2011年11月17日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、中小企業金融等の円滑化に向けた取組みについて、本日の理事会で、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 わが国経済や中小企業を取り巻く状況を踏まえ、銀行界として適切に金融仲介機能を発揮し、中小企業等の資金需要や返済条件変更等のお申出に真摯に対応し、金融の円滑化に全力をあげて取り組むことを申し合わせたものである。
 2点目は、ゆうちょ銀行の全銀協への加盟についてである。
 ゆうちょ銀行から、「特例会員」として全銀協へ加盟したいとの要請があったため、理事会において審議し、去る10月27日付けで加盟を承認した。
 特例会員とは、振り込め詐欺やマネーローンダリング等の業務機能に関連した情報連絡を受けることが出来る会員資格である。
 なお、今般のゆうちょ銀行の加盟にかかわらず、郵政改革関連法案への反対姿勢をはじめとした郵貯問題への従来からの全銀協のスタンスは不変であることを、念のため申し添える。
 事務局からの報告は以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 オリンパスや大王製紙など上場企業のガバナンスを問われる事案が相次いでいる。銀行を代表する立場としてこの問題をどう感じているか。それに関連して、民主党では、社外役員を設置することを義務付けるなど、法的対応でガバナンスを改善する仕組みを作ったほうが良いのではないかという議論が始まっているが、この動きに対してはどう感じているかを伺いたい。
(答)
 通常は個別案件に対してはお答えしないというのが原則であり、一般論としてお聞きいただきたい。
 ご指摘のようなコーポレートガバナンスを問われる事案が、矢継ぎ早に発生している。私自身の感性ではあるが、いまだにこんなことが起こるのか、という驚きと、上場企業の経営陣の一人として、やるせない思いを持っている。
 質問の趣旨であるコーポレートガバナンスの強化については、過去にエンロンの事例があった。あの当時アメリカでは、コーポレートガバナンスの強化に取り組まなければならないということで、一気に強化されたという印象を持っている。
 ガバナンスの強化については、ハードウェアとソフトウェアの二つの論点がある。ハードウェアとは、枠組みのことであり、上場企業に要求される独立役員制度や、監査役設置会社における社外監査役の活用、内部統制制度の活用など、様々な制度がある。ご指摘の社外取締役の設置についても、そうした制度の一つだと思っている。非常に多様な制度があるなかで、それらの制度をいかに企業に植えつけていくのかということが、ハードウェア、枠組みの論点である。一方で、枠組みだけを整えればコーポレートガバナンスが向上するかというと、それだけでは駄目である。ソフトウェアの世界、これは経営風土、企業風土と言い換えられるかもしれないが、それらを高めていく努力というものが非常に大事になってくる。
 企業経営においては、執行する立場とそれを監督する立場がある。経営者は、通常は執行する立場にあるが、執行する立場において遵法精神、コンプライアンスというものを一生懸命守っていこうということを原点に持って、情報開示、透明性の向上にしっかりと取り組まなければならないという企業風土がないといけない。また、例えば監督する立場にある社外役員が、チェック機能や監督機能を果たそうと行動すること、それを許容する企業風土も必要である。こういったものが整って、初めてコーポレートガバナンスというものが向上していくことになると思っている。
 日本の上場企業のコーポレートガバナンスについては、相応の水準にあるとは思うものの、ご指摘のような事案も起こっていることから、もう一度、原点に戻って見直す必要があると感じている。


(問)
 本日、公表された円滑化の取組みに関連する質問になるが、来年3月末で金融円滑化法の期限が来る。現時点において、銀行界としては再延長したほうが良いと考えているのか、あるいは法律の延長はしないほうがいいとお考えなのか。見解をお聞かせ願いたい。
(答)
 金融円滑化法は時限立法であると理解しており、今年の3月に1年の期限延長がなされている。法律に記されている内容、特にお客さまからリスケを要請された場合は丁寧に対応していくという点や、経営改善に向けたアドバイス機能をしっかり果たしていく点は、銀行の本来的業務であると思う。法律の施行から約2年、各金融機関がこれらの機能を強化する等、各銀行は相当程度努力してきたと思うし、法の考え方は十分に根付いてきているという感覚はある。
 法律が延長されるか否かに関係なく、金融界としては、金融機関としての原点である本来的業務に関する体制は当然に維持していく。特に中小企業の金融円滑化に対しては、社会的使命として全力を挙げて対応していくスタンスだと思う。


(問)
 銀行決算がほぼ出揃ったので、9月中間の概況の見方をお聞きしたい。
(答)
 全体としてみれば、ボトムラインは増益になっているので、決して悪い決算ではなかったということではあるが、一方で、それほど良好な決算だったのかというとやや疑問もあるという決算ではなかったかと思う。トップライン、中心は資金収益であるが、これが大幅に伸びているところはない。やはりそこは金利低下局面で苦戦をしている。もう1点、株の減損で大なり小なり被害を被った。そういうアゲインストの風を打ち返したのが国債の売買益と与信関連費用の減少である。資金収益の低迷と株の減損、国債売買益の大幅増と与信関連費用の減少を比べて、後者が前者を上回った結果、増益になっているということである。しかし、本質的に非常に良好な決算というのは、トップラインも伸びながら、拡大均衡の中で増益という形である。そうであれば非常に喜べるが、少なくともこの上期を見る限りそういう状況ではない。これは、全体としてもそうであるし、三菱東京UFJ銀行としてもそうだったと総括できると思う。


(問)
 欧州危機についてお伺いしたい。イタリアの国債金利がかなり上昇して、フランスの国債もかなり売られている。そうしたソブリンリスクに対する信用不安が広がるなかで、日本の国債は比較的安定しているとは言われているが、一方で、日本の銀行がかなり保有しているために、金利が上がったりとか価格が下がったりとかすると損失が膨らむというリスクもあると思われるが、どのようなリスク管理をされているのかお伺いしたい。2点目は、これに関連して今回のソブリンリスク問題を踏まえて、日本の国債への信認度合というのがどう影響してくるのか、中長期的に見てご意見を伺いたい。
(答)
 日本の国債に対する信認は失われているわけではない。現実に8月に格下げが起こったけれども、価格は微動だにしなかった。むしろ買われている。米国の国債も同じである。国債の価格は、国に対する信頼感と需給関係から決まるのではないかと思っている。少なくとも相当程度の間、日本の国債が売り込まれるということは想定し難い。日本では、国民の担税能力というのがまだまだある。例えば消費税は、通常の国では20%を超えている。仮に日本の消費税をその水準に持っていけば、プライマリーバランスの問題等は十分クリアできる。グローバルベースで比較して、日本にはそういう余力が十分あるという眼で見られているということである。
 もうひとつの需給バランスについては、決算のコメントでも申しあげたが、現在、企業の資金需要が決して強くない一方で、預金は着実に伸びている。この状況で資金の取り手は、国というか公であり、そこに資金が流れるということだ。日本の国債というのは、95%が日本国内で消化されているが、これは、間接金融を経由して、国民が国債を買っているということであり、そう簡単に売り込まれるというような構図ではない。また、資金需要がない時には、金利はなかなか上がらず、国債価格が下落しないということもプラス要因であろう。
 また、日本の銀行は、保有株式を減らそうと努力はしているが、依然として結構な水準で持っている。債券保有には、もちろん日銀に対する担保といった目的もあるが、債券価格は株価と負の相関があるため、ある程度、株と債券でリスクを打ち消し合わせるという狙いもある。そういう力学のなかで、今の日本の国債というのは買われていると、私自身は理解している。
 ただ、問題は、中長期にみた場合、今の力学が崩れるのは、どういう時なのかということだと思う。今は、個人の貯蓄、少なくとも預金は、テンポこそ鈍化してはいるが着実に増えている。少子高齢化の進展により、これが止まった時にどうなるのか、ということだろう。そういう状況が来るまでに、担税能力の発揮等によって、プライマリーバランスの均衡までは間違いなく達成できるというような確証が必要である。しかし、逆を言えば、そういう状態になったときには、外国勢が日本国債を買わないと需給バランスが厳しくなる。国内の預金が増えず、むしろ減少に転じた際には、国内勢の国債購入余力が低下してくるため、それまでに、いろいろな解決案を出していくべきであると思う。
 個別銀行としてのリスク管理面であるが、日本国債を保有することによって生じるリスクの大きさについては把握している。日本国債のみならず、米国国債を保有する際も必ずそのような管理を実践している。リスク管理の手法は様々だが、月次のみならず週次でもチェックしている。ストレステストも併用しながら、いざというときの動き方のシミュレーションはできている。相場が乱高下する世界では、必ずしもシミュレーションどおりに行動はできないかもしれない。しかしながら、そのような状況ですら、耐えられる水準を示すのがストレステストである。少なくとも当面の間は、大きな危惧の念を持っているということではない。


(問)
 オリンパス問題に関し、メインバンクのトップから「見抜けなかった」という発言があったが、一般論として、企業経営の透明性や健全性を確保していくうえでのメインバンクの役割や責任につき、お考えをお聞きしたい。
(答)
 20~30年前のメインバンクであれば、相当程度、取引先企業の経営面も知悉し、指導もしていたと思う。これは、当時の企業経営にとって、間接金融の果たす役割が大きかったことが背景にある。少なくとも、私が過去に、直接お客さまを担当し、当時「貸付」と呼ばれていた業務を行っていた頃はそうであったと思う。
 ただし、現状における間接金融の役割は、特に大企業においては、資本市場が機能しない局面では大きな役割を果たすものの、全体としては、その影響度は相当に低下している。そういったなかでも、メインバンクであれば、それ相応の経営面での指導はやっているが、相対的に見れば昔ほどではない。
 少なくとも、取引先企業から、あらゆる資料を徴求し、分析しているわけではなく、そのようななか、ある意味で一種の粉飾のようなものを見抜くのは、かなり難しいのではないかと思う。財務諸表だけをとっても、簡単に提示を受けられるものではなく、また、その一つ一つを掘り下げ、非常な注意を払ってチェックした場合と、隆々たる企業に対する通常の分析とでは相当に異なる。
 こういった力学の変化から、いわゆる優良企業といわれる先には、メインバンクと言っても、さほど経営の根幹まで知悉しているわけではない。
 今回に関し、私共が圧倒的なメインバンクであっても、見抜けたかというと、自信はない。そういう状態だと思う。


(問)
 オリンパスに関しては、昨日、約40社の金融機関を集めた説明会が開催され、当社の現状や今後の見通し等に関する説明、支援継続に関する話もあったと思うが、どのように受け止めているかご見解をお願いしたい。
(答)
 昨日の説明会に関する報告は受けているが、その内容は本日の報道内容の総和以上のものではない。
 したがって、説明会の内容は、既に相当詳しく報道されていることから、繰り返しになるかもしれないが、まずは今回の一連の事件の経緯、経過説明があったと認識している。説明内容については、現在第三者委員会が調査中であることを踏まえれば、個別の具体的な情報開示は難しく、また、開示すべきでないなか、可能な範囲の事情説明をいただいたと思う。
 そのうえで、現在の事業状況や資金繰り、業績に関する説明があり、かかる内容を踏まえ、銀行団・金融団に対し、支援継続のお願いがあったというのが全体の流れと理解している。
 昨日段階の説明としては、これが精一杯であったと理解しているが、やはり次の段階では、第三者委員会の報告が銀行団にとっても非常に重要と認識している。この問題は多方面から注視されており、上場問題やSESC、刑事罰の問題などが関係する。これらあらゆることに影響するのが、この第三者委員会の報告であることから、やはりその報告を待つというのが普通の考え方ではないかと思う。
 昨日の説明会は、かかる報告には時間を要するため、銀行団に対し、事件後の全体的な説明機会を設けたものと理解しており、次のポイントは、第三者委員会の報告が出た段階で、どのような説明を頂けるのかということとともに、関連当局の対応をどのように考えていくかだと考える。


(問)
 昨日の説明会では、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行から、「状況を見て支援する」との趣旨の発言があったと聞いているが、あくまでも、第三者委員会の報告を見てから支援姿勢を決めるのか、それとも、その内容にかかわらず、できるだけ支援していくという姿勢を示したものなのか。
 また、例えば、第三者委員会の報告において、反社会的なことがさらに明らかになった場合の支援姿勢に関する見通しをお聞かせ願いたい。
(答)
 何か事件が起こり、その企業が大変な状況になっているときに、金融機関を集めた説明会などで、メインバンク・準メインバンクが支援姿勢を出さなければ、銀行団としてまとまらない。これは常識的にメイン・準メインの責任だと認識している。かかる段階において、支援しないと表明することはありえず、精一杯企業を支えていくという意向表明をするのが普通であり、当然だと考えている。
 ただし、このような対応とその後の対応の関係性について申しあげれば、言及されたような反社会的な問題など、いろいろなことが判明し、看過できない問題を認識すれば、当然のことながらそれ以上の支援はできないという流れになる。
 先ほど申しあげた第三者委員会の報告や当局の動きを注視しているというのはそういった意味であり、引き続き支援ができる状態が継続して欲しいと考えるが、一般論としては、看過できない要素が出てきた場合には当然に今までとは異なる判断をするということである。


(問)
 11月初めのG20で、G-SIFIsの対象が公表されているが、このメンバーを見て、どのような印象を持ったか。また、日本からは3メガが選ばれている一方で、野村證券や大和証券などの大手証券は入っていない点についての印象は如何か。
(答)
 去年の秋頃、G-SIFIsの考え方が導入される流れが出てきて以来、選定先について色々な憶測が飛んでいたが、5つの要素を考慮して選ぶということだったので、そういうメンバーになるであろうと思っていた。我々も各項目の概要が分かった段階では、野村證券、大和証券は入らないであろうと思っていた。したがって、違和感のない結論であったと思う。


(問)
 先日、預金保険機構内に預金保険料率の中長期的なあり方を議論する調査会が設置されて議論が始まったが、来年度も含めて中長期的なあり方ということで、この議論に期待するようなご意見があればお伺いしたい。
(答)
 ご指摘のとおり、預金保険料に関する調査会の議論が始まったのは事実である。預金保険料率というのは、1996年、もうずいぶん前になるが、15年前くらい、日本は大変な金融危機で責任準備金も底をついて、マイナス残が増えていった。その時に預金保険料率が0.012%から7倍の0.084%という水準に引き上げられ、そのままの料率が現在まで維持されている。料率引き上げの過程は、われわれ金融界が、不良債権処理で大変な赤字を出し、破綻する金融機関も出る等、泥沼から這い上がっていく過程だった。そうしたなかで、一般勘定の責任準備金は、ピーク時4兆円まで赤字になった。政府保証を講じた借入や預金保険機構債の発行で、金繰りはつくが、PLやBSは厳しかった。その4兆円を預金保険料で徐々に消してきた過程というのが、この十数年間であった。昨年度、平成23年3月期でやっと黒転したわけである。マイナス4兆円からプラスに転じたというのが客観的事実である。したがって、今回も日本振興銀行の件等もあるが、やはり今年度末もさらに責任準備金は積み上がるといことは紛れもない事実である。したがって銀行界としては、非常事態における料率なのだから、どうしても下げてほしいというのは当然の要求だと思う。
 もちろん、預金保険制度の問題というのはいろいろな考え方があることは承知している。現在は、例えばアメリカやヨーロッパなどは、逆に保険料率を上げようとしている。そういう全体の流れもあり、最初はある程度の水準まで積んで、そこから考えようという論理もあるだろう。中長期という概念から言えばいろいろな考え方があると思う。料率についても、一律ではなくて可変料率という考え方もあるだろう。こうしたいろいろな考え方を議論するというのが、調査会である。そのメンバーには、銀行は入っていないが、ヒアリング等の場で、我々は意見を述べようと思っているし、少なくとも0.084%という水準自体は、絶対水準の問題ではなく、例えば業純に占める預金保険料の割合等を考えると、やはり世界中でも一番負担が重いのではないかと理解しているので、そういう面からの主張は申しあげたいと思っている。ただ、最終的に我々に決定権はなく、調査会の報告をベースに預金保険機構等が決定されることである。しかし、われわれの意見は意見としてしっかりと申しあげていきたいと思っている。