのではないかと個人的には考えている。WhatというよりもHowの議論をスピード感を持って進めていく必要がある。6月が良いのかは別にして、検討の期限を区切っておられるので、大変深度のある議論と、国民に対する説明を行っていく必要があると思っている。
 足許のGDPの話については、数字はともかくとして、緩やかに回復していることは間違いない。ただし、外部環境等の不安定要因もあるから、今後、その動きがどう続くのかということについては、まだまだ難しい部分はあると思う。例えば円高の影響というのは一般的に遅れて出てくるし、輸出が今後どのように伸びていくのか、そのスピードが落ちるのか、といった問題がある。また、アジアについては、中国は過熱気味であるという議論もあるが、これが成長していくことはまず間違いないし、中国を中心としたアジア各国、いわゆる新興国は成長していくだろうし、それをどのように我々は取り込んでいくのかによって成長の見方も変わってくる。
 国内をみてみると両方の意見がある。このお正月ぐらいに、いろいろとお客さまにお会いして話す機会があったが、多くの方は私が思っていたよりも、少し良い話をしている。日銀による足許の見方に関する話が出たが、そういうことを併せて考えると、少し良いのかな、少し暖かみを増しているのかな、というような感じを持っている。数字的にも、鉱工業生産の計画、設備投資の計画等を見ると、少し持ち直してきている。まだ自律的な成長回復過程に入っているとは言い難いが、そういう方向でゆっくりと進んでいるというのが、数字を離れたところでの実感である。


(問)
 中国工商銀行がアメリカの小さな銀行を買収し、中国の金融機関も存在感をかなり高めている。一方で中国の銀行の開示状況とか規制が不透明と言われていて、不良債権も国がカバーするからイコールフッティングとは言えないと思うが、そういった中国の銀行が国際業務を本格的に展開することについて、会長はどのように思われるか。また、そうした取組みを進めるうえでの条件はどういったものか。
(答)
 中国がGDPで日本を抜いて世界第2位の大国になる。そういう流れの中で、金融も力をつけていき、中国経済と中国の金融機関がグローバル化していく。これは自然の流れだと思う。そういうなかで工商銀行さんが、確か香港のバンク・オブ・イーストアジアの米国子銀行を買収されるというニュースだったと思うが、それもある意味で自然の流れ。したがって、大きな買い物というよりは、中国に関係ある香港の銀行から、そういう話があって買収をされたというのは、第一歩としては静かに米国に入り、国際化の布石を打たれたとの印象を持った。しかも胡主席が米国を訪れたタイミングでそういうことが発表されたということだから、当然、政治的な演出も考えてやっておられるということだと思う。
 工商銀行の株主が中国の政府関係で70%以上占められているじゃないか、それはどうなんですかとご心配されている点については、これは公の金融機関が、民間銀行で担える業務をどんどん海外でやるんですかという質問にも通じるかもしれないが、これは中国の特質なので、彼らの認識で言えば自分たちは民間銀行だという認識なのだろうから、それはむしろ米国の当局がどう判断していくかということではないかと思う。
 このように、巨大な中国の銀行が海外へ出ていくということは今後も予想され、そうした動きをわれわれも見ていく必要があるだろうし、そこでの活動等については、現地の当局もよく見ていく必要があるということではないか。


(問)
 為替デリバティブについての質問が二つある。
 先ほどの会長の回答で、個別企業の実態に即して法律の範囲内で具体的な解決策を提示することが大切であるという発言があったが、具体的に、例えば、資金繰りに窮する中小企業を中小企業金融円滑化法にもとづき資金繰りの面倒を見る、といったことを含むのか。
 もう一つは、実際に「為替デリバティブ倒産」という言葉もあり、倒産事例の取材をしてみると、メインバンクが執拗に為替デリバティブの契約を迫ったとか、あるいはメインバンクが新規融資とセットでデリバティブを売り込んだ、という未確認情報もあり、事実ならば優越的地位の濫用になると思うが、全銀協としてそのような事態を把握しているか。
(答)
 デリバティブにもいろいろな種類があるので、具体的な解決方法というのは、それぞれのケースによって変わってくると思う。例えば、オーバーヘッジした部分を解約するときには、その解約清算金の融資に応じるなど、案件の状況・ニーズに具体的にもっと踏み込んで話を聞いてください、ということを申しあげている。それで解決できない場合にはADR、さらにADRであっせん打ち切りということになれば訴訟ということにもなるかと思うが、そういうことにならないように、できるだけいろいろなかたちで、会計原則等を含めて法令の許す範囲内で踏み込んで話を聞いて対応してください、と私の立場で申しあげている。
 それから、具体的な事例については、全銀協としては把握していない。ただ、全銀協のADR・紛争解決機関である、あっせん委員会でそういう話を聞き、対応している。弁護士を含む、あっせん委員会のメンバーが具体的に対応しており、全銀協としてあっせん委員会の判断に立ち入っているということはない。


(問)
 先月に続いて政策投資銀行に関する質問だが、本日午前中の自見大臣の会見で、「本日の閣僚懇で政策金融に対する議論があり、国際協力銀行だけではなく政策投資銀行等のいろいろな意見もありました」と発言し、「官民のベストバランスを考えないといけない」というような言い方で、従来の路線の見直しを示唆しているのではないかとも読み取れるような説明をした。それは何かというと、「11年度の末を目途に日本政策投資銀行の株式売却つまりは民営化プロセスが凍結されているのだけれども、それをどのように考えているのか。前政権が行ったことではあるが現政権はどのように考えているのか」と私が質問した際に、「ちょうど今日、閣僚懇で話があったのですよ」という無防備といえば無防備なご発言があった。私は、すぐに答えを求めずに、次回の会見のときにまとめてお答えくださいとお願いして終わったが、会長としてはこの日本政策投資銀行の問題に対して、担当は財務省だと思うが、金融制度のあり方を担当する大臣にはどういう答えを期待するか。
 もう1点、為替デリバティブのことであるが、これだけ損失が拡大したのは非上場企業にヘッジ会計が導入されていないからであると考えている。上場企業にはヘッジ会計が導入されているので期末にはマーク・トゥー・マーケットで損失に区切りがつくが、中小企業、非上場企業はそれがないので損失が期を超えて膨らんでいくということだと思う。会計制度ではこれは出来上がってないが、デリバティブはこれからも金融機関の主要な商品であると思うので、その売る立場として、そういうような観点からの議論がこれからあっても良いと考えているか。
(答)
 政策投資銀行の話は非常に微妙な話であり、軽々にコメントするわけにはいかないと思っている。(官民)どちらに行くのかよくわからず、前政権ではゆうちょ銀行については民営化を進めたが、政策投資銀行に関しては株式売却を凍結したという動きがあり、ちぐはぐな動きが二つ重なった。新たな民主党政権は、日本郵政の株式売却も凍結した。日本政策投資銀行の問題と国際協力銀行の問題は、私は少し違うものだと前から申しあげている。日本政策投資銀行は基本的には国内の融資を行っているが、国内の民間金融機関との関係において言えば、官業であったことを踏まえ、まずは民業の補完に徹するというのが出発点である。全てはそこに戻って考えるべきであると考えている。ただ、民というものを一回目指し、今はどちらの方向に行くのか疑心暗鬼になりかねないような状態にある。大臣のご発言の詳細を存じておらず、真意が分かりかねるので、次回そのことを聞いて頂ければと思う。それをお聞きしてから、私どももコメントさせていただきたい。
 為替の問題に関しては、デリバティブ一般において、リスク商品であるのでそういったリスクというものを、想定できる範囲内でお客さまにしっかりと説明していくことが原則である。それを徹底していかなくてはならないと思っている。先ほども質問にあったように、その販売が優越的地位の濫用に当たらないかどうかという問題も念頭においていかなければならない。お客さまの役に立つと考えたことが、結果的にそうならないこともあるので、説明責任をきっちりと果たし、そしてお客さまが本当に理解されていたかどうかということを書面にきっちりと残していく。その点が後々の紛争の場合には焦点になることが多いようなので、そういった意味でのお客さまに対する説明責任を果たすということ。十分理解していただくということ。それから、理解していただいたことを示す書面を残すということ。これは、非常に大事なことでお互いのために必要であると考えている。