2012年11月15日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 中小企業金融等の円滑化への取組みについて、本日の理事会で、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 わが国経済や中小企業を取り巻く状況も依然として不透明感があり、私ども民間金融機関としても、関係当局と引き続き緊密に連携しながら、適切に金融仲介機能を発揮し、企業の資金需要に円滑に応えていく必要がある。
 また、先般の金融担当大臣の談話にもあったとおり、中小企業金融円滑化法の期限到来後においても、お客さまからの貸付条件変更等のお申出については、引き続き真摯かつ丁寧に対応していく必要がある。
 とりわけ、年末に向けては、企業等の資金需要が高まり、中小企業金融が逼迫しやすくなる時期であることから、銀行界としても企業等の資金需要に前向きに対応し、金融の円滑化に全力をあげて取り組むことを申し合わせたものである。
 事務局からの報告は以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 昨日までに大手金融機関の中間決算がまとまったが、良い点も悪い点もそれぞれあったかと思うが、総括と通期の見通しについてお聞かせいただきたい。
(答)
 全銀協として、とりまとめが完了していないため、ご質問にあったとおり、大手行についての傾向ということでお話したい。
 国内貸出については、ご承知のとおり、残高を増やしていく状況にはなく、利ざやについても縮小傾向にあるなど、環境は決して良くなかったと思う。一方、アジアを中心とした海外向け貸出をかなり伸ばしたことに加え、市場部門においても、低金利環境の中、国債等の債券売買益を大きく計上できたことから、全体としては、まずまずの水準であったと思う。しかしながら、ご承知のとおり、9月末の株価低迷により、各行とも多額の株式の減損を計上し、これが全体の収益の足を引っ張ったということが、中間決算の総括ではないかと思う。
 今後の見通しについて申しあげると、国内の資金需要については、引き続き強い要素は見当たらない。先般、7~9月の日本のGDP速報値が発表されているが、設備投資が大幅なマイナスとなっており、引き続き非常に弱い状況が続くのではないかと考えている。加えて、消費についても、エコカー補助金の終了の影響等からマイナスとなっており、消費関連ビジネスについても若干弱含みである。こうしたことから、国内貸出については、引き続き苦しい状況が続くであろうと考えている。一方、海外についてはアジアを中心に、おそらく継続して貸出残高を伸ばしていくであろうと考えている。欧州の状況は変わっておらず、アメリカについてもオバマ大統領が再選されたことで、銀行に対する規制強化や財政の崖の問題があるため、海外における本邦金融機関のビジネス面でのアドバンテージは続いていくと思う。したがって海外部門の収益は引き続き大きく伸びていくであろう。市場部門については、かなりの低金利の状態が続いていることから、上期と同じような収益は期待できず、むしろ保守的に見ておいた方が良いであろうと思う。以上を踏まえ、全体として申しあげれば、国内が弱く、海外が非常に強く、市場部門は上期ほどではないというところではないかと考えているが、株価が9月末に比べどのような動きを示すのかによって、株式の減損が戻るのか増えるのかということが下期の業績を左右する大きな要素となるであろうと考えている。ただし、株式市場のことについては、今の段階では何とも言えないが、今のところ、これ以上大きく下げていく要素はあまり見当たらず、株式の減損についてはニュートラルと見て良いのではないかと考えている。下期において、我々の収益を上げていくためには、やはり、成長産業あるいは復興需要など、我々自らが需要を創出するというプロアクティブな動きをし、国内の貸出需要を牽引していく必要があると考えている。


(問)
 郵政民営化についてだが、郵政民営化委員会はかんぽ生命の新規業務について出来る限り早く認可する方向で検討している。銀行業界としては、これに対してどのように考えているのか、改めて伺いたい。
(答)
 生命保険業界の話であることから、直接コメントする立場にないが、ゆうちょ銀行の新規業務の問題についてという質問に変えて、お答えさせていただく。
 何度か共同声明を発出しているが、今のところ日本郵政の民営化スケジュールは示されたものの、金融2社の民営化の具体的なスケジュールは何ら示されていない。そのような状況の中で、ゆうちょ銀行が引き続き公的関与の強い金融機関として存在していながら、新しい業務を展開することになれば、我々民間金融機関としては大変大きな脅威となる。また、金融システムそのものにとっても、ありとあらゆる分野において、ゆうちょ銀行の新規業務への参入が非常に不確定な要素をもたらす。そういう意味で、状況は従来から全く変わっていないと思う。
 我々は以前から、ゆうちょ銀行の民営化の具体的なスケジュールを早く示していただきたいと主張してきているが、何ら具体的な答えをいただけていないため、ゆうちょ銀行の新規業務については一切認めるわけにはいかないというのが、引き続き全銀行界の強い意思である。加えて、以前から申しあげているが、ゆうちょ銀行の経営の抜本的な効率化、あるいは民間金融機関としてのリスク管理やガバナンスの問題等について、しっかりとした態勢で業務を行えることを示していただかないと、ゆうちょ銀行個別の問題ではなく、日本の金融システムの脆弱性という問題に直結する恐れすらあると考えている。先般、金融庁もゆうちょ銀行にそのような趣旨の指摘をされているところでもあり、しっかりと国民に分かるように説明していただきたい。
 また、私の認識するところでは、8月以降、民営化委員会の議事録については全く公表されていない。郵政民営化の議論は国民一人一人にとって大切な問題であるため、可及的速やかな公開を強くお願いしたい。本日午前中の民営化委員会において、西室委員長から可及的速やかに議事録等の公開を進めるとお約束をいただいているため、民営化委員会の中で、どのような議論がなされているのかということもしっかり拝見したうえで、先ほど申しあげたような様々な観点から、ゆうちょ銀行が新規業務を行うことが本当に国民経済にとって認められるべきか否かについて、しっかり検討・議論していきたいと思う。繰り返しになるが、ゆうちょ銀行の民営化スケジュールが何ら示されていない段階では、どのような新規業務も一切認めるわけにはいかないというのが我々の強い想いである。


(問)
 インターネットバンキングの不正送金についてだが、みずほ銀行を含めて大手銀行で様々な被害が出ているわけだが、預金者がインターネットバンキングの利用を控えるといった動きが予想される。この事件に対する会長の受け止めと、今後の銀行界としての対応を伺いたい。
(答)
 インターネットバンキング偽画面を使った不正送金により、実被害が出ていることは極めて遺憾である。
 銀行のシステム面のセキュリティ対策について申しあげれば、例えば、みずほ銀行では、可変式のパスワードに加え、アクセスするパソコンやネットワークが通常と異なる場合には、予め決めてある「合言葉」を要求する「リスクベース認証」や、ご希望されるお客さまに対して「ワンタイムパスワード」を有償で配布するといったサービスを提供している。各行においても、それぞれ様々な工夫を行い、適切にセキュリティ対策を行っていると認識している。
 しかしながら、ご承知のとおり、インターネット犯罪の手口は非常に巧妙化していることもあり、銀行のシステム面のセキュリティ対策の向上については、引き続き不断の取り組みが必要であると考えている。
 また、今回の事件に関しては、お客さまのパソコンをウイルス感染させて、パスワードなど本人認証情報を騙し取る手口であり、お客さま自身にご注意いただくことも、極めて重要である。
 全銀協としては、10月29日に会員各行に対して通達を発信し、「各行のインターネットバンキングの状況を絶えず注視し、利用者向けの注意喚起を図るなどの適切な対応をとること」を徹底したところであり、会員各行において、ホームページや電子メール等により注意を呼びかけているところである。
 本事案は、極めて重大な犯罪行為であり、ウイルスの解析等も含め警察当局と緊密に連携し、犯罪被害防止に鋭意取り組んでいく。
 また、お客さまが被害を受けられたかどうか分らないことも多いため、インターネットバンキングに少しでも不審な点を発見された場合には、速やかに、各銀行の所定のご相談窓口にご連絡いただくことを呼びかけて参りたい。


(問)
 先ほど、会長がおっしゃったとおり、今回の中間決算で明確だったことは、海外事業が大きく伸びた一方で、国内事業が厳しかったということだったと思う。
 今後の海外事業について2点伺いたい。
 1点目は、現在の貸出等のビジネスについては、どのくらいポテンシャルがあり、伸びていくものなのかということ。
 2点目は、20年以上前の邦銀は積極的に海外進出していたものの、結局、国内の業績が悪化したために撤退したという事実があるなかで、一部の大手銀行のトップが「アジアと共に生きる決意をする」といった言い方をされているが、今後の海外への事業拡大の課題と手応えを伺いたい。
(答)
 先ほど申しあげたとおり、環境としては、ヨーロッパの銀行の状況も含め、我々の目の前に広がっているビジネスチャンスは大きく、また、拡大してきていることは事実であると言える。
 特に、アジアについては、コーポレート・ファイナンスのみならず、大型のインフラビジネスに対するニーズがあり、プロジェクト・ファイナンスの機会も非常に大きい。
 加えて、先般、大阪でサイボス(Sibos)が開催されたが、人民元の国際化の流れもあり、アジアの資金流や商流を捉えたビジネス、すなわち、トレード・ファイナンスやキャッシュ・マネジメント・サービス等といった資本やバランスシートを使用しないビジネスも非常に興隆してきている。
 しかしながら、ご指摘のとおり、過去の邦銀の国際展開に対する反省点をしっかり踏まえなければならない。
 その一つは、相対的な優位性によってローンビジネスの拡大のみを行ったことである。景気は周期的に変動するため、景気が良い際は拡大できるが、景気が悪化した際にはリスクが増え、与信コストが増加し、損益が悪化して、一部撤退を行う、という結果になる。こうしたことを何度も繰り返してきたのが日本の銀行の国際化の一つの姿であったと言える。
 したがって、現在、有利な状況であることは事実であるが、我々がしっかりと考えなければならないのは、この機会を捉えて、持続性のある、中期的に成長していけるビジネスモデルや顧客との関係を構築することである。このことがチャンスを活かせるのか、逆に同じ過ちを繰り返すのかということの分かれ目になってくると考えている。
 そのために非常に大切なことは、顧客とのリレーションシップについて短期的な利害で左右されるような関係ではなく、中長期的な関係として築き上げることが特にアジアにおいて成功していくうえで最大のポイントではないかと考えている。バランスシートに余裕がある際には貸出を増やすが、少し苦しくなった際には貸出を減らすという行動ではなく、顧客と中期的な成長戦略を議論し、一緒に成長していくことができる信頼関係を築けるか否かが勝負であると思う。
 この点に関しては、日本の金融機関には、国内において取引先との長い信頼関係にもとづく業務を構築しているという、日本的なビジネスモデルがある。これは、欧州やアメリカの金融機関とは全く異なる点であり、私は、この日本型のビジネスモデルは、特にアジアにおいて十分に通用するものであると考えている。こうした意識を高く持ちながら、日系のみならず非日系の取引先との関係を構築していくことが一つの方向感だと思う。
 もう一つは、日本の金融機関が個社の取引のみならず、制度面を含めアジア市場の育成や発展に対して貢献していくという切り口である。
 先般もお話したとおり、アジアの債券市場は未成熟ではあるが、日本の金融機関は十分な経験とノウハウを持っており、これらをアジア各国に伝えながら、一緒にアジア諸国内の債券市場を作っていくことが可能である。また、プロジェクト・ファイナンスにおいても、ほとんどの日本の金融機関は、エクエーター原則の枠組みに従い、地域社会や自然環境に与える影響に十分配慮して、ファイナンスを実施している。そうしたグローバルスタンダードをアジア市場の中に取り入れていくこと、あるいは、環境や省エネルギーの技術をスマートシティの建設といった形で取引先と共に伝えていくことなど、アジアの国々が受け入れられるファイナンススキームやビジネスディベロップメントを展開していくことも我々にしかできないことである。
 こうした方向感をはっきりと見定め、アジアの中で展開していくことによって日本の金融機関は長く信頼され、その結果として、アジアの中での立ち位置が具体化していくことができるのではないかと思っている。


(問)
 昨日、野田総理が解散の意向を示された。一方の自民党の安倍総裁は、日銀の政策に関して、3%のインフレを目標とさせ、それが達成できない場合は日銀にも相応の責任をとらせる、など、日銀法改正を視野に入れ、さらに積極的な金融緩和を訴えている。この点をどのように受け止めているか、お聞きしたい。
(答)
 日銀の白川総裁は、デフレからの脱却を目指し、実質ゼロ金利政策を継続しながら基金を通じた金融資産の買い入れを拡大し金融緩和を強化するなど、様々な工夫を凝らして金融政策を行っておられると感じている。 先日も、基金の規模が追加的に拡大され、金融機関による貸出をサポートする新しい施策の導入も決定されるなど、様々なアプローチによって、日銀も日銀としての努力を続けておられ、これからも続けていかれるであろうと考えている。
 日銀法の改正についてはコメントする立場にないが、政府が関与を強めるほうが良いのかどうか、という議論であるならば、関与の強化はあまり好ましくないということであると思う。日銀法の主旨を踏まえて言い換えれば、日銀は、中央銀行として金融政策運営を政府から独立して担うとされており、それを尊重することは大切なことだと理解している。安倍総裁も含め、政治の側からそのような要請がなされるのは、つまり、日銀が十分な金融緩和を行っていないと思われていることがベースにあるのではないか。その点について申しあげれば、日銀にとって、一段の金融緩和を行っていく余地がまだあるのかどうか、という議論であると思う。量の問題のみならず、手段の問題として、例えば外債購入なども含め、いくつか残された手段も、議論としてはあるのではないかと思う。
 しかし、より重要なことは、日銀だけではなく政府も含めた両者が共通認識としてデフレ脱却のために必要な施策は何かということをしっかりと議論し、そのなかで、日銀も中央銀行としての役割を果たしていく、ということであると考えている。
 それは、車の両輪と例えられるのではないか。 白川総裁が述べておられるように、日銀として金融緩和をしっかりと継続していく、これは、他の中央銀行とのバランスにおいても必要なことである。その点では、安倍総裁の言っておられることも理解できるが、一方の成長戦略も大変重要なものであるにも関わらず、具体的な実行という面ではまだまだ不十分であると認識している。政府、あるいは我々民間も含め、この成長戦略をより具体的に一歩も二歩も進めていくということも、デフレ脱却や国内の活力再生といった重要な観点から必要となってくると考えており、日銀の金融政策の議論をする際には、絶えず、もう一つのバランスとして、成長戦略の実行ということを議論して進めていくことが、あるべき方向感であろうと考えている。


(問)
 このほどの金融審議会の中で、外銀のセーフティーネットとしての預金保護への加入や、預金保険機構の活用も視野に入れた、保険や証券に対する危機対応策などが大筋として示されているようだが、全銀協として、負担し得る立場として、公平性の立場からセーフティーネットというのはどうあるべきなのか、所見を伺いたい。
(答)
 今のご質問は、二つの議論、すなわち、在日外銀の預金を預金保険の対象に追加するという議論と、G20における検討も踏まえ、銀行のみならず証券会社や保険会社も含めた形で金融機関の破綻処理の枠組みを構築するという議論を指しておられると捉えてお答えする。
 まず、前者については、基本的には、国内の預金者保護という観点から検討を進めるべきものであると思う。ただし、海外の銀行の破綻処理にあたって、日本の金融機関が納めた預金保険料が充てられるということも考えられるため、そうした点については、慎重に検討することが必要と考えている。もちろん、預金者保護は非常に重要なポイントであることから、それを中心に据えたうえで検討すべき課題と考えている。
 後者の、保険会社・証券会社も含めた破綻処理の枠組みについてであるが、これについては、ご承知のとおり、先般金融庁から一つの考え方が提示されたところである。この背景には、破綻時に非常に大きな影響を与える金融機関については、予め破綻処理のスキームを構築しておく必要があるというグローバルな議論がある。日本の場合、銀行については預金保険制度があり、これまでも、実際の破綻処理の中で、預金保険機構を活用した手続きが行われてきた。しかし、G20における議論、あるいはFSBの「実効的な破綻処理枠組みの主要な特性」という考え方の中では、銀行のみならず、証券会社や保険会社も含めた破綻処理の枠組みをどのようにするのかといった点が議論されている。加えて、破綻処理のトリガーはどうするのか、また、「ベイルイン」といった考え方も含めて、破綻に伴う費用負担はどうするのか、さらには、デリバティブ取引の早期解約条項の発動を停止する必要があるのではないか等、様々な観点からの議論が行われている。このように、非常に複雑な問題について、グローバルに決めていこうとしているなかにあって、金融庁が一つの考え方を示されたことについては、我々としても十分に理解することができる。
 しかしながら、実際に証券会社あるいは保険会社等も対象に含めたうえで、異なる業態に跨る破綻処理のスキームを整合的に作り上げていくためには、かなりしっかりとした議論が行われなければならないと感じている。先ほどいくつかの論点について申しあげたが、そのなかでも特に費用負担については、おそらく大きなイシューになってくるのではないかと思われる。今般、こうした点についても、金融庁から一定の方向感が示されたが、今後、各業界も含めた議論が展開されていくことも想定されるが、その際には、我々銀行界としても、既存の預金保険制度との整合性等といった観点も含め、しっかりと議論をしていきたいと考えている。


(問)
 解散総選挙と関わるが、民主党政権になってこの数年で消費増税の導入あり、さきほどおっしゃった成長戦略とか、まだ民主党政権が終わるとは決まったわけではないが、民主党政権の経済政策の総括、振り返りをお願いしたい。
(答)
 民主党政権といっても、総理大臣によって異なる面もあり、一概に括ることは難しいため、野田総理の民主党政権ということで申しあげたい。消費税増税に際しての野田総理の行動、考え方、あるいは今回も同じであるが、「しかるべき時期に国民の信を問う」という発言など、総理は自ら発せられた言葉や議員定数是正、特例国債なども含めて、約束されたことをしっかりと実行されたと考えている。海外の投資家等が、「野田総理は、近年初めて意思決定を自ら行うことができる総理である」と言っていたことを覚えている。それは日本経済にとって一つの信頼の証であったと考えることができるのではないか。
 一方、党内の意見が必ずしもまとまらないなどのケースもあり、ご苦労されたこともあったと理解しているが、これらのことは、初めて政権を担った政党として、起こり得ることではないかと、振り返って考えているところである。


(問)
 融資先が経営難になった時、かつては貸し手責任ということでメインバンクの責任が問われたが、最近の例を見ると、メインがしっかりとガバナンスを効かせられない、デッドホルダーとして意見を言いにくい、といった事象が発生しているのではないか。かつては設備投資をする時、未来まで予測してはっきりとこんなのでは駄目だと駄目だしを何度もして、設備投資計画をオッケーしたというファンディングがあった。貸し手責任というよりもメインのガバナンス機能の低下ということが、昨今の電機業界の状況につながっているのではないか。
(答)
 ご指摘いただいているとおり、メインバンクの立ち位置は、以前とは大分異なってきていると思う。以前は、メインバンクが相応に意見を取引先に対して申しあげ、あるいは将来の業界での立ち位置などを取引先と議論し、そのなかで設備投資計画や事業計画を策定していった時代が確かにあったと思う。
 その後、日本の産業界が非常に強くなっていく過程で、金融機関はバブル崩壊後の処理を迫られて力が落ち、一方で、産業界の力が相対的に強まった結果、以前のようなメインバンクのポジションが、かなり変わってきたということは、事実だと思う。
 ただし、だからと言って、企業が策定した設備投資計画に対し、我々が後追いで融資しているかと言えば、それは全く違う。どの業界についても言えることであるが、個別の設備投資計画については、相当詳細な計画をお聞かせいただいているし、また、我々自身の手で、設備投資計画の実行が当社に与える影響について、業界全体の将来性をも踏まえた分析をしたうえで、相当慎重に対応している。
 以前のように、「この設備投資はお止めになった方が良い」ということが言えるような状況であるとは思わないが、逆に融資対応については、審査・リスク管理を徹底して行ってきている。どちらが健全な形かといえば、今のほうが健全な形ではないかと思う。


(問)
 民主党政権で野田総理は比較的決められる人だったという紹介があったが、それまでなかなか決められないということが長く続いてきたと思う。次の国会の構成は分からないが、状況によっては離合集散が続くのではないかという見方が強いなかで、次の政権に求めること、期待することがあればお考えを聞きたい。
(答)
 どなたが政権を担われるかは分からないため、そのことは別にして、金融という観点から申しあげたい。
 おそらく新しい政権が出来ると、新しい成長戦略が策定される可能性があるが、個人的には成長戦略の実質的な部分は、すでに出来ていると考えている。経済産業省の審議会の委員として、成長戦略の議論に参加した経験を踏まえると、もちろん様々な考え方はあり得ると思われるが、議論はほとんど尽くされていると感じている。
 重要なことは、それをどのように実行していくのかということである。金融界から見ても、産業界から見ても同じ考え方であると思う。したがって、新しい政権に求めることがあるとすれば、この成長戦略を実際に実行に移していくリーダーシップではないかと考えている。
 例えば、成長戦略の中で、医療、介護、自然エネルギー、ロボットなどが成長分野として挙げられているが、どの分野においても、実際に日本の中でその産業を一つの基軸として、国内の雇用を生み出す施策を実行しようとすると、各省庁に跨った様々な認可、各地域における利害関係者との調整、あるいは、複数の規制が重なるといった課題が生じてくる。それらを一つひとつ解きほぐして、本当の意味での成長戦略のステップを踏むことは、非常に難しい。もちろん、我々を含めた民間の役割も大きいと思われるが、それらの課題を解決し、本来の日本のあるべき姿に引っ張っていくという意味において、政治の力がどうしても必要であると考えている。
 どなたが政権を担われるにせよ、こうした点について、非常に強く期待したいし、是非お願いしたいと考えている。


(問)
 先ほどの証券や保険に対して公的資金を入れるという金融庁の方針に関する質問で1点確認したい。発言として、「金融庁の方針の方向性については理解できる」という話があったが、これは、公的資金が必要というところに関してのことなのか、それとも、事後の負担の仕方について、今は他業界のところも負担する案になっているが、その点についても理解できるということなのか。
(答)
 先ほどの回答は、枠組みを作っていかなければならないという状況において、金融庁が考え方を示されたことについて、必要なことであり、理解できると申しあげたものである。したがって、負担のあり方に関して申しあげたものではないが、かといって、費用負担の考え方について否定する趣旨でもないため、誤解のないようにお願いしたい。
(問)
 これから議論していくということか。
(答)
 これからじっくり議論していきたいと思う。銀行・証券・保険といっても、例えば、持株会社の下に銀行と証券を有する企業形態もあるため、十分な議論が必要になってくると思う。