2013年5月16日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、「中小企業者等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を一部改定した。
 同指針は、中小企業者等に対する金融の円滑化に係る共有理念として、平成22年7月に制定したものであるが、この3月末に中小企業金融円滑化法の期限が到来したこと、およびコンサルティング機能の発揮等に関する銀行界の取組みに対する社会的な要請の高まりを踏まえて改定した。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 昨日、主要銀行グループの決算が発表されたが、決算についての総括をお願いしたい。
(答)
 2012年度の経営環境を顧ると、前半と後半でかなり様相が変わったという年度であったと思う。前半は、ギリシャの問題等を契機としてヨーロッパの債務危機の問題があって、少し不透明な状況であったが、後半は自民党安倍政権によるアベノミクスの政策発表等によって、かなり環境としては好転した。前半と後半で様相が変化した年度であったと思う。
 私は、当行の中で、2012年度期初において、今年度はアップサイドもダウンサイドもある年だ、ということを言って、年度の運営に臨んだわけであるが、まさにそういう年になったということだと思う。
 全国銀行ベースの計数については、現在、全銀協で取りまとめているところであるので、全体像については、この場で説明できる状況ではないが、昨日、当行を含む3メガバンクが決算を発表しているので、その概略について説明する。
 一言で申しあげると、2012年度決算は、銀行単体・連結ともに総じて期初予想を上回る良好な決算になったと言える。
 中核銀行の業績について、共通する特徴点を申しあげると、まず1点目は、トレジャリー部門の業績が好調で、引き続き高水準の国債等債券損益を計上することができたということ、2点目は、海外ビジネスを積極展開して国際業務の利益が順調に拡大したということ、そして、3点目は、年度後半からの株高、円高修正という影響があり、投資信託の販売が大幅に増加したことなどによって、手数料収益が増加したということである。大体、共通の特徴点を挙げるとそういう状況であると思う。
 ちなみに、貸出の動向であるが、各グループともに海外の貸出金が大きく伸びている。円安による為替換算影響もあるが、各行概ね3兆円前後の増加ということである。それから、国内貸出金、これについても反転の兆しが出てきていると思う。こうしたことから、本業を示す業務純益は堅調に推移したといえると思う。
 次に、クレジット・コストについて見てみると、企業倒産件数が昨年度非常に低水準になったことからも明らかなように、3メガの中核銀行を合算しても合計で1,900億円ぐらいということで、低い水準に留まった。また、国内株式相場が年度末にかけて上昇したこと等から、株式関連の減損損益が上期対比大きく減少した。
 こうした要因に加え、たとえば各社の証券子会社等の業績も株式相場の上昇によって好調となり、グループ会社を加えた連結のボトムライン収益では、3メガを合計すると約2.2兆円ということで、期初予想の合計1.65兆円を大きく上回る決算となった。
 個別行の話になるが、当行でも2012年度決算をもって税務上の繰越欠損金を解消し、法人税の納税を再開できる見込みとなった。思い返してみると、バブル崩壊後の不良債権処理は、財務的には2005年度に黒字化して終わりを迎えていたわけだが、今回税務上の処理も終えてバブル崩壊後の不良債権処理問題というレガシーに一つの区切りをつけることができたのではないかと思う。当時、不良債権処理問題が銀行経営に大きな重しとなっていた時をよく知る者としては、大変感慨深いものがある。


(問)
 日銀の金融緩和に関連する話であるが、日銀の金融緩和から1ヶ月以上たって市場環境が大きく変化したが、これに対する評価をお願いしたい。また、これによって経営環境や実体経済への影響をどのようにみているか、今期の経営環境と業績の見通しをこの緩和を踏まえてお聞きしたい。
(答)
 かなり多くの論点をご質問いただいているので、三つに分けて申しあげる。
 まず、日銀の黒田総裁による異次元緩和に対する評価であるが、4月4日の金融政策決定会合で、黒田総裁が「量的・質的金融緩和」を公表したわけであるが、これは全ての項目において市場の予想を大きく上回るものであり、質・量のいずれにおいても、これまでと次元の違う、まさに異次元の金融政策であると思う。日本経済は、15年近くデフレが続いていたわけで、このデフレ状態から脱却をするために大胆な金融政策を取って、強い意志で臨んでいくということを表明されたものとして、私としても高く評価したい。
 また、先のG20、G7の財務大臣・中央銀行総裁会議でも、今回の日銀の政策の趣旨について各国の理解を得るなど、国際協調を含めた政策運営の面でも高く評価している。今後、日銀としては一段と金融緩和に努力をされるわけであるが、今後2年間で2%の物価上昇という目標を実現するためには、金融政策と合わせて、政府による規制緩和・構造改革などを通じて、日本経済の成長力を高めていくことも必要だと思っている。
 次に、銀行経営、実体経済への影響ということであるが、3点申しあげたいと思う。まず第一に、企業、経営者のマインドが大きく改善したということである。これは個別行の話であるが、先日、日銀の金融政策発表後の企業の動きについて、営業現場で法人のお客さまにヒアリングをしたところ、売上の増加や設備投資の拡大といった具体的な形にはなっていないものの、現場の肌感覚としては、半数以上の企業が、「前向きな変化」を感じているようである。まさに、円高の是正や資産価格の上昇を踏まえた前向きな動きが出始めているということではないかと思う。ちなみに、調査をした企業を100とすると、その約半分が前向きな変化を感じており、1割強は状況が悪化している、残りは変わっていない、という内容であった。
 「状況が悪化した」という企業もあると申しあげたが、円安が進行し、仕入価格が上昇する一方、価格転嫁が進まないので「厳しい」とおっしゃる企業があったのは事実であるものの、今後、実体経済へのプラス影響が広がって、経済の活動が活発化していけば、こうしたお客さまも「前向きな変化」を感じるようになるのではないかと思う。そのためにも今回の異次元緩和を含め、あらゆる政策を動員して、経済全体の成長力を高めていくことが必要であると思う。
 当然、そういった動きになってくれば、設備投資、運転資金需要も増え、いずれ銀行の貸出にもポジティブな影響が出てくる。そうなれば、銀行経営にとってもプラスということになる。
 第二に、資産価格の上昇効果が顕在化しているということである。百貨店の経営者に伺っても、高額商品の販売が増えてきているということである。例えば、絵画や高級時計、一部の婦人服にも動きが出てきていると聞いており、実体経済にプラスの影響が出始めているようだ。また、円高修正や株価上昇によって、銀行のお客さまの投資マインドも改善してきている。例えば、投資信託の販売の拡大を通じて、昨年度の銀行の業績に非常にポジティブな影響が出ているし、銀行のバランスシート、財務面という観点でも、保有株式の減損額の減少や担保価値の上昇といったプラスの影響が出ている。
 第三として、金融機関、特に銀行の運用戦略への影響ということであるが、低金利が長期化しており、基本的には、国債の運用で高い収益をあげることが非常に難しくなってきていると思う。足元の市場は、日銀の金融政策を踏まえた価格調整、リプライシングの時間帯だと見ている。さらに言えば、ノーマライゼーションへの過程だと思う。金融市場は15年近く、デフレを前提に動いてきたので、機関投資家の課題は、遅かれ早かれ「デフレ前提のポートフォリオからの脱却」ということになると思う。そうしたなかで、銀行が今後どのように国債を運用していくかということについては、各行の運用戦略により区々ではあるが、そういう状況に進んでいくのではないかと思う。
 3点目は、今期の経営環境、業績の見通しということであるが、経営環境を一般的に言うと、確かに市場のセンチメントは非常に良くなっていると思うが、欧州の景気低迷の長期化が予想されているなど、世界経済には不確実性が残っている。また、債券の運用についても、収益を大きく上げるということは難しい状況にある。一方で、足元の景気が回復基調にあること、アベノミクスによって、企業・経営者、あるいは投資家のマインドが好転していることはポジティブな要素であり、今後、銀行界の課題は、こういう潮目の変化をどう捉えて、トップライン収益を持続的にどう伸ばしていくのか、という点になるのではないかと思う。
 4月1日の就任会見で、私は本年を、「日本経済が長期停滞から脱却し、力強く一歩を踏み出すよう、金融面からしっかりと支える年」にしたいと申しあげた。もう少し時間がかかるかもしれないが、経済が活性化すれば、設備投資、運転資金需要も増えてくると思うので、我々本来の使命である円滑な資金供給、さらには、貸出需要を創出していくという努力を今後とも続けていきたいと思っている。


(問)
 本日内閣府がGDPの速報値を発表して、経済の回復の基調が見えてきているという反応の一方で、設備投資がマイナスで、まだ盛り上がってきている、あるいは兆しが見えている、という感覚からは遠いのかなという印象がある。そのあたり、会長の見通しとして、回復してくるとしてもどのくらいのペースで、いつ頃かという時間感覚についてどうお考えなのか。
 二つ目は、本日発表された中小企業円滑化に対する行動指針の改定を出された狙いと、どういうところがポイントと考えているのか、問題意識の部分を教えていただきたい。
(答)
 本日公表された1-3月期の実質GDPは、ご存知のとおり、前期比+0.9%、年率でいうと3.5%という4期ぶりの高成長となった。したがって、昨年の10-12月期に底入れした日本経済が、この1-3月期から回復局面に入ったとみて良いのではないかと思う。
 需要項目別に見ると、国内の民需と外需の牽引力が高まっているということだと思う。国内民需では、個人消費が前期比+0.9%ということで、これは6期振りの高い伸びとなった。これを形態別に見てみると、耐久財や半耐久財が大きく増加している。自動車販売は、エコカー補助金が終了して、反動減になっていたが、そこから持ち直している。それから、アベノミクス効果、あるいは資産価格上昇効果ということだと思うが、消費者のマインドが改善して、高額商品や衣料品などが好調に推移していると思う。また、住宅投資も伸びている。
 それから外需を見てみると、輸出が4期振りに増加に転じた。地域別にいうと、EUはまだ低迷が続いているが、やはり底堅い成長が続く米国、アジア向けを中心に回復に向かっていると思う。
 本日発表されたGDP統計を見る限りにおいては、日本経済は各種の下振れ要因が徐々に解消に向かって、いわばアベノミクス効果に支えられながら景気回復に広がりが出始めているという感じだと思う。
 ただ、本日発表された統計では設備投資がマイナスであり、私どもが実際にお客さまと話をしていても、まだ設備投資が力強く出てきているという感じではない。したがって、まさに今回のアベノミクスの三本の矢の三本目である成長戦略、これは6月にまとめられると聞いているが、この成長戦略の策定等を踏まえ、経営者が将来に対する自信を持って臨んで行けば、設備投資は増加に向かっていくのではないかと思う。いつ頃かというのは、なかなか予想が難しい面もあるが、秋頃から増えてくるのではないかと期待している。

 次に、中小企業に対する金融の円滑化の関係であるが、円滑化に対する基本的な考え方というのは、前回の就任会見でも申しあげたとおり、3月末で金融円滑化法の期限は終了したが、我々傘下金融機関の対応、あるいは融資姿勢が変化することはないということである。4月以降も中小企業等に対する金融の円滑化、すなわちお客さまから貸出条件の変更を要請された場合には、丁寧に対応する、あるいは経営改善に向けてコンサルティング機能をしっかり果たしていくといった点については、傘下の金融機関でしっかりと進めているところである。
 先ほど、和田専務理事からご報告させていただいたが、今回、全銀協として「中小企業者等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」を改定した。この行動指針はすでに2010年に制定したものであるが、その後の金融庁の監督指針、あるいは検査マニュアル等の改定であるとか、あるいはABLなど不動産担保や保証に依存しない融資の活用、あるいはお客さまの経営課題に応じた最適なソリューションの提供といった点に対する社会的要請の高まりも踏まえて、金融円滑化法の期限到来後に銀行界が共有すべき考え方を改めて明確化したものである。
 銀行界では、これまでも金融の円滑化を重要な責務・使命と考えて、金融機能の発揮に務めてきたところであるが、改めて本指針の趣旨を踏まえ、中小企業のお客さまの事業の発展、あるいは個人のお客さまの生活向上に必要な信用供与を行うとともに、3月18日に発足した地域経済活性化支援機構を始めとした様々な制度を積極的に活用して、中小企業の経営改善、それから事業再生というものにしっかりと取り組んで参る所存である。
 我々個別行の実績を見ても、いろいろなコンサルティングをすることによって、再生を果たした企業もかなりあるので、やはりこういった取組みを続けていくことが、当然、中小企業の育成ということにつながるし、日本経済の発展ということにつながっていくというふうに思っている。


(問)
 国会のほうで、いわゆる5%ルールの見直しであるとか、マイナンバー制の制定の動きがあるが、それぞれ銀行業界にとってどういった影響が考えられるのかお聞かせいただきたい。
(答)
 まず5%ルールであるが、もともとは今年の1月に公表された金融審議会の報告書で、地域経済の活性化であるとか、企業再生に資する案件に限定して銀行による株式保有制限の緩和が提言され、現在、金融商品取引法等の改正法案が国会に上程されていると理解をしている。5%ルールとは、まさに、銀行の株式保有の上限を5%に規制しているわけだが、今回の見直しは、地域経済に資本性資金の出し手が不足しているという状況に鑑みて、銀行などが資本性資金の供給をより柔軟に行うための環境整備を目的としたものであり、その趣旨はよく理解している。
 一方で、銀行は預金者保護のため、経営の健全性確保が不可欠であり、我々が本制度を利用して株式を保有する際には、当然のことながら、この株式保有に係るリスクを適切に管理していく必要があるわけだが、地域経済の活性化あるいは企業再生に資するという観点から、利用が増加していくのではないかと見ている。
 もともと、銀行の株式保有については、海外の機関投資家から厳しいご指摘も頂戴しており、各行、他のメガも同様だと思うが、銀行が保有している株式の総額については、減少させてきているのが実情である。しかしながら、こういう目的を限定した形で株式を保有していくことは、政策趣旨に沿う意義があるのではないかと思っている。
 次に、マイナンバー制度であるが、社会保障・税番号制度というのは、納税者の所得をより正確かつ効率的に把握するうえで非常に有効な政策であるので、税の公平性あるいは透明性の向上に資する制度だと思う。我々としては、この制度が導入されるにあたって、適切な準備期間を設けてほしいということを要望してきている。現在の法案では2016年1月からこの番号制度が利用される予定となっており、我々の要望を踏まえていただいたものとなっていると思う。
 ただ、これから詳細な制度設計が検討されていくことになるので、我々銀行界としては、実務上対応可能な制度となるよう、しっかりと議論に参加していきたいと思っている。
 将来的な課題ということであるが、今回の「番号法案」というのは、個人番号の利用範囲を税分野等の行政手続きに限定するということになっているわけだが、これについては、個人情報保護に十分留意をする必要があるものの、利用者と金融機関の双方の利便性向上に資する形で民間での活用が認められるよう、将来的には要望していきたいと考えている。


(問)
 今、話のなかで、アベノミクス効果について触れるところがあったが、一方で、金利の上昇や、政府が成長戦略でどのようなことを打ち出してくるかということが見えないなかで、アベノミクスに対して懐疑的な見方も出てきている。政治への注文も含めて所感をお願いしたい。
 また、昨日予算が通ったあとの会見で、麻生財務大臣が、「次は第三の矢で、民間の出番だ」というような話もしている。経済を一歩前進させるためにも、今、一般企業の経営者は何をしなければならないのか。そして、銀行の経営者は何を考えなければいけないのか、教えてほしい。
(答)
 まず、アベノミクスについてだが、今、アベノミクスに対して懐疑的な見方が出てきているとはあまり認識していない。今回、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略という三本の矢が打ち出され、それぞれについて、矢継ぎ早に政策が打ち出されている。その結果、円高が修正され、100円を突破して足元102円に来ている。また、それを受けた面もあるが、株高で、足元1万5千円まで上昇している。去年、野田前首相が衆議院の解散を表明した日の株価が、確か8千6百円台だったと思うので、7割を超える上昇になっている。先ほど申しあげたとおり、企業あるいは経営者のセンチメントは変わってきており、まさに永らく続いてきた日本経済のデフレからの脱却へ向けて、力強く日本経済が進み始めたと認識しており、先々期待感をもって見ている。
 ただ一方で、成長戦略はこれから策定されることになる。TPPへの交渉参加については、すでに進み始めており、それ以外の成長戦略について、まだ私も全貌を聞いているわけではないが、6月に向けてしっかりとしたものが決まっていけば、相当、日本経済は成長していくと思っている。
 2点目は難しい質問であるが、先ほど申しあげた三本の矢に加え、四本目というのか、財政再建の道筋をつけ、それを踏まえて民間企業が力強く前進していくことが必要だと思っている。こうしたなかで、民間の経営者として何をなすべきかということについては、なかなか一言では言い表しにくいが、私が思うところは、経営者として大きな時代のトレンドを読み、一歩先を見て手を打っていくということ。その企業によって区々ではあるが、変えてはいけないものは変えない、ただし、変えるべきものについては変えていくということで、ビジネスモデルの見直しや、イノベーションを通じて生産性の向上を図っていくこと、あるいは、場合によっては選択と集中を図り、自社の強みを活かした事業を強力に進めていくことが必要だと思う。
 先ほど今年度の運営方針で述べさせていただいたが、我々銀行界は、日本経済が長期停滞から脱却するために、金融面でしっかりとサポートしていく。多くの取引先企業があるので、取引先企業の成長に向け、いろいろな提案をし、相談にも乗り、そしてサポートしていくことが必要だと思っている。
(問)
 先ほどアベノミクスに対しては懐疑的な見方はしていないというお話があったが、金利の上昇について、これだけ株価が上昇すれば投資家は株に流れていくのかなと思いつつも、やはりこのように株高になってきたときは、金利の上昇は想定しているということか。
(答)
 長期金利について私の考えを申しあげる。黒田総裁がまさに異次元の金融緩和を発表され、それを受けて円高修正、株高、という状況になっている。さきほど価格調整、リプライシング、あるいは更に言えば、ノーマライゼーションの過程だと申しあげたが、今回発表された金融緩和策が非常に大胆な金融緩和策であったことから、今、市場は長期金利の落ち着きどころを探している状況ではないかと思う。
 長期金利の水準を少し遡って見てみると、野田前首相が衆議院の解散を表明した昨年11月14日はたしか0.75%くらい、年初は0.83%くらいであった。そこから緩和期待が織り込まれ、更に金融緩和策が発表されて、一時0.315%までつけて、今、昨日が0.92%まで来て、今日は0.85%くらいになっているということで、長期的に見ると、それほど急激に金利が上がっているわけではない。ただ、いずれにせよ、こうしたマーケットの状況に対して、日銀は市場をよくウォッチして、我々市場参加者との対話も十分とっていただいており、機動的に資金供給オペ等の施策を打っておられるので、いずれ落ち着くところに落ち着くのではないかと思っている。
 長期金利は、今、まさにアベノミクスによる国内の経済環境の好転に対する期待を一部反映した動きになっている。また、円が100円を超える円安となり、株価が1万5千円になったことを受けて、まさに日銀のおっしゃるポートフォリオのリバランスの動きが足元強くなってきているのではないか。そういうことも、長期金利が足元上昇している要因になっているのではないかと思う。債券から他の資産に資金をシフトしていく動きも出てきていると思う。ただ、いずれにせよ、今はリプライシングの過程にあり、いずれ落ち着くのではないかと思っている。


(問)
 2点お願いしたい。
 先ほど、デフレ前提のポートフォリオからの脱却が課題となっているとのことだが、国債の運用で収益をあげるのが難しくなるなかで、具体的にどういったポートフォリオの構築が可能なのか考えをお聞かせいただきたい。例えば、もっぱら貸出を増やすことによって預貸率を高めていくのか、あるいは生保のように外債に投資する等、どういったポートフォリオが有効と考えているのかお聞かせいただきたい。
 もう1点は、政府の競争力会議や経済財政諮問会議でPFIの議論がされており、会長も、先月の会見で、PFIに関し、銀行界としても積極的に取り組んでいくとおっしゃっていたが、日本のPFI制度のどういったところに課題があって、銀行界としてその改善にどのように取り組んでいくのか、教えてほしい。
(答)
 最初の「デフレを前提としたポートフォリオからの脱却」に関するご質問について、2点申しあげたい。1点目、貸出は我々金融機関の本来的な使命であり、増加させていきたい。先ほど2012年度の実績について海外貸出が増えたと申しあげたが、海外貸出のみならず、国内の貸出も増加させていきたい。個別行でいうと、先月も申しあげたが、中堅中小企業を担当している法人部門の貸出が、ようやく今年の2月から前年同月比プラスとなり、また、3月末の前年同期比では約4,000億の増加となっている。ただし、年間の平残ベースでは、2012年度実績は2011年度対比マイナスという状況なので、2013年度は、平残ベースでも前年度対比で増加の実績を残したい。この「貸出を増加させたい」という思いは、傘下金融機関、全て同じだと思う。
 2点目は、貸出以外にどういう運用を考えるかということだが、これはまさに各銀行の運用戦略であり、銀行毎に考えが異なる。ただし、日本国債以外とすれば、外債、外国株、あるいは日本株、といったところへのシフトになると思う。当行の例で言えば、昨年12月くらいから、ポートフォリオのリバランスの動きを始めている。
 次のPFIに関するご質問については、先月の就任会見でも申しあげたが、今後、日本では、社会インフラの整備が非常に大きなテーマになってくる。この分野で民間資金を有効に活用することによって、様々な効果が得られると考えている。例えば、財政支出の抑制が可能になるほか、我々日本の銀行は海外でプロジェクトファイナンスの事例を多く積み上げており、そういった海外事例の経験を活用することによって、国内での貸出の潜在需要の掘り起こしにも繋がる。更には、海外のリスクマネーを国内に呼び込むことも出来るかもしれない。
 このように、PFI・PPP制度の活用は、非常に有効であり、先般の経済財政諮問会議で、こうした方針が合意されたことは高く評価している。我々としてもしっかりとお手伝いしていきたい。諮問会議の場では、首都高速道路を例に議論をされたと聞いているが、PFI・PPPは、高速道路以外にも、空港、上下水道等の社会インフラの整備、あるいは補修を進めるうえで有効な方法である。当行の例で申しあげると、海外でいろいろ知見があると申しあげたが、例えばイギリスの鉄道、オーストラリアの高速道路等、海外での実績が積み上がっており、こうした事例から得られた我々のノウハウを、フィージビリティスタディー、ストラクチャーの構成・設計、リスク管理といった業務に活用することは十分可能だと思う。ぜひ、官民一体となってプロジェクトを立ち上げていきたい。
 なお、こうした取組みを進めるうえでは、若干の制度整備が必要になる。一例を挙げれば、現行の制度では、民間事業者に対して高速道路の運営を委託することは出来ないといった問題がある。政府に対しては、こういった制度整備をお願いしており、PFIの対象事業を拡大するよう期待しているところである。


(問)
 御行はグループとしてアメリカでFHCの資格を取得されたが、今、アメリカでのビジネスはポテンシャルがある一方で、規制等の厳しさが指摘されているが、その辺の戦略や規制に対する難しさについてご見解を伺いたい。
(答)
 アメリカの市場は、人口が増大し、経済も成長を続け、市場の懐の深さもあることから、我々としても非常に重要かつ有望なマーケットであると見ている。これは、他行も同じだと思う。
 一方で、規制の問題がある。今、言われたとおり、デリバティブ規制や外国銀行に対して中間持株会社の設立を求める規制等、いろいろな規制が検討されており、これによって、まず、規制対応コストが増大する。一方、業務への影響は、今後の展開によって変わるが、基本的には、我々邦銀がアメリカで行っている業務、例えばデリバティブ業務自体は、それほど大きくないので、そのインパクトは相対的に小さいと見ている。
 ただ、先ほど申しあげたとおり、規制対応コストは確実に増加するし、域外適用の問題、すなわち、アメリカの規制を海外の金融機関に適用するという問題もあると思う。
 いずれにせよ、マーケットとしては重要であり、メガバンクを含めた主要行は、アメリカというマーケットでの業務拡大を戦略として展開していこうとしていると思う。
 ちなみに、FHCについてはメガバンクの中で3番目ということになるが、FHCの取得により、今後は、証券引受等の投資銀行業務を拡大することができる。アメリカですでに確立しているお客さまの基盤を踏まえ、ホールセール業務がより拡大できるのではないかと期待している。


(問)
 貸出増加に対する強い見通しを述べられて、大変心強い限りだが、一方で、決算を見ると利ざやの縮小になかなか歯止めがかかっていないように見える。こういう状態で貸出は増やしていけるのか。利ざやの縮小にはどこかで歯止めをかけないといけないと思うが、どうなったら歯止めがかかるのか。また、イールドカーブがフラットになっているなかで貸出をしても、結局、資金利益が上がらないのではないか。銀行はどうすれば良いのか。
(答)
 1点目の質問については、総合採算で見るという考え方がある。利ざやは低下しているが、例えばM&Aや大規模な資金調達のアレンジメント、決済ビジネス等、銀行は企業との間において貸出以外のさまざまな取引を行っている。こうした様々なソリューションの提供による手数料収入を含めたトータルの採算を改善する方向で努力をするということである。
 また、2点目の「利ざやの低下がいつ止まるのか」という質問については、低金利が続き、イールドカーブが非常にフラットになっており、今年度の当行の見通しでも、おそらく利ざやは低下する方向だと思うが、今後、日本経済が回復をし、企業の資金需要も増加をしていけば、この利ざや低下に歯止めをかけることができるのではないかと思う。


(問)
 日銀の物価目標の「2年間で2%」の達成についてであるが、エコノミストの予想値の平均は2%からだいぶ乖離している。先ほどおっしゃったように、今後出てくる「第三の矢」である成長戦略による部分も大きいとは思うが、現段階における2%の実現の可能性について、どのように考えるか。
(答)
 2%の消費者物価上昇率を2年で達成することについては、そう簡単な話ではないと思うが、まさに黒田総裁の下で日銀は、金融緩和をし強い決意で2%を達成するという方向で動いておられる。それに成長戦略が合わさってくれば、2%の消費者物価上昇率を達成することは可能ではないかと思っている。達成の確からしさについて、私から申しあげるものではないと思うが、可能性は高いのではないかと思っている。
(問)
 2年間でということでよろしいか。
(答)
 然り。おそらく時期はずれると思うが、今、申しあげたとおり、足元では企業経営者のマインドは変わってきているし、様々な経済の動きを見ていると、将来の物価上昇、インフレに対する予想値が上がってきているのも事実だと思う。それが2年間でぴったり2%になるかどうかはともかく、そういう方向で動いているのは間違いないと思う。


(問)
 今年に入って、インターネットバンキング利用者のIDやパスワードが盗まれて現金が引き出されるという被害が再び増加をしているという発表が4月末にあった。この問題について全銀協としてどのように取り組まれていくのか。とりわけ利用者への周知徹底策との絡みでお考えをお伺いしたい。
(答)
 インターネットバンキングの被害あるいはセキュリティ対策ということについては、これまで銀行界としても様々な取組みを行ってきているが、その一方で、IT化、グローバル化の進展に伴い、犯罪の手法が高度化・複雑化してきており、我々としては不断に努力を続けていくということである。これまでの全銀協の取り組みについて申しあげれば、セキュリティ対策の面では、去年の1月に全銀協で申し合わせを行い、例えば、固定式のID・パスワードに頼らない認証方法、具体的には可変式パスワードの導入を図って、セキュリティ対策の向上に努めることとし、その結果、多くの銀行で可変式パスワードの導入が進められている。加えて、ホームページ等を通じた預金者への注意喚起、被害発生時の警察への速やかな通報体勢の整備等も行っている。一方、被害者への補償の面では、インターネットバンキングによる不正払戻し被害は、預金者保護法の対象外であるが、2008年2月に申し合わせを行い、預金者保護法に準じて、お客さまに過失がない場合、銀行が原則被害を補償することとした。
 また今年に入ってからは、預金者のパソコンをコンピューターウイルスに感染させて、ID・パスワードを盗み取る被害も増加しており、警察庁では、預金者に対し、ウイルス対策ソフトの導入や、パソコンのOSや各ソフトウェアを最新の状態にすること、あるいは、ワンタイムパスワードをメールで受信する場合には、フリーメール等のメールアドレスではなく、携帯電話等のメールアドレスを登録するといった対策を呼びかけている。
 いずれにしろ、先ほども申しあげたとおり、これは預金者への注意喚起を常に行うということと、対策を不断に見直して強化をしていくという必要がある。我々としては、警察庁とよく相談しながら有効な対策をとっていきたいと考えている。
(問)
 警察庁のこの間の発表のなかで、4月末までの時点で、8行で約1億円弱の被害が出ていたという発表があったと思うが、そのうち6行までしか名前が公表されておらず、2行は発表してほしくないということだったらしい。それぞれの判断はあると思うが、顧客への注意喚起や周知徹底の観点から見て、こうした判断について妥当とお考えか。
(答)
 その2行の状況をよく知っているわけではないので、コメントは差し控えさせていただく。
(問)
 状況はいろいろあると思うが、基本的には顧客に情報を出し、それで被害を防ぐということで、大半の銀行はそれに同意し、「うちで確かに被害があった」ということをホームページに載せている。そうすると、公表されていない2行の利用者については、そうした情報を知らされない可能性があるのではないかと思う。全銀協という銀行の業界団体の立場として、もっとそういった情報は出していくべきではないかなど、そのあたりはいかがか。
(答)
 個別の銀行の事情はよくわからないが、基本的にはインターネットバンキングの被害については、先ほども申しあげたようなことも含め、様々な対策をとるということ、そして、預金者に対する周知徹底を図るということについては、常に傘下金融機関に周知徹底していく。こうした取組みを繰り返し行っていくということではないか。


(問)
 消費者ローンに関して、メガバンクも地方金融機関も消費者ローンに力を入れている。一方で、御行のグループにもあるが、貸金業者の貸出残高もようやく反転してきている。ずっとシュリンクしていた市場に、いろいろなプレイヤーが入ってきている状況かと思うが、棲み分けや先行きについて、どう考えているか。
(答)
 消費者ローンの市場は、ここ数年残高が縮小してきたが、やっと市場の残高が下げ止まり、我々の連結子会社であるSMBCコンシューマーファイナンスでも、貸金残高が反転してきた。したがって、消費者金融業者の経営環境については、ようやく改善してきたと思っている。
 様々なプレイヤーがいるわけだが、例えば当行グループでいうと、三井住友銀行、SMBCコンシューマーファイナンス、モビットがあるが、それぞれに役割がある。例えば、銀行とSMBCコンシューマーファイナンスでいえば、取引している顧客層が一部重なる部分はあるが、基本的には棲み分けできる形になっている。三井住友銀行が融資をするお客さまと、SMBCコンシューマーファイナンスが融資をするお客さま、そしてモビットも含めて、面で、短期借り入れニーズのあるお客さまのニーズに応えていくということが基本的な考え方であり、棲み分けは十分できると考えている。この点は、消費者金融会社を傘下に持っているほかの銀行も同じ考えだと思う。